ポケットモンスターセピア   作:神谷佑都

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VSエレブー

「受け止めろ」

 

 セピアの指令に反応してニドキングは腕を伸ばし、軽々と受け止めた。通常であれば電気を帯びた拳であるが、地面タイプを有するニドキングには効果はない。

 

「片手で、あっさりと受け止めるか。パワーは上がったようだな」

「こんなもんじゃないぞ。ニドキング!」

 

 ただそれだけの掛け声で、ニドキングは察する。受け止めたエレブーの腕をがっしりと両腕で掴む。そしてぐるぐると旋回し始めた。

 

「ちきゅうなげか!?」

 

 ブンッと大きくエレブーを投げ飛ばす。随分と高く放り投げたものだが、エレブーは悠々と着地した。たいしてダメージにはなっていない。エレブーは余裕を見せるかのように、首をコキコキと鳴らしている。その様子にニドキングも嗤っていた。

 

「なるほどな。そこそこやれるようだ」

「舐めてかかると痛い目見るぞ」

「そいつは、俺が決めることだ」

 

 エレブーが突然発光する。バチバチと電気を帯び始める。そのまま膨大なエネルギーがニドキングを襲った。

 

「何のつもりだ。10万ボルトなんてこいつには……」

 

 そこまでマチスの指示を指摘したセピアだが、すぐに口を噤んだ。あまりに激しい電気量だ。実質は10万ボルトなんて電気圧を超えているだろう。その二倍はあるかもしれない。並のポケモンならこれだけで瀕死に陥ってしまう。

 

 そんな攻撃が、ニドキングの眼前に着弾した。フィールドが破壊されたために湧き上がるのは視界を覆う砂埃だ。これはただの攻撃ではない。マチスは目隠し代わりに使ったのだ。

 

「ニドキング、後ろだ」

「!?」

 

 バリっと電気が走る。それはエレブーの動きを辿っていた。一瞬のうちに背後を取られたニドキングは何とか身を捻る。繰り出される白い拳を避けるも、ニドキングは最大の危機を察知する。

 

「ばくれつパンチ!」

 

 やばいと感じたのはセピアも同様だ。すぐにエレブーは次の拳を構えていた。こっちも近距離攻撃技で迎え撃つしかない。

 

(せめて相殺できるか……)

 

 拳と拳がぶつかり合う。その脅威的な衝撃は、両者の攻撃力が如何程かを物語る。単純な攻撃力だけならニドキングのばくれつパンチに分がある。だがエレブーの拳は冷気を帯びていた。

 

 両者は生じた衝撃により吹き飛ぶ。互いにすぐさま着地を済ませるが、その後の様子に違いが見られる。ぐるぐるっと腕を回すエレブー。まだまだ余裕であることが伺える。一方ニドキングは、放った右手を震わせていた。弱点である氷タイプの技、れいとうパンチの影響だろう。

 

「そんな技覚えてたとはな」

「だから言ったんだよ。舐められたもんだってよ。俺を誰だと思ってやがる。電気タイプ専門だぜ。地面タイプを出しさえばすればオーケーと思われてたんじゃ心外ってもんだ」

「確かにそいつはやっかいだが、要は近づきさえしなきゃいいんだろ?」

「そいつぁ、どういう意味だ?」

「ニドキング!!」

 

 ニドキングはにやりと笑みを浮かべると力強く地面を踏みつける。地面タイプの中でもトップクラスの威力を誇る「地震」である。ニドキングを中心に衝撃波が巻き起こる。当然ながらエレブーにとっては弱点となるだろう。

 

「そいつは当然の選択だな。だがお前にも同じことが言えるぜ。要は、当たらなきゃいいんだろ?」

 

 エレブーはタイミングを見計らって跳んだ。どんな威力ある攻撃も当らなければ大したことはない。

 

 が、それこそがセピアの狙いである。

 

「跳んだな?」

「なにっ!?」

 

