無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 一誠も悪い人ではないんですよね。ただ、悪い部分が多い良い人なだけで。


憤慨な黒鎧の怒り

 ルカール、もとい本部神無に激しく攻め立てられる黒歌。その表情には、もう先ほどまでの笑みはない。むしろ、少し前までの小猫の表情に近い。小猫は黒歌に与えられたトラウマにおびえていたが、黒歌も本部神無によって同じような恐怖を味わっている。

 

「なんで冥界なんかにいるにゃ、ルカール」

「その名前で呼ぶなと言っただろ! 黒歌! 俺はもう完全に悪魔を捨てたんだ! あの時は、俺が悪魔で黒歌が妖怪。だけど今は、黒歌が悪魔で俺が妖怪。それを頭に刻み込め、黒歌!」

 

 黒歌が笑顔で小猫を追いつめて行ったように、黒歌も神無の怒りによって精神的に追い詰められていく。普段の黒歌なら例え力の差があったとしてもこのくらいの差なら、自慢の妖術と仙術を巧みに使い余裕ぶって戦える。だが、今の黒歌は冷静を保つ余裕すら一遍もない。まさに、キャストは違うが先ほどの黒歌と小猫の焼き増しである。

 

「俺が冥界にいるのは偶然だ。偶然来る必要ができただけ。本当は冥界になんて来たくなかった。でも、冥界に来てよかった。やっとおまえに会えたのだからな、黒歌!」

 

 神無が黒歌の名を呼ぶ(たび)、黒歌の精神が追いつめられていく。その意味では、小猫が黒歌に追いつめられた以上に黒歌は神無に追いつめられているかもしれない。

 神無が目を吊り上げて黒歌を睨みつける。黒歌はその目に体の震えが止まらない。

 その間にも小猫とリアスは黒歌の毒で苦しんでいる。黒歌はなぜかわからないが、味方らしき人を前にして狼狽している。これはチャンスだと思い一誠は神無に声をかけた。

 

「話の途中で悪いんだけど、小猫ちゃんと部長が苦しんでるんだ。だから…」

「うるさいっ! 俺は悪魔が大嫌いなんだッ! 特におまえのように悪魔にどっぷり浸かって尻尾を振る、種族の裏切り者の悪魔がな!」

 

 一誠の言葉を怒鳴ってかき消す。その内容は一方的で一誠にとっちゃ知ったこっちゃないこと。第三者目線で見れば、人の命がかかってるのにそんなこと言ってる場合ではない。だけど、神無にとって悪魔二人の命よりも自分の都合が優先なのだ。

 暗黒物質(ダークマター)の鎧を片足だけ形成すると、神無は一誠の影を鎧で思いっきり踏みつけた。地面にめり込むくらいに。すると、一誠の動きが完全に封じられ、指一本、言葉すら出せなくなってしまう。

 

「黒歌ッ!」

「ヒッ!」

 

 神無は鎧を纏わず、鬼気迫る表情で黒歌の方へ走り出す。黒歌はおびえた表情のまま反撃の態勢をとる。

 あっという間に再び組み合える位置まで近づいた神無。しかし、黒歌は既に神無の方が体術が上だと言う事は重々承知している。そんな相手とまともに組み合う程混乱していない。黒歌は猫妖怪の武器である爪を伸ばして斬撃に切り替える。だが、おびえた状態では自分の実力は出せない。神無は先ほどより明らかに劣化している黒歌の動きに余裕を持って反応し、暗黒物質(ダークマター)をガントレットにして爪を掴み、そのまま生爪を引っぺがした。

 

「ぎにゃぁぁッ!!」

「何不幸面して悲劇のヒロインぶってんだ! 俺と師匠を裏切り、悪魔なんかとつるんで楽しかったか? この裏切り者がッ!」

 

 そこからさらに黒歌が逃げる暇も与えず、最初に折った方の手の折れてない指を掴む。

 

