-ウォルケンクラッツァー2-
「まだか?」
斉藤はドレッドノートとノーチラスの位置を確認する。
「はい。目標まであと30秒って所です。」
「急いでくれ。」
そこへ、窓から外を見ていたヴォルケ2が来て
「斉藤さん、焦らないで。もう少しだから。」
「分かってる。しかし、早くしないと撃たれる。」
-ルフトシュピーゲルング-
「義妹達(いもうとたち)も、ここでお別れか。会って直ぐお別れとは、悲しいものだな。」
艦橋では、艦魂の『ルフトシュピーゲルング(以下、艦魂としての表記はルフト)』が特別戦隊の超兵器群を眺める。
「戦争とは皮肉だな。自分の義妹達を私が葬るのだから。」
涙は流さない。兵器として、例え肉親でも敵ならば倒すのが戦場では当たり前だった。
(こんな形で会い、こんな形でお別れとは。)
そこへ、総司令のニミッツの許に伝令兵が来た。
「提督、敵からは何の返信もありません。」
「そうか。許せよ、憧れの東郷の子孫たち。」
東郷平八郎。日露戦争で大勝利した日本海海戦(海外では対馬沖海戦と言う)にてロシア・バルト海艦隊を再編したバルチック艦隊を撃滅し、一躍世界にその名を轟かせた日本海軍の名将。当時、各国の多くの海軍を志していた者の憧れの対象になった。ニミッツも、1905年に戦艦『オハイオ』に配属され、マニラに向かう際に日本にも来た。その際に東郷と10分間だけだが会話をし、彼に感銘を受け、尊敬を続けていた。
「発射用意。」
-ヴォルケンクラッツァー2-
「敵、エネルギー充填中!!」
「位置は?」
「到達しました。」
「直ぐに浮上させて攻撃させろ、急げ!!」
-ドレッドノート-
「攻撃命令受信しました。」
「緊急浮上!!」
艦長は急いで浮上させ、射撃体勢を取る。
「敵潜水艦、本艦の両舷に出現しました!!。」
「主砲は?」
「今から旋回させたのでは間に合いません。」
そこへ、挟撃したドレッドノートとノーチラスの主砲が放たれた。主砲は、寸分違わずに波動砲の砲身に命中し、溜まっていたエネルギーは行き場を失って、暴走を始めた。
「こ、こんな事って?」
腹から血を出し、床に座り込んだルフトは言った。
「充填していたエネルギーが暴走を始めました。相当危険状態です!!。」
「機関室より、暴走したエネルギーが逆流して機関が不安定だとの報告。」
「一部の部屋で停電が発生!!」
次々と被害報告が齎され、ルフトシュピーゲルングは戦闘能力の損失を意味していた。
「まさか、潜水艦に遣られるとは。」
警報が鳴り響き、総員退艦の指示が出始める。
「提督、そろそろ避難しなくては。ここも、危険です。」
参謀等は避難を促すが、ニミッツは首を横に振った。
「君たちは避難したまえ。」
「提督、まさか。」
「そうだ。君たちは避難したまえ。」
「では、何か形見を。」
ニミッツは、被っている帽子を参謀に渡した。
「では、達者でな。」
ニミッツは長官室へと篭った。参謀等は敬礼をし、退艦が始まった艦後部に向かった。
-ヴォルケンクラッツァー2-
「斉藤さん、私はあの艦に行きたいです。」
「分かってるよ。艦長!!。」
「はい?」
「指揮を暫く頼む。私は自室へ少しの間戻るから、その間の指示を頼む。」
「了解しました。」
斉藤はヴォルケ2と一緒に艦橋を離れ、一階したの長官室へと入った。
「鍵は掛けましたか?」
「ああ。」
念のために扉に鍵を掛ける。
「では、行きますよ。」
そう言い、ヴォルケ2は斉藤を連れてテレポートした。
-ルフトシュピーゲルング-
「酷いな。」
窓からは炎上している波動砲の砲身が伺えた。
「まだ、戦闘能力を有している筈なのに。」
波動砲は遣られているが、主砲はまだ撃つ事が可能なように見える。
「無駄よ。もう、この艦には司令長官しか居ないから。」
突然、声がしたので振り返ると、壊れた鉄骨を杖代わりに立つ艦魂のルフトが居た。
「司令長官?司令長官って誰?」
「ニミッツ、貴方なら知ってるでしょう?」
「太平洋艦隊司令長官のニミッツかよ。」
「そうよ。」
「それよりも姉さま、傷は?」
「私自身の傷は大丈夫だけど、艦は駄目ね。波動砲のエネルギーが逆流して不安定なの。今この瞬間にも爆発の危険が迫っているわ。」
「急がなきゃ不味いな。それで、どうして私の事を知っている?君とは、初めて会う筈だが。」
「私はヨグ=ソトースと会っている。奴に貴方の事を聞いた。」
「なるほど。」
「ヨグ=ソトースって?」
「クトゥルフ神話の神だ。時間と空間を司る旧支配者の。」
ヴォルケ2は頷いた。地球の歴史に詳しいとは思えないが、とりあえず理解は出来たようだ。
「それで、ニミッツ提督は何処に?」
「長官室だ。ここの直ぐの隣の。」
「分かった。ありがとう。」
