翌日、兵藤家の地下一階の大広間に僕たちは集められた。
リアス眷属に加え、イリナさんにアザゼル総督、バラキエルさん、シトリー眷属。そして、ヴァーリさんとそのお仲間たち。統一性のない異様な面々。なんていうか、酒場に集められた傭兵みたいな感じだね。
それにしても、豪邸建てただけじゃなくて地下までこんなことしてマズイよ。それに地下一階ってことは地下二階以降もありそうだし。天照様が単独でこのことを知ったら家が全焼じゃ済まないよ。
オーディン様とヴィロットさんは別室で本国と連絡を取り合っている。
ロキが日本にやって来たことはやっぱりあっちでも大問題になっているらしい。
その間に、僕たちでロキ対策について話し合いが始まった。
今回の件は、冥界の魔王だけでなく、堕天使側と天界にも伝わっている。そのうえで、オーディン様の会談を成就させるために三大勢力が協力して守ることとなった。
協力と言っても、ここにいるメンバーだけで力を合わせてなんとかしろと言う無茶ぶりだけどね。
その中で一番警戒されてるのは、ロキよりも引き連れていた巨大な狼、フェンリルの方。
生み出したロキをもしのぐ能力を有した本当の怪物。封じられる前の二天龍に匹敵するほどの力を持っていると言っていた。アザゼル総督も冥界で相手してくれた龍たちでも単独では勝てないとか。
あの一誠が暴走状態になった『
それでもロキとの一戦に残りメンバーで死力を尽くせば勝機があるみたいだが、犠牲は
何名かの戦死者は確実だと宣言された。
加勢もどの勢力も英雄派の神器所有者の襲撃が断続しており、各勢力が混乱しているらしい。なので、各拠点の警戒保持のため、戦力が割けないとか。
ぶっちゃけ、どれだけ戦死者が出ても僕は一向にかまわない。それで悪魔が弱るなら個人的に願ったりかなったりだ。それに、一人だけなら連れてロキとフェンリルから逃げ切れる自信はある!
そもそも、犠牲を出せば❝勝てる❞という結論自体僕は間違ってると思う。僅かな攻防ではあるがヴィロットさんとの戦いでロキは悪魔で言うテクニックタイプと見た。
前提としてアザゼル総督の考察ではロキの神としてのパワーを計算して勝率を割り出してるみたいだけど、それがパワー寄りではなくテクニック寄りなら
数と手数で力の差に対抗するのに対して相手は、テクニックの削りから力押しの潰しができる。そうなればこちらの策が一方的に
それでも、できるだけ犠牲が出ない勝つ方法を探ると。なんか意外にもそれなりの対抗策があるみたいで作戦会議が進められている。
「まず先に。ヴァーリ、俺たちと協力する理由は?」
ホワイトボードの前に立ったアザゼル総督が疑問をヴァーリさんにぶつける。
今まで敵対していた相手が急に協力すると言い出してくれば警戒するのは当然。
ヴァーリさんは不敵に
「ロキとフェンリルと戦ってみたいだけだ。
それを聞いてアザゼル総督は
「まあ、不服だな。だが、戦力として欲しいのは確かだ。今は英雄派のテロの影響で各勢力ともこちらに戦力を割けない状況だ。英雄派の行動とおまえの行動が繋がってるって見方もあるが……おまえの性格上、英雄派と行動を共にするわけないか」
「ああ、彼らとは基本的にお互い干渉しない事になっている。俺はそちらと組まなくてもロキとフェンリルと戦うつもりだ。組まない場合は、そちらを巻き込んででも戦闘に介入する」
介入した場合即座に排除されるのが目に見える。しかも片手間でいとも簡単に。
向こうはこちらの足元を見て脅してるつもりなんだろうけど、僕には少し