「そんなにあの生活が嫌だったか黒歌。そんなにも日本妖怪として生きるのが嫌だったか? 親と死別して帰るとこが無くなったおまえたち姉妹を、保護し鍛えてくれた師匠のもとがそんなにも嫌だったのか!? 答えろ黒歌!」

 

 その指で黒歌を操り、周りの木々に何度も打ち付ける。指が折れるまで。指一本を掴まれ、強引に何度も軌道修正をされた黒歌の指は数十回もしないうちに折れてしまった。悪魔の身体能力と言っても所詮術者タイプの女性の指。さらに、相手も同じ悪魔。乱暴に扱われれば折れるのにそう時間はかからない。

 

「い……痛い……」

「……姉さま」

 

 ちょっと前に絶縁同然の発言をした小猫も、目の前で無残に痛めつけられる姉を見て心が痛む。小猫も悪魔として相手を痛めつけたり、時には死の瞬間に立ち会ったことは何度かある。しかし、痛めつけるのは正当な戦いの中、死の瞬間は死んで当然のはぐれ悪魔が原型も残さない。一方的に痛めつけられて、じわじわとなぶり殺しにされるとこなど見たことない。それも純粋な素手の暴力のみで。生々しく痛めつけられる対象が身内となれば余計にだ。

 

「……なんで、そこまで姉さまを憎むのですか……?」

 

 小猫は苦しみながらも神無に訊く。それは純粋な疑問もあったが、姉を心配する気持ちも半分ほど含まれている。

 倒れる黒歌に近づく神無の足が止まる。そして、怒りを消した表情で小猫を見た。

 

「そうだな白音。おまえには知る権利がある」

 

 顔だけ向けていた神無月は半身の状態に切り替える。当然黒歌から意識を外したわけではない。神無がこれから語る話を小猫はしっかりと聞いた。

 

「簡単に言うと、俺は黒歌の姉弟子。そして、黒歌の義妹で白音の義姉でもあった。もう昔の事だがな」

 

 小猫は驚きと疑問が混ざったような表情をする。自分の義姉とはいったいどういう意味か。姉さまの姉弟子とはどういうことなのか。自分たち姉妹は悪魔に拾われたのではないかと。

 

「俺と黒歌と覚えてないだろうが白音は、ある偉大な日本妖怪に保護されたんだ。親と死別したという同じ理由で。父は俺たちの師匠となり、日本妖怪としての様々な技術を教えてくれた。妖怪ではない俺にまで。自分の娘として分け隔てなくと言ってくれた」

 

 説明する神無の表情に怒りはない。至って冷静な表情で淡々と小猫に説明する。だが、神無がしゃべる程に黒歌の表情は曇っていく。

 

「そんな俺たちのもとに、一人の悪魔が現れた。悪魔は師匠に俺たちを引き取りたいと申し出た。眷属になる事と引き換えに、より良い暮らしと、妖怪以上の強さを与えると。師匠は当然断った。だけど」

 

 神無は表情に少しばかりの怒りを戻して黒歌の方を見る。

 

「黒歌は白音を連れてその悪魔について行ったんだ。師匠の今までの厚意を無碍にして」

 

 立ち上がらない黒歌の首根っこを掴み、無理やり立ち上がらせる。持ち上げる神無の手が黒歌をわずかに地面から浮かせている。

 

「そりゃあお世辞にも裕福とは言えなかったさ。だけど、決して貧しいもんじゃなかっただろ?」

 

 痛みと首を掴まれる苦しさで苦痛の表情の黒歌に対して問いかける神無。そんな状態で、それほどのダメージを受けては答えることはできない。だが、どちらにしろ黒歌は答えなかっただろう。それは神無もわかっていた。

 首根っこを掴んだまま、技など使わず力だけで思いっきり黒歌を地面に叩きつける。見た目ほどのダメージはないが、今の黒歌にはそれでも響く。

 

