無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 まず最初にいつもより投稿が遅くなってしまったことについてご説明します。
 プロット段階ではこの部分は割とうまく纏まってたのに、いざ書いてみるとかなりこんがらがってしまいました。一時は大幅変更も考えましたが、今後の都合上おそらく彼女がいなければ詰むまではいかなくとも、絡めさすさに違いが出ると現時点で判断して残すことにしました。
 まあ最悪蛇足になっても大丈夫かな……?
 ただ一つ言えることは、お待たせして申し訳ありませんでしたということだけです。


異端な正義の執行者

 紫藤さんと罪千さんが転校して来てから数日が経過した。

 

「はいはい! 私、借り物レースに出まーす!」

 

 元気いっぱいに手をあげる紫藤さん。

 紫藤さんはその明るさで男女問わず人気者で、当然クラスにもすっかり溶け込んでいる。

 一方で罪千さんは極度のネガティブ思考とあがり症でイマイチ溶け込めきれていない。おせっかいかもしれないけど本気で心配になってきたよ。

 今はホームルームの最中。体育祭で誰が何の競技に出るかを決めているところだ。

 

「う~ん」

 

 だけど全く体育祭の事が頭に入ってこない。

 罪千さんを無理やりクラスに溶け込ませようなんて端から考えていない。僕はほんの少しでも罪千さんが笑顔の時間を作ってあげたいと思っている。

 クラスに溶け込めずずっとしょんぼりした表情の罪千さんだけど、彼女が笑顔になる時はちゃんとある。それは食べている時だ。

 罪千さんはよく食べていることである意味有名になっている。まず休み時間になると必ずコンビニで買ったであろう菓子パンを一個以上食べる。それも毎休み時間(ごと)に。

 昼休みには学食で大盛りを時間ギリギリまで食べ続けている。それはもう幸せそうな表情でね。僕も一度だけ見たことあるけど、食べ終えた食器の量も気にならないくらい幸せそうな表情だったよ。

 その他にも罪千さんに関する食の話だけは結構耳にする。なんでも大食いチャレンジメニューを時間制限内に三度もおかわりしたとか、そのチャレンジの店に毎日顔を出して大食いチャレンジ禁止にされたとか。本人にこの手の話題をするとものすごく恥ずかしがってテンパるけど。

 

「うわっ! 騙しやがったな、桐生!」

 

 桐生さんにひっかけられて手をあげさせられた一誠。

 一誠は桐生さんに文句を言うもにやりと笑われるだけ。

 

「あんたは二人三脚よ。じゃあ相方は―――」

 

 桐生さんがある女子生徒を指す。そこにはアーシアさんが気恥ずかしそうに恐る恐る手を挙げている。

 

「あんたとアーシアには二人三脚で走ってもらうわ!」

 

 一誠とアーシアさんが二人三脚に決まった所でホームルーム終了のチャイムが鳴る。まだ少しだけ決まってない人がいるから残りは明日の放課後で決めるんだろうね。そういう僕もまだ決めてないし。

 二人三脚は二組(ふたくみ)の合計四人まで出場できる。迷惑なおせっかいかもしれないけど、僕は罪千さんのところまで言って言う。

 

「ねえ、僕と二人三脚に出てくれないかな?」

「ふぇっ!?」

 

 僕と同じくまだ種目が決まってない罪千さんに声をかけてみる。強制はしない。ただ僕の一方的な同族意識で助けてあげたいという我儘。

 僕の誘いに対する罪千さんの答えは――――――

 

「桐生さん! 僕と罪千さんで二人三脚に出てもいいですか?」

 

 こうしてホームルーム滑り込みでその日のうちに僕と罪千さんは二人三脚のパートナーに決まった。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 次の日から学園全体で体育祭の練習などが始まった

 僕のクラスも体操着に着替えて、男女合同でグラウンドにて各競技の練習をしている。

 

「勝負よ、ゼノヴィア!」

「望むところだ、イリナ!」

 

 紫藤さんとゼノヴィアさんがグラウンドで駆けっこをしている。クラスメイトたちも両者に応援を送っているけど、改めて思うと大丈夫なのかな?

