「鬼が入ります・・・・・・鬼以外の八人の人たちは、早くカクレンサイ。」
校内に流れている放送は、私の居る屋上まで聞こえてきた。
その声が誰の声かなんて、考える暇なんて私には無かった。
これから自分がどうなるとか、どこに逃げれば良いのかとか。
なによりも・・・・・・。
栞が本当に鬼なのか・・・・・・。
それが一番気になっていた。
「と、とにかく、もっと逃げ場がありそうな校内に入ろう。」
屋上じゃあ逃げるルートが限られてしまうから。
とりあえず、ルートが広そうな校内に入る。
屋上とは違って、校内は寒い。
風とかの寒いじゃなくて、この寒いはもっと、こう・・・・・・。
何か恐ろしい寒さだった。
そして何よりも、血生臭い。
臭いが鼻を通ると激しい嗚咽に襲われた。
「キャーーーー!!」
長い廊下の奥から聞こえた女の悲鳴。
怖くなり、反射的に廊下の隅で座り込んでしまう。
ガクガクと震える足。
ハァハァと荒くなる呼吸。
「・・・・・・一人が殺されました。」
放送が流れた。
人が死んだと言う放送。
さっきの悲鳴は多分・・・・・・凜。
震える足でゆっくり立ち上がり、悲鳴の聞こえた方に向かって歩く。
本当は行きたくない。
でも、何か凜の身にあったのは間違いない。
それに、何か進展があったなら・・・・・・嫌でも見に行かないと。
少し歩くと、暗い廊下のド真ん中に倒れ込む人の影が見えた。
走って駆け寄る。
「う゛っ!!?」
もう誰だか分からないくらいグチャグチャの死体。
胸ポケットに入っている生徒手帳には、牛山 凛と書いてあった。
激しい血の臭いと、グチャグチャの死体に吐き気が止まらない。
「ふぅーはぁー、うぅ、ん?教室の鍵?」
ほぼ原型を留めていない凜の死体の手に、強く握られている鍵。
鍵を取り、確認してみる。
「図書室の鍵・・・・・・凜、生徒手帳借りるね。」
何かの役に立つかも知れない。
凜の死体をその場に残し、その場から立ち去った。
「・・・・・・何だろう。何かが引っ掛かる。」
"カクレンサイ"を始める前、私たち八人は一緒に居た。
"カクレンサイ"は普通「始め!!」と言った場所がスタート地点。
私たちの場合は鈴花の家で"カクレンサイ"は始まる。
皆同じ場所に居ないといけない。
なのに私たちは学校に飛ばされた。
しかも皆バラバラで。
そこが凄く引っ掛かるんだ。
栞の自殺した場所が学校なのと、何か関係あるのだろうか。
「おーい!明日香!」
廊下を歩いていると、後ろから男子の声がした。
振り返るとそこには、井村 慎が居た。
「井村くん!!無事だったんだ!!良かったぁ。」
さっきまで恐怖が少し和らぐ。
きっと独りより二人の方が安心するんだ。
「明日香こそ大丈夫だったかよ。さっきの悲鳴と放送聞いて心配でよ。」
「う、うん・・・・・・私は全然。でも、凜が。」
思い出すと目に涙が浮かんできた。
そんな私を井村くんは、優しく抱き寄せた。
別に好きでもないし、付き合っても居ないのに、その時は時間が止まれば良いと思ってしまった。
「牛山は気の毒だったけど・・・・・・俺たちが牛山の分まで頑張れば、きっと皆助かるよ。」
「うん。」
私は井村くんの言葉に静かに感動した。
凄く共感できる。
井村くんは私の顔をジッと見て来た。
「そう言えば、明日香。カクレンサイが始まった時、何処にいたんだよ。」
その言葉に違和感を覚える。
私の居た場所?
「屋上・・・・・・だけど。」
「屋上!?何で明日香だけ屋上なんだ?」
私・・・・・・だけ?
どうして?
さっき消えたはずの恐怖がまた出て来る。
怖い。
「俺たちは皆・・・・・・。」
聞きたくない。
両手で両耳を塞ぐ。
グッと目を瞑る。
「う゛ぁあああ!!?」
急に悲鳴を上げる井村くん。
目も耳も両方塞いだまま、一体どのくらいの時間が過ぎたんだろう。
ほんの数秒が長く感じる。
「・・・・・・二人目は鬼に殺されました。」
強く塞いで居たのにそれだけは、はっきり聞こえた。
恐る恐る目を開ける。
そして本日二度目の本物の死体を目にする。
「ふぅーはぁー。」
深呼吸して、正気を保つ。
目の前で井村くんは死んだ。
だとしたら、井村くんを殺した犯人は、直ぐ後ろにいるはず。
「し、栞?居るの?」
久しぶりに名前を呼ぶのに、こんな形で呼ぶなんて。
辛すぎるよ。
「___明日香。」
完全完璧に栞の声だった。
安心して後ろを振り返る。
周りを見渡すが、誰もいない。
栞の声。
三週間ぶりに聞いた。
「待ってて、絶対にこのゲーム・・・・・・終わらすから。」
とにかく今は、図書室へ行こう。
ありがとうございました。