無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 修業パートで修業できないこの矛盾。不思議な描きづらさを感じた。


難儀な悪魔の社交界

 ダンスの練習が終わった後、僕と一誠は一度本邸に移動した。

 一誠は搭城さんの事が心配だから様子を見に行こうと僕をさそうが、僕は行かないと伝える。

 

「小猫ちゃんより弱い僕がかけられる言葉はないよ。僕が行った所で、僕と言う下がいる事を教える事だけだよ」

 

 オーバーワークと言う事は、強さがらみの悩みの可能性が高い。さらに、リアスのお母さんから聞いた話を合わせると、力を解放することに忌避感を感じてるんだろう。平安時代でも妖怪と人間の子や霊力が極端に強い子供には多い悩みだ。

 前者は妖怪の高い身体能力と面妖な力で親以外から避けられ、自分の力を怖がる。

 後者は強すぎる霊力に人間の体が耐えられず、身体能力が人よりずっと低い。さらに強すぎる霊力も制御が難しく、周りの期待に応えられずに自分の弱さを責め苦しむ。

 搭城さんが患ってる苦しみもこのどちらか、もしくは両方を合わせなようなものだろう。

 

「でも、誇銅だって小猫ちゃんと同じ戦車(ルーク)じゃないか。同じ立場同士、なんていうかこう、元気づけてやれるんじゃないか? それに、仲間からの言葉ってだけでもやっぱり励ましになると俺は思う」

「僕と搭城さんは全く同じなんかじゃないよ。それと、上を見上げさせるならやっぱりその人より上にいる人が声をかけなきゃ。リアスさんなら立場、一誠なら強さみたいにね」

 

 搭城さんには確かな才能がある。僕には今でこそ目覚めはしたが、不確かな神器しかなかった。同じなんかじゃない。同じだけの仲間意識も与えられていない。

 僕はそれだけ伝えると自分の部屋に戻った。今のうちに宿題でもやっておこうかな。

 

「……いいな」

 

 宿題を始めようとした時、自分の口から言葉がポロリと落ちた。

 僕がライザーさんの炎で入院した時も、事故に合って入院した時も誰もお見舞いに来てくれなかった。あっ、レイヴェルさんだけはなぜか来てくれたか。

 そんなことを思いながらも宿題を進める。でも、やっぱりブランクが長すぎてかなり忘れている。ノートを見ながらだからものすごくはかどらない。

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

「どこ行ったんだ――――――ッ!!」

 

 次の日の朝、僕はアザゼル総督の予告通り修行場に戻された。そして、再び10分もしない間にアクシオさんの視界から姿を消す。戦いを捨てて逃げに徹すれば、隠れる場所の多い森なら簡単に逃げられる。例え広範囲の攻撃で隠れる場所を吹き飛ばしても、一度視界から外れてしまえば森が残ってる限り逃げきれる。全滅させられたら山を挟んで逆側に逃げたり、仕方ないけど山で洞窟を見つけたりするよ。

 

「ん~やっぱり忘れちゃってるな。ここはノートがないとわかんないや」

 

 そしてその日からずっと自室から隠し持ち出した宿題の一部をやりながら時間を潰している。

 それ以外にも炎の造形魔法、『炎目(えんもく)』のトレーニングも順調に進んでいる。アクシオさんは僕が近くに潜んでる事を知ってから、あたりをくまなく探すようになった。だから近くに潜んでしばらく様子を見るのをやめて、ちょっとでも近づいてきたら速攻離れるに切り替えることに。そのせいでかアクシオさんが暴れる音が時々聞こえる。まあ、レーザーブレス以外の攻撃の射程外にいるから大丈夫なんだけどね。。

 

 

 ビュィィィィィィィ ピュイ――――――――ン

 

 

 アクシオさんのいる地点だけが不自然な嵐状態になっている。加えてその中から時々レーザービームが飛び出し山を貫通して天へと放たれる。嵐は炎目で防げそうだけど、あのレーザーブレスだけは燃え尽きる前に炎の壁を突破されちゃう。対面した時点で炎目を造る余裕なんてないだろうから関係ないけど。

 

「どこにいるんだ―――――――ッ! 絶対見つけ出してやる―――――――ッ!!」

 

 ドラゴンの力強い声が響き渡る。最初会った時はかなり知性派なイメージがあったのに、すっかり我を失ってるようだ。アクシオさん、我を忘れさせてしまう程苛立たせてごめんなさい。

