「それでは、この辺でのんびりとしたある日の休日などお伝えしましょうか」
「それにしても、穴熊の巣は非常に居心地が良いですね」
11月のある日曜日、おれは珍しくハッフルパフ寮の談話室に一人でいた。いつも一緒にいるザカリアス、ジャスティン、アーニーの三人は変身術の宿題のために朝から図書室に籠っていたし(ちなみに、おれは金曜日の夕食後に終わらせておいた)、クィディッチシーズンなのでハッフルパフのシーカーであるセドリックも昼食の後から練習に励んでいた。
そんなわけで、おれは「幻の動物とその生息地」眺めながら、久しぶりにのんびりとした午後の時間を過ごしていた。ああ、やっぱり動物はかわいいよなあ。三年生では絶対に魔法生物飼育学を選択しよう、などと考えながら。
「あれ、エドガー。今日は一人なの? 珍しいね」
ヒッポグリフのページを眺めていると、同じ一年生のハンナ・アボットが声を掛けた。視線を移動させると、ハンナだけではなくスーザン・ボーンズの姿もある。ハンナはおいしそうなお菓子がたくさん乗ったティースタンドを、スーザンはティーセットをそれぞれ運んでいた。これからアフタヌーンティーの時間にするのだろう。あ、チョコレートのにおいがする……。
「みんな、今日は忙しいみたい」
本を閉じながら、少し眉を下げた笑顔を作ると、二人は顔を見合わせて何かを囁き合った。
組み分けのときに最初の方に呼ばれて共にハッフルパフに入って以来、この二人はよく一緒に行動しているのを見かける。髪の色はハンナが金色でスーザンが茶色という違いはあるけど、揃って長い髪を三つ編みにしているから、その姿は仲睦まじい姉妹のようにも見えて微笑ましい。そんなことを考えながら二人を見つめていると、話し合いが終わったらしい二人がおれの方に向き直って、かわいらしい笑顔を浮かべた。
「じゃあ、よかったらこれからお茶でもどう? スプラウト先生が特別にブレンドしてくださったハーブティーがあるの」
「それはぜひとも頂きたいな。お言葉に甘えて、ご一緒させてもらおうかな」
「大歓迎よ。エドガーと話せる機会なんて滅多にないもの」
言いながら、二人は一番近くのハチミツ色のテーブルにティーセットを広げ、てきぱきとお茶会の準備を始めた。随分と手際が良い。そういえば、談話室ではよくこうしてお茶会をする生徒の姿を見かけるけど、ハッフルパフ生としての嗜みなのだろうか。ザカリアスたちはやらないのかな。
品の良いハーブの香りが漂ってきて、三人分のカップが用意される。琥珀色の液体が静かに注がれた。
「エドガーのために淹れることになるなんて思ってもいなかったから、緊張しちゃった」
「私も、こんなことならもっとたくさんチョコレート菓子をもらってきたのに」
「せっかく抜け駆けできる機会だったのに、もったいないことをしちゃったね」
ハンナとスーザンはくすくすと笑いあった。
「本当はもっとエドガーとたくさんお話ししたいの。でも、なかなか話せる機会がなくて」
「そうそう。いつもザカリアスたちと一緒にいるから、話しかけづらくて」
「ああ、確かにザカリアスは少し気難しいけど、悪い人じゃないんだ。それに、ジャスティンやアーニーも優しくて良い人だから、気軽に話しかけてもらって大丈夫だよ」
「エドガーが言うなら、今度からは遠慮なく話しかけてみるよ。その三人ともお友達になってみたいし」
「ふふ。あなたと話したがっている他の女の子にも、早く伝えてあげなくちゃ」
そんな風に和やかに会話を進めながら、おれたちはアフタヌーンティーを楽しんだのだった。
