ポケットモンスターセピア   作:神谷佑都

6 / 11
VSエレブーⅣ

 セピアが驚くのも無理はない。怒りに燃えるエレブーの姿が揺らいだ。その歪みは大きくなってゆく。そして、エレブーは二つに分かれた。

 

「こいつは……」

 

 努めて冷静になる。見慣れた技の筈だが、まさかエレブーが覚えるものとは思わなかった。

 かげぶんしん。自身の分身を作り出し、相手を惑わす技だ。セピアもこの技には精通している。ある程度の対処は出来る。だが問題は、インファイターのエレブーが用いてしまったことだ。

 

「こいつのとっておきだ。この技を出させたことは褒めてやる。だがここまでだ」

「ちっ……」

 

 セピアが想定する最悪の事態。近距離戦を得意とするエレブーは、当然ながらニドキングの元へと距離を縮めた。二匹のエレブーともに電光を発する。だが、構えは全く違っていた。

 

 どっちが本物だ。見た目は一緒だ。判別など出来るわけがない。迷う間に、エレブーたちはもう迫っていた。

 

「右だニドキング」

 

 見分けることなんか出来ない。何もせず、ただ敵の攻撃を待つくらいなら、こっちから仕掛ける方が良い。セピアは咄嗟の勘で指示を出した。セピアの命に従い、ニドキングは右にいるエレブー目掛けてれいとうビームを撃ち込む。

 

「残念だったな」

 

 氷のエネルギーが圧縮された光線は、エレブーをかき消して、フィールドの外へと飛んでゆく。外れた。こいつは偽物だ。ならば本物は、今目の前に迫るこいつか。

 腕を伸ばしたままの、攻撃を終えたニドキングの視界には、拳を振り上げるエレブーが迫る。

 

「みきりだ!」

 

 ニドキングより速い相手が、既に攻撃態勢に入っている。咄嗟に、守りに徹するしかない。迅速な判断ではあるが、ニドキングがエレブーの腕を受け止めたその時、エレブーの姿は再び、二つに分かれることとなる。受け止めたエレブーの姿は消え失せ、ニドキングの脇から本物のエレブーが拳を撃ち込む。致命傷を狙う氷の拳だ。

 

 見切りの体勢に入っていたことが功を為し、ニドキングは辛うじてダメージを抑える。まずい状況ではあるが、まだ負けたわけじゃない。すぐさま体勢を立て直す。

 

「……!?」

 

 だが反撃の意思を秘めたニドキングの目には、三体のエレブーを留める。

 

「くそっ!?」

「今度は三体だ。どんどん行くぜ」

 

 雷、炎、氷の拳をそれぞれのエレブーが繰り出す。タイプが違う分、対処は各々変わってくる。本物はどれか一体であるが、判別は難しい上に、そんな暇はない。見切りを繰り返し、ギリギリのところで耐える。この戦いの中で、ニドキングはエレブーのスピード、動きに慣れ始めていたのが幸いした。しかし、守りに徹しているせいでニドキングは攻撃に移れない。

 

「思ったより耐えるな。じゃあ、こいつはどうだ?」

 

 エレブーはさらに分身を増やす。合計五体のエレブーが、ニドキングの周囲を囲む。みきりで対処するのも限界だった。

「此処にきて、とんでもない隠し玉だな」

「前にお前にも教えてやったはずだ。奥の手は最後まで見せるな」

「見せるのは、敵を確実に仕留める時だけだ、か。よぉく知ってるよ」

 

 マチスの言葉に合わせて、セピアも呟く。聞き飽きたと言わんばかりに、セピアは頬を緩ませた。

 周りを取り囲むエレブーが、一斉にニドキングに襲いかかる。右、左、背後、前方に二体、バチバチと弾けながら接近した時、セピアは此処ぞとばかりに指示を出す。

 

「じしんだ!」

 

 事前に分かっていたかのように、ニドキングはセピアの声に迅速に反応した。絶望の差中、眼を見開いて地を踏み締める足に力を込める。

 地を走る、分身を含めたエレブーはその衝撃に足を取られる。

 

「今更遅ぇよ!」

 

 マチスの咆哮の通り、エレブーが怯んだのはほんの一瞬である。分身も消えてはいなかった。

 

「フルパワーだぁ!」

 

 ニドキングは吠えると同時に、エネルギーを放出する。浮かせた片足を思いっきり踏み締めた。耳を塞ぐくらいの大きな音が弾ける。トレーナーまでもが足を取られ、転倒する程に衝撃が起こる。そして、ニドキングを中心に、フィールドの地面がうねりを上げて大きく割れる。中心が沈み、外の地面が蕾のように持ち上がった。

 

「何だとっ!」

 

 ジムのフィールドは壊滅し、元々地面技に弱いエレブーの分身は、割れた地盤により消え失せる。エレブー本体は、まだ戦闘を続行出来る状態だ。一方ニドキングは、せり上がった地面の死角に隠れたようだ。

 

「エレブー。まだ生きてるはずだ。探せ」

 

 了承したエレブーは、大きな地盤の上に乗ってニドキングを上から探す。バチバチと電光を発し、見つけ次第攻撃を仕掛けるだろう。

 

 セピアはその様子をぐっと見守る。このままエレブーの隙を突く為、ニドキングが先に見つかる事態は避けなければならない。素早い動きで探索する間、妙に静かな時間が流れる。長く思われた時間であるが、その終わりは実にあっさりと訪れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。