無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

35 / 86
未知な別敵の横槍

 久しぶりにのびのびと鍛錬に打ち込めたので予定より遅くなってしまった。

 買い物は罪千さんにメモを渡して頼んであるから大丈夫だけど、ご飯の支度のために早く帰らないと。

 一緒に住んでるから忘れてしまいそうだけども罪千さんはリヴァイアサン。本人は必死に抑え込んでくれてるけど、お腹を空かせるのは非常にまずい。

 四十分ほど走り駒王町まで戻って来ると、意外な人物に出会った。

 

「あれ? 匙さん、アザゼル総督のトレーニングはもう終わったんですか?」

 

 朝にアザゼル総督に無理やり連れていかれた匙さんだった。かなり疲れてる様子だけど、それ以外には特に変わった様子はない。

 てっきり時間ギリギリまで解放されないんじゃないと思ったけど随分早いな。

 僕が訊くと、匙さんは言った。

 

「ああ、あれな、逃げ出してきた」

 

 アザゼル総督のトレーニングにしては早いと思ったらまさか逃げ出して来てたとは予想外だ。

 

「……え、逃げ出してきた?」

 

 だけどトレーニングがキツイとかの理由で匙さんが逃げ出すとは思えない、何か他に理由があるのだろう。

 匙さんの返答にびっくりしていると、僕が疑問を訊く前に匙さんが答えてくれた。

 

「びっくりしたぜ、なんせ他のヴリトラ系統の神器を俺にくっつけるって言いだしたんだからな」

 

 話を聞いていくと、ヴリトラは退治され神器に封じ込まれる時、何重にも魂を分けられてしまったらしい。だからヴリトラ系統の神器所有者は多い。

 匙さんの持つ『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』の他に、『邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)』『漆黒の領域(デリート・フィールド)』『龍の牢獄(シャドウ・プリズン)』の四種類。グリゴリが保管していたその残る三種類すべてを匙さんに埋め込もうとしたらしい。

 一誠との戦いでヴリトラの意識が出現したから、すべての神器が統合されるとアザゼル総督が踏んで。だけどそれを知った匙さんはそれを拒否したのだ。

 

「誇銅ならわかるだろう? 陰遁とヴリトラの殺気は相性が悪い。俺は神器と言う利点を捨ててこの力を身につけることを選んだんだ。だからヴリトラの神器を摘出されるならいいが、強化されるのは困る」

 

 神器に対して詳しくはないけど、意思を持つ神器を統合すればその意思が強くなるのは僕でも予想がつく。そして匙さんのヴリトラ系統の神器は現状でも強い殺気を放っている。

 自分自身が出してしまう殺気ならば訓練次第でいくらでも隠せる。が、自分が持つ道具からの殺気は非常に厄介。抑える手段もそうだが、自分とは違う気配のため隠しにくく目立つ。

 力を吸い取ったり邪気を送り込む応用性はいいが、身を隠す陰遁使いにとってこれほど相性の悪い神器はない。殺気で自分の位置、もしくは隠れているのがバレてしまう。

 

「そうですね、現状でも匙さんの神器は殺気に近い気配を放ってますからね。四種類の神器を統合すればそれ相応のパワーアップは可能でしょうけど、陰の技術は捨てざるを得なくなるでしょう」

「それによ……神器って所有者が死ななきゃ取り出すなんて不可能だろ? だったらさ、その神器ってもしかしたら昔堕天使に殺されて抜かれたものかもしれないじゃん。流石にそれを背負えってのはちょっと俺には重すぎる」

 

 匙さんのその言葉に僕は衝撃を受けた。まさか堕天使から神器を受け取ることを、前の持ち主の命を背負うことを結びつけられるなんて。

 僕が匙さんの立場でも堕天使から神器は受け取らなかっただろうけど、果たして僕はその元の命を背負うことに意識が向いただろうか? いや、おそらく日本側の身として堕天使の力を借りたくないと思っただけだろう。

 年の差分僕の方が前を歩いていたと思っていた。だけど、明確な目標に向かってがむしゃらに走ってる分匙さんの方が高い所を走っていたようだ。

 

「匙さんって、立派ですね」

「どうしたんだよ急に、照れるじゃねぇかよ」

 

