『〝別世界の記憶 〟を持った黒衣の青年』
〝
「そんな訳ないでしょう。少し前に着いたばかりですよ」
『〝豊饒の女主人〟で働くエルフの美女』
〝 リュー・リオン 〟
ヘスティアやベルと晩御飯を食べ終え、明日もまた頑張ろうとはしゃぐ二人を眺めていると、一護はまるで妹や弟を眺めている気分になった。
一人は義理とはいえ、血の繋がり以上の絆で結ぶ兄弟だが、ヘスティアに至っては神様だ。だが、如何せん神の威厳を放っている訳でもないので、ヘスティアはやはり小さな妹かのように一護は見ていた。
騒ぐ
(ベルのやつ……さっそくダンジョンに向かったのか)
意識がぼやけてる中、一護は小さな地下の天井からぶら下がる『魔石灯』が燐光のように照らすそれを視界に入れながら起き上がる。
一護の目に入るのは幼児体型にしては似合わないふくよかな胸を毛布越しでも分かるくらいにして仰向けになり大口開けて寝ている
間違いなく美少女の類いに入るのだが、あぁもだらしない姿を見ると逆に親近感を湧いてくる。不思議なものだ。
「ふぁ~っ……朝飯食ったのかアイツ」
目覚めの顔に水で洗い、今だ睡魔が襲いかかる中、残しておいた食材で朝食を作る一護。どうでもいいが、〝別世界の記憶〟を持つ一護は、ベルの祖父に拾われてからも、何かとこの世界の不便さなど感じていたが、子供の時から暮らしてくると、最早不便も感じなくなった。
「水道も無けりゃ、電気もない……だが、『魔石』があるんだよな」
ダンジョンのモンスターから得られるその魔石は、原料として、そして経済にも携わるものにまで貴重化されている。
「これぐらいでいいか。……ヘスティア、朝だぞ」
一護はボロいテーブルに朝食を並べ、一護も作りながら食べたので既に自分の衣服にへと着替えていた。
漆黒の色に染められた着物、極東で作られたものだが、妙に着心地が良すぎる。良すぎて気持ち悪いくらいだ。
確か、この衣服を売り出した東洋衣服店である【カグツチ・ファミリア】が経営してた店で購入……というより押し付けられた。一護の記憶はまだ新しく覚えているが、何年も前の話だ。
確か『冒険者』がこの衣服を作っており、付けられた異名が『
「くっ!」
「君いつもその黒い着物着る時、苦悶の声出すよねぇ」
ふわぁ、と欠伸をしながら起きてきたヘスティアにそう言われると、どうしようもないくらい寸法を測られた記憶が思い出してしまうのだった。
「イチ君は今日どうするんだい? ボクかい? ボクは君たちの為にバイトさ!」
「聞いちゃいねーし、稼ぎなら俺がすげぇ稼いでるぜ」
「(ズーーーン)」
「悪かったっ!」
落ち込むヘスティアを励ました後、一護も街中にへと赴いたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
最初はダンジョンに向かう筈だった。
だが、まさかのイレギュラーな奴が、バベルの塔の前で陣取って待っていた奴がいた。
「……リオンか?」
「はい、おはようございます、イチゴ」
そこには見目麗しい絶世の美男美女を輩出する種族《エルフ》の女性がそこに居た。
「まさかずっと待ってたのか!?」
「そんな訳ないでしょう。少し前に着いたばかりですよ」
だが、待っていたエルフの美女、リュー・リオンは何時もと違う服装だった。何時もの服装は働いている《豊饒の女主人》で支給されているウエイトレス姿ではなく、顔を隠すほど大きな
斯く言う一護も、黒い着物の上には更に白いマントを羽織っていた。
「女将さんには言ったのか?」
「夜までに間に合えば大丈夫だと言っていました。本当に感謝しても仕切れません」
リューは深いその綺麗な瞳を少しだけ曇らすと、一護が笑いながら『そうか』と答える。暖かく笑う一護に、リューは無表情だというのに、可愛らしく少しだけ頬を紅潮させている。
「コホン……【カグツチ・ファミリア】の方々は?」
「もうやってるんじゃねぇか」
そうですか、と短く答えると、互いに頷く。
「じゃ向かうか」
「はい」
そう告げた瞬間、二人はまるでいきなり吹き上げた突風のように、あり得ない瞬発力でその場から駆け出していた。
行き先は、オラリオ郊外。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ある事件がオラリオで起きた。
それは、冒険者の家族たちが次々に襲撃されていくという凶悪性が高いもの。
不幸中の幸いは未だ死亡者は出ていないこと。
だが襲撃者は未だに捕まっておらず、更にはその襲撃者は《冒険者》かもしれないというものだった。
神から賜った恩恵を悪事に使う。これは許されないことだが、良いか悪いか、ほとんどの神は人に与えた能力を如何に使おうが干渉しない神まで居る。
更には《悪神》なども下界にへと降りていることが、悪神で名高い【ロキ】によって証明されている。
人々が最も恐れたモンスターよりも恐ろしい《狂気の冒険者》が現れたのだった。
だが幸いと、昔に比べれば秩序が保たれたオラリオは、高ランクのレベルを誇る冒険者も人格者が多く、目の前でそれを聞けば助けに入ってはくれるだろう。だがそれは目が届くまでの話。
もし、目や耳が届かない『裏』などで襲われたらどうするか?
