ダンまち ~黒衣と煌めく刃~   作:凸凹凹凸

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新年明けましておめでとうございます。
大分書いておりませんでしたね。申し訳ありません。マジで忙しかったです。



『 神々の宴 』

 

 

 

 

 夜。

 月が空に浮かび、辺りを闇の緞帳(どんちょう)が下りている。月光に薄く彩られた森林の一角では梟の鳴き声がホロホロとよく通っており、かすかな葉擦れの音と緩やかに絡み合っていた。静謐(せいひつ)な鳥の声は森を抜け夜風に乗り、草原の頭上を涼しく舞っていくが、ある地点を境にその流れを阻まれる。

 巨大な壁だった。

 城壁と言っても過言ではないほど厚く、高く、堅牢な、『市壁』だった。

 巨岩で構築された防壁の内側からは暗闇を押し退ける光が滲み、溢れ出てくる喧騒の波は外部の音を容易く塗り潰してしまう。

 迷宮都市オラリオ。

 神々が降臨する以前の『古代』と呼ばれる時代から存続する世界有数の大都市であり、同時に世界で唯一(・ ・)の迷宮都市だ。

 周囲を市壁で囲まれる都市の形体は完璧な円形。外周部方面には比較的長大な塔や高層物が目立ち、中心地に向かえば向かうほど建物の背は低くなっていく傾向がある。すり鉢状の都市はどこもかしこも光の粒───魔石灯(ませきとう)の光を宿し、あたかも星の海のように輝いていた。

 

 広大な都市の中央には天を衝く白亜の摩天楼。

 オラリオ全体を見渡してもこれ以上高い建築物は存在せず、闇を切り裂いてそびえ立つ巨影は圧倒的な威容を放っている。オラリオに訪れた者が最初に目にするのがこの塔だった。

 ダンジョンの『蓋』として機能するこの摩天楼施設『バベル』を中心にして(───つまり都市の名称通り迷宮(ダンジョン)を起点にして───)このオラリオは栄えていた。

 

 未知という名の興奮、巨万の富、輝かしい栄誉、そして権威。

 全てがこの都市に揃っている。

 

 『世界で最も熱い都市』と、オラリオはそう呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっ、あそこにいるのはド貧乏【ファミリア】代表のタケミカヅチ君じゃないか! フヒヒヒ』

 

『あっ、あの年がら年中幸の薄そうなシケた顔はタケミカヅチさんじゃないですか! フヒヒヒ』

 

『このクソ神どもがぁ……!?』

 

 そして必然。

 人間の冒険者達より未知(・ ・)という存在に飢え、娯楽を求める彼等『神々』が、世界一熱いこの都市に先んじて身を置こうとするのも、また然りだ。

 ある敷地内。

 通常では考えられない数の神たちが、群衆さながら大きな団体を作り上げていた。

 点々数多と光をちりばめる巨大な都市オラリオの中でも、ソレは異彩を放っていた。むしろ奇怪を極めていた。

 象の頭を持つ巨人像が、白い塀に囲まれただけのただっ広い敷地の中で、胡座をかいてデンと座っている。

 【ファミリア】の貯金をはたいて建造した巨大施設。

 【ガネーシャ・ファミリア】の本拠、『アイアム・ガネーシャ』である。

 構成員達の間でもっぱら不評であり、彼等は泣く泣くこの建物を建物を出入りしている。ちなみに入り口は胡座をかいた股間の中心だ。

 

『ガネーシャさん何やってんすか』

『ガネーシャさんマジパネェっす』

 

 貴族然とした正装を着込んだ人並み外れた美丈夫達が、笑いながら股間の中をくぐっていく。彼らは全員が全員、神だ。

 『神の宴』の来賓達なのである。『神の宴』とは、詰まるところ、下界にそれぞれ降り立った神達が顔を合わせる為に設けた会合だ。どの神が主催するのか日程はいつなのか、そのような決まりは全くもってない。ただ宴をしたい神が行って、ただ宴に行きたい神ざ足を運ぶ。神達の気まぐれの奔放さの一面がここを示されていた。

 

「ガネーシャもよくやるのう。そう思わんか、ヘスティア」

 

「むっ! そこの給仕君、踏み台を持ってきてくれ、早く!」

 