 何を心配してるかって、二人の爆走具合だ。とても速い、それこそ女子高校生ではありえないぐらいに。つまり悪魔の身体能力を隠していない。今思えば球技大会の時もそうだったような……。秘匿とかの方面で大丈夫なのだろうか。そもそも人外が人間に交じって競い合うこと自体反則気味な気がする。

 

「おっ、誇銅」

「あっ、匙さん」

 

 紫藤さんとゼノヴィアさんの爆走を眺めているとバッタリ匙さんと会った。メジャーやら測定するものを持っているとこから、お仕事中なのがうかがえる。

 それよりも匙さんの右腕に巻かれている包帯に目が行く。

 

「その包帯、どうしたんですか?」

「ん? ああ、これか」

 

 匙さんは持っていた道具を下ろして、少しだけ包帯を外すと――――そこには黒い蛇みたいな痣がとぐろを巻いてるかのようにくっきりと付いていた。

 

「それってもしかして……邪気の汚染じゃ」

 

 蛇がとぐろを巻いてるのはわからないが、この黒い痣には見覚えがある。仙術を使う際に邪気を取り込みすぎた際に起こる肉体の汚染。だけどあれは指先から、もしくは体中に斑に現れる現象なのにどうして腕に、それも蛇の形で。

 

「知ってたか。俺たちの先生たちに訊いたら、この間のゲームで一部に邪気を流し込み過ぎたのが原因だと言われた。どうやら俺の神器に宿る邪龍と取り込み過ぎた邪気の相性が良すぎて影響を与えたらしい。邪気汚染がヴリトラの力に反映されてるみたいなんだ」

「それって危ないんじゃ……。というか僕が邪気汚染を知ってて驚かないんですか?」

「いや、悪影響はあまりないらしいぜ。長年この神器を体に宿していたおかげでだいぶ耐性が高くなっているらしい。こうやって体に出てくるのは困るけどな。それと国木田先輩から聞いた、誇銅が俺たちと同じく日本勢力と繋がってることをな」

 

 ついに話したんだ、僕と日本勢力との関係。どこまで話したかわからないけど、国木田さんが話したと言うことは大丈夫なんだろう。国木田さんとは拳を合わせ信頼できると確信した人、信用してますよ。

 

「まあ、他にはこれとかな」

 

 匙さんがさらに腕の一部を僕に見せてくれる。そこには小さな宝玉みたいなものがある。それが宝玉だと思ったのは一誠の神器の宝玉に少し似ていたから。むしろ縮小版としてはそっくりかもしれない。

 

「呪いですか?」

「ちょ、呪いとか地味に気にしてんだから言うなよ。ヴリトラって、あんま良い伝説がないんだからよ。ちょっと神器が目覚めた証拠ってだけだよ」

 

 匙さんは少し嫌な顔をしたけどすぐに気を取り直して新しい話題を振ってくる。

 

「それで、誇銅は何の競技に出るんだ?」

「僕は二人三脚です」

「そっか、俺はパン食い競争だ」

 

 そんな雑談をしていると匙さんの所に、見知った二人のメガネが似合う女性が近づいて来た。

 

「サジ、何をしているのです。テント設置箇所のチェックをするのですから、早く来なさい」

「我が生徒会は男手は少なくとも由良がいます。早くしないと男子としての役割を奪われますよ」

 

 ソーナさんと森羅さんだ。二人で匙さんを呼んでる。

 由良さんは男勝りな性格として有名で武器を持った不良集団を素手の喧嘩(ステゴロ)で壊滅させた男気ある伝説を持っている。その伝説の真偽は多くの傷の手当の後とギプスが物語っていた。

 

「は、はい! 会長、副会長! じゃあな、誇銅」

 

 匙さんは慌ててメジャーなどを持って、二人のもとへ行った。

 こうして見ると匙さんって一誠以上に下僕が似合う人になってるね。自分の意思がないとかではないけど、下働きが似合ってるって言うのか。変な言い方をしてきたけど地味で大変なことでも一生懸命頑張ってるように僕は見える。

 さて、そろそろ僕も罪千さんと練習しようとか思ったけど、紐を取りに行った罪千さんが一向に戻ってこない。罪千さんが自分が取りに行くと一人で行ってしまったけど、大丈夫だろうか。

 

