無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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策略的な悪魔の前半戦(下)

 ギャスパーがリタイヤし誇銅が消えた後、制限時間の都合もあり新たに作戦を練り直すのではなく予定通り作戦を続けることに決定した。もちろんいつもの通りギャスパーの心配はしても消えた誇銅の心配は一切ない。前のように消えたことに気づきもしないことはなかったが、それでも心配などはされなかった。

 周りを警戒して新たに向こうからの攻撃がないのを確認すると、リアスは仕切り直しのためにもう一度気合の入った表情をつくる。

 

「ちょっと予想外の先制攻撃を受けたけど、指示はさっきの作戦通りにするわ。イッセーと小猫、祐斗とゼノヴィアで二手に分かれるわ。イッセーたちが店内からの進行。祐斗とたちは立体駐車場を経由しての進行。ギャスパーの店内の監視と報告はできなくなっちゃったけど、頃合いを見て私と朱乃とアーシアがイッセー側のルートを通って進むわ」

 

 リアスの指示を聞き、全員が耳に通信用のイヤホンマイクを取り付ける。

 

「さて、かわいい私の下僕悪魔たち! もう負けは見せられないわ! 今度こそ、私たちが勝ッ!」

『はいッ!』

 

 気合も入り、薄暗さにも目が慣れてきたリアスたちは作戦通り動き出す。

 

「小猫ちゃん、行こうか」

「はい」

 

 一誠と小猫もその場を後にして進みだす。事前に小猫は一誠にだけ自分の力を使うことを明かしたが、既にそのことも全員に伝達済み。

 リアスの読みでは、ソーナはこちらの動きをこう読んでいると推測していた。

 一誠をできるだけ戦いを避けさせ女王(クイーン)にプロモーションさせるために本陣へ突入させる。

 そのサポートに機動力の高い木場とゼノヴィアが組み、立体駐車場から裏手に回り敵本陣に切り込み。相手の陣形を乱して敵の注意を引き付ける。その間に一誠のプロモーションを完了させ、その後一旦全員で引き、万全の状態で全員で攻め込む。

 とにかく赤龍帝の一誠を女王(クイーン)に昇格させることを最重要視している。と、リアスはソーナの動きをこう読んでいると踏んで、それを逆手に取ろうとした。

 一誠をソーナの予想通り動かすが、それは半分囮。本当の攻め手は木場とゼノヴィア。ただの陽動ではなく、本格的なアタッカーとして攻め込ませる。 

 赤龍帝の力を危険視し、(キング)が手薄になると読んだ。いくら手薄になるからと言っても(キング)をあまり手薄にするわけにはいかない。そのため、立体駐車場にはそこまで力を割かないと予想し、木場とゼノヴィアをアタッカーに選んだ。

 それはソーナ側に名のある実力者がいないと考えての作戦でもある。リアスは朱乃一人を防衛に置けば事足りるのだから。

 だが、リアスが防衛に朱乃一人で事足りるのと似たようにソーナにも一人で事足りることがある。最初の奇襲でその可能性を少しでも見いだせれば、もっと慎重に動けたかもしれない。

 

「イッセー、よろしくね」

「イッセーさん! がんばってください! 負けないで!」

「うふふ、カッコイイところ期待してますわ」

 

 リアス、アーシア、朱乃の期待の言葉にテンションが上がる一誠。

 一誠と小猫は走るわけでもなく、歩きでもない微妙な歩幅で進んでいる。物音を立てないように、敵に距離を測られないようにする配慮なのだ。物陰に隠れながら慎重に進む。

 隣で子猫が猫耳と尻尾を生やし猫又の力を発揮する。

 

「……奥に一人。じっと止まってます」

「わかるのかい?」

「……はい。現在、仙術の一部を解放していますから、気の流れでそこそこ把握できます。さすがに詳細まではわかりませんが……」

 

 一誠は小猫のその能力をすごく便利だと思っていた。

 それでも一誠も一誠で周りの様子に気を付けている。

 二人とも周りに細心の注意を払い警戒してる。――――——だが、二人は気づいていない。自分陣地からずっと自分たちを付けてきてる者に。一誠の10cmも離れてない位置から一誠の動きをトレースするリアス眷属ではない気配に。今もずっと至近距離で息を潜めるその(かげ)に。

 

「……あとどのくらいで出会う?」

「……このままのペースなら、おそらく十分以内です」

 

