穴熊寮からごきげんよう   作:秋津島

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「表舞台に姿を現さなかっただけで、ハッフルパフにはたくさんの個性的な生徒がいるのですよね」
「エドガーの学友しかり、クィディッチ・チームのメンバーしかり」
「こうしてみると、やはり彼らは『物語の登場人物』などではなく、『実在する血の通った人間』なのだなと痛感させられます」


クィディッチ選抜試験

変身術の授業からの帰り道、おれはハンナ、アーニーと並んで歩いていた。

 

「うう、マクゴナガル先生、最初から厳しすぎない?」

「そうか? 去年学んだことから考えれば、あれくらいが妥当だと思うが」

「アーニーは優等生だからそんなことが言えるんだよう」

 

コガネムシをボタンに変えるという課題は、夏休みの間にお祖母さまに鍛えられたおれからすれば何てことないものだったけど、他のみんなはそうでもなかったようだ。

一年間習ったことが夏の暑さですべて溶けて流れ出してしまったようで、成功させたのはおれとスーザン、アーニーくらいだった。ザカリアスはボタンから数本コガネムシの足がはみ出ていたし、ハンナやアルマなど大半の生徒は半分ボタン、半分コガネムシのような中途半端な変身しかできず、ジャスティンに至ってはコガネムシが杖をかいくぐって逃げ回ってしまい、結局机の上で運動をさせてやっただけだった。うーん、実技はまた鍛え直しかな。

 

「……そんな僕でも、変身術ではエドガーに勝てる気がしないよ。君もあのボタンを見ただろう?」

「あー、うん。確かに」

 

アーニーやスーザンたち、数少ない変身成功者のボタンは皆シンプルで機能的なものだった。程よい大きさで単色、二つか四つの穴が開いた、ごくごく一般的な形だ。

それに対しておれがつくったのは、中央に宝石でHの字が模られ、その周りを囲むライオン、鷲、アナグマ、蛇の四匹が細かく彫り込まれた、無駄に豪華なホグワーツ仕様のボタンだった。

二人には驚くと同時に呆れられ、マクゴナガル先生からは微笑みと共に十点をいただくような代物である。

 

「エドガーの実力って、学年不相応だよね。いったいどんな勉強をしてきたの?」

「特に変わったことはしてないはずだけど。お祖母さまからスパルタ指導を受けたくらいだよ」

「夏休み中の?」

「いや、学校に来る前から」

「うーん、それが原因なのかなあ」

「わからない。ああでも、なんていうのかな、初めて取り組む魔法でも『やり方がわかっている』ように感じることはよくあるよ。変身術なんて特に」

「へえ。不思議な才能だな。君、将来は変身術の教授なんて向いているんじゃないか?」

「将来かあ。考えたこともなかったけど、それもいいかもしれないね」

「それなら、次の個人授業の日にマクゴナガル先生に聞いてみたらどうかなあ。『問題児でも教授になれますか』って」

「ハンナってたまに笑顔で毒を吐くよね……。スーザンの影響かな」

「わ、私もスーザンもそんな恐ろしい生物じゃないよ!」

「それ、ただの比喩だぞ」

 

アーニーが笑い声をにじませた声で言った。ハンナは「ぐぬぬ」と唸った。微笑ましい光景である。

 

ハッフルパフの談話室に戻ると、普段は落ち着いた雰囲気の談話室がにわかに騒がしかった。

何事だろうと周囲を見回していると、先に寮に戻っていたザカリアスが「こっちだ」と腕を掴んで掲示板の前まで引っ張っていった。後からハンナとアーニーもついてくる。

そこには、誰かが貼った時間割やお茶会の予定表と並んで、真新しい貼り紙が出されていた。

 

“今週土曜日、校庭(競技場と書いてあったのが二重線で消され、新たに書き加えられている)にてクィディッチ選抜試験を行う”

 

「これは……!」

「ああ。君のお待ちかねの選抜試験だ」

「おっと、楽しそうな話をしているね!」

 

貼り紙を見つめるおれたちの後ろからぬっと手が飛び出てきて、二人の肩に同時に手が回される。真ん中から顔を覗かせたのははアルマだった。相変わらず親しみやすい笑顔を浮かべている。

 