「こ、誇銅さ~ん!」

 

 するとちょうど紐を持ってこっちに走ってくる罪千さんの姿が。行った時は綺麗だった体操服が土色に汚れてることから間違いなく途中で転んだのだろう。汚れから察するに結構派手に。

 罪千さんがこちらに走ってくる横で一人の男子生徒が練習のスタートダッシュに失敗して転んでしまった。

 

「痛っ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 それにいち早く気づいたのが罪千さん。心配そうな顔をして駆け寄る。

 

「ありがとう罪千さん、大丈夫だから。しばらくすればすぐに良くなるから」

「ダメですよ、ちゃんと傷口を見せてください。もしかしたら捻挫してる可能性もあります! 足首に痛みはありませんか? もしも鈍い痛みがあれば軽傷の捻挫の可能性が高いです。これ以上の腫れを起こさないためにも今日は運動を中止して安静にしてください。それとすぐに保健室で氷をもらって患部をアイシングしてください。放っておくと腫れが悪化してしまいます」

 

 その後も一生懸命その男子生徒の世話を焼いて保健室に運ぼうとするが、それは悪いと男子生徒は自分の足で保健室に向かう。その時も罪千さんは冷やした後は包帯などで圧迫するようにや落ち着いてきた数日後は患部を温めてと的確な指示を言い続けた。

 男子生徒がちゃんと保健室に行ったのを見届けてから僕のところに来る。

 

「すいませんっ! 遅くなってしまって」

「い、いや、大丈夫だよ。それよりもすごいね」

「へっ?」

「さっきの罪千さんの迅速で適切な行動だよ。僕、驚いちゃったよ」

 

 驚いてるのは僕だけじゃない、周りの人たちもその迅速な行動力には目を丸くしていた。普段の罪千さんはもっと頑張りが空回りしてしまうドジっ子で定着しつつあるのに、他人の怪我に関しては敏感に適切に反応したのだからそのギャップは良い意味で大きい。

 

「そ、そそそ、そんなことありません。ただそういう知識が人より少し多いだけですし、すごいだなんて私にはもったいない言葉です。それより私みたいなゴミクズが少しでも人のお役に立てたのなら。こんな私が出しゃばったことをしてむしろ不快にさせてしまったかもしれません。あっ、だからさっき保健室に一緒に行こうとしたのを断られたのはそれが理由で、ごめんなさぁーい! 私みたいな新参者が出しゃばった行動をしてしまってっ!」

 

 転校初日から挙動不審で常に何かに怯えてるような罪千さんだけど、頼もしさが垣間見えた反動からか今日は特に激しい。ほめたつもりだったのに一人でネガティブな思考に落ちて泣き出してしまった。え、これは僕が悪いの?

 

「大丈夫ですよ罪千さん! 罪千さんは何も悪くありません!」

「ひぐっ……ひぐっ……本当ですか?」

「はい、もちろんですよ」

 

 玉藻ちゃんやこいしちゃんを撫でるように罪千さんの頭を撫でて何とか落ち着かせる。なんだか周りの視線が痛いけど、それで罪千さんの不安がひとつ消えるなら安いものだよ。それにしても何で罪千さんはこんなにネガティブなんだろうか。間違っても訊いたりなんかはしないけど。

 

「それじゃ、そろそろ練習しよっか? 罪千さんが持ってきてくれた紐で」

「はい!」

 

 涙をぬぐった罪千さんは可愛い笑顔で答えてくれた。ふふ、やっぱり泣き顔よりも笑顔のほうが似合ってる。

 既に周りの人たちは、同じクラスの男女でペアを組んで練習を始めてる。上手いところは上手いし、息がいまいち合わないところや、男女がピタッとくっついてるから気恥ずかしそうにギクシャクしてるところもある。

 一誠とアーシアさんは一緒に住んでるからか割といい感じに息が合ってる様子。

 僕も練習を始めるために罪千さんとぴったりとくっついて足首を紐で結ぶ。

 

「それじゃ最初は軽く歩いてみようか」

「はい」

 

 罪千さんはビクビクと僕の腰に手をやろうとしてるけど、やっぱりできないでいた。だからその手をつかんでやさしくも強引に僕の腰に手を置かせた。僕も遠慮なく罪千さんの腰に手を回す。

