IS -黄金の獣が歩く道-   作:屑霧島

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ChapterⅥ

翌日の朝、IS学園一年一組。

一夏とシャルルは自席につき、鈴は教壇に座って、話をしていた。

話題は昨日の放課後の一夏の部活荒らしについてだ。

その三人を囲むようにしてクラスメイトが居る。他クラスの鈴が居ることに対し、何も誰も言わないのは、昨日の一夏の部活荒らしに、鈴が常に居たため、いつの間にか仲が良くなった生徒が多かったからである。

 

「織斑君、何かスポーツやってたの?」

「体鍛えていたりするの?」

「おりむ~、護身術みたいの教えて」

 

一夏は多くのクラスメイト達から質問攻めにあっている。

クラスメイトの質問に一つ一つ丁寧に答えていく。

今の質問の答えを簡潔に説明すると、以下のようになった。スポーツの経験はあることはあるが、ほんの遊び程度であり、極めようという気にはならない。一つのスポーツに対し、執着がないからだ。体は鍛えている。と言っても、主目的で体を鍛えているわけではなく、ついでに体が鍛えられてしまっただけのこと、遊びの一環として、農村を荒らす熊を撲殺したことなんかこれに相当する。一夏は力にものを言わせて相手をねじ伏せているわけであって、力のない者でも使える護身術と言われるものの一切を身に着けていないため、教えることは出来ない。

そんなやり取りを半時間ほどすると、朝のSHRを知らせる予鈴が鳴ったため、生徒たちは一夏とのおしゃべりを止め、自席へと向かっていった。

数分後、一年一組の教室に真耶と千冬が入ってきた。

入学して二日目で特別な行事は無いため、真耶は生徒たちに簡単な連絡事項を伝える。

このまま、SHRが終わりそうになった時だった。

千冬が手を上げた。真耶は千冬に立ち位置を譲る。

 

「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める! クラス代表者とは、対抗戦だけでなく生徒会の会議や委員会の出席などの、まあ学級委員長的な役割と考えて良い。自薦他薦は問わないぞ、誰かいないか?」

 

千冬がそう言った直後、二人の女子が挙手し、こう言った。

 

「織斑君を推薦します」

「私はデュノア君を指名します」

 

その女子に続く形で次々とクラスメイト達が一夏とシャルルを推薦していく。

一夏はこのようなクラス代表に指名されること自体は少なくないため、クラス代表に任命されても苦にはならない。一方のシャルルはこういった経験が初めてなのか、戸惑っている。そのため、推薦された二人の態度は間反対だった。

一夏は静かに堂々と座っており、シャルルは目がキョロキョロとしていた。

どちらがクラス代表になるにしろ。私の目的は変わらん。そう思っていた。

だが、一年前の友人の言葉を一夏は思い出した。

 

“我々聖槍十三騎士団は一部の者らからは世界の敵とされております。故に、行動は早急にかつ慎重になさることを心に留めておいていただきたい。”

 

クラス代表になれば、目立つ可能性が非常に高い。

唯でさえ、世界的に注目を浴びている。部活荒らしをしてクラスや学園単位で有名になるには問題ないだろうが、世界的に目立つわけにはいかない。何故、クラス代表になることが世界的に目立つことに繋がるのか、それはIS学園の行事の試合はテレビ中継されるからである。そこで、自分と聖槍十三騎士団との繋がりが見つかれば、自分の抹殺命令が世界単位で動くかもしれない。となれば、最悪戦争だ。

自分が勝てば、この世界は焼け野原になってしまい、負ければ、グラズヘイムから再スタートとなり、今までの十数年の苦労が水の泡だ。

虎穴に入らずんば、虎児を得ずとは言うが、必要以上に衆目に晒されるという危険は回避したい。そこで、一夏はシャルルにクラス代表の座を押し付けてしまおうと考える。

この場で尤もらしい言い訳を考えるが、一夏は思いつかない。

そんな時だった。

 

「納得がいきませんわ!そのような選出は認められません。男がクラス代表なんて恥さらしですわ。このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!だいたい、文化としても後進的な国で暮らさなけれ……」

