無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 投稿する度にワクワクビクビクさせていただいております。


悪戯な悪神の悲願(上)

 誇銅の炎で分断され、背後からの脅威がなくなったヴィロットは目の前のロボットに向き合う。

 ロボットは銃口をヴィロットに向けたまま攻撃の手を止めた。

 

「これでやっと戦いらしい戦いになるな」

 

 男の声が余裕そうに言うが、ヴィロットは変わらぬ表情で黙って対峙するばかり。

 

「だんまりか。まあいい、そういう最期も悪くはないだろう」

 

 男の声がそう言うと、ロボットの銃撃が再開された。

 ヴィロットは銃撃の嵐を大剣を盾にして真正面から押し進む。しかしこの方法は一度使い破られた愚策。もしも相手が普通のロボット相手ならわからなかったが、相手には人間の指揮官がいる。当然ながらロボットもさっきと同じ対処はしない。

 ロボットは左右に分かれてヴィロットを挟み撃ちにしようとした。

 

「二度同じ手を使うのは愚策だぞ」

「それはどうかしらね」

 

 ヴィロットの体が突然、強い聖なるオーラに包まれる。そのオーラは教会の天使や名のある聖剣のオーラよりも強く純粋で、激しいオーラ。そもそも天使や堕天使が使う光力とは似て非なるもの。

 強力な聖なるオーラに包まれたヴィロットはガードを解いて方向転換し片方のロボットに向かって全力で突っ込んでいった。

 

 ズガガガガガガガガガガ!

 

 前方の銃撃はガードしているが、後方の銃撃はヴィロットの背中に命中している。だがヴィロットは血どころか服も傷つかなかった。

 もちろんヴィロットが着ている服は普通の服。特殊な素材ではないことは、少なくても銃弾を防ぐような材質ではないことは誇銅も知っている。

 

 キュゥゥ……バゴ――――――――ンッ!

 

 銃撃が効かないと理解すると、ロボットは今度は砲撃に切り替えた。反対側のロボットも避けられて同士討ちさせられないように直線状から出る。

 光線が迫ってくると、ヴィロットは歩みを止めて大剣を構え。

 

「ふん!」

 

 一振りで光線を斜め前へはじき返した。そしてそのまま再び走り出し、砲撃してきたロボットのすぐ近くまで来て大剣を振りかぶる。

 ロボットは砲撃直後の反動で動けない。強力な聖なるオーラで強化されてるヴィロットの身体能力ならそんな隙は命取り。あっという間に距離を詰められ、防御する暇もなく切り裂かれてしまう。

 

「残り六機」

 

 ロボットを切り裂いたヴィロットはその場で大きく屈み、一気にもう片方のロボットのところまで飛んだ。

 だけど今度は距離があったのでロボットの方も電磁バリアでガードする。しかし二枚重ねていたバリアが一枚になれば当然弱くなる。二枚重ねて何とかヴィロットの大剣をはじき返していたのに、そこへ強力な聖なるオーラでさらに強化されたヴィロットの大剣が攻撃すれば当然防ぎきれない。

 電磁バリアの上からロボットごと縦に真っ二つに斬った。

 

「残り五機」

 

 ヴィロットは銃で撃たれた背中をさすりながら指揮官タイプのロボットの方を見てつぶやく。

 

「こんな鉄クズ、何機来たところで私の敵ではない」

「ほう、そうか。だがそれでどうやって剣の間合い外の狙撃兵を倒す? もたもたしていると炎の壁を迂回してあの男の眉間を撃ちぬくぞ?」

 

 男の声が挑発的に言うと、ヴィロットはメガネにオーラを集中させて狙撃兵タイプの正確な位置を探る。

 

「射程範囲内よ」

 

 そう言うとヴィロットは手のひらから大砲の玉ほどの大きさの聖なるオーラの球体を創り出し、それを大剣の側面に張り付けた。そして―――。

 

「聖主砲、Roma級ッ!」

 

 球体の張り付いた大剣を遥か遠くの狙撃兵タイプに向かって振るう。すると、聖なる球体はその方向へ真っすぐに、高速で発射された。

 少しして、遠くの方からかすかに破壊音が聞こえてきた。

 

「残り四機」

 

 遠方の狙撃兵タイプを一機撃墜したのを確認すると、今度は同じ聖なる球体を複数個創り出し、同じように大剣の側面に張り付けた。

 ヴィロットが大剣を振るう度に先端から順に発射され、一つ前が発射されれば次の弾丸が装填されるように先端へと移動する。そうしてすぐさま発射される。こうして十発近い聖なる球体を射出したところで振るうのをやめた。

 

「残り……一機」

 

 そう言って残る指揮官タイプを見る。

 指揮官のロボットは他のロボットがただ倒されるのを何もせずにじっと見ていた。妨害しようとすればいくらでもできたのにそれもせず。

 

「ブラボー」

 

 男の声はそう言いながらロボットの体で拍手をした。

 

「魔王や大天使を名乗る有象無造作共とは比較にならない聖のオーラだ。彼を背負ったままでは彼を消滅させてしまうので出し渋ってたのか」

「えらく余裕そうね、残る機体はあなた一人だと言うのに」

「君がさっき言った通り、あんなものを何機ぶつけようが無意味だ」

 

 たった一体になっても同じく余裕の構えをとったままヴィロットと対峙する。

 

「だが残念なことに、ここには私がいる」

「あなた一人で私を倒せると?」

「倒すのではない、殺すのだ」

 