 僕の持ち物は大学ノート一冊分の宿題と必要最低限の筆記用具と竹で作った小さな水筒だけ。水場の場所は限られてるから水は貴重。これがなくなったら水場まで組みに行かないといけない。今よりは冷静だった時のアクシオさんの行動で水場の近くは見晴らしがよくされている。痕跡は残してないとはいえ、水場はしっかりとマークされてるだろう。最悪逃げ切るために少し戦わないといけなくなるかも。それはあまりよろしくない。まあ、まだまだ余裕あるから大丈夫かな。

 

 そんなに走り回ったりしてるわけもなく、暑い時は日陰に隠れているけど、長い時間同じジャージを着っぱなしじゃ汗臭くなってきたよ。だからって洗ってる暇は流石にない。

 アクシオさんはほぼ24時間僕を探している。おかげで落ち着いて宿題どころか眠る事もできない。いくら離れてるからってあんなにギラギラした気配を出されちゃ眠れないよ。だからここ最近ずっとぐっすりとは眠れていない。眠る余裕がないのもつらいけど、それに見合うリターンがないのはもっとつらい。

 このトレーニング、半端な座禅や滝行よりも精神修業になる。

 

「チクショ――――――!」

 

 現在八月十五日。ソーナさんたちとのレーティングゲームは八月二十日。残り五日。

 期間中の予定には一度ゲーム前に集まって、休息をとる日もちゃんと設定されている。修業の疲れを持ち込むような愚行をしないために。

 それ以外にも、魔王様主催のパーティもあるらしく、僕たちも招待されている。つまり修業の時間はあとわずか。正確には明日で終わり。

 だから昨日今日のアクシオさんはものすごく焦っている。逃げるのは容易だけど、流れ弾が怖い。不意の流れ弾には敵意がないからね。

 

「……どうやら、今日も平和に終わりそうだ」

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

「よう、誇銅。久しぶり」

 

 グレモリー本邸前。僕はアクシオさんの背中に乗せてもらって戻ってきた。乗り心地はすごく良かったけど、アクシオさんがすごく不機嫌だったから居づらかったよ。でも、乗れって言うし。

 最終日にアクシオさんが麓ばかりに目を向けていたから、ちょこっとだけ山に登って洞窟でゆっくりと眠った。ベット代わりに草を集めたりしてね。

 

「時間にキッチリしてるおまえにしては遅かったな。何かあったのか?」

「ギリギリまでやってただけです。ハイ」

 

 一誠の修業相手のドラゴンがアクシオさんに話しかけると、アクシオさんは見るからに不機嫌そうな顔で答える。

 

「ん? 何かあったのか?」

「なんにもありません。ほっといてください」

 

 アクシオさんの態度が豹変してる事に驚いてる様子。僕だって驚いたよ。だって、初日のアクシオさんは礼儀正しくて、優しい口調で僕に語りかけてくれた。優しくて紳士的って印象。だけど、今のアクシオさんは無愛想で若干ぶっきらぼうな言い方が混じってる。特に僕を見る目が怖い。

 

「アクシオ……大丈夫か?」

「チッ。だから大丈夫ですって言ってるじゃないですか」

「本当に何があったんだ……」

 

 大きなドラゴン同士の間に嫌な空気が漂う。アクシオさんのあまりのやさぐれに、アクシオさんより上っぽいドラゴンが気を使ってる。こちらの事情的にもしかたなかったこととはいえ、ごめんなさい。

 

「じゃ、じゃあ俺たちは本当にこれで。また魔王主催のパーティで会おう」

「次は見つける。ブツブツ」

 

 暗黒面に堕ちそうな黒いオーラを纏いながら羽ばたくアクシオさん。その姿が見えなくなるまで僕の方を見ていた。

 

「……なあ、何をしてたんだ?」

「いや、なんでもないよ。ちょっとかくれんぼしてただけだから」

 

 様子のおかしさから一誠が僕に聞く。僕は適当に本当の事を言ってお茶を濁す。まあ事実だからね。

 

「やあ、イッセーくん。それに誇銅君」

 

 声の方へ振り返ると、そこにはぼろぼろのジャージ姿の木場さん。だけど、この場で一番ボロボロなのは一誠だけどね。上半身なんてもうない。

 

「……良い体になったね」

 

 木場さんが一誠の裸の上半身を見て言う。一誠はそれを聞いて身を隠す。

 

「や、やめろ、なんだ、その目は……そういう目で俺の体を見るな!」

「ひ、酷いな。僕は筋肉がついたねって言いたかっただけなのに」

「おまえは……変わらないな」

「まあ、僕は肉が付きにくい体だからね。うらやましいよ」

 