「帰る場所があって、愛情を注いでくれる親がいて、共有できる姉妹がいて、それ以外に何が必要だったんだ? 親と義妹を捨ててまで豪華な暮らしが欲しかったのか? それとも、日本妖怪がそんなにも弱く見えたのか? 答えろよ、黒歌ッ!」

 

 神無は相変わらず怒りの形相で黒歌を見下ろす。黒歌はその力強い瞳に対し、力ない瞳をただひたすら背けている。指が二本折れて体へのダメージも大きいが、それでもまったく反撃できない程のダメージではない。まだまだやりようはあるのに黒歌は反撃らしい反撃は行っていない。

 

「はっ……はぐっっ!」

 

 黒歌はまだ無事な方の手で締め上げる手を放そうと掴み、二本折れた方の無事な指から爪を伸ばし神無の腕を刺す。だが、神無の掴む力は全く衰えない。暗黒物質(ダークマター)の防具で防御もできたはずなのにそれもせず。

 

「俺の目を見ろ黒歌ッ!」

 

 いっこうに目を合わせようとしない黒歌に神無は言う。力強い目でしっかりと黒歌を見ながら。それでも些細な抵抗をしながらも黒歌は目を合わせようとしない。瞳にもまったく力が籠っていない。

 

「……黒歌」

 

 締め上げる手の力が僅かに緩まった。あれだけ怒りの形相を浮かべていた神無の表情も次第に変化し、瞳には悲しさが宿る。

 

「なんで……何も言わずに出て行ってしまったんだ。さよならも言わずに……妹同然に可愛がってくれた俺を……なんで……連れて行こうともしなかったんだ」

 

 神無の瞳からあふれる涙がぽたぽたと黒歌の顔に落ちる。頬に落ちる涙の感触で黒歌はやっと神無の目を見た。そこには怒りではなく、何年も蓄積された哀しみがあるだけ。

 

「なんで悪魔の俺が残って、お父さんと同じ種族のおまえたちがいなくなった。俺じゃなく、おまえたちなら、お父さんもあんな思いをしなくて済んだのに」

 

 黒歌を締め付ける手を完全に離しその場に座り込んでしまう神無。深い悲しみが長い時間を経て激しい怒りへと変貌してしまった。その怒りの業火が燃えた後には、悲しみの灰だけが残る。時間が経てばもっと正常な怒り方ができるだろうが、長年蓄えられ続けた悲しみの怒りがとりあえず燃え尽きれば、回復するまでに少し時間がかかる。所詮一時の感情爆発に過ぎないのだから。

 

「うぐっ……黒歌――――――ッ」

 

 突如泣きながら怒りだした神無は再び黒歌を攻撃するべく立ち上がる。振り上げられた拳に暗黒物質(ダークマター)が集まり、黒く固いガントレットへが装備される。だが、その攻撃は黒歌に届くことはなかった。

 

「隙だらけだねぃ!」

「あがっ!」

 

 神無の暗黒物質(ダークマター)から解放された美猴が如意棒で神無を倒した。美猴の本気の如意棒を耐えきった暗黒物質(ダークマター)の鎧、それを身に付けていない生身の状態で受けきれるほど美猴は弱くない。そして、鎧なしで孫悟空に勝てる程神無は強くない。強固な甲羅に閉じこもる亀の中身は柔らかい。強固な何かに“守られる”ことは、同時にそれが破られれば脆い事も意味する。

 

「美猴……」

「込み入った話してるところ悪いねぃ。だけど、黒歌が殺されるのを見逃す事はできない。悪いけど、邪魔させてもらった」

 

 黒歌は半分感謝、半分邪魔という複雑な視線を美猴に向ける。このままでは死にかねないところを助けてもらったのは事実だが、一方で水をささないでほしいとも思っていた。

 このまま続ければ、黒歌は殺されないまでも深刻なダメージが体に残る危険性があった。それはヴァーリチームとしても、頼るあての少ないS級はぐれ悪魔としても困る。だから美猴は助けた。他の禍の団の中でも仲間意識が高いに部類されるヴァーリチーム。一誠たち程ではないが、仲間がピンチならば助ける。

