「……!?」
電光が弾けるエレブーはスピードが上がっていた。当然、視線の動き、探索のスピードも格段に上がる。上から見下ろしたエレブーの眼には、地盤の影に隠れ、様子を探るニドキングの姿がいた。
「やばい。その場を離れろ!」
「せっかくの奇策も無駄だったな!」
飛ぶように、エレブーはニドキングの元へと駆ける。セピアの声も虚しく、ニドキングが反応して見上げる頃には、寸前にエレブーが迫っていた。尾を振り回したニドキングを掻い潜り、エレブーの会心の一撃がニドキングの脇腹に刺さる。
鋭い拳を撃ち抜かれ、ニドキングはあまりの衝撃に身体を曲げる。冷気を込めたパンチは、パキパキとニドキングの身体を蝕んでいた。まともに、急所を射抜いた一撃。吹き飛ぶニドキング。勝負は決した。誰もが、マチスさえもが思った時、セピアは口角を吊り上げる。
「……!?」
僅かに空を舞い、地を転ぶニドキングは、煙を上げて縫いぐるみへと変貌した。
「しまっ……」
拳を振り抜いたエレブーの元に、衝撃が響く。上からでも、背後からでもなく。地面の中から飛び出た勢いのまま、ニドキングの拳がエレブーの顎を撃ち抜いた。
大きくエレブーが浮き上がると、割れて沈む地盤の上にどさっと打ち付けられた。震える腕で、エレブーは底力を見せる。両腕で支え、片膝で立つ。獣のような唸り声を上げて、これでもまだ立ち上がる。
目の前には、せり上がった地盤に手をつくニドキングだ。互いにもう体力はない。あとはもう最後の力を振り絞るのみである。
「ここまでやるとは正直驚かされた。だがここまでだ」
「バカ言うな。俺が勝つ」
奇しくも、エレブーとニドキングは一直線上に位置していた。ちょうど、地盤が左右を阻む。それでも、エレブーが三体並べる程に幅には余裕があった。
「どう考えてもこれが最後だ。まだ奥の手があるなら今の内に出すんだな」
「言われなくても」
エレブーが電撃を帯びる。最後の攻撃の為か、此処で、より激しい電圧となる。さらには、そのまま三体に分裂した。もはやマチスに隠すつもりはない。全身全霊を持って叩き潰すつもりだ。
「行くぜ」
「ああ」
疲弊しているのはどちらも同じ。最後の力を振り絞り、エレブーとニドキング、両者は駆ける。
三体のエレブー。分身には違いないが、ほぼ同時に攻撃を仕掛けるつもりだ。それぞれが、電気、炎、氷を拳に纏って構える。バチバチと、体全体を覆う電気は激しさを増してゆく。その電光は何処までも輝き、やがてエレブーの体を呑み込んでいた。
「まさか……」
あまりにも激しい発光だ。エレブーの輪郭さえも消え失せる。白く輝く光はニドキングの眼を封じた。
明るい光で命中率を下げるフラッシュ。だがこれほどの眩しさとなれば、攻撃を当てるどころか、眼を開けることすら不可能となる。
ニドキングは眼を瞑り足を止めてしまう。だがその間にも、エレブーは間合いを詰める。
「止まるなニドキング。走れ!」
同じく眩しさに目をやられたセピアは、辛うじて片目を開けて指示を出す。間近に光を浴びるニドキングはとてもじゃないが、眼を開けられない。どうするというのか。一瞬、セピアの言葉に疑問を持ったニドキングではあるが、すぐに足を動かす。今までも、セピアの起点で勝利してきたではないか。今更、何を疑うというのか。
視界が真っ白であるのに、恐怖はないのか。ニドキングは普段と遜色ない走力を見せる。そして、エレブーとの激突の瞬間だ。
「メガホーン!」
虫タイプ最強の技。いや、角を用いた最強の技だ。分身がいようが関係ない。ニドキングの突進は、丸ごと貫く。
「残念だったな。ハズレだ」
エレブーは三体ともかき消える。本物は高くジャンプしていた。恐らく、フラッシュを行ったと同時に、跳び上がったのだろう。眼が見えていたならいざ知らず、視界を封じられたニドキングには、エレブーの位置が把握出来ない。
「もらった!」
「いや、もう一回。メガホーン!」
眼を瞑ったままのニドキングに、セピアは技の指令を出す。先程とは状況が違う。エレブーの位置を把握することは出来ない筈だ。
しかし、ニドキングは頭上に浮かぶエレブーへと顔を向けた。適当か、勘で当てたのか。いずれにせよ、ニドキングはエレブーの位置を正確に捉える。
「くそっ! エレブー!」
地に着かせたらエレブーは再び自由となる。それまでに決着を付けなければならない。ニドキングは、エレブーに向かって最大の角技、メガホーンを繰り出した。
空中にいるエレブーには何も出来ない。影分身も出せず、まともに出せる10万ボルトも、ニドキングには無意味だった。それでも何もしないわけにいかない。不安定な態勢であっても氷の拳を振りかぶる。だがそれは、悪あがきでしかなかった。
「っ……」
ニドキングの突進は宙にいるエレブーに命中した。凄まじい突進技により、地を蹴ったニドキングも、エレブーも転倒した。余程ギリギリの状態だったのだろう。呼吸を荒くして、何とかニドキングは立ち上がる。エレブーはといえば、そのまま起き上がることはなかった。
勝負はついに決した。ニドキングの、セピアの勝ちだ。
静まり返る空気から一転、フィールドは喝采に包まれる。
「勝者、セピア!」
「う、おおぉぉぉ!」
「す、すげェぞあの子供。マチスさんに勝ちやがった」
「まさかマチスさんが……」
まさかジムリーダーが負けるとは信じられない者もいるようだ。しかし、最後まで誰もが賞賛出来る猛攻だったのは確かであった。