 僕がそう言うと、匙さんは顔を逸らして気恥ずかしそうにしていた。

 

「誰かの夢の為に頑張れて、それでいて自分の夢にも邁進できる。さらに他人の命を背負うことをしっかりと考えられる。そういう人ってそうそういません、匙さんは本当に立派な人だと思いますよ」

「そ、そっか? いや~まいったな」

 

 匙さんはさらに顔を赤くさせて汗をかきだす。僕は自分の気持ちを正直に語っただけ、お世辞を言ったつもり一切ない。

 

「そこまで言われちゃ失望させるわけにはいかないな。よし! これからも先生目指して勉強もトレーニングも頑張っていくぜ!」

「はは、頑張ってくださいね」

 

 会った時の疲れた表情がすっかり吹き飛んだように元気に宣言する匙さん。何がともあれ元気になってよかったよ。

 意図してない部分で匙さんの心に火をつけてしまったようだ。しかし、これが原因で張り切りすぎてロキ戦で無茶なことをしないかも少し心配になってしまったような。

 まあ、妖怪の忍術の修行を受けてる匙さんなら大丈夫だろう。

 日本妖怪は力より技量、元々弱い力は諦め気味で冷静さや安定性を重視する。ここを()くようなら国木田さんも認めないだろうし。

 

「あーでもそれなら冥界での堕天使領に連れていかれたのは絶好のパワーアップできる機会だったのにな! 惜しいことした」

 

 ———ん? 今さっきヴリトラの神器はいらないって言ってたのに。それなのに今はパワーアップできなかったことを後悔してる様子……?

 

「でも、今、ヴリトラの神器はいらないって」

 

 ちょっと前に言ったことをいきなり否定しかと思ったが。

 

「ああ違う違う、そういう意味じゃない。ある意味絶好のトレーニングチャンスだと思ったんだ」

 

 僕の怪訝(けげん)な目線に気づいた匙さんは手を振って僕の考えてることを否定してくれた。そうだよね、今言ったことをいきなり否定したりなんてしないよね。

 

「実際今までそういう理由で冥界で逃げ回ってたしな。けどな……」

 

 そこまで言うと、腕を組んで暗い表情を見せた。

 

「堕天使から逃げ続けるのはいい陰遁の練習になると思ったまではよかったんだけど、俺の実力不足で結果この有様。国木田先輩が気を利かせて渡してくれた転移符がなかったらアザゼル先生に強制的にヴリトラの神器を埋め込まれるところだったぜ。まあ、もう少し粘ってみてもよかったかもしれないけどな」

 

 あの時国木田先輩が投げたのは転移用のチラシだったのか。もしもの時、匙さんが逃げられるようにと思って国木田さんの配慮だったんだね。

 アザゼル総督は時々こちらのことを考えず強引に事を進めるから、特に神器に関しては悪い方向に研究者気質だし。

 アザゼル総督も味方に対しては寛容があるとは思うけど、今回はことが事だけに匙さんの考えを優先してくれるか怪しい部分もあるしね。

 

「聞いたぜ、誇銅はドラゴン相手に何日も逃げ回ったんだってな」

「ええ、まあ」

「それを聞いて俺、正直誇銅に嫉妬した。一誠みたいに強力な神器差はもう仕方ないと諦めた。だから、そこは自分の技量でカバーしようって。だけど、その技量すら近くにこんな圧倒的な奴がいるなんて思ったんだ。同年代でここまで差を付けられるもんなのかって。これが本当の才能の差ってやつなんだって」

 

 すいません、もう同年代じゃないです。年齢だけは高校卒業してます。

 それに匙さんと僕では隠れるのも条件が違う。僕は山と言う範囲いっぱいでドラゴン一匹を相手に、匙さんは研究所ないから堕天使総督ともしくは数名の堕天使相手。僕の条件の方がゆるい。

 もしも匙さんが僕のと同じ条件ならば同じように逃げ切れたと思う。

 

「僕は始めるのが匙さんより早かっただけですよ。それに、先生も環境も全然違いますし。焦らずじっくり自分の力として培っていけばいいと思いますよ?」

 

