無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 なんかすごい勢いでお気に入り数が増えて怖嬉しかったです。皆様、ありがとうございます!


面倒な修業の開始

「そうか、シトリー家と対決とはな」

 

 グレモリー家の本邸に帰ってきた僕たち。そこで迎え入れてくれたのはアザゼル総督だった。僕たちは広いリビングに集合して、アザゼル総督にさっきの会合で起こったことを伝えた。

 

「今日は七月二十八日。対戦日までざっと二十日間だな」

 

 アザゼル総督が何かの計算を始める。

 

「しゅ、修業ですか?」

 

 一誠の問いにアザゼル総督は当然とばかりにうなずく。

 

「当然だ。明日から開始予定。すでに各自のトレーニングメニューは考えてある」

 

 ものすっごい嫌な予感がする。アザゼル総督の張り切り方からかなり入れ込んでるのがうかがえる。神器マニアの総督に、妙な動きを見せた僕の神器は格好の的だろうね。嫌だな~。

 

「でも、俺たちだけ堕天使総督のアドバイス受けていいのかな? 反則じゃないんですか?」

 

 確かに文句は出るかもしれない。それでもただアドバイス受けるだけなら別に何も問題は……いやきっとあるよね! 文句でまくって問題になるよね! だから総督のアドバイスは是が非でも中止にするべきだよ!

 

「別に。俺はいろいろ悪魔側にデータを渡したつもりだぜ? それに天使側もバックアップ体制をしてるって話だ。あとは若手悪魔連中の己のプライドしだい。強くなりたい、種の存続を高めたい、って心の底から思っているのなら脇目も振らずだろうよ」

 

 そんなことだろうと思ったよ! これで文句が出るようなら試合として成立しそうにないしね。表の世界でも元大物選手が後輩にアドバイスや練習メニューを組んだりするのはある事だしね。そもそも総督自身が直接何かをするわけじゃないんだから反則になるわけないよ! 淡い幻想の期待だけだよ!

 

「うちの副総督も名家にアドバイス与えてるぐらいだ。むしろシェムハザのアドバイスの方が役に立つかもな! ハハハ!」

 

 僕にとってはどっちでもいいよ。むしろ神器に関心が薄い分、そっちの人の方がいいかも。

 

「まっ、とりあえず明日の朝、庭に集合だ。そこで各自の修業方法を教える。覚悟しろよ!」

『はい!』

 

 総督の言葉にみんな重ねて返事をする。僕の声は小さかったから重ねたように聞こえただろう。僕も別の意味で覚悟しなきゃね。絶対にバレてなるものか! 絶対に絶対に僕は三大勢力に本来の力は貸さない!

 僕がそう決意してると、銀髪のメイドさんが現れた。

 

「皆様、温泉のご用意ができました」

 

 温泉! まさか冥界で温泉に入れるなんて思ってもみなかったよ。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 グレモリーの庭の一角にポツリと存在している温泉。しかもちゃんと和風で。

 一誠と木場、アザゼル総督は先に行ってもう湯ぶねに浸かってる。僕は未だに脱衣所の所にいるけど。

 

「ハハハハ、やっぱり冥界――――地獄といえば温泉だよな。しかも冥界でも屈指の名家グレモリーの私有温泉とくれば名泉も名泉だろう」

 

 アザゼル総督が大声で何か言ってる。それはさて置き、僕が未だに脱衣所から出られないのは。

 

「大丈夫だよギャスパーくん。僕も一緒にいるから」

「ううう」

 

 ギャスパーくんが恥ずかしがって脱衣所から出ようとしない。こればっかりは僕にもどうしようもない。強制するわけにも、いやちょっと強引にした方がいいのかな、これわ。

 

「僕が一緒じゃ不安?」

「そ、そんなことありません! むしろ心強いほうで」

「じゃあ行こう」

「あっ」

 

 ちょっと意地悪な質問をして、軽く誘導尋問で強引に連れて行く作戦に決定! 僕も早く温泉に入りたいからね!