 ちなみに僕も肉が付きにくい体だよ。だけど、おかげで無駄な筋肉がつかなくて柔術には適してるけどね。必要筋力は今の所戦車(ルーク)の駒で補ってるし、これから筋トレでちょうどいい筋肉をちょっとずつつければいい。

 

「おー、イッセーと木場か」

 

 今度はゼノヴィアさん。全身包帯ぐるぐる巻きでミイラみたい。格好もボロボロだしね。

 

「しかし、お、おまえ、なんだ、その恰好……?」

「うん。修業して怪我して包帯巻いて修業して怪我して包帯巻いていたら、こうなった」

「ほとんどミイラ女じゃねぇか!」

「失敬な。私は永久保存されるつもりはないぞ?」

「そういう意味じゃねぇって!」

「おっ、誇銅もいたのか」

 

 最初僕の名前がないと思ったら気づかれてなかったのか。まあ、僕は小さいし気配も薄いからね。特に、気配の濃い一誠と木場さんの後ろにいればなおさら。

 だけど、一誠も木場さんもゼノヴィアさんも確実に力は増している。修業前とは大違いだ。みんな修業の成果がちゃんと出たみたいだね。

 

「イッセーさん! 木場さん、ゼノヴィアさんも!」

 

 また僕の名前だけない。さすがに今日は無視されすぎじゃない!? 僕だけ全く変わってないから埋没してるのかな? まあ、これが仲間内いじめではない事を祈ろう。……嫌われてはないよね?

 

「アーシア、久しぶりだな」

「イ、イッセーさん! ふ、服を着てください!」

「あら、外出組は帰ってきたみたいね」 

 

 次に現れたのはリアスさん。リアスさんの姿を見て一誠のテンションが一気に上昇した。

 

「部長ォォォォォォッ! 合いたかったっス!」

「イッセー……随分たくましくなったわね。胸板が厚くなったかしら」

 

 リアスさんは一誠にぴったりと抱き着く。抱き着かれた一誠はものすごくうれしそうな顔をしている。

 

「さて、皆。入って頂戴。シャワーを浴びて着替えたら、修業の報告会をしましょう」

 

 久しぶりのシャワー。やっと汗の臭いとこの服を着替えられると思うと嬉しくて仕方ない。シャワー時間はゆっくりととらせてもらうことにしよう。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 僕たちが全員集合したのが実に二週間ぶりだった。

 外で修業していた一誠、木場さん、ゼノヴィアさん、僕はシャワーを浴びて着替えた後、一誠の部屋に集まっていた。正直リビングに集まった方がいいと思うけど、一誠の部屋が一番集まりやすいらしい。わからないけど。

 で、集まって修業の内容を話していた。木場さんは師匠との修業顛末。ゼノヴィアさんは修業の内容を。僕もずっと隠れていたことを正直に。一誠もドラゴンとのサバイバル生活を話した。

 一誠の話を聞くと皆、軽く引いていた。

 木場さんもゼノヴィアさんも外で修業をしていたけど、山小屋やグレモリーが所有している別荘で生活しながら修業していたらしく、一誠が山で動植物をハントしてドラゴンの火炎を避けながら生活していたのは、想像を絶していたらしい。僕の場合途中からだけど一誠と大差ない生活を送っていたよ。まあ、追われる事は一切なくて隠れてたけど。

 でも確かに木場さんやゼノヴィアさんとの環境と考えると厳しい環境だ。それに一誠は伝説のドラゴンが宿る神滅具の所有者と言っても、悪魔になって一年も満たないからね。

 

「せ……先生? 何だか、俺だけ酷い生活を送ってませんか……?」

「俺もお前が山で生活できていたから驚いたよ。途中で逃げ帰ると思っていたからな。ーーまさか、普通に山で暮し始めていたとは俺も想定外だった」

「えええええええええええっ!? 何にそれ……! お、俺、冥界産のウサギっぽい奴とかイノシシっぽい奴を狩って裁いて焼いて食べてたんですよ……? 水も、山で拾った鉄鍋で一度沸騰殺菌してから持ち歩いていたし……」

「だから驚いているんだよ。お前、逞しすぎるぞ。ある意味で悪魔を超えている」

「酷い! こちとらあのお山でドラゴンに一日中追いかけ回されて生活していたのにぃぃぃぃっ! 何度死にかけたことか! うえええええええんっ!」

 

