IS -黄金の獣が歩く道-   作:屑霧島

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ChapterⅩⅩⅠ:

ラウラの専用機シュヴァルツェア・レーゲンの暴走により、学年別トーナメントは中止となり、一夏の彼女の座についての話はなかったことになった。試合に出られなかった鈴は一夏が負けるはずがないとは思っていたが、それでもホッとした。だが、ラウラが一夏を嫁にすることに関してはまだ諦めていないので、注意が必要であるとし、これからもラウラの行動を監視し続けるらしい。ラウラは相も変わらず一夏に猛烈なアタックを掛ける。事あるごとに一夏を嫁と呼び、一緒に食事をしようや日本の文化を教えろとフラグ建設に余念がない。それ対し、ラウラと出かける日に一夏を拉致し妨害しようとしてくる。

結果、鈴とラウラは結構な頻度で喧嘩をしていた。

彼女らを放っておけば、ISの試合となり、勝ち目のない鈴が倒れるまで続けられる。そこで、鈴にも勝機を持たせるために、ISの試合の代わりに、指相撲をさせている。当初二人とも納得しなかったが、一夏が指相撲で勝った方の要求に答えるというルールを付けたことで二人の目の色が変わった。平均して日に一度のペースで彼女らは指相撲をしている。

 

「それで、二人は今どういう理由で指相撲しているの?」

 

学年別トーナメント後土曜日の正午の食堂で鈴とラウラが熾烈な指相撲を行っていた。

鈴もラウラも真剣であるため、シャルロットの声が届いていない。そのため、鈴とラウラの指相撲を見ていた一夏が事情を話す。

 

「ラウラは今度の母親を探す旅に付き合ってくれとの要求だ。鈴は私とラウラが二人で母親探しすることを認めないと言っている」

「ふーん」

「シャルロットよ、鈴は何故私に拘るのだ?」

「はい?」

「ラウラが私に構ってくるのは姉上との関係を親密にするために外堀から埋めようとしているからであると理解できる。だが、鈴は私に拘る?」

「えぇーっと、ちょっと待ってね、一夏」

 

シャルロットは食堂のテーブルに両肘を載せて、頭を抱えた。一夏の言っている言葉にツッコミどころが多く、一夏に何を言えばいいのか悩んだからである。

まず、ラウラが一夏にアプローチを掛けているのは、千冬の義妹になるためということもあるが、それより一夏に心を奪われたからという理由の方が大きい。シャルロットはそれに気づいていた。なぜなら、ラウラの目が完全に恋する乙女の眼であったからである。自分の弱いところを認め、肯定してくれたのだ。相手のことを異性として好きになる切っ掛けになるには充分だった。そして、鈴はライバル出現に焦りを感じての行動であることは明白である。だが、これらのことを一夏に言ったところで意味が無い。恋愛を進めるのは恋している本人であり、他人のすることではない。シャルロットは知らないふりをするのが吉だと判断した。

 

「ごめんね。ちょっと軽い頭痛だったから、気にしないでね。鈴が一夏に拘る理由なんだけど、幼馴染だから、一夏に構ってほしいんじゃない?」

「そうか」

「それで、どうして、一夏はボーデヴィッヒさんの実の母親探しの手伝いを頼まれたの?」

「日本で人探しをしたくとも、彼女は日本の社会の仕組みを知らん。そこで、私と共に母親探しを行う仮定で、私から様々な事を学ぶつもりらしい」

 

ラウラは自称日本通の副官クラリッサから日本のことを教えてもらっていたが、どうも情報が偏っているような気がしたため、クラリッサ以外の者からも日本のことを教えてもらおうと考え、フラグ建設のことも考えて一夏に教えてもらうことにしたのだ。

 

「ボーデヴィッヒさんは黒円卓に誘うの?」

「今は保留だ」

「保留?」

「ラウラの望みは家族との絆を知ることであると私は睨んでいる。ならば、彼女が家族をしれば、どうなる?次なる強烈な飢えが彼女の中で芽生えない限り、彼女の英雄としての素質が枯れてしまう。私が求めている者は英雄の器を持ち、更なる高みへと飛翔し続ける者等だ」

「つまり、ボーデヴィッヒさんの飢えは簡単に満たせてしまうから見合わせているってこと?」

「そうだ。あの時、セシリアは英雄の素質を開花させ、己の飢えを力へと変えた。鈴と卿は素質があり、新たな力を手に入れるのは近かった。故に、卿等を私は招き、ラウラに関しては観察中である」