それがまた効いてる様子がまた滑稽に見える。
「サーゼクスは悩んでいる様子だったが、旧魔王たちの生き残りであるおまえからの申し出を
「納得できないことのほうが多いけれどね」
リアスさんがアザゼル総督の意見に言う。しかし、文句があっても魔王の意見だけに強く言えないっぽい。
ソーナさんも目を閉じて沈黙の了承。たぶん不満はあるんだろうけど、言えることがないから黙ってるとかなんだろうね。
まあ、結局のところ魔王が決定したなら下っ端の僕たちは従うしかない。この人たちが何か変な気を起こしても、ソーナさんたち辺りが適切な処置をしてくれるだろう。リアスさんたちやアザゼル総督? 期待してない。
他の眷属たちもリアスさんが了承したからには、渋々だが応じるしかないと言った様子。
アザゼル総督はヴァーリさんをじっと見る。
「怪しい行動をとれば、誰でもおまえを刺せることにしておけば問題ないだろうな」
「そんなことをするつもりは毛頭ないが、かかってくるならば、ただでは刺されないさ」
アザゼル総督の言葉にヴァーリさんは苦笑するだけ。
「……まあ、ヴァーリに関しては
「ロキとフェンリルの対策を訊く?」
アザゼル総督がリアスさんの言葉にうなずく。
「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」
「誰ですか?」
一誠が挙手して訊く。
「
———? 龍王? ちょっと聞きなれない単語が出て来た。
「まあ、順当だが、ミドガルズオルムは俺たちの声に応えるだろうか?」
「二天龍、龍王―――ファーブニルの力、ヴリトラの力、タンニーンの力で
ヴァーリさんの問いにアザゼルアザゼル総督が答える。
なるほど、そんな方法があるのか。やっぱり幅広く他勢力に手を出してるだけあって知識は広い。まあ、あまり深くはないだろうけども。……一言余計かな?
「もしかして、俺もですか? 正直、大物だらけで気が引けるんですけど」
匙さんが言動とは裏腹に物怖じず意見を言う。そう言えば、匙さんの神器はヴリトラが封印されていたっけ。
「まあ、要素の一つとして来てもらうだけだ。大方のことは俺たちや二天龍に任せろ。とりあえず、タンニーンと連絡が付くまで待っていてくれ。俺はシェハザムと対策について話してくる。おまえらはそれまで待機。バラキエル、付いて来てくれ」
「了解した」
アザゼル総督とバラキエルさんはそう言って大広間から出ていく。
残されたのはリアス眷属とソーナ眷属、そしてヴァーリさんたち。
「赤龍帝!」
古い中国の鎧のようなものを着た男性が手を上げる。
「な、なんだよ」
「この下にある屋内プールに入っていいかい?」
おそるおそる訊いた一誠に男性は笑顔で言った。
この質問は全くの予想外だったよ。一誠も同じようで言葉が出ない。
リアスさんがずいっと前に出て、男性に指を突き付ける。
「ちょっと。ここは私と赤龍帝である兵藤一誠の家よ。勝手な振る舞いは許さないわ」
あなたたちは日本で勝手な振る舞いをしてますけどね。
一誠の家は既にリアスさんの家でもあることになってるんだ……。まあ、これだけ豪華な改築をしたのはリアスさんだろうし、そういう意味では権利はある。ただ……本当に一誠の両親の了承を得たの? そもそもまともな手段で、催眠術とかで相手の意思を無視して強引に押し通したりしたんじゃないよね? ……いや、おそらくそうなんだろう。
まあ、結局のところやっちゃったものは今更仕方ないけども。
「まーまー、いいじゃねぇか、スイッチ姫―——」
ベチンッ!
