フーリッシュ・ソウル~FS~ 作:ガン☆ガン
その光景に俺の心はどうしようもなく揺れ動いた。
体が震える。興奮が止まらない。
目の前に立つ男は、そんな俺を笑顔で見ながら口を開く。
「言っただろう?俺たちは―――」
◆ ◆ ◆
インフィニット・ストラトス。通称ISは早い話が恐ろしく優秀な宇宙服である。
しかし、それは構想段階の話で、今はもっぱら兵器としての運用が目的のパワード・スーツだった。
それだけ優秀と思えばいいのかもしれないが、開発者からしてみれば宇宙に行くために作ったものを勝手に兵器として使われていい気分はしないだろう。
だが俺は、そんな開発者には少しも同情しない。
なぜなら、このISの女性しか使えないという欠陥のせいで、世界は極端な女尊男卑へと変化してしまったからだ。
しかも、ISが兵器として運用されるきっかけは、開発者自身が起こした『白騎士事件』であるのだから、同情の余地はない。
むしろ俺は、こんなくそのような兵器を作り出したIS開発者。篠ノ之束憎んでいた。それはもう思いっきり。
「はい次。
名前を呼ばれ、前に出る。
そして、目前に置かれたISを見た。
やはり、嫌いだ。視界に入れるだけで、胃がむかむかする。
二週間前、世界で初めて、ISに乗ることができる男性が見つかった。
織斑一夏。世界最強のIS乗りと名高い織斑千冬の弟。その弟がISを動かした。
そのニュースに世界は震撼し、世の男どもは狂喜乱舞した。
そして始まった世界各地での身体検査。つまりは男性にISを触れさせ、動くかどうか調べるという、単純だが面倒な作業が世界中で始まったのだ。
その結果、日に日に世の男たちの興奮は冷めていった。
世界のほとんどの男性が検査を終えて、結局今日まで新たな男性操縦者は見つかっていない。
世間では、やはり織斑千冬の弟だから動かせたんだ、という意見が多くなっていた。
世の男たちは落胆した。そして俺もまた、落胆した男の一人だ。
男もISを動かせるようになれば、こんな歪んだ世界をぶち壊すことができる。
そんな俺の希望はもうすでに粉々に砕かれていた。
男がISを動かす条件が、織斑千冬の遺伝子を持っていることなのだとしたら、あと一万年たっても男がISにおいて女と平等になることはないだろう。
「じゃあ、ここに手をおいて」
係の女が高圧的に、そしていかにも面倒くさいっていう感じで言った。
へーへーすみませんね。女様に男ごときがお時間おかけして。
頭でそんなことを考えるが、顔には一ミリも出さずに女の言葉に従った。
ISに手が触れる。
その瞬間、頭の中に、とんでもない量の情報がぶち込まれた。
足がふらついて、その場にしゃがみ込む。
頭がぐらぐらして、さっきとは違う意味で胃がむかむかしていた。
―――俺はISを動かせる。
驚愕と焦燥で固まった女の顔がたまらなく愉快だった。
◆ ◆ ◆
油断していた。予想していなかった。
俺の中にそんな後悔が渦巻いていた。
ISを動かしてから二日間、俺は保護という名のホテルでの軟禁を受けていた。まあ、世界でただ二人しかいない男性IS操縦者だ。これは仕方ないものとして受け入れていた。織斑一夏も同じようなことされているらしいし。
それよりも俺にとって厄介なことが起こった。
何とIS学園(女子高)への入学が決まりました。
いやだ。超行きたくない。
第一IS動かしておいてなんだが、俺はIS大っ嫌いなのだ。それに依存する女どもも大嫌いだ。
俺は浅慮だった。俺が大嫌いなタイプの女たちもまた、俺のことを大嫌いだということに考えが及ばなかった。
ホテルが襲撃されたのは三日目の朝のこと。
俺は絶賛誘拐され中だった。
「なー。やっぱりここで殺さねー?速い方がいいっしょー」
「だめだ。こいつは研究した後に殺すことになっている」
「めんどいよー。下手にどっかに動かれる前にやっちゃおうよー」
「だめだ」
くそっ!会話からして人間扱いしてねぇ。完全にいかれてやがる。
縛られて身動きが取れないままに、会話を聞く俺は、自分の体がわずかに震えていることに気が付く。
このままこいつらに連れ去られてしまえば待っているのは、人体実験と確実な死だ。
どうにか逃げ出したいが、相手はIS持ち、こっちは両手足を縛られている。まあ不可能だろう。絶体絶命だ。
全く、ISというものは世に出て以来俺に不幸ばかりを与えてくる。
もしこの兵器を絶滅できるんだったら、俺はなんだってしてやれるだろう。
俺の思考が現実逃避へと向かってきた頃に、それは起こった。
「ん?」
初めに気づいたのは運転していた女。しかし、そいつもあまりのことに反応することができなかった。
突然、車が横から衝撃を受けて横転する。
シートベルトなどつけていない俺は車の中でバウンドして意識が飛ぶ。
意識を失う寸前、ぼやけた視界に映ったISに、うんざりした気持ちになった。