 とうとう泣き出してしまった一誠。まあ、確かに一般人の感覚でそれはきつ過ぎる。泣いてもいいと思うよ一誠。頑張ったね。

 

「部長と会いたくて会いたくて! 毎夜部長のぬくもりを思い出しながら葉っぱにくるまって寝ていたのにぃぃぃ! つらかったよぉぉぉっ! ドラゴンのおっさん、手加減しないで寝てる時も襲ってくるんだもん! 岩が吹き飛んだよぉぉぉ! 山火事が俺を襲ってくるぅぅぅぅっ! 逃げろぉぉぉっ! 逃げなきゃ死ぬぅぅぅっ!」

「かわいそうなイッセー……。よく耐えたわね。ああ、イッセー。こんなにもたくましくなって……。あの山は名前がなかったけど、『イッセー山』と命名しておくわ」

 

 リアスさんが一誠の頭を胸元に引き寄せて抱きしめるて慰める。

 一誠はそこで再び大泣きをはじめた。

 

「自分だけがそうだと思うなイッセー。環境だけならお前よりも誇銅の方がよっぽど劣悪だぞ。誇銅も結局逃げ出さなかったし」

「誇銅君が?」

「一誠と同じようにドラゴンに追われながら、魚も獣もいないところで、雑草やキノコ食ってたらしいからな」

 

 アザゼル総督がさらっと僕があえて伏せていたことを言う。変な注目されるのが嫌だったから伏せておいたのに。案の定、一誠の時に見せた引きよりは小さいものの、みんな引いてる様子。まあ、力は隠せてるからOKとしておこう。

 

「しかし、イッセーも誇銅も禁手(バランス・グレイカー)には至れなかったか」

 

 アザゼル総督は僕と一誠が禁手に至れなかったことを残念そうにつぶやく。だけど、そこまで残念そうでもない様子。

 

「ま、至れない可能性は予想していた範囲でもある。ああ、ショックを受ける事はないぞ、イッセー。禁手(バランス・グレイカー)ってのはそれほど劇的変化がないと無理ということだ。サバイバル生活と龍王クラスと、それに匹敵するドラゴンとの接触で何かが変化すると思ったんだが、時間が足りなかったな。せめて、イッセーはあと一か月……」

 

 さりげなく一か月で可能性があるのは一誠だけって言ったよね? 僕には一か月程度では先が見えないってことですね。まあ、既に禁手できるんですけど。

 僕の場合、その劇的な変化が自身の死だったってことかな。

 禁手に至れた事は嬉しくないけど、そのおかげで藻女さんたちと家族になれた事は嬉しかったね。だからこの力は絶対にアザゼル総督にばれるわけにはいかない。そうなれば自動的にリアスさんのためにこの力を使う事になるだろうから。

 

「ま、いい。報告会は終了。明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」

 

 アザゼル総督の言葉で報告会はお開き。

 こうして、やっと苦痛の修業から解放された。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 次の日の夕方。

 僕は一誠以外のみんなと一緒に別室にいる。着慣れないタキシードに身を包んでね。

 これから魔王様主催のパーティに参加するから、おしゃれをする事は別に不思議ではない。

 一応、グレモリーの紋章付の腕章をつけておけば制服でもよかったらしい。一誠はそれだし。

 なのになんで僕がタキシードを着ているか。それは着ていた方がいいと強く勧められたから。僕にダンスを教えてくれた先生が、ダンスの相手をするなら制服よりタキシードの方がいいだろうと。せっかく上手いのだからもったいないって言ってくれてね。そこまで言われたら断れない。だから衣装を貸してもらった。

 別に平安時代の堅苦しい衣装に比べたらいくぶん楽な服装だから別に問題はないし。

 他の人がもうちょっと時間がかかりそうだったからしばらく外をうろうろしていると。

 

「あれ、匙さん」

「よう、誇銅。ビシッと決めてかっこいいな」

「ありがとうございます。匙さんのタキシードもとてもかっこよく決まってますよ」

「そうか? へへっ」

 

 僕と同じタキシード姿でかっこよく決めてる匙さんにばったり会った。

 

「ところで、どうしてここに?」

「ああ、会長がリアス先輩と一緒に会場入りするってんでついてきたんだ。で、会長は先に先輩に会いに行っちまったし、仕方ないんで屋敷の中をうろうろしてたら、誇銅に会っただけだ」

 

 リアスさんたちがいるところの近くを通ったのにソーナさんに会わなかったってことは、入れ違いになったのかな。まあ、後で僕も行くからその時案内すればいいかな。

 