 僕は軽くギャスパーくんの手を握って連れ出そうとしたけど、やっぱり出てきてくれない。どうしたものかな~? いっそ本当に力づくで。

 

「おいおい、ほら、温泉なんだから入らなきゃダメだろう」

「キャッ!」

 

 一誠が湯ぶねからいったん上がって、僕が掴んでる手と同じ方の手首を掴んで強引に引く。やっぱり強引が正解だったか。

 かわいらしい悲鳴をあげるギャスパーくん。

 タオルを胸の位置で巻いてるギャスパーくんを見る一誠の目が、ギャスパー君の体をじろじろ見ている。まあ今のギャスパー君は本当に女の子っぽいよね。普段から女装してるし、体も細く、女性顔だし。僕も今のギャスパーくんはちょっと男性としては見ずらいかな? まあ男性って知ってるから割り切ってるけど。

 

「……あ、あの、こっち見ないでください……」

「……お、お前な! 男なら胸の位置までバスタオル羽織るなよ!普段から女装してるからこっちも戸惑うって!」

「……そ、そんな、イッセー先輩は僕の事をそんな目で見ていたのですか……? 身の危険を感じちゃいますぅぅぅぅっ!」

 

 身の危険を感じたのかギャスパー君は僕の胸に抱き着く。いやいや、その行動はいろいろまずいよ。ほら、一誠の目もなんかちょっとおかしくなってきたよ。

 

「うっさい!」

 

 何か目の色が変わりそうになってる一誠は、ギャスパーくんと僕をお姫様抱っこで、え!? 僕も!?

 

「このダブル女装っ子が―――!」

「誰が女装っ子だ―――!」

 

 ドボ――――――――ンッ!

 

 一気に温泉に放り投げられた。

 

「やぁぁぁぁん! あっついよぉぉぉ! 溶けちゃうよぉぉぉ! イッセー先輩のエッチィィィィィィ!」

「なんで僕まで投げるんだよ! それに、ダブル女装っ子ってどういう意味だ――!」

「うるせぇ! お前だって昔は女装したりしたじゃねえか! あれはもうギャスパーの女装と変わんねえよ!」

『イッセー、ギャスパーと誇銅にセクハラしちゃダメよ?』

 

 向こうからリアスさんのからかい声が聞こえる。 その後も、女性陣のクスクスと笑う声も聞こえてきた。

 恥ずかしさから温泉に飛び込もうとする一誠。だけど僕はそれを阻止する意味合いも込めて、小さな小石をおでこの比較的安全な場所に力を込めて投げた。あの場所なら悪くても気絶で済む。

 

「僕の女装は一誠たちが無理やり着せたんでしょ!」

「いでっ!」

 

 見事おでこにヒットし、一誠は痛みでうずくまって立ち止まる。

 

「いきなり温泉に入れるのも、飛び込みもマナー違反だよ! ギャスパー君、体洗おう」

「は、はい……」

 

 まったく一誠ときたら、人をいきなり温泉に投げ込むわ、女装っ子呼ばわりするわでいい加減にしてよまったく。細かいマナーなんていうつもりはないけど、あまりに大きすぎるのは目をつぶれないよ。特に僕を女装っ子呼ばわりしたことについてはね。僕はれっきとした男です!