◆ ◆ ◆
目が覚めた。体が痛いこともあるが、何処に連れてこられてしまったのだという不安で、体の動きが鈍かった。
それでも何とか体を起き上がらせる。
笑顔の男性と目があった。
「おはよう槇部君!起きなかったらどうしようかと思ったよ!ほら、メグも謝って」
「申し訳ございません。まあ平気だろうと思って無茶しました」
「?、?」
「あーごめんごめん。訳が分からないか」
男性は笑顔のままそう言った。無表情な女性の方も何となくこちらに敵意は感じられなかった。
「俺は川口社社長、
「メグとおよびください」
「彼女は一応君の命の恩人になるかな」
「……それはどうもありがとうございます」
「もっと感謝していただいてもいいのですよ」
無表情のまま胸を張る女性は、少なくとも俺を見下している感じはしなかった。
命の恩人。川口さんの言葉を頭の中で繰り返す。助かったのだ。少しだけ泣きそうになる。
「おっと、ごめんね。時間がないんだ。少し話をさせてもらうよ」
「…はい」
落ちそうになる涙を必死に止めながら、俺は川口さんの方を見た。
「君にはやってもらいたいことがあるんだ」
「えっと、テストパイロットですか?」
「いや、それもしてもらいたいんだけど…一番してもらいたいのは違う」
「な、なんですか」
川口さんは恐ろしく真剣な表情で言った。
「俺たちと一緒にISと戦ってほしい」
覚悟と自信に満ちた瞳だった。昔、こんな瞳をした人に俺は憧れていた。
「ドイツで生まれたナノマシンを俺たちで改良「待ってくれ!!」し……なんだい?」
「ISと戦う?意味の分からないことを言わないでくれ!!なんでそんなこと俺が……それに」
「槇部君。俺たちは君のことを調べさせてもらったよ。十一月三日生まれで、血液型はO型。三歳の時に母親が死亡しており、父親も九歳の時に死亡。その後は祖父に引き取られるもその祖父も去年の夏に病死。今現在は一人暮らし。……そして父親の死因は女尊男卑の過激派による刺殺。その犯人は同じように5人殺害するも死刑にはならず今も服役している。さらには、祖父の遺産。君が受け継ぐはずだった遺産の半分以上を、男だからと叔母に奪われている。……君がISと戦う理由としては十分だと思うけどね」
「…そうだとしても!それでも……」
「槇部君。俺たちは勝てるよ。ISに、ね」
「・・・」
「おっと、やっとだ。すこし、見てもらいたいものがある。歩けるかい?」
俺は混乱する頭を抱えながら、メグさんに支えられて会社の外に出た。途中で川口さんはどこかに行ってしまった。
「あのメグさん。いったい何を」
「お待ちください。後三十秒ほどです」
メグさんの言葉が不思議で俺はきょろきょろとあたりを見回した。
そしてきっかり三十秒後。空から、一機のISが降ってきた。
「ああああああああああーっ!!!」
乗っているのは俺をさらった女の一人だ。その顔は怒りに満ち満ちている。
殺意のこもった瞳が俺の方へと向いた瞬間。
また一機。今度はもっと小さく全身を覆うようなスーツが空から降ってきた。
◆ ◆ ◆
「おとーさん。おかーさんってどんな人だったの?」
「お母さんか。素敵な女性だったよ」
「ほんとにー?女の人ってみんな威張ってるのに?」
「お母さんはISが生まれるよりも早く死んじゃったからなー。でもきっと今生きてても素敵な人だったよ」
「うーん。じゃあISがなければもっと素敵な人がいたの?」
「うーんどうだろうなー。そうかもしれないね」
「じゃあ、ISなんてなければよかったのに!」
「ははは、そうかなーお父さんは、もっともっとISがすごくなって、男の人が乗れるようになった方がうれしいな」
「えー!」
◆ ◆ ◆
「すごい……」
「ISに比べれば、まだ飛行能力は弱いですが、ナノマシンを使い肉体を強化することで出力は申し分ありません。そのせいで少々危険ですが」
メグさんの説明が耳を通り抜けていく。
それほどまでに俺は興奮していた。
俺はISが嫌いだ。俺から父を奪う原因になったから。今まで、理不尽に乏しめられる原因になったから。
大っ嫌いだ。すべて破壊したいほどに。
俺の大嫌いなISは目の前で打ち砕かれていた。男が操る、ISではないものによって。
川口さんが操っているスーツは、もう完全に動かなくなったISの上に立つ。自らの勝利を俺に示すかのように。
「このスーツはISのように優秀じゃないから、命の保証がない。体内に入れてるナノマシンだって、今のところ入れたやつの生存率は三割だ。だけど、それでも戦いたいって
その光景に俺の心はどうしようもなく揺れ動いた。
体が震える。興奮が止まらない。
目の前に立つ男は、そんな俺を笑顔で見ながら口を開く。
「言っただろう?俺たちは―――」
心臓が躍るように鳴っている。
「―――ISに勝てる」