ポケットモンスターセピア   作:神谷佑都

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クチバジム

「ああ。頼む」

「やめとけ」

 

 だが、マチスから言われた言葉は、セピアには信じられないものだった。

 

「何でだよ!」

 

 吠えるようにセピアは問う。すぐ近くにいたブラッキーはびくっと反応した。問われたマチスは至って冷静だった。

 

「俺だって今だにボスが負けたってのは信じられない。だが、レッドの実力は知ってる。強さは本物だ。お前もそれなりに実力はあるがな。相手にならねぇよ」

「俺が負ける? あんたは知らないんだ。俺があの時から、どれだけ強くなったのかを」

「それを考えてもだ。俺にはお前が勝てるとは思えない。俺が敵の力量を見極める正確さは知ってるはずだ」

 

 知ってる。それは確かに知っている。だが、幹部の頃のマチスはそうじゃなかったはずだ。敵の力量を測り、どんなに強大な敵であっても、退くことはしなかった。その強大な敵にどうやって勝つか、ギリギリまで模索していたはずだ。

 

「……失望したよ。あんた、それでもロケット団の幹部だったのか」

 

 その言い分にはマチスも気が触れたようだ。

 

「変わらねぇな。相手が誰だろうが関係なく牙を見せるところは。まぁ、だからこそボスも拾ったんだろうが」

「今のあんたがボスを語るな!」

「口だけは一人前だな。……仕方ねぇ。教えてやるには条件がある」

「何だ?」

「俺に勝ったら教えてやる。せめてそれくらいは実力があることを証明しろ」

「上等だ」

 

 絶好のチャンスだとセピアは思う。もともと手合わせはこっちから申し出るつもりだった。勝負をして情報を引き出せるのなら、一石二鳥だと考えた。つまり、負けるなどとセピアは考えていない。マチスも当然勝たせるつもりもなく、叩き潰すつもりだ。

 いやそもそも、手合わせ自体条件としなくても、マチスも遅かれ早かれ提案はしていただろう。元ロケット団だろうが、トレーナーに変わりはない。目の前に実力があるトレーナーがいれば、勝負を仕掛けるものだ。マチスの闘志が失われていることなど、微塵もなかった。

 

「てっとり早く、一匹だけでやるぞ」

「ああ。かまわない」

 

 ジムのフィールドに二人は位置付く。クチバジムのジムトレーナーたちが、観戦しようと周りに立っていた。

 

「あいつ、強いのか?」

「さぁ?」

 

 何より気になるのはセピアの存在だろう。いきなりマチスと勝負するというのだから、子供の割に強いのかと興味の標的となった。だがセピアにとってはそんなことはどうでも良く、ただ勝つことだけに頭を集中させた。

 

「分かってると思うが、ポケモンはジムバッジ用じゃないからな」

「当たり前だ」

 

 ジムリーダーは皆、ポケモンを使い分けて所持している。一つはジムバッジをかけて戦う場合だ。ジムリーダーはあくまで、訪問してきたトレーナーの実力を測るために本気は出さない。本気で戦えば、勝てるトレーナーなど、カントーに限定してみても一割もいるわけがない。

 今この勝負はそんな試験的なものではない。ジムリーダーが一人のトレーナーとして、極限にまで育てあげたポケモンを使うとマチスは示した。

 

「そうだな。あと付け加えて言うなら、特別製の内の一匹だ」

「……!?」

 

 ジムトレーナーたちは滅多に見れないマチスの本気を見れると騒ぎ出す。セピアはその中で、静かに思案していた。特別製の内の一匹ということは、マチスが言う特別製はまだ他にもいるということだ。しかし、特別製とマチスがわざわざ口にしたことが気になる。

 

「ボーっとすんな。俺はもうこいつと決めている」

「……!?」

 

 マチスはハイパーボールを見せ付ける。そのボールにはくっきりと、「R」と記されていた。

 

「……っ。……ああ」

 

 堪えられない嬉しさにセピアは笑みを浮かべる。普通のジムリーダーは実力を測る用と、実戦用と使い分ける。

 だがマチスは違った。マチスはさらにその上に、いつかロケット団が再結成したときのために、切り札とも言えるポケモンを用意していた。

 

 マチスもロケット団を再結成することは諦めていない。さらには、セピアを相手にその切り札を使うと言う。彼自身を認めているということに他ならない。

 

「行くぞ」

 

 と、両者は同時にポケモンを繰り出した。

 

「俺がエレブーで、お前は……ニドキングか。俺も舐められたもんだな」

「あんたを凄いと思ってるからこそのこいつだ」

「分かってねぇな。そいつはお前の一番最初のポケモンだろ。言ってみれば手の内がバレてるってことだ。まぁそれだけじゃねぇが」 

「やってみれば分かるさ」

 

 セピアの持つニドキングは、かつてロケット団がまだ存在していた頃、サカキからもらったものだ。その時はまだ生まれたばかりのニドラン♂だったが、セピアは今の姿までに鍛えあげた。

 確かにその成長ぶりには目を見張るものがあった。それ故にマチスの目にも留まっていたのだ。

 覚えさせている技。パワー、スピード。何があの頃と変わっているのか。セピアの言葉から、マチスも気を引き締め直す。

 遠慮はしねぇからな。マチスがそう確認したあと、掛け声が響き渡る。

 

 

「かみなりパンチ!」

 

 素早い動きでエレブーは腕を振り上げた。

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