「たとえばもし、兄ちゃんが今火星のど真ん中にいて、周りには宇宙人しかいなかったとして、ねえ兄ちゃん、どうする?」
一週間ぶりに真美と会ったプロデューサーを迎えたのは、そんな質問でした。何をしていたんだ、心配したんだぞ。出かかっていた言葉を我慢して、プロデューサーはじっと真美を見つめます。
一週間閉じこもっていた真美の部屋(正確には真美と亜美の部屋ですが、亜美はこの一週間、真美に追い出されて客間で生活していました)は、厚手のカーテンが閉められ、電気もついておらず、まだ太陽も高いというのに真っ暗でした。真っ暗な部屋のなかで、真美は、女の子らしいベッドに、プロデューサーに背を向けて座っていました。
プロデューサーには、言うべき言葉も、聞きたい言葉も、たくさんあります。けれど、脈絡のないように思える真美のこの話が、とても大事なことであると直感しました。プロデューサーには、ただ真美の話を聞くことしかできませんでした。
「真美と亜美はさ、一卵性そーせーじで、そっくりの双子で、好きな小物も、嫌いな食べ物も、気になる男の子も、全部全部同じなんだよ。真美は亜美が何を考えてるのか、感じているのか、言わなくたって分かってたし、亜美もそうだった。
真美と亜美にとって、それは当たり前のことで、言葉にしないと何も伝えられないような人たちは、おんなじ形をしてるだけの化け物も当然だったんだぜ」
真美は笑っていました。とても楽しそうに、からからと快活に笑いながら語ってくれました。プロデューサーは、そんな真美をみて、きいて、とても悲しくなりました。
プロデューサーには仲のいい妹が一人います。学生時代には恋人だっていました。愛していると断言できます。けれど、自分のことのように感じることはできません。どれだけ仲がよくても、愛していても、しょせんは別の人間、他人でしかないのです。
けれど、真美と亜美は違いました。それが一卵性双生児だからなのか、真美と亜美だからなのかはわかりませんが、二人はただの他人ではなくて、完全に別の人間でもなかったのです。真美にとって不幸なのは、そんな二人の関係が特別なのではなく、それ以外の関係をひどくいびつで特異なものであると捉えてしまったことです。すべてをわかりあえる亜美がいたからこそ、真美は、それ以外の人間とのかかわり方を学び、知り、身につけることが難しかったのです。
「ねえ、兄ちゃん」
「なんだ、真美」
「真美ね、がんばったんだよ。だってさ、パパもママも何考えてるのかわかんないし、学校の友達なんて何言ってるのかわかんないし、765プロのみんなだって優しいけど、裏で真美のこと疎ましく思ってるかもしれないじゃん。
知らないのはこわい。でもさ、知るのはもっとこわいじゃん。亜美のことは何もしなくてもわかったけど、みんなのことは何をしてもわかんない。だからさ、真美はがんばってみんなのことを知ろうと思ったんだよ。
でもさ、それってさ、その努力ってさ、本当に信用できるの? 見ることも、聞くことも、触ることもできない心を、勝手に推察して、ねえ、それって当たってるの? 本当に、真美の思うとおりに考えてるの?