知識がまだ十分に備わっていない子供や、力が
「そこで現れたのが正義の味方【カグツチ・ファミリア】さ! 彼ら彼女らは極東の地で鍛え抜かれた知力と武力で見事にこのオラリオでの無秩序なる街で
そんな中、如何にも無法者の溜まり場に見える裏路地などでは、安心して子供たちに絵本を用いて熱く語っている女が居た。
複数の子供たちは輝いた目でそれを食い入るように見入っている。
オラリオ郊外にある小さな町で、一護とリューはそれを遠目から眺めて聞いていた。
「ワタシしってる! それがわたしたちがすんでるコジイン《
「そうだよ! そして何を隠そう私も【カグツチ・ファミリア】の
「しってるー! ひろわれたんでしょー?」
「ぼくたちと一緒だー」
アハハハ! と笑う子供たち。よく見ると、色んな種族の子供たちだった。『
孤児院《
オラリオ郊外の町にある裏路地から繋がる広い場所には、長年そこに建てられていたのか、ボロボロになりながらも子供たちの笑い声が聞こえてくる。
皆笑って走っていたりして、一護は遠目からも微笑んで見ていた。
「何度見ても、ここが【カグツチ・ファミリア】の
そう言って、
「……身寄りの無い子供たちを育てていることには感動と尊敬に値します。ですが、子供たちが居る孤児院をファミリアの拠点にしていては……」
「対立するファミリアや冒険者に襲われても仕方ない、か?」
反応はしなかった。
だがリューは静かながらも雰囲気がチラリと少しだけ変わる。それはリューとって琴線を触れるところだったからだ。通常なら既にリューは相手のその発言に何かしら反応をしてたと思うが、彼には何も言わなかった。
変わりにその無表情な顔から真っ直ぐな視線を送られ、一護もそれに対して真面目な眼差しで返した。
リューのその整えられた美貌に見惚れることよりも、一護の脳には凄惨な記憶が焼かれていたからだった。
「……そうですね、鍛冶系ファミリアである【ヘファイストス・ファミリア】に匹敵する数、探索系ファミリアとして高ランクのLv.を誇る【ロキ・ファミリア】に匹敵する冒険者。それを両方兼ね備えるファミリアと言えば、極東から進出してきた【カグツチ・ファミリア】。その強豪であるファミリアにわざわざ手を出してくる愚か者は、オラリオに住んでいない周辺諸国くらいですか」
「別に国まで例を出すまでとは言ってねぇけど……」
「何を言っている……知っているんでしょ? 【カグツチ・ファミリア】の〝小隊〟がダンジョンに潜っただけで、軽くダンジョンの中層まで行けるという話です。それ以降、【カグツチ・ファミリア】はダンジョンに潜ることが減り、今やオラリオの警備や都市周辺にある町村に
リューも見たことがあった。
極東出身者も多く、服装も同じ極東出身者で固められている【タケミカヅチ・ファミリア】と似ていたが、多くの者たちが
そんな二人は立ち話も疲れるからと、孤児院にへと足を運ぶ。
「おっ? そこに居るのは一護くんじゃないか」
「ウキタケさん、久しぶりです」
孤児院の中に入れば、中々どうして綺麗にされたものだった。外だけがボロく見えたおり、中はまるで作られたばかりかと思われるほど綺麗にされていた。
そして一護たちを出迎えたのは、真っ白な長髪を背中まで伸ばした男性が迎えてくれた。
少し薄幸感を漂わし、虚弱に見えてしまったが、れっきとした【カグツチ・ファミリア】の幹部の一人だ。
「どうも、リュー・リオンと申します」
「これはこれはご丁寧に。私はウキタケ・十四郎という。好きに呼んでくれてかまわない。そして、一護くんと同様にこの『
緑衣から顔だけを出し、丁寧に挨拶するリューにウキタケも同様に挨拶を返す。
「事件の話は聞いているかな?」
そう切り出してきたのか、一護たちを孤児院の接客室……と言うより職員が仕事をするような部屋にへと案内され、
「私はイチゴから少しだけ」
「そうか、と言うより未だそれだけしか我々も情報を手にしていないからなぁ。詳しいともなんとも」
アハハと乾いた笑みを浮かばすウキタケに、リューはオラリオで薬を調合して地道に働いている【ミアハ・ファミリア】の主神であるミアハを彷彿させられた。イケメンなのに何処か苦労している。