「もうすぐゲームだな」

「そうですね」

「俺、鍛えたぜ」

「はい。匙さんから感じる力がより洗礼されているのを感じます」

「!? わかるのか!?」

「はい」

「そ、そうか。国木田先輩の言った通りだな。誇銅は他とはちょっと違うって」

 

 国木田さんが僕のことを? どうやらすべて話したわけじゃなけど、ちょっとだけ話したってとこだろう。まあ、国木田さんが大丈夫と判断したなら大丈夫だろう。日本勢力が関わってるソーナさんたちなら僕と日本勢力との関わりを知っても問題ないと思う。まあ、現状をあまり知らないから、知ってる国木田さんが話すまで僕からは言わないよ。

 

「誇銅。先月、若手悪魔が集まった時の事覚えているか?」

「はい」

「あれ、俺たちは本気だ。会長は馬鹿にされたからって関係ないって気にしてる様子はなかったけど。……俺……。先生になるのが夢なんだ!」

 

 匙さんは少し熱がこもった様子で言う。顔も少し赤い。

 

「匙さんが先生ですか。……不器用ながらも生徒と体当たりで接するいい先生になりそうですね」

「今俺が先生になる姿想像しただろ。不器用ってながらって……。でも、いい先生になりそうって言ってくれてサンキュー。

 会長は冥界にレーティングゲームの専門学校を設立しようとしている。ただの学校じゃないんだ。悪魔なら上級下級貴族平民関係なしに受け入れる、誰にも自由な学校なんだ。会長に聞いたんだ。悪魔業界は少しずつ、差別やら伝統やらが緩和されてきたけど、まだまだ根底の部分で受け入れがたい部分があるって。だから、レーティングゲームの学校もいまだに上級悪魔の貴族しか受け入れていない」

 

 力の差が少なく、民主主義が広がってる人間界でも差別的なものは未だに残っている。それが力の差が激しく、貴族主義が残る冥界ではなかなか難しいと思う。

 魔王様たちがいくら人間界のようなシステムを取り入れても、それを行うのは悪魔、人間じゃない。やっぱり強さ的な違いもあれば考え方の違いもある。

 

「ゲームは平等でなければいけない。これは現魔王様たちがお決めになったことだ。平等なはずなのに、下級悪魔の平民にはゲームの道が遠いんだよ。おかしいだろ? もしかしたら、貴族以外の悪魔でもやり方次第では上級悪魔に昇格出来るかもしれないのによ。可能性はゼロじゃないはずなんだ!」

 

 匙さんの真剣な意見と心からの訴えは、僕の心にしっかりと届いた。

 匙さんは―――本気で夢を描いている。それもただの夢じゃない、本気で夢に向かって邁進しようとしてるのが感じ取れる。

 

「会長はそれをなんとかしたいって言っていた。下級悪魔でもゲームが出来るってことを教えたいって。だからこの冥界に、誰でも入れる学校を作るんだよ! 会長はそのために人間界でも勉強されているんだ! スポットが決して当たらなかった者たちに可能性を与えるんだ! 一パーセントでも! ゼロに限りなく近くても!」

「そうですね。可能性はゼロじゃない。ゼロでなければ、可能性はある」

「だ、だからこそ、俺はそこで先生をするんだ。いっぱい勉強して、いっぱいゲームで戦って、色んなものを蓄える。それで『兵士(ポーン)』のことを教える先生になるんだ。会長が俺にも手伝って欲しいってさ。こんな俺でも、学校の先生になれるかもしれない……。俺、むかしはバカな事ばかりやっていてさ。親にも迷惑かけたし、周りの人間にも嫌われてた。でもよ、会長となら、夢が見れるんだ! 俺は生涯会長のお側にいて、会長の手助けをする! 会長の夢が―――俺の夢なんだ!」

 

 匙さんは照れながら言う。

 

「へへへ。お袋にはさ、悪魔になったことは内緒にしているけど、それでも将来の夢を話したら泣いちまってよ。でも、悪くはないよな。お袋の安心した顔ってよ」

 

 お母さんが安心した顔。それは、良くわかるよ。僕もできる事なら、お父さんやお母さんを安心させて、安心した顔を見たい。まあ、叶わないけど。

 できる事なら、匙さん、ソーナさんには負けてほしくないな。

 

「匙さんが立派な先生になれるように僕も応援するよ」

「サンキュー誇銅。まあ、そのためにも今度おまえたちを倒さなきゃいけないんだけどな」

「勝負当日、お待ちしてます」

 