「お、いよいよ選抜試験かあ。私は去年受けようとしたんだけど、駄目って言われたんだよね。飛ぶのには自信があったのにさー。でも今年は文句なしに参加できるからね。今年こそチーム入りしちゃうよ!」

「威勢がいいな。希望するポジションは?」

「ビーター! 珍しいでしょ?」

「そうだね。女性のシーカーやチェイサーはいても、ビーターはあまり聞いたことがないもん。アルマは体力に自信があるの?」

「もっちろん。これくらいなら軽々できるんだよ」

 

アルマはにこやかに笑いながら、言葉どおりに軽々とハンナを横抱きにして見せた。一人の小さな悲鳴と、三人の感嘆の声と、一人の得意げな声が上がるのはほとんど同時だった。

 

+

 

休み時間を利用して飛行訓練をしていたら、あっという間に土曜日になってしまった。

予告された開始時間よりだいぶ余裕を持って校庭に出たザカリアス、アルマ、おれの三人は、どうせならと最後の仕上げに取り組んでいた。

 

「おおっ、これがニンバス・シリーズの最新型かあ! やっぱり飛びやすいねえ」

「よーしアルマ、そこで急旋回だ」

「ほっ……っと! ふふーん、続けて急上昇と急降下もやっちゃうよー!」

「おい、僕の箒を返せ! 仕上げはどうした!」

「どんな箒にでも対応できるようにっていう訓練だよー!」

「そうだよザカリアス。もしかしたら、最初にシューティング・スターで飛べって言われるかもしれないんだから」

 

うん。間違いなく、仕上げに取り組んでいる。遊んでいるように見えるが、決してそんなことはない。アルマの言うように、どのような箒でも乗りこなせるようにするための最後の訓練をしているのだ。

ザカリアスの箒はニンバス2001だ。去年まで使っていたのはニンバス2000だったと言っていた。

クィディッチ用箒のシェアの大部分を誇るニンバス競技用箒会社の箒を、次々と買い換えては何てことない顔で使って自慢の一つもしないなんて、結構いいところのご子息だったりするのだろうか。

 

「あっははー。いやあ、楽しかった。やっぱり人の箒は違うよねえ」

 

朗らかに笑いながら地面に降り、ザカリアスに箒を返したアルマは、地面に寝かせてあった自分の箒に手を伸ばした。

アルマの箒は、細く銀色の柄が特徴的で、全体的にシャープな印象の箒だ。注視すると足置きやスタンドの位置や形、小枝の長さや流れ方などが均一ではなく、彼女に合わせたフルオーダー製品であることが窺える。

 

「まったく。もうすぐ試験だっていうのに、君たちには緊張感の欠片もないな」

「それほどでも」

「褒めていない。……それにしても、君たちの箒はどこの製品なんだ? あまり見たことがない形だが」

「あれ、言ってなかったっけ。私のはお祖父さんの知り合いの箒職人が、何とかっていう古い箒を作り直してくれたやつなんだ。量産品じゃないから、見覚えがないのも当然だよ」

「ああ、そう言えばそんなことも聞いたな。エドは?」

「おれ? おれは、お祖母さまの友人の息子さんが新たに箒を開発するとかで、その……えーと……実験台?」

「テスター?」

「そうそれ。その試作品」

 

ほら、と自分の体の前に箒を出す。

すっきり流れるような形状のトネリコ材の柄に、一本一本が丁寧に研がれたハシバミの小枝。具体的には聞かされていないが特別製の鉄製部品は、どのような状況下でも安定感と馬力を保証するという。商品化したら大変お値段の張りそうな代物だ。

 

「これは二号目って言ってたかな。だからやっぱり見たことなくて当たり前だと思う。あ、ちなみに今の話は極秘情報だから、くれぐれも内密にね」

「……そうか。まあ、なんだ。そちら側のコネがあるようで何よりだ。今更聞くまでもないだろうが、ちゃんと使いこなせるんだろうな?」

「もちろん」

「私もカンペキ。おまけにニンバスだって乗りこなせるんだから」

「試験では貸さないぞ」

「わかってるってー。もう、ザカリアスはお堅いなあ」

 

何やかんやと話している間に、現チームのメンバーが校庭に姿を現した。キャプテンでチェイサーのウィリアム・テイラー、ビーターのアイヴァー・フィンチ、キーパーのヘンリー・ブラックウェル、そしてシーカーのセドリック・ディゴリーだ。