 日常生活をしながら修行したであろう匙さん、日常の大部分を修行に費やせた僕。さらに二年と言う時間が圧倒的と言わずとも大きな差となるのは必然。

 さらに、匙さんが得意とする陰の特性は隠匿、僕が得意とする火の特性は焼失。お互い違う分野なのだから比べられるものではない。

 だけど匙さんの気持ちもわかる、僕だって神滅具なんて希少なものを持つ一誠と何も持ってなかった自分を比べていた。帰って来た後だって全く価値が違うものを持っておきながらまだ自分と一誠を比べていたからね。

 

「でも、それでも気にしてしまうのなら、いつでも僕に挑戦しに来てください。僕だって匙さんにそこまで言われて失望させるわけにはいきません! 少し前を歩く者として、大きく立ちはだかって見せます!」

 

 そう宣言すると、匙さんの目が点になる。だけど、すぐに気合の入ったいい表情に変わった。

 

「オウ! その時は胸を借りさせてもらうつもりでいくぜ! サンキュー誇銅」

 

 そう言って元気よく駆けていった。最初はあんなに疲れた表情をしていたのに、すっかり気合が入って元気になったようだ。

 どうやら、僕でも少しは人を励ますことができたようだね。だけど、修行中の身でちょっと大きなこと言っちゃったな。僕もこれからも鍛錬を頑張っていかないとね。

 おっと、ちょっと時間を食っちゃった。少し急ごう、ここから家までは全力ダッシュだ!

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「よう、爺さん。会談はもうすぐだな。こちらの準備も着々と進んでいるぜ」

「アザゼル坊か。……ふむ」

「どうした? 珍しく難しい表情してるじゃないか」

「……わしの執政は祖国とここにいる若いもんたちに迷惑をかけていると思うてな」

「俺は古臭い考えで引きこもって何もしない北の連中が嫌いだった。でも、あんたは表に出て来た。主神自ら表舞台に出て来たんだ。協力態勢を説いてる俺たちのもとへ」

「ジジイだからの。たまに若いもんの意見が聞きたくなる。———それにわしのところの若い連中の未来を考えると新しい道も用意してやらんといかんと思うてな」

「その想いを成就させてみろよ、爺さん。そのために日本の神と話し合いに来たんだろう? 観光と称してこの国が持つ神話体系を見て回ってまで。絶対に会談は無事に済ませるべきだ。俺たちが何とかするさ」

「うむ。言われなくともわかっとるわい。……今日は酒に付きおうてもらうぞ、若造」

 

 

 

 

「戦争と死の神、オーディン。なぜそう思えるのに北欧の同士の言葉を考慮(こうりょ)しなかったのか。今までの自分が愚かだと思っておきながらなぜまた繰り返す。……はぁ、愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。そして聖人は経験から悟る 。ドイツ人もいい言葉を残したものね」

 

 物陰から二人の様子を見ていた彼女(ヴィロット)は、誰にも気づかれぬままその場を去った。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

「おっぱいメイド喫茶希望です!」

「却下」

 

 一誠の意見をリアスさんは嘆息しながら否定した。

 この日の部活動は、学園祭で(もよお)す予定の出し物についてだ。神と命がけの戦いを前にしてるのに、少し悠長(ゆうちょう)すぎると僕は思う。

 もちろん戦いの前に緊張をほぐす為の骨休めは必要だと思うよ。だけど、それは作戦も対策も完全に終えて他にやることがなくなったらの話。立てた作戦も強大な神を相手にするにはお粗末なものだし、僕たちがやって来た対策も特別なことなんて何もやってない。

 そりゃ短い時間だったしやれることも少ない。だけど、作戦を結局は出たとこ勝負な部分をもう少しくらい勝率の上がるものへ煮詰めることだってできた。

 悪神との命がけの戦いを前に空気はまるでレーティングゲーム前と同じだ。第三者が見れば頼もしくも見えるかもしれないが、実力をある程度知ってる僕からすれば不安ばかりが(つの)るよ。

 

「でも、そうなると他の男子に部長と朱乃さんの胸を見られてしまうんだよ?」

 

 木場さんの意見に一誠は本気で衝撃を受けてる様子。

 

