―バルセロナ―
港には各国の艦艇が停泊している。中国は日本が付与した水上機型富嶽に乗って使節団が派遣されてきた。ソ連やドイツなどは陸続きなので列車や自動車などでスペインまで来た。
「ここが、講和会議開催場所のリセウ大劇場。」
斉藤は歴史あるスペインの街並みに驚かされる。天才建築家、アントニ・ガウディの設計した建築物の幾つかはまだ出来ていない。だからこそ歴史の新鮮さを感じる。
中では、各国の首脳が講和前の微調整をしている。いろいろと他国へ条件を突きつけるのだ。事前準備を確りとしておかないと不味い。しかし、この講和。必ずしも平等とは言い難かった。連合軍は不利な状況下での講和なのだ。条件が通るのは正直難しい。
「史実では日本を含む枢軸国は一方的な条件を突きつけられたんだ。」
実際、日本は無条件降伏となっているが実は条件降伏と言っても間違いではない。なぜなら、戦後大勢の人間が身に覚えのない罪で殺されていったのだ。諸説によるが、サンフランシスコ平和条約調印までに1000人以上が身に覚えのない戦争犯罪で処刑されている。
「この戦争。講和で終結したんだ。史実のような集団リンチも無い。日本だけが全て悪いのではなかったのだよ。」
戦後の戦争裁判は連合国の一方的な裁判だった。日本の言い分は一切聞かず、裁判に被告として呼ばれた者のほぼ全てが有罪判決を下されている。特にオランダは酷かった。連合国の中で一番多くの日本人に死刑宣告を下したのだ。原因は、敗北にある。僅か10日間しか戦えず、無残に負けて行ったオランダは日本を許すことが出来ず、裁判でその恨みを晴らしたのだ。
「まあ、あとは米内さん等講和使節団に任せておけばよかろう。こちらも、やっておかねばならないしな。」
そう言って、斉藤はバルセロナを離れ、亀井との合流地点としているパリへと向かった。
「本会議で日本が要求することは、朝鮮の統治と大東亜共栄圏の確立です。朝鮮は勿論自治権などを与えますが、朝鮮半島も日本の領土と言うことにしてもらいたい。そして、満州国。ここは、毛沢東との密約で既にユダヤ人国家『エルサレム共和国』が建国されました。独逸の強制収容所に入れられていたユダヤ人全員が日本経由でエルサレム共和国に入国しているのも事実です。」
米内は近衛内閣より一切の譲歩も許さないと厳命されていた。一度でも譲歩すると際限なく譲歩しなくてはならなくなる。今の日本が正にそれだった。
「異議あり、何故に朝鮮半島を日本の領土にせねばならぬのか?それでは戦前と同様ではないか。」
「あなた方の帝国主義と違い、我が国は朝鮮での教育も確りと行っております。否定するなら、教育を確りと行ってから言って頂きたい。」
実際、その通りだった。欧米の白人はアジアやアフリカの植民地に一切の教育を与えなかった。自分たちよりも劣る人間なんかに教育など必要ないと考えていたからだ。しかし、日本は日本語教育だが一応教育を与えていた。その点は評価すべきだろう。
「ここは講和の場です。その様な領土問題など現地住民の意見無しに決められない。ここは一先ず置いておいて頂きたい。」
中国、独逸、ソ連にはあらかじめ事前に伝えておいたから反論はされなかった。ソ連はその見返りに南樺太を返上する計画の為に日本の話に乗ったのだ。
「日本のお蔭で列強国の植民地は全て解放されてしまった。おまけに教育を与えて独立意識を高められてしまい、既に再植民地化など出来やしない。これはどうしてくれるのか?」
「あなた方の無謀な圧政に苦しめられていたのです。現地住民は欧米への反乱感情が高まっていました。そんな中であなた方を我が国は追い出し、教育を与えて独立意識を高めたのです。戦後、それらの国は我が国の保護国となります。」
日本も多少なりとも朝鮮へ圧政を行ったが、斉藤がこの世界に来て朝鮮総督官を朝鮮人にし、下の者に日本人を配置して早期から自治政策を取らせていた。だから、反日感情など一切上がってこなかったのだ。むしろ、統治を要請する文書まで届けられている。
「会議はこれでは進みません。まあ、日本の言う事も尤もです。朝鮮半島は、日本の属国化ということにしましょう。」
結局、日本の狙い通りに朝鮮半島は日本の領土と言う事になった。これで、計画の一つが実行可能になった。
「では、今日の会議はここまでとしましょう。」
今日は日本の有利な条件での内容で会議が打ち切られた。そして、日本は各国を納得させ、自国も豊かにすることが出来るカードをまだ出さなかった。復興支援というカードを。