 ここで覚悟を決めて通常の赤龍帝の籠手を使うか、禁手になるかを迷う一誠。相手の能力もわかってないのでいまいち決めかねている。

 そんな風に悩んでる一誠を小猫は少し頬を赤らめて見ていた。

 

「な、なに?」

「……いえ。イッセー先輩って、いざというときになると戦士の顔になりますね。普段はいやらしい顔つきなのに……」

 

 やらしい顔つきと言われ自分の顔をまさぐっていると。

 

「ねーまだ~? そこに隠れてるのはわかってるからもう出ておいでよー」

「「!!」」

 

 この状況でまさかの相手からこちらに話しかけられた。それよりも近づいてることに気づかれてる。一誠と小猫は冷や汗をかいた。

 もしかして声が聞こえてしまったのか。そう思った二人は自分の口をふさぐ。

 

「今ドキッとしたでしょ? 正解? 正解だよね!?」

 

 なんだか楽しそうにあてっこする相手。もしかしたら気づいたフリでこちらをアブありだそうとしてるんじゃないかとも考える。

 

「イッセー先輩と、もう一人は搭城さんかな?」

 

 が、こちらの人物まで当てられた。もうこちらがバレている。そう確信した。だが、素直に出ていくわけにもいかない。奇襲はもう不可能でもタイミングをずらして不利対面だけは避けようと沈黙を貫くが。

 

「「…………」」

「こう言うのってドキドキしますよね?」

「「ッ!!」」

 

 遠くから聞こえていた声が突如真横から聞こえてきた。

 その声の人物はいつの間にか自分たちの真横で自分たちと同じようにしゃがんでいるのだ。

 一誠と小猫は反射的に立ち上がり距離をとるが。

 

「! イッセー先輩、後ろ!」

「え!?」

「バレちゃったか」

「うぐっ!」

 

 今度は匙がいつの間にか一誠の真後ろに立っていた。

 小猫が気づき一誠が振り向こうとした時にはもう遅い。匙は後ろから腕で一誠の首を絞め上げ優位体制を築く。一誠は絞め落とされないように匙の腕をつかむ。

 

「さ、匙!?」

「陰遁『闇迷彩』。名前の通り闇の中で迷彩状態になる術だ。これと気配の遮断とその他もろもろ使ってずっと後ろにいたんだぜ? この状態じゃ俺の運動能力の五割以上の動きをされるとトレースしきれないけど、ゆっくり進んでくれたおかげで余裕だったぜ」

「い、一体いつから……?」

「スタート時からかな」

 

 スタート時と言われてその時のことを思い出す。スタートと同時に消えた証明、闇に覆われたアトリウム、真っ先に戦闘不能になったギャスパー。

 これらのことで一誠が考え付いた結論は。

 

「じゃあ、ギャスパーをやったのも!」

「それは俺じゃない。陰遁の難点は術事態に殺傷力がないこと。俺程度の熟練度じゃひ弱な女装っ子でも一撃リタイヤは無理だ」

 

 一誠は匙に対してある種の親近感が湧いていた。同じドラゴン系統の神器を持ち、スケベなところもあり、主に対し一途で、馬鹿をするところも、まっすぐにしか突っ込めないところなど。

 だから一誠は今日、匙と戦うってことは何となくわかっていた。だが、まさかこうも奇襲をかけ背後から首を絞めるなんて方法をとってくるとは思っていなかった。修行の成果をぶつけ合えると思っていた一誠はある種の期待を裏切られた感じを味わっている。

 しかし、一誠がいくら残念がっても危機には変わらない。実際匙が優位な位置取りを独占し一誠の首をじわじわと絞め意識を刈り取ろうとしている。

 

「イッセー先輩!」

「おっと、男同士の戦いに水差すのは野暮ってものですよ」

 

 小猫が一誠を助けようと振り向くと、自分の目の前にいたはずのソーナ眷属の兵士が自分と一誠の間に現れていた。全く反対側にいたのに、自分が首を動かすよりも早く反対側に移動された。

 この時、小猫はソーナ眷属の兵士の足に変わった気の流れを感じ視線を移す。その足はバチバチと帯電しているよう。

 

「……その足。……私たちの隣に急に現れたのもそれが理由ですね」

「雷遁『電光石火』。まだまだ遅い方だけど、雷に近い速度で追われたことはないですよね? 自己紹介が遅れました。ソーナ・シトリー眷属『兵士(ポーン)』仁村 留流子です。よろしくお願いします」

