穴熊寮からごきげんよう   作:秋津島

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「……」
「……おっと、失礼。考え事をしていました。いやなに、『一巻』もいよいよ終盤に近付いてきたなあと、感慨に耽っていたのでございます」
「ふふ。ただの手記にしかすぎない私でも、それなりの感情は持ち合わせているのですよ。なんて」


試験勉強の合間に

「エドガー、もし君さえよければ、来年はクィディッチチームに入ってみないか?」

 

1月の終わりごろに行われた我らがハッフルパフ対グリフィンドール戦は、グリフィンドールのシーカー、ハリーが記録的な早さでスニッチを捕まえたことで相手に軍配が上がった。

その前代未聞の新記録はグリフィンドールだけではなく、レイブンクローや一部のスリザリン、果ては負けたハッフルパフの生徒すらも巻き込んでスタンドを沸かせた。

そんな偉業を成し遂げた最年少シーカーを友人に持つおれは、しかしその場で声を上げて喜ぶ前に、まず真っ先にハッフルパフのシーカー、セドリックの元へ向かった。

 

「すごかったな、ハリー・ポッター。伊達に一年生でシーカーに選ばれていないよ」

 

セドリックは更衣室にいた。他の選手はすでに着替えを終えたようで、そこにいたのは彼だけだった。清々しさと悔しさをないまぜにしたような複雑な表情で笑っている。

 

「『ハッフルパフは劣等生』――そんなことはないって、ずっと自分がハッフルパフ生であることを誇りに思ってきたけど……やっぱり、ああいうことをさらりとやられると、少し、ね」

「セドリック……」

「エドガーは知っているかな。ハッフルパフはこのところクィディッチのトーナメントで良い成績を残せていないんだ。レイブンクローやスリザリンと戦えばこてんぱんにやられるし、グリフィンドールとは今までいい勝負だったけど、向こうに優秀なシーカーが入ったから、もうこれまで通りとはいかないな」

「ハッフルパフにだって優秀なシーカーがいるさ。それに、来年再来年その翌年、どんな選手が来るかなんてまだわからない。今から悲観することなんかないよ」

「……そうだな、来年。……来年? そうか、その手があったか!」

 

そして、冒頭のセリフに至るわけである。

いやはや、それにしても不思議なこともあるものだ。クィディッチで負けた友人を慰めていたら、まさかチームに誘われるとは。想像すらしていなかった。

 

「えっと、おれじゃ力不足なんじゃないかな?」

「やってみないとわからないさ。飛行訓練の成績は?」

「ハッフルパフの一年生の中なら上の方だと思うけど」

「なら十分!」

 

セドリックはにこやかに言って、おれが何か話そうとする前に早々と着替えて更衣室から出て行ったしまった。けれどすぐに戻ってきて、照れたように笑いながら

 

「あー……情けないとこ見せたよね、ごめん。あとありがとう。結構落ち込んでいたんだけど、エドガーのおかげで元気になった。『ハッフルパフの優秀なシーカー』の評価に恥じないよう、もっと頑張るよ。じゃあ、また寮で」

 

と早口で告げてまた足早に去っていった。……まあ、色々思うところはあるけど、セドリックが元気になったようでなによりだ。

ちなみに、後日ハリーにお祝いの言葉をかけたら、「この間君から貰った蛙チョコが効いたのかも」と笑顔で返された。しまった、おれが原因か。

 

 

「……と、そんなことがあったわけなんだけど、ザカリアスは来年選抜試験に参加する気はある? おれたち飛行訓練の成績は同じくらいだし、もしかしたら一緒にチームに入れるかもしれないよ。そうだ、ポジションはどこがいい?」

 

イースター休暇中、図書館でザカリアスと山のような宿題を片付けている最中、ふと思い出したので尋ねてみた。彼は書き終わった羊皮紙を机の端に寄せ、「魔法薬調合法」を開きながらため息をついた。

 

「君は、なぜ、今このタイミングでそんなことを言うんだい?」

「えっと、今思い出したから」

 

ザカリアスはまたため息をついた。ああ、幸せが逃げていく。

 

「……まあ、君がそういうなら考えないこともない。ポジションは……まあチェイサーあたりが妥当だろうな。だが、そのチーム選抜試験の話をする前に、まずは6月の学期末試験をパスすることだ。そうしないと、二年生になれない」

「はーい。でもハリーのような前例があるし、留年しても……ああ、冗談冗談。ちゃんとやるってば」

 

鋭い目で睨まれたので、仕方なく「変身術入門」と「魔法史」を開いて宿題を進める。魔法史はすぐに終わったが、変身術――マクゴナガル先生は全科目中一番たくさんの宿題を出してくれたので、終わらせるのは一苦労だった。

変身術は好きだし成績も良いとは言え、こんなにも量があると少し飽きが来てしまう。魔法薬の教科書と睨み合いながら羽根ペンを動かすザカリアスに気づかれないようにそっと椅子から立ち上がって、息抜きに図書館を見て回ることにした。

ホグワーツの図書館はとにかく広い。何万もの蔵書、何千もの書棚、そして何百もの細い通路があって、初めて来たときはただただ圧倒されたものだ。

おまけに、実用書から誰が読むのだろうという謎の本まであらゆる種類の本が揃っているので、目的のものを探し出すだけでも一苦労だ。実際、ハリーたちもかつてニコラス・フラメルを調べるためにしばらく時間を費やしたと言っていた。挙句には閲覧禁止の棚に忍び込んでしまったし。

ニコラス・フラメルと言えば、1月のあのハッフルパフ対グリフィンドール戦のあとにハリーに声を掛けたとき、一緒にいたハーマイオニーとロンから新しい情報を聞かされたっけ。

