異次元からの贈り物   作:橘花

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真の敵 後編

飛び立った全9800機の富嶽は梯団を組んで第一目標のウラル工業地帯目指して飛行を開始した。そこに被害を出し、兵器生産を大幅に遅らせるのが目的だった。そして、モスクワを無差別爆撃し、灰塵に変えてスターリンを殺すのが目的だった。

 

「機長、順調に飛行すればあと3時間ほどでウラル工業地帯ですよ。」

 

航法士が目標到達までの大よその時間を伝えてくる。

 

「了解した。各機、周囲の警戒を怠るな。」

 

勿論、爆撃隊の中には羽島と風龍も一緒に飛行している。既に、日ソ不可侵条約は破棄しているので、迎撃機が上がってくることだってあり得るのだ。

 

「空は驚くほど澄んでいますね。」

 

高度1万5000m。極寒の中を飛行している爆撃隊は、これまで見たことが無いほど澄んだ空を見ている。気温は、100m上がるごとに0.6度下がると言われている。なので、単純計算で地上よりも90度低いことになる。

 

「着陸地点は絶望的だろう。独逸は革命の混乱で着陸できる場所は無い。唯一の望みは、イギリスか。」

 

編隊5号機にはハルゼーとニミッツが乗っているし、6号機にはフィリップスも乗っている。説得することが出来れば、イギリスに着陸することが可能だが、可能性は絶望的だった。

 

 

 

「目標視認。」

 

誤差はあったが、おおよそ3時間でウラル工業地帯を目標に捉えることに成功した。

 

「爆弾倉解放。投弾用意。」

 

富嶽の爆弾倉が開き、爆撃手は光学照準儀を覗き込む。爆撃高度は1万2000m。風はないが、富嶽の装備する光学照準儀でも全弾命中は難しいだろう。

 

「左2度修正、速度良し。」

 

爆撃手は慎重に照準を合わせる。

 

「よーい、投下!!」

 

富嶽から爆弾約3トン分が切り離され、眼下の工場地帯に重力に任せての自由落下していく。

 

 

 

「敵爆撃機来襲!!敵爆撃機来襲!!」

 

地上では、ようやく警報が鳴り、作業中人間は大慌てで逃げて行く。

 

「日本の超重爆撃機、高度約1万メートルより投弾開始。」

 

前回と違い、今度は国際法に従って日の丸を付けている。そして、投下された爆弾は次々と工場を破壊し、生産ラインはストップしてしまった。

 

 

 

 

「目標に命中を確認。炎上中。」

 

富嶽から炎上している工業地帯を視認できる。戦車や航空機はこれで当分の間生産することは不可能だろう。だが、それは終戦が近いので関係ない。

 

「残りは全弾モスクワに投下する。」

 

「機長、敵機が上ってきますが。」

 

「心配ない、高度1万5000メートルまで上昇できる戦闘機はソ連には無い。」

 

その通りだった。戦闘機は高度1万メートルに達するギリギリで引き返し始める。迎撃は不可能だと見たのだろう。

 

「編隊5号機より、大英帝国のラジオを傍受したとの報告です。」

 

「何!?」

 

 

―2時間前の大英帝国―

 

「しゅ、首相。突然、日本人と名乗る者が閣下に面会を求めています。」

 

「な、なんだと!?」

 

戦時下で敵対国に単身やって来た人間がいたのだ。

 

「何と言っているのだ?」

 

「はい、何でもムッソリーニやヒトラーを殺したと言っているのです。」

 

チャーチルは考えた。同盟関係を考慮して日本ではムッソリーニやヒトラーの死亡が公にされていない筈であった。だから、知っているのは殺した本人か、政治関係の重要人物だと考えるのが妥当だろう。

 

「分かった。面会を受け入れよう。但し、彼を軍師としてだ。」

 

 

チャーチルは日本人を待たしている執務室に入った。そこに居たのは

 

「初めまして。いえ、一度海相の時に顔だけは見ていますかな。覚えているいないは別として。」

 

亀井だった。ヒトラーを暗殺し、フランスからイギリスへ大胆にも真昼間にドーバーを越えて来たのだ。

 

