無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 ついにお気に入り数が500突破! 登録してくださった皆様、本当にありがとうございます! これからもなるべく早い更新を心がけていきたいと思います。

 しかし残念ながら、今回は長い時間を費やした割にはちょっと微妙な出来になってしまって申し訳ありません。肝心の部分が尺の都合上書ききれませんでした。


独善な魔王の思考

 神殿の中は広大な空間だった。大きな広間に巨大な柱が並んでいるだけで他には何もない。ただ大きな空間が広がっているだけだった。

 神殿を抜けた先に、さらに前方に新たな神殿が現れたのでそこを目指す。それを何度も繰り返して、やっと他の気配がする神殿に辿り着いた。が、ディオドラの気配がするのは此処じゃない、もっと奥だ。

 僕たちは足を止めて構える。すると、前方からフードを深く被ったローブ姿の小柄な人影が十人ほど現れた。

 

『やー、リアス・グレモリーとその眷属の皆』

 

 神殿中にディアドラの声が響く。一誠はディオドラを探すべくキョロキョロとあたりを見回すが。

 

『ハハハ、赤龍帝。辺りを見回しても僕は見つからないよ。僕はこのずっと先の神殿でキミたちを待っているからね―――遊ぼう。中止になったレーティングゲームの代わりだ』

 

 ディオドラの声からかなり有頂天になってるのを感じる。だけど……僕の目測では感じる強さは禁手時の一誠以下だ。特に一誠は感情で力の起伏が激しいから、今の状態で力比べをすれば一誠がまず勝つだろうね。

 なのになんであんなに有頂天になれるんだろう?

 

『お互いの駒を出し合って、試合をしていくんだ。そうだね~、一度使った駒は神殿の奥にいる私のところへ来るまで使えないってルールにしよう。後は好きにしていいよ。第一試合、僕は「兵士(ポーン)」八名と「戦車(ルーク)」二名を出す。ちなみにその「兵士(ポーン)」たちは皆既に「女王(クイーン)」に昇格しているよ。ハハハ、いきなり「女王(クイーン)」八名だけれど、それでも問題ないよね? 何せ、リアス・グレモリーは強力な眷属を持っていることで有名な若手だからね』

 

 初っ端から十人か、ずいぶん大盤振る舞いしてきたね。確かに女王に戦車と強い駒が十人はこちらに厳しいものがあるけど、逆に突破されればゴッソリと戦力を失うことになる。

 

「いいわ。あなたの戯れ言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」

「相手の提案を呑んじゃって良いんですか?」

「応じておいたほうが良いわ。あちらは、アーシアを人質に取っているもの」

 

 一誠の訊くとリアスさんは目を細めながら答えた。

 そう、アーシアさんを人質に取られた瞬間から僕たちに拒否権はない。

 リアス眷属は多少の相性や大まかな作戦は立てるが、基本的に策を弄しない。時間を稼いでも何かできるわけじゃないので従うしかない。

 

「こちらはイッセー、小猫、ギャスパー、ゼノヴィアを出すわ」

 

 こちらはもう四人も出すのか。まあ駒の価値を考えたら必要かもね。だけど感じる相手の実力から考えると、このメンバーなら圧倒的完勝で終わるだろうね。

 試合の映像を見る限りディオドラの眷属は平均以上はあっても強いとは感じない程度の実力に見えた。こうして直接見てもその予測は変わらない。

 

「今呼ばれたメンバー、ちょっと来てちょうだい」

 

 一誠、搭城さん、ギャスパー君、ゼノヴィアさんはリアスさんの元に集まって耳打ちをされる。そして耳打ちが終わる頃に再びディオドラの声が響く。

 

『じゃあ、始めようか』

 

 ディアドラの声と共に、相手が一斉に構え出した。

 一誠は木場さんの魔剣で軽く指を斬ってもらい、ギャスパー君に血を飲ませる。今まで使った所は見た事ないけど、一誠は自分の剣があるんだからそれを使えばいいのになぜわざわざ木場さんに?

 しかし、一誠の血を得たギャスパー君の雰囲気は見るからに変わった。異質なオーラが体を包み、赤い双眸も怪しく輝き始めて準備万端ってとこかな。

 ゼノヴィアさんはデュランダルを解放し、一誠から早速受け取ったもう一つの聖剣も構えて、敵の『戦車(ルーク)』二名の方へ走り出した。

 

「アーシアを返してもらう」

 

 今のゼノヴィアさんはかつてないほどのプレッシャーを放っている。その眼光も鋭い。

 

「私は……友と呼べる者を持っていなかった。そんなものがなくても生きていけると思っていたからだ。神の愛さえあれば生きていける、と」

 

 『戦車(ルーク)』の二人が、ゼノヴィアさんに向かって走り出す。———速いね、スピードのある『戦車(ルーク)』だったんだ。だけど、今のゼノヴィアさんはそんなんじゃ動じないだろうね。

 案の定、ゼノヴィアさんはそれに動じず独白を続ける。

 

「そんな私にも分け隔てなく接してくれる者たちが出来た。特にアーシアはいつも私に微笑んでくれていた。この私を、『友達』だと言ってくれたんだ」

 

 『戦車(ルーク)』たちの激しい打撃を軽やかに躱しながら、ゼノヴィアさんは憂いの瞳を浮かべていた。

 ————そうなんだよね、リアスさんの眷属内ではみんな確かな愛情がある。その中に僕がいないだけで。

 

「……私は最初に出会った時、アーシアに酷いことを言った。魔女だと、異端だと。でも、アーシアは何事もなかったかのように私に話しかけてくれた。それでも『友達』だと言ってくれたんだ! だから助けるんだ! 私の親友を! アーシアを助けるんだ!!」

 

 デュランダルから吐き出される大きな波動が、『戦車(ルーク)』の二人を弾き飛ばす。

 その後、ゼノヴィアさんはデュランダルを天高く振り上げると、涙混じりに叫ぶ!!

