「吸血鬼の少女、クラウディア。エドガーも大体気づいていますが、彼女は実は――おっと、ここで言うのはあまりにムードがないのでやめておきましょう」
「そういえば彼女、表向きには他の魔法学校から転入してきた生徒って設定らしいですよ。それはさておき、三年生を振り返っていきましょうか」
月日はあっという間に流れ、第二の課題が目前に迫ってきた。
エドガーがそれとなく確認したところ、セドリック、フラー、クラムの3人は既に卵の謎を解き明かし、得たヒントを元に次の試合に各々準備に取り掛かっているようだ。
ただ1人、ハリーだけは――クリスマスの日にセドリックから教えてもらったヒントによって――卵の謎が解けたはいいものの、課題の準備に難航していた。
というのも、次の試合は水中戦。一時間以内に
「ロン、ハーマイオニー、エドガー。力を貸してほしいんだ」
結果、ハリーは友達を頼ることにした。
ロンとハーマイオニーのみならず、ハッフルパフのエドガーにまで声を掛けた理由は3つあり、2人がパーティ以来少しギクシャクしていて気まずいからというのが1つ。もしかしたら、セドリックや他の代表選手の情報を教えてくれるかもしれないというのが1つ。残りは単純で、ハーマイオニーに次ぐ成績と、動物もどきを習得するほどの能力を頼りにしたのだ。
「やっぱり、一番可能性のあるのは、なんかの呪文ね」
呼び寄せ呪文で一番近くのマグルの街から、アクアラングの一式を呼び寄せる計画、潜水艦か何かに変身する計画、ムーディの目の前で誰かを襲って変身させてもらう計画を経て、とうとうハーマイオニーが真顔で言った。
「エドガー、セドリックたちはどうやって突破するつもりなんだい?」
「それを言うとみんなの信頼を裏切ることになるから、残念ながら教えられないな」
「うっ……」
「この世の終わりみたいな顔しないで、頑張ろ?」
エドガーは励ましてくれたが、いくら埃っぽい本の山に埋もれても、これっぽちもいい方法は見つからなかった。昼食時、夜、週末全部を利用して、さらにはマクゴナガル先生に禁書の棚を利用する許可までもらって、最近少し穏やかになったマダム・ピンスに助けを求めても、ダメだった。
そうこうしている間に、時間は無慈悲に滑り抜けていく。
あと1週間。まだ時間はある。
あと5日。もうすぐ何かが見つかるはずだ。
あと3日。お願いだから、何か教えて……お願い……!
……とうとう前日になってしまった。ハリーは悪夢に囚われた気分だった。
「不可能なんじゃないかな」
図書館で、分厚い本のページをめくりながらロンが投げやりに言った。
「なーんにもない。一番良さそうな旱魃の呪文でさえ、湖には到底通用しないよ」
「何かあるはずよ。不可能な課題が出されるはずはないんだから」
「出されたね」
「なんか方法はあるの! 何かあるはずなの!」
「僕、どうするべきだったのか、わかったよ。シリウスやエドガーみたいに動物もどきになる方法を習えばよかった」
「うん。好きな時に金魚になれたろうに。もしくは蛙だ」
「動物もどきは何年もかかるのよ。それに登録やら何やらしなきゃいけないし……」
「ハーマイオニー、僕、冗談で言ったんだよ」
ハリーもロンもハーマイオニーも、皆疲れ切っていた。
そこへ、図書館の奥の方へ本を探しに行っていたエドガーが戻ってきた。
「エドガー、何か見つかった?」
「見つからない」
「やっぱり……」
「いや、そうじゃなくて」
エドガーは、3人がうず高く積んでいる本の背表紙を確認して回った。
何事だろうとハリーが視線を送ると、エドガーは手にしていた羊皮紙の切れ端を見せてきた。いくつか本のタイトルが並んでおり、1つを残してすべてが棒線で消されている。
「これは?」
「呪文はみんなに任せて、おれは魔法薬とか魔法道具とか、魔法植物を調べていたんだ。で、マダム・ピンスに頼んで該当著書の一覧を見せてもらって、目ぼしいタイトルをピックアップして探していたんだけど……どうしてもこれだけ見つからなくて」
――『地中海の魔法水生植物』
その字を見た瞬間、ハリーは目を大きく開いた。勢い余って立ち上がり、椅子がガタンと倒れ、マダム・ピンスが鋭く睨みつけてきたが、今はそれどころではない。