三人足りないのは、去年のチェイサーだったシャーロット・レヴィ、アレック・カーライル、それからビーターのスコティ・ダーンが揃って卒業してしまったからだ。良いプレイをする選手だったのに、惜しい。

ふと、おれたちに気づいたセドリックが、他の生徒に気づかれないよう小さく笑みを浮かべて片目を閉じた。ロックハートの著書のどれかの表紙に同じようにウインクして映っている写真があったけど、それとは比べ物にならないほどの爽やかさだ。頑張るよ、の意味を込めて小さく拳を握って返した。

やがて、開始時間となり、ハッフルパフの観客もぞろぞろとやってきた。

 

「それでは、今から選抜試験を開始する」

 

今回試験に臨むのは一年生から六年生までの約二十人。これに現在のチームメンバーも加わり、その中から純粋に実力で選ばれた選手によって新たにチームが編成される。

これまで一年生は箒の持ち込みや試合出場はおろか、選抜試験への参加も禁止されていたが、昨年度のハリーの件(一年生にも関わらず、箒を与えられ、寮代表選手になった)を受けて、選抜試験だけなら参加しても良いことになった。たった一人だけ例外を作るのはよくないが、まだ未熟な一年生に怪我をさせるわけにはいかない、という二つの意見が対立した結果の折衷案である。これが発表された時、アルマは大変残念そうな顔をしていた。まあ、そうなるよね。

試験の方法は単純で、希望するポジションごとに分かれてそれぞれに適する試験を行い、その結果によって合否が判定される。例えばキーパーなら五回のペナルティ・スローを行って何回ゴールを守れるか、とかそんな感じだ。

チェイサー志望のおれとザカリアスは、他の七人の生徒と共に最初に試験をやることになった。「頑張ってね」とアルマが笑顔で背中を叩いて鼓舞してくれた。……痛い。

 

「まずはチェイサーだけどー……その前にちょっと待ってねー」

 

のんびりした口調で話すのは、キーパーのヘンリーだ。

左手で赤褐色の髪をくるくるといじりながら、右手に持った杖で空中に円を描き、大きく一振りした。実体化した金色の輪が三つ、ちょうどゴールポストの高さまで上昇してぴたりと静止した。

 

「はーい、即席ゴールポストの完成でーす。それにしてもさー、もう少し競技場を早く予約してほしかったよね。知ってる? うちのビーターってば、試験予告の貼り紙を出してから競技場を予約しようとしたんだよ。そうしたらもうグリフィンドールが先に予約しててさー。やむなく校庭になったってわけ。十分な広さがあるからいいものの……いやあ、ほんとに困るよねー」

 

貼り紙の訂正はこういう事だったのか。

 

「じゃあ、始めようか。名前を呼ばれたら箒を持ってあの怖い顔の――あ、なんでもないですー。あの強そうな人、そうそう、キャプテンのところまで行ってねー。皆の健闘祈ってるよー」

 

試験は三人一組となって行われた。おれとザカリアスは、一年生のバーナード・キャッドワラダーと一緒だった。

チェイサーの試験の内容は大きく分けて二種類あって、一つは飛行の上手さ、もう一つはクアッフルのコントロールの良し悪しを見るものだった。

前者はおれもザカリアスも問題なかったと思う。箒の性能も良いし、何より(自分で言うのもなんだけど)もともとの飛行能力は同学年の中でも上位の腕だ。他の選手よりも速く飛んだし、途中で投げ込まれたブラッジャーも軽々と避けた。後者もなかなかの出来で、何度もゴールを奪ったし、この日のために練習してきた技も惜しみなく使った。ギャラリーから受けた声援が少し心地よかった。

他の選手については、まずは現チェイサーでキャプテンのウィリアムは圧倒的だった。ゴールを二十回も奪った上に飛行能力も群を抜いていた。他に、おれたちと一緒に組んだバーナードも、学校の古い箒、シューティング・スターを使っているから動きは遅かったけど、パス回しが上手くコントロールも良かった。きっと今年選ばれるのはウィリアムだけど、来年以降はバーナードも選手になれるだろう。

 