「……くっ、無念だ。これじゃ、おっぱいお化け屋敷も無理か……」

「……そんなことを考えていたんですか、ドスケベ先輩」

 

 一誠の言葉に搭城さんも呆れている。僕も呆れてるよ。

 昔の僕ならこういう時は苦笑いだけで変態だなと受け入れていたけど、今では一誠のそういうところに嫌悪感とも言える程の不快感を感じている。逆になんで昔はそれですませられたのか不思議に思うほどに。

 残念がる一誠にため息交じにリアスさんが言う。

 

「あのね、イッセー。エッチなのは確かにポイント高そうだわ。けれど、生徒会が許さないでしょうし、教員の方々も却下するでしょうね」

 

 その通りでしょうね。一誠の意見が通るようならこの学園も終わりだよ。

 再び意見がゼロへと戻る。去年と同じと言う意見も出たが、それは「同じことを連続でしたくないわ」とリアスさんが却下してしまった。当然ながら一誠が言う変態的なのはもってのほか。

 だけど、これと言ってアイディアがあるわけでもない。

 リアスさんが部員一人一人に案を訊いていくも、リアスさんが納得するような斬新なものは出てこない。こういう時は僕の存在も忘れないし。

 

「そうですね、オカルト研究部らしく占いの館なんてどうでしょう?」

「占いの館ね……悪くないけどイマイチ斬新さが足りないわね」

 

 案外悪くない評価。まあ、だからって僕のリアスさんへの評価が変わるわけでもないけどね。

 そこに一誠が何気なくつぶやいた。

 

「……オカルト研究部の女子、誰が一番人気者か、とか?」

 

 その言葉に女子部員全員が互いに顔を見合わせた。

 

「二大お姉さまのどちらが人気かちょっと気に……!」

 

 ギャスパーくんはぽろっと漏らしそうになったが、言い切る前に気づき言葉を止める。だがもう遅い、一誠が投げ込んだ爆弾の導火線に火を付けてしまった。

 

「「私が一番に決まってるわ」」

 

 リアスさんと朱乃さんの言葉が重なり、さらに睨み合いを始めてしまう。笑顔のままお互い威嚇のオーラを漂わせてる。

 

「あら、部長。何かおっしゃいました?」

「朱乃こそ、聞き捨てならないことを口にしなかったかしら?」

 

 二人とも一触即発な雰囲気で口喧嘩を初めてしまい、会議どころではなくなってしまった。結局催し物の決定はならず会議は後日に持ち越し。

 自分の失言で事が起こってしまったと落ち込むギャスパーくんの頭を優しく撫でる。こうやってギャスパーくんを撫でるのはももたろうと触れ合うくらい気が休まるよ。

 今まで部室の片隅でお茶を飲んでいたアザゼル総督が、窓から外の夕暮れを見てぼそりとつぶやく。

 

「……黄昏(たそがれ)か」

 

 それを聞いて、皆、真剣な面持(おもも)ちになった。———なんたって、今日なんだからね、ロキとの決戦日は。

 部活終了のチャイムが学園中に鳴り響く。

 

神々の黄昏(ラグナロク)にはまだ早い。おまえら、気張っていくぞ」

『はい!』

 

 アザゼル総督の言葉に皆は気合を入れる。気合の入れ方だけは一人前なんだよね。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 決戦の時刻。既に日も落ち、夜中へとなっている。

 グレモリー眷属はオーディン様と日本の神様が会談すると言う都内のとある高級ホテルの屋上にいた。

 ……果たして誰が来るのだろうか。そもそも誰か来るのだろうか。そして、この会談は日本の了承を得ているのだろうか。いや、流石に無断で勝手に話を進める程無礼じゃないと信じたい。

 周囲のビルの屋上にはシトリー眷属が各々配置についている。シトリー眷属はグレモリー眷属よりも明らかに格上だが、弱点であるパワー不足が今回は致命的だ。生半可な忍術は効かないであろう神相手では、パワーが自慢のグレモリー眷属の方が適任。

 匙さんだけは予定されてたパワーアップはされなかったが、それでも予定通りこちらに混ざってもらってる。陰遁からのサポートなので、既に夜の闇に紛れ姿と気配を消している。