兄ちゃん。ねえ、兄ちゃん。兄ちゃんは今何を考えてるの。何を思って真美に会いに来たの。何でいつも真美に優しいの。何で真美はモデルなんてやってんの。何でアイドルじゃないの。ねえ、モデルに転向してまで事務所にずっといる真美のこと、本当はうざいとか思ってるんでしょ。ゆきぴょんもりっちゃんも竜宮小町のみんなも、アイドルになれない真美のこと、本当は笑ってるんでしょ」
ねえ、兄ちゃん。
「こわい。こわいよ兄ちゃん。誰も信じられない。ねえ兄ちゃん、亜美の心もわからなくなった真美は、いったい誰なら信じることが出来るの?」
いつしか真美の言葉は震え、湿っていました。それでも、真美は泣くことはありませんでした。かたくなにプロデューサーに背を向け、顔を見せず、肩も言葉も震えています。それでも真美は、涙は流しませんでした。
真美の不安は誰しもが一度は抱えるものです。人の心というものは、時には自分すら知り得ないものです。ましてや他人の心なんて、どれだけ言葉を重ねようと、思いを形に表そうと、結局最後は受け止める人の気持ち次第でしかありません。相手の言葉を、態度を信じるしかありません。
普通なら、最初から誰の心もわからない普通の人なら、自然とそうして妥協することが出来ます。けれど、たった一人、亜美の心だけでもすべてを理解することが出来ていた真美には、そんな妥協はとうてい許されるものではありませんでした。そして、その亜美の心すらもわからなくなってしまった真美は、唯一の心の拠り所を喪ってしまった真美には、折り合いをつけるのにとても時間が必要になるでしょう。その膨大な時間が、真美をとても苦しめ、限られた青春と若さを浪費し、悪影響を与えることでしょう。プロデューサーにとってそれは我慢の出来るものではありません。プロデューサーとして、一ファンとして、そして、一人の男として。
「真美」
プロデューサーはそっと背中越しに真美を抱きました。触れた瞬間、真美の肩が跳ねましたが、気にせず、優しく包み込むように、守るように、真美を抱きしめました。
何を言えばいいのかわかりませんでした。何を言ったところで、今の真美には信じられなかったでしょう。だからプロデューサーは、真美を抱き、ただ、真美の名前を何度も呼びました。人の温もりと柔らかさを伝えました。そんな行為がどれほど効果があるのかはわかりません。ただ、プロデューサーには、それしかする事が出来ませんでした。
けれど、そんな行為に、いつしか真美は声を上げて泣き、やがて疲れて眠っていました。
プロデューサーと向かい合って、安心したような顔をして、ずっとずっと、深く眠りました。
§
亜美にとって真美は、もう一人の自分のような存在でしたが、それと同じくらい「双子の姉」でした。考えなしで、我慢が足りない亜美は、けれどその分真美に我慢させていることに気づいていました。そして、それを真美が、いやだと思っていないことにも。
亜美は真美のことが好きです。真美がいなければ生きていけないと本気で思うくらいには、亜美は真美のことが好きでした。だって亜美は、真美がいるからこそ今まで生きてこられましたし、今だって好き勝手することが出来ます。だから亜美は真美のことが好きで、姉として尊敬していましたし、わかっていても真美に我慢させてしまう自分が嫌いでした。
亜美は自分が真美に依存していることがわかっていました。そんな自分がいやだから、いつまでも真美に頼ることのないように、他の人と関係を作ろうとしました。そんなときにきたのが竜宮小町の話でした。
アイドル稼業は思ったよりもずっとつらくて、いやな思いもいっぱいして、けれどこれまでのどんなことよりも楽しいものでした。だから、真美がアイドルではなくモデルとなると聞いたときも、モデル業の楽しさをいっぱい真美に教えてもらおうと楽しみにしていました。だって亜美は、アイドル活動が大好きで、その一環で行うモデル業も好きで、亜美が好きなものは真美も好きなのですから。