「…………ソイフォンたちだったら調査とか簡単だと思うんだけどな」
「残念ながら、彼女には極東に物資を運ぶ
ソイフォンと呼ばれた者に少しだけ反応し、リューが一護を見ていたが彼は気にせず質問していく。
「オラリオで起きた冒険者に関係する人々への襲撃。こんなの……」
「人の仕業だと考えるのは妥当だろう。それ以外にも考えられるものは浮かんでは来るが、どうもね……」
要するに行き詰まっているという。
だが、それは表面上だけなのだろう。
「一応、【カグツチ・ファミリア】から抜けた者たちからの協力も仰いでいる」
大手で名高い【カグツチ・ファミリア】は、
「……じゃあ俺たちは」
「折角来てもらったところ悪いが、
「ウキタケさんも大変すね」
「そんなことはないさ」
【ガネーシャ・ファミリア】。逞しい青年神ガネーシャの運営する大手のファミリアで、エンブレムは像の顔。腕の良いモンスター調教師を多数抱え、年に1度観客の前でモンスターを調教する『
【カグツチ・ファミリア】はこの【ガネーシャ・ファミリア】とも友好を築こうとこうやって情報を交換していたりしていた。
戦闘の準備をしてきた二人だったが、今回のウキタケの話を聞くと、誰が襲撃し、何のためにしているのかさえ分かっていない状態。
それを調べるにも、かなり混雑した状況にへと向かっているらしい。
一護はウキタケとある程度雑談をした後、リューと『火子』孤児院から出ていこうと、ドアから出ていこうとすると、
「わーい! 〝おじじ〟だー! おじじが帰ってきたよー」
「ほんとだー! おじじだー!!」
孤児院の子供たちが一斉に騒ぎだしたと思えば、ずっしりと威圧感を漂わす老人が帰ってきたところだった。
にこやかに、そして慈愛のある満面な笑顔で子供たちの出迎えに喜んでいたのは、一人の杖をついた老人だった。
だが、冒険者であれば感じるだろうか。その老人は老人と思えぬほどの威圧感を放っており、子供たちはそれに気付かず、老人の周りにへと集まっていった。
「い、イチ……ッゴ!? あ、あの……ご老体は?」
まるで重力によって押し潰されるのではないかと錯覚するほどの『なにか』に、リューは息をするのも苦しそうにして一護に聞いた。当の一護は息苦しくなっているリューを肩を貸して支えると、途端に息苦しさが直る。
(あっ……)
支えられた太い腕に、思わず意識を持っていかれたが、今目の前で子供たちの頭を撫でているご老体に意志が自然と切り替えられた。ダンジョンに現れる巨大な階層主、
だんだんとだが、微かにその威圧を抑え込んでいくのがリューからでも分かってくると、その老人は白く色素が抜けてしまったであろう長い顎髭を触れながら歩いてきた。
「くっ……! 」
またもリューは冷や汗が止まらず、体を強張せた。だが武器を握るような愚かな行動もしない冷静な頭も残っていたことが幸いだった。
もし武器なんてものを触れれば、自分なんてものの数秒もかけず、刹那の瞬間で滅せられただろう。安易に想像できた。
「オホッホッホ! いやいや済まなんだ。見知らぬ冒険者も交じっておったからのう。ほんのちょこっとだけ〝闘気〟を漏らしてしもうた」
「ほんとに勘弁してくれよ……俺もかなりしんどかったぞ」
「……のわりには冷や汗一つ滴っておらんじゃろう。成長しよるのう、若い者は」
オッホッホッホ。と笑う老人に、リューは少しだけ唖然となった。
「いや本当に済まないのう。儂の名を告げておらんかった」
「い、いえ、とんでもございません! 私も名乗らず失礼をっ!」
気付くように、自然とリューは老人に敬いながら謝ると、老人も『いやいや、こちらに非がある』と謝るリューを止める。
「儂は【カグツチ・ファミリア】の総隊長を務める、ヤマモト・重國という。気がるに〝シゲシゲ〟とも呼べば良かろう」
ニカッとふわふわな髭を揺らして笑った重國に、戦慄を覚えながらリューは『それは畏れ多いことです!』と力強く言って辞退させてもらったいた。
「話は十四郎から聞いたか」
「あぁ。じいさんもオラリオから戻ってきたのか? 【カグツチ・ファミリア】の総隊長が一人だけとは危ねぇな」