「なるほどね。話変わるけど、良い?」

「なんだ?」

「今の話を聞いて思ったんだけど、僕も単一使用能力に目覚めるのも近いってこと?」

「左様」

「どうやったら、単一使用能力目覚めることが出来るのかな?」

「エイヴィヒカイトとISは類似している点が多く、“創造”と“単一使用能力”はともに渇望を力に変えているという点からそれに至るまでの過程も同様であると仮定してのはなしになるが、それでも構わんか?」

「うん」

「エイヴィヒカイトの場合、創造に至るには方法は三つ存在する。一つ目の方法は魂を喰らい、エイヴィヒカイトの出力を上げるというものである。二つ目はエイヴィヒカイトを何度も使用し、聖遺物との同調率を高めることである。大概の者らは一つ目と二つ目の併用により開花する。そして、三つ目が己の渇望と、渇望を力に変える手段を知ることである。だが、創造位階に達する一番の近道は三つ目である。にも関わらず、三つ目の方法を取らぬ者が多いのか、それは飢えが深層心理にあり気づけないでいるか、認めたくない渇望であるか、当たり前すぎて逆に飢えとは何かという問いに答えられなくなっているからである。これらの事実がISにも通ずるならば、自ずと卿のするべきことが見えてこよう」

「練習しながら、自己分析するのが良いってこと?」

「そうだ。自己分析も一人であれこれ考えるのではなく、他人と接し、いつもと異なる社会に触れてみる方が効率的だといえよう」

「勝者は鈴さんですわ」

「やったー!」

「っく、児戯とはいえ、ドイツ軍人の私が負けるとは」

 

どうやら、二人の指相撲の決着はついたようだ。鈴が勝利したらしい。鈴は高々とガッツポーズをし、ラウラは膝を床に着け悔しがっている。事情を知らない者からすれば、昼間の食堂で指相撲をして何を一喜一憂しているのかと二人の神経を疑うだろう。だが、一夏を狙う者として譲れない戦いであり、敗北するわけにはいかなかった。

 

「それで、鈴よ。明日の私の予定を決めてくれ」

「うーんっと、じゃぁ、一夏、アタシ、セシリアに、シャルル、ラウラの五人でラウラの母親探しをするってことで」

「よかろう。皆もそれで構わんか?」

「私も明日の予定は特にないので、構いませんわ」

「僕も大丈夫だよ」

「本当は嫁と二人になる口実になるとクラリッサに教えてもらったのだが、母親探しを主目的と置くのならば、五人の方が効率的だろう。一夏、鈴、セシリア、シャルル、協力感謝する」

 

ラウラは感謝の意から四人に敬礼する。その後、集合場所と集合時間について決めると、始業のチャイムが鳴り、明日に会おうと別れを告げた。

 

 

 

翌日。九時半の食堂に一年の専用機持ちが五人集まっていた。

これから、ラウラの母親探しを行うためだ。闇雲に走り回って探すのはとてつもなく非効率的であるため、まずは情報整理が必要と考えたからだ。

 

「さて、これからラウラの母親探しとなるのだが、ラウラよ、一つ卿に聞いておかねばならんことがあるのだが、構わんか?」

「何でも聞くが良いぞ。嫁」

「卿が母親を探しに日本に来たという事実は聞いたが、何故日本なのかという理由を聞いていない。そこを話してくれんか?」

「分かった。では、少し長くなるが……」

 

ラウラは自分の生い立ちとある極秘ファイルを入手したことを四人に話した。聖槍十三騎士団について触れていないのは一夏たちが聖槍十三騎士団の団員だと知らないラウラが、無用な争いから一夏たちを守るためにも余計な事を話さないほうが吉だと考えたからだ。手に入れた遺伝子強化試験体の遺伝子提供者の名簿の自分の母親の欄に日本人と思しき名前が記載されていたため、ラウラは副官のクラリッサと共に日本に来た。

父方については、生年月日などの個人情報は分かっているのだが、名前が分からない。150年近く前の軍部の資料をハッキングして、生年月日の情報を基に調べようとしたのだが、資料が古い為か、データベース化されておらず、名前を知ることが出来なかったらしい。

 

「それで、この『綾瀬香純』という人物が私の母親らしい」

 

ラウラは四人に自分の両親について書かれた紙を見せる。だが、名前だけしか書かれていないため、どのような経歴を持っていた人物なのか分からない。

 

「有名な人かもしれないから、ネットで調べてみたら?白い一角獣機関の目的って『凄い人間を作って国の舵取り任せて、この国なんとかしてもらおうよ』なんでしょう?頭の良さは子供に遺伝するってテレビで聞いたことあるし、アンタの母親も何かしらの分野で活躍していた人じゃないの?」