「クックックックックック……ハーッハッハッハッハッハ!」

「何を笑っていますの!」

「いや、失敬。私に敵意を向けたうえで、祖国の女こそが至高であると自己陶酔する女は身近に少なくてな。…それに」

「……なんですの?」

「この国が文化として後進的とは笑わせてくれる。卿の国のレストランは何軒、かの有名なミシュランガイドに載ったかな?私の記憶が正しければ、この国の10分の1の60にも満たないと思うのだが、私の記憶違いか?」

「私の国の料理を馬鹿にしておりますの!」

「卿に問いかけただけだよ、セシリア・オルコット。卿がどのように私の言葉を受け取るかなど、他人である私は責任を持てん。ところで、卿は言ったな?卿の国の料理を馬鹿にしているのかと、ならば、聞こう。卿の国の料理は自信が持てぬほど、不味なのか?それとも、卿の国の人間は美味な物を作れんほど味盲なのか?知りたいな?」

 

一夏は笑っている。一方のセシリアは堪忍袋の緒が切れる寸前だ。

 

「決闘ですわ!」

「よかろう」

 

一夏は歓喜していた。

相手は代表候補生であり、鈴と同様に入試の実技試験で教官を倒した相手。

どのような戦い方をセシリアがするのか一夏は全く知らないうえに、己の体が聖餐杯でないが、勝敗は期したもの同然であるため、相手の手札は気にしていない。

むしろ今知ってしまっては戦いの楽しみが減る。

 

「ところで、セシリア・オルコット。卿には何人友人がいる?」

「貴方、何を言っていますの?」

「私の真意は後で答えよう。故に、まずは答えてみよ」

「私は自分が認めるような人と出会ったことがありませんわ。だから、私が友人と認めるに足る人物など一人もいませんの」

「左様か。……では、私の友人の数に肖り、卿を五撃で沈めるとしよう。卿のISを破壊するための攻撃が四より少なく、六より多ければ、私の負けだ」

 

故に、一夏は勝敗の天秤がどちらに傾いてもおかしくないように更なる枷を自分に課すことにした。こうでもしなければ、余興にしては退屈すぎるからだ。

彼としては当然の措置だったのだが、セシリアからすれば、逆鱗に触れられたも同然だ。

だが、ここでこれ以上発狂しては英国淑女の名が泣くと考えたセシリアはゆっくり息を深く吐き、冷静さを取り戻していく。

 

「あら、私に勝てないから、自分が合理的に負けられる条件を作るなんて、自分が弱いと認めているのかしら?」

「ふむ。何とも捻くれた考えではあるが、間違いではない。では、私は卿の打倒を宣言し、賭けをしよう」

「賭けですって?」

「私は試合の勝敗云々を別として、私のISのシールドエネルギーが切れるまでに、卿のISを倒すことができなければ、私を奴隷にでもなんでもする権利をやろう。私は誰かに従うことを良しとしない故、私は手を抜けん。それでよいな?」

「どこまでも人を見下す方ですのね。…まぁ、良いですわ。後でその顔見っともなく歪まして差し上げますわ」

「それは楽しみだ。私に敗北を見せてくれ」

 

セシリアは青筋を立てながら、一夏の宣言を受け取った。

その後、クラス代表を決めるための試合について千冬が時間と場所を指定し、ルールは一夏が提案した五撃でセシリアを仕留められなかったら一夏の負けというモノを採用した。

その後、その勝者とシャルルが戦い勝った者が一年一組クラス代表になると決まった。

朝のショートホームルームは終わり、授業に入る。

 

授業の内容はISの適性についてだ。

ISの適性が高ければ高いほど、操縦者の特性がIS自身に反映されやすくなる。

故に、ISの適性が非常に高い人物は企業などからスカウトされやすい。今年度のIS学園の入試の判定基準にISの適性が含まれているというのは周知の事実である。

そんな真耶の授業を一夏は黙って聞いていた。

この当たりの話は一年前に友人の特別授業を受けていたため知っていた。

付け加えて言うのならば、ISの適性が高ければ高いほど、IS自身の性能を引出しやすい。エイヴィヒカイトの話に合わせるのならば、聖遺物の同調率がISの適性に近いと思われる。ベイと闇の賜物の相性は良かったため、十分な性能をベイは引出せたが、シュピーネと辺獄舎の絞殺縄の相性は良いと言えないため、シュピーネは性能を十分に引き出せなかった。