 そういった瞬間、ほかのロボットたちとは違う動きで足のブースターを噴かしヴィロットに接近する。それを迎え撃つようにヴィロットも駆け出した。

 ヴィロットが斬りかかると、ロボットは予知したように躱し大剣そ側面をはじいた。それによりヴィロットの体勢も強制的に崩される。

 ロボットの電磁バリアが剣の形に変形し、ヴィロットを斬りつける。ヴィロットは力業で大剣の力の方向を変えて回避したが、かすった傷口からうっすらと血が出る。

 

「私の血が傷つき失われることは何よりの損害なんじゃなかったかしら?」

「確かに女性は価値ある血統の血を紡ぎ、繁栄させることができる唯一の存在。だが……別におまえじゃなくてもいい。世の中にはまだまだ価値ある女は存在する。その女が我々主たる人種を繁栄させてくれればいい。そもそもおまえはヴァルキリーで人間じゃないしな」

 

 男の声はヴィロットに超接近戦を仕掛ける。極度に接近することにより剣の間合いをつぶし、大剣の利点であり欠点である重さを利用し振らせず構えさせずヴィロットの動きを制限しながら戦う。

 一瞬で有利な立ち位置を作り保持する男もすごいが、そんな不利な状況でも耐えて見せるヴィロットも強い。大剣を捨てるわけにはいかず、かと言って使えば体勢を崩される。結果的に片手で戦うことを強いられているが、それでもロボットの猛攻に耐えている。

 だが、そんなヴィロットの表情にも徐々に焦りが浮かぶ。こちらの攻撃手段は封じられ、敵の攻撃は現状の自分にも通じる。そもそも生身と機械では前提条件から違い不利。

 激しく攻め立てながら男の声は言う。

 

「弱き民族は滅べばいい。我々に仇名す者は滅ぼす。我々主たる人種が世界を指導するべきなのだ」

「なるほど、あなたの考え方が少しわかってきたわ」

 

 シールドの刃がヴィロットの首を取りに行く。ヴィロットは大剣を手放し両腕でガードしようとした。だが、それを読んでいたようにシールドの刃の出力が一気に跳ね上がった。

 いくらヴィロットが聖なるオーラの鎧をまとっていようがこれでは危ない。運よく首が助かっても両腕が使い物にならなくなる。

 しかし、それを見たヴィロットはにやりと笑った。

 

「っ!?」

 

 ヴィロットは防御のために大剣を捨てたのではない。手放した大剣を思いっきり蹴ってロボットと自分の間に無理やり大剣を割り込ませた。

 浮き上がった大剣によってロボットの腕が上へ跳ね上げられる。しかし蹴りで放ったのでロボットの腕を切断するには全く足りていなかった。だが、これでヴィロットはやっと大剣を構えることができる。

 腕を跳ね上げられた衝撃でロボットは軽くだが後ろに倒れこむ。このままではまずいと感じたロボットだがもう遅い。

 

「残念だけど、あなたと私たちの思想は相容れないかもしれないわ。あのお方ならわからないけど、私ではあなたを説得することはできない。だから―――私は目の前の敵を打ち倒すだけ」

 

 振り上げた大剣に聖なるオーラがさらに宿っていく。軽くだが後ろに倒されたせいでロボットの体では回避行動ができない。

 指揮官タイプのロボットは両腕をクロスさせ一体で二体合わせた電磁バリアより強い電磁バリアを張る。が、それが無意味なのは本人もわかっていた。

 

「こりゃ無理だな。まったく旧式は動作が遅くて困る。トロ過ぎてこういう時に回避ができない。まあ、様子見の在庫処分で有効活用できれば儲けものだな」

 

 決着はついた。お互い既にそう確信しこれ以上策を弄する気にはならなかった。と言っても、ヴィロットは相手が何をしてこようがこのまま力で押し通す気でいるが。

 ヴィロットはこのまま斬るだけ、ロボットはおとなしく斬られるだけ。

 斬られる直前、男の声が言った。

 

「次ぎ会うときは、戦場でな」

 

 ザヴァァンッ!!

 

 ロボットを真っ二つに斬った斬撃は、地面に長い一直線の斬り跡を残した。その跡には弱い転生悪魔が近寄れば消滅してしまいそうな程の聖なるオーラの残り香を残す。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 狼とロボットの境界線を僕の炎目の幕で閉めて分断させた。これでお互い後ろからの危険に気を使わなくてもよくなったと同時に、助けに入ろうなんて野暮なこともできなくなった。

 僕の炎ではロボットたちを倒すことはできないけど、銃弾を防ぐには厚さがあれが十分防げることは実証済み。光線ならば幕を貫通される前に分厚い幕内で燃焼されるだろう。

 炎目の幕は閉じたけど、僕の戦いは幕開けだ!