「それ、ネビルが持っていた!」
「ネビルが?」
「そう! 初めての防衛術の授業の日、ムーディに借りていたんだ! ねえロン、ハーマイオニー、そうだったよね?」
「急に大きな声を出すなよ……。うーん、僕はよく覚えていないや」
「私は覚えているわ。ええ、確かにネビルはこの本を持っていた。これに手がかりがあるの?」
「中身を見ないことにはわからないけど、あってほしいね」
「そうと決まれば、早速行ってくるよ!」
ハリーは嵐のように去っていった。
「……本、どうする?」
「片付けようか」
「3名様、それが終わったらちょいとついてきてくれ」
ぬっと、本棚の陰からフレッドとジョージが現れた。
ロンが怪訝な顔を向ける。
「そんな顔をするな、親愛なる弟よ」
「そうだ。俺たちは新しい悪戯のために資料を探しに来たわけじゃない」
「君たちを探しに来たんだ。マクゴナガルが呼んでるぞ、ロン。ハーマイオニーとエドガーもだ」
「え、僕らを?」
「どうしようロン、何か悪いことした? それならすぐ謝った方がいいよ」
「何もしてないよ! そういうエドガーこそ、何かしたんじゃないの?」
「まさか、厨房にチョコレートをねだりすぎた……?」
「そろそろいいか? 俺たちが君らをマクゴナガルの部屋に連れていくことになっているんだ。片付けを早く終わらせてくれ。マダム・ピンスに怒られるのも、マクゴナガルに怒られるのも、どっちも嫌だからな」
「はーい」
おとなしく返事をして、てきぱきと本を片付ける。
エドガーがこっそり魔法を使用したこともあって、ものの数分で片付けが終わり、3人は双子に先導されマクゴナガル先生の部屋の前までやって来た。
フレッドとジョージはそこでお役御免と言わんばかりに退散し、残された彼らはロンを先頭に部屋の中へ入った。室内にはマクゴナガル先生の他にチョウもいて、エドガーを見ると微かに目配せした。
「待っていましたよ、3人とも」
「あの、私たちにどのようなご用件なのでしょうか」
代表して、上級生のチョウが尋ねた。
「明日、第二の課題が行われるのは知っていますね? 貴方たちにはそれに協力していただきたいのです」
「……何をすればよろしいのですか?」
「貴方たちには、代表選手が取り戻す『大切なもの』として、湖の底で待機してもらいたいのです。命の危険はありませんが、無論辞退することも可能です。どうしますか?」
口火を切ったのはチョウで、「わかりました」と頷くと、ロン、ハーマイオニー、エドガーも揃って続いた。
「では、皆さん。よろしくお願いします」
+
11月にはドラゴンの囲い地の周りに作られていた観客席が、今度は湖の岸辺に沿って築かれていた。何段にも組み上げられたスタンドは超満員で、下の湖に影を映している。
ガヤガヤ興奮した大観衆を眺めながら、ハリーは首を傾げた。
(やっぱり、いない。ロンもハーマイオニーも、エドガーも。いったい、こんな時にどこに行っちゃったんだろう)
……昨日、図書館を飛び出したハリーは、グリフィンドール塔にいたネビルに早速詰め寄った。
ネビルは最初こそハリーの勢いに戸惑っていたが、彼の話を聞くと、快く第二の課題に役立つ情報――『鰓昆布』の存在を教えてくれた。そしてそれが、スネイプの研究室にあることも。
スネイプのことだから、きっと頼み込んだって分けてくれない。ならば、窃盗あるのみ。既に2年生の時に前科がある(実行犯はハーマイオニーだったが)ためか、ハリーの心に迷いはなかった。
早口でネビルに感謝を伝えると、図書館で待っている皆に鰓昆布の情報を教え、かつ窃盗の手伝いをしてもらうべく来た道を戻ったが……どういうわけか図書館はもぬけの殻だった。
どうやらフレッドとジョージに連れられてマクゴナガル先生の部屋に行ったようだが、いつまで待っても3人が戻ってくる気配がない。
そこで、ハリーは仕方なく単身でスネイプの研究室に乗り込んだ。
幸いにもスネイプは不在だった。しかも、途中でばったり出くわしてしまったムーディも、見なかった振りをして立ち去ってくれた。
なんていうか拍子抜けするくらい、あっさりと目当ての物が手に入ってしまったのだ。