だから亜美は、真美が本当はアイドルをやりたいと思っていることも、モデル業をしかたなくやっていることも、亜美のことをどうしようもなく羨ましいと思っていることも、気づくことが出来ませんでした。そのころには、気づけるほどに真美のことをみることが出来なくなっていました。
亜美は真美に我慢させている自分が嫌いでした。そんな自分を変えようといろんなことに挑戦しました。でも、真美が部屋に引きこもったとき、そんな亜美の努力がまったくの無駄で、むしろ真美を追いつめていたことを知りました。
亜美がいつも真美を苦しめる。
亜美がアイドルをやると真美が苦しむ。
亜美がいなければ真美がアイドルをやれた。
亜美がアイドルを辞めれば真美は苦しまないで済む。
「だめよ」
客間で沈んでいた亜美は、その言葉に顔を上げました。水瀬伊織が、目の前で睨むように、腕を組んで仁王立ちしています。そばには秋月律子と三浦あずさもいます。なにしてんの、と亜美は小さくつぶやきました。秋月律子は呆れたように、三浦あずさは困ったように、ただ亜美のことを見つめます。
「亜美」
改めて水瀬伊織を見ると、やっぱり睨むようにしてこちらを見ていて、腕を組んで仁王立ちしています。端的に言って、とてもえらそうでした。竜宮小町のリーダーですから実際えらいのです。けれど、いつの間にか人の家に上がって部屋にきていた人間としては、とてもふてぶてしい態度でした。なのに、そんなことは全然気にならなくて、何でいるのとか、どうやって家に上がったのとか、そんな疑問もどうでもいいものでした。水瀬伊織の言葉だけが、今の亜美には重要でした。
「あんた、竜宮小町なのよ」
「うん」
「竜宮小町は私がリーダーなの。だから、私の許可なくして勝手なことは許さないわ」
「おーぼーだね」
「そうね。だから?」
「だから、って」
「いいこと、亜美。あんたはこのスーパーアイドル伊織ちゃんが率いる竜宮小町の一員なの。横暴でも、理不尽でも、途中で逃げ出すなんて真似、絶対にさせないわ」
水瀬伊織はいつも自信満々で、プライドが高くて、それに見合う努力をしてきた人です。けれど、彼女は決して人を軽視することはありませんでしたし、むしろとても面倒見のいい性格です。だから、どこか彼女らしくない言葉に、亜美は少し気持ちが楽になったような気がして、つい思っていたことがでてしまいました。
「真美がいるからへーきだって。亜美が抜けても何とかなるよ」
「ならないわ」
即答、そして断言しました。
「あんたの代わりに真美がきても、竜宮小町は機能しないわ。それは別のユニットよ。竜宮小町が求めているのは、私とあずさと律子がほしいのは、亜美、あんたなの。真美じゃないわ」
真美じゃあ、あんたの代わりにはなれない。そんな言葉に、亜美は涙がでそうになりました。
「でも亜美と真美は双子じゃん。顔も身体も、心も、キャラクターも、大して変わんないよ。むしろ真美の方が亜美よりもずっとすごいもん。亜美じゃなくても、竜宮小町じゃなくても、真美と一緒ならおんなじくらい、いやもっと売れるから──」
「──さっきからうるさいのよ!」
我慢ならないというように、亜美の言葉をさえぎり、水瀬伊織が怒鳴ります。
「さっきからぐちぐちうるさいのよあんたは!
私は亜美がほしいっていってんのよ! たとえ双子の姉でも、真美がどれだけすごくても、あんた以外はいらないの! いいから黙って私についてきなさいこの馬鹿!」
亜美はずっと真美に罪悪感を覚えていました。だって亜美と真美は元々は同じ人間だったのです。それなのに、いつの間にか二人の心は分離し、真美ばかりに無理をさせるようになり、亜美はその事実にくるしむことになりました。二人で一人だったはずなのに、気づけば違うことばかりするようになり、顔を合わせることすら極端に減っていました。それはとてもつらくて、くるしくて、かなしくて。いつしか二人は、そんなものばかりを共有するようになっていました。
「私には、あんたがなに考えてるかなんて全然わかんないけど。それでも、さみしいときに一緒にいるくらいのことはできるわ。やなことがあるなら一緒に泣くし、理不尽な目にあえば一緒に怒る。律子もあずさも、いえ、765プロのみんなが同じ。