「お疲れお疲れー。気になる選手の発表は最後にまとめてやるからねー。じゃあ次はビーター。名前を呼ばれたらあそこの軽薄そうな人のところに行ってね」

 

試験が終わって校庭に降り立つと、アルマが駆け寄ってくる。

 

「お疲れエド、ザカリアス。なかなかいい感じだったよ」

「――と、アルマ・フォーセット。次、準備してねー」

「ありがと。アルマはこの後すぐだね。頑張って」

「まっかせて!」

「調子に乗りすぎるなよ」

「わかってるわかってる。じゃ、行ってくるね!」

 

銀の柄の箒を手にして駆け出したアルマは、その後上級生の男子生徒顔負けの腕力とコントロールでクラブとブラッジャーを操り、清々しい顔で戻って来た。

 

「うーん、楽しかった!」

「すごかったね。キャプテンも他の選手も驚いた顔をしていたよ」

「あれでも抑えた方なんだけどね」

「……馬鹿力」

「あ、それ心外だなー。同じチームになったら、うっかりブラッジャーで狙っちゃうかも」

「悪かった。命だけは勘弁してくれ」

「うむ、苦しゅうない! 許そう!」

「ザカリアスって最初と比べると、随分性格が軟化したよね」

「何を言ってものらりくらりと躱されるか、逆に言い負かされるくらいだからな。嫌でもこうなる」

「ふふ。でも、おれは今のザカリアスの方が親しみやすくて好きだけどな」

「はいはいそこ、私語厳禁。どうしても話したいなら、俺を混ぜてもらおうか」

 

突然話に入ってきたのはビーターのアイヴァーだ。金髪で背が高く、人好きのする顔立ちをしている。先ほどヘンリーに軽薄そうな人と言われていたのはこの人だ。

 

「三人とも見てたが、すごかったな! 俺が思うに、三人とも選手としてチームに編成されるね、絶対。……おっと、まだ名乗っていなかったな。俺はビーターのアイヴァー・フィンチだ。気軽にイヴと呼んでくれ」

「イヴ? かわいい愛称だね」

「こう言うと女の子受けがいいんだ」

「……それで、アイヴァーさん。何か御用ですか?」

「おっと、手厳しいな! 単純に話したいと思っただけさ。何せ一緒のチームになるかもしれないんだからな」

「ごめんねイヴ。ザカリアスは少し人見知りで、悪気はないんだ」

「君は僕の保護者か」

「そうだよイヴ。少しずつ距離を詰めないと、噛みつかれちゃうよ」

「僕は犬か何かか?」

「はは、なかなか面白いトリオじゃないか。ところで、三人ともいいのか? 次のハル――ヘンリーの試験が終わったら次はシーカーの選抜試験だ。集中しないとセドリックを見逃すぜ?」

「え、あ、ほんとだ」

 

雑談をしている間にビーターの試験が終わり、キーパーの試験も最後の一人になっていた。

地上ではのんびりしていたヘンリーは、空中だと目を疑うような機敏な動きをし、ウィリアムのペナルティ・スローから難なくゴールを守って見せた。

隣でアイヴァーあらためイヴが口笛を吹いて冷やかすと、ヘンリーはこちらに視線を送って、ローブから杖を取り出し一振りした。途端に、今までゴールの役目を果たしていた三つの輪が動き出し、イヴ目がけて速度を上げて突っ込んできた。ん? これ、おれたちも危ない?

 

「レダクト! ったく、危ないなあ」

「……仕損じたかー」

 

輪はぶつかる直前で、イヴの「粉々呪文」によって破壊された。

上空から窺っていたヘンリーはそれを見届けると、ゆっくり地上に降りて、イヴに背中を向けておれたちと向かい合った。

 

「三人ともごめんねー。ちょっとこのバカにお灸を据えようと思っただけで、君たちを狙ったわけじゃないんだよ。あー、それよりもシーカーの試験だよね」

「俺には一言もなし?」

「シーカーの選抜方法はスニッチを使うんだよー。素早い動きができたり、スニッチを見つけるのが早い選手が選ばれるんだ。ちなみに一応制限時間は設けてあるんだけど、セドリックが毎回スニッチを捕まえるから、最近はあまり活用されていなかったり。まったくうちのシーカーは優秀だよねー」