 

 余裕のある笑顔で自己紹介をする。

 それよりも小猫は帯電した仁村の足が気になって仕方がない。キョンシーのような服の裾でほとんど隠れてはいるが、それでもバチバチと鳴るたびに感じる気の不自然な雰囲気。その感覚は朱乃の雷とは明らかに違うのが小猫にははっきりと感じ取れた。

 その間も一誠と匙の一対一の地味な攻防戦が繰り広げられている。

 

「くぅぅ。うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「うぉぉ!」

 

 匙の絶妙な位置取りから力技で無理やり危機を逃れた一誠。匙もまさかあの体勢から逆転されるとは思っておらずちょっとばかり焦った様子を見せた。

 拘束を解いた一誠は体を反転させて匙と向き合う。

 

「まさか力負けするとはな」

「ハァハァ。こっちも修行したんだぜ。夏休みの大半をドラゴンの追いかけっこという地獄のな」

「俺だって修行したさ。方向性はだいぶ違うけどな」

 

 拘束から脱出したとはいえ一誠もまだ安心できない。匙の神器のラインが一誠の籠手に巻き付けられている。さっきの攻防中に匙は慢心せずに保険をかけていたのだ。さらに、匙の神器事態も前のデフォルメされたトカゲのような形ではなく、黒い蛇がお互いの尻尾を咥え一つの大きなとぐろを巻いてる状態。

 しかし不思議と一誠は力を奪われてる感じていない。なので一誠は神器を発動しようとするが。

 

『相棒、倍加は危険だ。奴の神器と繋がってる以上、倍加すればその分の力をあちらに取られる』

 

 ドライグに注意されエネルギーを吸われる危険性を思い出す。

 

『このラインを切り離すには禁手に至った時の衝撃の余波で吹き飛ばすしかない』

 

 一誠はドライグの提案通り禁手に至って、ラインを吹き飛ばす作戦に移った。

 

「スタート!」

『Count Down!』

 

 籠手の宝玉に至るまでの時間が表示され、カウントが開始された。この状態では一誠にまともに戦う手段が皆無となる。

 だが、自分の役割は陽動。ここでこうして敵を引き付けようと考えた。そして、ここで至ればその勢いで(キング)まで詰めようとも考えている。

 

「逃がすかよ、兵頭!」

 

 隙を見せた一誠に対して匙は一気に間を詰め、腹部に蹴りを放った。

 回避はできなくとも一誠はその攻撃に対して腹筋に力を入れて最悪のダメージを回避―――したつもりであった。

 

「ガハッ!」

「へぇ、結構マジで蹴ったんだけどな。おまえも半端じゃないトレーニング積んだようだな」

 

 匙は思ったほどのダメージを与えられず苦笑するが、一誠は今の一撃で膝を折る寸前である。

 このダメージを受けてなお逃げるのは不可能と判断した一誠は、距離を取ることをあきらめ、一気に向かうことに。生身での格闘は得意ではないが、基本トレーニングの積み重ねで格闘するだけの体はできていると判断してのこと。

 拳を握り、匙へと殴りかかるが、ギリギリで躱されたうえにラインを一本余計に巻き付けられてしまう。そしてお留守の足元をひっかけて転ばされてしまう。

 

「まだ追撃は終わらないぜ!」

 

 その状態の一誠に向かって魔力の弾らしきものを打ち込もうとしてきた。これはまずいと感じた一誠は横に転がることで回避。

 

 ドンッ!

 

 放たれた魔力の一撃は狭く深い穴を床に開けた。その威力に一誠は驚く。あれを受けていたら終わっていたと。

 

「……やるじゃねえかよ、兵頭」

「ハァハァハァ」

 

 匙は再びその高出力の魔力の弾を放つ。大きさは大したことないが、それは建物を破壊しないための配慮。一誠を倒すには十分。

 その時一誠はあることを考えた。匙はこれだけの一撃をどうやって生み出しているのか。匙の魔力は一誠ほどではなくとも魔力が低いと一誠は知っていた。なのにこの威力をなぜ出せるのか。

 一誠は匙のある一点を見てわが目を見開いた。匙のラインが匙自身の心臓部分に向かって伸びている。

 