リアスさんが男性の頭を激しく叩いた。おー、ヴィロットさんの頭突きには敵わないけどいい音したよ。
男性は頭を押さえながら涙目で訴える。
「いってぇぇぇぇっ! 何すんだぃ! スイッチ姫!」
「あなたね! あなたのせいで私は……冥界では変な名称で呼ばれているのよ!」
男性と同じくリアスさんも涙目だ。泣きながら激怒してる。
何となく察したよ。おそらく、リアスさんがスイッチ姫と呼ばれる原因はあの人なんだ。アザゼル総督が言い出したと思ったけどどうやら違うみたいだね。———もしくは、それにアザゼル総督が面白半分で乗ったか。
「いいじゃねぇか。おっぱいドラゴン、俺も見てるぜ。光栄だぜぃ、俺の名付けたのが使われているんだからさ」
男性はカラカラと楽しそうに笑う。皮肉とかでなく、本当に楽しんでるみたいだね。
「うぬぬぬぬ! どうしてくれましょうか……ッ!」
その態度が気に入らないリアスさんは、全身をわなわなと震えさせた。紅オーラを纏ってはいるが、危険はなさそうだね。
「こ、これが失われた最後のエクスカリバーなんですね! はー、すごーい」
「ええ。ヴァーリが独自の情報を得まして、私の家に伝わる伝承と照らし合わせて、見つけて来たのですよ。場所は秘密です」
向こうではイリナさんとメガネの男性が聖剣について話していた。こういう時でも誰とでも打ち解けられる性格、尊敬できる美徳と僕は思うよ。ただ、趣味は合いそうもないけど。
横で木場さんとゼノヴィアさんが警戒しながらも、二人のやり取りを聞いている様子。警戒はしても二人とも聖剣を使う剣士、伝説の聖剣が気になるんだろうね。
視線を変えると、もう一組のやり取りが目に映る。
「…………」
「……にゃん」
搭城さんが警戒しながら黒い着物の女性を
———二人ともどことなく似てる気がする……。なんというか、見た目とか気配とかが。それに二人とも同じ元猫ショウの悪魔だし。
そこへ一誠が近づき、両者の間に入った。
「小猫ちゃんは連れて行かせないぞ」
一誠は睨みを利かせて真っすぐにその女性を見つめて言った。
搭城さんも一誠の手を握り、背中に隠れる。珍しい、搭城さんがあからさまに苦手意識を見せるなんて。
女性は一瞬キョトンとしていたが、すぐに悪戯な笑顔で一誠をジロジロ見る。
「へー。なんだか、最初に合った頃よりお顔が凛々しくなっているにゃん。禁手に至るとそういう風に変わるのかしらん。それとも女の子を知ったのかにゃ?」
一誠にウインクする女性。それにより一誠の顔がだんだん緩んでいく。これだけでもう変態な妄想に思考がズレたことがまるわかりだ。
自分でも思考がズレたことに気づいたのか頭を振って態度を戻した。
女性はそんな一誠の顔をペロッと舐めた。
不意の出来事に驚く一誠は一歩後ずさりする。
「うーん。この味はまだ子供の味かにゃ?」
「わ、悪かったな!」
言われた一誠は急にキレ気味な口調で返す。
いや、そんなキレるようなことじゃないと思うし、一誠は普段の行いからキレちゃいけないと思うよ?
「ねねね、一つ良いかにゃ?」
「んだよ……?」
「私と子供作ってみない?」
「…………へ?」
突然の言葉に困惑する一誠だが、女性はかまわずに話を続ける。
「私ね、ドラゴンの子が欲しいの。特別強いドラゴンの子。ヴァーリに頼んだけど、断られちゃって。だったら、あんたしかいないし。人間ベースのドラゴンって、貴重にゃん。しかも二天龍なら遺伝子的にも十分だし。子供は残したいんだよねー。だから、遺伝子提供者が欲しいにゃん」
いや、その理論はちょっとおかしいように思うよ?
ドラゴンの遺伝子が欲しいと言っても、ドラゴンなのは一誠の神器であって一誠は元人間の転生悪魔に過ぎない。腕の一本がドラゴンだとしても、その程度じゃ遺伝子は悪魔と人間と妖怪の遺伝子に阻まれて全く遺伝しないと思うよ。
それでも女性はさらに続ける。
「にゃはは、今ならお買い得にゃん。妊娠するまでの関係で良いからどうかにゃ?」
それを聞いて一瞬顔色を変えた一誠だが、後ろで搭城さんが睨んでるからか言葉はでない。きっと、搭城さんが睨んでなかったら二つ返事で了承したんだろうな。
まあ、あの人の目的から考えると、お互い損をしなかったと考えるべきか。一誠があの人に手を出したら他の女性関係が狂うのは目に見えてるしね。
「……姉さまに先輩の……ごにょごにょ……は渡しません」
この位置からじゃあの小声は聞き取れないけど、あの人の反応を見る限りあっちには通じたいみたい。逆に一誠には聞こえてないし通じてもいないみたいだ。
女性はクスリと笑い、一誠と搭城さんに手を振ってヴァーリさんたちの方へ行った。
———ん? お姉さま? もしかして、あの人って本部さんと神無さんが言ってた黒歌?