「いや、そんなことはないぞ」
そう言っていると、孤児院の入り口に続々と黒い着物を着た隊員たちがゼーゼーと息を切らして到着してきた。
まさかこの老人、あの若い連中より早く帰ってきたのか、と一護が思っていると、隊員たちは重國を視界に入れると次々と妖怪を見るように
「……………………」
横でリューが信じられないような光景を目にして唖然としている。この老人が嘘を言っている感じではないことを察知したらしいが、やはり脳が追い付いていないらしい。
「えぇと……取り合えず俺たちは帰るよ」
「おぉ、そうか。ならば土産でも持って行かそう」
「いやいや、大丈夫だから。それより、疲労した
倒れるくらい走らせてきたのか、という疑問を浮かんだリューだったが、最早何も言わない。
その後、土産物の和菓子を貰った一護たちは、重國たちと別れ、帰路についたその道中でリューは色々と一護に質問攻めをしていた。
「あの、お人は、一体、何者なのですか!?」
「区切りながら言うな面倒な、え~と、ヤマモトのじいさんの事だろ? あの人が【カグツチ・ファミリア】の総隊長やっていることと、今まで極東であの人以上の強い人が出てこなかったことしか知らねぇな」
「凄く重要なとこですよイチゴ! 」
極東では、未だに貧困が続き、モンスターも点在して現れては人間を襲いかかる場所が当たり前のようにあったらしい。
治安も存在せず、毎日が血を血で流すことが日常だったという。
そこに現れたのが【カグツチ・ファミリア】を始めとした極東に降り立った神々たち。
一護が調べただけだも【アマテラス】【ツクヨミ】【スサノオ】という姉弟神まで降り立っていた。そうした中で、徐々にだが極東安寧の為に、多大なモンスターを狩る為に広大な大地で戦いの日々に明け暮れたという。
「そんな生きる為に、極東に来た神々は沢山の
「……そして、当時からその【カグツチ・ファミリア】の代表を務めていたのが、あのヤマモト・重國殿……」
リューは果てしない話の末端を聞いた気分だった。
だが一護も詳しく聞いてないのか、それとも【カグツチ・ファミリア】を配慮してか、それ以外は話さなかった。
だが、改めてリューは、あの老人がどれだけの高レベルを保持しているのかも興味を引かれたが、興味が人を殺すこともある。必要以上に聞くつもりもないと、リューもそこでこの話を終わることにした。
冒険者の関係者たちを襲撃する事件は、まるで進展もせず、未だ謎が残るままだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「
「そんな事ありません。小さくも孤児院で笑顔で走り回る子供たちの笑顔。極東から進出してきた大手【カグツチ・ファミリア】の拠点場所、そしてそのファミリアの代表であるヤマモト・重國殿とのコンタクト、実りあるものでした」
無表情ながら満足したような顔となるリューに、一護は笑みを浮かべて『そうか』と答える。
これにまたリューが『……そうです』と真面目に見つめ返す彼女だったが、すぐに視線を逸らした。
「リオンはもう仕事か」
「そうですね」
事件を知ることが出来たが、進展も無かったことを口惜しく思いながらも、リューは今晩の『豊饒の女主人』で働くことを思い出していた。いや、決して忘れていた訳じゃないが、いきなりの事が多々あった為に、混乱していた。
「今日は助かったぜ?」
「……フフフ、疑問系ですか」
「そうだろ? 誘っておいて戦闘も何も無かったし」
「確かに私も何も出来なかったことを口惜しく思っていましたが、別に私は戦いたかったわけじゃないですよ?」
「……なん、だと!?」
「なんですかソレ。何に対しての驚きですかっ!」
マントを靡かせて驚いている一護に、リューは少しだけ無表情だった顔を眉を吊り上げて怒ってきたが、一護は悪かった悪かったと告げてリューと向き合う。
「また頼んでもいいか?」
一護の真っ直ぐな眼差しに、リューはスッと動きが静かに止まる。それと同時に心音がはね上がる。
力強くも、それは護る為に力を使いたいと思っている瞳で、リューは一瞬で一護の穢れない真っ直ぐな瞳で身動きが出来なくなった。