 アザゼル総督は会談での仲介役のため、オーディン様の側におり、その代わりにバラキエルさんが僕たちと同じく屋上で待機。ヴィロットさんも今回は始めっから鎧姿だ。

 さらに、遥か上空にはアクシオさんの王、龍王のタンニーンさんまでもが。騒ぎにならないように普通の人には視認できないように術をかけているそうだ。

 ヴァーリさんたちは少し離れたところで待機している。

 作戦はお世辞にも良いとは言えないが、思ったよりも人数は揃っているね。

 

「———時間ね」

 

 リアスさんが腕時計を見ながらつぶやく。

 時間と言うのは会談がスタートした時間。ホテルの一室で日本神話との大切な話し合いが始まったということ。何もなかったと言うことは、日本側は誰かは来ていたと言うことか。まあ、本物か偽物かは疑わしいけども。

 ロキが約束通り来ず変装や姿を消してホテルに直接侵入して妨害をすることも考え、椿副会長さんがホテル内で見張ってる。陽の役割が被り、室内ならば仲間が駆けつけるまでの足止めくらいならできるとソーナさんは言っていた。

 不安もあるけど、たぶんヴィロットさんがあそこまで言ったロキならそんなことはしないだろう。そもそも、ホテル内に入られたら日本神話側が真っ先に気づきそうだし。

 ———ほら、やっぱりそうだ。

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

 ヴァーリさんが苦笑すると。

 

 バチッ! バチッ!

 

 ホテルの上空が歪み、大きな穴が開く。そこあら姿を現したのは、悪神ロキとフェンリル。———だけど、なんか初めて会った時と様子が違う。前は帽子なんかも被ってなかったし、フェンリルの方もしきりにロキの様子を伺ってる。

 

「目標確認、作戦開始」

 

 バラキエルさんが耳につけていた小型通信機からそう言うと、ホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開され始める。

 ロキはそれを確認すると、邪悪な笑みを浮かべて言った。

 

「観客を減らすなんてもったいないじゃないか、どうせならここでやろう」

 

 そう言うと、ロキの周りに小さな魔法陣が展開し、魔方陣を展開するソーナさんたち目掛けて素早い光の閃光が襲う。

 ロキの放った閃光は全弾命中。しかし、由良さんと巡さん以外は閃光が命中するとそれぞれの属性に変わってしまった。属性分身か。

 巡さんは属性ではなく陽を纏った人形分身、由良さんは真正面から閃光を火遁を纏い気合で受け止め、大きく後ろに吹き飛びながらも閃光は上空へ弾かれた。

 

「ほう」

 

 ソーナたちの対応にロキが感心していると。

 

「水遁、水鉄砲」

「風遁、かまいたち」

 

 隠れていたソーナさんと花戒さんが遠くからロキを狙い撃つ!

 ソーナさんは銃の形をした手の指先から圧縮した水弾を、花戒さんは大きな扇子を(あお)いでかまいたちを飛ばした。

 しかし、それはロキも魔法陣の盾で簡単に防ぐ。だが、ソーナさんの作戦はそれだけでは終わらなかった。

 ロキがソーナさんと花戒さんに気を取られてる間に、おそらく国木田さんの能力で隠された巡さんがロキの近くまで迫って来ていた。

 巡さんは背中の棺を投げて、魔力の糸で繋がった人形をロキのすぐ近くで始動させる。

 

「爆弾人形、破顔(はがん)

 

 棺から飛び出したのは、邪悪と言っても差し支えない程の笑みを浮かべた導火線の付いた人形。見た目からも名前からもその人形がどういうことをするのか予想がつく。

 人形はロキにしっかりと抱き着き、魔法陣で防御されない位置に。

 

「爆弾人形、破顔(はがん)! 起爆!」

 

 カチ、ボガ――――ンッ!