 僕がゆっくりとうなずくと罪千さんもそれに続いて頷く。

 

「それじゃいくよ」

「は、はい」

「「せーの」」

 

 こんな風に罪千さんとの二人三脚の練習は始まったけど、なかなか苦戦を強いられることに。

 罪千さんは僕に合わせようとしてくれてるけど、やっぱり自信のない足取りではいまいち合わない。逆に僕が合わせる側に回っても上手く息が合わない。

 僕の身長が152cmで罪千さんが168cmでちょっと差が大きいけど、同じくらいの身長差の一誠とアーシアさんは割りと上手く息が合ってる。こっちも負けていられないや。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 その日の放課後。

 僕は珍しく一誠やアーシアさんと一緒にオカルト研究部に行くことになった。ドアを開けると先に来ていた他のメンバーとアザゼル総督は、なぜか顔をしかめている。

 

「どうしたんですか?」

 

 一誠が訊くと、リアスさんは答えた。

 

「若手悪魔のレーティングゲーム戦の、私たちの次の相手が決まったわ」

 

 リアスさんとソーナさんのレーティングゲームが切っ掛けで六家でリーグ戦を行うことになった。だから当然、グレモリーはシトリー以外の家の若手悪魔と対戦することになる。

 一誠もそれには特に驚きもせず話を聞いていたが。

 

「次の相手は―――ディオドラ・アスタロトよ」

 

 その一言に一誠の表情が驚きの表情に一変した。

 その時、タイミング悪くオカルト研究部のドアをノックする音が鳴り響く。

 

「あのすいませんリアス先輩」

 

 ドアを開けて入ってきたのは生徒会メンバーの巡さん。

 

「ちょっとリアス先輩たちに話を聞きたいって人たちが来ているんですけど、今大丈夫ですか」

「別にかまわないけど、何の話かしら」

「詳しくは聞いてませんけど、悪魔関係って聞いてます」

「……いいわ、通してちょうだい」

「わかりました」

 

 リアスさんが許可を出すと巡さんは二人の男性と一人の女性を通し、自分はそのまま部室から去った。

 

「初めましてこんにちわ。私はFBI監督特別捜査官・行動分析課のマルコ・ホッチナー。こっちはクリストとジェミー」

 

 生真面目そうな眼鏡をした金髪の男性は自己紹介をすると後ろに控えていた大柄の男性と優しそうな女性の紹介も行った。三人は友好的な雰囲気で握手を求め、僕たちもそれに応じる。

 

「こちらこそはじめまして。私がこの子たちの主人の悪魔、リアス・グレモリー。早速だけどFBIがなぜ私たちのところに尋ねてきたか教えてもらえるかしら?」

「もちろんです。まず前提として私たちはFBI捜査官だが今回は別件で来ている。つまり人間世界の犯罪の範疇外の犯罪の調査で来ました」

 

 表面上は何のことかわからないと言った表情を保とうとしているが、正直マルコさんのその一言でも内心驚きに満ちている。まさか人外世界にちゃんとした刑事組織があったなんて。

 悪魔側にも一応それに当たる人たちはいる。だけどあくまで実力のある悪魔に依頼して鎮圧するだけ。ちょうど僕たちがはぐれ悪魔討伐の依頼を受けるように。もしかしたら僕が知らないだけでちゃんとそういう組織があるのかもしれないけど、僕の知る現状から考えるにその可能性は低いと思う。

 日本勢力もそういう組織はない。と言うよりある程度の災いは妖怪の存在意義でもあるため、反乱レベルにならない限り人間側で解決してもらっている。アマテラス様の言葉を借りるならあいこの三竦み。

 

「私たちは普段はFBI捜査官として働いているが、アメリカ勢力の加護のもと人外専門の捜査官もしている。人間並みに知性のある人外相手の動きは多少規模が大きいがそ分行動理由が人間より単純ですからね」

 

 確かに特殊な力や魔法がある分人外世界はそれに頼り切ってる部分がある。日本妖怪が力を持たない代わりに技で他の種族を超えられる力を身につけたように、その方向性によって生じる力の違いはリアスさんとソーナさんのレーティングゲームの時にも表れてる。お世辞にも個々の力が強いとはいい難いソーナさんがリアスさんを圧倒出来た理由はそこにあると思う。