 ……それにしても本当にポツリとした場所にある温泉だね。あの時代には現代のようなお風呂なんてなかったけど、温泉は既にあった。天照様やスサノオさんなどの日本神、七災怪の皆さんと温泉に入ったのを思い出す。だけどあの時代は混浴で、混浴馴れしてない僕をからかう天照様やアメノウズメ様。ここぞとばかりに誘惑してくる藻女さん。

 そんな事もあったけど、スサノオさんや八岐大蛇さんや昇降さんたちと湯の中で語り合ったりもした。そんなに昔の事じゃないのになぜか懐かしく感じる。

 

「さてと。じゃあ今度はゆっくりと湯ぶねに浸からせてもらうおうかな」

 

 頭と体を洗い終わった僕は今度こそ温泉を堪能することに。うん、温泉の違いなんてよくわからないけど気持ちいい。この広々とした解放感、温泉の効能だからなのか毒気が抜けていく感じ。加えてこんなリラックスしながら景色を、今は夜空を楽しめるなんて…………。

 

「どうしたんですか、誇銅先輩?」

「ん、いや、大したことじゃないんだ。やっぱり冥界の空が肌に合わなくて」

 

 夜空を眺めていると軽い眩暈がしたので目頭をきゅっと抑える。もしかして温泉の効能的影響とかじゃないよね? もしくは空気……。いやいや、そうなったら二十日もしないうちに僕はこの冥界で死んじゃうよ、環境的な意味で!

 流石にそれわないと確信しつつ、若干の不安を抱く。大丈夫だよ……ね?

 

「先生――――。おっぱいをつつきたいです……」

「ああ、諦めるなよ。イッセー。おまえならできる。あきらめたら、そこでおっぱい終了だぞ?」

「はい。はい!」

 

 隣では一誠とアザゼル総督が何やら卑猥な会話をしている。あの様子だと大丈夫そうだけど、こっちに話を振ったりはしないでほしい。返答にめちゃくちゃ困る。

 僕だって一人の男子学生。実は成人手前だけど人並みに性欲もある。だけど一誠たちくらいオープンにできる程羞恥心は小さくない。下手に気分を害してしまうのは申し訳ないし。まあ大丈夫そうだけど。

 

『あら、リアス。またバスト大きくなったのかしら?』

『そ、そう? ぅん……。ちょっと、触り方が卑猥よ、あなた。って、そういう朱乃も前よりもブラジャーのカップ変わったんじゃないの?』

 

 一枚壁を隔てた向こうの女湯から女性陣の声が聞こえてくる。その内容はいかにも一誠が好きそうな内容。やっぱり……一誠とアザゼル総督はものっそい聞きに入っている。

 

『リアスのおっぱい……いい感触だわ……うふふ。ここをこうしたり……』

『ぃや……あぅん、まだあの子にもこんなことされていないのに……や、やめて……始めてはあの子って決めて……あっんっ……』

 

 内容がものすごく色っぽい。静かだから嫌でも聞こえてしまう。ほら、一誠なんて鼻血がすごい事に。

 一誠はのぞきをしたいからか、さっきから壁を一生懸命調べている。普通ここは止めるのが正解だろうけど、相手は一誠に好意を持ってる人たちだから別にいいか。

 

「なんだ、おまえ。覗きたいのか?」

「せ、先生! こ、これはその!」

「別にいいじゃねえか。男同士なんだしよ。温泉で女湯除くってのはお約束ってもんだ。――――けどな、それじゃスケベとしては二流以下だ」

 

 またアザゼル総督は一誠に何か吹き込んでる。気が合うのはいいけど、これ以上一誠に何か吹き込んでエロがヒートアップしたら日常で困る。僕に興味を持つ次くらいにやめてほしい。まあ、そうなったら暴力でも使って止めるけど。

 それにしてもアザゼル総督だったら、この場で何かやらかしそうな気がする。嫌な予感。

 

「二流ですか! じゃ、じゃあ、どうすれば一流に!?」

「……そうだな。こんな!」

 

 アザゼル総督は一誠の腕を掴んで

 

「感じかなっ! 男なら混浴だぞ、イッセー!」

 

 向こうの女湯に向かって投げた! やっぱりやらかした!

 

 ドッボォォォォォォンッ!

