フーリッシュ・ソウル~FS~   作:ガン☆ガン

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心以外に

「さて槇部君。君には予定通りIS学園に入学してもらう」

 

 会社に戻った後、幸助さん(こう呼べと言われた)は開口一番そう言った。

 俺は不満な感情を、いつもとは反対に思いっきり顔に出しながら「なぜですか」と聞いた。

 

「そうだなぁ。まず第一にまだ俺たちがISと全面戦争する準備が完了してないから。……わかってると思うけど、君にFSを使わせることは基本的にないよ」

「……はい」

「せっかくの男性IS操縦者をナノマシンで死なせちゃうわけにはいかないしね。大丈夫!戦いの準備はあと数カ月で終わる。それまでにISをある程度動かせるようにしといてね」

「わかりました」

 

 俺は幸助さんの言葉でうっすらと理解する。

 ―――自分は象徴なのだ。ISという歪と戦う男たちの象徴。

 俺自身が一騎当千の強さを持たずとも良い。ISに乗れる男が、ISと戦っているという事実こそが重要なのだ。

 ゆえに戦いまではFSの近くではなく、ほかの国から干渉されないIS学園にいさせるのだ。また誘拐などされないように。

 その結論に達したことを察したのか、幸助さんは満足そうな顔で話を続ける。

 

「あと、学園に入ったら織斑一夏と接触してくれ。正直望み薄だが彼が俺たちと同じ考えを持っているならば引き入れたい」

「わかりました」

「最後に槇部君。これはできたらいーな程度に心にとどめておいてくれ」

「?」

「おそらく篠ノ乃束は君に接触してくるだろう。いや、してこなくても彼女と関わりが深いものが多くいるIS学園に訪れるかもしれない。だから俺たちの準備が完了、もしくは完了寸前の時に彼女にあった場合。彼女を條ノ乃束を……殺害してもらいたい」

「…殺害ですか」

「そう。彼女が生きている限りはISを滅亡させることはできない。彼女の死は俺たちの勝利の絶対条件なんだよ。…でもまあほぼ不可能だろうから。そこまで積極的にならなくていいよ。何せ相手は天災篠ノ之束だ。失敗したら大変だしね」

「……わかりました」

「さて、と」

 

 幸助さんは立ち上がる。俺もそれに続くように立ち上がった。

 

「じゃあ、槇部君。これからきっと君はここで生活することになるだろうし、ここの案内をしてあげよう!」

「…ホテルで軟禁とかじゃないんですか?」

「国の不手際で誘拐されかかった君を助けたのだから家で預からせろ~っていえばたぶんいけるだろう。君もうちにいる方がいいだろう?」

「もちろんです」

「なら、100パーいけるね」

 

 くくっと笑いながら、幸助さんは部屋を出る。俺もそれに続いた。

 

 最初に連れてこられたのは研究室のような部屋。というより思いっきり研究室である。

 

「ここがわが社の研究室。レーザーとか新しい武器の理論とかをつくってるよ。そして彼がここの責任者の増田 源(ますだ げん)君」

「うーーーす」

 

 気だるげな雰囲気を持つ増田さんは、俺と握手を交わした後、思い出したかのように幸助さんとしゃべり始める。

 

「そうだ社長さん。この前の新兵器なんだけど―――」

「ああそれならやっぱり―――」

 

 そこから二人のわけのわからない話をたっぷり三十分ほど聞いた後に、研究室を出た。

 その際、幸助さんに「ここに不用意に入らないようにね。死んじゃうから」と言われた。

 なにそれこわい。

 

 次に俺が連れてこられたのは整備室。見回すとごついメカがいくつも置いてあるような部屋だった。何人もの人間がそれに向かって作業している。

 

「ここがわが社の整備室。大体いつも火花が飛んでて、油臭いよ。ま、仕方ないね。そして彼がここの責任者の咲鉢 御影(さきばち みかげ)君」

「君が槇部君か。これからよろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「ではちょっとしつれい」

 

 そういうと咲鉢さんはペタペタと俺の体を触る。

 ……なんだろう。少し不安になるこの気持ちは。

 

「よし!わかった!ありがとう」

「???」

 

 咲鉢さんはさわやかな笑顔でそう言った後に作業へと戻った。

 

「……なんだったんだ」

「彼はああするだけで、他人の体のことがわかるんだ。きっと君のISスーツとか作るのに必要なんだろうね」

「…なるほど」

 

 しかし、何か納得いかない。あの触り方はもっとこう、なんというか。

 

「あ!でも咲鉢君男の子が好きだから、あんまり触らせてると襲われちゃうかも」

「・・・」

 

 整備室にもしばらく近づきたくなくなった。

 

 それから…

 

「ここが会議室。で、そこが休憩室ね。あそこでタバコ吸ってるのは営業部部長のヴィクトル君。ちょっと変だけどいい人だよ」

(変な人しかいないのか?)