 人間は特殊な力を持たず個々の力も大きな違いがないため、知恵と工夫の技術力が進化していった。そんな人間を相手に行動分析をしていれば人外の行動分析は案外簡単なのかもしれないね。

 それにしてもまたアメリカ勢力か。邪神を引き入れ発展した勢力、その全貌はいまだに想像すらできないよ。

 

「今日はアーシア・アルジェントさんに話を聞きに来ました。ディオドラ・アスタロトという悪魔についてご存知ですよね?」

『ッ!!』

 

 ディオドラ・アスタロトという名前に部室内の全員が驚きを見せた。特にリアスさんとアーシアさんは大きな反応を見せる。

 

「ディオドラが一体何をしたのかしら?」

 

 リアスさんは真剣な表情でマルコさんに尋ねる。

 

「まだハッキリとは何もわかっていません。何せ被害者が一人も出ていないないのですから」

「被害者が出ていない?」

「正確には被害者として登録されていない。しかし我々は彼女たちを被害者と確信しています。そして新たな被害者の出現を何としても食い止めたい」

 

 被害者が出ていないのに捜査?

 これに関しては本当にわけがわからないが口出しはしまい。どちらにしろ僕にできることもないし必要ともされていない。

 被害者のいない事件の捜査に驚きで埋まっていたみんなの表情に困惑の色が強くなる。アーシアさんも一誠の顔を見たりリアスさんの顔を見たりして困惑している様子。僕もさっきまでのわからないフリじゃなくて本当にわからなくなってきたよ。

 マルコさんはアーシアさんの方を向いてより真剣な眼差しで目を見る。

 

「君の証言があれば逮捕とまではいかないがその足がかりがつかめるかもしれない。だから協力してほしい」

「あの……よくわかりませんが、私がお役に立てるのなら」

「ありがとう。それじゃさっそくだが……」

 

 マルコさんはアーシアさんの話を詳しく訊き質問しそれをクリストさんとジェミーさんがすべて手帳にメモしている。時折クリストさんとジェミーさんが質問することも。

 マルコさんたちの質問はおよそ10分足らずほどの短い時間で終わった。

 

「ご協力感謝します。君の協力のおかげで奴の罪を暴き出せそうだ。必ずや犯人を我が主、メイデン様のもとに連行し正義の名のもと裁きをくだすことを誓う」

「メイデンだと? もしかしてそれはメイデン・アインのことか」

「その通りだ。流石堕天使アザゼル、メイデン様の名にすぐに気づいたか」

 

 マルコさんが口にしたメイデンと言う名前に強く反応を示すアザゼル総督。その表情はどこか重たげだ。

 アザゼル総督に続いてゼノヴィアさんも悩んだ様子でつぶやく。

 

「メイデン・アイン。どこかで聞いたことのある名だな」

「ああ、そりゃ教会ではものすごい有名人だからな。言うなれば追放されて汚名を受けたアーシアの前任者みたいなもんだ」

「追放された時のアーシア……魔女……あっ! 虐殺の魔女メイデン・アインか!」

「魔女などではないッ! 聖少女メイデン様だッ!」

 

 気難しそうではあるが友好的な雰囲気と笑顔を絶やさなかったがマルコさんだが、魔女と言う単語で急変し怒りと敵意に満ちた様子で大声で怒鳴った。その時、ただの人間以上のものは感じなかったマルコさんから僅かながら純度の高い聖なる力を感じたのは気のせいではないと思う。なんなんだろうか?

