穴熊寮からごきげんよう   作:秋津島

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「私は転生した喜びと驚嘆から、ついうっかり自己主張をしすぎてしまったのです。彼が入学前に、頻繁に彼曰くの『未来予知』をしたのはこのせいだったのですよ」
「ただ、入学してからはそれらはしばらく抑えることにしました。あまり彼を煩わせたくはありませんでしたからね」
「……ああ、そうですね。一年生の時、私は一度大きく彼を困らせてしまいました」


三大魔法学校対抗試合

 アイルランド対ブルガリアの決勝戦が行われた翌日、日刊予言者新聞が大々的に報じたのはアイルランドの優勝ではなく、試合の後に空に打ち上げられた「闇の印」だった。

 モノクロ写真でチカチカ輝く「闇の印」が添えられた一面記事を担当したのは、リータ・スキーターという女性記者だが、エドガーはこの記者をこれっぽちも信用していなかった

 その理由は実にシンプルで、先週の新聞に「ヴァンパイア撲滅に力を入れるべき」といった旨の記事を載せたからだ。吸血鬼を家族に持つエドガーにとって、これは見過ごせない発言だったのだ。そこで、文句の一つでも行ってやろうかと彼女について調べると、断片的な事実を興味本位で繋ぎ合わせた上にでっち上げを付け加え、真実を歪曲するのが得意だという情報がぼろぼろと出てきた。スキーターを信じなくなるには十分すぎる材料だった。

 そういうわけで、もちろん今回の記事もエドガーは信じなかったどころか、そもそも目を通しすらしなかった。嘘ばかりの記事を読んで、なんになるというのか。

 

「それにしても、『闇の印』か」

 

 噂だけなら聞いたことがある。ヴォルデモート陣営が反対勢力に対する破壊活動を行う際に上空に打ち上げる印で、彼らしか作り方をしらないと言われている。ヴォルデモートと並ぶ恐怖の象徴で、ここしばらくは現れたことがなかったらしい。

 それが今になって現れたということは、近いうちにヴォルデモートが何かしらの動きを見せると暗示しているのだろうか。

 

「……ネセレ?」

 

 窓をコツコツと叩く音で、エドガーは思考を中断した。少し前にも似たようなことがあったなと思いつつ、窓を開けてネセレを迎え入れる。

 ネセレが持ってきたのはハリーからの手紙で、まずは前置きとして今朝の新聞の一面が嘘ばかりなこと(やっぱり、とエドガーは呟いた)が書かれ、本題として先日見た夢の話が書かれていた。

 

『どこかの屋敷に、ヴォルデモートとその手下がいたんだ。手下の名前はよく覚えていないけど、たぶん知らない人の名前だったと思う。そうでなきゃ、忘れないよ。……二人は何かを企んでいて、最後には話を外で聞いていたマグルを殺して、そこで目が覚めたんだ』

 

 先ほどの予想は中らずと雖も遠からず、だ。確かにヴォルデモートは何かしらの動きを見せようとしている。

 早速返事を書こうとしたところで、走り書きで付け加えられた文字に気が付いた。

 

『追伸:君の言う通りシリウスを名前で呼んだら、すごく喜んでくれたよ』

 

「それはよかった」

 

 思わず声に出た。

 きっとシリウスは親友にそっくりなその子供には、名前で呼んでもらいたいと思うに違いない。そう思ってのアドバイスだったが、役に立ったようで何よりである。

 

 

 新学期が始まる一週間前、祖母とクラウディアが帰ってきた。二人とも旅行を満喫したようで、とても楽しそうな表情をしていた。

 ――この二人が血縁上の本当の祖母と孫なんだよなあ。お祖母さまが事実を明かしていない以上、ディアに余計な負担はかけたくないから何も言わないけど。……お祖母さまには悟られないようにしないとな。

 

「なんだ、どうかしたのか?」

 

 ぼんやりするエドガーを見て、クラウディアが声を掛けた。

 実はね、ディアはお祖母さまの本当の孫なんだよ。なんて言えるはずもなく、エドガーは曖昧に笑った。

 

「ディアは今年もホグワーツ行くんだよね。ドレスはどうするのかなって」

「……ドレス?」

「今年は正装用のドレスローブを用意しろって、学校からのリストに書いてあったんだ」

「ダンスパーティでもやるのか?」

「さあ。でも、ディアも一緒に参加しようよ。ね、お祖母さま、ディアに綺麗なドレスを買ってあげて」

「もちろんよ。ディア、後で買いに行きましょうね」

「う、む。わかった……」

 

 