「匙! おまえ! おまえは自分の命を……魔力に変換してやがるのかッ!?」

「ん~前まではそうだったけど、今はちょっと違うぜ」

 

 一誠は高出力の原因を生命力で補ってると推測したが、見事はずれ。大きく肩透かしをくらった。

 

「前までは俺の生命力で代用しなきゃ使えなかった。だけど、俺の先生に『次生命力で代用したらおまえの生命力枯らすからな』ってな。やると言ったら絶対にやる先生だったからめちゃくちゃ怖かったぜ。だけど、その甲斐あって今じゃ成功率も格段に上がり、生命エネルギーを使う必要もなくなった」

「じゃあ、その魔力量は一体……?」

 

 一誠の質問に匙はある種勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。何一つ勝てなかったのに、やっと一矢報いれた。そんな感じの笑顔である。

 別段隠す必要もないことなので匙は自慢げに簡潔に答えた。

 

「生命のエネルギーではあるが自分の生命力を削る必要はない。修行すれば人間にだって使える術、仙術を使ってるのさ」

「仙術だって!?」

 

 仙術という言葉を聞いて再び驚愕する一誠。

 仙術というものは仙人や小猫や小猫の姉のような特別な人物しか使えない。そう認識されていははずなのに。それを元人間の転生悪魔が行ったのだから一誠は驚いた。

 

「心臓のラインは俺の体質がちょっとあれでね。仙術によって体内に溜まりすぎる邪気を魔力の弾に練りこんで威力の底上げと体のデトックスを行ってるんだ。邪気に対する耐性は高い方だが、限度ってもんがあるからな」

 

 一誠が匙の仙術に驚かされてる横で、小猫と仁村の戦いも進められていた。

 高速で動く仁村を捉えられず一方的に攻撃され続けていた小猫。だが、仁村の電光石火の動きが直進的な動きしかできないことに気づいた小猫は、動きを先読みしてやっと拳を当てることができたのだが。

 

「……気を纏った拳を打ち込んだのに。同時にあなたの体内に流れる気脈にもダメージを与えたため、もう魔力を練ることができないハズなのに。……なんで動けて魔力も使えるんですか!?」

「簡単な原理よ。搭城さんの気を私の気で相殺しただけ。物理ダメージも残った気で防御したから大丈夫」

 

 ガード体制も一切されずガードされてしまった小猫の攻撃。小猫の自信が一気に崩れる。

 

「それよりも、私の服にあまり触れないほうがいいですよ?」

「……?」

 

 小猫から適当に距離をとった仁村は服のスリット部分を上げてブーツがよく見えるようにして服の全体を見せつけた。先ほどから服もバチバチと帯電しているが、ブーツはその1.5倍は帯電している。

 

「この服は私のスタイルに合わせて帯電しやすいように作られた特別性。帯電した状態であまり触れると感電死させてしまう恐れがありますから。特にこのブーツは雷遁が馴染むように作られた特注中の特注。この勝負服のおかげで私は実力以上の力が発揮できるの」

 

 自分だけが使えると思っていた自慢の仙術を仙術で破られ、捉えきれないスピードで動く相手に、自分では敵わないと諦めかけている小猫。だが、小猫の心はまだ折れてない。自分が信頼する先輩も勝てないと思えた場面でもあきらめなかった。自分もそれを見習おう。そう思い自分を鼓舞させる小猫。

 敵が教える情報をしっかりと頭に入れつつ今後の戦い方を考える。

 

「それと、搭城さんの攻撃には邪気が殆どこもってないですよね?」

「……邪気を吸いすぎれば悪意に飲み込まれてしまいます。私の姉のように」

「そうね、その通り。だけど、邪気のない仙術では本当の仙術とは言えない。私の先生はそう教えてくれたわ。邪気に負けぬ精神力で悪を制する。気の力だけではすぐに限界がくる。だけど、邪気の力には限界がない。だから仙術を学ぶにはまず、邪気に耐える精神修行から始めるの。そうすれば、こんなこともできる!」

 

 電光石火で小猫が反応できない程の一瞬で目の前まで近づき

 

 バジジジジジッ!

