双海真美「ふたりぼっち」   作:葵屋

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前編

 生まれたときから真美と亜美はいつも一緒でした。好きな小物も、嫌いな食べ物も、気になる男の子も、全部全部、真美と亜美は同じでした。一卵性双生児の真美と亜美は、顔も、身長も体重も、体型も全部同じで、よく見ても見分けがつかないほどに、鏡写しのようにお互いそっくりでした。

 学校のクラスだけは違いました。双子は同じクラスにはなれないのです。それでも友達は同じでした。得意な科目も、通信簿の成績も同じでした。真美と亜美は二人でしたが、一人でもありました。そしてそれは、二人にとっては当然のことで、誇りでもありました。

 真美は亜美のお姉ちゃんです。亜美は真美の妹です。それでもあんまり一緒にいるので、パパもママも、どっちが真美でどっちが亜美なのか、わからなくなってしまいました。パパもママも友達も先生も、みんなみんなわからなくなってしまったので、真美も亜美も、どっちが真美でどっちが亜美なのか、わからなくなってしまいました。

 自分でもわからなくなってしまったので、ある日、自分たちで決めてしまうことにしました。そして、目印も付けるようにしました。

「じゃあわたしは真美になる」

「じゃあわたしは亜美になる」

「真美は今日から自分のことを真美って言うよ」

「亜美は今日から自分のことを亜美って言うよ」

 左で髪を結うのが真美。右で髪を結うのが亜美。そうすれば、一目で真美と亜美がわかります。

 真美にとっても亜美にとっても、自分がどっちであるかは大した問題ではありませんでした。けれど、二人で一人であるためには、二人が一人になるわけにはいきませんでした。重要なのは二人が一緒にいることで、一緒になることではありません。それでも、二人が「真美と亜美」であるならば、どっちがどっちかということは、二人にとって意味のないことでした。ただ、「真美」と「亜美」のふたりがそこにいるならば、それでもう十分でした。少なくとも、真美にとっては。

 何でも一緒とは言いましたが、全てが同一というわけではありませんでした。いえ、はじめは同一だったものに、すこしずつ、ほんのすこしずつ不純物が混じるようになっていきました。真美よりちょっとだけ好奇心が強い亜美。亜美よりちょっとだけ我慢強い真美。友達にはわかりません。パパとママだって気づかないでしょう。それでも、真美にとってその不純物は到底受け入れられないものでした。

 なので真美は不純物を取り除くことにしました。真美と亜美は、好きな小物も、嫌いな食べ物も、気になる男の子も、全部全部、同じなのですから。だから、たまに、本当にごくまれに、真美の気持ちとはほんのちょっぴり違うことをしても、そんなことは些細なことでした。だって、真美は亜美のお姉ちゃんで、亜美よりもほんのちょっとだけ我慢強いのですから。

 

   §

 

 アイドルになりたい。そう言い出したのは亜美の方からでした。真美も目立つことは好きなので賛成でした。なのでママに相談すると、快く応援してくれました。パパはちょっと不安だったようですけれど、ママが説得してくれました。ママも真美と亜美と同じで、目立つことが大好きなのです。

 さっそくいろんな芸能事務所を探してみると、胡散臭いものからテレビで名前を聞くようなところまで、実にいろんなところが見つかりました。真美と亜美はもちろん、パパもママも、どこの事務所がいいのかよくわからなかったので、直感で選ぶことにしました。そうして選ばれたのが765プロダクションです。知ってる芸能人なんていない、むしろ本当に機能してるのかもわからないような事務所でしたが、亜美は直感を信じることにしました。もちろん真美もです。

 オーディションなどが定期的に行われているわけではないようなので、ママが直接電話で応募すると、なんと社長自ら会いたいと言われました。なので次の週末に会いに行くことにしました。パパはお仕事が忙しいので、亜美と真美と、ママが一緒に行くことにしました。

 繁華街を抜けたところの雑居ビル。果たして本当にこんなところに芸能事務所なんてあるんだろうか。そう思っていましたが、道路に面したガラス窓に大きく「765」とテープが貼られているのを見て、安心するのと同時に不安でいっぱいになりました。それでも訪ねてみると、中は思ったよりも綺麗で、少なくとも事務所として機能はしているようでした。

 応接間に通されると、すでに社長が待っていました。不思議と真っ黒い輪郭しか印象に残らない人です。そんな真っ黒い社長が挨拶もそこそこに切り出したのは、衝撃の言葉でした。