 

「グルルル!」

 

 見えない狼たちの数は不明だが、向こう側の景色に違和感は感じないから残りは全員しっかりと幕の内側にいるのは確か。

 見えないのが厄介なのではない、見えない相手が獣なのが厄介なんだ。

 まず僕の柔術の殆どが通用しないだろう。九尾流柔術も基本的に人型の相手を想定している。僕が過去に野犬に大きな傷を負わされた時の主な原因はそれだったからね。もしも悪魔の身体能力がなかったら力業で抑え込むことはできなかっただろう。

 だけどまあ、そんなことがあったから獣との戦い方も藻女さんたちから教わった。残る問題は正確な数がわからないことだね。

 

「まあ、それも解決策はあるよ」

 

 僕は手のひらで逆シャンデリアのような形の炎を形成させる。それをすぐに確認できるように自分の目の位置らへんに浮遊させておく。

 僕の炎は魔力や妖力のみを燃焼させられることと物理的な以外にもう一つ特徴がある。それは生命力に反応すること。

 どういうわけか僕の炎は無風の時には近くの人間や動物がいる方向へ揺らぐ。その特徴を生かし、炎目の応用で風がある時でも近くの生命力を探知できるようにした。

 本来は視界が利かない、または姿が見えない相手を探るための技だから姿の見えない狼相手にはうってつけだ。

 

「さてと、これでよし。数は……五匹。特別強い個体はいないね」

 

 炎の揺らぎや色合いの微妙な変化で、敵の数や大雑把な強さが僕にだけわかる。

 次は動物との戦い方だ。こころさんから動物との戦い方を教えてもらった時の言葉を思い出してみる。なぜこころさんなのかは、妖怪の中でこころさんが最も動物との戦い方を知ってると言われたからだ。

 

『獣は体の構造から自分の戦い方に優れた肉体構造をし、生き抜くための武器を体に携えている。人間でいう武器を常にその身にまとい扱ってくる』

「グァル!」

 

 鳴き声と炎の揺らぎで襲い掛かってるであろう狼の位置がわかる。

 今は姿が見えないが姿を現した時の記憶はバッチリ残っている。

 

『その代わり、その動物の戦い方は肉体に顕著(けんちょ)に表れている。牙、爪、角、発達した部位、動物はそれらを隠すことができない。人間は様々な戦い方ができるが、獣は基本的にそれらを生かす戦い方しかできない。動きをよく観察し、武器を見定めることが大切だ。そうすれば自分より優れた肉体を持つ獣にも対等に戦うことができる』

 

 姿は見えなくてもイメージはできる。イヌ科の一番の武器は牙、爪も脅威となるがメインにはならない。となれば、どんな攻撃を仕掛けてくるかの選択肢は絞られる。

 炎を両腕に巻き付けて籠手とし、鋭い爪から両腕を守りながら対処。

 

『いくつか例外もあるが動物は大体が人間と同じ構造だ。二足歩行の人間が四足歩行した時と同じ場所に同じような骨や内臓がある。まあこれは参考程度に覚えておけ』

 

 体の弱点は眉間から股間にかけての一直線の正中線(せいちゅうせん)に多い。体の重要な部位が集まっていて筋肉も付きにくいので致命傷になりやすい。これは現代で言う解剖学に近い。

 炎の籠手で爪傷を防ぎつつ、狼の鳩尾に強い蹴りを食らわせた。もちろんこれで倒せるなんて思っていない。

 その後も向かってくる狼相手に何度か繰り返す。捨て身で掛かってくるので防御がかなり(おろそ)かで僕でも攻撃を当てやすい。複数で掛かられ対処できない時には攻撃をあきらめて炎目を交えた返し技に徹する。

 狼たちは我先にと続々と襲い掛かってくるが僕を狙ってる分には対処できる。敵意殺意があれば物の数ではない、体が自然と反応する。嚙みつきさえ気を付けていれば炎の防具も突破されないし。

 

「ガァグルル……ガァグ?」

「ガルルル……グゥ?」

 

 あれだけ激しかった狼たちの攻撃頻度が徐々に落ちてきた。それと同時に狼たちの不思議な鳴き声が混じる。

 それも当然、なんたって僕の攻撃はかなり痛い部分に当たってるハズだし、返し技では自分の勢いがそのまま跳ね返されてるんだからね。

 いかに痛みを感じないと言ってもダメージがないわけではない。痛みで怯まない利点は裏を返せば深刻なダメージに気づかない欠点でもある。

 狙いはそれだけではない。僕は攻撃する際に炎を普通の炎に近い性質にして手に薄っすらとまとわせていた。防御力は一切ないと言っていいほどだが、魔力や妖力に触れると少しずつ燃焼させられる。でも今回の狙いは燃焼ではなく炎自体だ。

 相変わらず燃焼能力は魔力に限られるが、普通の炎に近づけたことにより燃え移りやすくなっている。炎のマーキングのおかげで離れて動き回る狼たちの正確な位置が目視でわかる。

 

「動きもだいぶ鈍ってきたし、これなら外さないだろうね」

 

 鼻歌を歌いながら炎目の準備を行う。今回はいつものような造形の仕方ではなく、無形の炎をうっすらとパーツのように隠し配置させている。

 

「数も……うん、増えてない」

 

 炎の探知機で狼の数を最終確認。そして、配置した炎目のパーツを実体化させ(たる)型の炎の中に全員を閉じ込めた。

 

「可哀そうだけど、ごめんね」

 

 狼たちは姿を現し脱出しようとする。が、出られる様子はない。姿を現した狼たちの姿は思った以上に酷い。銃による流血が何十ヵ所もあったり、口の半分が消し飛んでいたり、そもそも下半身がなかった個体までいる。それでも僕がやることには変わりはない。

 樽型の炎の底が三分の一ほど地面に埋まる。

 この技は昔の葬儀をイメージして作った、炎目の中でも殺傷力が高く残酷な技。

 

「炎目、座棺の埋葬」

 

 樽の蓋がまるでギロチンのように落ちて狼たちを潰す。底は地面に埋まってるので潰れた遺体は炎目を解けばそのまま地面に埋もれて見えなくなる。

 なぜこんな技を思いついてしまったのか。今でも疑問に思う、詳しくは思い出せないのだが、なんかすごく不気味な夢を見てその中で生まれてしまった。僕は一体どんな夢を見てしまったのだろうか。