 

 握りこぶしから人差し指と小指のみを立てて、その間に電気を発生させるハンドスタンガン。悪魔を気絶させられるように出力を調整、確実に気絶させられるように部位も選んで。

 通常スタンガンでは気絶させることは稀だが、仙術で気脈にも作用させほぼ確実に安全に気絶させた。仁村の服に触れて電気を蓄積してた小猫はその手の術にかかりやすくなっていたのだ。

 

『リアス・グレモリー様の『戦車(ルーク)』一名、リタイヤ』

 

 無慈悲にもアナウンスが小猫の敗北を伝える。勝率が高いといわれていたリアス陣営から既に二人分も差をつけられてしまった。

 

「空中に漂う邪気や悪意を清め、大きな意思の力に戻し、その力を様々な属性に変換する」

 

 消えていく小猫に対して祈るようにつぶやく仁村。その言葉は小猫には届かない。

 

「小猫ちゃん!」

「匙先輩。後は任せました」

「ああ、ありがとう」 

 

 仁村は暗闇にビリリと電気の光と音をわずかに残しその場から去った。

 その行動に一誠は疑問な表情を浮かべる。

 

「後ろからこそこそと狙った俺が一対一を願ったことがそんなに意外か?」

「……ああ、正直な」

 

 一誠も正直なところ一対一の直接対決を望んでいる。匙は自分との戦いの最中で小猫に攻撃を加えようとしなかった。その気になれば、もっと優位に進められるチャンスもあったのに。

 だが、最初に匙が行った背後から首を絞めるという行動が今思ったことに引っ掛かってしまう。

 

「これはチーム戦だ。ここで仁村と協力して二対一で戦うのが正しい。だけどな兵頭、俺はタイマンでおまえに勝ちたいんだ。だから、前もって会長に何度も頼み込んでやっと許可をもらった」

 

 匙はにんまりと笑いながら一誠の疑問に答えを言っていく。

 

「兵藤、まえに言ったよな? 差別のない学校を冥界につくる。俺たちの夢は本気だ。そして俺は先生になるんだ。俺の夢……。この戦いは冥界全土に放送だ。だからこそ意義がある。『兵士(ポーン)』の俺が!同じ『兵士(ポーン)』である赤龍帝・兵頭一誠に勝つことがよッッ! 俺は赤龍帝に勝つ! 勝って堂々と言ってやる! 俺は先生になるんだッ!」

 

 一点の曇りのない、強い眼差しで匙は言った。

 一誠は匙のその挑戦を正しく認識した。それと同時にうれしくも思った。自分のことを本気で倒そうとしてくれてる。なら、ダチとして本気で答えてやらないといけない。自分と似た存在だと思ってた相手は、やっぱり自分と似ていたという実感がうれしく思う。

 そんな戦いから逃げちゃ格好悪い。もしも不利だからって逃げたら、部長に顔向けできない。

 そんな思いが一誠を突き動かす。

 

「————そろそろ決めないとな」

 

 匙の仙術と邪気と魔力のミックスが匙の手元に集まり、巨大な塊となる。それは確実に周りにも影響を及ぼすほど。だが、その魔力は圧縮されて最終的にソフトボール程度の大きさに収まった。

 

「これで周囲に影響を出さず、おまえの体だけを完全に破壊できる」

 

 塊を作り出した匙は明らかに疲労してる様子がうかがえる。さっきまで元気だったにも関わらず。渾身の一撃。一誠は匙のそれをそう受け取った。

 

「俺はおまえがうらやましかったんだ。主である先輩の自慢。赤龍帝。誰もがおまえを知ってる。けど、俺はおまえと同時期に兵士になったのに何もねぇ。何もねぇんだよッ! だから、自慢を、自信を手に入れるんだ。赤龍帝のおまえを、俺の陰の忍術でおまえをぶっ倒してよッッ!」

 

 匙の必死の咆哮。それと同時に渾身の一撃は一誠に向かって放たれた。

 もちろん一誠はその攻撃を避けようとしたが、匙は一誠と繋がってるラインの一部を一誠の足元に飛ばし床と繋げた。一誠がひっぱっても強固なラインは籠手を床から離さない。

 

「俺だって部長の夢を叶えるために負けるわけにはいかねんだよ―――ッ!」

 

 一誠は覚悟を決めて匙の攻撃を受ける。だが、受けた瞬間。

 

『Divide!』

 

 ダメージを半分だけ消失させてしまう。

 

「俺の魔力弾を半減したのか!?」

「いちおうな。山籠もりで発動できるようになった。ただし、発動確率は一割以下。ほとんど博打だ。そして、これまた覚悟がいるんだよな。———俺の生命力。発動の成功、失敗にかかわらず俺の生命力を削る。こんなに怖い賭けもないだろう?」