 

「で、どうするねぃ。あんたの妹の件。このまま続けるか、それとも中止して帰るか」

「……」

 

 美猴の出す二択に黒歌は答えずに考え込む。

 

「続けるんなら付き合うぜ。ちょうど俺っちの相手もいるし。まあ、結構ダメージはいっちゃったけど、それは俺っちも同じ」

「……!」

 

 黒歌は自分の頬をパンパンと叩いて気付けする。そして、また余裕の笑みを浮かべ一誠と小猫を見る。

 

「続ける。ここで止める理由はないにゃ」

「指、大丈夫なのか?」

「このくらいど~ってことないにゃ♪」

 

 それを聞くと美猴は神無が飛んで行った方向へ筋斗雲に乗って飛んでいく。黒歌は再び自身の分身を大量に創り出し、一誠たちをあざ笑う。再び神無が乱入する前の状態に戻った。

 一誠の動きを封じていた暗黒物質(ダークマター)の足も消え、一誠も動けるようになっている。だが、黒歌の幻術を破る術が一誠には一切ない。

 

「……気の流れを読めないと、高術者が使う幻術に対処できません」

「ブーステッド・ギア!」

 

 一誠は自身の神器の名前を叫ぶ。

 小猫のアドバイスを受けても一誠にはどうすることもできない。実際はいたところで役には立たないが、一誠はアーシアがいれば何とかできたかもしれないと思う。

 一誠はそれでも戦うため、自身の神器を発動させるが、いつものように機能しない。

 

『神器が曖昧な状態になっているのだ』

 

 困惑する一誠に神器内のドライグが説明する。

 

『あの修業で、次の分岐点に立ったのだ。あと一押しで神器が変わると思うのだが、その変化が通常のパワーアップか、禁手かはわからない』

 

 つまり、一誠の神器が分岐点の手前まで来ているが、普通のパワーアップで済んでしまうか禁手までいけるか曖昧な状態になっている。資格はあるが今一つ足りない。それなりに修業をした一誠だが、禁手に至るには精神的な変化が重要。むしろ一誠のような空気に流される性格は禁手に至りやすいが、その流されるような空気が修業内でなかったのだ。

 

『ああ、普通のパワーアップならば気合い一閃で果たせるかもしれないが、禁手は劇的な変化がおまえのなかで生まれなければ至れない。ただ、これだけは覚えておけ。いま、おまえには禁手に至れるチャンスが到来している。あとはおまえ次第だ』

 

 劇的な変化というが、今までの所有者がほぼ絶対と言っていい程禁手してきた赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。禁手は既に癖のように染みついており、亜種でなければ割と簡単に至れる。だが、一誠は力に溺れる程の力もなければ、絶対に成し遂げたい信念もない。だから一度反則的に禁手に至るというアドバンテージがありながら、いまだに分岐点で止まってしまっている。一誠も“今のドライグ”もそれに気づけない。

 

「あらら、赤龍帝ちゃんは神器(セイクリッド・ギア)も動かずじまい? でも、私は撃っちゃうにゃん♪」

 

 幻影の一つが手を突出し、魔力の弾を小猫とリアスに向かって打ち出した。一誠はダッシュして、二人の壁となる。

 

 ドゴォン!

 

「ぐはっ!」

 

 破壊力のある一撃が一誠を襲う。一誠は激しい痛みと共に制服の上半身が吹き飛ぶ。だが、出血は大したことない。

 

「あらら、やっぱりパワーダウンしてる。でも、まあいっか、にゃん♪」

 

 不満そうな顔をした黒歌だったがすぐにまたにこにこ顔に戻る。

 

「イッセー……」

「部長! 動かないでください! 毒が体に回ります! なーに、こんな攻撃、屁でもありませ―――」

 

 ドゴォォン!