 どちらにせよ殺しと言うのは気分が悪い。殺さないといけないとわかっていても、自己嫌悪に陥ってしまう。この不自然な地面の下に潰れた狼らしき遺体があると想像すると……。

 

「うっ!」

 

 気分が悪くなってきた。跡形もなく消し飛ばせたならもう少しマシに……いや、それもそれで嫌な気持ちには変わりないか。

 

「どうしたの!? 大丈夫!?」

 

 気分が悪くてその場で(うずくま)った僕を心配してくれたヴィロットさんが僕の背中をさすってくれた。

 

「もしかして、狼の攻撃を受けて」

「だ、大丈夫です。傷は受けていません。ただ、殺してしまったことで気分が悪くなって」

 

 ヴィロットさんがこっちに来てるという事は向こうは終わったのか。炎の幕のせいか全然気づかなかったよ。……炎の幕がある? ちょっと待って、僕はまだ炎の幕は消してないし回り込んだとしてもかなり長く作ったのに。

 炎の幕を見てみると、幕の一部が人一人分ほど破壊されていた。は、破壊して来たの?

 

「ああ、あれは終わった後に私がやったわ。あなたが急に蹲ったからどうしたのかと思って、もしも危険な状態だったら迂回なんてしてたら間に合わなくなるかもしれなかったから」

 

 僕を心配して駆けつけてくれたのか、うれしい。

 嬉しさで気分の悪さがだいぶ緩和されると、今度はヴィロットさんの顔の傷に目がいく。

 

「顔に傷が……」

「ああこれね。放っておいても治るわよ」

 

 確かに傷は浅そうだし放っておいてもすぐに治りそう。だけど、ヴィロットさんの綺麗な顔に傷が残らないか心配だ。

 

「それよりも早く戻らないと」

 

 そうだ、僕たちはロキと戦っていたんだった。それを妨害してきた相手と戦って買っただけ。

 

「ここに残るならそれでもいいわよ。向こうが終わったら迎えに来るから。私が全部やるつもりだけど、もしもの時は連戦はつらいでしょうし」

「いいえ、これくらいどうってことありません。僕も連れて行ってください。ただ一つ、僕が戦ったことだけ秘密にしてください」

「わかったわ。理由は聞かない」

「ありがとうございます」

「それじゃ」

「ちょっと待ってください」

 

 ヴィロットさんに少しだけ時間をもらい、埋めた狼たちの方を向いて合掌し黙祷(もくとう)を捧げる。せめて安らかに眠ってもらえるように簡単にだが弔いを。

 数秒の黙祷から目を開けると、隣でヴィロットさんも膝を突き指を組んで祈りを捧げてくれていた。

 

「痛みと恐怖を持たない彼らも、死によって清められ安らぎの地へ旅立った。あなたの他人の死に苦しめる思いやりの心は美徳よ、大切にしなさい。でも、時として死や罰が救いとなることもあるのよ」

 

 ヴィロットさんが言ってくれたことの意味は正直よくわからなかった。でも、僕の気持ちを楽にしてくれようとする気持ちは伝わったよ。

 僕は再びヴィロットさんに背負われてロキの方へと走り出す。ヴィロットさんに負担を強いるのは心苦しいが僕のスピードが大したことないのは事実。こうしてもらうのが一番自然なので仕方ない。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 ヴィロットと誇銅が未知の敵へと向かった後、ヴィロットの手によって一度は止められた戦いが再開された。

 

「さて、再開しようじゃないかッ! 素晴らしき戦いをッ!」

 

 ロキは喜々として、全身を覆うほどの広範囲の魔法陣を展開させる。

 一誠はそれを防御式の魔法陣と思ったが、それは間違いで魔法陣から魔術の光が幾重(いくえ)もの帯となって放たれた。

 追尾性がある攻撃だったので、空中を飛び回るヴァーリ目掛けて光の帯が向かっていく。当然半分は一誠の方にも放たれる。

 ヴァーリは空中を飛び回ってそれらをすべて回避した。逆に一誠は避けることができないのでダメージ覚悟で突貫(とっかん)する。

 

 ガッ! ガガンッ!

 

 一誠の体に魔術の攻撃が突き刺さる。多少ダメージは入ったが覚悟して突っ込んだのでそれほど支障はなかった

 右の拳に力を籠めて、ロキ目掛けて低空飛行の最大加速で突っ込む。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 バリンッ!

 

 一誠の突撃にロキを覆う魔法陣が全部音を立てて消失する。そこへヴァーリが空中から大きな魔力の一撃を、さらに覚えたての北欧の魔術を加えて放つ。

 

「―――とりあえず、初手だ」

 

 バァァァァァアアアアアアアアアアッ!