だが、さきほど、同一ではなく、近いという表現に留めたのは、相違点が存在するからだ。エイヴィヒカイトの場合、個々の聖遺物によって適性が異なるうえに、人としての領域を越えなければ、そもそも扱うことが出来ないのだが、ISの場合、これが存在しない。

この理由として、ISに所有権の譲渡という特性を持たせた結果によるものだとカール・クラフトは言う。エイヴィヒカイトは所有権を譲渡したところで、他人に適性が無ければ、内部の魂が漏れ出し、自壊してしまう。バビロンが死亡した時、カインが崩壊していくのはこれによるものだ。量産化を行ったとしても、適合せず、自壊しては元も子もない。

そこで、ISの核が崩壊しないようにした結果、付属的に、適合の簡易化ならびに魂の保管という性能をISは獲得した。

故に、ISは誰でも動かせるのだが、適性というものが存在している。

ただ、女性にしか反応しないという欠陥は解消されなかったらしい。

 

「ISの数は世界で467と一定数ということもあり、適性の高い人が重宝されます」

 

何故、ISの数が一定数なのか、それはISが内包する魂に関係している。

エイヴィヒカイトは喰らった魂を燃料に動いている。この点はISも同じだ。

だが、違う点は殺人衝動だ。

エイヴィヒカイトの場合、入手すれば慢性的な殺人衝動に駆られる。これはエイヴィヒカイトという車に魂というガソリンを入れて動かすため、魂が絶対に必要なのだ。ガソリンが切れれば、動かなくなるのだから、自然に欲する。

だが、ISの場合は魂を自動再生エネルギーとして動かしている。時間がたてば、再生し再び動くようになるのだから、エネルギーの保有量を求めない。故に、殺人衝動が弱く、理性で十分抑え込むことが出来る。

といっても、そのエネルギーがある程度なければ、ISの起動時間は短くなり、魂を集めるための殺人衝動が湧いてしまう。では、何故世に出回っているISを使用する操縦者たちは殺人衝動に駆られないのか、それはISが最初からある程度の魂を保有しているからである。理由は篠ノ之束だ。彼女がISの核を作り世に出回らせようとした前に、篠ノ之束はある程度の魂をIS核に入れたからだ。

篠ノ之束が何を思ってISを作り、普及させたのかは知らないが、無差別殺人兵器にはしたくなかったのだろうか。

つまるところ、ISの核製造には魂が必要である。

だが、篠ノ之束は世界中の多くの人間に追われており、逃げる手段を講じることに忙しい。そのため、ISの核に必要な聖遺物集めや魂狩りをしている余裕がないという裏事情があるのだが、多くの人間は知らない。

次の内容に入ろうとすると、チャイムが鳴り、授業が終わった。

 

「はぁ!アンタ、さすがにアホでしょ!」

 

昼時の食堂で鈴はラーメンを食べきるとそう言った。

完全に舐め腐っている一夏のハンデに鈴はブチ切れているのだとシャルルは推測した。

代表候補生というのは猛烈な競争相手をなぎ倒して勝ち上がってきた勝者なのだ。

故に、あそこまで挑発すれば、セシリアは激情して、一夏を瞬殺するかもしれない。

 

「なんで、アンタ一撃で倒すって言わなかったのよ!」

「……え?」

「だって、そうでしょ!?一夏はいつも最初から全力で行く奴よ。相手の代表候補生がどんなのか知らないけど、千冬さんじゃない限り、一夏の攻撃をまともに三発も受けて立ってられる奴なんて居ないわよ!これじゃ、一夏の負け決定じゃない!」

 

シャルルは唖然とした。

一夏が勝敗は別としてセシリアを倒すことに対して鈴は何の疑問を持っていない。

だが、良く考えれば分かることだ。

そもそも男が女に劣るというのはISを動かせるか否かである。であるならば、一夏とセシリアの勝敗の決定要因は技術、経験、本人の運動能力、ISの性能だ。

シャルルから見て、技術、経験は両者とも未知数だが、皆無というわけではない。

運動能力では一夏がセシリアを圧倒していると思われる。

以上のことから、一夏の勝利は限りになく必然に近い。

 