人と人なんて、全部わからなくてもいいのよ。大事なことだけ信じられればいいの。だってそれが仲間ってものでしょう。だからいい加減真美にばかり頼るのをやめなさい。姉離れしなさいよ、このばか」
伊織の言葉は亜美にとってとても厳しいものでした。心のいちばん痛いところを突く言葉でした。でもその言葉が何よりも優しいことを、亜美はきちんと理解していました。
亜美はもう、真美と同じにはなれない。二人で一人にはなれない。一人と一人にしか、亜美と真美にしかなれない。
亜美はいつしか泣いていました。真美と別の人間になってしまったことが、嬉しくて悲しくて、大きな声を上げて泣いていました。
それはどこか産声のような泣き声でした。
それは奇しくも、真美が泣くのと同じ瞬間でした。
§
真美が芸能活動を再開したのは、それから一週間が経ってからでした。とはいっても、正式に活動を休止していたわけではありませんので、急きょキャンセルしてしまった仕事の関係者たちへと謝罪して回り、新たに仕事を手に入れるのに一週間かかったのです。信用が第一のこの世界で、こんだけ短時間で復帰できたというのは、たまたま人手不足の仕事があった運と、765プロの評判がよかったのでしょう。もちろん真美自身のそれまでの態度がよかったからこそ受け入れられたのはいうまでもありません。真美は、方針に不満があるとはいえ、モデル業がいやなわけでは決してありませんでした。
あのあと、社長にはこってり怒られました。休んだことではなく、それほどまでに追いつめられていたのに、ため込んでいたのに、どうして誰にも相談してなかったのか、と初めて見る厳しい表情で社長は真美を怒りました。そうして、そんな無理を真美に強いてしまったことを謝りました。
「団結」を社訓に取り上げる社長にとって、今回の件は責められるべき案件でした。契約当初の経営不振や「双子キャラ」の難しさなど、当時から今日までの様々な状況を考えると、真美と亜美が一緒にアイドルとして活動するのは難しかったでしょう。経営者として間違っていたとは思いません。それでも社長は、そんな経営者的な選択を後悔し、真美に頭を下げました。アイドルの夢や希望を無視するような、ただ金儲けの道具として使い潰すような、そんな方針に嫌気がさして新しく事務所を立ち上げた、若かりしかつての自分。それがいつしか憎んですらいた人たちと同じになってしまっていた事実に、社長自身が許すことが出来ませんでした。
「結局のところさ、真美はただ、兄ちゃんやしゃちょーを信じることができなかったんだよ。モデルだって別にやりたくないわけじゃなかった。ただ、真美は、亜美が羨ましかっただけ。そんで、真美が亜美と同じくらい楽しめるように兄ちゃんとしゃちょーががんばってくれるって、真美が信じられなかっただけなんだ」
事務所の社長室。ことの経緯を全て社長に話したあと、真美からこぼれたのはそんな言葉でした。縮こまって座る真美に、社長は優しく声をかけます。
「それは違うよ真美くん。私もプロデューサーくんも、もっときみに対して真摯でいるべきだったし、信じてもらえるように努力すべきだった」
「しゃちょーも兄ちゃんも、真美によくしてくれたよ。今ならわかる。でも、あのときの真美にとっては意味なかったんだ。真美にとって亜美以外は宇宙人だったし、宇宙人のことを信じられるほど、真美は優しくない」
「真美くんが我慢していることはよく知っていた。亜美くんといることに固執してることも。それでも、気づかぬ振りをして真美くんに甘えていた。真美くんが謝ることなんてない。
改めて言おう。真美くん、きみに無理をさせていたこと、そしてそれを知りながらも強要していたこと、本当に申し訳なかった」
「こっちこそ、お仕事勝手に休んでごめんなさい」
「うむ。ではお互いこれで手打ちにしよう。ところでその、仕事に関してだが……いや、これはプロデューサー君に任せよう」