「は、はい!」

 

「無視か、このたわけめ」

 

 主催であるガネーシャが馬鹿でかい肉声で宴の挨拶をしている中、問答無用に話など聞かず、多種多様の料理と格闘していた。肉汁が滴るステーキなど女神の面影など残さず貪り食べる。

 ヘスティアとカグツチ。双子の姉妹に見えなくもない女神二柱(ふたり)に、【ガネーシャ・ファミリア】の構成員たちが務めるウエイターがせっせこ働いて食べ物運んでいた。この二人の体格ではテーブルの奥の方にある料理に手が届かないのだ。

 

「(さっ! さっ! さっ!)」

 

「………………」

 

「………………お主……」

 

 持参したタッパーに日持ちのよさそうな料理を的確に、そして次々と詰め込んでいくヘスティア。それを見せつけられ、女神像に少しヒビが割れていく給仕の青年はなんとも言えない顔をしていた。カグツチも少し涙目でそれを見ていた。

 立食形式(タダメシ)ということで彼女には遠慮するつもりが毛頭ない。【ヘスティア・ファミリア】はここにいるどの神の派閥よりも飛び抜けた貧乏【ファミリア】だ。愛する眷属(こども)たちの負担を減らすためならヘスティアは体面など一切気にせず、あらゆる節約にも乗り出す意気込みである。

 大規模【ファミリア】として極東から乗り出してきたカグツチはそんなヘスティアに同情と哀愁を感じ、正装の紅を主張とした和服で、袖で自然と流れ落ちそうになった涙を拭く。

 さらに見てみれば彼女のみ豪奢な衣装やドレスではなく、少しフォーマルな感じで誤魔化しただけの普段着だった。これにはカグツチも更に不憫に思い涙腺が崩壊しそうになる。

 

『あれ、ロリ巨乳来てんじゃん』

 

『ていうか生きてたの、か……あれ?』

 

『お、おい!』

 

『ロリ巨乳よりも凄いの来てるじゃねぇか!』

 

『出たぞ自称〝良妻賢母〟のカグツチちゃん!』

 

『噂は本当だったか。余り宴に参加していなかったヘスティアが来たことで実証されたな。……まるで双子のようだ』

 

 ヘスティアの振る舞いもあってか、二人の容姿も相まってか、注目の的にへと変わっていった。

 ヘスティアはちょっかいが出されない限り無視を決め込むつもりのようだったが、カグツチは自信満々な面持ちで堂々と話をしている男神たちに余裕の笑みを飛ばしていた。

 ヘスティアは着々と豪華な料理を口に出来るだけ放り込み、むくむくと丸い頬っぺたを動かしていると、横から声がかかってきた。

 

「何やってんのよ、あんたたち……」

 

「むぐっ? むっ!」

 

「待て、それは私も含めてか!?」

 

 脱力したような声がヘスティアとカグツチに投げ掛けてきたのは、燃えるような紅い髪と深紅のドレスを着た美しき女性。線が細くありながら鋭角的である顔立ちは秘めた意志の強さを表している。炎のような美貌にカグツチは『ほぅほぅ……』と少し熱の入った視線を飛ばし、ヘスティアは歓喜の顔に変色する。

 

「ヘファイストス!」

 

「ええ、久しぶりヘスティアとカグツチ。元気そうで何よりよ。……もっともマシな姿を見せてくれたら、私はもっと嬉しかったんだけど」

 

 右眼に大きな眼帯をした麗人が、呆れた色をした左眼でヘスティアを見下ろしている。逆にヘスティアを見たあと、カグツチを見るととても落ち着いた眼差しで見た。

 

「カグツチも久しぶりね。最近見なかったけど、【ファミリア】の眷族()たちは元気にしてる?」

 

「重畳よ。そっちも王悦(おうえつ)…………いや、《霊魂の刀鍛冶師(ソウル・ブラックスミス)》は壮健かの?」

 

「あぁ……アイツね。……アイツはまぁ、……はぁ~~…………」

 

「…………なるほど、息災か」

 

「どちらかと言うと頑健ね」

 

「カッカッカ! そうかのぅ!」

 

 火を扱うことに関しては馴染み深い女神たちだからか、ヘファイストスとカグツチは互いに【ファミリア】のことについて会話の花を咲かそうとしたが、カグツチはヘスティアに視線を向ける。

