ロケット団が解散して数年が経つ。大半の団員が捕縛されたが、幹部たちはいまだにその行方が分からないままだ。
そして首領であるサカキも、自分の組織を解散とした上で消息を絶った。
その発端になったとも言えるレッドやグリーン、そしてブルー、またカントーのジムリーダーたちは、その後もメキメキと力をつけていった。
捕縛だけは免れた団員たちは、今もなお組織復活を願って活動を続けている。そしてここにも、ロケット団再結成を願う者がいた。
「久々だな……帰ってきたのも」
カントーの港町。クチバシティに船で少年は到着した。この少年、名はセピア。歳は十四、五くらいに見える。
セピアは青色を基調とした服に身を包み、黒い髪を揺らしていた。セピアは元々カントーのトレーナーである。ある目的のためにこの地を離れ、再び戻ってきたところだ。
「まずはポケモンセンターだな」
セピアは足元にいるブラッキーに向かって呼びかけた。セピアが頼りにしている相棒である。悪の属性を持つポケモンだが、セピアに相当なついている。そもそもなついていなければブラッキーに進化など出来ないが、悪タイプであることを疑うほどだ。頭を撫でてやるとブラッキーは、一声鳴いて賛成した。
長い船旅は中々にハードだった。何処にいようと、休憩中に暇を持て余した船乗りたちが、ポケモン勝負を挑んできたのだ。暇を持て余すのはセピアも同じで、面白いと感じて戦いに投じた。
そうなると、疲労したポケモンを回復するため、まずはポケモンセンターに行く必要があるというわけだ。
セピアが持つポケモンは今のところ八匹いる。図鑑も持っていないので、必要以上にポケモンをゲットすることに、彼は興味を持ち合わせていない。
公式には、パソコン通信を使うことで、六匹以上のポケモンを管理するシステムであるが、セピアは自分の立場をよく理解している。他のトレーナーと同じシステムを使うわけにはいかないのだが、非公式のやり方なんてものはいくらでもあるものだ。
もちろん八匹だけなら常に全員連れていてもたいした不自由さはない。
だがあえて、彼は普通のトレーナーと同じように六匹までと遵守していた。ロケット団の首領であるサカキでさえそうだったのだから、自分がそれを破るわけにはいかなかった。
ブラッキーとその他手持ちの五匹のポケモンを回復させたあと、彼のやることは既に決まっていた。
「マチス、いるか?」
クチバシティのジムに来ることだ。入ってみれば、相変わらずといったほうがいいか。部屋中をあちこちで電気がバチバチと走っていた。
「ん? 誰だ、お前?」
電気のトラップなど、セピアはそのカラクリを熟知していた。難無くくぐり抜けると、マチスは電気ポケモンとの修業のまっさい中だった。
「酷いな。昔の仲間を忘れたのか?」
そう言ってセピアは、深く被った帽子を外した。そして、モンスターボールを下から投げる。すぐ近くに落下して再び出てきたのはブラッキーだ。
「このブラッキー……。まさか、じゃあお前……セピアか」
ブラッキーの特徴的な額の三日月。そこに、うっすらと残る傷跡を見付ける。マチスはそれを確認して、目の前の少年をようやく認識する。かつての仲間。同じ志を有していた戦友であると。
「正解。少し気付くのが遅いな。昔に比べたら鈍(にぶ)くなったんじゃないか?」
「は、その生意気なところは相変わらずだな。おかげで納得したぜ。おい、ちょっと奥にいるからな」
マチスはジムトレーナーたちに大声で伝えると、セピアを奥にある休憩室に招き入れた。
「で? 何の用だ?」
「話が早いのは有り難いね」
セピアとの関係を知らないジムトレーナーの手前、まるで昔の友人と久々に会ったようにマチスは振る舞った。
だが、部屋に入れば雰囲気が変わる。かつてロケット団の幹部だったプレッシャーは衰えていなかった。セピアの手にも僅かに汗が滲む。その激変したマチスの発する、突き刺さるような空気は、セピアにとって嬉しくもあり、また恐ろしくもあった。
「ボスが見付かったってわけでもないだろ」
マチスはまぁ座れと椅子を指差した。マチスが座るのを確認すると、セピアも腰かけながら答える。
「……そうだな。今だにあの人の行方は掴めない。けど俺は諦めないよ」
「なら何でお前が、今カントーにいるんだ?」
「……俺の目的は知ってるだろ?」
「……レッドか」
セピアの目的は二つあった。一つは、首領であるサカキを探し見付けること。行方知らずとなったサカキを見付け出し、再び首領の座についてもらい、ロケット団を結成するつもりだ。
そして二つ目は、レッドと戦い勝つことだ。サカキはレッドに負けたとされている。それがセピアにはどうにも信じられない。それを確かめる意味でも、レッドと戦う必要があるし、仮に本当だとすれば自分がレッドより強いことを。ロケット団が最強であると証明しなければいけなかった。
「カントーに戻ってると聞いたんだ」
「なるほど。それで俺に便って来たわけか」