 

 一誠が言い切る前に再び魔力の弾が撃ち込まれる。威力が弱くとも不意打ちだから、ダメージも最初より強い。

 一誠はたった二撃の攻撃で、その場で膝をついてしまう。

 

「弱。これがヴァーリのライバル? 本当にヴァーリを退けたの?」

 

 黒歌は嘲笑する。一誠は今までいったいどれだけ嘲笑されてきたのか。情けなく感じていた。

 今まで救ってきたものは、みんな一度不幸に落ちている。アーシアの死もリアスの涙も、自分が何もできなかったからそうなってしまったと。

 だから、今度はそういう思いをさせず一度で救ってやろうと。

 

「……部長と小猫ちゃんはやらせねぇぇぇぇっ!」

 

 ドゴォォン!

 

「ん~やっぱり調子でないにゃあ……」

 

 また一撃が一誠を襲う。その威力に一誠は後方に吹っ飛び、巨木に背中から激突した。その痛みに一誠は一瞬意識を失うが、力が弱かったからかすぐに取り戻す。

 

「ぬぅぅぅぅんっ!」

 

 追い込まれなきゃ力を発揮できない自分に嫌気がさしながらも、リアスと小猫のもとへ地面を這って近づいていく。

 誰にも傷ついてほしくない。誰をも救いたい。そんな傲慢で不可能な正義感あふれる思いを抱いて。

 

「あんたが小猫ちゃんのお姉さんでも……俺は小猫ちゃんを泣かすやつだけは許さない……」

 

 激痛と抑え込み、悔し涙を流しながら立ち上がる一誠。そして、黒歌に堂々と言い放つ。だが、黒歌は笑うだけ。

 

「こんな弱い奴にそんなこと言われるだなんて……。白音も大変ねぇ。もっとカッコよくて強い王子様が剣をふるって言うならともかく、あんたみたいに泥まみれの血まみれで言っても女の子は引くだけにゃん♪」

「……イッセー先輩」

 

 小猫が一誠につぶやく。一誠はそれに苦笑いしながら返す。

 

「小猫ちゃん……。俺は伝説のドラゴンが身に宿ってるのにさ、何もできないんだ……。アーシアも部長も俺があのときに強ければ、ドラゴンの力を発揮できれば、悲しい目に遭わなかったんだ。俺は才能のないダメ悪魔なんだよ」

 

 一誠は小猫の前で自虐を始める。

 

「歴代の赤龍帝は皆、短時間で禁手に至ってさ。何か月もかかっているのは俺だけ。わかってんだよ、もうずっと前からわかっていたんだよ。赤龍帝の力が宿っていても、俺がクズなんだ。俺がダメだから……何もできない。せめて壁になれればて思ったんだけど」

「……イッセー先輩は屑じゃないです……。知ってますか? 歴代の赤龍帝は皆、力に溺れた者が多かったって。絶大な力に呑み込まれたんだと思います……。私の姉さまも同じです……。力があっても、やさしさがなければ……必ず暴走してしまう。……イッセー先輩はやさしい赤龍帝です。ちょっと力が足りなくても、それは素敵な事……。……きっと、歴代の中でも初めてのやさしい赤龍帝です。だから―――」

 

 小猫は自虐を始めた一誠を否定し、苦しいながらも微笑みを向けた。

 

「やさしい『赤い龍の帝王』になってください……」

 

 小猫の言葉を聞いた一誠の中で、何かが起こり何かがわかった。

 

「部長。俺、自分に何が足りなくて禁手に至れないのか、わかったようなきがします」

 

 一誠は小猫の言葉から何かを思い出す。それは、タンニーンとの修業中もずっと考えていたこと。

 

「俺が禁手に至るには、部長の力が必要です」

「……わかったわ! 私で良ければ力を貸すわよ! それで何をすればいいのかしら?」

 

 毒に苦しみながらうなずくリアスに、一誠は意を決して言う。

 