 如何にも『私も話がっ!』というウルウルした瞳でカグツチを見てきたことで、会話の熱を抑え、カグツチはテーブルにあったお酒を取りに行くことでヘファイストスとヘスティアの会話を設けさせた。

 思えば付き合いの長い女神たちである。

 このオラリオに住み着いてからヘスティアは【ファミリア】も作らず全く働こうとしなかったヘスティアへの信はヘファイストスの中でガタ落ちになっていた。それもそうだろう。そんな気軽に他の『女神』を自分の【ファミリア】の中に居座らせるのは今までにない例だったのだから。

 そんなヘスティアに、流石のヘファイストスも堪忍袋の緒が切れて【ファミリア】のホームから追い出した後も、ヘスティアは散々ヘファイストスを頼りにきて、やれお金だの仕事がないだの雨を凌げる場所が発見できないだの、とにかく彼女の手を焼かせに焼かせていた。

 元来から面倒見が良いヘファイストスはこの小さな神友(しんゆう)を甘やかすわけにはいかず、かといって厳しく突き放して行き倒れにさせる訳にもいかず、当時は対応に悩まされてきたものだった。

 それを見兼ねたカグツチは、ヘファイストスの良き相談者になったり、手伝ったりしたこともあったのだ。

 結局、教会の隠し部屋を与え、今のアルバイトを探してやったのもヘファイストスの手配りだった。だがそのアルバイトをヘファイストスに紹介したのがカグツチだったりする。面白いこともあるもんだと。

 そんなこともあり、ヘファイストスは辛辣な言葉でヘスティアを厳しく接している風に見えているが、カグツチからして見れば妹を心配している姉の構図が出来上がっていた。

 

「ふふ……相変わらず仲がいいのね」

 

「うん?……なんじゃ、フレイヤかの」

 

 そんな言い争っていた女神二人を見ていたカグツチに近寄ってきたのは、さまざまな神が集うこの中でも、群を抜いて一線を画してまっている女神に、カグツチは清酒を飲みながら視線を向けた。

 新雪を思わせるきめ細かな白皙(はくせき)の肌。細長い肢体は宙を泳いだだけで見る者を魅惑するような色香を漂わせており、小振りで柔い臀部(でんぶ)とその上に乗るくびれた腰は、直視することが理性に危うい。金の刺繍が施されているドレスは胸元が開いており、生地一枚に閉じ込められた十分な容量を誇る形のよい胸は、暑いのか、谷間が桜色に染まっている。

 黄金律という概念がここから摘出されたかのような、完璧なプロポーション。睫毛(まつげ)は儚く長く瞳は切れ目で涼しく、相貌は後光を発するごとく凛々しく。もはや超越している形容していいほどの比類ない美貌。

 美に魅入ら(・ ・ ・ ・ ・)れた(・ ・)神、フレイヤがカグツチを引っ張り、長い銀髪を揺らしてヘスティアの前までやって来たのだ。

 

「な、なんで君がここに……」

 

「ああ、すぐそこで会ったのよ。久しぶりーって話していたら、じゃあ一緒に会場回りましょうかって流れに」

 

「か、軽いよ。ヘファイストス……」

 

「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」

 

「そんなことはないけど…………」

 

 常に薄い微笑を浮かべる美神が問いかけてくる。

 ヘスティアは口を曲げながら言った。

 

「ボクは君のこと、苦手なんだ」

 

「うふふ。あなたのそういうところ、私は好きよ?」

 

 止めてくれよ、とヘスティアは手を振るう。

 他の神たちから頭一つ飛び抜けた容姿を持つこのフレイヤは『美の神』と呼ばれる、神々の中でも特に見目麗しい者達の中の一人だ。

 基本的に移り気な神たちが、涎を垂らして夢中になってしまうほどの力、『美』が彼等彼女等にはある。

下界の者が一目見ればその瞬間より骨の髄から虜になることだろう。

 だが、『美の神』達は一様に食えない性格をしている。これも他の神々が霞んでしまうくらいに。

 ヘスティアの変化の激しい面白顔と、フレイヤの至上の美しさを肴にして酒を飲むカグツチに、ヘファイストスが『飲み過ぎじゃないの?』と心配の声をかけてきてくれる。だがカグツチは『大丈夫じゃこれくらい』と笑いながら飲み続けている。