 

「だから、だから頼む! デュランダル、私の想いに応えてくれっ! アーシアがいなくなったら私は嫌だ! もしもアーシアを失ったら私は……ッ! お願いだ! 私に……私に友を救う力を貸してくれッ! デュランダァァァァァァァルッッ!!」

 

 ドゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

 ゼノヴィアさんの咆哮に応えるかのように、デュランダルはその聖なるオーラを何倍にも膨れ上がらせた。あふれ出る大量の聖なるオーラ。ここからでも余波でピリピリとしてものを感じる。————むずがゆい。

 しかし、デュランダルは―――以前の十倍近い聖なる輝きを放っていた。

 ゼノヴィアさんの周囲の風景は、デュランダルが放つ聖なるオーラだけでひび割れていく。

 

「私はデュランダルをうまく抑えることなんて出来ないと最近になって理解した。木場のように静寂な波動を漂わせるようになるのは長期間かかるだろう。それならば、いまは突き進めば良いと思った。私はデュランダルの凄まじい切れ味と破壊力を増大させることにしたんだ」

 

 ゼノヴィアさんは二つの聖剣を掲げそれをクロスさせた。するとデュランダルの波動がもう一つの聖剣に流れ、聖なるオーラがいっそう膨れ上がる。

 一誠が渡した聖剣もデュランダルに触発されたのか、聖なる波動を莫大に発生させて、二刀が放つオーラの相乗効果を促し始めた。

 

「さあ、いこう! デュランダル! アスカロン! 私の親友を助けるために! 私の思いに応えてくれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 二刀の聖剣は広大な光の柱を天高く(ほとばし)らせていく。その光は柱のように太く、神殿の天井に大きな穴を作った。ゼノヴィアはさんはその光の柱を敵の『戦車(ルーク)』の方へ一気に振り下ろした。

 

  ザバァァァアアアアアアアアアアッッ!

 

 ふたつの大波ともいえる聖なる波動が混じり合い、『戦車(ルーク)』二人を飲み込んでいった。

 

  ドオオオオオオンッ!

 

 ゼノヴィアさんの攻撃によって神殿が大きく揺れる。揺れが収まったとき、僕の視界に入ってきた光景は―――ゼノヴィアさんの前方に伸びる二本の大きな波動の爪痕。

 先にあった柱や壁は丸ごと消失し、天井もゼノヴィアさんの真上から前方までが消え去っていた。そもそも神殿のだいたい六割が二振りの聖剣の波動で吹き飛んでいる。

 これが加減なしのゼノヴィアさんの全力。すべて聖なるオーラで構成されたあの規模の攻撃、魔に属する相手ならまともに受ければ消滅は確実だろう。現にディオドラの『戦車(ルーク)』は跡形もなく消滅しているし。

 敵の『戦車(ルーク)』を消滅させたゼノヴィアさんは、肩で息をしていた。あれだけ派手で威力も消費も無駄の多い攻撃をすれば当然だろう。

 ゼノヴィアさんが『戦車(ルーク)』二名を倒すと、次は自分たちの番だと言わんばかりに一誠と搭城さんとギャスパー君が飛び出した。

 

「小猫ちゃん、ギャスパー! 行くぞ!」

「「はい!」」

 

 搭城さんは一誠の掛け声に返事をするのと同時に猫耳と尻尾を生やした。

相手は『女王(クイーン)』に昇格した『兵士(ポーン)』八人。数と駒を見たら劣勢だけど、一誠たちならこの程度の相手に負けるはずがない。

 

「俺もプロモーション! 『女王(クイーン)』!」

 

 試合だと敵陣地に行かないと成れないけど、ゲームが崩壊した今ならリアスさんの同意があればどこでも昇格(プロモーション)できるらしい。

 駒の効果で一誠の魔力が高まる。

 

『Boost!!』

 

 さらに一誠の魔力が高まっていく。

 

『Explosion!!』

 

 一誠はその魔力をどうやら頭部辺りに集中させているようだ。それにしても頭部に集中か、一体何をするつもりなんだろうか? 

 

「煩悩解放! イメージマックス! 広がれッ! 俺の快適夢空間ッッ!」

 

 一誠を中心によくわからない空間が展開されているのもあれだけど、それ以上に僕は一誠の言った言葉に理解不能な感情を抱いている。え、煩悩解放? 快適夢空間? 

 

「部長ォォォッ! 俺は変態です! 俺はエロエロです! それでも俺はこの技をあなたのために使います! いえ、俺自身のために使います!」

 

 一誠はわけのわからない誓いを立てた後、敵の女性『兵士(ポーン)』八名の方を向いた。正確に言うと明らかに胸をガン見している。

 流石に部長もあきれ顔だよ。いっそのこと一誠ごと僕の炎で燃やしてしまいたい。

 なぜ一誠はアーシアさんの命がかかっているようなこんな時でも性欲を前面に押し出せるのか。同じ眷属なのが恥ずかしくなってきた。

 

乳語翻訳(パイリンガル)ッ!」

 

 乳語翻訳(パイリンガル)? 確か、ソーナさんの試合で不発に終わった技だったよね? えっと……確か効果は……。

 

「ヘイ! 『兵士(ポーン)』のおっぱいさんたち、右から順にこれから何をしようか教えてちょうだい!」

 

 そうだ、女性限定の読心術だったね。『洋服崩壊(ドレスブレイク)』よりはマシだけど、一誠にはあんまり使ってほしくないな。うっかり日常で使って他の女性の心にトラウマを植え付けたりしないようにね。———まあ、リアスさんたちが一誠に夢中なうちは大丈夫か。

 

「あの子とあの子とあの子はギャスパーを狙ってる! ギャスパー、いま言った奴を停止させろ!」

「は、はいぃぃぃ!」

 

 一誠が指さした『兵士(ポーン)』三名をギャスパー君が神器の力で停止させる。

 これで敵の残りは五名、この調子なら楽勝だね。

 

「君たちは何を考えているのかな?」

 

 一誠は残りの二人の『兵士(ポーン)』の胸を見る。技の発動条件がそれなら仕方ないことだけど、どうしても納得がいかないことがあるよね。

 

「ギャスパー、次はそっちの三名が小猫ちゃん方面に向かう! そこを停止させろ!」

「は、はいぃぃぃぃ!」

 

 カッ!