ずっと手伝ってきてくれたロン、ハーマイオニー、エドガーに喜びと感謝と達成感を今すぐにでも伝えたかった。しかし、夜になって、朝になって、試合が始まる直前になっても、3人の姿はどこにも見えない。
『さて、全選手の準備が出来ました! 第二の課題は私のホイッスルを合図に始まります。選手たちは、きっちり1時間の内に奪われたものを取り返します! では、3つ数えます。いーち……にー……さん!』
とうとう試合開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。
ハリーは3人のことはひとまず忘れることにした。他の選手が何をしているかなど見もせずに、ポケットの中から鰓昆布を取り出し、口の中に押し込んで湖に入っていった。
水は冷たく、氷水というより、肌をじりじり焼く火のように感じられた。凍るような水が腰の高さに来たとき、ハリーは立ち止まって、思い切って口の中の鰓昆布を飲み込んだ。
ハリーの体を異変が襲った。まず呼吸が出来なくなり、次に首の両脇に指すような痛みが走った。最後に、耳のすぐ下に大きな裂け目が――鰓が出来た。空気の中で、パクパクしている。
これしかないと、ハリーは水に飛び込んだ。
水をごくりと飲むと、水が鰓を滑らかに通り抜け、脳に酸素が送り込まれるのを感じた。両手には水掻きが出来ているし、足も鰭足のようになっている。
水の冷たさが気にならなくなり、むしろ心地よくなった。一度水を蹴るだけで、鰭足が推進力になり、驚くほど速く、遠くまで動ける。視界もはっきりしている。確信した。これならいける!
ぐんぐん水中を進む。
グリンデローに水草の中に引きずりこまれそうになったり、嘆きのマートルに道を示してもらったりしながら泳ぎ続けていると、どこからか水中人の歌が聞こえてきた。
探す時間は 1時間
取り返すべし 大切なもの……
ハリーは急いだ。まもなく、前方に大きな岩が見えてきた。岩には水中人の絵が描いてあり、槍を手に、巨大イカのようなものを追っている。ハリーは歌を頼りに岩を通り過ぎた。
……時間は半分 ぐずぐずするな
求めるものが 朽ち果てぬよう……
藻に覆われた荒削りの石の住居の群れが、薄暗がりの中から突然姿を現した。あちこちの暗い窓から顔が見える。水中人だ。ハリーが泳いでいくのを、みんな横目で見送っていた。
ハリーは目を凝らして辺りを見ながら、スピードを上げた。そして、ついに広場のような場所に辿り着いた。大勢の水中人がたむろしている真ん中で、水中人が美しい歌声で代表選手を呼び寄せている。その後ろには大岩を削った巨大な水中人の像が経っていて、その像の尾の部分に、四人の人間がしっかり縛り付けられていた。
囚われていたのはチョウと、昨日からいなくなっていたロン、ハーマイオニー、エドガーだった。4人ともぐっすり眠り込んでいる。道理で、とハリーは納得した。人質として湖底にいたのなら、姿が見えないのも当然だ。
ここにいる人たちは、皆代表選手の大切な存在なのだろう。チョウはセドリック、ロンは自分、ハーマイオニーはクラム、エドガーはフラーだ。なるほど。クリスマス・パーティはそれぞれの大切なものを見極めるイベントでもあったらしい。
とにもかくにも人質を救出しようと、ハリーは水を強く蹴って彼らの元まで急いだ。人質を巨像に縛り付けている水草のロープは、太くヌルヌルで強靭だ。一瞬、クリスマスにシリウスから貰った、何でもこじ開ける道具とどんな結び目もほどく道具がついたペンナイフを思い出したが、今は生憎手元にない。……次の課題は念のために持っておこう。
そんなことを心に誓いながら、ハリーは周囲を見回した。何かロープを切れるものはないか。
水中人から槍を借りるのは良い案だと思ったが、残念ながら拒否されてしまった。諦めて、湖底に散乱している石の中から、一番ギザギザしたものを拾い、数分間の苦労の末にロンのロープを叩き切った。ロンは気を失ったままその場で浮かび、水の流れに乗ってゆらゆら漂っていた。
きょろきょろとあたりを見回す。他の代表選手がくる気配がない。何をもたもたしてるんだ? どうして早く来ない?