 

「フンッ、やはり堕ちた天使如きではメイデン様の偉大さを理解できぬか。もう要件は済んだ、帰るぞクリスト、ジェミー」

 

 そしてその怒りに満ちた状態で乱暴にドアを開け、最後のジェミーさんが優しくドアを閉める。だけどその際に見えた表情は笑顔ではない。

 

「メイデン・アイン。教会を追放されてから全く聞かなくなったが、まさかまだ活動していたとはな」

「……先生、そのメイデンって人はどんな人なんですか?」

 

 一誠がアザゼル総督に訊く。アーシアさんの前任者と言われ、追放されたアーシアさんと同じく魔女と呼ばれたその人のことが気になるようだね。

 

「そうだな、一言で言えば極端な聖女だな」

「極端な聖女? それは具体的にはどういう意味なんですか?」

「俺も報告でしか聞いたことがないが、なんでも祈りだけで多くの人間の傷を癒し病気を治したと言われている。さらに世界平和の為に世の中の苦痛をその身で引き受けると言って日常的に自ら拷問を科してたとかで一日のほぼすべてを拷問に費やしたらしい」

「ご、拷問をですか!? そこまでするなんて……」

「これ聞いたらもっと驚くぞ。なんとその当時メイデン・アインは僅か五歳だ」

「ごごご、五歳!?」

 

 アザゼル総督の口から告げられた衝撃の事実に部員の誰もが驚いた。僕も含めてね。

 十歳にも満たない子供が何年も山籠もりをする話は実際に見たり聞いたりしたことはあるけど、さすがに拷問までは信じがたい。

 

「信じられねえよな? 俺もいまだに半信半疑だ。だけどよ、実際にメイデンの元信徒から話を訊くとこの部分は全員同じ証言をするんだぜ。否定するにはちょっと材料が多すぎるとは思わねえか?」

 

 どれくらいの人の証言かはわからないけど、アザゼル総督の言い方では2、3人ってことはなさそうだ。少なくても数十人ってところかな。確かにそれだけの証言者がいるなら信じがたい話も嘘だと切り捨てにくい。それも摩訶不思議なことが認知されてる人外世界なら特に。

 

「でもそうなると、なぜそこまで凄まじい力を持つ彼女を教会が手放したのでしょうか。その話が本当だとすると彼女の力は神滅具にも匹敵する程の回復術の持ち主」

「もしかして、そこもアーシアと同じように悪魔を治療してしまったとかですか?」

「メイデンは善と思えるなら悪魔だろうが堕天使だろうが癒すほど慈悲深い。その程度のことは教会の忠告も無視してずっと続けていたが、そのことに関しては多くの民衆に慕われすぎていたゆえに教会は黙認していた。問題は今から説明するメイデンのもう一つの顔にある。メイデンは慈悲深く信心深い一方で自身の判断で相手が『悪』だと考えれば何の躊躇もなく人間すら処刑したんだ」

 

 処刑、またもや五歳の女の子の所業とは思えない言葉がアザゼル総督の口から飛び出す。その言葉でみんな拷問の時並みなそれ以上の衝撃を受けている。

 

「しょ、処刑……ですか」

「方法は不明だがこの部分も元信者たちの証言と一致する。メイデンのその所業を見て一部の信徒は恐れをなしてメイデンから離れた」

 

 アザゼル総督の言葉に、五歳の少女の行為に戦慄を覚える僕たち。相手が誰であろうと善と思うなら救う一方、相手が誰であろうと悪と思うなら裁く両極端で苛烈な一面。それもたったの五歳の少女。どうしてその年でそんな考えに至ってしまったのかが不思議であるとともに怖くもある。

 

「だが不思議なことにそこまでのことをしておきながらメイデン・アインが追放され後には町一つ分以上の人間が教会を抜けてついて行った。そこでついたのが多くの人を惑わし殺した魔女、殺戮の魔女の名がつけられたんだよ」

「確かに悪魔や堕天使をも助ける優しさはアーシアと似ている」

「まあな。人間だけでなく悪魔や堕天使すら助ける無差別の優しさや、アーシアを上回る回役の素質など共通点がある。もしかしたらアーシアを追放したのはメイデン・アインの再来を教会が恐れたからかもしれないな」

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 その日の部活終わり。

 メイデン・アインの話を聞いた後、アザゼル総督を交えて簡単に次のレーティングゲームまでについて話し合う。まあ殆ど前のレーティングゲームの反省点と今後それをどう生かすくらいの話だけどね。あと僕が聞いてる限りその内容も的外れに感じた。

 それが終わった後は特にすることもないからまっすぐ家に帰った。アザゼル総督が言ったメイデン・アインの話が怖いなとか思いながら。

 だけど今僕にはもっと怖い事態が起こっている。

 

「はじめましてこんにちわ。私はメイデン・アインと申します」

 

