ポケットモンスターセピア   作:神谷佑都

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VSフーディンⅡ

「それはどうかしら」

 

 無数のシャドーボールがフーディンを襲う。だが、ナツメは動揺することなく、冷静にフーディンへと次なる命令を下した。

 

 

「サイケこうせん」

 

 サイコキネシスならまだ分かる。全体に向けた強力な念力であれば、無数のシャドーボール、また本物をつかめないゲンガーへの攻撃をとしては無難である。しかし、フーディンが発したのは圧縮した念力のビームである。的としてはせいぜい一体にのみに絞られる。

 

「……ッ、ゲンガーッ!」

 

 セピアは瞬時に悟る。フーディンは何も悪あがきをしたわけではない。囲うように飛び回るゲンガーの群れ。その中で、紛れもなく本物に目をつけていた。サイケこうせんを、本物のシャドーボールで向かい打って相殺しろとの判断である。

 

 弾ける爆風。飛び出る無数のゲンガーと一体のフーディン。偽物の影が数十体いるなかで、フーディンは本物のゲンガーから目を離さない。そこらのかげぶんしんよりも数とスピードは数段上であるといるのに、全くの無駄であるという事実を突き付けられていた。

 

「……ゲンガーのかげぶんしんには自信があったんだけどな」

「残念ながら関係ないわ。私のフーディンは特別性でね。ちゃちな小技はきかないように育てたわ」

「……くっ……」

 

 フーディンだけでない。せめて指示を出すナツメ自身も翻弄してくれたならば付け入る隙は見い出せたかもしれない。だがナツメ自身が超能力者だ。ナツメにもゲンガーの偽物は見破っている。改めて、ロケット団幹部の実力を目の当たりにするセピアは、必死に突破口を探ることに専念する。

 

 かげぶんしんを用いた次なる策に移行する刹那、ナツメの鋭い命令のほうが幾分か早かった。

 

 

「かなしばり」

「なにっ!」

 

 かなしばり。相手の技を封じる技。かげぶんしんを封じられたゲンガーは、その数を減らし、元の一体の姿をい見せる。いやそれどころか、素早さをアドバンテージとするゲンガーの動きまでもを封じてしまった。

 ゲンガーの影はふっと消え去ってしまうと、最初と同じようにフーディンと対面する影はたった一体となった。

 

「実にあっけない」

 

 上から見下ろすようにナツメがあざ笑う。セピアの勘に障る物言いだが、そんなことに気を回している状況ではなかった。

 

「こっちもかなしばり」

「なっ……!?」

 

 セピアの命はナツメと同じもの。覚える技が似るゲンガーとフーディンだが、ナツメにとっては意外だったようだ。驚く表情とともに言葉に詰まる。ゲンガーのかなしばりはフーディンの動きを封じることはできないが、フーディンのかなしばりそのものを封じることはできる。

 ゲンガーの動き、そしてかげぶんしんを封じ込めていた技を無効にしたことで、ゲンガーの動きに洗練さが戻る。フーディンの攻撃を躱し、再び数十もの影が生まれた。

 

「なるほど。なかなかやるわね」

 

 冷静さを取り戻したナツメに殺気の念が篭る。わずかに生じる念力。ポケモントレーナーとしての豊富な経験も相まって、ナツメから生み出される眼力以上のプレッシャーが強まった印象をセピアは受けた。

 ゲンガーは距離を取り、仕切り直しとなった今、かげぶんしんを解いてしまう。

 

「あら、それはもう終わり?」

「きかないんじゃ意味ないだろ」

 

 

 ゲンガーの体力をいたずらに消費するわけにはいかない。ゲンガー自身、かげぶんしんがきかないと分かった時は、僅かに口元を凸型にしていたが、今はもういつもの陽気な、いや悪戯を思いついたような表情を見せた。

 

 

「そうね。じゃあどうする?」

「こうするさ」

 

 セピアは攻めの姿勢を崩さない。受けに回った瞬間、勝敗が決することをセピアはよく分かっている。ナツメ自身、超能力を使うまでもなくその思惑を手に取るように理解していた。ナツメ自身、自分が目の前の後輩に負けるなんてことは考えていない。だからこそ、セピアが挑んでくるのを待ってる。そこに付け入る隙があるがあるはずだとセピアは狙いをつける。

 

「10万ボルト」

 

 ゲンガーの恐々としたオーラが打って変わり、激しい電光へと変わる。フーディンに向けて放出するが、フーディンは冷静にスプーンで弾く。その隙を狙ってゲンガーは高速で移動する。フーディンはしっかり眼で追っていた。

 

「フーディンに電気系は通じない」

「これならどうだ? ギガドレイン」

「ちっ……」

 

 フーディンの体力を吸収するが、僅かばかりだ。それでもよろけるフーディンの隙を狙う。

 

「したでなめる」

「っ……」

「フーディン、テレポート」

 

 ゲンガーの痺れる舌は動きを鈍らせる。むざむざ喰らうわけにはいかない。どれだけ態勢が悪かろうと、どれだけ隙があろうと、テレポートは緊急脱出にはおあつらえむきの技である。だが、互いにユンゲラー、ゴーストの頃から、何回も敗北を味わわされたとなれば、そこまで読んでおくことは容易い。

 

「そこだゲンガー、シャドーボール」

「なにっ……!?」

 

 フーディンが座標をずらした現れたテレポート先の地点。そこに標準を合わせたゲンガーのシャドーボールが命中した。背中ごしに黒いエネルギー弾を受けたフーディンは吹き飛んでしまう。

 

「よしっ」

 

 まともに受けた。防御面が脆いフーディンには致命傷だ。さすがに一撃で終わることはないだろうが、それでも少しでも動きに支障が出れば儲けものである。そうセピアの喜ぶ姿に対して、ナツメは冷たく放つ。

 

「甘すぎる」

 

 テレポートですぐに場内へ戻るフーディン。大きくダメージがあるのは見て分かる。だが勝負はまだまだ始まっていない。

 

 

「じこさいせい」

 

 ナツメな無慈悲な一言は時には相手に絶望を植え付ける。それこそロケット団幹部たる強さであった。

 

「ぐ……ようやく当てたってのに、元通りかよ」

「私のフーディンは止まらない。セピア。あなたにも見せてなかったその真髄を、これから見せてあげるわ」


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