 そんなだがカグツチはそんな心配してくれる同じ『火』を司る女神に有り難さを感じていると、

 

「おーい! カグっちー、ファーイたーん、フレイヤー、ドチビー!!」

 

 品良く微笑むフレイヤから視線を切って回転すると、大きく手を振りながら歩み寄ってくる女神がいた。

 朱色の髪と朱色の髪と朱色の瞳。いつもは紐で結びまとめてある簡単な髪型を、今日はパーティーに合わせてか夜会巻きにしている。細身の黒いドレスを着こなしていた。

 フレイヤが出てきたで後なので二番煎じの感は否めなかったが、彼女も当然ヘスティア達と同じように顔立ちが美しく整っている。

 

「ロキか。……フム、やはりお主、【カグツチ・ファミリア(う ち)】に()るギンに似よるのぅ」

 

「いや、知らんかてそんなの」

 

「その訛りものぅ。相まって似よる」

 

「……ふん。何しに来たんだよ。君は……」

 

「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんのか? 『今宵は宴じゃー!』っていうノリやろ? むしろ理由を探す方が無粋っちゅうもんや。はぁ、マジで空気読めへんよ、このドチビ」

 

「……! ………!!」

 

「「凄い顔になってるわよ、ヘスティア」」

 

 カグツチやヘスティアより頭二つは高い神、ロキに馬鹿にされたヘスティアは顔を引きつらせる。

 彼女に対してもはやヘスティアが語ることは何もない。 ヘスティアからすれば彼女(ロキ)は敵だ。

 凄い顔になっているヘスティアにヘファイストスとフレイヤが思わず二人同時にツッコんでしまうほど歪んでいた。カグツチはこの二人(ヘスティアとロキ)の絡みが大好きだった。

 

「ちょっとちょっとカグっち! まぁたそっちの(もん)が絡んできて大変なんやけど、どうにかしてけれへんかな?」

 

「ほほぅ、ど奴じゃ? ()()なら地下に潜ったまま何処に居るのか分からんし、あとに《迷宮(ダンジョン)》に居るのは…………ふ~む。沢山(・ ・)居るからちと誰か言って貰われば分からぬなぁ」

 

「は、ハハ……。……さすがは【炎翁(えんおう)】や【剣鬼(けんき)】、果ては【巨鎧(きょがい)】まで居る【ファミリア】や。どれも神をも驚かせる戦闘能力持ちたちやで」

 

 ロキは渇いた笑みを浮かばせ、普段糸目がちな瞳を開薄く開いてカグツチを見るも、傲慢でもない確かな申し訳ない気持ちで言ってきたことに更に冷や汗を垂らされていた。

 

「確かに……ちょっとチートが過ぎるわね、あなたの【ファミリア】は。ウチのもこの間、ダンジョンで出会ったって言ってたけど、信じられないことに、モンスターが蔓延るダンジョンで昼寝(・ ・)をしてるって聞いたわよ?」

 

「あ、春水(しゅんすい)じゃな。ヘファイストス、それ春水じゃ」

 

「あら、そうなの? 私のほうの子たちの話では『迷宮の孤王(モンスターレックス)』相手に、一撃(・ ・)(たお)してしまう戦闘狂(バーサーカー)が居たとか? 何度も何度も繰り返してるみたいだけど…………』

 

「あ、ソイツじゃよ。剣八じゃ剣八。ほぉ~そんなことしてたかあ奴は! まったく。帰って来ぬのは何故じゃと思っておったら……そんなことしてたか』

 

「…………カ、カグツチ……君の【ファミリア】って一体」

 

 彼女たちの周辺で聞き耳を立てていた神たちも、そのカグツチの【ファミリア】の凄さに驚いていた。

 

「いやいや、ウチの話はもう止した方がいいじゃろう。それよりもロキじゃ。聞いたぞロキ? お主の【ファミリア】の名声を。上手くやってるみたいじゃのう」

 

「そうね、私も耳にしたわ。波に乗ってるってね」

 

「いやぁー、大成功しているファイたんやカグっちにそんなこと言われるなんて、うちも出世したなぁー。……でもま、確かに今の子達は、ちょっとうちの自慢なんや」

 