 

 爆発の威力は可もなく不可もなく見た目相応の威力。到底神を殺せる威力ではないが、ゼロ距離の爆発はロキに隙を作ることはできた。

 だけど自爆までさせて傷どころかローブも帽子も飛ばせなかったか。

 

「後は頼みましたよッ!」

 

 そう言うと巡さんは人形の入っていた棺に入り、全方向を防御しながら重力に従い落ちて行く。

 その隙にソーナさんたちは当初の予定通り大型魔法陣を発動させる。

 ロキはそれをどうにかしようとはせず、一本取られたような愉快そうな笑みを浮かべもう抵抗は見せなかった。

 次に目にした光景は、大きく開けた土地。岩肌ばかりで、今は使われていない古い採掘跡地のようだね。

 周りを確認すると、リアス眷属に姿を消してる匙さんも含めて全員いる。近くにいた巡さんは落下してうまく魔法陣の範囲から抜け出したみたいだね。

 ヴァーリさんたちは少し離れたところに転移していた。

 前方にはすっかり態勢を立て直したロキとフェンリル。それを確認した一誠は禁手のカウントダウンに入る。

 

「せっかくの黄昏で観客が減るのは残念だ。それに、わざわざホテルまで戻るのも面倒だな。まあ、少し黄昏の時間が伸びた違いでしかない。会談をしてもしなくてもオーディンには退場していただく」

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

 バラキエルさんが言う。

 

「危険な考えを持ったのはそちらが先だ。各神話の協力などと……。元はと言えば、聖書にしるされている三大勢力が手を取り合ったことから、すべてが歪みだした」

「話し合いは不毛か」

 

 バラキエルさんが手に雷光を纏わせ始める。そして背中には十枚の黒い翼も展開していく。

 話し合いが不毛と言ったけど、僕は話し合いを放棄してるように思えてしかたない。鵺さんが言ったようにロキの今まで言ったこと吟味(ぎんみ)してみれば話し合いの可能性はまだまだある。

 実際に世界に多大な迷惑をかけ、内政も中途半端にテロ組織を生み全世界に向けさせた。それを和平なんて都合のいい言葉でうやむやにされるのは僕自身も納得がいかない。

 ヴィロットさんの話を聞いた限りではロキが今言おうとしたのもそういうことだろう。

 鵺さんの話を聞いた後だからか、ロキの話を聞くと自分たちの悪い部分が露呈してしまいそうだから悪者にして力でねじ伏せようとしてるように見えるよ。

 

WelshDragonBalance Breaker(ウェルシュドラゴンバランスブレイカー)!!!!!!!!』

 

 赤い閃光を放ちながら、一誠の体が赤龍帝の鎧を纏った。

 

VanishingDragonBalanceBreaker(バニシングドラゴンバランスブレイカー)!!!!!!!!』

 

 ヴァーリさんも同様に白龍皇の力を具現化した鎧に身を包む。

 二人が同時にロキの前に出ると、ロキは歓喜(かんき)した。

 

「これは素晴らしい! 二天龍がこのロキを倒すべく共同するというのか! 胸が高鳴る展開ではないか! それだけにこんな場所で終わってしまうのが惜しい」

 

 やっぱりロキの様子がおかしい、明らかに前と違う。

 二人が仕掛けようとした瞬間、ヴィロットさんが二人の肩に手を置いて攻撃をやめさせた。そして邪魔と言わんばかりに二人の間に割って入り、二人に背を向けロキの前に出た。

 

「ロキ様、一体どうされたんですか?」

 

 戦いの真っ最中だと言うのに少し心配そうな声。僕が気づいてるようなことなんてヴィロットさんも当然気づいているだろう。

 あの時の話でヴィロットさんはロキをオーディン様より気にかけているのがわかる。そんなロキの様子がおかしいと心配するのも当然。

 だがロキの方は。

 

「戦乙女如きが私の邪魔をするな」

 

 ロキはヴィロットさんに向かって追い払うように手でしっしとする。

 前は一誠には目もくれず、ヴィロットさんとの戦いだけに全力を出していたのに。乱入したヴァーリさんには邪魔者以外の感情を向けていなかった。だけど今回は逆にヴィロットさんを邪魔者として扱ってる。

 

「貴殿との戦いで二天龍が巻き込まれたら、ましてや死なれたりしたら台無しだ。どうしても相手をしてほしいのなら後でゆっくり相手になってやる」

 

 完全にこちらを見下している。やっぱり、前に感じた覚悟が見る影もなくなってしまった。ロキの言葉にヴィロットさんも多少なれショックを受けている様子だ。

 

「赤龍帝の程度も大体把握した。白龍皇も思ったより大したことなかった。ならばせめて二天龍が万全の状態で戦わねば自慢話にできぬ。北欧の最強よりも、実力は劣っても二天龍を倒した時の方が()えるではないか!」

 

 今のロキはもう藻女さんとは似ても似つかない。こちらを見下し戦う前から勝った気でいて、どうやってかっこよく勝つかを考えている。

 この短い時でロキは一体どうしてしまったんだ。そんなことを考えていると。

 

 ————ビクッ!