 僕は手を出し握手を求める。匙さんはそれに応えて握手をしてくれた。僕は本気で戦えないけど、それでもリアス・グレモリー戦車(ルーク)としては戦わせてもらいます。

 そして僕は匙さんをソーナさんがいるであろう場所へと案内した。案内した先では皆さんが既に準備を終えたところだった。女性陣はみんな化粧をしてドレス姿に身を包んで、髪もしっかり整えている。みんなとても輝いていた。

 ギャスパーくんも案の定タキシードではなくドレス姿。だけど、とっても似合っている。

 

「あの、誇銅先輩……変ですか?」

「そんなことないよ。とっても綺麗で似合ってるよ」

 

 僕がそう言うと嬉しそうな笑顔を浮かべて、僕と一緒にみんなの後を一番後ろからついていく。

 一誠が待っている客間へとたどり着いた。いっそう綺麗になった仲間の姿を見て、見惚れてる様子の一誠。まあ、ギャスパーくんがここでも女装してるのにはツッコミを入れたけど。でも、ギャスパーくんがビシッと男性ものの服を着てるとこも見てみたい気もする。案外ものすごく似合ってるかも。

 そんなことがおこってる間に、この近くにとても強い気配が複数近づいてくるのを感じる。敵意はないようだ。そして、地響きと共にそれは庭へと着地したよう。

 しばらくして執事さんが来て言う。

 

「タンニーンさまとそのご眷属の方々がいらっしゃいました」

 

 

 

 

 

 庭に出てみると、それはもう圧巻だったよ。

 アクシオさんと同じくらいの大きさのドラゴンが十体ぐらいいるからね。ものすごく大きい。これが一誠の相手をしていたドラゴンの眷属たち。

 

「約束通り来たぞ、兵藤一誠」

「うん! ありがとう、おっさん!」

 

 一誠がドラゴンと話してる間、僕は他のドラゴンたちを見回す。そこには、アクシオさんの姿がなかった。

 

「アクシオさんは居ないんですね」

「ああ、アクシオは精神が不安定になってるから置いてきた。何があったのかと聞いても答えようとしないし」

 

 精神が不安定になった!?

 どうやら心にものすごい傷を負わせてしまったみたいだ。どうしよう、謝りに行った方がいいのかな? でも、別にずっと逃げてただけだし、見つからずに逃げてすいませんとか逆に嫌味になるし。この場合どうしたらいいのか……。

 

「おまえが心配することはない。ドラゴンは強い種族。アクシオはその中でも心の強いドラゴンだ、すぐに立て直す」

 

 アクシオさんの事で悩んでいると逆に僕が励まされてしまった。こんな調子じゃアクシオさんの所に顔を出しても火に油を注ぐだけか。

 その辺の区切りを一応だけどつけて僕たちはドラゴンたちの背に乗り、パーティ会場まで送ってもらった。ドラゴンたちの背中には僕たちが乗っている間、特殊な結界を発生させてくれて、空中でも衣装や髪が乱れないようにしてくれている。ここまで気遣ってもらえて、本当にご苦労様です。

 ドラゴンの背中で一時間ほど揺られていると、眼下に光明が広がっているのが見えてきた。

 どうやら、会場となる場所に着いたようだね。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 パーティ会場となる超高層高級ホテルは、グレモリー領の端っこにある広大な面積の森の中に存在していた。

 相変わらずスケールが本当に大きいね。ドラゴンのうえから敷地を見た感じだと、駒王町がまるまる入ってしまうくらいはあると思うよ。

 僕たちを乗せたドラゴンはスポーツ会場らしきところに降り立った。しっかりと地面に足が着いたのを感じた僕たちは、それぞれ礼を言いながら降りていく。

 

「では、俺たちは大型の悪魔専用の待機スペースに行く」

「ありがとう、タンニーン」

「おっさん! ありがとう!」

 

 最後にリアスさんと一誠がお礼を言うと、ドラゴンたちは再び翼を羽ばたかせ別の敷地内へと移動していった。

 そして、僕たちは会場にまで迎えに来ていたホテル従業員に連れられてリムジンに乗車。これが異常な程と思える僕の感覚はまだまだ正常なようだ。まあ、もしもこれが朧車とかだったらみんなが引いても、僕は何の違和感も覚えないけどね。

 僕はリムジンの一番端っこの席で隣にはドレス姿のギャスパーくんが座っている。後方のリムジンにはソーナさんたちが乗っている。リアスさんは一誠の身だしなみを正しながら、これから行くところの説明をしてくれた。

 