先ほどまでの重い空気を振り払い、社長はいたずらっぽい笑顔で言いました。それにつられて、真美もようやく笑うことができました。
「えっ、なに、やっぱり真美、首になるの?」
真美なりの冗談でした。けれど、笑いながらも、半分は本気でした。
「いやいや、そんなことはないよ。ただ、そうだね。ジュニアモデルという肩書きは、諦めてもらうことになる」
目の前が真っ暗になる思いでした。
「……まーそーだよねー! もともとそんなに人気があったわけじゃないし、こんだけ迷惑かけたら、そりゃあね、ちかたないね」
ですが、文句を言える立場ではありません。どんな事情があれ、真美はその待遇でやってきたのです。急にわがままを言って多方面に迷惑をかけたからには、13歳とはいえ、責任を負わなければなりません。
「…………いや、そうだね。こちらにも責任があるのはいえ、この体制のままでは、いずれまたこのようなことが起きるかもしれない。禍根は元から断たなければなるまい。
双海真美くん。きみとは、今期をもって契約を打ち切らせてもらう」
「……はい」
「ところで、近ごろ少し面白そうな構想が浮かんでね。上手くいけばこの765プロも大いに盛り上がりそうなんだ。ただ、それには今のアイドル達では何か足りない気がしてね……そうだ、プロデューサーくん。何かアイデアはないかい?」
「──そうですね、何か足りないのなら、それを足せばよいかと」
突然背後から聞こえてきた声に、真美は驚いて振り向きます。
「名案でもあるかい?」
「案というほどでは。今いるメンバーで足りないなら、新しいアイドルをスカウトするだけです」
「ふむ、それは確かに。単純だがわかりやすい。ただね、スカウトするからにはトップアイドルになってもらわなければ困る。私たちも遊んでいるのではないのだから」
「ええ、もちろん。すでにひとり、心当たりがありまして」
「心当たり! この765プロとアイドルたちをここまで育てたきみが、そんなに期待する子か!」
「それはもうとびっきりですよ」
朗らかな会話のくせに、やけに緊張してぎこちない表情で真美を見つめるプロデューサーは、右手を差し出して、言いました。
「双海真美くん。きみ、アイドルにならないか?」
§
「真美はさ、亜美になりたかったんだ」
「亜美は真美がお姉ちゃんでよかったよ」
「ふたりが一緒になれば、きっと、何よりも特別になれると思ってた。心が溶け合って、お互いのことが何もかも理解できて。そうすれば、なんにも不安がないと思ってた」
「真美と亜美がお揃いでいられるのは本当に嬉しかった。でも本当は、真美と亜美が違ってもよかったんだ。違うものをお互いに見つけていくのも、亜美は好きだったから」
「亜美じゃない人がこわかった。真美は亜美のことならなんでもわかったから、何もわからない人がこわかった」
「真美じゃない人はこわかった。亜美は真美のことならなんでもわかったから。でも、何もわからない人のことが少しわかった時、嬉しかったな」
「真美が我慢すればいいと思ってた。そうすれば、ずっと一緒にいられるって思ってた」
「真美が我慢するのがいやだった。そんなことしなくても、ずっと一緒にいられるって思ってたから」
「真美は亜美が好き。ずっと一緒にいたいとおもってた」
「亜美は亜美が嫌い。真美にずっと無理をさせて、それがわかっていても何も出来ないから」
「真美は真美が嫌い。亜美しか信じられないのが嫌い。本当はみんなのことを信じたい。なのにわからなくて、不安で、こわくなるのが嫌い」
「亜美は真美が好き。亜美のことしかわからなくて、不安で、こわくて、信じられなくて。それでもみんなのことを好きな真美のことが好き」
「ねえ、亜美」
「ねえ、真美」
「真美たち、こんなに違う人間だったんだね」
「亜美たち、こんなに違う人間だったんだね」
「真美、亜美のこと、大好き」
「亜美、真美のこと、大好き」
「真美と一緒だ」
「亜美と一緒だ」
「それが一緒なら、いいよ。そう思うことにする」
「亜美も。これだけは、ずっと信じていられるから」
§