「ねぇ、一夏」

「なんだ?」

「一夏ってどんなIS使っているの?」

「打鉄だ」

「え?普通なら、一夏のデータ採取のために専用機とか貰いそうなのに」

「シャルルの言うとおり、私のデータを取るために専用機を貰ったよ。少し手を加えた打鉄をな。といっても、近接格闘型武器を一つ搭載し、それ以外の武器は全て除去、データを取るためにメモリーを大量に積んでいる故、専用機や訓練機という表現よりはデータ採取用実験機と言った方が近しいだろう」

 

ISの性能差では一夏よりセシリアの方が上だとシャルルは判断する。

以上のことから、一夏とセシリアの勝負の勝者がどちらになるのか、判断がつかない。

ここで、シャルルはあることに気が付いた。

もし、一夏がセシリアに勝てば、自分と当たることになる。セシリアとの戦いで一夏はハンデを背負っているが、自分との戦いではハンデがない。となると、負けるのは必至。

女子供でも容赦はしないというのが一夏の戦い方だ。

となれば、自分は惨敗をきすだろう。

 

「……ねぇ、一夏」

「なんだ?」

「……痛くしないでね」

 

一夏の時間は再び止まり、鈴は水を一夏に向かって吹いた。

そして、一部の腐女子が言った。

 

「一×シャル……夏コミはこれで決定ね」

 

 

校舎の屋上で篠ノ之箒は一人、弁当を食べていた。

自分以外に屋上には誰も居ないおかげで、落ち着く。

十歳から重要人物保護プログラムで政府の人間に保護と監視、尋問をされ続けたため、彼女は一人でいる時間が少なかった。だから、政府関係者の手の届かないIS学園に入学できたのは幸運だった。

だが、同時に不幸でもあった。織斑一夏が居たからだ。

箒はクラスの男子に虐められているところを一夏に助けられたことがある。最初は恩を感じた。『弱い者いじめは駄目だと思ったから助けた』、そう思ったからだ。

だが、現実は違った。

 

『下らん遊びで悦に入る者らに心躍る娯楽を教えようとした』

 

彼はそう言ったのだ。最初は何を言っているのか分からなかった。

だが、一夏は自分をいじめていた者たちに、強敵を倒すという快楽を教えるためで、結果として自分が助かっただけに過ぎないと知った瞬間箒は絶望した。彼は自分が望んだ力を持っているにも関わらず、正義のために使おうとしない。

正義の味方と思った人物は実は悪の怪人で、自分はその悪の怪人に助けられてしまった。

それ以降、箒は望んだ。自分は正しくあり、自分の力は正しいことのためだけに使いたいと。そして、嫌悪した。織斑一夏という人物を。

だが、箒は自分の望んだ道を真反対に突き進んでしまう。

重要人物保護プログラムは箒に精神的負担を与えてしまったことが原因だ。箒はこんな不自由な生活でも自分は正しくありたいと願い、剣道と向き合った。

精神的負担が増せば増すほど、箒は剣道にのめり込み、無心で竹刀を振るい続けた。

結果、活人剣の心得から遠ざかって行ってしまった。

それを自覚したのは去年の全国剣道女子中学大会だった。

決勝で倒した相手の涙を見て、箒は気付いた。自分は相手を倒すために、負かすために剣を取ったのではないと、誰かを守れる心得を身に着けたくて剣を取ったのだと。

では、この結果はなんだ。今の私はなんだ。活人剣の心得から程遠い。

 

その日の晩に見た夢は最悪だった。

自分は鏡と向かい合っている。鏡には自分の姿が映し出されていたのだが、鏡は歪み、映った自分の姿は別の人物……男に姿を変えた。

なんだ、これではまるで、…自分は……織斑一夏と同じとでも言いたいのか。

椅子に座った年少の一夏は自分に問いを投げかける。

 

『他者を喰らうことで飢えを満たし、生き血を啜ることで喉を潤すことの何が悪い?野生の動物なら誰もがしておろう?山羊は草を喰らい、獅子は山羊の血肉を貪る』

 

違う。私たちは人だ。力を手に入れたなら、誰かを守れるために、使わなくてはならない。他者を裁くことや、喰らうことなど以ての外だ!

お前は人間じゃなくて、獣になったつもりか!

 

『人とて獣であろう。他者を喰らうことに何を躊躇う?卿は他者を喰らうことなど以ての外と言ったが、では、逆に聞きたい。人が人を喰らうことを悪とし、人が獣を喰らうことは善悪の審議に値しないと卿は言うのか?』

 

生存にかかわるのなら、仕方ないと言うしかない。……だが、お前が行っているのは単なる虐殺と変わりない。お前にとっての善悪はなんだ!一夏!