 

 ヴァーリが魔力を掃射すると、一誠は急いでその場を後にする。一誠がロキの魔法陣を崩した後にヴァーリが間髪入れずに巨大な一撃を加えるチームプレーに見える個人プレー。

 採掘場の三分の一ほどを包み込む規模の一撃。

 しかし、その攻撃はロキに届かず、ロキが指先に展開した小さな魔法陣で軽々と受け止めていた。

 

「北欧の魔術を加えたか。だが急場(きゅうば)しのぎで覚えた術など、私に通じるとでも思ったか? 未熟者がッ!」

 

 魔法陣だけその場に残し、そこへ強力なアッパーを加えてヴァーリの攻撃を跳ね返した。

 広範囲で強力な一撃を撃ち返されたヴァーリは。 

 

『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

 半減の力で規模を威力と規模を半減させていき攻撃を回避した。

 

「倒せるとは思っていなかったが、軽々と返されるとは予想外だ」

「ふははは! だがなかなかよかったぞ。未熟な北欧の魔術を使わなければ威力を犠牲に攻撃は通っただろう。まあ、ノーダメージには変わりなかっただろうがな」

 

 二人の攻撃はロキに傷を負わすどころか汚れ一つ、帽子を脱がすことすらできなかった。それを見て一誠は神の恐ろしさを覚える。

 一誠はこうなりゃとオーディンから借り受けたミョルニルを手に取り、魔力を送って手頃なサイズにする。

 素の状態では持ち上がらなかったミョルニルも、禁手なら両手で何とか振り上げることができ、それをロキに突きつける。

 ロキはそれを見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「ミョルニルか。まあレプリカだろうが。オーディンもだいぶ危険なものを赤龍帝に持たせたな。少し忌々しく思うが、まあいいハンデだ」

 

 ロキはオーディンがミョルニルを渡したことに少しばかり苛立ちを覚えたが、結果自分の勝利がより栄えると思えば悪くないとすら思った。この場にヴィロットがいればロキのその変化に悲しさすら感じただろう。

 一誠はミョルニルを振り上げ、構えた格好で背中のブーストを噴かす。ロキへ高速で向かっていき、目標を捉えて一気にミョルニルを振り下ろした。

 

 ドオオオオオオオオオンッ!

 

 その攻撃をロキは軽く躱した。地面には大きなクレーターが生まれたが、話に聞いていた雷は発生しなかった。

 それを一誠はミョルニルが不良品かと疑うが。

 

「ふっ」

 

 一誠の情けない姿にロキは失笑気味に笑う。

 

「残念だ。その(つち)は、力強く、純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿には邪な心があるのだな。雷が生まれないのがその証拠。本来ならば、重さすらなく、羽のように軽いと聞く」

 

 そう言われて一誠には思い当たる節がたくさんある。一誠はそれを思い出して自分が使えない理由が理解できた。

 

「そろそろこちらも本格的に攻撃に移ろうか」

 

 ロキが指を鳴らすと、今まで心配そうにロキの様子を見ていたフェンリルが一歩前に進みだした。

 

「神を殺す牙。それを持つ我が(しもべ)フェンリル。一度でも嚙まれればたちまち滅びをもたらす。おまえたちがこの獣に勝てるというならばかかってくるがいいッ!」

 

 ロキがフェンリルに指示を出すと、その瞬間、リアスが手を挙げた。

 

「にゃん♪」

 

 フゥゥゥイイイイイィィィィィンッ!

 

 黒歌が笑むのと同時にその周囲に魔法陣が展開し、地面から巨大で太い鎖が出現した。―――対フェンリルに用意された魔法の鎖、グレイプニル。予定より早く届いたのはいいが持ち運びに困ったので、黒歌が独自の領域にしまい込んでいたのだ。

 それをタンニーンとバラキエルをはじめ、リアス眷属とヴァーリチームたちが掴み、フェンリルへ投げつける。

 

「無駄だ! グレイプニルの対策など、とうの昔に―――」

 

 ロキが無駄だと言おうとすると、ダークエルフによって強化された魔法の鎖、グレイプニルは意志を持つかのようにフェンリルの体に巻き付いていく。

 フェンリルは苦しそうな声をあたり一帯に響かせる。

 

「―――フェンリル捕縛完了だ」

 

 バラキエルが身動きできなくなったフェンリルを見てそう言った。

 一誠は見知らぬダークエルフに感謝する。

 フェンリルの動きを封じれば、あとは油断しなければ眷属たちだけで余裕で倒せる、残る敵はロキだけ。一誠はそう思っていた。

 一誠はわかっていなかった、ロキがどれだけの覚悟を持ってこの場所に来たのかということを。今までの敵のように自己中心的な考えしか持ち合わせていないと、そう思って今まで通り言われた通りに相手を倒せばすべてめでたしめでたしと考えていた。

 フェンリルの動きを封じられてもロキは焦らない。一誠が怪訝に思っていると、ロキは両腕を広げた。

 

「スペックは落ちるが―――」

 

 グヌゥゥゥン。

 

 ロキの両サイドの空間が激しく歪みだす。

 空間の歪みから新たに灰色の毛並み、鋭い爪、感情のこもらない双眸(そうぼう)を持つ二匹の巨大な狼が現れた。

 

「スコルッ! ハティッ!」

「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!」」

 

 月夜に照らされて、フェンリルより少しだけ小さい二匹の巨大な狼が方向を上げる。

 まさかの新たに二匹のフェンリルの出現に全員が驚きの顔をした。唯一ヴァーリだけは楽しそうな顔をする。

 二匹の新たなフェンリルを従え、ロキが言う。

 

「ヤルンヴィドに住まう巨人族の女を狼に変えて、フェンリルと交わらせた。その結果生まれたのがこの二匹だ。親よりも多少スペックは劣るが、牙は健在だ。十分に神、そして貴殿らを葬れる」

 

 二匹のフェンリルの子についてミドガルズオルムも教えてくれなかったと悪態をつく一誠。しかし、実際はスコルもハティも北欧神話に出てくるので少しでもロキについて調べていればもしかしたらわかっていたかもしれない情報なのだ。

 少なくても、ロキと戦うにあたって経験豊富な大人組は調べ知り、教えておかなくてはならない情報。それを怠ったための危機。

 ロキが二匹のフェンリルに指示を出す。

 

「さあ、スコルとハティよ! 父を捕らえたのはあの者たちだ! その牙と爪で食らい千切るがいいっ!」

 

 風を切る音と共に二匹の狼がリアス眷属たちのもとへ向かっていく。

 一匹はヴァーリチームへ、もう一匹はグレモリー眷属の方へと。

 予備の鎖を用意していないため、実力の劣るグレモリー眷属では有効打がない。

 

「ふん! 犬風情がっ!」

 

 タンニーンが業火を口から吐き出し、子供のフェンリルを大火力で炎で包み込む。しかし、スコルとハティにはダメージを受けても、決して怯むことはなかった。

 一誠が仲間の方へ視線を送っていると、ロキが大きな魔力の玉を撃ちだしてくる。

 

 グガァァンッ!

