早い。何でか分からないが、休みの日としてはいつもより早く目覚めてしまった。学校に行くための時間と変わらない。二度寝する気分じゃなかったし、そんなことしていたら確実に今度は寝坊してしまう。
とりあえずはいつも通りだ。最低限自分を整えると、朝飯を作るために台所に向かった。
「……なっ!?」
「む……」
「何やってんだアーチャー」
驚くことにアーチャーが飯を作っていた。その上から身に着けているエプロンは自前か。自前なのか。
「ああ。見てわからないか。朝食を作っている」
そんなもんは一目瞭然だ。問題はそこじゃない。何でお前が人の台所を勝手に借りて飯を作っているかだ。そのことを主張すると、アーチャーは巧みに料理を作り続けながら答えた。
「なに。たまにはこうやって鍛錬しないと腕が鈍ってしまうからな。それに、もうこれだけ空が明るいと敵も来ないだろうし暇だった」
鍛錬とか言ってるが、付け足しだ。どう考えても暇だったんだろうと推察出来る。
「しかしお前……」
「何だ?」
言わなきゃ駄目なのか?
いったい何時から作り始めたか知らないが、これは朝食のボリュームではない。何でこんな豪勢なステーキとかがあるんだ。
「気にするな」
アーチャーは全く気にしていない。むしろ久々に腕を振るったからか満足気なほどだ。本当にこいつは見張りをしていたのかと疑問を抱く。
「さて朝食も出来たし、セイバーを起こしてこい」
「は?」
「せっかく作ったのだ。冷める前に食べてもらわないといけないだろう。何を驚いている?」
そんなことは分かってる。いや合理的に言えば正論だ。だが、セイバーを起こしに行くだと。無理だ。
「ふむ。大方意識しすぎてるんだろうが、だから貴様は未熟なのだ。仕方ない。どれ、私が起こしに行こう」
「おっと、そうはいくか」
「何のまねだ?」
「お前には行かせないと言ってるんだ」
何でセイバーの寝起き姿をこいつに見せなくてはならないんだ。ここは止めねばなるまい。
「止めるか? 私を」
アーチャーはそう言って瞬時に投影した一刀を投擲した。
「うっ……」
なんとか避けたものの、その隙にアーチャーはあっさりとすり抜けた。当てる気などさらさらなく、ただ隙を生じさせるためか。
「待てアーチャー」
俺も慌てて後を追った。
止まりそうにないアーチャーは、庭に面した縁側の廊下を駆ける。俺は弓と矢を投影してアーチャーに狙いを定めた。鍛錬は嘘をつかない。この程度の投影なら瞬時に成功は可能だ。アーチャー相手ならこれぐらいはしなくては止められない。
「ふん」
だがアーチャーは一瞥しただけで止まる気配はない。
「後悔すんなよ」
ならこっちも容赦はしない。俺は問答無用で射った。しかし、アーチャーは投影した夫婦剣であっさりと弾き飛ばした。
「ち……」
甘かったか。何を考えてるのか分からないし、知りたくもないが、アーチャーは失笑した後、床を蹴ってセイバーの部屋へと駆けてゆく。
「投影開始(トレース・オン)」
俺は先回りしてアーチャーの真ん前に出る。大したことはない。廊下を回るアーチャーに対し、俺が部屋を突っ切っただけの話だ。
「これが最後の忠告だアーチャー。これ以上進むというなら容赦はしない」
俺も奴と同様、夫婦剣である干将・莫耶を手にした。次は斬り込んでいくという意思の表れだ。
「止める……? 私を? 貴様の投影でか?」
「……どういう意味だ」
分かってる。これは奴の挑発に過ぎない。
「それすらも分からぬとはな。貴様の投影では、私を止めることはできないと言ったのだ。衛宮士郎」
「アーチャー!」
挑発と分かっても、いや挑発だと分かるからこそ、向かわずにはいられない。
「ついてこれるか」
「てめぇの方こそついてきやがれ」
まず右の斬撃。右から左へ、上から下へ振り下ろす。それをアーチャーは余裕で受け止める。そんなことは予想済みだ。左の斬撃を続けて繰り出す。
速い。アーチャーも腕を振りかざしていた。俺の手腕より随分早く切り込んできた。攻撃のつもりが防御に回ることになる。一旦互いに距離を取り、再び打ち合う。左から右。下から上への斬撃を俺は避わし、後の先を取る。
「……!?」
だが、同時にアーチャーは右腕の軌跡を辿るように、左の斬撃が攻め込む俺を襲う。
「ぐっ……」
何とか防ぐに間にあったものの、その衝撃に腕が痺れた。かといってそんなことに構ってられない。俺はすぐさま反撃に出た。
「遅い」
「ち……」
だが、アーチャーの奴は距離を取ってしまっていて届かない。さらには、その無防備となった剣を破壊された。投影の差を見せつけるかのように。俺はすぐさま次の剣を投影してアーチャーへ斬り込む。
「ふん」
今度の投影はより完成に近付いたか、アーチャーの剣を破壊出来た。だがアーチャーもすぐ投影すると、剣を打ち合う結果になる。
「これに対処できるか?」
アーチャーは投影した剣を投擲した。くるくると回転しながら俺に向かってくる。実に単純な手だ。
簡単に飛んでくる剣を弾く。いや弾こうとした。その手前で、爆発した。
「ぐっ……」
爆発は小さいもので問題はない。ただ視界が塞がってしまった。俺は庭に転がって回避した。予想通り、煙の向こうから矢が飛んできた。ここまでやるか。 だが、そっちがそのつもりならこっちも容赦はしない。