◆◇◆◇◆◇
アザゼル総督が戻って来て、一誠と匙さんとヴァーリさんは転移魔法陣で兵藤家からどこかへ転移した。それによりやることがなくなった僕たちは解散となった。だが、匙さんやヴァーリさんや一誠たちの帰りを待つため殆どの人がその場に残る。
長居したい場所じゃないので僕は一足先においとまさせてもらうことに。その際、ギャスパーくんにも先に帰ることを伝えると帰ろうか残ろうかすごく迷っていた。今のギャスパーくんはある意味僕よりも微妙な立ち位置にいるからね。
兵藤家の地下から先に一人で帰ろうとしていると道中でヴィロットさんにばったり会った。
「あ、もう終わったの?」
僕の姿を見たヴィロットさんは僕にそう訊ねた。
「ええ、まあ一応。話はとりあえず終わりましたけど、
「このタイミングで
「はい、確かそんな名前のドラゴンの意思だけを呼び出すとか」
ヴィロットさんはこの状況ならと言っていたから、おそらく一誠たちは何かしらのロキ対策をもって戻ってくるのだろう。これで力の水増しだったら敗率は九割維持したまま。
「そっ。もう終わったなら明日でいっか。急ぐ要件でもないし」
ヴィロットさんは体を反転させて来た道を戻って行く。
ロキとの戦いで少しだけ疑問に思ったことがある。ヴィロットさんならもしかして僕の疑問を解消してくれるかもしれない。
そう思ってヴィロットさんに話しかけた。
「あの、ヴィロットさん。少しいいですか?」
「なに?」
「ロキはなんで日本まで来てオーディン様を襲ったんでしょうか?」
「はぁ? そんなのロキ様が自分の口で言ってたじゃないの。オーディン様の独断が気に入らないからって」
「いえ、そういうことではないんです。あの時ロキの声に怒りだけでなく、少しだけ悲しさが混じってる感じがしました。だから、もしかして本当はもう少しだけ違う理由があるかもと思いまして」
僕がそう言うとヴィロットさんの目の色が変わった。さっきまで一切の関心がなかった目に強い関心を感じる。
その目に睨まれ少しばかり無音の時間が流れた。———すると、その緊張を解き放つようにある音が鳴り響く。
グゥ~~。
「……その話はランチしながらでいいかしら? ちょっとお腹すいちゃって……」
「ええ、だいじょうぶです」
お腹の音を聞かれたヴィロットさんは恥ずかしそうにうつむきながら言った。
でもこうやってちょっとしたことで恥ずかしがるところを見ると、ヴィロットさんも僕たちと同じなんだと思ってちょっと安心する。
僕とヴィロットさんは町中にあるとあるイタリアンファミレスへ行った。そう言えば初めて会った時もパスタが食べたいって言ってたし、もしかしてヴィロットさんはイタリア出身なのかな?
そこでヴィロットさんはランチメニューに加えて、ピザと赤ワインまで注文した。結構大食いなんですね。
「昼間っからお酒飲んで大丈夫なんですか?」
「このくらいなら大丈夫よ。酔っぱらうほど飲まなければ平気」
まあワインもグラス一杯だけなら大丈夫だろう。基本的に北欧のトップも冥界と同じくゆるそうだし。
「それで話に戻るけど、なんでロキ様がオーディン様を襲った理由なんて訊いたの。まずその理由を教えてちょうだい」
来た料理を食べながらヴィロットさんが訊く。
「イマイチ自信が持てないんですけど、ロキから凄まじい敵意を感じた後も、同時にとてもない覚悟を感じました。その姿が僕の尊敬するある人の昔になんとなく似ているように見えたんです。———裏切り者として名を残そうとも、我が子と民の未来のため自らを生贄に捧げようとした人に」
自信が持てないのは本当だし、その当時はまだ相手や周りの気配を
僕の話を聞いたヴィロットさんは真剣な眼差しで僕を見つめると、食事の手を止めて何かを考え始めた。
しばらくの沈黙のあと、ヴィロットさんは言う。
「オーディン様はあなたたちを信頼してるけど、ロキ様の介入は北欧の問題。三大勢力のテロ勢力が絡んでないのならむしろ部外者が関わらせてはいけない事案。まあ、オーディン様すらそのことを理解してないから仕方ないんだけどね」
あきれながら巻いたパスタを食べるヴィロットさん。
「ロキ様のこれからの立ち回り次第だけど、これでオーディン様の僅かな優勢も逆転されかねないわ」