「無視か。無視なのか。ハルは俺に厳しいよなあ。おーいハルー。ヘンリー」

「ほら、始まる。あっという間だから、目を離さないようにね」

 

箒に跨った人影が五人、空中で待機している。

ウィリアムの笛の合図でスニッチが放たれると同時に、全員が動き出した。

セドリックが最初にスニッチを見つけたようで、ぐんと加速する。追いかける他の四人を振り切って、手を伸ばし――スニッチを掴み取った。なるほど、確かにあっという間だ。あちこちからパラパラと拍手が聞こえる。

 

「はい、これで選抜試験はおしまい。この後キャプテンから選手の発表があるから、まだ帰らないようにねー。ほら、イヴ行くよ」

「お、やっと声を掛けてくれたな。もう思いつく呼び名が尽きてきたころだったんだ」

 

二人は何か言い合いながら、仕事を終えたウィリアムの元へ歩いて行った。すぐ後にセドリックも彼らの輪に入り、しばらく四人で話し合いをしていた。

やがて、それが終わると試験の参加者を一か所に集めた。

 

「はいはーい、皆さんお疲れさまでしたー。今年のメンバーが決まったので、今からキャプテンに発表してもらいまーす」

「まずはチェイサー。六年、ウィリアム・テイラー。二年、エドガー・クロックフォード、同じくザカリアス・スミス」

 

名前を呼ばれた瞬間におれとザカリアスは顔を見合わせた。どちらからともなく顔がほころぶ。

 

「やったね二人とも!」

「まあ、当然だ」

「とか言いながら、すごく喜んでいるよねザカリアス」

「――次、ビーター。五年、アイヴァー・フィンチ。二年、アルマ・フォーセット」

「やった、アルマも選ばれたね。これで一緒にプレイできるよ」

「くれぐれも僕にブラッジャーをぶつけないでくれよ」

「任せてよ!」

「――キーパー。五年、ヘンリー・ブラックウェル。シーカー。四年、セドリック・ディゴリー。以上が今年度の選出だ。それとは別に、一年のキャッドワラダーとサマービーにも伝えることがある。後日作戦会議を行うから、呼ばれた者は全員集まるように。今日はこれで解散だ」

「ほら、言ったとおりだったろ! 三人は絶対選ばれるって!」

 

ウィリアムの言葉が終わるや否や、イヴが陽気な声を上げながらおれたち三人の元へ歩いてきた。その後ろからは呆れた顔をするヘンリーと、穏やかに微笑むセドリックが歩いてきている。ウィリアムもしばらくは腕を組んでその場に仁王立ちしていたが、やがてゆっくり近づいてきた。

 

「君がチームに来てくれて嬉しいよ、エドガー。歓迎する」

「おう、歓迎ついでにちょっと偵察に行ってきてくれよ! グリフィンドールがまだ練習をしているはずだからさ」

「イヴ、それ新入りにさせることじゃないよー。ていうか、競技場の予約遅すぎだから。反省してる? してないよねー?」

「もう終わったことだし水に流してくれよ。いつまでも過去に囚われてちゃいけないぜ」

「……なんか、想像以上に面白い人の集いだね。私、ちょっと緊張していたけどほぐれちゃったよ」

「ああ。まあ、親しみやすそうで何よりだ。それよりエド、箒に跨って何をしているんだ?」

「え、偵察に行こうと思って」

「エドガー、それはアイヴァーの冗談だからやらなくていいんだよ?」

「まあ待て、止めてやるなセド。行くと言っているんだから、行かせてやればいいのさ。ウィルもそう思うだろ?」

「……好きにするといい」

「キャプテンの許可頂きました! よしエド、行って来い!」

「お任せあれ」

 

ザカリアスあたりが強く引き止めるのも気にせず、おれは地面を強く蹴って飛び上がった。……だって偵察とか、楽しそうじゃん!

 

そんな風にちょっと浮かれた気分で見に行ったクィディッチ競技場は――剣呑な雰囲気に包まれていた。

グリフィンドールとスリザリンの両チームの選手(プラス、ロンとハーマイオニーも)が対峙している。今日はグリフィンドールの練習日のはずなのに……何か手違いがあったのだろうか?

