寸前まで、エレブーは腕を振り抜いていたのは間違いない。だからこその好機、だからこその反撃だった。
「お前らの狙いくらいは読めてたぜ」
しかし、結果は無残にも不発に終わってしまう。振り抜いたと見せ掛け、エレブーはその実、最大のフェイントを仕掛けたのだ。最大の好機こそ、最大のピンチとはよく言ったものだ。結果、隙を生じさせたのはニドキングの方だった。今度こそ、エレブーは最大の攻撃技に入る。
「いけ、れいとうパンチだ!」
マチスの指令に従い、エレブーは拳に力を込めた。凄まじい拳の振りに、ニドキングは身を捻るが間に合わない。顎に打ち込まれたニドキングは宙を舞い、着地もままならず地を転がった。すぐさま足で地に立とうとするが、わずかにグラついていた。打ち所が悪かったのもあるが、受けた技が悪すぎる。
「まともに喰らっちまったな。ギブアップするか?」
「まさか。こっからだろ」
セピアの強気な発言に呼応するように、ニドキングは自身を奮い立たせる。たった一撃でへばるわけがないと、戦闘本能を剥き出しに吠える。
吹っ飛ばされたというのに、ニドキングはすぐさま走り出す。まだ負けを認めていないのか。接近戦に持ち込むつもりだ。
「その蛮勇さは認めるが、あまり過ぎると無謀とも取れるぞ」
「違うな。勝ち筋を見てるからこそだ」
大きく足を踏み出し、ニドキングは駆ける。氷の技を受けた影響は確かにあるようで、僅かに動きが鈍い。その隙をマチスのエレブーが見逃すはずがない。一気に決める為、エレブーも同様に電光を発して距離を詰めた。
「カウンターに気をつけろ」
当然の警戒である。見破った技とはいえ、いつ再び狙われるか分からない。しかし逆に言えば、その逆転の目さえ潰せば、近距離戦においてエレブーが遅れを取るはずがなかった。
「10万ボルト!」
「何だとっ!?」
ニドキングが電光を発した。向かいながら充電を済ませ、目の前のエレブー目掛けて撃ち出す。電気タイプのエレブーに電気技は効かない。いやむしろ、パワーを与えてしまうだけだ。
「電気なんか効かねぇぞ」
「分かってるさ、そんなことは」
「ちっ……」
察したマチスが舌を打つ。それとほぼ同時、エレブーの真下のフィールドに着弾させる。何のことはない。エレブーが弄した策をニドキングも真似しただけだ。
「今度はこっちから仕掛けさせてもらう」
「残念だがそりゃ無理だ」
視界を覆われたフィールドに、ニドキングが隠れてしまう。エレブーに視認は出来ないはずだが、獣と変わらぬ眼光が揺らぐ影を捉えた。
「インファイターとして鍛えたエレブーだ。砂埃の僅かな動きだけでも、ニドキングの居場所なんてすぐに分かるんだよ」
「……」
右三十五度。エレブーは砂埃に紛れたニドキングを狙い、氷の拳を振りかぶる。殴った感触。唸る声。砂埃から衝撃に押されて飛び出したのは、間違いなくニドキングだ。
「……!?」
いや、違う。ニドキングの姿はボンッと音を立て、怪獣の縫いぐるみへと変貌した。
「身代わりかっ!」
「こいつだってな。近距離戦やれるんだぜ」
砂埃が晴れた頃、エレブーの後方から、本物のニドキングが姿を見せる。一瞬気付くのが遅れたエレブーに、強烈な尾を叩きつける。鉄と同等に硬化させるアイアンテールだ。
不意打ちに近い状況で、まともに打ちのめされたエレブーは地に倒れてしまう。すかさずニドキングは飛び上がる。エレブー相手には最大の攻撃技となりえるだろう。落下するスピードを利用し、エレブーの元へと踏みしめる足に力を込める。
「くそっ!」
「地震だ!」
相性最悪の攻撃技。衝撃だけでも致命傷となる攻撃を、エレブーは直接ニドキングに踏み付けられた。無残にも両手両足を投げ出すエレブーを中心に、地が割れる。凄まじい地割れが、ニドキングの地面タイプとしての底力を見せた。
割れた地に、改めて足をつくニドキング。動かなくなったエレブーをただ見下ろした。勝負を決し、自分と競り合った敗者をただ見つめていた。
「離れろニドキング!」
セピアの鋭い一声に反応するが、行動に移す頃には遅かった。赤く怒りに満ちた視線でニドキングを射抜くと同時に、エレブーはまさかの反撃を見せる。ニドキングの足を掴んでバランスを奪う。その隙にエレブーは態勢を立て直す。一瞬の内に優勢は覆され、膝を付くニドキングに対して、逆に見下ろす形でエレブーが拳を振るう。
冷気を込めた拳を、ニドキングは不利な状態でも、辛うじて見切る。が、エレブーはもう一方で紅蓮の拳を打ち込んだ。
地を転げるニドキング。これで何発の拳を受けたのか。しかし、ニドキングはその負けん気で再び立ち上がった。
「なんてタフさだ」
ニドキングにも言えるだろうが、地震を直接喰らったエレブーはやはり異常だった。
「ただタフなだけだったらさすがに立てねぇよ。咄嗟にこらえてなきゃ今のでやられてたぜ」
「……!?」
得意気なマチスの言葉に、セピアはなるほどと合点がいったようだ。ニドキングに踏みつけられた時、回避も間に合わなかったエレブーは、あの一瞬こらえる技で攻撃を受け切ったのか。
驚くべき判断力と実行力には恐れ入るが、むしろセピアは頬を緩ませる。。何も無効化されたわけじゃない。確実にエレブーにもダメージを与えている。いくらやっても倒れないよりかは、勝ち筋が見えてきたと感じたようだ。
「笑うにはまだ早いぜ。もうさっきみたいな騙し討ちが通じると思うなよ」
「なっ……!?」