 一週間後、エドガーは激しい雨が窓を叩く音で目が覚めた。

 この雨はクラウディアたちが帰って来た翌日から降り続いているもので、エドガーこの雨のせいでせっかくの新学期を少し憂鬱な気分で迎えた。

 朝食をとり、荷物の最終確認。忘れ物がないことを確認して、エドガーたちはキングス・クロス駅に向かった。

 

「エディ、ちょっといいかしら」

 

 ホグワーツ特急に乗り込む直前、ドリスはエドガーを呼び止めた。

 それを見たクラウディアは「私は先に行く。探さなくていいからな」とだけ残して、一足先に汽車に乗り込んでいった。

 

「――エドガー、あなた、私に聞きたいことはない?」

 

 エドガーは一瞬動揺しそうになるのを無理やり抑えた。

 両親の部屋に入ったことに気づかれたのだろうか。そして、自分が両親の実の子ではないことを察したと、見抜かれたのか? ……いや、そうだとしてもここで正直に言うわけにはいかない。誘導尋問の可能性だってある。堂々としていれば大丈夫だ。

 エドガーは気づかれないように呼吸を整えて、自分と全く違う色の瞳を見つめた。

 

「去年、お祖母さまがおれのホグズミード行きを止めたのは、ハリーのためだけじゃないよね。……おれがシリウスに似ているのは、関係ある?」

 

 何でもないと答えるより、何かを答えた方が怪しまれないだろう。

 そう考えて、エドガーは去年ずっと疑問に思っていた問いを投げると、ドリスは少しだけ目を伏せた。

 

「ええ、そうよ。気づいたのね」

「ハリーから、昔のシリウスの写真を見せてもらったからね」

「……いくら他人とはいえ、自分の――若い頃に似た人を見たら相手は動揺する。その相手が普通の人ならいいけれど、シリウス・ブラックはその頃は犯罪者として世間に認知されていた。もちろん、私もそう思っていた。動揺した彼が何をするかわからなかったから、あなたに何かが起こらないようにと、ホグズミード行きを止めたの」

「……そっか。うん、それだけ聞きたかった。それじゃあお祖母さま、行ってきます」

「いってらっしゃい、エディ」

 

 エドガーはドリスに軽く頭を下げ、荷物を抱えてホグワーツ特急に乗り込んだ。

 空いているコンパートメントを探すべく、手近のドアを開いたところで、中にいた生徒とばっちり視線が交差した。

 レイブンクローの三年生、ルーナ・ラブグッドだ。空想的かつマイペースな性格のせいで寮内の生徒から陰湿ないじめを受けており(本人はそうとは認識していないようだけど)、よく物を盗まれたり隠されたりしている。エドガーはよくそれらを探す手伝いをしているので、寮も学年も違うが二人は見知った仲なのだ。

 

「エドガーだ。ひさしぶりだね」

「そうだね。ここ、空いてるかな?」

「うん。座ってもいいよ」

「ありがとう」

 

 ルーナの向かい側に腰を下ろす。ふと前を見ると、彼女は相変わらずの大きな目でじっとエドガーを見つめていた。

 

「どうかした?」

「エドガー、いつもより元気がなさそう」

「そう、かな」

「そうだよ」

 

 彼女の声は相変わらずぼんやりした夢見がちな声だったけど、真剣そのものだった。見当違いな発言をしている様子も、揶揄する様子も見られない。

 エドガー自身が気づいていないような心の負荷を見抜いているようだった。

 エドガーは相好を崩した。なんだ。自分で思っていた以上に、おれは結構動揺していたのか、と。欠陥品かと思っていたけど、そうじゃなかったみたいだ。

 

「うーん……今まで真実だと思っていたことが、真実じゃなかったことを知って、それで少しだけ混乱しているのかも」

「――真実は一つだけじゃない場合もあるよ。大事なのは、自分が何を信じるかじゃないかな。『ザ・クィブラー』読んだことある? あたしのパパが編集している雑誌だけど、読み方を変えるだけで違う情報が出てくるんだよ。みんなはバカみたいっていうけど、あたしは信じてるもん」

 

 ルーナは静かに、ゆっくり、言い聞かせるように話した。

 ――確かに、彼女の言う通りかもしれない。大切なのは自分が何を信じるかだ。たとえ血縁関係がなくても、お祖母さまはずっと育ててきてくれたんだ。おれを想ってくれる気持ちに嘘偽りはないはずだ。それならば、血の繋がりがあろうとなかろうと、おれはお祖母さまを信じる。……いつか、すべての真実を教えてくれる日を待ちながら。

 