ハリーはエドガーに向き直った。……なぜか、先ほどから彼を見ると妙に心がざわつく。このまま消えてしまうんじゃないかという不安感と、早く地上に戻さないといけないんだという焦燥感が、じりじりと胸を焦がしてくるのだ。逸る気持ちを石に込め、ロープを叩き切ろうと腕を振り上げると――たちまち数本の屈強な灰色の手に抑えられた。5、6人の水中人が、緑の髪を振り立て、声を上げて笑いながら、ハリーをエドガーから引き離そうとしていた。
「自分の人質だけを連れていけ」
「他の者は放っておけ」
「それはできない!」
「おまえの課題は、自分の友人を取り返すことだ……他に構うな……」
「エドガーも僕の友達だ! エドガーはここに居ちゃいけない! 早くしないと……っ」
水中人はますます笑いながら、ハリーを押さえつけた。振り払おうともがこうとして、ここで無駄な体力を使っては地上に戻るのに不利だと気づき、ハリーは抵抗をやめた。代わりに首だけ動かして周りを見回すと、ようやくセドリックが泳いでくるのが見えた。頭の周りに大きな泡を纏っている。
「道に迷ったんだ。フラーとクラムもいま来る!」
セドリックはそう叫んで、ポケットからナイフを取り出した。チョウとエドガーを交互に見て、少し迷った後でチョウの縄を切った。そして彼女を引っ張り上げ、不安そうに何度もエドガーの方を振り返りながら、姿を消した。
間もなく、水中人が興奮してギャーギャー騒ぎ出した。ハリーを抑えていた手が緩み、水中人が振り返って背後を見つめた。ハリーも振り返って見ると、水を切り裂くように近づいてくる怪物のようなものが見えた。水泳パンツを履いた胴体にサメの頭……クラムだ。変身したらしいが、やり損ないだ。
クラムはまっすぐにハーマイオニーのところに来て、縄に噛み付いた。ところが、サメの歯は縄を噛み切るのに適していなかったようで、しかも注意しないとハーマイオニーを傷つけてしまうことから、クラムは思いのほかロープに悪戦苦闘していた。
見かねたハリーがギザギザの石を差し出すと、クラムはそれを掴み、ものの数秒でロープを切り終えた。そして、ハーマイオニーを抱え、一度だけ振り返ってから湖面を目指して泳ぎ去っていった。
(さあ、どうする)
ハリーは必死だった。フラーは一向にくる気配がない。もう、どうしようもない!