 

 刹那、あの時と同じ異質な気配を確かに感じ取った。それもハッキリと、今度は方角もわかる。

 これが鵺さんが言っていた機械の視線。……待てよ、異質だが嫌にハッキリと感じすぎる。これは感知したと言うより反射……! 攻撃されている!?

 僕が感じ取ったのが異質の気配を感知したのではなく、敵意殺意を向けられた反射的反応だと気づくのに少し時間がかかってしまった。

 殺気を感じた方向を向くと、僕を狙って実弾が肉眼で確認できる位置まで! 感知範囲外からの狙撃ッ!? 間に合うか? ……ダメだ、間に合うが到底受けきれない!

 本当はとっさに気づいて受け止めたことにするのが一番いいが仕方ない、黙って一人で避けたことを変に勘ぐられなければいいが。

 そう思いながら周りをこっそりと気にしながら弾の当たらない位置へ素早く移動していると、狙われていたのは僕だけではないことに気づいた!

 

「ヴィロットさん! 右!」

「ッ!?」

 

 僕の言葉で弾丸の接近に気づき上体を逸らした! そのおかげで親指くらいの弾丸がヴィロットさんの顔面をかすめるも、メガネが吹き飛んだだけで済んだ。

 ポケットから予備のメガネをかけると、弾丸の飛んで来た方向をじっと睨む。

 

「どうやらまだ邪魔者がいるらしいな。狙われてるのはおまえだけのようだし行ってくるがいい、ほら」

 

 そう言ってロキは即席で圧縮したであろう光の弾をヴィロットさんに不意打ち気味に撃ち込んだ。

 ロキからすれば軽いジャブ感覚なのだろうが、おそらく生身の悪魔があれを食らったら一撃で戦闘不能。油断して当たり所が悪ければジャブだけで即消滅もありえるだろう。

 

「そうさせていただきます」

 

 しかしその不意打ちもしっかりとガード、それもヴィロットさんは怪我した左腕一本で難なく受け止めた。

 ヴィロットさんはこちらに向き直り、ロキに背中を見せて言った。

 

「仕方ない、ロキ様はあなたたちに任せるわ。倒せなくていい、私が戻ってくるまで持ちこたえなさい」

 

 そう言ってロキに背中を見せたまま堂々とこちらに歩いてくる。

 一誠とヴァーリさんを止めた時と同じように、二人の真ん中を歩く。

 

「もとより屠りに来ている。戻って来た時には終わってるかもしれんぞ?」

 

 自分に近づいてくるヴィロットさんに対してヴァーリさんが言うが、ヴィロットさんはまるで相手にせず。

 鵺さんは一誠もヴァーリさんも差のない素人と言っていた。実は僕も経験や才能の差は多少あれど、実質的な力の差はそれほどあるとは思っていない。

 一誠もそもそも本当に才能がなければこんな短期間で神滅具の力を引き出すことなんてできない。ハードな特訓をしたからと言って人はそんな短時間で強くなれない。———本物の代償を支払わないとね。

 仮に才能がない人でも神滅具の力があればあれほど強くなれると言うのなら、一誠と才能あふれるヴァーリさんの力の差はもっと大きくなくては説明がつかない。

 ヴィロットさんも鵺さんと同じように二人がロキ戦で頼りにならないと。

 二人の間を素通りし、そしてまっすぐ僕の方に……ん?