「ありがとう、ルーナ。おかげで気分が晴れたよ」

「うん。さっきよりも元気になった」

 

 にこにこと笑いあっていると、コンパートメントの扉が開いて新たに二人がやって来た。セドリックと、レイブンクローのチョウ・チャンだ。

 セドリックはエドガーに、チョウはルーナにそれぞれ気づいて、小さく笑いかけた。

 

「やあエドガー。久しぶりだね。ここ、空いているかい?」

「久しぶり。ルーナ、どう?」

「いいよ」

「大丈夫だって。座って座って」

 

 チョウはルーナの隣に、セドリックはエドガーの隣にそれぞれ座った。

 それにしても、とエドガーはセドリックとチョウをこっそり盗み見た。一緒に座席を探すくらい、二人は親密らしい。去年のハッフルパフ対レイブンクロー戦でシーカー同士接触し、それがきっかけで交流が始まったと聞いたが……なかなか進展しているようだ。

 

「えーと、そうだ。皆はワールドカップを見たかい?」

「あたし、見に行ったよ。パパと二人で」

「本当? 奇遇だな、僕も観戦しに行ったんだ。父と二人でね」

 

 ルーナとセドリックがクィディッチの話を始めたので、エドガーはセドリックと位置を変え、二人が話しやすいようにした。

 向かい合ったチョウが、優しそうな笑みを浮かべている。

 

「試合で顔を合わせたことはあるけど、しっかり会話するのは初めてだよね」

「そうね。エドガーでしょう? みんなから話はよく聞くの」

「え、本当? 何か変なこと言われていないかな」

「大丈夫。優秀とかかっこいいとか、そういう褒め言葉ばっかりよ」

「それ、みんながおれとセドリックを間違えているんじゃないかな」

 

 チョウはくすくすとおかしそうに笑った。

 

「セドリックも、エドガーも、人気なのよ」

「……想像できないなあ」

 

 二組の会話が一段落すると、今度は全員で雑談を始めた。

 ドレスローブはいつどこで何のために使うのだろうとか、三年生のルーナは選択科目を何にしたのかとか(魔法生物飼育学と古代ルーン文字だそうだ)、今年の闇の魔術に対する防衛術の先生はどんな人だろうかとか、そんなとりとめのない会話だ。

 汽車がホグズミード駅について、そこから四人は馬なし馬車――馬車を引いているセストラルという天馬は、死を見たことがある人にしか見えない。エドガーとルーナは見えるので、お互いに少し目を合わせて小さく笑った――に乗り込み、また談笑しながらホグワーツ城まで向かった。

 セドリックがチョウを、エドガーがルーナをきちんとエスコートして馬車から降り、雨に濡れないようにとかばいながら玄関ホールへ急ぐ。

 ようやく雨風が届かない場所まで来て一息つけるかと思いきや、そこではいくつもの水風船が生徒に向かって投げられ、破裂し、冷たい水しぶきを撒き散らしていた。――校内に棲みつく悪戯好きのポルターガイスト、ピーブズの仕業だった。生徒たちの上をぷかぷか浮かびながら、性悪そうな大きな顔をしかめて、駆け付けたマクゴナガル先生の制止も聞かずに次々と水風船を放り投げている。エドガーたちは水風船に当たらないように避けながら、悲鳴を上げる生徒と共に大広間へと逃げ込んだ。

 

 大広間は例年のように、学年初めの祝宴に備えて見事な飾りつけが施されていた。テーブルに置かれた金の皿やゴブレットが、宙に浮かぶ何百もの蝋燭に照らされて輝いている。

 エドガーとセドリックは、チョウとルーナと別れてハッフルパフのテーブルに座った。

 

「あ」

「どうかした?」

「おれ、新入生の組み分けを見るの初めてかもしれない」

 

 二年生の時は空中ドライブの件でお叱りを受けている最中に終わり、三年生の時はディメンターとクラウディアの件で話をしている間に終わってしまい、まともに組み分けの儀式に立ち会うのはこれが初めてだった。

 

「な、なんか少し緊張する。変だな、自分の時はそうでもなかったのに」

「ほらエドガー、そわそわしてないで。もうすぐ始まるよ」

 

 セドリックの言葉が終わると同時に大広間の扉が開いて、マクゴナガル先生を先頭に、一列に並んだ一年生の長い列が大広間の奥へと進んでいく。上級生たちもずぶ濡れだったが、彼らに比べれば大したことではなかった。天井付きの馬車と屋根のないボートとなら、どちらの被害が大きいかなど比べるべくもない。