 

 それは使えるとも言えない程の運頼みの行動。しかし、運命はこの時は一誠に味方した。そのおかげで一誠は生き残りに成功したのだ。

 

「俺も命をかけさせてもらうぜ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!行くぜぇぇぇぇっ! 輝きやがれ! ブーステッド・ギアァァァァァァアアッ!」

『Welsh Doragon Balance breaker!!!!!』

 

 ゲーム開始から数十分。一誠は『赤龍帝の鎧』に身を包んだ。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 ゲームが開始してから数分。木場とゼノヴィアは立体駐車場に入っていた。

 もともと薄暗い駐車場に電気が消えてしまっていればさらに暗くなる。だが、この場所だけは電気がつけられていた。木場もゼノヴィアも任務で密偵が多かったため、この手の進行は得意だが、このあからさまな状態は明らかに誘われている。

 木場が物陰から先を見定め、後方のゼノヴィアを呼ぶ。バレてる可能性は高いが、せめて奇襲を受けないための行動。

 二階から通路を進み、一階の駐車場に足を踏み入れた時、前方に二つの人影。

 ヤンキーの特攻服に身を包んだ『戦車(ルーク)』の由良 翼紗。もう一人は歌舞伎の黒子で誰だか判別ができないが、背中に大きな棺を背負い刀を帯刀している。

 

「ごきげんよう、木場祐斗くん、ゼノヴィアさん。ここへ来ることはわかっていました」

 

 由良ともう一人の後ろから現れ淡々と話すソーナ眷属『女王(クイーン)』森羅椿。その手には薙刀が握られている。

 木場はこの立体駐車場に配置された三名を見て、攻撃の本命が自分たちだと見抜かれてることを覚った。

 ゼノヴィアは腰に携えた剣を抜き放ち、木場も手元に聖魔剣を創り出した。

 

「闇に乗じて仲間を一人失ったのに冷静ですね」

「ええ、こういうのに慣れておかないと身が持ちませんから」

 

 森羅の言葉に木場は冷静に返す。心の中では仲間をやられた悔しさではらわたが煮えくりかえっているが。

 

「まったく、あいつは体の鍛え方が足りないから」

 

 その横でゼノヴィアも嘆息してるが、その目は座っている。

 

「だが、かわいい後輩をやられたのでね。仇は討たせてもらうよ」

 

 ゼノヴィアからすさまじいまでのプレッシャーが放たれる。味方である木場にもピリピリと伝わってくる。だが、相手は全くそれに臆さないどころか意にも返していない。特に黒子は微動だにしていない。

 木場とゼノヴィアはじりじりと間合いを詰め飛び出す準備をするが、相手は一歩も動こうとしない。しかし、木場とゼノヴィアは飛び出した。

 木場は由良に、ゼノヴィアは黒子に向かう。しかし、由良と黒子は木場とゼノヴィアが予想だにしない行動に出た。

 

「オラァ!」

「ん!?」

 

 木場が飛びかかり由良のすぐ近くまで近づくと、由良は手に持っていた砂を木場に投げつけ目つぶし。木場は剣を構えて防御の体勢を取りながら守りを固めた。

 そして木場は押し飛ばされ、由良の額からは浅めの切り傷が残った。木場は何が起こったか分かったが、同時にそれが信じられない。

 

「一体何を考えているんだい。聖なる力の波動を持つ聖魔剣にあろうことが頭突きで押し返すなんて」

「ビビってんじゃねえぞ!」

 

 由良の額は剣傷の他に聖なる波動のダメージがしっかりと刻まている。なのに、ダメージなど意に返さず木場に向かっていく。

 一方、ゼノヴィアの方も一誠から借りたアスカロンを振るっていたのだが、相手はそれにも関わらずパワーで勝てないと判断すると平然と聖剣に触ってきた。そして剣の間合いから拳の間合いに無理やり変える。

 

「オラララララララッ!」

 

 由良は素人丸出しの拳や蹴りで木場を攻撃する。が、素人の動きでは木場には通じない。木場もその隙に聖魔剣で攻撃を当てる。

 一太刀浴びれば倒せる。そう思っていたのに、由良は既に一太刀では済まない攻撃を受けながらも攻撃の手を緩めない。

 

「オラァァッ!」

「うぐっ!」

 