「なるほど。確かにそれは一理ありますわね」

「そうだな。では、情報処理室へ行くとしよう」

「ラウラ、私は少々トイレに行く故、先に行っておいてくれ」

「分かった」

 

ラウラは立ち上がると、早歩きで食堂から出て行き、セシリアと鈴はラウラに続く。一夏はトイレに行くことなく、深くため息を吐き、背もたれにもたれ掛かる。一夏と同室のシャルロットは一夏の様子が少しおかしいことに気が付き、一夏と一緒に食堂に居た。

 

「どうしたの、一夏?」

「あぁ、聖槍十三騎士団黒円卓首領代行である卿に言っておかねばならんことがある」

「何?」

 

自分の知らない間に、重要そうな役職に就けられていたことに戸惑いつつも、一夏が心配であるため、自分のことより一夏の事を優先する。

 

「香純という人名をどこかで聞いたことが無いか?」

「うーん、もしかして……電話越しに一夏の事を『曾お祖父ちゃん』って言ってた人って?」

「その通りだ」

「じゃぁ、ボーデヴィッヒさんって……」

「私の玄孫、つまり、孫の孫というわけだな」

「…へー、だから、一夏はビックリして、いつもと様子が少し違ったんだ」

「顔に出ていたか?」

「うん、ほんのちょっとだけ。一夏の事をよく観察していないと分からない程度だけどね。たぶん鈴も気付いているよ」

「鈴がか?」

「うん。鈴は一夏の変化に気付いたから、場所を移動する提案をしたんだと思う」

「なるほどな、後で鈴に礼を言っておくか。それと、もう一つ、父方だが……」

「父方も僕の知っている人?」

「左様。誰だか分かるか?」

 

シャルロットはまずラウラの顔を思い浮かべ、黒円卓の面々を思い出し、似ているか否かを考察することにした。自分が知っている人物で自分より先に黒円卓に入団した人は6人。首領の一夏、

副首領のカリオストロ、

ヴェヴェルスヴルグ城の心臓イザーク、

大隊長の赤騎士ザミエル卿、

同じく大隊長の白騎士シュライバー卿。

この中においてラウラに似ている人物が二人居た。近寄りがたい空気を纏うイザークと、白髪のシュライバー卿である。だが、今上げた二人以上に、ラウラに似ている人物が居たことにシャルロットは気づく。その人物とラウラには幾つかの共通点があった。

 

白髪に、赤い瞳、考える前にすぐに手が出る喧嘩っ早さ

 

「もしかして、ベイ中尉?」

 

シャルロットの言葉に一夏は頷く。

一夏は初めてラウラに会った時、どこか既知感を覚えた。永劫回帰から抜け出たにも関わらずだ。初対面であるにもかかわらず、既知というのには何かしらの理由があると一夏は考え、その原因を探っていた。だから、ラウラが自分を嫁にすると言ったときは、ラウラの個人情報やラウラが現在持っているシャルロット暗殺計画に関する情報の収集が容易になると喜んでいた。だが、ラウラのガードは思った以上に固く、ラウラの個人情報はあまり入手できなかった。しかし、数度ラウラと会っているうちに、一夏はラウラがベイに似ていることに気づき、ラウラの親類がベイなのでは?と睨んでいた。

そして、一夏の推測は先ほど確信に変わった。1917年7月10日生まれ、1940年オスカー・ディルレワンガー隊入隊、最終の階級は中尉と来たとなれば、一夏の知っている限りこれに当てはまる人物はベイのみしかいなかった。

 

「じゃあ、ボーデヴィッヒさんに会わせてあげようよ」

 

シャルロットはラウラの願いがこんなに早く片付くとは思っていなかったため、若干興奮気味である。

 

「香純に関しては経歴が伏せられているため、矛盾のない人物設定を造り、黒円卓のことを知らぬように口裏を合わせておけば、会っても問題ないだろう。ただ、ベイに関しては問題がある」

「ベイ中尉の経歴のこと?」

「たしかに、それもある。ベイの経歴が約150年前の経歴である以上、二人が会えば、ラウラがベイに対して不信感を抱くだろう。そして、ベイのことが姉上に伝われば、芋づる式に我ら黒円卓のことが姉上の耳に入る可能性は十分ある。理解のある姉上でも、黒円卓について誤認している以上、下手に私がラインハルト・ハイドリヒであることを明かせば、衝突しかねない。下手をすれば、我らと姉上が戦争をするかもしれん。故に、機は慎重に選ぶ必要がある。」