なんでもあの三頭犬が守っているのは「賢者の石」で、スネイプ先生がクィレル先生を脅してそれを盗もうとしている、とかなんとか。

 

「スネイプ先生はそんなことしないと思うけどなあ。どっちかと言えば、クィレル先生の方が怪しい気がするけど。あのターバンの下とかさ」

 

三人があまりにもスネイプ先生を犯人だと決めつけるから、何の気なしにこんなことを言ったら、三人とも声を揃えて否定の言葉をおれに投げつけた。スネイプ先生、嫌われているのかなあ。

……ぼんやりと考えながら歩いていると、魔法生物に関する本が並んでいる書棚の前に髭面の大男、ハグリッドがいるのが見えた。森番なのに珍しいな。しきりに周囲を見回しながら、こっそりと隠れるように本を探しているけど、その巨体のせいで無駄に注目を集めてしまっている。あ、ハリーたちが話しかけにきた。随分と親しげに話している。

取り込み中のようなので、おれは邪魔をしないよう静かに書棚を通り過ぎて、自分の席に戻った。

 

「まったく。君は、目を離すとすぐにふらふらとどこかへ行ってしまうな」

 

ザカリアスはおれを見るとため息交じりに呟いた。すでに自分の荷物をまとめてある。

 

「あれ、ザッキーもう魔法薬は終わったの?」

「誰がザッキーだ。君が散歩をしている間に終わらせたよ」

「さすが優秀」

「君に言われると皮肉にしか聞こえないな。……ほら、どうせもう宿題には飽きてしまったんだろう? 今日はここまでにして、談話室に戻るぞ」

 

そう促されたので、荷物をまとめてザカリアスと一緒に図書室を出た。

 

「あ、そういえば、ハンナとスーザンがお茶会の準備をしているって」

「そうか」

「ふふ。すっかり習慣になったよね、六人のお茶会。今日のお菓子は何かな」

「君はチョコレート菓子なら何でもいいんだろう」

「そ、そんなことないよ」

 

少女二人とアフタヌーンティーを楽しんで以来、おれたちハッフルパフの一年生六人は、週に何度かお茶会を開くことが習慣になっていた。

きっかけはおれの些細な言葉で、それにスーザンとジャスティンが乗ったことで始まった小さなものだが、今では上級生たちもよく参加してくるので、寮を象徴するような小イベントになりつつある。「なんだか大げさになっちゃったね」と前回のお茶会でハンナが笑いながら言っていたっけ。

心もち急ぎ足で、階段を下りて地下に行き、厨房のある廊下に積まれた樽でお馴染みのハッフルパフ・リズムを奏でて、蓋の空いた樽の中にもぐりこむ。

土の坂道を登っていけば、見慣れた景色が目に飛び込んでくる。黄色と黒、それから植物と銅で彩られた、おれたちのハッフルパフ寮だ。……なんてね。

談話室にはすでに四人が揃っていて、アーニーはすでにお菓子に手を付けているところだった。ああ、おれの分のチョコレートが……。

 

「おかえりエドガー、ザカリアス。すぐ淹れるから、座って」

「ありがとう。スーザンの紅茶は優しい味がして好きなんだ」

「あら、エドガーってば。そんなこと言っても、私の分のチョコレート菓子はあげないわよ?」

「……今日は六人だけか。珍しいな」

 

会話を区切ったのはザカリアスだった。確かに、いつもなら少なくても一人か二人、多いときには十人前後集まるお茶会なのに、今日はおれたちの他には誰もいない。

 

「きっと試験勉強で忙しいんですよ」

「ふふ。私たちだって試験勉強をしないといけないのに、こんなにのんびりしていいのかしらね」

「大丈夫よ。いざとなったら、エドガーとザカリアスが助けてくれるから」

「せっかくなら、今ここで教えてもらうというのも有りだな」

 

アーニーの一言により、今日の会話の花は学期末試験になった。

ハンナは呪文学が得意で魔法薬学が苦手、スーザンは変身術が得意でハンナと同様魔法薬学が苦手、ジャスティンはどれも万遍なくできるが実技が多少弱く、アーニーは呪文学が得意で魔法史が壊滅的だそうだ。ちなみにザカリアスは実技系が得意で、おれはそれに加えて魔法史が得意で、共に苦手科目はない。自分で言うのもおかしな話だけど、おれたちはハッフルパフの中だと優秀な方だった。

お互いの得手不得手を確かめ合ったところで、ザカリアスはハンナとスーザンに、おれはジャスティンとアーニーにそれぞれ勉強を教えることになった。「いやあ、ザカリアスは両手に花で羨ましいですね」とジャスティンが笑いながら囃した。

 

「さて。まずはアーニーだけど、魔法史はおれのノートがあるからそれを使ってよ。全部まとめてあるし、授業中のビンズ先生の雑談も乗っているよ」

「ああ、ありがとう。それにしても、君はあの授業でよく起きていられるな」

「太った修道士に言われたからね。『あいつの授業は退屈だろうけど、同じゴーストのよしみ、良かったら聞いてあげてくれ』って」

「エドは太った修道士に大分懐いていますからね」

「まあね。ジャスティンは実践あるのみだよ。試しに、今ここでこのクッキーをテーブルの端から端まで歩かせてみて」

「おお……いきなり容赦ないですね……」

「頑張って」

 

そんな具合で、勉強会を兼ねたお茶会を楽しんだのだった。




ハッフルパフ寮はいつも良い匂いがしそう。
フラグ? はて、何のことやら。
ハンナとスーザンの性格の差異を自分でもよくわかってないのですが、なんとなくハンナの方が元気そうなのでそんな感じの設定にしています。スーザンはおっとり系です。

ここまで読んでくださりありがとうございます。
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