 

 向こう側で一誠が湯にたたきつけられた音が聞こえた。ついにやっちゃったここの堕天使。だけどまあ、今日は傷つく女性はいないからいいや。無礼講無礼講。

 

『あら、イッセー。アザゼルに飛ばされてきたのね? ちゃんと体は洗ったの?』

『うふふ、イッセーくんったら。大胆ですわ』

 

 ほら、向こうもなんだか楽しそうにやってるし。今回は見逃そう。

 

「それが一流のスケベだぜ、イッセー! ガッハッハッハッハ!」

「ギャスパーくん、あんな大人になっちゃだめだよ?」

「は、はい。わかりました」

 

 僕はアザゼル総督を指差して、子供に教えるようにギャスパーくんに言った。間違ってもあんな風になっちゃいけないからね。本当に、あれが許されるのは本当に稀な事だから。万が一影響されてそっち方面に走ったら、昔一誠が言っていたギャスパーくんの神器悪用が現実になっちゃうよ。

 

「おい! それはちょっと酷いだろ!?」

「さて、僕は先に上がらせてもらうね。向こうが騒がしくなりそうだから」

「聞けよ! 無視すんな!」

 

 何か言ってるアザゼル総督を放っておいて僕は温泉を出た。その後に続いてギャスパーくんもついて来る。

 

「もういいの? 僕に気にせずゆっくりしてきたらいいんだよ?」

「だ、大丈夫です。もう、しっかり温まりまたしから」

「そう、それならよかった。もしこの後暇だったら一緒に将棋かチェスでもしない?」

「はい、お相手させていただきます」

 

 脱衣所で着替えをしながらギャスパーくんと話す。

 木場さんとアザゼル総督はまだ温泉に入っている。一誠はしばらくしたら温泉の熱気と興奮でのぼせて出てくるだろう。

 

「ギャスパーくん、浴衣の左右が逆になってる。それじゃ死装束になっちゃうよ」

「え、あっ、はい」

「こういう場所の浴衣なんて楽に着れるのがいいんだけど、流石に死装束は縁起が悪すぎるからね」

 

 ギャスパーくんが浴衣の帯を締めてる間、僕は浴衣を帯を締めずに羽織ながら洗濯物をまとめる。僕が洗濯物を纏め終わったくらいにギャスパーくんも準備が整っていた。

 

「じゃあ行こうか」

「でも、誇銅先輩がまだ帯を」

「大丈夫」

 

 僕は歩きながら浴衣の左右を揃え帯を締めた。結び方は貝の口帯結び。

 このくらい二年間もすれば着慣れる。向こうで来ていた着物はもっとややこしかったし。そもそも浴衣自体向こうでは寝間着として毎日着てたしね。走りながらでも結べるよ。

 

「歩きながらでそんなに早く、しかも結び目も綺麗です。すごいですぅぅっ!」

「浴衣は普段から僕の寝間着だからね。馴れだよ馴れ」

 

 実は後輩に感心されてちょっと誇らしげな気持ちだけどね。

 部屋に戻ってドライヤーで髪を乾かし、牛乳を飲んでひと段落。それから寝るまでずっと二人で将棋やチェスをさした。

 将棋は接戦で負けたけど、チェスはボロ敗けしちゃったよ。強いね、ギャスパーくん。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 次の日。僕たちは庭の一角に集められた。

 ジャージ姿で庭の一角に集まり、置かれているテーブルと椅子に座って修業開始前のミーティングを始められた。

 アザゼル総督は何かの資料を持っている。

 

「先に言っておく。今から俺が言うものは将来的なものを見据えてのトレーニングメニューだ。すぐに効果が出るものもいるが、長期的に見なければならない者もいる。ただ、お前らは成長中の若手だ。方向性を見誤らなければ良い成長をするだろう。まずはリアスからだ」

 

アザゼル総督が最初に呼んだのはリアスさん。

 

「お前は最初から才能、身体能力、魔力の全てが高スペックの悪魔だ。このまま普通に暮らしていてもそれらは高まり、大人になる頃には最上級悪魔候補となっているだろう。だが、将来よりもいま強くなりたい。それがお前の望みだな?」