 

 ギャスパー君の眼光が煌き、また三人がその場で動きを停止させられた。

 残りはたった『兵士(ポーン)』二名。あっという間に人数も逆転。清々しい程の完封具合だね。

 

「ウハハハハハハハハハハハハハハッ! 圧倒的じゃないか! 『女王(クイーン)』となった『兵士(ポーン)』八名が何もできずに俺たちの連携攻撃の前に沈もうとしているのだからな!」

 

 一誠が調子に乗って悪役のようなセリフを吐いている。しかも調子に乗った格下悪党っぽい下品な笑みまで浮かべていた。

 非常に癪だけど、一誠の心を読む力は強力だ。女性限定ではあるけど、対抗手段の相手にとってかなり怖い技だろう。万が一その力が僕の大切な人たちに向いたら……大丈夫か。

 僕が護りたい人たちには一誠の技なんて通用しない。そもそも、僕が護ろうなんておこがましいほどに強い人たちばかりだしね。

 しかし残りの『兵士(ポーン)』二人は、一誠とギャスパー君の連携に後ずさりを始めた。不用意に近づけば何もできず停止させられるからね。まあ、何か考えても現状では無意味に近いけど。

 

「……どう考えても悪役の態度」

 

 調子に乗る一誠にツッコミを入れる搭城さん。確かに現状から一誠が調子に乗った悪役の表情をするのは合っている。が、それを実際にするのは話が別だ。

 それと下衆(げす)勘繰(かんぐ)りかもしれないけど、どうも一誠が現在もエロ目的で能力を使ってるように思えて仕方がない。実際に自分の為に使うとかも言ってたし。

 一誠は停止している『兵士(ポーン)』に歩み寄り、籠手で服に触れた。

 

 バババッ!

 

 その瞬間、ローブがはじけ飛んで全裸となった。そしていやらしさ全開の表情でその『兵士(ポーン)』の体を凝視している。

 流石に下衆の勘繰りと思ったけど、疑惑が確信に変わった瞬間だった。大切な人が人質になってるのによくそういうことができるよね!

 一誠は鼻血を吹き出しながら、不敵に笑う。そして他の停止してる『兵士(ポーン)』にも同じことをしだした。あの場に居たら間違いなく一誠を殴ってたよ。———無念。

 

「……ふふふ。見たまえ、動けない者がこれほど無防備とは。服も容易に破壊できる。バイリンガルとドレス・ブレイクのコンボ。相手が女の子なら、ここまで無敵だとは……。先生、俺はいつかおっぱいを支配できるんじゃないかって思えてきましたよ」

 

 そうか、ならば支配される前にその技は二度と使えないようにしてしまおう。それがいい。しかし残念なことに僕には封印する手段がない。

 僕にできることは、一誠が性犯罪に本気で手を染めた時に裁きの場に突き出すことだけだ。

 

「さーて、残りのお姉さんたちをどうしてくれるかなー!」

「……早く倒しましょう、ドスケベ先輩」

 

 下品な笑みで両手の指をわしゃわしゃ動かす一誠に、搭城さんのパンチが顔面に炸裂した。搭城さん、ナイスですよ!

 搭城さんは停止している敵の『兵士(ポーン)』を一誠が何かをする前に打倒していく。

 我に返った一誠はギャスパーくんに指示を出し、残りの『兵士(ポーン)』を停止させた。搭城さんのツッコミが効いたのか今度は変態行為をせずにササっと倒す。

 素直に一誠はかなりのスピードで強くなってると思う、だけど同時に変態性も急激に増してる気がするよ……。

 

 

 

 

 

「まずは一勝ね」

 

 一誠と搭城さん、ゼノヴィアさんにギャスパー君は見事敵の『兵士(ポーン)』八名と『戦車(ルーク)』二名を倒した。

 勝負開始前から楽勝だとは思っていたけど、予想以上の完勝だったよ。

 生き残った敵の『兵士(ポーン)』たちは停止した後に搭城さんが仙術で魔力を練られないようにし、ギャスパーくんのヴァンパイアの能力で気絶させて柱に縛り上げられた。

 これで相手の残りは『女王(クイーン)』一名、『騎士(ナイト)』二名、『僧侶(ビショップ)』二名、『(キング)』のディオドラ。一戦目でゴッソリと数を削ってもまだまだいるね。

 

「さあ、行きましょう」

 

 リアスさんの掛け声と共に僕たちは次の神殿へ向かった。

 二回戦目に僕たちを待ち受けていたのは―――一回戦目と同じようなローブ姿の三名。

 

「……映像の一件から僕の記憶が正しければ、『僧侶(ビショップ)』二名と『女王(クイーン)』です」

 

 木場さんが言う。それにしてもよく覚えていましたね。みんな、同じようなローブ姿で殆ど見分けがつかないハズなのに。やっぱり、木場さんはあの映像を真剣に見ていたから僅かな違いに気づいたのかな?

 それにしても早くも本物の『女王(クイーン)』を切ってきたか。なんだか捨て駒臭がしてくるよ。

 

「お待ちしてました、リアス・グレモリー様」

 

 ディオドラの『女王(クイーン)』がフードを払い、素顔を見せる。ブロンドの美人なお姉さんだ。

 残りの『僧侶(ビショップ)』は顔は見せないが、確か男性と女性が一人ずつだったっけ?

 

「あらあら、では私が出ましょうか」

 

 同じく『女王(クイーン)』の朱乃さんが一歩前に出る。

 

「残りの『騎士(ナイト)』二人は裕斗と誇銅がいれば十分ね。私も出るわ」

 

 たぶん僕には一ミリも期待してないんでしょうね。もしくは危険な場所に放り出して実力を見極め、死んでもそれはそれで助かるみたいな考えを……。いや、これこそ下衆の勘繰りだね。どうもリアスさんが僕にすることがすべて悪い方向に考えてしまう。

 例えそうだとしてもかまわない。僕はリアスさんに力を見せないし、例え見られても絶対にリアスさんの為に力を振るわないから。それに、例え死んでもかまわないのはお互い様だからね。

 

「あら? 部長、私だけでも十分ですわ」

「何を言っているの。いくら雷光を覚えたからって、無茶は禁物よ? ここでダメージをもらうより堅実にいって最小限の事で抑えるべきだわ」

 

 リアスさんと朱乃さん、滅びの力と雷光か。相手の魔力と比べて一誠たちと同じく余裕しか見えない。例え読みやすい単純な攻撃ばかりでも大抵は力の差でごり押ししてしまうだろう。それ程に二人の魔力は単純に強い。

 

「それでいいの?」

「……はい。それで朱乃さんはパワーアップします」

 

 搭城さんと一誠が何か話し合っている。

 

「朱乃さーん」

 

 一誠が呼ぶと朱乃さんが振り向く。

 

「えっと、その人たちに完勝したら、今度の日曜日デートしましょう! ———って、これでいいの小猫ちゃん? 俺とデートする権利なんかで朱乃さんが――」

 

 カッ! バチバチバチ!