 やがてマクゴナガル先生が三本足の丸椅子と組み分け帽子を用意して、帽子がエドガーの聞いたことのない歌(セドリックが耳打ちしたことには、組み分け帽子の歌は毎年違うらしい)を歌い終えると、いよいよ組み分けが始まった。

 男の子も女の子も、怖がり方も様々に、一人、また一人と三本脚の椅子に腰かけて帽子に寮を宣言される。それを延々続けていき、残りの一年生の列がゆっくりと短くなってくる。そして、最後の男の子がハッフルパフに組み分けされたところで、儀式は終了した。

 ダンブルドアが立ち上がった。両手を大きく広げて歓迎し、生徒全員にぐるりと微笑みかけた。

 

「皆に言う言葉は二つだけじゃ。思いっきり、掻っ込め」

 

 目の前の空っぽの皿が、大量の料理でいっぱいになった。

 生徒たちは一斉に料理に手を伸ばし、自分の皿に食べ物を山盛りにして食べ始めた。

 

「エドー、どれがおいしいかなあ」

「ここの料理はどれも最高だよ。ホグワーツの創設者の一人、我らがヘルガ・ハッフルパフ直伝のレシピを、腕の良い屋敷しもべ妖精たちが忠実に再現しているんだ」

「しもべ妖精?」

「ホグワーツには百人以上のしもべ妖精がいて、普段は厨房で働いているんだよ。興味があるなら、今度連れて行ってあげる。……あ、彼らにはきちんと敬意を示さないとだめだよ。ホグワーツは彼らのおかげで成り立っているんだから」

「はーい」

 

 組み分けを興味津々で見守っていたエドガーは、今や新入生の女の子二人と楽しそうに会話していた。

 セドリックが少しだけ驚いた顔をして、エドガーに小声で話しかけた。

 

「君、顔見知りの新入生が多いようだけど……何かした?」

「えーと、夏休み中にダイアゴン横丁で会った時に、今年の新入生にハッフルパフはどうかって勧めたんだ。ね、エレノア、ローラ」

 

 名前を呼ばれた少女たちは楽しそうに返事をする。

 セドリックは何とも言えない表情でエドガーを見た。エドガーは首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「いや……随分女の子に好かれているなと思って」

「エレノアとローラは優しいんだ」

 

 ね、とエドガーが二人に微笑むと、少女二人は顔を見合わせてキャーキャー言ってから、揃って満面の笑みを返した。

 一通り食事が終わると、皿の上の料理は忽然と消えて、今度はデザートが現れる。

 エドガーの目はチョコレートケーキを捉えるとわかりやすく輝き、緩む口元を抑えられないままケーキを皿に取った。

 

「チョコレート好きは変わらないね」

「だっておいしいから……あ、ローラ。この間店でチョコアイス食べていたでしょ?」

「うん。チョコが好きなの」

「それならこのケーキは絶対食べるべきだよ。すごくおいしいんだ」

「ほんとに? ……ほんとだ!」

 

 エドガーとローラは周囲に花でも散らさんばかりに微笑み合いながら、幸せそうな表情でチョコレートケーキを堪能した。エレノアは二人とは別に糖蜜パイとプディングを取り、セドリックはそんな三人の姿を微笑ましそうに見つめていた。

 

「さて! みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう」

 

 デザートも片付けられ、皿がピカピカにきれいになると、ダンブルドアが再び立ち上がった。大広間を満たしていたがやがやというおしゃべりが、ほとんど一斉に止み、聞こえるのは風の唸りと叩き付ける雨の音だけになる。

 ダンブルドアは場内に持ち込み禁止の品が増えて四三七項目になったこと、例年通りに禁じられた森の立ち入り禁止、ホグズミード村は三年生になるまで禁止といったことを告げた。

 

「――そして、寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを知らせるのはわしの辛い役目での」

 

 これには、各寮のクィディッチ・チームのメンバーを始めとする生徒たちに、大きな動揺をもたらした。あちこちから「エーッ!」という声が上がる。ハッフルパフの代表選手であるセドリックとエドガーもお互いに驚いた顔を見合わせた。

 

「これは十月に始まり、今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。先生方もほとんどの時間とエネルギーをこの行事のために費やすことになる――しかしじゃ、わしは、皆がこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びを持って発表しよう。今年、ホグワーツで――」

 