その日の夕食後、ぐったりとした様子のザカリアス、ジャスティン、アーニーが早々と談話室に戻っていくのと、ハンナとスーザンがおれに手を振ってからそんな三人の後を追って話しかけるのを見送りながら、おれは一人赤色の集団に紛れ込んでいった。目当てはハリーで、華々しい勝利で飾った昨日のクィディッチデビュー戦について一言祝福の言葉を告げたかったのだ。ちなみに、その試合についてザカリアスたちと賭けをして(おれはハリーがスニッチを掴んでグリフィンドールに勝利をもたらすことを知っていたから、公平な賭けではなかったが)、その結果蛙チョコレート二十個を手に入れることに成功した。おいしかったです。
一人混じっている黄色に怪訝な顔をする赤色の集団をかき分けていると、見慣れた三人の後姿が見えた。
「ハリー」
呼びかけると、ハリーだけではなく、ロンとハーマイオニーも同時に振り向いた。おれの姿を見つけて、一様に相好を崩す。
――ハロウィーンの一件以来、おれと三人はよく話すようになっていた。共通の経験をすることで互いを好きになるという特別な経験があるものだが、トロールを一緒に倒したという経験も、まさしくそれだった。トロール様様である。
「やあエドガー。どうかしたの?」
「大したことじゃないんだ。だた、昨日の試合について一言お祝いしたくて。初勝利おめでとう、すごくかっこよかったよ。途中、箒から振り落とされそうになったときは冷や冷やしたけど、きみは無事だったし、スニッチも掴んだ。まるでヒーローみたいで、きみの友達なのが誇らしく感じたよ」
ハリーはこれほど素直に賞賛されたこと経験が少ないようで、顔を赤くして口ごもりながら「ありがとう」と言うだけでも大変そうだった。「どういたしまして」と笑顔を返す。
「君、それ素でやっているのかい?」
「何を?」
「……いや、なんでもない。君、将来は色々な人にあらぬ誤解をされないように気をつけるんだよ」
「う、うん。気をつけるけど……え、何の話? ちょっとロン、そこで黙らないでよ怖い」
おれと目線を合わせようとしないロンに詰め寄っていると、ハーマイオニーが軽く咳払いをした。気がつけばグリフィンドールの集団はすっかりいなくなっていて、廊下には四人しかいなかった。少し長居し過ぎたかな。
「えっと、うん。それだけ伝えたかったんだ。次の試合も応援しているからね」
「餞別だよ」とポケットの中の蛙チョコレート(何を隠そう、賭けで得たやつだ)をハリーに五つ持たせて、おれは三人に手を振ってハッフルパフ寮に駆けた。
黒と黄色でまとめられたホグワーツ内で一番落ち着く場所に戻ると、ジャスティンとアーニーがハンナとスーザンと楽しそうに話していた。ザカリアスだけは少し戸惑いながらその様子を眺めていたが、談話室に入ってきたおれを目ざとく見つけると大股で近づいてきて、おれが何かを言う前にローブの首の部分を掴んで、四人の前に連れてきた。少し扱いが乱雑すぎない?
「あらエドガー。ふふ。あなたの言うとおり、ジャスティンとアーニーとはすぐお友達になれたわ」
「ずるいですよーエド。僕たちも二人と一緒にお茶会したかったのに」
「ごめんごめん。今度は宿題のないときに、六人でお茶会を開こうか」
「おい待て、それには僕も入っているのか?」
「もちろん。ザカリアスもおれたちの友達だからね。でもその前に、ちゃんとハンナとスーザンと、友達にならなきゃだめだよ」
「……ふん、仕方ないな。君たちがどうしてもと言うなら……まあ、考えなくはない」
「どうしても」と二人の声が重なって、ザカリアスは「まあ、仕方ないな」とおれに返したものと同じような反応を、二人にも返した。それにしても、ハンナとスーザンはもうザカリアスの扱い方をわかってきているのか、すごいなあ。
(作者の)息抜き回です。文字数は少なめ、ご了承ください。
私はザカリアスくんを安易にツンデレキャラに変更し過ぎだと思います。ファンの方々には申し訳ないです。
ここまで読んでくださりありがとうございます。