「大げさと言いたいけど、世界最強のIS操縦者と国家代表候補生三人を形成で倒す黄金の獣が戦うとなると、戦争に発展しそうで怖いね。……じゃあ、一夏にとって何が問題なの?」

「ベイの性格だ」

 

ベイは根っからの人種差別主義者であり、純粋なドイツ人であることを誇りに思っており、ラインハルト・ハイドリヒに忠誠を誓っていると思われる人間以外は心底どうでもいいと考えている。そんな歪んだ思想のベイと日本人の香純との間に娘がいるということをベイが聞けば発狂し、混血のラウラを殺しかねない。

 

「と、なると、ボーデヴィッヒさんがベイ中尉に会う前に、ベイ中尉の性格の問題をなんとかして、織斑先生に聖槍十三騎士団の話をして理解してもらわないといけないわけだね」

「そうだ。私は姉上について考えておく。ベイの性格の矯正は卿に任せる」

「……え?」

「何を驚いている?シャルロット、聖槍十三騎士団黒円卓首領代行とはそのような地位にある。卿の前任者は良くやってくれたのでな、私は卿の働きに期待している」

 

シャルロットは自分の前任者であるヴァレリアン・トリファという人物がいかに大変だったか、気付かされた。シャルロットはそんなプレッシャーを感じつつも、気合が入っていた。なぜなら、一夏は初めて自分を駒として使うのではなく、自分を一人の人間として求めてくれた。シャルル・デュノアを使うのではなく、シャルロット・デュノアを求めてくれた。

だから、一夏の期待に応えたいとシャルロットは奮起した。

 

「まずは現状を完全に把握する必要があるね。一夏、幾つか質問しても良い?」

「私の答えられる範囲ならば、なんでも答えよう」

「じゃあ、まず一つ目、ベイ中尉は人種差別主義者だけど、今日本人である一夏に関してはどう思っているんだろう?」

「私の体の中身、つまり私の魂がラインハルト・ハイドリヒである以上、私に対して何かしらの偏見は持っていないと聞いている」

「ふーん、じゃあ、二つ目の質問。一夏が日本人であることから、それにつられて、日本人に対する差別意識は以前に比べて改善されたってことは?」

「それはないな。ベイは私に忠誠を誓った騎士である。強者や、私に忠誠を誓った者に対してはある程度の敬意を示すが、そうでない者に対しては相変わらず見下している。事実、私に忠誠を誓っておらず、日本人であったレオンハルトをベイは嫌っていた」

「なるほどね。ベイ中尉を認めさせるには、力もしくは忠誠を示す必要があると。三つ目、ベイ中尉は僕の指示に従ってくれるかな?」

「首領代行の権限は、現世に居る黒円卓の団員にあらゆる指示を強制させることが出来る。それに、私も現世に居る。故に、卿の言葉は聞いてくれるはずだ」

「四つ目、綾瀬香純さんとベイ中尉は一夏が呼んだら、すぐに来る?」

「二人とも電話一本で来るだろう」

 

自分のした質問と一夏の答えを頭の中で何度も復唱し、ベイの性格をなんとかするための方法をシャルロットは考える。アレコレ考え始めて数分後、シャルロットの表情が変わった。名案がシャルロットの頭の中で思い浮かんだらしく、シャルロットは香純とベイの趣味や服の好みなどの個人情報について幾つかの質問を一夏にする。ヴェヴェルスヴルグ城で一夏と100年ほど共に過ごしたベイの情報はある程度集まったが、香純の情報はあまり集まらなかった。

 

「一回、僕は綾瀬さんに会う必要があるね。一夏、綾瀬さんに会いたいって電話してもらっていいかな?」

「構わんが、卿が香純に会うのか?」

「うん。僕が二人の性格を知っておけば、二人のデートプラン組みやすいかなって?」

「……デートプラン?……シャルロットよ、卿が何をしようとしているのか、何を成そうとしているのか、非常に興味がある。私に聞かせてくれないか?」

 

卿はやはり面白いぞ。私がこの件について卿に一任したのは間違いではなかったらしい。先ほどまで難しい表情をしていた一夏が笑みを浮かべ、シャルロットの話に耳を傾ける。

シャルロットの案とは、シャルロットが香純とベイの仲を持ち、二人を仲良くさせる物だった。ベイの戦闘狂はどうやっても治らない。ヒャッハー中尉は死んでもおそらくヒャッハー中尉だろう。もし、輪廻転生し生まれ変わった姿がヒャッハーでなかったとしたら、それはベイの皮を被った別のなにかである。シャルロットはそう思っている。そして、それはベイを除く黒円卓と夜都賀波岐の総意でもあった。

