炎技の中でも威力が高いだいもんじ。それをマチスのエレブーは、近距離でまともに受けたのだ。無事で済むはずがない。展開された豪炎は弾け飛んだ。凄まじい爆発とともに、視界を覆った。すぐにニドキングは姿を見せる。主人であるセピアに自分が無事だと示したのだろう。
だが、肝心のエレブーはなかなか姿を見せない。この一撃で戦闘不能になったというのか。セピアの甘い思惑は、マチスの表情によりすぐに打ち消される。むしろここからだと言ったところか。
少し視界が開けると、自ずとエレブーは姿を現す。だが、どうしたことか。エレブーは膜に覆われていた。
「そういうことか」
「決着にはまだ早いだろ?」
セピアは合点がいった。いくら耐久力があったとしても、電気タイプのエレブーが、「だいもんじ」を零距離で受けて、ただですむ筈がない。
とっさにエレブーは、「ひかりのかべ」を張ったのだろう。特殊系の技の威力を半減させる防御技である。エレブーの焼け焦げた様子から、ダメージは確かにある。 だが、そんなものはお構いなしに突っ込んできた。
「いきなり殺りにきたか!」
「お前のニドキングは特殊技、というよりは遠距離戦に精通しているようだからな。こっちの得意分野に持ち込ませてもらうぜ」
マチスは実に冷静だった。セピアのニドキングは、確かに特殊技の方が多く記憶している。だが……。
「ニドキング、どくばり!」
突進してくるエレブーに向かって、ニドキングは頭の角で向かい打つ。
「そんな大振りな技が当たると思うな!」
カウンターの要領で、ニドキングは角を突き付ける。だが、エレブーの体が電気を帯びると、捉えていたはずの射程内から、エレブーは消え失せた。僅かな、最小限の動きで毒の角を避わし、エレブーが逆にカウンターに持ち込んだ。
まともにエレブーの拳を受けると、その凄まじい威力からか、ニドキングの体は吹き飛ばされてしまう。ダンッとフィールドを踏み締め、ニドキングは負けじと勢いを殺した。
見ればニドキングの顔には、焼け焦げた痕がある。この攻撃は……。セピアが思案したものの、マチスがあっさりと手の内を明かした。
「さっきのだいもんじのお返しってところか。かみなりパンチに比べれば、さすがに聞いたんじゃねえのか。 この「ほのおのパンチ」は」
マチスの自信に呼応してか、エレブーはニドキングに見せ付けるようにして拳に炎を宿す。そして、もう一方の拳には電気を帯び始める。その後、電気を消したかと思うと、次は冷気を込めた。
言葉では語らずとも、その態様が全てを物語る。マチスのエレブーは、三種の拳を使いこなすインファイターであると。
しかしだからと言って、引く理由にはならない。相手は確かに強敵である。そんなことは最初(はな)から分かっている。
「やれるか、ニドキング」
念の為、直接戦闘するであろうニドキングに意志を確認した。
するとニドキングは、口からベッと何かを勢い良く吐き出す。先程の一撃で口を切ったようで、口内に溜まった血を捨てたのだ。そしてニドキングは、自らの拳を打ち合わせて吠えた。まだまだやれるとの意思表示である。そしてもう一つ。
「お前に似たのか。その生意気なところは」
「さぁな。だが、俺のニドキングはこうなったら強いぞ」
マチスが尋ねたのも無理はない。エレブーの得意な間合いは近距離だ。これはもう既に明白である。だが、ニドキングはそれにあえて挑もうという。敵の得意な領域にあえて合わせると意思を示したのだ。
エレブーは当然ながら迎え撃つつもりだ。敵の思い上がりともとれる態度に、エレブーはより一層敵意を剥き出す。バチバチと電気を生み出し、すぐさまニドキングに放った。
「くるぞ!」
先程と同じ。10万ボルトを飛来させ、視界を隠す。セピアに警戒しろと言われ、ニドキングは目を細める。見切りの態勢である。
再び背後に回る可能性もあったが、今度は何の事は無い。煙幕の中、突如拳が飛び出してきた。ニドキングは冷静に避わしてみせる。そのまま伸びた腕を掴み取ろうとするが、ニドキングの死角から次の一手が襲い掛かる。
直前で気付いたおかげで、ニドキングは再び避ける。が、避わした態勢のところへまたもや拳が飛んで来た。
「相手のペースに乗るな! 一旦離れろ
!」
セピアの判断は概ね正しい。だが、エレブーのスピードは、最早さっきまでとは段違いだった。単純なスピードはもちろんであるが、エレブーはフェイントを織り交ぜてきた。
速攻性のあるかみなりパンチ、かと思いきや威力重視のほのおのパンチ、さらには相手の動きを鈍らせるれいとうパンチが、同時にニドキングを襲う。
特にれいとうパンチには注意を向けざるを得ないニドキングは、それを囮にされてほのおのパンチを打ち込まれる。
ニドキングは臆することなく、怯むことなく迎え打つ。しかしニドキングの腕の振りはエレブーには届かない。明らかにエレブーが圧倒していた。
拳の弾幕のなか、ニドキングはよく凌いでいたものだ。だがそれも徐々に崩された今、ぐらりと怯んだ隙を生じてしまう。
「一気に決めてやれ。れいとうパンチだ」
やはり無理がある。観戦しているジムトレーナーたちがそう感じた頃、ニドキングはようやく動く。何のことはない。最初から、ニドキングの狙いは此処にあったのだ。
「カウンター!」
セピアの鋭い一声が響く。比較的大きく振りかぶる、決め手の一撃。エレブーの、渾身の冷気を込めた拳に合わせ、ニドキングの拳が交錯する。敵のスピードをも利用した反撃技は、有無を言わせず敵を戦闘不能に陥らせる。
はずだった。