「それってマズイことじゃないんですか?」
聞く限りではそこそこマズイことじゃないかと僕は思う。だって、主神であるオーディン様の北欧の地位が危なくなるってことは、それだけ北欧神話が揺らぐということ。なのにヴィロットさんはどうでもいいことのように話している。
「別に。私自身どちらの派閥に所属してるってわけじゃないけど、今のオーディン様の考えには正直不満ね。だからどっちかって言うとロキ様派かしら?」
本当に北欧の内部問題に興味がなさそうだ。北欧最強と呼ばれ、オーディン様の付き人と言う高そうな地位にいるのに。
「それでもオーディン様の付き人してるんですか」
「仕事だからね」
仕事だからか……。深手を負ってまで身を
「それじゃあ、ヴィロットさんはオーディン様よりもロキの方が北欧のトップにふさわしいと思ってるんですか?」
「そうは思わないわね。オーディン様の片目と引き換えに得た知識は北欧の発展に大きく貢献した。それにより北欧神話は三大勢力の
話してみるとヴィロットさんはオーディン様のことを認めてはいるみたいだ。
それとロキは悪神と言われるだけあって悪評の方が目立っているか。幸せを司る神がいればその反対も存在するのはある意味当然のこと。
福と厄、両方が程よく揃っていることが最も幸せな状態。日本神の皆さんがよく言っていた言葉だ。
「まあ、北欧は神至上主義の神話体系だから、悪魔や天使や堕天使も大っぴらに侵攻できなかったってのが正しいんでしょうけど。逆にオーディン様が神格を持たない魔術師だったらそれを奪おうと侵略してきたでしょうけどね」
それはかなりありえそうな話だね。大勢力でもなく、自分たちに対して好意的でないただの人間を野放しにするとは思い難い。おそらくなんとしても懐柔させるか、もしくは殺してでも奪い取ろうとしたと思う。
日本は神格を持つ神と神格を持たない妖怪が同格として協力して日本を治めている。だから侮られている可能性がある。
ヴィロットさんは北欧の厳しい問題を教えてくれた。しかし、それは僕の質問の答えにはなっていない。
「なるほど、よくわかりました。では、そろそろ教えてもらえませんか? ロキがオーディン様を襲った理由を」
ヴィロットさんは食事を終えてデザートに手を付け始めたのでそろそろ本題に入ってもらいたいと思い、多少強引だとは思ったけど直接訊くことに。
「簡単なことよ。ロキ様は三大勢力を同盟を組むべきではない悪と考えてるからよ」
デザートのプリンを一口食べてそう答えた。その答えに僕は小さな衝撃を受けた。
「あら? 意外と驚かないのね」
「……正直なところ結構驚いてます。僕が知ってる別神話勢力の人たちの殆どが三大勢力に対していい印象を持っていましたので。反対する人たちもだいたいが平和が気に入らないとかでしたので、堂々と悪なんて言う人は初めてです」
悪魔や天使や堕天使は日本でも僕が知ってるだけでいくつかの問題を起こしている。それはどれも小さなものではない。それに対して三大勢力は迷惑をかけたことをちっとも問題視してるように見えない。
そんな人たちが平和を
そんな中で三大勢力を良しと思わない人がいてくれるのはなんだかうれしい。
「へー、ちょっと意外ね。情愛が深いと言われるグレモリーの眷属だから悪魔に対して良い印象しかないと思ったわ」
「僕も転生したての時はそう思ってました。でも、僕はあの人が情愛が深いとはもう思ってません」
最初は僕もリアスさんは情愛の深い人だと信じていた。一誠を助けてくれて、僕を家族として受け入れてくれると言ってくれた時は本当にうれしかったよ。
他のみんなもリアスさんをとっても信頼してる様子だったし、学校内でもリアスさんの評判はとてもよかった。だからそんなリアスさんに恩返しができるように僕はできることを一生懸命頑張ろうと思った。
だけど、いくら頑張ってもリアスさんは声すらかけてくれない。なのに一誠にはどんどん激励を送っていた。それを当時僕は僕の頑張りが足りないから、リアスさんからの愛の鞭だと思っていたよ。———あの日、僕を見捨てて去っていくリアスさんを見るまでは。