「おっぱいをつつかせてください」

「―――――ッ!」

 

 一誠の言葉に、誰もが絶句した。

 タンニーンの修業中も一誠はおっぱいの事ばかり考えていた。それが、一誠のたった一つの真の願いだから。

 ある猛毒な少年が聞けば呆れかえるような事を一誠は堂々と言った。

 リアスは少し考えたのち決意を秘めて了承した。

 

「……分かったわ。それであなたの想いが成就できるなら」

「ほ、本当ですか!? つつくんですよ!? 俺が部長の乳首を指で押しちゃうんですよ!?」

 

 リアスは震える手でドレスの胸元をはだけさせる。一誠は興奮で鼻血を噴出させる。

 

「……早くしなさい。は、恥ずかしい」

 

 その後、右の乳か左の乳かを悩んだり、茶葉紛いの事を行う一誠とリアス。この時点で攻撃しないのはある種致命的ではあるが、余裕と楽しさを求める黒歌はあえて静観するを選ぶ。

 そして――――――

 

『至ったッ! 本当に至りやがったぞッッ!』

 

 ドライグは神器の中で笑い、産声をあげる。

 

『WelshDragonBalanceBreaker!!!!!』

 

 宝玉に光が戻り、いままで以上の赤い膨大なオーラを解き放ち始める。その赤い光は一誠の身を包み込んでいく。

 

「……最低です。やらしい赤龍帝だなんて」

 

 顔をまっさおにしながらもツッコミを入れる小猫。一誠は心の中で軽く謝罪する。

 

禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ッ! 主のおっぱいつついてここに降臨ッッ!」

 

 一誠の放つオーラで周囲が吹き飛ぶ。一誠を中心に小さなクレーターが出来上がった。一誠は体中に力があふれ出るのを感じる。

 

『相棒、おめでとう。しかし、酷い。そろそろ本格的に泣くぞ』

 

 ドライグは涙声で賛辞を贈る。

 

「ああ、ありがとうよ。そしてエロくてゴメン! で、首尾はどうよ?」

『三十分の間は維持できる。鍛錬の成果がでたな。弱いお前にしてはまずまずだ』

 

 次に一誠はマックス倍増出しで何回かを聞く。

 

『マックスで放てば五分消費すると思ってくれ。最大で五回。他の行動も含めると六回目はないに等しい。譲渡も同様だ』

 

 その計算で一誠は十五分は戦えると踏んだ。だがドライグは。

 

『そんなにいらんさ。ほら、手を突き出して、いつものように魔力の弾を打ち出してみろ』

 

 一誠はドライグの言うとおり手を突出し、照準を黒歌に定めた。

 一瞬の照射。黒歌のすぐ横を通り過ぎ、森のはるか先に行ってしまう。その刹那、紅い閃光が走る。

 

 ドッドッッォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

 はるか先で爆音が鳴り響き、爆風がこちらまで届く。その一撃で毒霧も吹き飛ばされていく。

 

『ハハハハ! 久しいな、この赤い一撃ッ! 兵藤一誠! はるか先にある山が丸ごと消え去ったぞ! ついでにこの周辺を覆っていた結界も吹き飛んだ!」

「!?」

 

 黒歌は結界が消えたことに驚いた。

 一誠が強力な一撃で吹き飛ばしたからではない。一誠が吹き飛ばすより前に、結界が何らかの力で崩されるのを偶然黒歌は感じ取ったから。それも極弱い力で的確に。その崩れる直前の結界を、一誠の一撃が吹き飛ばしたにすぎない。

 

「成るほどね。なら、妖術仙術ミックスの一発をお見舞いしてあげたいとこだけど、あいにく片手がこれでね」

 

 黒歌は指二本が折れ、一本爪が引きはがされた手を一誠に見せる。だが、もう片手にかなり力を込めた波動を撃ちだした。

 その攻撃は一誠に直撃したが、一誠は無傷。

 

「こんなもんか?」

「効かない!? うそでしょ。片手と言えどかなり妖力を練りこんだのよ!」

 

 黒歌はその後、波動を幾重にも打ち出すが、一誠はそれを打ち返したり弾き飛ばしたりして眼前までせまった。

 

 ブゥゥゥゥンッ!