(まったく……なんて目で、見るんですか)
エルフ故に、その絶世の美貌故に下劣で薄汚い眼差しを受けながら生きてきて、今も
ただ、無言で、頷き、
そして俯く。
彼に、顔が紅くなっていることを気付かれないように、
俯くリューを心配しながらも、一護は重國から貰った和菓子をリューと分け合うと、『今日はありがとな、また』と言って去ろうとする。
だが、己でも分からない内なる感情が彼女を動かす。
「ま、待ちなさい!」
「うおぉッ!? びっくりしたぁ」
しまった、と思わず大声を出して一護を呼び止めてしまったリューだったが、何も思い浮かばない。頭が真っ白だ。
無言で無表情で、一護を見る。そして視線を逸らす。
「え……ど、どうしたリオン」
「……っっ!」
過去に最愛の友から呼ばれたその呼び方を、琴線を触れるかのように、一護はリューを何度か呼び掛ける。だがやはり無言と無表情、そして無反応。
リューの心境を知らない一護は、これにはやはり疑問が浮上してくる。ここまで無が揃うと、一護も別のアクションを取るだろう。そしてこれは本当に自然に行ったことだった。
場所はオラリオ郊外に繋がるメインストリート、行き交うのは商人やら冒険者やらで賑わう所。
一護は思った。
もしかしたら、何かを訴えているのではないかと。
出会った時も、その後も、この無表情な顔からどうやって彼女の伝えたい意思を知れるのか、試行錯誤した。その結果が、これまた『色々と試す』という解決の糸口すら掴んでいない方法だった。
未だに試行錯誤しているのだ。
そして一護は今の状態を冷静に分析した結果、該当するものがあった。
それが、
「……もしかして、熱あるのか?」
「……ぁ………………」
リューもどうしたものかと考えていた時だった。
一護は弟にするように、否、この世界では当たり前にやる、熱を計るとき行うこと。それは己の額と相手の額を当て、熱を感じとるというものだった。
そう、
行き交う人々がそれを目撃しては、目が奪われてしまう。誇り高いあのエルフに触れるばかりか、普通の人間でさえ顔を触れることを余り受け入れることも無いというのに、この男はやってのけた。
ある大きな荷物を荷台で運んでいた
これには無表情を決め込むことなんか不可能になったリューが赤面しながら一護を突き放そうとするが、一護はそれを許さず熱が分かるまで離れない姿勢を取った。これには、リューも冒険者としての
(彼は私のためにこんな公衆の面前で恥ずかしいことをしてくれているのではないか? わた、私を……しし……心配して、心配して、ひんぱいひて……)
己を律することを学んでいたリューだったが、ここにきてまたも脳内が暴発しそうになると、一護は、
「なんだ、少し熱いがでもこれなら大丈夫だろう。一杯飯食べて寝れば治る」
そう言いながら一護はリュー額から離れる。
すると周囲に広がるトラブルを見て『……なにしてんだコイツら』と自分関係ありません的な流で見ていた。
「リオン?」
何度目か分からない彼からの呼び掛けに、やっとリューが熱を冷ましてくるが、未だに熱い。
「あぁ……えぇと、その、きょ……今日の夕飯は、ぜ、是非『豊饒の女主人』へ!」
普段そんなに慌てないことと、常に冷静な対応で評判を得ていたリューだったが、ここにきて自分を殴りたいと思ったことは初めてだった。
これほどの醜態を晒し、もう彼に失望されてもおかしくないという、凄い勢いで自分を追い込んでいたリューだったが、当の一護はというと、笑ってリューを見ている。
「なんだよ、やっぱり元を取ろうとしてんな」
「ち、ちがっ!」
「嘘だよウソ。分かったよ、今日食べに行く」
一護がそう言うと、そのオレンジ色の髪を揺らしながら、マントを翻して答えると、家にへと帰っていく。そんな彼の後ろ姿を眺めながら、リューは『豊饒の女主人』に帰るまで、珍しく上の空で帰っていった。
お気に入り登録してくださった方々に深い感謝を。
本当に嬉しく思います。
この作品では、なるべくキャラ崩壊しないよう努力しながら書きましたが、どうでしょう(;´д`)
因みに一護は藍染と戦う為に〝刃禅〟をして少し髪が伸びた時の状態で、リューと同じ21歳くらいです。