 

 一誠の予想と反して朱乃さんの魔力が高まり雷のオーラに包まれる。僕としては予想通りだけど。

 

「……うふふ。うふふふふふふふふっ! イッセーくんとデートできる!」

「酷いわ、イッセー! 私というものがありながら、朱乃にだけそんなことを言って!」

 

 迫力のある笑みを浮かべながら、周囲に雷を走らせる朱乃さん。自分を誘わない一誠に涙目で訴えるリアスさん。そして原因の一誠は何が起こってるかわからない様子。

 一誠、あんまり鈍感が過ぎると愛想つかされるよ? この状況は一誠がずっと欲しい欲しいって駄々を捏ねてたものなんだからね?

 

「うふふ、リアス。これも私の愛がイッセーくんに通じた証拠よ? もうあきらめるしかないわね」

「な、な、何を言ってるよ! デ、デート一回ぐらいの権利で雷を(ほとばし)らせる卑しい朱乃なんかに言われたくないわ!」

 

 ……ん? なぜか朱乃さんとリアスさんが口論を始めてしまった。

 

「なんですって? いまだ抱かれる様子もないあなたに言われたくないわ。その体、魅力

がないのではなくて?」

「そ、そんなことないわ! こ、この間だって!」

 

 その後もしばらくリアスさんと朱乃さんの口論は続いた。搭城さんの作戦は完全に裏目に出てしまったようだ。いや、だからそんなことをしてる場合じゃないんですか……? 

 相手も目の前でいきなり関係のない口論をされて困惑している様子。

 しかし、この空気についに耐えかねた相手の『女王(クイーン)』は、全身に炎のオーラを纏いながら激昂する。

 

「あなた方! いい加減にしなさい! 私たちを無視して男の取り合いなどと―――」

「「うるさいっ!」」

 

 ドッゴォォォォォオオオオオオン!

 

 リアスさんと朱乃さんの感情の一撃が『女王(クイーン)』と『僧侶(ビショップ)』二名に放たれた。流石に荒ぶった感情から放たれた一撃は威力が高い。

 滅びの魔力と雷光の魔力が同時に巻き起こり、うねりとなって敵を容赦なく包み込んだ。周囲の風景も、木っ端微塵になっちゃったよ。

 そんな痴情のもつれに巻き込まれ、攻撃をまともにくらった三人は煙を上げながら床に倒れ込んでいた。

 ……完全に再起不能だね……。喧嘩両成敗ではなく、喧嘩敵成敗か……斬新だね。

 一誠の試合とはまた別の意味で酷い試合だったよ。まあ結果的には素早く終わったからよかった……かな?

 だけど、敵を倒しても口論は止まらなかった。

 

「だいたい朱乃はイッセーの体の全部を知っているの!? 私は細部まで知っているのよ!?」

「知っているだけで、触れた事や受け入れたこともないのでしょう? リアスは口ばかりですものね! 私ならいついかなる時でも彼を受け入れる準備をしているわよ!」

「うぬぬぬ……まあ、いいわ。それはアーシアを救ってからゆっくり話し合いましょう。まずはアーシアの救出よ」

「ええ、わかっていますわ。私にとってもアーシアちゃんは妹のような存在ですもの」

 

 不毛な時間を過ごしたけど、やっと意見が一致した。

 敵の『女王(クイーン)』と『僧侶(ビショップ)』を撃破した僕たちはさらに神殿の奥へと進む。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 残りの『騎士(ナイト)』が待ち構えてるであろう神殿に向かう僕たち。だけど、神殿の方からは一人の気配しか感じない。映像で覚えてる限りだとディオドラの『騎士(ナイト)』は二人いたように思ったんだけど。

 神殿に足を踏み入れると、そこには映像で見たディオドラ眷属とは絶対に違う人がいた。

 

「や、おひさ~」

「フリードッ!」

 

 一誠がその人を見た瞬間に叫ぶ。フリード、どこかで聞いたことがあるような……あっそうか、僕が悪魔になって間もない頃に何度か対峙したはぐれ悪魔祓いだっけ。彼とは個人的に少々の因縁があったからね、懐かしい。

 

「まだ生きていたんだなって思ったしょ? イッセーくん。お恥ずかしながら生きてました! な~んちゃって、僕ちんって悪運強いから。これはもはや神のご加護ってか!?」

「だから、俺の思考を読むなって!」

 

 それよりも、なぜフリードがここに居るのか。まさかディオドラの『騎士(ナイト)』ってことはない。気配は人間ではなくなってるが悪魔ではない。

 

「おんや~、もしかして『騎士(ナイト)』のお二人をお探しで?」

 

 フリードは気持ち悪い笑みを浮かべながら口をもごもごさせると、ペッと何か―――人の指を吐き出した。

 

「俺様が喰ったよ」

 

 人を食べた。そのことに一誠は理解できないような表情を浮かべている。

 

「……その人、人間を辞めてます」

 

 搭城さんが()むようにつぶやく。

 フリードはさらに邪悪に口の端を吊り上げると、化け物染みた形相で哄笑(こうしょう)をあげる。

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!てめぇらに切り刻まれた後、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁあっ! 腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉおおっ!」

 

 ボコッ! グニュリッ!