 

 一誠は拳を繰り出すが、黒歌の目名先で静止させた。止めた余波で周囲の空気が振動し、草木が大きく揺れる。

 

「――――ッ」

「次に小猫ちゃんを狙ったら、この一撃は止めない。あんたが女だろうと、小猫ちゃんのお姉さんだろうと、俺の敵だッ!」

 

 一誠が拳を引こうとしたした瞬間、突き出された腕を掴み体術をかけた。

 

「……クソガキがっ!」

 

 技自体は綺麗にきまった。だが、一誠にダメージはない。すぐに平然と立ち上がる。

 

「ふむ、体術の成長は見られんが、仙術や妖術の方はまあまあ成長しとる。だが、妖怪としてはまだまだだな。どれだけ切れ味のいい名刀を手に入れても、握り方が甘ければ本来の力は発揮せんぞ」

『!?』

 

 聞き覚えのない声がリアスと小猫の後ろから聞こえてくる。リアスの後ろの木影から姿を現す、いや、正しくはずっと前からそこにいたかのようにこちらを見ていた初老の男性。

 

「……誰だあんた?」

「そうだな……。悪魔の味方……ではない」

 

 初老の男性はそう言ってリアスと小猫に手を伸ばす。毒霧が晴れて回復しつつあるが、二人とも毒のダメージがあまり抜けていない。怪しい動きを見せた味方ではないと言った男性を止めるため一誠はダッシュする。

 

「何をする気だ……!」

 

 その手を止めようと初老の男性の手を掴もうとすると、逆に腕を掴まれ黒歌にされたように投げ飛ばされてしまった一誠。しかし、そのダメージは黒歌の比ではない。鎧の上からでも一誠自身にダメージが通る。意識を失う程ではないが、意識が混乱する程に。

 

「弱いの~」

 

 倒した一誠に目もくれずリアスと小猫に手を伸ばし、うなじ部分に触れた。

 

「な、なに……を……?」

 

 リアスと小猫は何をされるかと警戒したが、初老の男性は少し触れるとすぐに手を放した。すると、まだ残っていた毒の苦しみが一瞬にして消え去った。

 

「体内の気を正常に戻した。これでもう苦しくないだろう」

「あんた……さっき味方じゃないって」

「味方じゃないさ。俺は日本勢力だからな。会場で会っただろ?」

 

 一誠はそう言われてパーティ会場の事を思い出す。そこでスサノオと会った時の事をよく思い出してみると。

 

「あー! あの時スサノオ様の横にいた人!」

 

 巨大なスサノオと黒鎧の神無のインパクトに隠れ覚えられていなかった。リアスと小猫ですらちょっと思い返さないとこの初老の男性が日本勢力という事が思い出せなかった。

 だが、これも三人だけが悪いわけではない。初老の男性事態が影が薄くなるように調整していた節がある。そのため覚えていなかったのだ。

 

「すいませんでした! 忘れた上に疑って!」

「まあいい」

 

 男性は興味なさそうに一誠から目線をきると、今度は黒歌の方を見る。

 黒歌は本部神無を見た時のように。いや、それ以上の怯えを見せていた。そのあまりの怖がり方に一誠たちも驚く。

 

「久しぶりだな、黒歌」

「……師匠」

 

 師匠。これが意味する事のわけは誰もがすぐにわかった。今目の前にいるこの男性こそが、神無が言っていた育ての親。そして、黒歌が裏切ってしまった暗い過去。

 

「元気そうじゃねえか、黒歌」

「……は、はい」

「まあ、白音ちゃんとは仲たがいしたみたいだが。おっと、今は小猫だったっけ?」

「はい」

 