「ホテル周囲に各施設が存在してて、軍も待機しているわ。下手な都心部よりもよっぽど厳重なのよ」

「部長、アザゼル先生は?」

「あの人は他のルートでお兄様たちと合流してから向かうそうよ。すっかり仲良しこよしなんだから……」

 

 どうやら悪魔と堕天使のトップ同士、すっかり意気投合したみたいだね。と、いう事は片方の勢力に見つかると、僕は両方の勢力から目をつけられることになっちゃうのか。現状への変化はないが、仲良くなる程僕への危険性は増す。嫌だな。

 一誠は苦笑いを浮かべるが、とたんにリアスさんは真剣な表情を見せる。

 

「イッセーはタンニーンの頭部にいたから聞けなかったけれど、さっきソーナに宣戦布告されたわ。―――『私たちは夢のためにあなたたちを倒します』って」

 

 それはまた僕の知らないところでそんな事が。やっぱり親友と同時にリアスさんとソーナさんはライバル同士でもあるからね。この正々堂々感はちょっと熱く感じる。

 

「レーティングゲームの学舎。ソーナはそれを建てるために人間界で学生をしながら、人間界の学校システムを学んでいた。ーー誰でも入れる土壌のある人間界の学校は、ソーナにとって重要なものだったのよ」

 

 リアスさんの眷属だけど、気持ち的には僕はソーナさんを応援したい。リアスさんを信頼できず、ソーナさんの夢を応援したいってのもあるけど、ソーナさんが日本勢力と良好な関係ってことも大きいかな。ただの日本贔屓だね。

 

「それでも勝つわ。私たちには私たちの夢と目標があるのだもの」

 

 そう言い切るリアスさん。リアスさんの意志も目標がどうあれ固い様子。

 リアスさんの性格からして真正面から戦おうとするだろう。しかし、ソーナさんが真正面から戦ってくれるかはどうかわからないけど。

 匙さんしか見てないけど、どうやらソーナさんたちは鍛え方が根本的に僕たち、いや、悪魔と違うかもしれない。僕たち日本に近いのかも。そうなると、本当に正々堂々力のぶつかり合いは怪しくなる。

 そうこうしているうちにリムジンはホテルに到着した。出て行くと、大勢の従業員に迎え入れられる。そのまま中に入り、フロントで朱乃先輩が確認をとってエレベーターの中に入った。

 

「最上階にある大フロアがパーティ会場みたいね。イッセー、各御家の方に声をかけられたら、ちゃんとあいさつはするのよ?」

「は、はい。それはそうと部長。今日のパーティは……若手悪魔のために魔王様が用意されたんですか?」

「それは建前よ。どうせ私たちが会場入りしても大して盛り上がりもしないわ。これは恒例のことなの。どちらかというと、各御家の方々が行う交流会みたいなものね。私たち次期当主はおまけで、本当はお父様方のお楽しみパーティみたいなものよ。どうせ、四次会五次会まで近くの施設で予約を入れているのでしょうし。私たちと別行動で会場入りしているのがいい証拠よ。若手よりも先に集まって、既にお酒で出来上がっているのではないかしら?」

 

 リアスさんは不機嫌そうに愚痴を口にしている。隣で朱乃さんと木場さんも苦笑していた。どうやら、魔王主催とはいえ、社交界とはまた違う気軽なパーティのようだね。

 エレベーターも到着し、一歩出ると会場の入り口が開かれる。

 目の前の煌びやかな広間が僕たちを迎え入れる! フロアいっぱいに大勢の悪魔と美味しそうな料理の数々。

 

『おおっ』

 

 リアスさんの登場に誰もが注目し、感嘆の息を漏らしている。

 

「リアス姫。ますますお美しくなられて……」

「サーゼクス様もご自慢でしょうな」

 

 誰もがリアスさんに見惚れている。

 一誠はなんだか誇らしげな表情。だが、その近くでギャスパーくんは。

 

「うぅぅ、人がいっぱい……」

 

 僕の後ろにピッタリ引っ付いて隠れてしまっている。だけど、気のせいかな、僕の後ろなら多少安心した様子を見せるギャスパーくんが、いつも以上に安心してるように感じる。アザゼル総督のトレーニングの成果なのかな?