 そしてついに顔面に重い一撃を受けてしまった。だが、由良も明らかにそれ以上のダメージを見せている。しかしその闘志はまるで自分がノーダメージのようにふるまっている。木場は剣傷どころか聖なる波動すら恐れず向かってくるその根性に狂気を感じていた。

 その狂気はゼノヴィアもまた違う相手から感じている。

 

「一体どうなっているんだ!?」

 

 アスカロンは龍殺しの力と赤龍帝の力の両方が宿っており、絶大な威力をほこる得物へと変化している。そのすごさは剣を見ただけで伝わるほどに。

 悪魔であろうとなかろうと剣自体に素手で触れるなんてことは普通はしない。なのに黒子はそれを一切の躊躇も見せずに行った。

 聖なる波動に焼かれる様子もない。一体どういうことなのかゼノヴィアにはわからない。

 

「くっ、ならこれでどうだ!」

 

 考えても仕方ないとゼノヴィアはダメージ覚悟で特攻を仕掛けた。一撃当てればかなり勝機が出てくる。ならば、相手のリズムを崩すためにも多少の無茶は必要。そう考えたのだ。

 しかし、その特攻もむなしく簡単に躱されてしまう。

 

「まだだぁぁぁぁぁっ!」

 

 だが、それでは終わらない。

 ゼノヴィアはとっさの機転を利かせて体を回転させて攻撃を続行。相手は自分を受けながしたため後ろを向いている。これなら攻撃を当てられると思った。

 

「カラ」

「な、なに!!」

 

 黒子はなんと首を180°回転させゼノヴィアの方を向き、関節を無視した動きで白羽取り。

 かなり高速で行ったため黒子のマスクが取れてしまった。その黒子の正体はなんと。

 

「に、人形……?」

「カタカタカタ」

 

 黒子の正体はマネキンのような人形。口元にはギザギザの歯がびっしりとついており、それ以外にも不気味なデザイン。だが、これでつじつまが合うとゼノヴィアは納得。

 

「なるほど。人形が相手だったから臆さないわけか。これは一本とられてしまったな」

「だいせ~かい!」

 

 人形が背負っていた棺の中から操縦者の『騎士(ナイト)』巡 巴柄が元気よくその姿を現した。それと同時に今まで見えなくされていた魔力の操り糸が見え、人形の要所要所と巡の指が糸で繋がる。

 

「当然人形だから聖なるオーラも効き目がない。だが、姿を現したのは失敗だったな」

 

 攻防を繰り広げていたゼノヴィアは、ふいに空間に穴をあけた。通常ならデュランダルを出現させるのだが、今回は違う。

 空間の裂け目から聖なるオーラが漂い、ゼノヴィアの持つアスカロンを包んだ。

 

「デュランダルを空間に閉じ込めたまま、聖なるオーラだけを纏わせたといったところですか」

 

 驚愕に値する出来事だが、森羅はそんな様子をかけらも見せずに淡々と推測を言う。

 

「ああ、デュランダルの面白い使い道を掲示されてね。修行でなんとか得られた。いまの私には十分すぎる使い方だよ」

 

 悪魔なら圧倒されずにはいられない程の強大な聖なるオーラ。デュランダルほどではないが、限りなくそのパワーに等しい能力が違う剣に注がれている。

 暗がりの駐車場に銀光と火花が煌く。騎士の巡の人形を操る術は非常に高い。優雅にピアノを奏でるようにスムーズに人形を操る。その技量がそのまま人形の強さとなる。が、全身武器の人形にも一つだけ圧倒的に足りないものがある。それは操縦者を守る重量。

 やはり人形では重量が足りず、ゼノヴィアの速度についていけてもパワーには対抗しきれないものがあった。そしてついにそのパワーに押し飛ばされ人形の守りは崩された。

 

「くらえ!」

 

 一瞬の隙を見逃さず、ゼノヴィアは一気に詰め寄る。それには木場も取ったと思った。

 だが、巡も黙ってやられはしない。

 

「まだまだ!」

 

 魔力の糸を操作して人形を地面に伏せさせ、糸をピンと張りアスカロンをガードしようとする。魔力の糸にあきらかに魔ではない力が宿り、ピンと張った糸はゼノヴィアのアスカロンの攻撃を耐え抜いた。