 そんな話をしてる最中に、目の前の空間に裂け目が生まれる。リアスと小猫はそれをじっと見つめ、一誠はそれプラス驚きを見せる。男性と黒歌は全く意に反さない。

 その裂け目から一人の男性が姿を現す。背広を着た若い男性。その手に握られる剣には特大な聖なるオーラが放たれる。

 

「そこまでです、美猴、黒歌。悪魔が気づきましたよ」

 

 メガネをした男性は黒歌に話しかけると周りをきょろきょろと見回す。

 

「美猴はどこですか?」

「探してる奴かどうか知らねえが、こいつのことか?」

 

 メガネの男性は黒歌に話しかけたが、それに答えたのは初老の男性。男性は木陰に戻ると、ボロボロになった美猴を引きずって戻ってきた。

 

「美猴!?」

「もって帰んな」

 

 初老の男性は片手で美猴をメガネの男性の所まで投げ捨てた。

 メガネの男性は美猴をキャッチすると、すぐさま剣を構え初老の男性を警戒する。

 

「安心しな、俺は悪魔の味方じゃない。弟子が襲われてたからそうなっただけだ。別にあんたらと戦う気はない」

「……その言葉、信じましょう」

 

 男性は剣を下す。

 メガネの男性は一誠たちの視線が持っている剣に集中してるのに気付くと、腰に刺してるもう一本の聖剣も引き抜き、その剣が良く見える位置まで上げて。

 

「こちらは聖王剣コールブランド。またの名をカリバーン。こっちは最近発見された最後のエクスカリバーにして、七本中最強のエクスカリバー。『支配の聖剣』ですよ」

「そんなに話して平気なのか?」

「ええ、実は私もそちらのお仲間さんに大変興味がありましてね。赤龍帝どの、聖魔剣の使い手さんと聖剣デュランダルの使い手さんによろしく言っておいてくださいますか? いつかお互い剣士として相まみえたい―――と」

 

 大胆不敵な宣戦布告。一誠は木場とゼノヴィアがこの話を聞いたら、どう思うかと思う。

 

「さて、逃げ帰りましょう」

「ちょっと待ってくれ」

 

 メガネの男性がコールブランドを振り上げよとした途中、初老の男性が呼び止める。

 メガネの男性は振り上げた剣をおろし、初老の男性を見る。

 

「悪いな、ちょっとばかし昔の弟子に言っておきたい事があってな」

 

 昔の弟子と言われ、黒歌はビクット体を大きく振るわせた。そして、恐怖に満ちた瞳を恐る恐る初老の男性に向ける。

 

「今更俺のとこを去ったのには何も言わん。おまえの人生だ、好きにすればいい。だが、おまえさんは何を求めて俺のもとを去ったのか。それで何を手に入れて何を失った。何を手に入れたくて何を捨てる事になったか。いっぺんよく考えてみることだな」

 

 初老の男性は最後の部分の時だけ小猫に視線を移し、そのまま黒歌に背を向けて去っていく。木陰に寝かせてあった気絶した神無も連れて。

 初老の男性が去ると、メガネの男性は再び聖剣で空を斬ると空間の裂け目がさらに広がり、人が数人くぐれるだけのものになる。

 

「さようなら、赤龍帝」

 

 男性がそれだけ言い残すと、ヴァーリの仲間たちは空間の裂け目に消えて行った。

 その後、騒ぎを嗅ぎつけた悪魔たちに一誠たちは保護され、魔王主催のパーティは急遽中止となった。




 前作では潰したパワーアップ分を三神龍で補っていた。だが、今作ではそれがないため、パワーアップシーンはなるべくつぶせない。そうしたら、また中途半端で終わってしまいました。思った以上に文字数取る。
 本当はもうちょっとだけ神無と師匠を出すつもりなのに、ここで無理やり入れたら不自然なとこで切れそう。次回に持ち越しか~。二、三話で書ききれると思ったのは甘すぎる見通しだった。
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