 

 異様な音を立てて、フリードの肉体の各部分が不気味に盛り上がっていく。神父服を突き破り角みたいなものが生え、全身も隆起(りゅうき)して腕や脚も膨れ上がる

 

「行き場無くした俺を拾ってくれたのが『禍の団(カオス・ブリゲード)』の連中さ!奴ら、俺に力をくれるっていうから何事かと思えばよぉぉおおお! きゅはははははははっはははっ! 合成獣(キメラ)だとよっ! ふははははははははっははははっはっ!」

 

 背中の片側にコウモリの様な翼、逆側には巨大な腕が生える。顔も原型を留めない程変形して凶暴な牙も生えてくる。そうして出来上がったのは、人型でありながら人間の面影を残さぬ巨躯(きょく)の怪物。

 統合性もなければ、各部位から発せられる魔力もバラバラ。これでは見た目ほど強化はされてないだろうし、何より生命力が駄々漏れで長くはなさそうだね。……惨く醜い。

 

「ヒャハハハハハハハッ! ところで知ってたかい? ディオドラ・アスタロトの趣味をさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキだぜ!」

 

 突然フリードがディオドラについて語りだす。

 

「ディオドラの女の趣味さ。あのお坊っちゃん、大した趣味でさー、教会に通じた女が好みなんだって! そ、シスターとかそう言うのさ!」

 

 教会に通じた女性。それだけでアーシアさんに辿り着くのは容易なことだった。

 フリードは異形な口の両端を上げながら話を続ける。

 

「しかも狙う相手は熱心な信者や教会の本部に馴染みが深い女ばかりだ。俺さまの言ってる事わかるー? さっきイッセーくん達がぶっ倒してきた眷属悪魔の女達は元信者ばかりなんだよ! 自分の屋敷にかこっている女共もおんなじ! ぜーんぶ元は有名なシスターや各地の聖女さま方なんだぜ! ヒャハハハ! マジで趣味良いよなぁぁっ! 悪魔のお坊っちゃんが教会の女を誘惑して手籠めにしてんだからよ! いやはや、だからこそ悪魔でもあるのか! 熱心な聖女さまを言葉巧みに超絶上手い事やって堕とすんだからさ! まさに悪魔の囁きだ!」

「ちょっと待て、しゃあ、アーシアは―――」

「お察しお通り! アーシアちゃんが教会から追放されるシナリオを書いたのは、元をただせばディオドラ・アスタロトなんだぜ〜。シナリオはこうだ。昔々あるところのある日、シスターとセッ◯スするのが大好きなとある悪魔のお坊っちゃんは、チョー好みの美少女聖女さまを見つけました。その日からエッチしたくてたまりません。でも、教会から連れ出すにはちょいと骨が折れそうと判断して、他の方法で彼女を自分のものにする作戦にしました」

 

 フリードの言葉に一誠の表情がどんどん悪くなる。僕も一応覚えてるよ、アーシアさんが教会を追放された理由。

 

「聖女さまはとてもとてもおやさしい娘さんです。神器に詳しい者から『あの聖女さまは悪魔をも治す神器を持っているぞ』と言うアドバイスを貰いました。そこに目をつけた坊っちゃんは作戦を立てました。『ケガした僕を治すところを他の聖職者に見つかれば聖女さまは教会から追放されるかも☆』と! 傷痕が多少残ってもエッチ出来りゃバッチリOK! それがお坊っちゃんの生きる道!」

 

 一誠は深刻な表情で放心状態となっていた。そんな一誠にトドメとばかりにフリード最後に言い放つ。

 

「信じていた教会から追放され、神を信じられなくなって人生を狂わされたら、簡単に僕のもとに来るだろう――――と! ヒャハハハハ! 聖女さまの苦しみも坊っちゃんにとってみれば最高のスパイスなのさ! 最底辺まで堕ちたところを掬い上げて犯す! 心身共に犯す! それが坊っちゃんの最高最大のお楽しみなのでした! 今までもそうして教会の女を犯して自分のものにしたのです! それはこれからも変わりません! 坊っちゃん――――ディオドラ・アスタロトくんは教会信者の女の子を抱くのが大好きな悪魔さんなのでした! ヒャハハハハッ!」

 

 僕はリアスさんの為に力を貸す気はない。それは意識的だろうが無意識的だろうが同じように僕を仲間外れにした眷属も同じ。もちろん可哀想と思いながらもアーシアさん救出にだって力を貸す気はない。

 だけど今回だけ、今回だけは少しだけアーシアさん救出に力を貸してもいいと思った。それはアーシアさんが哀れだと思ったからじゃない、ディオドラの事が大嫌いになったからだ。

 自分の欲望の為に他人の全てを侵害する。ディオドラが行ったのは、まさに僕の大嫌いな悪魔のイメージ通りの事だから。なんとしてもディオドラが笑うような展開だけは避けたい。

 血が滲むほど拳を握りしめる一誠。フリードを激しく睨み、一歩前へ出ようとするが、木場さんがそれを止める。

 

「イッセーくん。気持ちはわかるが、キミのその想いをぶつけるのはディオドラまで取っておいた方がいい」

「おまえ、これを黙っていろって言う―――」

 

 一誠はキレて木場さんの胸ぐらをつかもうとしたが、その手を止めた。

 木場さんの瞳には怒りと憎悪に満ちていたから。

 

「ここは僕がいく。あの汚い口を止めてこよう」

 

 迫力のある歩みで一誠の横を通り過ぎる木場さん。

 木場さんは異形と化したフリードの前に立ち、聖魔剣を一振り手元に創り出す。

 

「やあやあやあ! てめぇはあの時俺をぶった斬りやがった腐れナイトさんじゃあーりませんかぁぁぁっ! てめぇのお陰で俺はこんな素敵なモデルチェンジをしちゃいましたよ! でもよ! 俺さまもだいぶ強くなったんだぜぇぇ? ディオドラの『騎士(ナイト)』2人をペロリと平らげましてね! そいつらの特性も得たんですよぉぉぉっ! 無敵超絶モンスターのフリードくんをよろしくお願いしますぜぇ、色男さんよぉぉぉっ!」

 

 木場さんは聖魔剣を構え、冷淡な声で一言だけ。

 

「君はもういない方が良い」

「調子くれてんじゃねぇぇぇぇぞぉぉぉぉっ! ……んぐっ!?」

 

 憤怒の形相のフリードは何かしようとした瞬間、突然頭を抱えて苦しみ出す。

 

 フッ!

 

 木場さんがみんなの視界から消え―――。

 

 バッ!

