「この令呪で大体分かると思うけど、衛宮君の感想は?」
答えるまでもない。
「聖杯戦争……か? 最悪だな……」
遠坂とアーチャーを部屋に通し、それぞれテーブルの席に腰を下ろす。いや、アーチャーだけが部屋の壁に寄りかかって立ったままだ。
勝手にしてくれ。夕食が乗っていたが、大半は既にたいらげたし、続きを食べる気分じゃなかった。残りは後日食べることにする。セイバーもこの時は納得してくれた。
いったいどういうことになっているのか尋ねたところ、遠坂は詳しく話してくれた。といっても、遠坂自身が事情を理解出来ていないため、何故聖杯戦争が始まったのかは分からない。
「それで、私もアーチャーも見当はつかないから、セイバーの意見はどうかなって。私の魔力の上昇云々は別として、聖杯戦争の再開についての見解が聞きたいわ」
数秒思案したあと、セイバーはゆっくりと口を開いて答えた。
「私もついさっき言ったように、強力な魔力を感じ取っただけで、申し訳ありませんが、何故聖杯戦争が始まってしまったのかまでは……」
「いえいいわ。綺礼がいない今、分からないことだらけで情報が少しでも欲しかっただけだから」
一息入れて遠坂は続ける。
「それじゃあもう一つ、単刀直入に聞くけど、あなたたちがこれからどう動くのか教えてもらっていいかしら?」
「どうって?」
「今見たところ、衛宮君には令呪がない。これは意外だったけど、つまりあなた達は聖杯戦争には参加していないことになるわ。それでも戦うのか、戦わないのか。戦うなら、私の敵となるか、ならないか。それだけ確認しときたいわね」
そんなもの決まっている。確かに令呪はないが、こんな馬鹿げた戦争がまた繰り返されるっていうなら、止めるに決まっている。
「もちろん戦うさ。遠坂の敵にもならない。いいよなセイバー」
「ええ、それが士郎の意思なら。私に異論はありません」
「おーけー。なら前みたいに同盟を組みましょ。またヘラクレスのバーサーカーみたいに、規格外の奴が現れても大丈夫なように」
そう言って遠坂が右手を差し伸べる。俺も右手を伸ばして握手を交わそうとしたところ、アーチャーが口を挟む。
「私は反対だな。聖杯戦争への参加資格もないような奴など、足手まといにしかならん」
「……何だと!」
「怒る、ということは自覚しているのだろう? いまだ自分の未熟さに。大体聖杯戦争など、私一人でも十分凛を勝たせてやれる」
やはりこいつとは相容れることなど不可能だろう。そんな分かりきったことを確認させてくれたアーチャーに、俺よりも先にセイバーが切り返した。
「アーチャー。驕りは禁物です。前の聖杯戦争を経験した貴方なら分かるはずだ。それに、士郎はあれからまた腕を上げました。いつまでも未熟扱いしていると、足元をすくわれますよ」
「物は言い様だなセイバー。どれだけの上達ぶりかは大体分かる。まだ君とまともに打ち合えるほどには達していないだろう」
「私はサーヴァントだ。士郎が私と打ち合……」
「ストップ!」
タイミングを失った俺の代わりにセイバーとアーチャーが言い合っているのを遠坂が止めに入る。
「アーチャー」
「何かね」
「士郎とセイバーは聖杯戦争の勝者よ。敵に回すより、味方のほうがいいに決まっているわ。別にあんたを信じてないわけじゃないけど、少しでも勝率が上がるのなら出来ることはしておきたいのよ」
「……まぁ、君の命令なら従おう」
あのアーチャーが大人しくなっちまった。遠坂の奴、余計にアーチャーの扱いがうまくなったな。
とりあえず同盟を再び結ぶ形になり、握手を交わす。
「あちっ……!」
と、突然右手に熱を感じた。見れば、遠坂と同じように令呪が刻まれている。
「どうやら衛宮君も、聖杯戦争に正式に参加するマスターのようね」
「そうだな。アーチャー、これでもう文句はないだろ」
「好きにしろ。貴様が勝手に殺されようと知ったことじゃないからな。凛、私は見張りをしてくる」
「ええ、お願いね。アーチャー」
アーチャーは、言いたいことだけ言って部屋をあとにする。なら遠慮なく勝手にさせてもらおう。
「それで、今後の行動だけど、私は念のため教会に行ってみようと思う」
「教会? 何でまた」
「聖杯戦争が始まったなら、綺礼の代わりの監督役がいるかもしれないからよ。今回は少し妙な感じがするし監督役がちゃんと派遣されてるか微妙だけど、綺礼の部屋でも探れば何か分かるかもしれないでしょ」
「まぁそうだな」
俺とは違って、遠坂はもう色々と見越している。遠坂は俺とセイバーに一目置いているみたいだが、遠坂のほうがこういうときは頼もしいと思う。
「なら今日はもう休んで明日からにしたほうがいいでしょう。士郎も凛も今日は疲れています」
セイバーがそんな指摘をする。俺はセイバーと打ち合ってたからだが、遠坂もなのか。
「さすがねセイバー。アーチャーが強制召喚されたせいかちょっとね。でも、魔力が予兆なく上がっていたことは気付かなかったあたり、勘が鈍っている可能性もあるわね」
「否定はしません。一応最低限の鍛錬はしていましたが、戦場とは程遠い。士郎のことは私も言えなかったということですね」
「……はは」
どう反応したものか、とりあえず笑っとくことにした。
「えと、それで今夜は遠坂は泊まるんだよな?」
「そのつもりだけど? 荷物はまだ置いたままだし」
きょとんした表情が一辺、遠坂はにやりと意地の悪い顔になった。どうやら気付かれたらしい。やっぱり学園のアイドルである遠坂が泊まるって事態は緊張する。
「士郎」
「な、何だよ」
「ほどほどにしときなさいよ」
……っ。どういう意味だそれは。