「ええ。もう、あんな思いは二度としたくないわ」

 

 リアスさんは力強くうなずく。

 

「ならこの紙に記しているトレーニング通り、決戦直前までこなせ」

 

 アザゼル総督はリアスさんにトレーニングメニューが描かれてるであろう紙を渡す。だけどリアスさんは内容を見て首を傾げる。

 

「これって……凄い特別なトレーニングとは思えないのだけど?」

「そりゃそうだ。基本的なトレーニング方法だからな。お前はそれでいいんだ。すべてが総合的にまとまっているから、基本的な練習だけで力が高められる。問題は『(キング)』としての資質だ。『(キング)』ってのは、力より頭を求められる事が多い。魔力が得意じゃなくても、頭の良さ、機転の良さで上まで上り詰めた悪魔だっているのは知ってるだろう? ―――――『(キング)』に必要なのは、どんな状況でも打破できる思考と機転、そして判断力だ。眷属の下僕が最大限に力を発揮できるようにするのがおまえの仕事なんだよ」

 

 思った以上にしっかりと考えられていた内容だ。ただ魔力を上げるようなトレーニングを組むんだと思っていたのは侮りすぎてたね。相手を過小評価するのは、自分を過大評価するのと同じくらい危険。反省反省。

 

「次に朱乃」

「……はい」

 

 次に呼ばれた朱乃さんはなんだか不機嫌そうに見える。いや、不機嫌というよりも、若干の嫌悪感と苦手意識が混ざったような感じだ。平安時代に下っ端悪魔が雷影の交否(ひこう)さんに会う時と同じような雰囲気。交否(ひこう)さんは妖怪の中でも特に難しい人だったから同格以下の妖怪からは皆そう感じられていたね。

 でもアザゼル総督は交否(ひこう)さんのような威圧と気難しさはない。なぜだろう?

 

「お前は自分の中に流れる血を受け入れろ」

「―――ッ!」

 

 理由はわからないけど、朱乃さんはその言葉で顔をしかめた。それでもアザゼル総督は話を続ける。

 

「フェニックス家との一戦を記録映像で見せてもらったぜ。なんだありゃ。本来のお前のスペックなら、敵の『女王(クイーン)』を苦もなく打倒できたはずだ。―――何故堕天使の力をふるわなかった? 雷だけでは限界がある。光を雷に乗せ、『雷光』にしなければお前の力は発揮出来ない」

「別に私は、あのような力に頼らなくても……」

「否定するな。自分を認めないでどうする? 最後に頼れるのは己の体だけだぞ? 否定がお前を弱くしている。辛くとも苦しくとも自分をすべて受け入れろ。お前の弱さは今のお前自身だ。決戦日までにそれを乗り越えてみせろ。じゃなければお前は今後の戦闘の邪魔となる。『雷の巫女』から『雷光の巫女』になってみせろよ」

「…………」

 

 朱乃さんはそのままだんまりを決め込んでしまう。ものすごく思い悩んでる様子だった。

 

「次は木場だ」

「はい」

「まずは禁手(バランス・ブレイカー)を解放している状態で一日保たせてみせろ。それに慣れたら実戦形式のなかで一日保たせる。それを続けていき、状態維持を一日でも長く出来るようにしていくのがお前の目的だ。あとはリアスのように基本トレーニングをしていけば十分に強くなれるだろうさ。剣系神器(セイクリッド・ギア)の扱い方は後でマンツーマンで教えてやる」

 

 やっぱり神器の研究者だけあって神器の事はよくしってるんだろうな。木場さんにとっては幸運かもしれないけど、僕にとってはそこが厄介なんだけどね。

 

「剣術の方は……お前の師匠にもう一度習うんだったな?」

「ええ、一から指導してもらう予定です」

 

 剣術か。平安時代では剣術はそんなに見かけなかった。平安時代の刀はよい品質ではなく、扱う人もそんなにいなかったからね。扱う人がいないから鍛冶屋も刀を造る技術も上がらない。武士って概念もまだない時代だったからね。