 

「!」

 

 刹那、フリードは腰に携えていた剣を抜き、木場さんの剣を全て防いだ。

 

「なっ!?」

「ハァ……ハァ……役目が終わったと思った俺にも最期にもう一つ役目が出来た。どうしても成し遂げなければならぬ役目が、できることなら成し遂げたい願いが」

 

 苦しそうに声を荒げながらも、集中力を途切らせず木場さんを見る。

 一体何が起こったんだ? 僕の予想では激昂したフリードが木場さんに切り刻まれると思ったのに。少なくてもあんな冷静な対処ができる精神状態には見えなかった。

 相変わらずフリードは化け物の姿だが、その雰囲気は落ち着いたものに。表情もどことなく醜さがだいぶ緩和されている。

 

「剣を下ろしてくれ、グレモリーの『騎士(ナイト)』よ。俺はおまえたちの邪魔をしない。俺もこんな所で死ぬわけにはいかないんだ……」

 

 戦闘の中止を懇願するフリード。しかしいくら様子が豹変したからと言っても化け物の姿をしたフリード。木場さんも異変を感じても信用はしていない様子。

 だけど木場さんも戦闘の意思が見えないフリードに再び斬りかかることはしない。怒りの全力を完璧に防がれて前より警戒度は増しているが、木場さんは剣を下ろした。しかしいつでも戦闘態勢に戻れるようにはしている。

 

「その剣、もしかして聖剣かい?」

 

 木場さんはフリードが持つ剣について訊いた。フリードが持つ剣には弱々しくも聖なるオーラが纏われている。木場さんもそれに気づいたのだろう。

 しかし、その弱々しい聖なるオーラが実は、木場さんの聖魔剣よりもずっと凝縮されたオーラだと言うことに気づいてるかはわからない。

 

「ああ、エクスカリバーみたいな立派な聖剣じゃないが、俺にとってはエクスカリバーよりも頼れる相棒さ。……済まなかったな、こんなことになっちまって」

 

 フリードは自分の聖剣に目を向けて語りかける。すると、フリードの聖剣はぼんやりとだが光を強めた。まるでフリードの言葉に対して、気にするなと言ってるように見えた。

 

「……いいだろう、僕たちもこんな所で時間を無駄にするわけにはいかない。さっさと僕たちの前から消えてくれ」

「感謝する……」

 

 いくら穏やかな雰囲気になったと言えどフリードはフリード。今までの悪行と、ついさっきまでの暴言から木場さんの対応は冷たい。まあ当然ちゃ当然の反応だけどね。

 フリードはその場で深々と頭を下げて感謝の意を表明する。

 

「一つだけ忠告しておく。アーシアを救出できたなら、すぐに安全な所まで逃げろ。例えディオドラを仕留めそこなったとしても。このテロに限っては、鱗片と言えど三大勢力を遥かに凌ぐ勢力の兵器が使われている」

 

 剣を鞘に納めながらフリードが僕たちに忠告する。三大勢力を遥かに凌ぐ勢力の兵器? それは一体どういうこと……?

 

「主よ、どうか俺に最期の祝福と僅かばかりの時間を……」

 

 それだけ言うと、フリードは天井を突き破って神殿から出て行った。

 いくつかの謎だけ残して三回戦目は不戦勝。正直戦うフリすらしなくてよくなって助かったよ。

 

「行こう、皆!」

 

僕たちは頷きあって、ディアドラの待つ最後の神殿へ走り出した。

 だけど、一つだけ気がかりなことがある。ディオドラの気配がまだ若干遠いのと、その道中に奇妙なものを感じる。

 まるで物のような気配、しかし間違いなく生物の気配ではある。——一体この先に何がいるのか……。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇Azazel side◆◇◆◇

 

 

 俺———アザゼルはレーティングゲームのバトルフィールドで旧魔王派の悪魔どもをある程度片付けていた。残りは、部下たちだけで十分だろう。

 俺は部下に後を任せて、とある場所へ宙を飛んで向かっていた。

 ———ファーブニルを宿した宝玉の反応がこちらに向いている。

 オーディンの力で部下と共にこちらへ転送してきてすぐに、懐にあるファーブニルの宝玉が光り輝いた。

 俺はフィールドの一番隅っこに人影を一つ確認した。その瞬間、宝玉の輝きがさらに増した。

 俺はその人影の前に降り立つ。……腰まである黒髪の小柄な処女。黒いワンピースを身にまとい、細い四肢を覗かせている。

 少女は端正(たんせい)な顔つきだが、虚ろな瞳で中央に並ぶいくつもの神殿のほうを見ていた。

 

「まさか、お前自身が出張ってくるとはな」

 

 俺は目を細めて静かに言った。

 すると少女は、俺の声に反応しこちらへ顔を向け薄く笑う。

 

「アザゼル。久しい」

「以前は老人の姿だったか? 今度は若い姿とは恐れ入る。一体何を考えている? ———オーフィス」

 

 そう、こいつこそが『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップ! 『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』———オーフィスだ! 間違いない。姿形が変わろうと、こいつから漂う不気味で言いようのないオーラはオーフィスのものだ。

 以前会った時はジジイの姿だったが、今回は黒髪少女かよ。こいつにとっては姿なんて飾りにすぎないからな、いくらでも変えられる。

 こいつ自身が出張ってくるってことは、今回の作戦はそれほどこいつにとっては重要でデカいのか?

 オーフィスが神殿の方に視線を向けているってことは、そっちに作戦の中心があるのかも知れないな。……あいつらを向かわせたのはマズかったか。

 

「見学。それだけだ」

「高みの見物か……。それにしても、ボスがひょっこり現れるなんてな。ここでお前を倒せば世界は平和か?」

 

 俺は苦笑しながら光の槍の矛先を突きつけるが、奴は首を横に振るだけ。

 

「無理。アザゼル、我を倒せない」

 

ハッキリと言ってくれるぜ。まあ、だろうさ。俺だけじゃお前を倒しきれない。それは理解している。だが、お前をここで倒せば『禍の団(カオス・ブリゲード)』に深刻な大打撃を与えるのは確実なんだよ。

 

「では二人ではどうだろうか?」

 

 バサッ。

 

 羽ばたきながら、上空から舞い降りてきたのは―――。

 

「タンニーン!」

 

 元龍王のタンニーン

 こいつもゲームフィールドの、旧魔王派の一掃作戦に参加していたんだが、どうやら一仕事を終えてこちらに向かってきたようだ。

 タンニーンは大きな眼でオーフィスを激しく睨む。

 

「せっかく若手悪魔が未来をかけて戦場に赴いているというのに、貴様が茶々を入れるというのが気にいらん! あれほど世界に興味を示さなかった貴様が今頃テロリストの親玉だと!? 何が貴様をそうさせたのだ!」

 

 俺もタンニーンの意見にうなずき、さらに問いただす。

 

「暇つぶし―――なんて今時流行らないと理由は止めてくれよな。お前の行為で既に被害が各地で出ているんだ」

 

 こいつがトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた結果―――各勢力に被害をもたらしている。死傷者も日に日に増え、もう無視できないレベルだ。

 何がこいつを突き動かし、テロリストの集団の上に立たせた? 俺は、それだけが解らなからなかった。今まで世界の動きを静観していた最強の存在が、なぜ今になって動き出したのか?