「まあ、話の前にこれをお見せします。」

 

そう言って、チャーチルに何枚かの資料を渡す。中に入っていたのは。

 

「こ、これはユダヤ人処刑の命令書。しかも、サイン主はヒトラーでは無く、スターリン。」

 

そして、他にも戦後のヨーロッパ赤化計画。核による国外武力進出計画。その他、独逸における作戦指導案など、どれもスターリンの公サイン入りの文書だった。

 

「これを見て分かる通り、大英帝国にとっても真の敵は独逸ではなくソ連です。」

 

亀井はチャーチルに示した証拠を突きつける。チャーチル自身も、これはデタラメだと言うのは簡単だった。しかし、そうしないのはソ連への疑惑を抱いているからだろう。

 

「貴方には罪はありません。全て、スターリンが裏で仕組んでいたのですから。連合軍側に入ったのは、恐らくは勝利と計画実行の為でしょう。恐らく、この戦争は連合軍の勝利で終わる。そして、戦後での発言力を高くし、計画を実行しても誰も文句を言えないようにすればいいのだから。」

 

「こんな資料を持っているということは、日本は気づいているのだな。この戦争が何故起こったのかも。」

 

「はい。第一大戦後、ベルサイユ条約で莫大な賠償金を課せられた独逸。しかし、戦争に負けた独逸にそんな額を支払う力がある筈がない。そして、その後に起こったルール占領や世界恐慌でドイツ経済は破綻。貧困のどん底に一気に叩き落された。」

 

「それが、ヒトラーを伸し上がらせた原因だよ。もっと、早く気付くべきだった。もっと早く、独逸の賠償金の支払い義務を無くせば、こんな、戦争は起こらなかった。」

 

「しかし、それを裏で仕組んだ者がいます。この、戦争。前大戦があった時点で回避できなかったでしょう。前大戦で勝利すれば発言力を高くすることが出来る。そう感じてしまった国があるのです。アメリカと言う国が。」

 

亀井はもう一枚の紙をチャーチルに渡した。

 

「これは、アメリカ政府が国務長官に出した対日参戦を促す命令書です。交渉を引き伸ばし、日本が戦端を開くのを待ち続けたのです。貴方も、アメリカの参戦がどうしても必要だった。だから、この作戦を支持した。」

 

亀井は拳銃を抜き

 

「本来なら、貴方をここで射殺する必要もあるでしょう。しかし、私は別の目的でここに来たのです。今、ソ連のスターリンを殺すために爆撃機が飛行しています。その爆撃機の着陸場所を提供していただきたい。」

 

「ドイツではダメなのか?」

 

「ドイツは現在革命が起こって政情不安定です。直に講和宣言をしますが。それに、富嶽を着陸させるということはあなた方にとって重要人物を助けることになるんですよ。フィリップスとハルゼー。それにニミッツです。」

 

「な、本当か!?。」

 

「はい。」

 

「着陸場所は北部が良かろう。住民たちも少ないから人目も少ない。何とか、そこに着陸できるように取り計らおう。」

 

「感謝します。」

 

 

 

「と言う訳で、着陸場所はイギリス北部。」

 

「まあ、着陸場所が見つけられたんだ。見えて来たぞ。」

 

モスクワが見えてきた。富嶽は爆撃体制に移行し、爆弾倉を解放する。

 

「今度は思う存分投下できるぞ。持ってきた爆弾全て投下してやる。」

 

 

「だ、大元帥同士。大英帝国が我が国に宣戦布告しました。そして、日本は大英帝国を支持する模様です。」

 

「何故だ!!一体何時、何時日本軍は連合軍になったんだ!?」

 

爆撃は激しさを増し、総勢9800機の爆撃機と500機の羽島の砲撃がモスクワを襲う。地上にある物は次々に破壊され、灰に変わっていく。

 

「大元帥同士。ここは危険です。至急、避難を。」

 

しかし、クレムリンに爆弾が命中して崩落する。スターリンは、この3日後に遺体として発見されるのだった。

 

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