「真美さんも亜美さんも、どちらも素晴らしい逸材だ。一目見てティンときた。けれど残念ながら、私の事務所はこの通り、あまり知名度があるとは言えなくてね。どちらか一人しか契約することができないんだよ」

 真美も亜美もアイドルをやりたい気持ちは同じでした。けれど、「アイドルになれない」という思いよりも先に、真美と亜美が離ればなれになることの方が不安でした。かといってせっかくアイドルになれるチャンスを不意にしたくはありません。だから真美は考えました。いっぱいいっぱい考えて、とうとうひらめきました。

「じゃあ真美が亜美になるよ」

 みんなのいぶかしげな視線を受けて、真美は続けます。

「『双海亜美』に、真美と亜美の二人がなればいいっしょ。二人一役っていうの? そうすれば、社長は一人分のおきゅーりょーでいーし、真美も亜美も、どっちもアイドルできるもんね」

 ね、名案でしょ? にっこり笑う真美に、亜美はきらきらと目を輝かせて、社長は苦笑いしていました。ママはちょっと苦い顔をしていましたが、真美が説得すると、しぶしぶその条件で契約することにしました。

 アイドルの名前に亜美を選んだことに、特に理由はありません。ただ、最初にアイドルになりたいと言い出したのが亜美で、真美が亜美のお姉ちゃんで、亜美よりもほんのちょっとだけ我慢強いからでした。たったそれだけです。だって、本当は真美が「亜美」だったのかもしれないのですから。二人にとってはどっちがどっちかなんて、本当にどうでもいいのです。亜美にとっても、真美にとっても。

 それから二人はアイドルとしての活動を始めました。どっちかがお仕事に言ってるときはレッスンに行って、学校で勉強して、夜はお互いに一日の内容をすり合わせます。真美と亜美は二人で一人の人間《アイドル》「双海亜美」になっていたのです。

 一度だけ、真美は亜美に聞かれました。

「真美はさ、なんで『双海亜美』をやろうと思ったの?」

「んー? どーゆーことさ」

「だってさ、真美は亜美の姉ちゃんなわけだし、ふつーこーゆーのって姉ちゃんの名前じゃん」

「まーねー」

「じゃあさ、なんで?」

「だってさ、亜美が言い出したんじゃんか。『アイドルになりたい』って」

「そりゃそーだけど」

「それになんかかっこいーじゃん! 真美が本当の『双海亜美』だったのだー! なんて展開」

「うあうあー! それじゃあ亜美は亜美の偽物ってことになるじゃんかー!」

「ふははははー! 真美こそが本物の『双海亜美』! 亜美は真美の影武者にすぎんのだよ!」

「なにをー!」

 真美は笑って誤魔化すしかありませんでした。だって、本当は真美も『双海真美』として活動したいなんて、亜美に言えるはずもありません。誤魔化して、気づかない振りして、亜美の代わりにちょっとだけアイドル活動を楽しんで。それで満足しなければ、真美には手段がないのですから。今さらアイドル『双海真美』なんて、誰も求めていないのですから。

 

   §

 

 実際のところ、真美は『双海亜美』でいること自体にはさほど不満はありませんでした。二人で一人の人間になると言うのは、念入りに二人のことをすり合わせる必要があり、この頃は特に多くなっていた不純物を取り除くのに、大いに役立っていました。けれどその反面、二人一緒にいられる時間は極端に短くなり、比例して一人だけで経験する事柄が多くなりました。不純物どころではない異物感でした。

 真美がアイドル『双海真美』になりたい理由もそこにありました。『双海真美』と『双海亜美』が双子としてユニットを組めば、一緒に同じお仕事ができます。一緒にいられる時間が増えます。そうすれば、いよいよ無視できなくなってきたこの異物感もなくなると思ったのです。

 一方で、『双海亜美』はお仕事も増えてきて、その知名度も大きくなってきました。それに伴って、だんだんと真美が『双海亜美』をやる機会が減っていき、亜美が一人で活動することが多くなってきました。元々無理のある方法だったのです。毎日のすり合わせも億劫になり、亜美が一人でアイドルになった方が楽なのは明らかでした。学校でも亜美がアイドルをっていることが広まり、真美がアイドル活動のために抜け出すのが難しくなったことも原因の一つです。