 魔力の糸でアスカロンを止められたのももちろん驚いたが、ゼノヴィアが一番驚いたのは糸が纏う属性。本来、アスカロンが放つ聖なる波動で悪魔ならリタイヤさせられるはずなのに。

 

「私たちは皆、それぞれの五行陰陽思想を司る。そして私の司る属性は陽。つまり光を現す。聖なるオーラは私には半減よ」

 

 斬撃の勢いが死んだところで再び人形を呼び戻す。聖なるオーラでトドメを刺そうとしたゼノヴィアだが、逆に糸から伝達され陽のオーラを纏った人形の聖なる攻撃を軽く受けてしまった。

 これには木場もまずいと感じる。相手に聖なるオーラが通じず、変幻自在の人形術。相性が悪いわけではないが技量の相性が悪い。

 

「ゼノヴィア! チェンジだ!」

 

 それなら自分と相手を交換しようと木場は考えた。

 自分のスピードなら防御されずに突破できるかもしれない。さらに、自分の今相手してる由良の異常なタフネスもゼノヴィアのパワーなら突破できるかもしれないと。

 

「逃げてんじゃねえぞ!」

 

 だが、由良がそれを激しく阻止。ゼノヴィアも人形の手から位置を交換できず断念。

 由良は相変わらず木場の聖魔剣を全く恐れず素人丸出しの攻撃を続ける。これならじり貧で勝てる。そう思った矢先。

 

「なめんじゃねぇ――――!」

 

 由良の拳に火が灯った。それは比喩表現ではなく、本当に拳が炎に包まれたのだ。

 その拳は木場の聖魔剣を破壊し、そのままもう一本の聖魔剣まで破壊してしまうほどのパワー。

 

「————ッ!?」

 

 まったくの素手相手に自慢の聖魔剣を二本も折られ、木場は距離をとり冷静に相手を観察。捨て身の攻撃であの炎をまともに受けては危ない。

 木場の攻撃が収まったところで森羅が傷だからけの由良のもとに近づく。

 

「由良、あなたのその根性は私も会長も認めています。ですが、やはり無茶が過ぎると私は思います」

「この戦闘スタイルは私の信念そのものです。こればっかりは例え会長に言われようとも変える気はありません!」

「まあ、今はそれでいいでしょう。傷を見せなさい」

 

 その光景に木場はまたまた驚く。それは、森羅が由良の傷を治療したからだ。まるでアーシアの『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』のように。

 

「まさか森羅副先輩の神器がアーシアさんと同じく回復系だったなんてね」

 

 木場は由良の治療を神器によるものだと断定する。だが、森羅は顔を横に振る。

 

「確かに私は神器もちではありますが、回復系ではありません。私は巡と同じく陽を司ります。私の役割は由良と巡の戦いを見届け、一度だけ由良を回復させる。それだけです」

 

 椿がそう言うと続けて由良が拳を握り木場に言う。

 

「回復術は私たちにしてみれば国語や算数と同じ。必須科目さ」

「いや、唯一まったくできない人が自信満々に言えることじゃないでしょ」

「……」

 

 巡の冷静なツッコミに急に無口になってしまう。かっこよく決めたのを邪魔された由良は横目で巡を見る。

 木場は回復術のことは気になるが今はどうすることもできない。今できることと言えば回復されてしまう前に倒してしまうくらいしかない。それよりも今はほかの方面で相手から情報を引き出すことに。

 

「陽を司るか。それぞれの五行陰陽思想を司るって巡さんが言ったよね。ということは、由良さんも属性を。そしてその属性はおそらく炎」

「ああ、その通りだ。私は他のと違って器用なことはできない。回復術も隠密も肉体強化すら単純なものしか使えない。そんな私が唯一使える火の忍術、火遁『人体発火』だ」

 

 由良の体が炎に包まれる。その炎から特別なものは一切感じないが、ただただすさまじいエネルギーを感じる。

 先ほどのように拳だけでなく体全体が炎に包まれている。もう先ほどのようにちまちまとした攻撃は通じないだろうと思う木場。

 最初はこちらが優勢と思いきやいつの間にか圧倒的劣勢に立たされている。なんとかゼノヴィアと交換するチャンスをうかがえないかと剣を構える。

 その覚悟の最中、さらに木場とゼノヴィアを劣勢に立たせるアナウンスが流れた。

 

『リアス・グレモリー様の『戦車(ルーク)』一名、リタイヤ』

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