「真美ー、いるー?」
いつも通り、元気のいい声とともに大きく扉が開く。目を向けた先にいた亜美は、珍しく、髪を結わないで立っていた。
「あれ? 真美、髪下ろしてるんだ。珍しいね」
そう。正面を向いて鏡に映った真美も、髪を下ろしていた。視界の隅で揺れる髪が、なんだか新鮮な気がした。
「亜美さ、髪切りに行こうかなって思うんだけど、真美も一緒に行く?」
「んー……」
言われて、気づいた。美容室なんてしばらく行けてなかったから、思っていたより髪が伸びている。……真美の髪、亜美よりも長い。でもきっと、真美と亜美の違うところなんて、髪以外にもたくさんあるのだろうな。真美が今まで気づかなかっただけで。気づいても、誤魔化していただけで。
「真美はいいや。もうちょっと伸ばしてみたいし」
「そうなん? お手入れ大変そうだねえ」
「うぁー、そういうのは言わないオヤクソクっしょ」
「ごめーんね。てへぺろ」
──結局のところ、真美の不安は何も変わってない。相変わらずみんなが何考えてるのか全然わからないし、誰かと話すのがすごくこわくなる時がある。
でも最近、双海真美のファンができた。「双海亜美の姉」じゃなくて、「双海真美」として見てくれる人が出てきた。パパとママが真美と亜美を間違えなくなった。真美と亜美で、別々の友達が出来た。
好きな小物を我慢しなくてもいい。苦手な食べ物を無理に好きにならなくてもいい。それにきっと、将来は、別々の人と結婚する。それでもいいって、ようやく思えるようになった。
改めて鏡と向き合い、身支度を整える。いつも通り、左のサイドテール。この髪ゴムも、きっと亜美なら選ばないだろうな。……そういえば、予約が一緒じゃないの、初めてだ。しばらくして、そのことにようやく気づいた。それがなんだか面白くって、小さく笑った。笑ってしまったことが、なんだか本当に嬉しかった。
「さってと。今日もアイドル、がんばりましょー!」
さあ今日も、生真面目で冗談の通じない、けれど真美のことに真剣になってくれる、馬鹿なあの人に会いに行こう。
以下チラシの裏側に書くようなしょうもない諸々
・いおりんマジいおりん
いおりんは俺の永遠のお姫様だから。お姫様には横暴かつ独善的であってほしい俺Pの性癖。
真面目な話、伊織はたぶんこういう時、変に慰めたり甘やかしたりしないんだろうな、優しさと甘さの違いを理解してそうだな、っていう信頼。偽悪的ないおりんマジツンデレプリンセス。
・伊織に「このばか」って言われたいだけの人生だった
ツンデレキャラの強みは「ばか」のバリエーションなんだよなぁ。普段の態度がきついからこそ、こういう時の罵倒に何よりも愛を感じられる。
・なんで真美こんなに依存してんの?
本編で語ってるのが全てなので以下蛇足。
結局のところ、双海姉妹にとって不幸なのは、両親が双子を見分けられなかったことに尽きる(今作での設定)。両親に普段から真美とも亜美とも呼ばれていた幼女真美は、真美であると同時に亜美でもあったわけで、同じ自分であるはずの亜美が真美とは違うことを考え行動しているから異物感があった。自我の分離を防ぐための自己防衛に近いんじゃないかな(超適当)
・前編で名前の上がった春香と雪歩の出番は?
もうほんと頑張って絡ませようと思ったんだけどこれ以上冗長になるのは流石に勘弁だった。りっちゃんとあずさも名前だけで空気だったのホント反省。
・亜美の方が物分り良さそう
成長していく中で、真美は亜美よりも深く考える性格に、亜美は直感的な性格にシフトしていった。真美は深く考えて、誤魔化すのが上手になったせいで、積もり積もってここまで深刻な状況になった。
・えっ、プロデューサーさん大勝利なの?
「プロデューサーってあんな茶番もできるようになったんだね」「大根役者すぎっしょ」など真美からさんざん憎まれ口を叩かれつつも信頼されるプロデューサー氏の後日談で物語を締めようかと思ったけどご褒美すぎたのでやめた(嫉妬)。
・最後に一言
亜美真美の口調全然わかんねえし絶対高校生くらいだろこれ