 それでも、その頃になると、以前の不況ぶりから見違えるようになった765プロは、新しくアイドルと契約する余裕も出てきました。プロデューサーも二人に増えました。なので、思い切って真美は社長にお願いすることにしました。どうか真美も一人のアイドルにしてください、と。

 果たして社長からは快諾されました。社長としても、双子とは言え、いつまでも真美に二人一役を強いるのは不憫でした。それでも真美がいいなら、と日和っていましたが、他ならぬ真美自身が相談にきてくれたのです。今までのことを謝ると同時に、是非『双海真美』としてがんばってくれ、と激励までとばしました。

 真美が一人のアイドルになれる。亜美はそれを純粋に喜びました。双海姉妹の伝説の幕開けだぜー!なんて二人で意気込んだりしていました。思えば、この頃が一番アイドルとして楽しかったかもしれません。

 

   §

 

 そうして真美は『双海真美』として改めてデビューすることになりました。デビューに伴って、真美にはプロデューサーがつくことになりました。眼鏡で冴えない、けれど誠実で一生懸命な男の人です。一緒にがんばろう、と右手を差し出してきたので、手首だけの模型で握手をして、途中で手が取れた演技をすると、彼は真美の想像以上に慌てて、心配してくれました。生真面目で冗談の通じない、けれど真美のことに真剣になってくれる人。真美はすぐにプロデューサーのことが好きになりました。

 真美の望みは亜美と二人で双子ユニットとして活動することです。けれど実のところ、すでに結構な知名度と人気を持つ亜美にとって、双子ユニットはむしろデメリットになる可能性の方が高いものでした。かといって真美と亜美が個人で活動したとしても、二人で仕事の奪い合いになってしまい、いいことはあまりありません。そこでプロデューサーは、真美をアイドルとしてではなくモデルとして活動させることにしました。

 当然真美は不服です。けれど、すでに亜美が売れている以上、真美がアイドルとして活動するのが難しいことは、自分でも十分に理解できました。日に日に一緒にいられる時間がなくなって、共有できる話題も少なくなっている今、たとえ一緒にアイドルとして働けなくても、せめて同じ事務所で芸能活動をしていなければ、真美と亜美はばらばらになってしまいます。

 そうして、亜美はアイドルとして、真美はモデルとして765プロダクションに所属することになりました。

 

   §

 

 そうこうしているうちに、765プロは所属アイドルも増え、ずいぶんと賑やかになりました。中学生や高校生が中心となって、それも女の子ばかりです。男性が社長とプロデューサーしかおらず、しかも社長は対外折衝などでほとんど社内にいないため、なんともかしましい様子を見せるようになりました。

 仲のいい子も何人かできました。そもそも十数人しかおらず、それも社訓として団結を取り上げている765プロでは、喧嘩なとが起きないように配慮されているため、みんな仲良しです。その中でも真美は、高校生の萩原雪歩や、もうひとりのプロデューサーである秋月律子と一緒に話すことが多く、二人もまた真美のことを可愛がってくれました。もちろん、一番は亜美と一緒にいることです。けれど、亜美の仲良しは、天海春香と三浦あずさでした。

 生まれたときから真美と亜美はいつも一緒でした。好きな小物も、嫌いな食べ物も、気になる男の子も、全部全部、真美と亜美は同じでした。けれど、今の真美と亜美は、職業も、性格も、仲の良い友達も、みんな違いました。

 真美と亜美は、もう、二人で一人ではなく、一人と一人でした。

 亜美はそれに、ずっと前から気づいていました。

 真美は、亜美よりも前から気づいていました。

 亜美はそれを受け入れました。

 真美はそれを認められませんでした。

 

   §

 

 竜宮小町。秋月律子がプロデュースする、新しいユニットです。メンバーは、水瀬伊織、三浦あずさ、そして双海亜美の三人です。竜宮小町はすぐに知名度が上がり、いつしか律子は竜宮小町のプロデュースに専念するようになっていました。なので、残りのアイドルたちは、もう一人のプロデューサーに、あるいは自分自身がプロデュースすることになりました。当然真美もプロデューサーに見てもらうことになりました。

 真美は、モデルの仕事をしているといっても、肩書きはアイドルです。社長にそうお願いをしていました。それは本当に名目だけで、現場ではジュニアモデルとしての扱いをされていましたし、雑誌にも真美がアイドルとして紹介されたことはありません。けれど、確かに真美はアイドルでした。