 

 攻撃事態は何とか避けたが、かすった部分の鎧が欠けてしまう。ロキからすればよそ見をせずにこっちを向けと言う警告程度の攻撃だったのだが、一誠は知るよしもない。

 そもそも、一誠は心の奥底では例え神でも赤龍帝の鎧をそう簡単に壊すことはできないと高をくくっていた部分があった。

 

「……相手が神格だと半減の力がうまく発動できないからな。少しずつでもその力を削らせてもらう!」

 

 ヴァーリが手元から幾重にも魔力の攻撃を北欧の術式と混ぜながら撃ちだしていく。しかし、そのことごとくロキの魔術で薙ぎ払われ、一撃たりともロキの体には当たらない。そもそも当たったところでダメージなど与えられる威力ではないが。

 

「しかし流石は白龍皇! 短期間で北欧の魔術の基礎をよく覚えられたものだ! だがな、すべてが未熟すぎるのだよ!」

 

 七色に輝く膨大な魔術の波動をロキが放つ。ヴァーリは背中の光の翼を大きく展開して迎え撃つ格好をした。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

 ディバイン・ディバイディングの能力を発動させ、ロキの攻撃を連続で縮小させていく。

 

「これぐらいの攻撃ならば触れなくとも半減の力は発動できる。が、消耗は激しいのでね」

 

 その攻撃はロキ本人には全く効いていないが、その攻撃に対しては有効であった。しかし、撃ち漏らしも多くヴァーリの鎧を撃ち抜く。白龍皇の鎧が大きく破損するが、ヴァーリはすぐさまそれを復元させていった。

 

「いっけぇぇぇええええええええっ!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 一誠はそこへ間髪入れず、特大のドラゴンショットをロキに放つ。ミョルニルを使えないとなれば一誠にできるのはこのくらいのこと。だが、一誠は一つ勘違いをしている。

 

 ドオオオオオオオオオオッ!

 

 一誠の攻撃にロキは不敵な笑みを浮かべたまま五本の指に小さな魔法陣を展開させ。

 

 ヒュィン。

 

 簡単にヴァーリの方へ流す。ヴァーリもそれは高速で動き簡単に避ける。

 一誠が犯した間違いとは、ヴァーリの攻撃後に間髪入れずに攻撃するのが僅かでもチャンスと思ったことだ。

 ロキは一度一誠のドラゴンショットよりも巨大な攻撃を弾き返している。一誠のドラゴンショットに対処できないはずがない。それなのに不用意に攻撃を加えてしまった。

 返されたのがヴァーリだったから避けられたが、もしも自分や眷属の誰かに返されれば躱すことができずにまともに受けてしまっただろう。

 

「ふははは! 白龍皇は強さを誇り、赤龍帝の方は凄まじい気合を込めて放ってきている。想いのこもった一撃と言うのはうちに響くものだ。攻撃に込められた想いと共にな。……どちらもずいぶん軽いものだ」

 

 一誠の攻撃を受け流したロキはつまらなそうな様子を見せる。

 

「白龍皇は自惚れ、赤龍帝は虚構と言ったところか」

 

 ロキの言葉にヴァーリと一誠は大小あれどカチンときた。今まで自他共に認められてきた自分の強さの誇りを、仲間への想いを軽いと言われれば腹も立つ。

 それでも神格を持つ巧い敵相手に今は精神を乱している場合ではない。ヴァーリも一誠も相手の挑発としてこの場は受け流すことに。

 

「まあいい。強さに期待するのであればあのヴァルキリーと戦えばいいこと。私がお前たちに求めるのは協力する二天龍を同時に倒したと言う実績だけだ。私を満足させられぬことなど気にする必要はない、安心して殺されろ」

 

 普通の上級悪魔や禍の団の魔王たちでも苦戦を強いられるであろう二天龍の攻撃を簡単に(さば)くロキ。余裕しゃくしゃくに二人を見下す。

 

「ずいぶんと調子に乗ったことを言ってくれるな。その程度で俺を完封したつもりか」

「これ以上続けても期待できそうなこともなさそうだな。では、そろそろ弱い方から片付けていくとしよう」

 

 ロキはヴァーリの言葉を完全に無視して自己完結で勝手に進めていく。本人は平静を装っているがそれがさらにヴァーリの神経を逆なでしていく。

 

「と言ったもののどちらも大差はないが、動きの鈍い赤龍帝の方が捉えやすいな。ヴァルキリーが戻ってきて倍増した力を譲渡でもされると流石に面倒になりそうだ。二人同時に殺すのもいいが、まずはそっちから殺すことにしよう」

 

 そう言ってロキが一誠の方を向くと―――。

 

「―――無視はいただけないな」

 

 ヴァーリは瞬時に動き、一誠に攻撃の矛先を向けたロキの背後を捕らえた。

 これには一誠もいける! と思わず思った。ヴァーリは手に大きな魔力の一撃を込めている。あれが間近で当たればさすがにロキも―――そう思う一誠だったが。

 

 バギンッ!