 恐怖の張本人が僕の目の前にいます。

 なんでこうなったか僕にもさっぱりわからない。だって家に帰ったら玄関前に搭城さんよりちょっと背の高いくらいのメイド服の少女が猫を撫でながら座っていた。

 ふわふわとした長い銀の髪に優しそうな空色の瞳の少女。僕を見ると優しく微笑みかける少女に思わず警戒心をすべて失くしたけど、自己紹介で一気に焦った。

 僕も簡単に自己紹介をしたけど間が持たず、とりあえず家に上げてお茶を出すことに。そして今現在はテーブルを挟んでメイデン・アインさんと対面、しかも二人っきりで。

 

「あの、アイン……さん」

「私は誇銅さんよりずっと年下なのですからさん付けなんていりません。あとできればメイデンとお呼びください」

 

 この人が本当にアザゼル総督の言っていたメイデン・アインなのだろうか。確かに何か特別なものをほのかに感じるけど、やっぱり僕の目には普通の女の子に見える。

 それでもまだ油断はできない。僕は乾いた唇を紅茶で潤す。

 

「あのそれじゃ……メイデン……さん」

「ふふふ、なんですか? 誇銅さん」

「僕の家の前にいた理由を教えてもらえないでしょうか」

 

 とりあえずなぜ僕の家の前にいたかを知らなくちゃね。

 

「それはもちろんあなたに会いに来たからです」

「僕に?」

「はい」

 

 メイデンさんは席を立ち僕の隣に座ると、僕の胸にそっと寄りかかる。まるで信頼し愛する人の胸の中のように安心した表情で僕に体をあずける。そして目を閉じて呟きだす。

 

「主よ、私は頑張ります。人々を救い、悪を裁き、自らの苦痛を持って世界の罪を償い続けます。世界に平和を」

 

 まるで神に祈るように僕の胸で祈りを捧げるメイデンさん。なぜ悪魔である僕の胸の中で神へ祈りを捧げるのかわからない。

 僕が一人で困惑していると、メイデンさんはゆっくりと目を開く。

 

「誇銅さんもご存じのはずです。ご自身の神器と思われているものには二人の神が封じられていることに」

「! なぜそれを……だけど僕が目覚めさせたのは邪神アザトースの力。神の力とはむしろ正反対の」

「破壊……浄化は聖なる光の性質。確かに誇銅さんが目覚めているのは邪神の王ですが、その力の源流はまごうことなき真なる神のお力。それに邪神は闇ではあれど悪ではありません」

 

 確かに陰と陽もそうだ。陰は幻影や呪いなど何かを創り出すことに特化してるけど、直接的な殺傷力は殆どない。逆に陽は殺傷力は高いが、それ自体に応用性は皆無と言ってもいい。

 陽は光で陰は闇、その関係性はメイデンさんが言った通りだ。

 僕自身まだ僕の中に眠る力についてわからないことが多い。また機会があればヨグ=ソトースさんに訊いてみる必要がありそうだ。

 

「すべては闇から生まれ光に帰る。もしも誇銅さんが我が主に目覚めたのなら、その力は万物を創り出す邪神の王の力でしたでしょう。もしかしたらあらゆるものを蘇生・再生させる最高峰の再生術の使い手になったかもしれませんね」

「……そうかもしれませんね」

 

 その言葉を最後にメイデンさんは黙りこくってしまう。僕の胸の中で目をつむる姿は眠ってしまったんじゃないかと思ってしまうほどにリラックスしている。

 僕は何もせずただじっとなすがままにしていたけど、ふとメイデンさんのふわふわの髪を撫でたい衝動に駆られた。そして恐る恐る右手を動かしてメイデンさんの髪を優しく撫でる。見た目通りふわふわでとても撫で心地がよかったよ。

 甘えるでもなく抱き着くでもなく、ただただ体をすべて預けられるという新体験に愛されるとはまた別のうれしさを感じる。

 僕の中にはもうメイデンさんへの恐怖心は微塵も残っていなかった。

 それから僕たちはよくわからない静かな時間を過ごし、よくわからないままメイデンさんは帰り、よくわからないまま一日を終えることに。結局メイデンさんは何しに来たのだろうか……。

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