 そんな事を考えていると、後ろから男性のような声が僕らに話しかけてきた。

 

「あの、すみません」

 

 僕たちが声の方へ振り返ってみると、そこには全身黒鎧に包まれた巨体がそこに立っていた。顔も兜で隠され、目だけしか見えない。

 見た目で重圧を放つその人は、リアスさんを見て話しかける。

 

「その髪色、顔立ち、醸し出す雰囲気。魔王、サーゼクス・ルシファーの血縁者の方とお見受けしました」

 

 魔王の妹として見られたことに少し嫌そうな顔をしたが、その言葉から嫌味のようなものはなく、ただただ確認しているだけにうかがえる。だからリアスさんも嫌な顔は一瞬だけで、普通に受けごたえをした。

 

「ええ、その通りよ。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です。あなたのお名前を聞いても?」

「これは失礼、申し遅れました。本部神無(もとべかんな)と申します。日本神、素戔嗚尊(スサノオノミコト)様の護衛として冥界に来た次第で」

 

 スサノオさんがここに!? でもなんで?

 

「そちらの魔王にこちらのパーティの招待状を受け取ったのですが、魔王殿が見つからず困っているのです。どちらにおいでかご存知ありませんか?」

「ごめんなさい。私もお兄様たちが今どこにいるかまではわかりません」

「そうですか。時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした。それでは……」

 

 去ろうとした本部さんは、突然言葉を止めて誰かをじっと見つめる。

 その視線の先にいるのは搭城さん。本部さんはが自分をじっと見つめるのに気付いた搭城さんは、なぜ見られているかわからない様子。どうやら知り合いってわけではないようだ。

 

「おまえ……白音か?」

「!?」

 

 白音。その言葉を聞いた瞬間搭城さんが一気に身構えた。それと同時にリアスさんも反応を見せる。白音。話し方からして名前だと思うけど、一体それが搭城さんとどう関係があるのかわからない。

 数秒の沈黙が続くが、その後口を開いたのは本部さん。

 

「おまえは俺を覚えてないかもしれんが、俺はおまえを知っている。おまえたち姉妹が悪魔になる前からな」

 

 紳士的な対応をしていた本部さんが一変した。見た目だけではない重圧を放ち、その目からは憤りのようなものが感じられる。場の空気が一瞬にして悪くなった。

 だけど、その悪い空気はすぐに第三者の手によって鎮静されることに。

 

「落ち着け」

 

 本部さんの巨体を超える巨体、スサノオさんが本部さんの頭に手をポンと軽く置くと、本部さんは我に返ったように鎮静化された。

 別に疑ってたわけじゃないけど、本当にスサノオさんが来てたんだ。スサノオさんなら護衛いらないとちょっと思ったけど、必要性はあるか。今日はスサノオさんもタキシード姿だ。スサノオさんはチラッと僕を見て、再びリアスさんの方を見る。

 スサノオさんの他にももう一人、筋肉はしっかりしてるけど、初老をむかえたくらいの男性が横に立っている。雰囲気でわかる、かなりの手練れだ。

 

「申し訳ございません。それと、まだ魔王たちの居場所は…」

「関係者に聞いてみたらまだ到着してないらしい」

 

 初老の男性が既にわかったから必要ないと暗に伝える。

 それを聞いた本部さんは、申し訳なさそうにしながらスサノオさんの左側に付こうとするが、

 

「おい、向こうさんに対して謝罪の一言もなしか?」

 

 初老の男性に咎められた。

 本部さんは気落ちした様子で僕たちの方に向き直り頭を下げる。

 

「先ほどの無礼、申し訳ありませんでした」

「こちらの者が迷惑をかけたようですまなかった」

「いいえ、こちらこそ兄が招待したにも関わらず、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」

 

 スサノオさんも頭を下げると、リアスさんも魔王様の事を謝罪する。ちょっと空気が悪くなったけど、どうやら丸く収まったようだね。何ももめごとが無くてよかったよ。

 

「小せえことは気にすんな。軽く挨拶だけして帰るつもりだ。それに、予定より早く来てしまったのは俺たちの方だ。別室で待たせてもらう」

「いくぞ」

 

 初老の男性が未だに頭を下げている本部さんを呼ぶ。呼びかけられてやっと頭を上げ、暗い様子でスサノオさんの後ろをついていく。

 初老の男性沈んだ雰囲気の本部さんの背中をポンポンと叩く。元気出せ、気落ちするなと言ってるかのように僕には見えた。




 前回予告した昔の黒歌を知る者、滑り込みでちょこっとだけしか出せなかった。が、安心してください。これで出番終わりではありません。
 パーティに日本勢力は多少強引過ぎたかな? いや、ここで出さなきゃせっかくの設定が腐る!

 アクシオが誇銅を見つめるその眼光、さながらファイアローをにらみつけるファイヤーの如く。
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