-東京物理学研究所-
「それで、VT信管の対策は出来たと。」
「はい。このアンチ・レーダーシステムを航空機に搭載し、敵側の無線周波数である180~220MHzに合わせれば、敵のVT信管の完全な無力化が可能です。」
「しかし、これだけの大型の機械は戦闘機には搭載できませんよ。」
「ええ。しかし攻撃は戦闘機が行うのではなく少し大型の攻撃機や爆撃機が行うのでしょう?」
「まあ、確かにそうです。」
斉藤は東京に戻り、VT信管の対策が出来たという連絡を受けて東京物理学研究所にやってきていた。
「アンチ・レーダーシステムが実用化できたのも、貴方の力とあの島のお蔭です。」
「いえいえ、こちらとしても決戦の敗北要因を少しでも少なくしておこうと思ったのですよ。」
そこへ、助手らしき者が来て
「博士、今日は息子さんの壮行会でしょう?行かなくていいんですか?」
「ああ、そうだったな。」
「壮行会?」
「あれ?今日は学生達が戦地に赴くから、その壮行会の日ですけど。ご存知ありませんでしたか?」
「な、なんだって!?」
まさか、史実では戦局の悪化における兵力不足から行われた学徒出陣だが、未だに戦局は我が方が有利の筈だった。それに、史実よりも早すぎる。
「一体どうして?」
「なんでも、マリアナ諸島の防備不足から学生の一部を送るそうだ。それに、中国大陸にも行くとも言っている。」
「中国はともかく、マリアナ諸島の防備は完璧ですよ。」
「さあね、お偉い方が何を考えているのか知らないが、学生達を戦争に巻き込まないでほしいよ。」
-明治神宮外宛競技場-
ここでは、史実同様に東京帝国大学を先頭に学徒生が行進してくる。
「まずいことになったな。」
斉藤の絶対に繰り返したくない歴史の一つを繰り返してしまった。
祭壇には東條英機が敬礼をしながら行進する学徒兵らを見ている。史実同様に雨が降っており、ずぶ濡れになりながらも見送る人々は手を振っている。
整列が終わり、会場にいるもの全員で国歌斉唱を行う。そして、東條が祭壇から訓示を述べる
「御国の若人たる諸君が勇躍学窓より征途につき、祖先の威風を昂揚し、仇なす敵を撃滅して、皇運を扶翼し奉るの日はこんにち来たのであります。」
そして、東京帝国大学の代表生徒が壇上に上り、答辞を行う。
「我らいまや見敵必殺の銃剣をひっさげ、積年忍苦の精進研讃をあげて、ことごとくこの栄光ある重任に捧げ、挺身をもって頑敵を撃滅せん。生等もとより生還を期さず」
うみいくばが斉唱され、壮行会は終わる。
-ヴォルケンクラッツァー2-
「まさか、歴史を繰り返す羽目になるとは。」
「一体誰が光栄あるあんな壮行会を考えたの?」
隣にヴォルケ2が悲しい目で斉藤に話しかける。彼女自身も、いくら兵器と言えど良心を持っている。学生が戦場に行くほどの国家総力戦を戦っているなんて感じてもいなかった。
「史実では戦局の悪化によって学徒出陣を行っている。」
「でも、」
「分かっている。何処かで、歴史を元に戻そうとした力が働いたんだと思う。しかし、歴史は絶対に変えてやる。あの様な悲劇の終戦を迎えての国にしたくは無い。」
斉藤はより一層、早期終戦を願った。
-連合艦隊泊地 パラオ 秋島 会議室-
「それで、斉藤君から連絡があったと。」
「はい。彼は予想以上に驚いており、米内大将にも学徒出陣の壮行会があった事実を確認しました。」
秋島は連合艦隊の主力空母と戦艦の艦魂、山本五十六大将に内地からの報告を伝える。
「彼の言う悲劇の歴史の1ページを開けた感じだな。」
山本は溜め息をついて椅子に深く腰掛ける。
「司令、このままでは彼の歴史を繰り返す羽目になります。」
「分かっている大和。しかし、繰り返された歴史。彼の言うミッドウェー海戦でも4分の1は実際の通りに進んだのだ。赤城の戦没という悲劇をな。」
山本は同型艦の天城を見る。史実では関東大震災で竜骨が折れ、廃艦が決定した天城で、後に雲龍型の2番艦に付けられた名だが、黎明島のドックで赤城の2番目の艦を造り、天城と命名された。その天城の艦魂が赤城そっくりなのだ。
「歴史が修正しようというなら、我々がそれに抗ってみようではないか。彼の言う繰り返したく歴史の大きな2つ、特攻隊の編成と原子爆弾。」
「研究所は破壊しましたが、何処かで造っている情報を情報機関Gが掴んでおり、現在調査中です。」
秋島は内地からの情報を伝える。
「それと、斉藤中将から追加の報告で、VT信管対策が完了したそうです。艦上機の転換訓練も終え、陸上機も続々とマリアナ諸島に配備されているそうです。」
「そうか。それにまあ良い知らせだな。」
「敵の潜水艦の方はどうなのだ?敵が潜水艦によって通商破壊戦を始めたという見方もされているが。」
「今のところ大きな損害はありません。私達は対潜哨戒と船団護衛を重点的に行っておりますので、今後も損害は出ないかと思われます。」
「そうか。」
金剛の質問に秋島は答える。
「すまない、私はこれで失礼させて貰うよ。」
そう言って、山本は長官室へと戻った。