故に、ベイ中尉の性格を矯正することは不可能とシャルロットは判断した。

となると、強者や一夏に忠誠を誓った者達に対するベイの特別視を利用し、綾瀬香純という人物をベイが認め、敵視しないようになれば、自分と香純と間の娘であるラウラのことも認める可能性があるとシャルロットは考えた。

 

「なるほど。二人を会わせ、親密にさせるために、デートプランを組むと」

「このデートには一夏にも参加してほしいんだけど、良いかな?」

「私も参加するのか?」

「だって、ベイ中尉と綾瀬さんが会う前に、綾瀬さんに会っておくけど、一夏が居ないと、ベイ中尉はイライラして、綾瀬さんも気を使うはずだよ。それに、一夏がいた方がベイ中尉も言うこと聞いてくれると思う。」

「なるほど。確かにそれはあるな。では、私も卿の考えたデートに参加しようではないか。男女の逢引きを私がサポートすることになるとは……ッフッフッフ…未知だぞ。では、さっそく電話するとしよう」

 

一夏は胸ポケットから携帯電話を取り出し、曾孫娘である香純に電話を掛けた。余程暇なのか、たった数コールで香純は電話に出た。一夏はラウラのことは話さず、今度の日曜日暇しているから、遊びに来いとだけ伝えておいた。香純は蓮と喧嘩中らしく、黄昏の浜辺に居づらいため、逃げる口実が出来たと喜んでいた。だが、一夏が喧嘩の原因を香純に聞いたら、突如、香純が“お年玉”という言葉を連呼しながら怒り出したので、適当に相槌を打って香純の罵詈雑言を聞き流した。

香純の怒りが収まったところで、一夏は集合場所と時間を伝えると電話を切った。

 

「じゃあ、話は纏まったし、ボーデヴィッヒさんのところに行こうか」

「そうだな。トイレが長過ぎると電話が掛かってくるかもしれんからな」

 

こうして、シャルロット主導で『ヒャッハー中尉と一夏の曾孫娘くっつけちゃおーぜ作戦』が動き出した。




黄昏の浜辺

「蓮」
「なんだ?年玉もらい過ぎて俺を奴隷のように働かせた綾瀬香純様」
「それは謝ったでしょ!」
「誠意が足りない」
「……何時までもズルズル男らしくない」
「そうかよ。で、なんだ?お前が俺に謝りに来たってわけじゃないんなら、いったい俺に何の用だ?」
「曾お祖父ちゃんのところに遊びに行ってくる」
「はぁ!ラインハルトのところに遊びに行ってくる!?お前馬鹿だろ!アイツが諏訪原で何したか分かってんのか!?忘れたわけじゃねぇだろ!」
「蓮ってホント意地っ張りだよね。『自分は主人公で、アイツはジャンル違いの敵役だから、和解なんてありえない』って100年も言い続けてるだもんね。いい加減歩み寄るって言葉を覚えたら?そんなんだから、友達少ないのよ。アタシみたいに相手のことを知ろうとかちょっとでも考えてみなよ」
「ラインハルトのことを知りたいからラインハルトに会いに行くっていうのか?」
「そういうこと。今考えてみたら、アタシ、曾お祖父ちゃんのことよく知らないしね」
「だが、あんな奴のところに行ったら、人質になるのは目に見えている。止めとけ」
「えぇ?そうかな?曾お祖父ちゃんって頭で考えて小細工するの苦手そうだから、そんなことするはずないよ」
「確かにそうかもしれないな。黒円卓で頭使うのはカール・クラフトか神父さんぐらいだろうし」
「そういうこと。それと、コンテナの金は数枚持って行って、お金のコレクターに高く売りつけて活動資金にするから、ちょっとは減るからね。じゃあ、アタシ行ってくるね。当分帰ってこないつもりだから、ヨロシク」

香純はそう言うとコンテナの方へと走って行った。

「……量から考えれば、減ったって言わないだろ」
「蓮、どうした?」
「あぁ、司狼か。香純が出かけるそうだ」
「バ香純のことだから、お前と仲直りできなくて、気まずいから逃げたんだろ。お前すぐヘソ曲げるし、顔に出やすいしな」
「……それより、お前らはどうだったんだ?」
「あ、逃げた」
「篠ノ之束には同盟破棄の旨を伝えた。それと、ブリュンヒルデと戦闘になった」
「どうだった、ミハエル?」
「今回は勝てた」
「今回は…か」
「あぁ、アレが今の黒円卓に入団すれば、大隊長の座に就くだろう」
「そうか。ありがとう。司狼、ミハエル、当分は何か起きて、他の連中に任せるから、休んでいてくれ」

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