 頭へ手をやって照れ臭そうに【ファミリア】の構成員に触れるロキには、彼等へと向かう(こころ)が見え隠れしていた。

 つんとしていたヘスティアはその会話を聞いて、丁度いいとロキに質問をする。

 

「ねぇ、ロキ。君の【ファミリア】に所属しているヴァレン何某(なにがし)について聞きたいんだけど」

 

「あっ、《剣姫》ね。私もちょっと話を聞きたいわ」

 

「うぅん? ドチビざうちに願い事なんて、明日は溶岩の雨でも降るんとちゃうか? ハルマゲドーン! ラグナロクー! みたいな感じで」

 

 噛みつきそうになるヘスティアをカグツチがその身で止める。

 

「……落ち着けヘスティアよ。ロキよ? その噂の《剣姫》には、付き合っているような男や伴侶はいるのかい?」

 

「あほぅ、アイズはうちのお気に入りや。嫁に絶対出さんし、誰にもくれてやらん。うち以外があの子にちょっかい出してきたら、そいつは八つ裂きにする」

 

「ちッ!」

 

「なんでそのタイミングで舌打ちすんのよ……」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインがロキの庇護のもとで大切に扱われていることは分かった。

 きっとヘスティアがベルや一護にそうするような感じだろう。いっそ意中の相手がいてくれれば良かったものを、とヘスティアは割りと黒い思考を展開する。

 そんな彼女の隣で呆れ返っていたヘファイストス、更にその隣のカグツチは面白そうにしていると、ヘファイストスがふと今気付いたようにロキに尋ねた。

 

「今更だけど、ロキがドレスなんていうのも珍しいわね? いつもは男物の服なのに」

 

「───フヒヒ、それはアレや、ファイたん。どっかのドチビが慌ただしく、パーティに行く準備をしてるって小耳に挟んでなぁ……」

 

 ちらりとヘスティアに流し目を送ってから、ロキは腰を折り、背の低い彼女の顔にぐっと自分のものを寄せる。

 

「ドレスも着れない貧乏神(・ ・ ・)をぉ、笑おうの思ったんやぁ」

 

(うぜぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!)

 

 眼前でニマァと口を吊り上げるろロキに、ヘスティアは大爆発しそうになった。

 カグツチはこの二人の女神が会う度に喧嘩しているのが愉快でたまらなかった。なんと言えるのか、この二人ほど平和を感じさせる喧嘩は無いと思えるほどに。

 だが、何故こんなにもロキが彼女・ヘスティアにおちょくりを出しているのかは、周知の事実となっていた。その理由とは、ロキになくヘスティアにあるものに対する嫉妬からくるのも。

 デデン、と胸に実ったこの巨峰である。

 

「ふんっっ! こいつは滑稽だ! ボクを笑うあめに自分の無乳(コンプレックス)を周りに見せつけるなんて、ロキッ、君は笑いの才能(センス)があるね!」

 

「んなっ!?」

 

「ああ、ゴメンゴメン、笑いじゃなくて穴を掘る才能だったね! ……墓穴っていう穴のさぁッ!!」

 

 カグツチは飲んでいた清酒を吹き出そうになるところを(すんで)のところで口を押さえるが、笑いが込み上がり、美麗な顔がなんともまぁ醜く笑いを堪えていた。

 ヘファイストスは腕を組んで『……始まった』と半眼で二柱の神を静観する構え。

 果実酒を嗜んでいたフレイヤは、相変わらず上品な様でクスッと笑みを滲ませた。

 

「大体その母性ゼロのむ胸でどれだけ男を失望させてきたんだよッ! 絶壁なだけに絶望とか、馬鹿じゃないの!? あっ、今ボク上手いこと言ったねぇ!」

 

「全然上手くないわボケェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

「ふみゅぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 瞳に涙を溜めたロキがとうとうヘスティアに掴みかかった。

 その柔らかい頬を両手でつまみ、引っ張る。

 縦に横に斜めに伸ばしてみょんみょん蹂躙する。

 同じく涙目にになって眉を吊り上げるヘスティアは応戦するが、彼女の短い手足ではしなやかで長い四肢を持つロキには届かず、ことごとく空を切った。

 