ハリーはクラムが投げ捨てたギザギザの石を拾い、エドガーに近づいた。たちまち水中人がロンとエドガーを取り囲み、首を横に振ったが、もはやそれは障害ではなかった。
「レラシオ、放せ!」
問答無用で杖を引き抜き、水中人に向かって杖を振る。たちまち杖の先から飛び出た熱湯が水中人を襲い、彼らは散り散りになった。ハリーはすかさず飛び込んで、エドガーを縛る縄を叩き切り、とうとう彼を自由にした。右手でロンのローブの襟首を、左手でエドガーの腕をそれぞれ掴み、地上を目指して湖面を強く蹴る。
動かない人を抱えて泳ぐだけでも大変なのに、それが2人になったらなお大変だ。おまけにロンもエドガーも長身なので、同年代と比べて小柄なハリーには重労働だった。両手が塞がっているから必然足の力だけで泳ぐことになり、疲労はますます溜まる一方だ。
泳ぎ疲れて足が攣る。2人を引っ張り上げようとしているので、肩も痛む。鰓昆布の効果が限界に近付いてきたのか、呼吸が段々苦しくなり――ついに首の両脇に再び痛みを感じ、口の中の水が重たくなるのがはっきりわかった。
――でも、あと少しだ。
闇は確実に薄らいできて、上に陽の光が見える。既に鰭足から元に戻ってしまった足で懸命に水を蹴り、光と空気を求めて、ハリーは必死で泳いだ。
辿り着くんだ……辿り着かなければ……!
「――――」
強く左手首を掴まれたような感覚と、消えてしまいそうな囁き声が聞こえた気がしたのは、頭が水面を突き破るのと同時だった。
冷たい、澄んだ空気を肺一杯に吸い込み、喘ぎ喘ぎ、ロンとエドガーを引き上げた。ハリーの周りをずっと泳いでついてきていた水中人が一斉に水面に現れ、みんなハリーに笑いかけている。
「ビショビショだな、こりゃ」
スタンドの観衆の大歓声の中で、目を覚ましたロンが水を吐き出しながら言った。
一方エドガーは、ひどく混乱した様子できょろきょろ辺りを見回している。
「大丈夫かい?」
「え、あ……なんで、ですか? あれ? えっと、違うな……。……?」
「エドガーってば!」
「あっ……あー、ハリー? うん、ハリーだ。ごめん、少し変な夢を見ていて……」
「夢?」
「うん、そう。たぶん」
エドガーはまだ、本人曰くの変な夢が後を引いているようだった。岸辺に辿り着き、マダム・ポンフリーに厚い毛布と熱い煎じ薬を与えられ、酷く焦った様子のフラーに話しかけられている間、ずっとぼんやりしたまま頭に疑問符を浮かべているように見えた。
それにしても、とハリーは今更ながら気づいた。なんてバカな真似をしたのだろうと。人質は1時間で永久に失われると歌にあったから、真に受けて自分の人質ではないエドガーまで助けてしまった。いくらあの場に残しておくのが憚られたとはいえ……ダンブルドアは安全対策を講じているはずだから、エドガーはあのまま消えたり、ましてや死んだりするはずもないのに。水から上がってみると、そんなことは明々白々だ。あのおかしな不安さえ気にせず、ロンだけを取り戻して戻ってくれば、自分が一番で戻れたのに……。
「まったく、ドジだな。ハリー」
「僕もそう思う」
岸に上がったロンが笑いながら言ったので、ハリーも力なく笑って応じた。本当に、ドジだ。
「でも、よくやったわ! ハリー!」
ハーマイオニーが叫びながら飛び込んできた。
クラムが彼女の関心を取り戻そうと話しかけているが、ハーマイオニーはハリーに話しかけるのに忙しく、クラムのことを気にも留めていない。
「どうやら、点数を付ける前に、協議じゃ」
やがて、水中人の長らしき女の水中人話し込んでいたダンブルドアが、やおら立ち上がって、審査員に向かって言った。
その間、ようやく「元気爆発薬」とマダム・ポンフリーの甲斐甲斐しい世話のおかげで動けるようになったハリーの元へ、フラーがエドガーを連れてやって来た。
フラーは顔や腕が切り傷だらけで、ローブは破れていたが、まったく気にかけない様子だった。隣のエドガーもようやく落ち着いたのか、いつもの穏やかな雰囲気に戻っている。
「あなた、エドガーを助けました。あなたの
「うん」
「わたーし、大切な友人をなくすところでした。ほんとーにありがとう」
フラーは身をかがめて、ハリーの両頬に2回ずつキスをした。それから、何か期待しているようなロンにも同様にキス――近くで見ていたハーマイオニーが怒った顔をしていた――をした。
その時、魔法で拡大されたバグマンの声が轟き、あたりがしんとなった。
『さあさあ皆さん、お待たせしました! いよいよ審査結果の発表です! 水中人の女長、マーカスが湖底で何があったかを仔細に話してくれました。そこで、50点満点で、各代表選手の得点は次のようになりました
ミス・デラクール! すばらしい泡頭呪文を使いましたが、水魔に襲われゴールに辿り着けず、人質を取り返すことができませんでした。得点は25点!