 

「この子借りてくわよ」

『え?』

 

 僕と一誠とリアスさんと他眷属の何人かが疑問の声を上げる。一番役立たずと言われてる僕が選ばれたらそりゃ疑問だよね、僕だってそうだ。

 でも、ヴィロットさんはそんな疑問もお構いなしにささっと僕をおぶって、弾丸が飛んで来た方向に走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動中僕はしっかりとヴィロットさんに掴まる。情けないけど、僕のスピードではヴィロットさんの全速力にとても追いつけない。だからこうして大人しくおぶわれるのが最善。でも、なんで僕を連れて行くんだろう?

 リアスさんたちの視界から完全に外れたところでその理由を訊いてみた。

 

「あなたは私が気づけなかったことに気づいた。敵と対峙するうえで気づけないことは致命的。一人くらいなら護りながらでも戦える。だから、私が気づかないことに気づいてほしいの」

 

 なるほど、そういうことか。確かに気づけないと言うのは致命的だ。

 決して力は強くなかったが日本の妖怪は気づかれないを常套手段(じょうとうしゅだん)とする者も多かった。威力が弱くてもそれだけで強い攻撃力以上の脅威になった。

 いくら相手が強くとも隙だらけの急所に、ましてやそれが一撃必殺級の威力ならひとたまりもない。

 

「それにしても一体いつから目を付けられていたのかしら」

「たぶん、初めてロキと戦闘した時です」

「根拠は?」

 

 そう訊かれ、あの時に異質な視線を感じたことを話した。そして今回もそれと同じであろう敵意がこちらに向けられているのを感じ、攻撃を察知することができたと。

 そのおかげで僕とヴィロットさんが攻撃されてることに気づけたことも。

 

「なるほど、敵は凄まじいステルス性能ね。私は全く気付かなかったわ。あの攻撃を受けていたら危うく致命傷、最悪即死してた。助かったわ、ありがとう」

 

 僕もギリギリ気づくことができただけ。鵺さんにあらかじめ機械の視線だと教えてもらって警戒してなかったら、もしかしたらヴィロットさんの攻撃にまで気が回らなかったかもしれない。

 

「敵が有名な二天龍を狙わなかったのはあの戦闘を見て赤龍帝と白龍皇が障害にならないと感じたんでしょう。二人とも能力は強力でもそれが通じない世界なんてザラにある。それがわからないうちは三流以下。そして私と誇銅君が狙われたのは敵にとって障害と認定された、よかったわね」

 

 いや、別に何もいいことないですからね? 確かに受け取り方によっては二天龍よりも脅威になる存在と認定されたって意味になるけども!

 

「でも、なんで僕まで?」

 

 それが疑問で仕方ない。僕は上手に自分の実力を隠してたつもりだ。

 ヴィロットさんが強者認定されるのはわかる、なんたって格の違うオーラを大放出していたのだから。でも僕は一度も功績を上げた事なんてない。あの時だって特に目立つ行為はしていないつもりだ。

 

「前も視線に気づいたんでしょ? 完璧なハズのステルスに気づかれる恐れのある奴は向こうとしてはなるべく早急に排除したいものよ」

 

 あの時反応したことで少しだけだが気づいたことに気づかれたのか!? 確かにあの時は始めての異質で微弱な気配に馬車の中だったとは言え大きく反応してしまった。それを見られていたのか?!

 ……まあ仕方ない、どんな理由であれ既に目を付けられてしまったのだから。失態は受け入れて次に生かすしかない。

 

「もしかしたらロキ様の様子がおかしいのもそいつらが何か知ってるかもね」

「……そうですね、タイミング的にも怪しいですし」

 

 この先には一体何がいるのか、それがとても不安に思った。

 生きてる者は皆、わからないものに惹かれ恐怖する。個人的経験からも、人間の歴史からもそれは確かだ。

 だからこそ僕は、予想もできない敵に恐怖すると同時に、こんなにも知りたいと思ってしまってる。知らなくちゃその脅威から自分も、大切な人も守れないから。




 こんなことを言うのは作者としてどうかと思うのですが、今日はポケモンの新作の発売日じゃないですか……。一応私もシングルタイプ統一(童話パ)、ダブルFNAFテーマ統一でガチ勢を自称してる身でして……。
 ———次回、いつもより更新が遅れるかもしれないです。(馬鹿野郎ッ!)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。