あの日から、僕はリアスさんを信じることをやめた。
「……情愛が深いと言うのも今の悪魔事情を少しでもきちんと知ればどういう意味かはだいたい察しはつくわ。まあ、もともと転生でない悪魔がそう言いだして広まっただけだしね」
憐れむような目で僕を見るヴィロットさん。できればその目はやめてほしい。
グレモリーは情愛が深いと言うのは純潔悪魔が言い出したことだったのか。考えてみればそうだよね、リアスさんは他の眷属に対しては情愛が深い部分を見せている。おそらく仲間の純潔悪魔内でもその優しさが発揮されていたのだろう。
リアスさんを知る人たちはリアスさんの情愛の深い面ばかり目にする。そこにはリアスさんが情愛をかけるに値する人たちばかりだからね。
「まあ、よく知らず悪魔に転生してしまった僕も
「元人間の転生悪魔はだいたいそうよ。人外世界の闇を知らぬまま悪魔の甘い言葉に騙される」
「でも、まあ、悪いことばかりじゃありませんでしたよ。おかげで本当に信頼できる人と出会えることもできましたし、ポジティブに甘んじます」
「……強い子ね」
ヴィロットさんがポロッとこぼしたその言葉がなんだか照れくさい。
僕の境遇を話して同情されることはあった。だけど、強い子ねなんて言われたのは初めてだよ。思わず口元がにやけてしまう。
「話を戻すけど、ロキ様がわざわざ日本まで来てオーディン様の邪魔をしたのはだいたいそんなところだと思うわ。まあ、ロキ様とは直接関わりはないし、ロキ様が同盟を拒む理由も北欧での会談時の主張で勝手に考察しただけだからわからないけどね」
その情報だけでも御の字だ。ロキの行動原理は今まで戦った人たちとは違う。少なくとも自身の欲望によって大事件を起こしてきた今までの下衆な敵とは違うだろう。
ヴィロットさんの考察が正しいと仮定すると、今までの敵のように慢心したりこちら煽ったりはしないだろうね。今までリアス眷属が勝てて来たのは相手の慢心や油断が必須だったし。
その流れで僕はもう一つヴィロットさんに質問してみた。
「ヴィロットさん自身は三大勢力に関してどう思ってますか?」
「一見三大勢力を世界を平和にするために動いてるように見えるけど、それに勝るとも劣らない程の多大な迷惑を今も昔も世界に行ってる。これからどうなるかわからないけど、現時点ではロキ様が正しいと私は思ってるわ」
うん、僕もそう思う。もしもこのまま友好的に同盟をトントン拍子に進めて行ったらロクなことにならないと思うよ。日本みたいにいつの間にか悪魔が領地と人材を私物化しに来たり。
話してる間にデザートも食べ終えたヴィロットさんが席を立つ。
「お昼時にあんまり長いしたら他のお客に迷惑ね。そろそろ出ましょ」
そう言って僕たちは店を出た。お会計の時、ヴィロットさんは
店を出た僕たちはしばらくその場を一緒にぶらぶら歩く。ヴィロットさんがいくつか見に行きたいところがあると言ったので、学校近くのデパートへ案内した。
外国人のヴィロットさんは僕たちにとって普通の物でも珍しかったりして、ちょっとしたガイド気分を味わたよ。
少しだけ町中を案内した後、ヴィロットさんを兵藤家へ送る。
「それでは僕はこっちなので。また明日会いましょう」
そう言って僕は兵藤家に背を向けて自分の家へ帰ろうとした。その時、ヴィロットさんが僕に言った。
「……ありがとね」
「え」
僕は足を止めて振り返る。え、ありがとうって?
僕が振り返ると、ヴィロットさんが僕の方に歩いてくる。そして、手が届く位置まで近づき言った。
「ロキ様のことをわかろうとしてくれて。悪だと決めつけないでくれて」
そう言ってヴィロットさんは僕の方へ近づき僕の頭をポンと叩くと、自然体な笑顔で僕を見た。一瞬だけど、日本神や日本妖怪の皆さんに受け入れられた時のような温かさを感じたよ。
そう言えば昔、僕を可愛がってくれた近所のお姉ちゃんもよくこうやって頭をポンっとしてくれたっけ。そのお姉ちゃんは結婚して引っ越しちゃったけど、元気にしてるかな?
その時の記憶が鮮明によみがえり、危うくヴィロットさんの事をお姉ちゃんって呼びそうになってしまったのは内緒で。だって
その後、ヴィロットさんとはその場で別れて僕は帰路へとついた。