「ち、負けたか」
特別製のモンスターボールにエレブーを帰らせると、マチスはガシガシと自分の頭を掻いた。
「やったな」
セピアは嬉しそうに、ニドキングの元へと駆ける。今にも倒れそうになっているニドキングと、拳を合わせた。ポケモンに賞賛を送ると、モンスターボールにセピアも戻す。ポケモンセンターにすぐに行かないまでも、ボールの中の方が幾分か休まるだろう。割れた地盤に注意しつつ、フィールドにいるセピアの元に、マチスも近付いた。
「おいお前ら。少し静かにしろ」
マチスと互角以上に戦い抜いたセピアの存在に、ジムトレーナーたちは興奮を抑えられない。何とかマチスの一言で抑えたが、依然と熱気は残っている。
「おいセピア。何で最後、エレブーの位置が分かったんだ?」
マチスとしては当然の疑問だ。本来なら眼を瞑っていたニドキングには、エレブーの位置が分からずに敗北していたはずだ。セピアは分からないでいるマチスに対して、得意気に答える。
「音だよ。ニドキングはニドランの時から耳が良いからな。それで察知したんだよ」
「音だと? だがあの時エレブーは宙にいただけだ。音なんてものは……」
そこでマチスは言葉を噤んだ。皆まで言わずとも概ね理解したのだろう。
「そう。電気タイプのエレブーは元々微弱な電気を発している。その電気の音を察知したんだよ」
「むしろ音を出せなかった状況だからこそ、微弱な電気を聞き取れたってわけか。へ、やってくれるぜ」
マチスは鼻の下を指で擦って、笑いを浮かべる。悔しい気持ちは確かにあるが、それと同等以上に、誇らしい気持ちに似たものがあったのも確かだった。
「んじゃ、約束通りレッドの居場所を教えてもらうぞ」
「あぁ、それな」
バトルは楽しめたが、セピアの本当の理由は此処にある。最初に言った通り、セピアはマチスに情報を求めた。嫌に出し惜しみするマチスは、漸く観念したのか口を開く。
「俺は知らねえ」
「……。ブラッキー、噛みつけ」
瞬時にボールからブラッキーを出すと、流れるように指示を出す。セピアの目が座っていることからも、マチスは本気だと感じたようで、慌てて弁解に入った。
「待て、待て。俺は確かに知らねえけど、居場所を知ってる奴なら知ってるぞ」
「……誰だ?」
「超能力者様だよ」
マチスは得意気に答える。片やセピアはなるほどといったところだ。言われてみればそうだ。マチスより彼女のほうが頼りになることは確かだ。
「お前、俺が頼りにならないって思ってんじゃないだろうな」
「……いや、そんなことないぞ」
少なくとも彼女の方が少しは、と思ったセピアが冷静を装って誤魔化す。
「まぁいい。行くなら早く行っちまえ。俺もエレブーを鍛え直さないといけないから忙しいんだ」
「マチス、ありがとな」
「何だ急に、相変わらず変な奴だな」
感謝の意図はこれだと絞れない。次の指針を示したことも、熱く戦えたことも、マチスがロケット団であることを忘れなかったことも。
「マチス。最後に一ついいか?」
「何だ?」
「キョウは、やっぱりか」
超能力者である彼女の話が出たこともあってか、セピアはもう一人の幹部だったキョウのことを尋ねた。セキチクシティジムリーダーでもある彼は、毒専門のエキスパートだ。
「ああ。相変わらず何処に行ったか分からずじまいだ。俺らは……。いや、奴は自分の街にも戻ってねぇみたいだし、ジムも別の奴が引き継ぐらしい」
危うく、俺らはボスに言われた通りにジムに戻ったが、と言いかけて止める。まだジムトレーナーたちがいる前なのだから軽はずみなことは言えない。
「そっか……」
「シャキッとしやがれ。そんなんじゃレッドに負けちまうぞ」
「そうだな。とりあえずヤマブキに行ってみる」
「ああ、行ってこい。と言いたいんだがな、セピア」
「今度は何だよ?」
「こいつの賠償はどうするつもりだ?」
「……え?」
親指でくいっと後ろを指すマチス。十中八九、破壊されたフィールドのことだろう。地盤が割れた状態では、もうバトルは出来そうになかった。
「え、お、俺のせいか?」
「てめぇがやったんだろうが。言っとくがめちゃくちゃたけーんだぞ。ジムの維持費やら修繕費やら。きっちり払ってもらうからな」
「……」
確かに公式なジム戦ではなかった。けど、まさか賠償を求められるとは思っていなかったセピアは、やばいと冷や汗をかく。しばし考えること数秒。
「悪いマチス」
「あ、てめこら」
大層な金は持ち合わせていないセピアは逃亡を図る。ブラッキーも一緒に駆け出した。
「おいお前ら、あいつを捕まえろ」
「ガッテンだ」
「サー、イエッサー」
各々了解と口にすると、十数人のジムトレーナーが一気に、セピアへと押し寄せた。
「うおおぉぉぉ!?」
「えぇ、嘘だろ。仕方ない。ブラッキー」
ブラッキーはこくっと頷くと、ヒュバッと華麗に振り向いた。そして、体の黄色い部分が光り出した。その光はどんどん大きくなり、セピアとブラッキーの体を覆い尽くす。
あまりの発光にマチスたちは目を開けていられなかった。エレブーがやったのと同じフラッシュである。
「じゃあな」
「くそっ、逃げやがったな」
目を再び開けた頃には、セピアの姿はなかった。いきなり来たと思ったら、すぐに行ってしまった。まるで台風みたいな奴だとマチスは思う。
「またいつでも来い、クソガキ」
マチスは笑みを零す。その若い芽が何処まで伸びるか分からないが、楽しみなことは間違いない。まるでレッドやグリーンのようだと感じながら、マチスもまた、ロケット団復興の為に己の力を注ぐのである。