 そのオーフィスの答えは、予想外のものだった。

 

「―――静寂な世界」

 

 …………。

 一瞬、奴が何を言ったのか理解できなかった。

 

「は?」

 

 俺が再び問い返と、オーフィスは真っ直ぐこちらを見て改めて言った。

 

「故郷である次元の狭間に戻り、静観を得たい。ただそれだけ」

 

 ―――っ!

 そ、それが理由だっていうのか!? 次元の狭間。簡単に言うなら、人間界と冥界、人間界と天界の間にあるような次元の壁のことだ。世界と世界を分け隔てる境界。そこには、何も無い「無の世界」と言われている。

 オーフィスがそこから生じたのは知っていたが……。

 

「ホームシックかよと普通なら笑ってやるところだが……次元の狭間ときたか。あそこには確か―――」

「グレートレッドがいる」

 

 俺の言葉に続いてオーフィスが言う。

 なるほど、次元の狭間は現在、グレートレッドが支配している。オーフィスは奴をどうにかして次元の狭間に戻りたいってわけか

 まさか……グレートレッドを追い出すのを条件に、旧魔王派の悪魔や他の勢力の異端児に懐柔されたのか?

 その時、俺の脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。

 ―――そうか、ヴァーリ。お前の目的は!

 俺の思考が何かを出そうとしたとき、オーフィスの横に魔法陣が出現し、何者かが転移してくる。

 そこに現れたのは貴族服を着た一人の男。そいつは俺に一礼し、不敵に笑んだ。

 

「お初にお目に掛かります。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団(カオス・ブリゲード)』真なる魔王派として、堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」

 

 ……ハハハ、こいつはまた……首謀者の一人がご登場ってわけだ。

 俺は頭をポリポリとかきながら呟く。

 

「旧魔王派のアスモデウスが出てきたか」

 

 ドンッ!

 

 確認するや否や、そいつは全身から魔のオーラをほとばしらせた。色がドス黒いな。こいつもオーフィスの力を得たか。

 

「旧ではない! 真なる魔王の血族だ! カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせてもらうッ!」

 

カテレアの男か何かか。まあいい。今回の首謀者を打ち倒せるのならば、またとない機会だしな。

 

「良いぜ、受けてやる。タンニーン、お前はどうする?」

「一対一の勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視でもさせてもらおうか」

 

 こいつも根っからの武人だな。ドラゴンにしておくのが勿体無いぐらいだ。

 

「頼むぜ。さて、混沌としてきたが、俺の教え子どもは無事にディアドラの元に辿り着いている頃かな」

 

 俺が不意に口にしたことだが、オーフィスはそれを聞き、首を横に振る。

 

「ディオドラ・アスタロトにも我の蛇を渡した。あれを飲めば力が増大する。倒すのは、容易ではない」

「ハハハハハハハハハハハハッ!」

「……なぜ、笑う?」

 

 俺がいきなり爆笑したことに、怪訝に首をかしげるオーフィス。わかってねぇよ、オーフィス!

 俺は笑うのを止めて、奴に向けて告げる。

 

「蛇か。そりゃ結構なことだが、残念な事にそれだけじゃ無理だな」

「何故? 我が蛇、飲めばたちまち強大な力を得られる」

「それでも無理だ。先日のゲームじゃ、ルール上、力を完全に発揮できなかったからな」

 

 タンニーンの修業がいかなるものか、ディオドラ・アスタロトは身をもって知ることになるだろう。

 修業相手は龍王だ。元とは言え、未だに現役の伝説のドラゴンが一人の小僧を追いかけまわしたんだぞ? 手加減されていたとはいえ、普通なら死ぬ。死んで当たり前だ。

 ———だがあいつは見事耐えきった。生きて生還し、禁手に至ったんだよ!

 その意味を、おまえたちは理解できていない。

 俺はファーブニルの宝玉を取り出し、例の人工神器の短剣を構えた。

 

「さて、ファーブニル。お前も付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウスだ! いくぜ! 禁手化(バランス・ブレイク)ッッ!」

 

 次の瞬間、俺は黄金の全身鎧(プレート・アーマー)に包まれていた。

 イッセー、今のお前に制限するものは存在しない! ———思う存分暴れてみせろッ!

 と、俺がかっこよく決めようとしていた所で乱入する転移用魔方陣があった。

 その紋様は―――そうか、おまえ自ら出張るか。

 

「サーゼクス、どうして出てきた?」

 

 輝く魔方陣から現れたのは、紅髪の王——サーゼクス。

 

「今回は結果的に妹を我々大人の政治に巻き込んでしまった。私も前へ出てこなければな。いつもアザゼルばかりに任せていては悪いと感じていた。クルゼレイを説得したい。これぐらいはしなければ妹に顔向けできそうにないんでね」

「お人よしめ。……無駄になるぞ?」

「それでも現悪魔の王として直接訊きたかった」

 

 俺は構えていた槍を一度引いた。

 クルゼレイはサーゼクスを視認した途端、憤怒の表情と化す。

「サーゼクス! 忌々しき偽りの存在ッ! 直接現れてくれるとはッ! 貴様が、貴様らさえいなければ、我々は……ッ!」

 

 見ろ。これが現実だ。奴らにとって、おまえの存在は最大級に忌むべきものなんだよ。

 

「クルゼレイ。矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる。前魔王の血筋を表舞台から遠ざけ、冥界の辺境に追いやったこと、未だに私は『他の道もあったのでは?』と思ってならない。前魔王子孫の幹部たちと会談の席を設けたい。何よりも貴殿(きでん)とは現魔王アスモデウスであるファルビウムとも話して欲しいと考えている」

 

 サーゼクスの言葉は真摯だ。それゆえ、クルゼレイの感情を逆なでする。

 無駄なんだよ、サーゼクス。

 元々、こいつらにおまえたち現魔王の言葉は届かない。おまえは甘いんだ。

 