 

 ヴァーリは横から現れたフェンリルの大きな口に食われてしまう。

 

「ぐはっ!」

 

 ヴァーリを噛み砕いたのはスコルとハティではなく本物のフェンリル。一誠がグレイプニルで封じられてるハズのフェンリルの方を振り返ると、子フェンリルが口に鎖を咥えていた。リアスたちと戦いながら親を開放したのだ。

 吐血するヴァーリ。牙が白銀の鎧を難なく嚙み砕かれたが、何とかヴァーリの体を貫くことはなかった。

 戦闘開始時からずっと闇に紛れ隠れていた匙がラインを伸ばして僅かだがフェンリルを後ろに引っ張ったのだ。それによりヴァーリが致命傷を負う事だけは避けることができた。

 

「神様とのガチンコ戦闘には到底ついて行けないが、こういう役割ならここにいる誰よりも上手い自信があるぜ!」

 

 フェンリルは体に巻き付くラインを逆に引っ張って匙を釣り上げようとしたが、ラインは簡単に千切れてしまい匙を釣り上げることはできない。

 繋がったラインをこうして利用されることを恐れた匙は、最初からフェンリルをちょっと引っ張ったら全部ちぎれてもいいくらい強度を弱くしていたのだ。

 

「さあ、かくれんぼしようぜ」

 

 僅かに姿を現した匙はフェンリルを挑発し再び闇に姿を消した。

 倒せなくても自分がフェンリルの注意を引くつもりの行動だったが、フェンリルは匙の姿も気配も追えなくなると匙を無視して一誠たちの方を向く。

 

「私が背後を取る白龍皇に気づいてないわけないだろう。フェンリルめ、余計なことを」

 

 自分を救ってくれたフェンリルに向かってロキが言う。実際のところロキは本当に白龍皇が背後を取ったことには気づいており、攻撃と同時に仕留めるつもりのカウンターを食らわせてやろうと心の中でニヤニヤしていた。その場合、ヴァーリは致命傷どころのダメージではなかったかもしれない。

 

「ヴァーリッ!」

 

 一誠はヴァーリを救出するためにフェンリルへ突貫する。扱えないミョルニルは元のサイズに戻しておく。

 フェンリルは一誠の突貫に特に身構える様子はせず、真正面から向かってくる一誠よりもロキの方を見ていた。

 

「この駄犬がッ!」

 

 フェンリルの鼻先へ力をこめたストレートを打ち込もうとするが、前足の薙ぎで簡単に迎え撃つ。フェンリルの爪は赤龍帝の鎧ごと難なく一誠の体を切り裂いた。

 口と腹から血を飛び出させる一誠にフェンリルは決してトドメを刺そうとはしない。それよりもロキが気になって仕方ないから。

 

「ぬぅ! そやつらはやらせんっ!」

 

 タンニーンが火炎の玉で一誠たちを支援しようとする。すごい熱量と大きさだが、フェンリルはまた余所見をして逃げようとしない。一誠の攻撃と同じく逃げるまでもないから。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 透き通る美声な咆哮(ほうこう)が一帯を震わせタンニーンの炎が打ち消される。龍王の一撃もフェンリルは咆哮のみで打ち消す。

 しかし、タンニーン自体は目障りと感じたのか、フェンリルは一瞬で姿を消しタンニーンを切り裂いた。

 

「ぐおおおおおっ!」

 

 悲鳴を上げるタンニーン。

 巨大な体が同じく巨大な狼によってズタズタに切り裂かれる。いまいち集中力に欠けたフェンリルによってドラゴン三体があっという間に戦闘困難な状態に陥った。

 タンニーンは切り裂かれながらも奥歯にしまっていたフェニックスの涙を噛み砕いて飲んだ。それにより瞬時に傷が煙を立てて消えていく。

 続いて一誠もいくつか支給されたフェニックスの涙が入った小瓶を取り出し傷口にかけて傷を癒す。

 

「う~ん、なんだか戦場の見栄えがイマイチだな。もっと迫力のあるものにしたいのだが悪魔共にこれ以上期待はできそうもないし……そうだ! こいつも出せば少しは賑やかになる!」

 

 ロキはいいことを思いついたと指を鳴らす。

 ロキの足下の影が広がり、そこから巨大な細長いドラゴンが複数体現れる。その姿に一誠は見覚えがあった。それもそのはず、それの本物に一誠は一度会ってるのだから。

 

「ミドガルズオルムも量産していたのかッ!」

 

 タンニーンが憎々(にくにく)しげに吐く。

 その巨大な細身のドラゴンは、一誠たちが以前アドバイスをもらいに行ったミドガルズオルムそっくりだ。そんなドラゴンがタンニーンほどの大きさに縮んでるとは言え五体も現れた。

 量産型のミドガルズオルムは一斉に火を吐く。

 

「その程度でッ!」

 

 量産型ミドガルズオルムの炎はタンニーンの火炎で吹き飛ばされていく。

 ただでさえ劣勢だった戦況か敵の数が増えたことでさらに酷くなる。

 

「こなくそ!」

「防御に回ったら負けよ! 攻めて!」

 

 美猴とリアスの声。グレモリー眷属とヴァーリチームは子フェンリルと死闘を繰り広げていた。

 