 僕が戦った剣士も武士の元祖みたいな人で、その人が持つ刀は綺麗な日本刀だった。ちゃんとした刀を見たのはそれだけ。

 木場さんの剣の師匠ってどんな人なんだろうね。ちょっと興味ある。

 

「次、ゼノヴィア。お前はデュランダルを今以上に使いこなせるようにすることと―――もう一本の聖剣に慣れてもらうことにある」

「もう一本の聖剣?」

 

 アザゼル総督の言葉にゼノヴィアさんは首を傾げる。

 

「ああ、ちょいと特別な剣だ」

 

 にやけるだけではっきりとしたことは言わないアザゼル総督。そして次にギャスパーくんの方を見る。

 

「次にギャスパー」

「は、はいぃぃぃぃぃ!」

「そうビビるな。お前の最大の壁はその恐怖心だ。何に対しても恐怖するその心身を一から鍛えなきゃいかん。もともと血統、神器(セイクリッド・ギア)共にスペックは相当なものだからな。それに加えて『僧侶(ビショップ)』の特性がお前を大きく支えている。専用の『引きこもり脱出計画!』なるプログラムを組んだから、そこでまずは真っ当な心構えを出来るだけ身につけてこい。全部が無理でも、人前に出ても動きが鈍らないようにしろ」

 

 引きこもり脱出計画か、ちょっと心配だな。無茶な事されないかな? ギャスパーくんは精神的に強くならなきゃいけないのは確かだけど、僕には無理やりどうこうされるような事がない事を祈る事しかできないよ。

 

「はいぃぃぃぃぃっ!」

 

 ギャスパーくんは、涙目でダンボールに入ろうとしながらも大きな声で返事した。

 

「同じく『僧侶(ビショップ)』のアーシア」

「はい!」

「お前も基本的なトレーニングで、身体と魔力の向上をしてもらう。そして、今回のメインは神器の強化だ」

「アーシアの回復神器は最高ですよ? 触れるだけで病気や体力以外なら治療しますし」

 

 アーシアさんの回復力は本当に大したものだと僕も思う。僕も何度も大きな傷を一瞬で直すところを見たことがある。治療を受けたことは一度もないけど。

 

「それは理解してる。回復能力の速度は大したもんだ。だが、問題はその『触れる』って点だ。味方が怪我してるのに、わざわざ至近距離にまで行かないと回復作業ができない」

「もしかして、アーシアの神器は範囲を広げられるの?」

「ご名答だ、リアス。こいつは裏ワザみたいなものだが。『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』の真骨頂は効果範囲の拡大にある」

「アーシアの神器、遠距離も可能ってことスか!?」

 

 一誠の問いにアザゼル総督はうなずく。効果範囲拡大はすごいね。

 妖怪の間で回復術は嗜みだった。だから大抵の妖怪が回復術が使える。上級になればアーシアさんと同じくらいの回復速度で病気も体力も回復させられる。だけど、効果範囲拡大と遠距離だけは絶対に不可能。

 神器は道具だから、この辺は融通が利くんだね。

 

「俺たち組織が出したデータの理論上では可能だ。神器のオーラを全身から発して、自分の周囲の見方をまとめて回復なんてことも可能ななずだ。ちょっと不安もあるけどな」

「不安? アーシアの何が不安なんですか?」

「『やさしさ』ってやつだ。アーシアは戦場でケガをした敵を視認した時、そいつのことも回復してやりたいと心中で思ってしまうだろうな。それが判別する能力の妨げになる」

 

 それは大問題だ。場合によっては敵ごと回復してしまったり、タイミングが悪ければ敵だけ回復してしまう恐れがある。アーシアさんの性格なら十分ありえる話だね。

 