斉藤は急いで長官室へと向かった。ヴォルケ2はルフトとまだ会話を続けたいと言ったのでおいて行った。
-長官室-
「提督、いいですか?」
「誰だか知らんが、退艦命令は出ている筈だぞ。」
扉を開け、斉藤は中に入った。
「提督、私は貴方とは命令系統が違いますのでその命令に受けられません。」
ニミッツが驚いたように振り向く。
「に、日本の提督が何故?」
「今は日本とかそう言うのは関係無しに、貴方にお願いがあって来ました。」
「何!?」
「姉さま、どうしてこっちの世界に来たんですか?」
「さっきも言ったとおり、ヨグ=ソトースによって此方の世界に来た。お前たちも奴によって此方の世界に来たのだ。」
「私たちも?」
「そうだ。奴が何を企んでいたのか知らんが、恐らくはゲーム感覚で楽しんだだけだろう。」
「それで、私たちをこの世界に?」
「ああ。そして、完成した私も此方の世界に送られた。この海戦にはアメリカ側として参加し、結果はお前たちの知るとおりに戦艦一隻を沈めただけ。皮肉だな、超兵器なのに、たった一隻しか軍艦を沈められなかったなんて。」
「姉さま、姉さまは立派です。たった一隻で私たちに挑もうとしたのですから。私は斉藤さんに撤退を促して救おうと思ったんですが、此方も負けられない理由があるのだと斉藤さんに教えられました。」
「お前も、弱くなったな。戦場で感情に流されるとは、兵器、失格だな。」
ルフトの意識が遠のき始めた。
「姉さま!!」
「良いものだな、妹に、最後を看て死ねるのは。」
「姉さま、死んじゃ駄目。」
「もういいのだ。短い人生だったが、その短い人生の中で、自分が、生きた証を残す事が出来たのだ。」
「え?」
「私は、最終決戦兵器。名はタイタン。これが、私の生きた証だ。」
「ど、どういう事ですか?」
「この世に、生をもらい、初めから決められていた名以外を貰えたと言う事だ。短い人生だったから、一日、一日が今でも思い出す。ヴィルキアで戦争に熱狂的になってしまった国民と軍。こちらの共産主義打倒に燃えるアメリカ。色々な、人を見て思った。何処の世界でも、完璧だと思われているものも、実は脆く、切ないものなのだと言う事を思い知らされたよ。私の船体のように。」
それを最後に、がっくりと倒れた。
「そ、そんな。」
もう、起き上がってくる気配は無い。ヴォルケ2はゆっくり立ち上がり、ルフトを綺麗に寝かしてやった。
「お休み、姉さま。また、会えると、いいね。」
ヴォルケ2の目から涙が溢れてくる。実質的に会うのはこれが初めてなのに、昔会ったような感じが襲ってくる。
「姉さま、姉さま。もう一度、もう一度会いたい。」
だが、その願いは空しい。ルフトは全く動かず、声は艦橋内を響くだけだった。
「そろそろ、脱出しないと。もうじき、船体が爆発を起こす。」
急いで、ヴォルケ2は長官室へと向かった。
「本当に、君は未来から来た人なんだね。」
ニミッツに自分の正体を明かし、その上で、世間に口止めするようお願いした。
「この後、ドイツでクーデターが発生し、それに呼応する形で日本はソ連を爆撃してスターリンを殺し、トロツキー氏を主導とする新生ロシア国家を建国します。そして、この戦争の始まりとも言える満州国は戦後、独立国としてユダヤ人国家へとなります。既に、中国首相の毛沢東との密約でそれは確立されており、反対意見は通りません。」
「そして、君の言う戦後に世界政府を造って国際問題の解決を促していく。しかも、その造る場所がハワイとは。」
「はい、アメリカを抑える為にも貴方の働きが必要なんです。日本人が何をしたいのか、貴方の口からも世界に伝えてもらいたい。」
「分かった。君の言う戦後。私も見てみたくなった。」
「感謝します、提督。」
そこへ、ヴォルケ2が走りこんできた。
「斉藤さん、そろそろ脱出しないと不味いです。」
「分かった、頼む。」
「い、一体何なんだね?」
「提督、失礼しますよ。」
ニミッツの目に布を巻き、目隠しをした。それを確認したヴォルケ2は自艦の長官室へと瞬間移動した。
-ヴォルケンクラッツァー2-
「すみません。」
ニミッツの目隠しを外し、事の説明をする。
「艦魂?」
「ええ、彼女の力で我々は助かりました。」
「不思議な力もあるものだな。」
瞬間移動などのSFのジャンルがあまり確立できないため、艦魂についての説明は最小限に留めた。
「では、暫くここに居てもらいます。本艦隊はここから撤退するので。」
「分かった。」
斉藤は長官室から出て
「艦長、我々の戦闘は終わった。日本へ向けて進路をとれ。」
「了解しました。」
特別戦隊は反転をし、日本目指して離脱を開始した。他の艦隊も、少しずつ離脱を始めていった。