 今、テレビをつけると竜宮小町が映っています。亜美がテレビで歌って踊っています。真美はそれをテレビで見ているしかありません。そこに真美はいません。そこに映る亜美は一人です。けれど、亜美は楽しそうに笑っていました。

 

   §

 

「ねー兄ちゃん」

「んー? なんだ、真美」

「アイドルって、楽しそーだね」

「そうだな。楽しそうだ」

「ねー」

「ああ」

「亜美、お仕事楽しそうだった」

「あの子はいつも楽しそうだ」

「ねえ、兄ちゃん」

「なんだ、真美」

「真美、本当はアイドルになりたかったんだ」

「ああ。そうだよな」

「今からでも……ううん。ごめんね兄ちゃん、わがまま言って」

「……俺はプロデューサーだから、みんなのことを考えなきゃいけないんだ。なるべく要望は受け入れるようにしているけれど、みんなが売れるためには、やっぱりどこかしら無理をしてもらうことになる」

「うん」

「だから俺は、みんなのプロデュースに関して、絶対の自信を持ってないといけないんだ。だから、俺は真美に謝らないし、負い目に感じることもない」

「……」

「……一つだけ、俺が真美に言えることがあるとすれば」

「うん」

「俺は真美がモデルになったことに後悔なんてさせない。いつか泣いて俺に感謝するときがくるから、そのときを楽しみにしているといいさ」

「……ははっ、兄ちゃんも冗談が言えるようになったんだね」

「俺はいつだって真面目だよ。俺はいつだって、真美、きみのことを真剣に考えてる」

「……そっか。なら、泥船に乗った気分でがんばるよ」

「そこは大船に乗ってほしかったけど、まあいいか」

「世界中の兄ちゃん姉ちゃんに、真美のせくちーでぷりちーな姿をみせつけるためにも、馬車馬のごとく働けよ、兄ちゃん!」

「おう、任せとけ」

 

   §

 

 一卵性双生児の真美と亜美は、顔も、身長も体重も、体型も全部同じで、よく見ても見分けがつかないほどに、鏡写しのようにお互いそっくりでした。パパもママも、先生も友達も、いつしか自分たち自身すらも見分けがつかないくらい、いつもいつも、一緒にいました。

 双子も言うのは不思議です。何せ生まれる前から一緒にいるのですから、一緒にいるのが当たり前で、何も言わなくても相手の心がわかります。

 真美にとって、世界とは、真美と亜美と、それ以外でした。真美にとって、亜美の気持ちは真美の気持ちと同じで、言わなくてもわかるのが当たり前で、言われても心がわからない他人は理解できない存在でした。何も聞かなくても真美は亜美の気持ちが分かりましたし、何も言わなくても亜美は真美の気持ちを分かってくれました。亜美じゃない人と話すときは、相手が何を考えているのかわからなくて、不安で、こわくて、とてもおそろしいものでした。嫌われていないか。傷つけていないか。疎まれていないか。真美にはわかりませんでした。

 いたずらを仕掛けるのは、人の気持ちを知るために始めました。「これは大丈夫」「これはやりすぎ」「これはものたりない」そうやって確かめて、真美は安心していました。明朗な性格も、大仰な表現も、そうすれば他の人もわかりやすい反応を返してくれます。たとえ気持ちがわからなくても、推察することができます。そうして真美は生きてきました。そうしなければ真美は生きられませんでした。

 真美にとって、亜美以外は、理解できない生物でした。

 

   §

 

 竜宮小町がIA大賞にノミネートされました。残念ながら受賞はできませんでしたが、それでもアイドルとして一流の存在となったのは確かです。その頃になると、真美もモデルとしてそれなりに知名度が大きくなり、何度かテレビや雑誌で取り上げられるようになりました。

 いつしか『双海真美』と『双海亜美』が双子であることは周知の事実となっていました。隠していたわけではありませんから、知れ渡るのも当然です。もっとも、知名度としては亜美の方が圧倒的に上なので、真美は「あの『双海亜美』の双子の姉」というような扱いばかりでした。

 ある日、真美は亜美と競演することになりました。この業界に入ってからの念願が叶ったのです。バラエティ番組へゲストとして呼ばれた竜宮小町のおまけのような扱いでしたが、真美には十分でした。最近では忙しくてろくに亜美とお話しできなかったので、仕事とはいえ久しぶりにゆっくり亜美といられるだけで、真美には満足でした。