「だから、もうひとつの可能性を見出す。回復のオーラを飛ばす力をな」

「そ、それは、ちょっと離れたところへいる人に、私が回復の力を送るということですか?」

「ああ、直接飛ばす感じだな。例えばイッセーが十メートル先で戦闘してて、ケガをしている時、お前がイッセーに向けて回復の力を飛ばすのさ。さっき話したのが一定のフィールド限定なら、いま説明したのは飛び道具バージョンだな。直接触れなくても回復ができるようになる」

「そ、そりゃ、すげえ! アーシア大活躍できるぜ!」

 

 だけど、あまりできすぎると敵から優先的に狙われてしまう。短所がそのまま長所になると言うけど、この場合は長所がそのまま短所になってしまう。

 元々ないのと、ないのが当たり前でもあったものが使えなくなるのは、前者と比べ物にならないマイナスになる。

 アーシアさんの回復能力が強化されるのは、大きなプラスと同時に大きなマイナスの可能性も抱くことになるだろう。もし失えば、有利状況だろうと心理的に不利に立たされてしまう。アーシアさん自身には戦闘能力も隠密能力もないのだから。これだけでも防戦を強いられる。難しいとこだね。

 もしもこれが日本勢力なら、きっと回復の拡大よりもアーシアさん自身に逃げる、隠れる方法を教えるだろう。まあ、冥界と日本の考え方の違いだね。

 

「直接触れて回復させるよりも多少はパワーが落ちるだろうが、それでも遠距離にいる味方を回復できるのは戦略性の幅が広くなる。前線に一人か二人飛び込ませて、後方で回復のアーシアとアーシアを護衛する誰かを配置すれば、理想的なフォーメーションが組めるだろう」

「王道だけど、シンプルに強いフォーメーションだわ。通常、味方を回復する術なんてフェニックスの涙か、調合された回復薬ぐらいですものね」

 

 僕が知ってるのではもう一つある。妖力を気脈に適切に送り込んで、術者の妖力と対象の氣の両方で回復させる術。かなり高度な術ではあるけどね。

 ソーナさんは日本妖怪と自覚して繋がりを持っている。もしかしたら、この回復術を使える人もいるかもしれない。最悪全員が使えるなんてことも。最低でも国木田さんは使えると考えた方がいいだろう。

 戦闘能力は無くても遠距離から回復できる人と、戦闘も隠密もこなせて直接触れなくちゃ回復できない人、どっちが恐ろしいか。実際に立てば明白だろう。

 

「…このチームの特徴的な持ち味、武器と言える。あとはアーシアの体力勝負だ。基本トレーニング、ちゃんとこなしておけよ?」

「はい、はい! 頑張ります!」

 

 アーシアさんの修業メニューを伝え終えると、次は搭城さんの方を見るアザゼル総督。

 

「次は小猫」

「はい」

「お前は申し分のないほどオフェンスとディフェンスが優れ、『戦車(ルーク)』としての素質を持っている。身体能力も問題ない。―――だが、リアスの眷属には『戦車(ルーク)』のお前よりもオフェンスが上の奴が多い」

「……分かっています」

 

 アザゼル総督がはっきり伝えると、搭城さんは悔しそうな表情を浮かべている。

 

「リアスの眷属でトップのオフェンスは今のところ、木場とゼノヴィアだ。禁手の聖魔剣、聖剣デュランダルと凶悪な兵器を有してやがるからな。ここに予定のイッセーの禁手が入ると―――」

 

 まあオフェンスの人選はピッタリだね。一誠の禁手(予定)が入れば、相当な攻撃力になるのは予想に難くない。搭城さんは強いけど、今の搭城さんでは相当かすむだろうね。

 

「小猫、お前も他の連中同様、基礎の向上をしておけ。その上で、お前が自ら封じているものを晒けだせ。朱乃と同じだ。自分を受け入れなければ大きな成長なんて出来やしねぇのさ」

「…………」

 

 晒けだせと言われたあたりから朱乃さんと同じように黙ってしまう。戻ってきてからずっと薄らと感じてたけど、搭城さん、妖怪だよね? 国木田さんのようなフリしてるじゃなくて完全に悪魔になってるけど。アザゼル総督の晒けだせというのはそのことかな?