『お、始まった』

 

『ロリ巨乳とロキ無乳とか……』

 

 見物だ見物だと取り巻きだす神々一同。

 こいつら……、とヘファイストスがげんなりする間にも熾烈な争いは続いた。プニプニの頬をがっちり掴んだロキの手が縦横無尽に動く度、ヘスティアの小さな体もつられて揺さ振られる。

 揺れて揺れて、揺れる。

 たゆんったゆんっ、揺れる。

 

「ぐぅ、がはっ! こなクソォが!」

 

「「「耐えてる、だと!?」」」

 

 女神の顔とは思えぬ酷い顔となって血の涙を流す勢いで泣きながらも、ロキは耐えた。

 だが既に満身創痍。ロキは追撃を与える体力がなくなっていた。フルフルと震えるロキは床に落ちた幼女(ヘスティア)を一瞥もくれず、その場から離れていった。

 耐えたというのに、試合に勝って勝負に負けた者の姿にへと変わっていた。

 

「ふっ、ふぬんっ……! 今度現れる時は、その貧相なものをボクの視界に入れるんじゃないぞっ、この負け犬めっ!」

 

「うっさいわアホォー! 覚えとけよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 涙を長し、ロキは叫び声を上げながら会場から出ていってしまった。

 他の神達も勝負が見えていたのだろう。各自注目していたヘスティアやロキから意識を離して、元の雑談にへと変わった。

 

「本当に丸くなったわ、ロキ……」

 

「丸くなったっていうか………小者臭しかしないんだけど……」

 

 ぽつりと呟かれるフレイヤの言葉にヘファイストスは本気で戸惑った顔をするしかない。

 フレイヤはくすりと笑って自分の髪を撫でつける。

 

下界(ここ)に来る前までは暇潰しのために、どこか神達に殺し合いをけしかけていたのよ? 今の方がずっと可愛いわ。何より危なっかしくはいもの」

 

「そりゃあね。そういえばアナタとロキは結構付き合いが長いんだっけ?」

 

「ええ。アナタ達と同じくらい」

 

 よたよたと立ち上がるヘスティアをカグツチに手伝って立たせてもらってるところだった。

 

「ロキは子供達が大好きみたいね。だからあんな風に変わったのかもしれない」

 

「……甚だ遺憾だけど、まぁ、子供達が好ましいっていうのはボクもロキに賛同してあげるよ」

 

「へぇ、前まで『【ファミリア】に入ってくれなくて子供達は目がなーい』、なんて言ってたくせに…………あなたの【ファミリア】に入ったベルとイチゴ? だったかしら? その子たちのおかげ?」

 

「確かに、オレンジ色の髪に眉間に皺寄せた子と、白髪で赤い目をしたヒューマンだっけ? 【ファミリア】ができたってあんたが報告しに来た時は驚いたなぁ……」

 

 うんうんと頷くヘファイストス、笑みを作るカグツチ、そしてその隣でフレイヤが動きを作った。

 コトン、と持っていたグラスをテーブルの上に置いて、髪を翻す。

 

「じゃあ、私も失礼させてもらうわ」

 

「え、もう? フレイヤ、貴女用事があったんじゃないの?」

 

「もういいの。確認したいことは聞けたし……」

 

 そう言って、フレイヤはその場から男神たちが視線を釘つけにさせながら、優雅に帰っていった。

 

「相変わらずの凄いのう。コノハナを思い出す」

 

 東方に降りた神々の一柱(ひとり)を思い出していると、フレイヤと違いちゃんと夫の為に働いていたことを思い出していた。

 さて、とカグツチは下ろした黒曜石の如く輝く長い黒髪をいじりながら、煙管(キセル)を取り出した。

 

(ある程度の情報はここで集めておいて、後は眷属(こども)たちにでも任せようか)

 

 真っ白な歯が牙のように獰猛に見え、煙管を噛み揺らし、白煙を吹きながら強者が集う自らの【ファミリア】のことを考える。

 

(フレイヤに悪いが、恐らく大分邪魔になるじゃろうな……私の可愛い子供たちに)

 

 くくく、笑うカグツチは、幼い容貌に似合わぬ笑みを浮かばせ、思いを馳せるのであった。

 

 

 







 


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