気づかれないようにしばらく様子を見ていると、スリザリンの金髪の小柄な少年の一言でグリフィンドールから轟々と声があがった。

彼らとおれとは距離があったのでよく聞き取れなかったが、何かグリフィンドールの逆鱗に触れるようなひどいことを言ったのだろう。

双子のウィーズリー兄弟、フレッドとジョージがその少年に飛びかかろうとしてスリザリンの大柄な選手に阻まれているし、女子選手の三人は金切り声をあげている。ロンなんて杖を取り出して……杖? まさか、何か呪いをかける気なのか?

 

「マルフォイ、思い知れ!」

「プロテゴ、護れ!」

 

咄嗟に自分も杖を取り出し、ロンと金髪の少年の間に盾を作り出す。

ロンの杖からまばゆい緑の閃光が爆音とともに飛び出し、少年目がけて飛び出――さなかった。

 

「ロン! ロン! 大丈夫?」

 

ハーマイオニーが悲鳴を上げた。

緑の閃光は、杖先ではなく反対側から飛び出して、ロンの胃のあたりに直撃した。よくわからないけど、呪文が逆噴射したようだ。

芝生の上に尻餅をついてしまったロンの口から、次々とナメクジが吐き出

される。それを見て、スリザリン・チームは箒(よく見たら全員ニンバス2001だ)にすがって腹をよじったり、四つん這いになって拳で地面を叩くなど笑い転げた。

 

「エドガー! どうしてここに?」

「偵察。……じゃなくて遊びに。それよりもロンだよ、大丈夫なの?」

「堂々と言い過ぎだよ、もっと隠して! ロンは……だめそう」

「ハグリッドのところに連れて行きましょう。ここから一番近いわ」

「わかった。じゃあエドガー、僕たちは行くからね。ロン立てるかい?」

 

返事の代わりにナメクジを吐き出したロンを、ハリーとハーマイオニーが両側から腕を掴んで支えグラウンドを出て行った。いつの間にか現れた、カメラを構えた少年を叱りつけながら。……誰だろう、この子。

三人……いや、四人か。四人がいなくなると、グリフィンドール勢は勢いを失い、スリザリン勢を睨みつけながら、一人また一人と競技場を後にした。

後にはいまだに笑い続けるスリザリン・チームとおれが残った。もう偵察も出来そうにないので、彼らの笑いが収まらないうちにそっと箒に乗って飛び去った。アディオス、スリザリン。

 

「あ、お帰りエド。どうだった?」

「えーと、グリフィンドールとスリザリンが険悪なムードで、生徒の一人が口からナメクジを吐き出す呪いにかかっていて、あとはスリザリンの箒が全員ニンバス2001だったよ」

「……ごめん、ちょっと突っ込みたいところが多すぎる」

 




※8/2 内容を修正いたしました。
当該箇所:一年生の選抜試験参加について

設定その3

ウィリアム・テイラー
キャプテン。チェイサー。六年生。
無口で無表情。体格も良いので怖く見られがちだが、実際は植物を愛する優しい心の持ち主。

アイヴァー・フィンチ
ビーター。五年生。
軽薄そうな雰囲気。気に入った生徒や可愛い女の子を見つけると、光の速さで絡みに行く。

ヘンリー・ブラックウェル
キーパー。五年生。
間延びした口調に似合わぬ俊敏な動きに定評がある。わりと自信家で、それに見合う実力を持つ。

セドリック・ディゴリー
シーカー。四年生。
ハッフルパフ一の美形と名高い、優しく礼儀正しい少年。エドガーが一番懐いている上級生。
死亡回避フラグの建築が着々と進められている。

ラルフ・サマービー
一年生。
原作では五巻以降のハッフルパフのシーカーを務める。この物語で出番はあるのだろうか。

バーナード・キャッドワラダー
一年生。
原作では六巻で「体の大きなハッフルパフのチェイサー」とルーナに実況されている。

シャーロット・レヴィ
元チェイサー。
なぜかブラッジャーを寄せ付けない圧倒的な威圧感があった美女。

アレック・カーライル
元チェイサー。
正確無比なコントロールで、チームの得点源を担っていた。

スコティ・ダーン
元ビーター。
でたらめな方向にブラッジャーを飛ばして相手を撹乱させた。

(何も考えず打っていたら本文が思いのほか長くなりました)
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