 

「大丈夫、小猫ちゃんならそっこーで強くなれるさ」

 

 一誠が搭城さんに声をかける。たぶん元気づけるために言ったんだと思うけど、それは悪手過ぎる。

 

「……そんな、軽く言わないでください……っ」

 

 案の定、搭城さんは険しい表情で言葉を返す。

 一誠、自分では自覚ないだろうけど、一誠の強くなるスピードは早いし秘めたるものがとても強い。一誠自身というより殆ど……いや、全部神器に秘められてるものと言っても過言じゃないけどね。それでも明らかに自分より上にいる、行く人にそういわれるのは屈辱だろう。善意が相手に地獄を見せた瞬間だ。

 

「次は誇銅だが」

「はい」

 

 ついに僕の番がきてしまった。めんどくさいよ~。

 

「ハッキリ言って、おまえは一番弱い。『戦車(ルーク)』の特性だけで無理やり誤魔化してるだけだ。ひ弱って程じゃねえが基準値にはまったく届いてねえ」

「は、はあ」

「だが―――それを打開できるかもしれないものを二つ秘めている。一つ目はその神器。今まで何の兆しも見せなかった『破滅の蠱毒(バグズ・ラック)』だが、今度は何か兆しのようなものを感じる。もしかしたら、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の禁手に匹敵する禁手へと進化するかもしれない。

 だからそれを調べるために、まずは俺とマンツーマンでそれを模索してみる!」

 

 うわ! ものすごくめんどくさい事に! ものいっそ表情に出そうだけどグッと堪えて。なんとか頬がぴくぴくなる程度に納められたよ。

 まさか初っ端からマンツーマンを言い渡されるなんて、ついててないよ。

 

「そしてもう一つは、その察知能力だ。誰も気づけなかった俺の侵入におまえだけは気づけた。もっと伸ばして行けば敵の行動を先読みしたり、優秀な探知役となれる」

 

 うわ~この人完全に僕をターゲットにしてる。は~帰りたい。

 

「とりあえず誇銅のトレーニングメニューは神器の経過を見てから微調整を加える」

「わかりました」

 

 僕は上がらず下がりっぱなしのテンションを何とか平常の所でキープし返事をした。あまりにもやる気ない返事だと後で言われちゃう。

 

「さて、最後はイッセーだ。おまえは……。ちょっと待ってろ。そろそろなんだが……」

 

 アザゼル総督が空を見上げる。まだちょっと遠いけど、大きな気配を感じる。しかもかなり強力な気配。付け加えるなら一誠の右手と同じ感覚がする。

 その正体はすぐにわかった。僕の視界を巨大な影が支配する。それは猛スピードでこちらに向かって来た。

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 地響きと共にそれは目の前に飛来した。椅子もテーブルも大きく揺れ、一誠は地面に転んでしまう程。

 その巨大な怪獣の正体は

 

「――――ドラゴン!」

「そうだ、イッセー。こいつはドラゴンだ」

 

 その後、アザゼル総督の説明で一誠のトレーニングはドラゴンとガチ生存修行だと発表された。正直僕もそっちが良かったよ。あれだけ巨大な気配、冥界側の人が隠せるわけがない。例え知能があるドラゴンでも。

 強い種族は弱い者の技を覚えない、覚える必要がない。だから僕なら必ず逃げ切れる。その自信も確信もある。例え隕石に匹敵するブレスを吐けても当たらなければどうということはない。山なんて食材も隠れる場所も豊富な場所で、二十日間ドラゴンから逃げきるなんて僕にとってはイージーだよ!

 若干調子に乗った愚痴を内心でこぼしながらトレーニングメニューの発表は終わった。あ~あ、いやだな~。

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