「雷光よッ!」

 

 バラキエルが朱乃の放つ雷光よりも十倍以上の出力の雷を天から落とし、子フェンリルにぶつける。が、子フェンリルはダメージを受けても依然平気な様子で攻撃を開会する。実際にダメージは受けているのだろうが、戦闘意欲は微塵も衰えを見せない。

 

「赤龍帝と練習したのは伊達じゃないんでね!」

 

 木場は高速で動き回り、子フェンリルの動きに追いつき、聖魔剣を振り下ろす。

 聖魔剣が頭部に突き刺さり、子フェンリルの額から鮮血が噴き出す。

 

「ぐわっ!」

 

 それをチャンスを攻撃を加えようとしたゼノヴィアが子フェンリルに前足で反撃を受けて鮮血を噴き出しながら吹き飛ばされる。

 

「ゼノヴィア!」

 

 イリナが手に持っていたフェニックスの涙をゼノヴィアに振りかける。それと同時に光の槍を投げつけた。それはダメージにはならなかったが、一応牽制にはなった。

 フェニックスの涙のおかげで傷がふさがり、ゼノヴィアは再びデュランダルとアスカロンの二刀を構える。

 

「ギャスパー! やつの視界を奪って! 小猫はその瞬間に仙術で打撃をどこでもいいから入れてちょうだい!」

 

 リアスが叫ぶと、ギャスパーの体は無数のコウモリへと化して子フェンリルの目に集まり、視界を奪う。

 

「えいえいえい!」

「少しでもフェンリルの気を断ちます!」

 

 ギャスパーのフォローで一時的に視界を断たれた子フェンリルへ小猫が足へ一発。

 

「ゼノヴィア、今よ!」

 

 リアスの指示を受けて、ゼノヴィアが二刀を大きく構える。

 

「まだまだ負けない!」

 

 ゼノヴィアの気合の言葉が辺りへ木霊する。

 ディオドラの眷属相手に見せた二刀によるオーラの波動を子フェンリルに解き放つ。

 子フェンリルは聖剣の波動に包まれていく。ゼノヴィアの攻撃は子フェンリルの体に大きな傷を与えたものの、いまだに倒れはしない。

 

「いや、ここから!」

 

 木場が子フェンリルの足下に聖魔剣を大量に出現させ一時的に足を止める。その隙に高速で斬りこんでいく。そこへ朱乃の落雷で追撃する。

 その一方で―――。

 

「こいつはどうだ?」

 

 少し離れたところではタンニーンが大出力の火炎で量産型ミドガルズオルムを攻撃していた。戦場を炎の海が大きく包み込む。

 量産型のミドガルズオルムには龍王の炎は荷が重く、一匹がもがき苦しみ炎の中で消し炭となる。

 

「回復を! そちらも!」

 

 アーシアも合間合間にダメージを受けた者へ後方支援の回復のオーラを飛ばす。効果は絶大だが、休む暇なくオーラを送り続けているので疲労が募る。

 リアス眷属が相手している子フェンリルとは別のもう一匹の相手をするヴァーリチームは。

 

「オラオラオラオラ!」

 

 美猴が如意棒の乱打で子フェンリルを何度も殴打していく。

 

「デカくなれ、如意棒ッ!」

 

 巨大なサイズになった如意棒を振るい、子フェンリルの頭部へ鋭く打ちつける。

 

「にゃははは♪ それそれ足止め」

 

 黒歌が術で子フェンリルの足下をぬかるみに変え、足を取られ動きを封じられた子フェンリルにアーサーが強いオーラを放つ聖王剣で斬りかかる。

 

「とりあえず、片目を奪っておきますか」

 

 子フェンリルの左眼を聖王剣で大きく抉っていく。

 

「次は爪」

 

 さらにそのまま肉ごと前足の爪を削ぎ落し。

 

「そして、その危険すぎる牙も! この聖王剣コールブランドならば、子供のフェンリルごとき空間ごと削り取れるはずです!」

 

 聖王剣が空間を震わせなが、子フェンリルの牙を削り取った。

 さすがに左眼、爪、牙とやられれば、子フェンリルも激痛で悲鳴を上げた。

 苦戦しているリアス眷属と違い、ヴァーリチームは子フェンリル相手にも優勢に戦いを進める。

 

「戦場が栄えたのはいいものの、少々戦況が不細工だな」

 

 子フェンリルのスコルとハティ、量産型のミドガルズオルムが以外にも苦戦しているのを見てロキがつぶやく。ついさっき戦っていた一誠とヴァーリ達など眼中になく。

 

「二天龍が思った以上に弱く退屈していたところだ。――――少しばかり悪戯でもするか」

 

 ロキは邪悪な笑みを浮かべロキの魔獣たちと戦うリアス眷属とヴァーリチームを見る。




 思った以上にめっちゃ長くなってしまった! キリのいいところで後編に分けようと思ったが、キレるところがない! なので半場無理やり切りました。
 原作読んで乳神とかのくだりはどうしようかと悩みます。前作では触れなかったので読み飛ばしていたんですが、読んでみると茶番が酷い。あの状況で空気をぶち壊すようなギャグはないなと感じました。
 アンチ・ヘイト作品を書いてる身でありますが、私なりに原作を尊重して乳神のくだりも書くつもりでしたが……辛いな、どうしよう。

 なんか嫌な部分で終わりましたが、筆が乗れば年内中にもう一話いけるかもしれませんが、とりあえず年内の投稿はおそらくこれが最後です。
 それでは皆様、よいお年を。
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