 校長が言いかけた瞬間、耳をつんざく雷鳴と共に、大広間の扉がバタンと開いた。

 戸口に一人の男が立っていた。長いステッキに寄りかかり、黒いマントを纏っている。その顔は一ミリの隙もないほどに傷痕に覆われているようで、口はまるで斜めに切り裂かれた傷口に見えるし、鼻は大きく削がれていた。そして何より特徴的なのは――目だ。片方は黒く小さい目だが、もう一方は大きく丸いコインのようで、鮮やかな明るいブルーだった。ブルーの目は瞬きもせず、片方の普通の目とはまったく無関係に、ぐるぐると上下左右に絶え間なく動いている。

 男はコツッ、コツッと鈍い音を響かせながら教職員テーブルまで進むと、ダンブルドア先生に近づき手を差し出した。ダンブルドアは握手に応じ、小声で何かを話した後、自分の右手の空いた席へ男を誘った。

 

「闇の魔術に対する防衛術の新しい先生をご紹介しよう。アラスター・ムーディ先生じゃ」

 

 パラパラとまばらな拍手が寂しく鳴り、すぐに止んだ。大半の生徒は、ムーディのあまりに不気味な容姿に呪縛されたかのに、ただじっと見つめるばかりだった。

 ダンブルドアが咳払いをした。

 

「先ほど言いかけていたのじゃが。これから数か月にわたり、わが校はまことに心躍るイベントを主催する。この開催を発表するのは、わしとしても大いに嬉しい。――今年、ホグワーツで、三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)を行う!」

 

 ムーディが到着してからずっと大広間に張り詰めていた緊張が、急に解けた。

 生徒たちは笑い出し、ダンブルドアもグリフィンドールから飛んだ「ご冗談でしょう!」の掛け声を楽しむように笑った。

 

 三大魔法学校対抗試合はおよそ七百年前、ヨーロッパの三大魔法学校の親善試合とした始まったもので、ホグワーツ、ボーバトン魔法アカデミー、ダームストラング専門学校の三校が参加する。各代表から一人ずつ選ばれた代表選手が三つの魔法競技を争うものだ。

 若い魔法使い、魔女たちが国を超えての絆を築くには最も優れた方法だと衆目が一致していたが、大量の死者が出たことで競技が中止されるようになり、長らく行われてこなかった。

 何世紀にもわたって、試合を再開しようと幾度も試みられてきた。

 そして今年、『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』、そし三大魔法学校が協力し合い、ついに復活することとなったのだ。

 

「十月にはボーバトンとダームストラングの校長が、代表選手の最終候補生を連れて十月に来校し、ハロウィーンの日に代表選手の選考が行われる。優勝杯、学校の栄誉、そして選手個人に与えられる賞金一千ガリオンを賭けて戦うのに、誰が最もふさわしいかを、公明正大なる審査員が決めるのじゃ。

 ただし、参加三校の校長、ならびに魔法省としては、今年の選手に年齢制限を設けることになった。十七歳以上に達した生徒だけが、代表候補として名乗りをあげることを許される。このことは、我々がいかに予防措置を取ろうと、試合の種目が難しく危険であることから、必要な措置であると判断したためじゃ」

 

 年齢制限と聞いて、何人かの生徒ががやがやと騒ぎだした。

 ダンブルドアはそれを制すと、明るいブルーの目を悪戯っぽく光らせた。

 

「十七歳に満たない者は、名前を審査員に提出したりして時間の無駄をせんように、よくよく祈っておこう。

 ボーバトンとダームストラングの代表団は今年度はほとんどずっと我が校に留まる。外国からの客人が滞在する間、皆、礼儀と厚情を尽くすことと信ずる。さらに、ホグワーツの代表選手が選ばれた暁には、その者を、皆心から応援するであろうと、わしはそう信じておる。

 さてと、夜も更けた。明日からの授業に備えてゆっくり休み、はっきりした頭で臨むことが大切だと、皆そう思っておるじゃろうの。就寝! ほれほれ!」

 

 そう促されて、生徒たちはそれぞれの寮へと帰っていった。

 三大魔法学校対抗試合について、思い思いの話を交わしながら。




エレノア・ブランストーン
ローラ・マッドリー
共に原作四巻の組み分けシーンに登場。
アイスクリームパーラーでアイスを片手に寮はどこがいいかと悩んでいたところをエドガーに声を掛けられる。「仲間思いの優しい友達がたくさんできるよ」、「素敵な先輩もいるんだ」との誘い文句に興味を惹かれ、二人そろってハッフルパフにやってきた。

フィルチさんの近況:下級生向けの魔法教材を目当てに図書室に足しげく通っている。最近マダム・ピンスとの会話が増えた。
ザビニの近況:コンパートメントにクラウディアを誘うことには成功したものの、その流れでクールにデートを申し込んで断られた。
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