 

『私は善悪について深く考えたことがないが、私なりの言い分を言わせてもらおう。真に強き者が虐げられ、真に弱き者が他者の蜜を啜る。純然たる弱肉強食が成立しない世界こそが悪である。善とは真に強き者が勝利を手にすることが出来る世界こそが善である』

 

では、真に強い者とはなんだ

 

『簡単だ。魂を差出し、地獄に落ちてでも、永劫、渇望が満たされようと求め続ける者だ。その者らこそ最果ての勝利の価値を知っている。価値ある物は価値を知る者の下になければならない。弱き者は、価値も知らず、勝利を浅ましくも手にした愚者のことだ。故に私は卿を評価しているよ。強き者であり、勝者である卿をな』

 

私が……強いだと、……勝者だと

 

『卿は勝利という事実を求めず、安寧や正義を求め己を高める強き者だ。そして、己の行いが善行であったか否かを論ずることのできる勝者でもある』

 

私は正しさを手に入れていない。なにが勝者だ!私は何か守れたのか!ふざけるな!それに、敗者であろうと結果を振り返るだろう!

 

『では、聞くが、他者を下し、最も勝ちたいと思っていた剣道の大会で優勝した卿が勝者でなくて、何が勝者だ。それに、卿の言うとおり、敗者も結果を論ずるが、何故勝利できなったのかであって、その善悪を微塵も気にしていない。勝者のように腹をも満たさぬようなモノを論ずる余裕など敗者は持ち合わせておらんよ。最も勝ちたい者に勝てず、何故敗北したのかを考えている私もまた敗者に他ならない。故に、私は卿が羨ましいよ』

 

夢の中の一夏はそう言って、不気味に笑っていた。

次の瞬間、箒は目が覚めた。

 

その日以来、箒は竹刀を置き、煩悩を払い、心を水面のように静かにするために、座禅を行うようになった。座禅の効果もあり、箒は自分の在り方を見つめ直せるようになった。

そんな時だった。IS学園への入学が決まったのは。

ある程度は覚悟していた。姉がISの開発者なのだから、仕方がないと。

一夏とは同じ学校になるが、クラスまでは同じにはならないだろうと思っていた。

だが、初日の朝に自分の希望は崩れ去った。

一夏は同じクラスの一番前の中央の席で嫌でも目に入ってしまう。

それだけで憂鬱だと言うのに、一夏の傲慢な態度にはカリスマ性があるため、大半のクラスメイトが一夏のことを認めてしまっている。

昨日の段階では三分の一のクラスメイトは一夏のことを今は認めていなかったが、昨日の放課後の部活荒らしでその数は激減してしまったようだ。

だが、一夏の存在を認めている者の多くは一夏の本質を知らないのだが……。

 

「それとも、私が間違っているのだろうか」

 

正義とは時代や人によって変化する。

故に、自分の考えは、少数派の排斥される悪だと言うのだろうか?

 

そんな時だった。

屋上の扉が開き、一人のクラスメイトが入って来た。

セシリア・オルコットだ。彼女もまた自分と同じように一夏の存在を認めない人間だ。

箒はセシリアに話しかけてみることにした。

 

「オルコットさん」

「あら、篠ノ之さん、御機嫌よう」

「ご…ごきげんよう」

「私に何か用ですの?」

「あぁ、織斑のことについて少し話をしたいのだが、良いか?」

「少々好きではない話題ですが、己を知り敵を知れば百戦危うからずですわ」

「部活荒らしの話は知っているか?」

「勿論ですわ。最初は驚きましたが、私の踏み台なのですから、これぐらいのことをしてもらわなくては面白くありませんわ」

 

箒はこの時点で気が付いた。オルコットは一夏を見下している。

オルコットの考えは女尊男卑にありがちな思想だ。

ISは女にしか扱えない武器なのだから、男という生き物は女に劣るという考えだ。

おそらく一夏のことを認めていない女子の大半もそうだろう。

箒とセシリアの見ているところは全く違う。

だから、セシリアが一夏に敗北すれば、一夏の下に下ってしまうだろう。

だが、自分は違う。一夏を危険視しているが故に一夏を認めないのだ。


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