「……!?」
遠坂に飛躍したからかいを受けていたが、そんな悠長な状況じゃなくなった。前と同じようにずっと仕掛けたままだった「知らせ」が反応を見せた。
「士郎」
「ああ、分かってる」
セイバーに目で合図を送る。敵が来た。いったいどんな奴が敵かは分からないが、油断は禁物だ。
静かに敵の動きを探るが特にそんなものはない。が、耳をすませれば、聞こえてくるのは、鉄を打ち合う音だ。
「まさかもうアーチャーが戦っているのか」
庭に出てみると、とっくにアーチャーが白兵戦を繰り広げている。だがアーチャーの相手は……。
§
屋根の上にのぼり、赤い弓兵は周囲を警戒していた。まさか凛だけじゃなく、セイバーにも会えるとは思わなかった。
凛がいるということは、自ずと衛宮士郎もいるだろうと予測はしていたが。
かつては自分のサーヴァントであったセイバーと、同じ立ち位置を二回も経験するとは、希有な巡り合わせだとアーチャーは頬を緩める。
そう思えるのも、前回の聖杯戦争の記憶を引き継いでしまっているからだ。凛の言うとおり、今回の聖杯戦争は一癖ありそうだと思案する。
だが何があろうと、今回はもう勝つだけだ。衛宮士郎を殺そうと躍起になった自分はもういない。理想を捨て、磨耗していた自分が、また誰かのために頑張れるように。
また戦いの日々を駆け抜けようと誓ったのだ。
「……!」
敵か。あまりに速いその動きは、凛に知らせている間に入り込まれる。アーチャーは、この家の仕掛けを自ら作動させて危機を伝える。その間に、敵はもう侵入してきたようだ。
「よぉ……てめぇか」
軽い挨拶のようだが、そいつは研ぎ澄まされた殺気を引っ込めようとしない。むしろ、浴びせ続けるように、殺意を剥き出しにしている。
「貴様も参戦か、ランサー」
「ああ……。まさか前回と同じ相手とはな。まぁ、これが簡単に倒した奴ならつまらねぇが、てめぇなら楽しませてくれそうだ」
前回同様にランサーのクラスとして参戦していたクーフーリンであった。蒼い槍兵は、朱の槍を手に構える。
「今回は偵察じゃないようだな」
アーチャーも両の手に、干将・莫耶を投影して戦闘の態勢を取る。
「は、そんな命令は受けてねぇからなぁ!」
ランサーは一気に差を詰める。一点に圧縮した突きは、まともに防ぐことは出来ない。方法は一つ、横から薙ぎ払うしかない。普通の人間なら何も出来ずに貫かれるだろうそのスピードが、最速のサーヴァントと呼ばれる所以だ。
だがそれを、アーチャーは確実に避わしている。点だけの攻撃ではない。槍の攻め抜く軌跡は、線をも描く。
「そらそらそらぁ!」
息をつく暇もないといったところか。両者の攻防は熾烈を極める。
アーチャーというクラスに入れられている以上、アーチャーの本来の戦い方ではなかったが、ランサーに引けを取らない動きを見せる。
別に剣の才能があったわけじゃない。現に、ランサーの研ぎ澄まされた攻撃をいなす動きは素晴らしい。
だが、才能からきている動きは何一つない。彼の剣は、才能とは程遠い。鍛錬に鍛錬を重ねたもの。セイバーのような完全な剣技とはかけ離れている。いわば、不完全な剣技である。だが、それ故に美しい。
「はぁっ!」
「……っ」
アーチャーの双剣がランサーの槍に弾かれる。アーチャーの干将・莫耶は、地に突き刺さった。
「相も変わらず容赦のない突きだな。かわすだけでも一苦労だぞランサー」
だが、武器を失い徒手空拳の状態であるアーチャーに焦りはない。
「ぬかせ。弓兵風情ににここまで凌がれてんだ。猛犬の名に傷がつく。さっさと次を出しやがれ」
「了解した。では次はこちらから攻めさせてもらおう」
アーチャーの両の手には、再び干将・莫耶が握られていた。弾かれた剣を取ったわけではない。瞬時に全く同じものを、その手に造りあげた。
「アーチャー!」
再び相まみえようとしたとき、アーチャーの後方、家の中からセイバーを先頭に、士郎と凛が近付いてきた。
「やはりセイバーもいたか。それに小僧と嬢ちゃんまで。懐かしい顔ぶれだな」
「ランサー。貴方も聖杯戦争に」
セイバーが真っ先に尋ねる。というのも、前回の聖杯戦争に参加していた同じサーヴァントが三人、また同じマスターが選ばれたことになる。普通、こんなことがあり得るのだろうか。
「ああ。どういう因果か、確かに前回と同じ参加者だな。手の内を互いに知ってる相手との戦いってわけだ」
戦況は多勢に無勢となっている。なのに、ランサーは退く気配がない。むしろ好戦的である。
「ランサー。貴方は私達を相手に戦うというのですか」
そのあまりに無謀な行動にセイバーが尋ねる。
「いいや。確かにそれも面白いが、さすがにてめぇら二人を相手は骨が折れる。アーチャー、一人なら片付けるつもりだったが、今夜は帰らせてもらうぜ」
「このまま逃がすと思うかランサー」
きびすを返しあっさりと立ち去ろうとするランサーにアーチャーが挑発する。
「追ってくるなら俺はそれでも構わねぇ。だがその場合、決死の覚悟を持って挑んで来い」
「待ってランサー。アーチャーも」
「凛」
まさに一触即発の状況の中、凛が両者を牽制させた。そうして、場を沈めてから凛は言葉を紡いだ。
「一つ訊かせてもらうわランサー。私達はこの通りマスターもサーヴァントもその組み合わせも前回と同じだったわ。貴方のマスターも前回と同じなのかしら」
「……残念だがその質問には俺は答えられねぇな。おっと、勘違いすんなよ。別に出し惜しみしてるわけじゃねぇからよ」
「なら悪いけど、その理由を訊かせてもらえるかしら?」
「簡単なことだ。俺にはマスターがいないからだ」