瀕死に近いニドキングを、クチバのポケモンセンターで回復させてから、セピアはヤマブキシティに向かった。
久々に通る道だからたまには歩いていくかとセピアは考える。すると、道中、思った以上にトレーナーたちに勝負を挑まれなかなか進めなかった。ジムリーダーに勝つほどの実力を有するセピアは、当然のように勝ち進んだ。
しかし、対戦人数の多さに時間がかかってしまったようだ。ヤマブキに着くのが予定より遅れてしまったが問題はない。超能力者である彼女なら全てを見越しているはずだ。
「失礼しま~す」
ヤマブキジムの扉を開ける。相変わらず少し暗い。このジムはワープで部屋を繋いでいるからかなり面倒ではある。セピアは前にその攻略を本人から聞いているので問題はない。と思っていたのだが、ワープする部屋が変わってしまっていて大分てこずってしまった。壁を破壊してやろうかとも考えたが、後が怖いので止めた。
そしてようやく、最後の部屋に辿り着く。
「む? これは思いもよらぬお客さんだ」
「嘘つくなよ。どうせ分かってただろ」
「ふふ、そうだな。分かってたからこそ、こうやって人払いをしていたのだけど。久しぶりセピア」
「久しぶりナツメ姉さん」
何処にいるのかと思えば、ふわふわと宙に浮いていた。ロケット団幹部の一人、ヤマブキのジムリーダーのナツメである。彼女の専門はエスパーであり、彼女自身も超能力者である。おそらくはセピアがいつ頃来るかなど、既に分かっていたはずだ。
「それで? いったい何の用だ?」
「だから知ってるんだろ」
「レッドの居場所。それなら知ってるけど、教えてあげるかは別問題だな」
「うっ……。な、何?」
ゆっくりと降りてきて着地するとナツメはクスと笑う。
「ふふ、相変わらずセピアは可愛い反応をする」
「うるさいな」
ポケモンの実力の伸びが異常であったセピアは当時、大きい仕事はなかったものの、他の大人とそう変わりない扱いだった。自然と大人と対等に接する場面も増えていて、生意気ととられることもあった。だが、超能力者であるナツメだけはセピアが苦手としている。幹部だからという理由ではなく、ナツメだからと言えるだろう。
「それよりどうすりゃ教えてくれるんだ?」
「そう慌てるな。その前に、少し話さないか?」
「??」
何を考えているのだろう。ナツメの胸中は分からなかったが、セピアは了承するしかなかった。
セピアとナツメは、ヤマブキジム内にある休憩室にて席をともにしていた。
「…………」
「セピアは紅茶嫌いだったか?」
「いや紅茶はうまいけど」
紅茶がどうというわけではない。セピアはカップをカチャリと置いた。
「こんなことしてる場合じゃないんだよ」
「ほら、入れてやろう」
「あ、ありがと……って違ーう!」
器用にも超能力を使って紅茶を注ぐナツメ。いや器用のレベルではないが。
「何でお茶会やってんだよ。早くレッドの場所教えてくれよ」
「さっき、マチスと戦ってたいたのだろう」.
「ああ……」
実に意味のない質問だった。勝敗はもとより、どのような攻防が為されたかも知っているはずだ。ただの確認なのか分からないが、セピアは素直に答えだけを述べた。
「幹部と勝負になるくらい力を上げたことは正直に嬉しい。けどあの子は……、レッドはもっと上よ」
「……それが教えない答えか?」
「否定はしないでおくわ」
「姉さんには見えてるのか? 俺とレッドが戦った時の結果を」
「いいえ。私には勝負の結果なんてものは見えない。余程確定的な未来でなければ見れないもの」
かつて戦いを教え込んだ相手が力をつけたことには、ナツメは少なからず嬉しく思っているだろう。
だがレッドと実際に戦ったことがあるからこそ、今のセピアではまだ実力が及んでいないと感じている。それは、超能力を使ったものではなく、ポケモントレーナーとしてのキャリアが感じ取っていた。
「それで俺が納得するとでも?」
「いいえ。それも思っていないわ。わざわざ力を使わなくても、おとなしく従う子だとは思っていない。一応こうやって説得の場を設けたのだけど、やっぱり無駄みたいね」
ナツメの小さな策略はあっけなく無駄に終わったというのに、ちっとも残念そうな様子はない。フフ……と笑いを零しているくらいだ。それは、久しぶりに会っても変わっていないセピアを懐かしく思ってか、それとも次の提案に期待していた為か。
「なら、マチスと同じように勝負で決めようかしらね」
「本当は最初からそうするつもりだったんじゃないのか?」
「そうかもしれないわね。でも久々に、ゆっくり話したかったというのもあるのよ。それでどうするの?」
カチャリとカップを置いて、ナツメは僅かにロケット団幹部の凄みを見せた。それでセピアが引き下がればなどとナツメが思ったかどうかは定かではないが、セピアには逆効果だったのが事実である。
「やるさ。ナツメ姉さんには、ガキの頃に散々負かされたからな。そろそろ借りは返しときたいんでね」
「そうね。それなら私は、もう少し貸しを作ることにするわ」
「上等だ」