「ふざけないでもらおう! 堕天使どころか、天使とも通じ、汚れきった貴様に悪魔を語る資格などないのだ! それどころか、俺に偽物と話せというのか!? 侮辱も大概にしてもらおうッ!」

「よく言うぜ。てめえら『禍の団(カオス・ブリゲード)』には三大勢力の危険分子が仲良く集まっているじゃないか」

「手を取り合っているわけではない。利用しているのだ。忌まわしい天使と堕天使は我々悪魔が利用するだけの存在でしかない。相互理解? 和平? 悪魔以外の存在はいずれ滅ぼすべきなのだ! 我々、魔王こそが全世界の王であるべきなのだよ!オーフィスの力を利用することで俺たちは世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を創り出す! そのためには貴殿ら偽りの魔王共が邪魔なのだ!」

 

 あー、こりゃダメだ。典型的な雑魚の親玉の発想だわ。既に種として悪魔の存在自体が危ういかもしれないってのに何を考えてるんだか……。

 サーゼクスも心中複雑かもしれないが、よっぽどおまえの方が王をやっているぜ?

 旧魔王がこんなんだから、悪魔は滅びの道へ向かっていこうとしていたんだ。

 考え、認識、理想、それらの根底からの相違。両者の溝は深く、決して埋まらないだろう。

 

「クルゼレイ―――。私は悪魔という種を守りたいだけだ。民を守らなくては、種は繁栄しない。甘いと言われてもいい。私は未来ある子供たちを導く。今の冥界に戦争は必要ないのだ」

「甘いッ! 何よりも稚拙な理由だッ! 悪魔は人間の魂を奪い、地獄に誘い、そして天使と神を滅ぼすための存在だッ! もはや、話し合いは不要! 偽りと偽善の王よッ! 貴様は魔王を名乗る資格などないッ! この真なる魔王であろうクルゼレイ・アヅモデウスがおまえを滅ぼしてくれるッ!」

 

 サーゼクスは寂しげな目で説得したが、クルゼレイはそれに一切応じようとしない。

 これが―――現魔王と旧魔王の子孫、両者最後の話し合いだった。

 サーゼクスはオーフィスにも語り掛ける。

 

「オーフィス、貴殿との交渉も無駄なのだろうか?」

「我の蛇を飲み、誓いを立てるなら。もう一つ、冥界周辺に存在する次元の狭間の所有権。すべてもらう」

 

 オーフィスの出した条件は、服従と冥界の閉鎖ってことか。

 冥界を背負う魔王がそれに安易に応じるわけにはいかないよな。

 サーゼクスは点を仰ぎ瞑目(めいもく)する。次に目を開けた時、その瞳には背筋が凍る程冷たいものが映りこんでいた。

 それを確認したクルゼレイは、距離とって両手に巨大な魔力の塊をつくる。

 

「そうだ、それでいい。その方がわかりやすい」

 

 クルゼレイは最初からこうなることを望んでいた。話し合いなんて最初から通じるわけがなかったのさ。それでもおまえは話したかったんだろうな。

 自分の思いを。冥界への思いを。

 

「クルゼレイ、私は魔王として今の冥界に敵対する者を排除する」

「貴様が魔王を語るなッ!」

 

 クルゼレイが巨大な魔力を両手から掃射する。サーゼクスは動じず、手のひらに生まれた魔力を無数の小さな球体に変えて、前方に撃ちだした。

 

 キュパ! ギュゥゥゥンッ!

 

 クルゼレイの攻撃はサーゼクスの魔力に触れた途端、削り取られたかのように消滅していく。

 サーゼクスの打ち出した小さな球体は意思を持つかのように宙を縦横無尽に動き回り、クルゼレイの攻撃を打ち消していく。消しきれない攻撃はサーゼクス自信が避けたり、防御障壁を創り出したりで防いでいく。

 その球体の一つが、クルゼレイの口内へ入り込む。

 

 ドウッ!

 

 クルゼレイの腹部が一度だけ膨れ上がり、それが収まると同時に奴の魔力が一気に減少していく! サーゼクスの奴、体内の蛇を取り払ったのか?

 

「『滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステイクトン)』。腹に入っていたオーフィスの『蛇』を消滅させてもらった。これで絶大な力は振るえないだろう」

 

 パワーアップの源である蛇を消され、余裕の表情が消えたクルゼレイ。明らかな焦りの色が見えてくる。

 サーゼクスの攻撃、本物を初めて見た。サーゼクスが魔王に選ばれた理由の一つ、圧倒的なまでの消滅の魔力。

 触れたものを全て消す。塵芥すら残さない、絶対的な滅び。

 ものは小さいのにとんでもない威力だ。絶大な滅びの力を溢れさせず、巨大にもさせず、最小サイズに留め、それを複数同時に手足のように操る。

 緻密なコントロールと並外れた才覚が必要な技術。それをサーゼクスは有している。

 

「おのれ! 貴様といい、ヴァーリといい、なぜこうも『ルシファー』を名乗る者は恵まれた力を持っていながら、我々と相いれないッ!?」

 

 クルゼレイは毒づきながらも戦いを諦めようとはしなかったが。

 

 ギュパンッ!

 

 球体の一つがクルゼレイの腹部に触れ、腹を丸ごと削り取った。滅びの力は小さくても威力は十分。触れた瞬間、周囲の物を根こそぎ消していく。

 

「……な、なぜ……本物が偽物に負けねばならない……?」

 

 口から血を吐き出しながら、無念の血涙を流すクルゼレイ。

 サーゼクスは瞑目し、手をゆっくりとよけに()ぐ。

 

 バギンッ!

 

 その時、頭上から何かが割れる音が聴こえてきた。サーゼクスも攻撃の手を止める。

 誰もが天を見上げると、なんと結界から巨大な剣先のようなものが生えてきたのだ。さらにその空間の傷跡から白い無機質な手が結界を無理やりこじ開ける。オーディンのジジイでも打ち破れなかったこの神滅具の結界を力技でだと!?

 

「……マジかよ」

 

 その結界の穴からはなんと、無駄に神々しい光と共に巨大ロボットが舞い降りてきた。




 次回、誇銅くんの禁手化公開……予定ッ!
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