続いてセドリック・ディゴリー君。やはり泡頭呪文を使い、最初に人質を連れ帰ってきました。ただし、制限時間の1時間を1分オーバー。そこで、47点を与えます!
ビクトール・クラム君は変身術が中途半端でしたが、効果的なことに変わりありません。人質を連れ戻したのは2番目でした。よって、得点は40点!』
各選手の得点の発表に、スタンドからは休む間もなく大歓声が上がった。
残るは、制限時間を大幅にオーバーしたことで、高い点数が期待できないとがっくりうなだれているハリーだけだ。
『そしてハリー・ポッター君! 鰓昆布はとくに効果が大きい。戻ってきたのは最後でしたし、1時間の制限時間を大きくオーバーしてしまいました。しかし長の報告によれば、ポッター君は最初に人質に到着したとのことです。遅れたのは自分の人質だけではなく、全部の人質を安全に戻らせようと決意したせいだとのことです!』
ロンとハーマイオニーが半ば呆れ、同情するような目でハリーを見た。エドガーは楽しそうに笑っていた。ハリーはいたたまれなくなって、毛布で顔を隠した。
『ほとんどの審査員が、これこそ道徳的な力を示すものであり、50点満点に値するとの意見でした。しかしながら……ポッター君の得点は45点です!』
嘘だ、信じられない!
ハリーが顔を上げると、きょとんとした顔のロンとハーマイオニーが移った。2人はすぐに笑い出して、観衆と一緒に力いっぱい拍手した。
「やったぜ、ハリー!」
見れば、フラーも大きな拍手を送っている。しかし、クラムはまったく嬉しそうではなかった。なんとかハーマイオニーと話そうとしていたが、彼女の意識がずっとハリーに向かっていたからだ。
『第三の課題、最終課題は、6月24日の夕暮れ時に行われます! 代表選手は、そのきっかり1か月前に課題の内容を知らされることになります。諸君、代表選手への応援をありがとう!』
終わった。ぼーっとした頭でハリーはそう思った。
通過したんだ……6月24日までは、もう何も心配する必要はないんだ……。
「ハリー」
ハリーの意識を戻ってこさせたのは、エドガーの声だった。
「うん?」
「おれ、さっき変な夢を見たって言ったよね。それさ、妙に現実感があって、すごく不安になる夢だったんだ。おれは暗くて冷たい水の底に沈んでいて、体は重たくて動かせないし、たくさんの人に捕まれている感覚もあって気持ち悪かった。酸素不足とは違う息苦しさもあって……正直、このまま死んじゃうのかなって思った」
エドガーは表情こそいつものそれだった。けれど、顔は青白く、体は微かに震えていた。それが寒さから来るものではないと、雰囲気からはっきり察することができた。
「でも、そこで誰かに腕を引かれたんだ。そのまま上昇して、光が近づいて……気づいたら戻ってきていた。夢からも、水中からも」
エドガーはそこで言葉を切って、大きく深呼吸した。
「――助けてくれて、ありがとう」
そう言った彼が、珍しく泣きそうな顔をしていたから。
ハリーは「どういたしまして」と返し、去っていく後ろ姿を見送るだけしかできなかった。
フラーさんをパートナーにしたのは、今回どうしてもエドガーを水に沈めたかったからです。
主人公なんだもん、美味しいところはどんどん取って行かないと。
さてさて、第二の課題が終わってセドリックが1位です。
原作とちょっとだけ違う形で第三の課題を迎えることになります。
今年中に四巻を終わらせられるといいなあ。