「あ、山下(やました)君」

「社長!彼が槇部君ですね!!いやあうれしいなあ!!!!!!感激だなあ!!!!!!!あ!!!!グミとかたべる!!!!!???すき焼き味!!!!!!!!!」

(いないのか)

 

 社員の個性に驚かされたり。

 

「ここが食堂!」

「……広いですね」

「みんなでご飯食べた方が楽しいからね!」

「みんなで食べるんですか?」

「俺は毎日そうしたいんだけど、さすがに無理って言われちゃってね。月に三回で妥協してるよ」

 

 幸助さんのこだわりを知ったり。

 

「ここが訓練場。あ、あそこでちょうどもう一人のテストパイロットの子が訓練してるね。光山 奏(こうやま かなで)って言うんだよ」

「あれ大丈夫なんですか、めちゃくちゃに打ってる気がするんですけど」

「……流れ弾に気を付けて!」

 

 社内のほとんどが危険だったりした。

 

 そして一通り案内が終わり、俺たちは最初にいた部屋に戻ってくる。

 

「ここは仮眠室。何をするかは、まあ名称通りだね。……これで一応おしまい。後は必要な時に教えていくよ」

「ありがとうございます」

「あと、社員たちの紹介はまた後日しようか」

 

 幸助さんは案内の疲れを引き飛ばすように、思いっきり体を伸ばした。

 そのタイミングで突然扉が開き、メグさんが入ってくる。

 

「社長。終わりました」

「ん、ご苦労様」

「あの終わったて何がですか?」

「……先ほどの後処理です」

 

 無表情なはずのメグさんの顔に少し影ができたように思えた。

 俺は恐る恐る質問する。

 

「…後処理って?」

「先ほどのパイロットがISのエネルギーが切れたあと失血死したのです。最初の奇襲の際のけがを放置したままこちらに来たのでしょう」

「・・・」

 

 嘘だ。

 何の根拠もなく、俺は思った。

 きっと、あのパイロットはまだ息が合っただろう。それを…

 不思議と俺の心にはそれほど多くの嫌悪感が湧かなかった。むしろ、FSの情報を漏らさないためには仕方ないとすら思った。

 しかし、ふと疑問がわきあがる。

 

「幸助さん」

「なんだい?」

「幸助さんはなんでISを倒したいんですか?」

「ああ……」

 

 俺の問いに幸助さんは困ったような表情を浮かべる。

 しまった。そう思ったが、幸助さんはすぐにはにかみ顔になって「俺だけが一方的に事情を知ってるなんて不公平だよな」と言って、俺の問いに答えてくれる。

 

「妹がね…いたんだよ。俺には」

「・・・」

「IS乗りでさ。一時は代表候補生にもなったんだぜ」

 

 幸助さんは本当に自慢げにそう言った。

 彼の顔が曇る。

 

「でも、突然妹はISを動かせなくなった。ランクもいきなり下がっちゃてさ。代表候補生からも外されて、それまで妹を褒め称えてた奴等もまるで最初からいなかったみたいにいなくなったよ。原因は結局わからなかった。精神的なものじゃないかとは言われたけどね」

「・・・」

「それから妹はやつれてさ。食事も取ろうとしないし、何をしても、ダメだダメだって言ってた。妹にとって、一番頑張ってきて、一番いろんな人から褒められたISってものは自信そのものになってたのかもね」

「・・・」

「そのころから俺はFSをつくってた。もちろん今みたいにISを倒そうとしてとかじゃなくて、純粋にこんなパワードスーツがあったら便利だろうなーくらいだったよ。でも、今と同じくらい夢中にさ、作ってたんだよ」

「・・・」

「だから言ったんだ。このFSが完成したらお前が操縦してくれって。ISでの経験をこいつに生かしてくれって。……今思うと、慰めにもなってないね。でも、彼女に生きる目的を与えたかったんだ。実際、その時は言ってくれたよ。わかった。楽しみにしてるって」

「幸助さん……」

「でも、その三日後妹は死んだ。自分の部屋で首をつってね。遺書には、お兄ちゃんごめんねって書かれてたよ」

 

 幸助さんはつらそうな顔で喋り続ける。

 止めようかと思ったが、なんとなくはばかられてやめた。

 

「歌がうまい子だった。小さい時は毎日毎日歌ってたよ。それに、料理とか、絵とかあとはテニスとかだって得意だったんだ。でも、ISに乗れなくなってからはどれもしなかったよ。まるで、自分はもう何の価値もないってそんな感じだった」

 

 幸助さんは拳を握りしめながら、目線を上げる。

 

「ISは大きすぎるんだよ。だから妹も耐え切れなかった。ほかの何をひっくるめても比べられないほど大きいんだ。でもさ、そんなもの心以外に必要ないと思わないかい?」

「・・・」

「だから壊す。それが進歩に……進化に逆らう行為だとしても。一機たりとも残したくない。……はは、幻滅したかい?たいそうなことを言ってはいるが結局俺がしているのは八つ当たりだよ。妹を支えきれなかった兄の八つ当たりなんだ」

「……幻滅なんか、しませんよ」

「そうかい?」

「当たり前です。幸助さん言ったじゃないですか。心はほかの何をひっくるめても比べられないって。俺だって同じような動機でここにいるんですから。心は幸助さんと同じですよ」

「……ふふ、そうかい。…ではこれからもよろしく。()()()

「よろしくお願いします。幸助さん」

 

 俺たちは握手を交わす。

 

 本当に同志になれた。そんな気がした。

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