 知名度が上がってきたとは言え、真美はまだまだ有名人というほどではありません。テレビ局の楽屋だって、いろんな人と一緒に使う大部屋です。プロデューサーに連れられ、メイクと挨拶周りを終えると、すぐに竜宮小町の部屋へ遊びに行きました。

「やっほー! 遊びにきたよん!」

「おっ、真美じゃん! 久しぶりー!」

「久しぶりって……さっき一回挨拶にきたじゃない」

「あらあら、真美ちゃんいらっしゃい」

 竜宮小町は、芸歴こそ短いものの、今や日本でも有数のアイドルユニットです。当然、まだまだ知名度の低い真美のような大部屋ではなく、個室を与えられていました。本来は、同じ事務所であるものの、先輩後輩として芸歴も人気も知名度も格の違う竜宮小町の部屋に真美が遊びに来るのは失礼ですが、真美と亜美が双子であることや番組の趣旨、そして事務所の意向もあって、半ば黙認されるような形でここにいることを許されているのです。そのことは、プロデューサーからはそれとなく、テレビ局の職員からは直接的にいわれました。

「みんなはもう挨拶周りは終わったの?」

「んっふっふー。聞いて驚け、我ら竜宮小町はすでに挨拶をすませているのだー!」

「なっ、なんだってー!?」

「うふふ、実は真美ちゃんが最後だったのよ」

「なっ、なんだってー!?」

「まあ、リハーサルまでまだ少し時間もあるし、ゆっくりしていきなさいよ」

「なっ、なんだってー!?」

「もういいでしょそれは!」

「もー、いおりんは甲斐性なしですなー」

「意味わかんないし、強いて言うならこらえ性がないでしょうが!」

 三浦あずさはおっとりとして包容力のある、水瀬伊織は勝ち気で面倒見の良い性格のアイドルです。元気で天真爛漫な性格の亜美とのトリオは、こうしてみると、とてもバランスの良いものでした。

 はじめは真美も、どうして亜美が竜宮小町なのか、どうして真美じゃないのか、と思うこともありました。自分でもわかるくらいの嫉妬です。そもそも真美はアイドル活動をしていないのですから、選ばれるはずがありません。けれど、真美は三人のやりとりをみて、たとえ真美も亜美と同じくらいアイドルとして売れていたとしても、やっぱり竜宮小町には亜美がいただろうな、と思いました。それだけ竜宮小町の三人はバランスのいいユニットでした。そして、そんなことを認めてしまった自分を知って、真美はひどく動揺しました。

 その後、番組は無事成功に終わりました。四人とも特にミスもなく、ほどよくアピールできたでしょう。特に亜美は、竜宮小町に真美も加え、いつもに増して快活に話し、動き、とても楽しそうにしていました。そんな亜美をみて、真美もとても楽しくなりました。

 収録後、竜宮小町はすぐ移動することになりました。今をときめく売れっ子アイドルユニットなのですから、スケジュールもとても厳しいものになっています。名残惜しそうにして去っていく三人を見送ると、真美は家へと向かいます。三人と比べてまだまだ知名度の低い真美は、その日、もう仕事はありませんでした。

 一人になると、それまでずっと我慢していたものがあふれ出しました。ずっとずっと、それこそ765プロに所属する前から我慢してきたものが、今になって止められなくなってしまいました。真美は亜美よりちょっとだけ我慢強いお姉さんでしたが、それでもまだ一三歳で、何よりも子どもでした。

 それから一週間。真美は一切の連絡を絶ち、部屋に引きこもるようになりました。




起承転結の転まで。
以下チラシの裏に書くべき設定とその他諸々。略して裏設定。


・双子と仲いい人たち
 作者の好きなカップリングだよ言わせんな恥ずかしい。
 一応竜宮小町結成に向けた双海姉妹と周囲の関係やら心情に配慮した人選。主に真美が悲惨という点で。

・実際双子ってそんなに仲いいの?
 同じ環境、同じ食生活、同じ生活習慣で十年以上過ごすんだから価値観も似たようなものになるでしょ(偏見)。
 とある科学雑誌によると、十歳前後の双子はだいたい身体データの約97%が同一らしい。

・知名度がなくて一人しか雇えないっておかしくね?
 双子が二人一役する理由が思い浮かばなかった。何か良い案があれば教えてください。

・後編は?
 鋭意執筆中。後日気が向いたら投稿。

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