 空中で身動きの取れないエレブー目掛けてニドキングは腕を伸ばした。弱点であるはずの氷タイプの技だが、ニドキングは頭がよく、覚えられる技は多種類存在する。冷凍ビームも例外ではない。

 

「エレブー! 10万ボルト!」

 

 空中では身動きが取れない。エレブーは得意の10万ボルトを放出した。撃ち出された氷のレーザーは相殺に持ち込まれる。だが、威力を収縮された氷の光はそれだけでは消滅しない。削られはしたものの、攻撃自体はエレブーに命中した。

 

 ダンッと重く着地するエレブーは腹を摩(さす)り、吠えるように声を荒げた。己を鼓舞する姿は、二足歩行とはいえ、やはり獣のそれを連想させる。そしてそれはニドキングも同様であった。打ち合い、多少白いままの拳を握り直す。鋭い眼光がよりいっそう鋭利なものとなた。

 

「ま、準備運動はこんなものでいいだろ」

 

 軽く提案するマチスに、セピアも返す。

 

「……そうだな。そろそろ本気でいくか」

 

 繰り出される攻防は一瞬で入れ変わるものだった。それこそ、互いに並の育て方では、既に決着がついてもおかしくないはずだった。そんな戦いを、準備運動だと言う。観戦するジムのトレーナーたちは、両者の戦いぶりを喝采した。

 

「す、すげぇバトルだ」

「さすがはマチスさんだが、相手の子供もすげぇぞ」

「まだ上があるってのか」

 

 盛り上がりを見せる観客ではあったが、二人にはそんなもの見えていない。いや、下手すれば聞こえていないのかもしれない。マチスの眼はもう、かつての後輩に対するものではなくなっていた。レッドやグリーン、ロケット団に仇なす敵に向けていたであろう眼と同じだった。その、殺意にも似た敵意を感じ取るセピアも、気が抜けないと帽子を被り直し、身を引き締めた。

 バチバチと再びエレブーは電光を帯びる。10万ボルトを放つのかと一瞬身構えるニドキングだが、そうではなかった。

 

「先に言っとくぜ。俺のエレブーはなぁ。接近戦が得意なんだよ」

「いきなり何を……っ!?」

 

 マチスの突然の宣言。その意味を、セピアはすぐに理解する。光り続けるエレブーは、物凄いスピードで接近してきた。先程のような小細工を弄することもない。ただ単に突っ込んできただけのはずが、より難解な状況となる。

 

「くっ……、ニドキング! 一旦離れろ」

「おせぇよ!」

 

 そのままエレブーは拳を繰り出す。凄まじい速さの拳の振りに、ニドキングも簡単に受け止めることは適わない。とっさに後退しながら首を動かす。うまく避わすものの、エレブーの拳はすぐに次がきていた。拳の応酬である。れんぞくパンチにも似た高速の弾幕は、ニドキングの動きを封じこめていた。

 

「ちっ……」

 

 苦々しく舌を打つセピア。まともに喰らいはしないものの、徐々にニドキングの動きは制圧され始めている。

 

「みきりだ!」

 

 ガシッとニドキングはエレブーの拳を掴み取る。押されていたのが嘘であるかのような順応ぶりである。

 

「なかなかやるな。だがそこからどうする? また投げ飛ばすか?」

「いいや。今度は逃がさねえ」

 

 吠えるようにニドキングが口を開く。マチスはすぐに察知した。

 

「エレブー!」

 

 歴戦のあるエレブー自身も気付いただろう。ニドキングが既に、攻撃の態勢に入っていることを。そして、僅かにニドキングが熱を帯びていることを。

 

 エレブーは回避するため腕を引くが、セピアの言葉通りニドキングが、がっしりと掴んだまま離さない。空いたもう一方の腕で拳をお見舞いしようと振るうが、当然ニドキングもそれを受け止める。

 

「だいもんじ!?」

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