無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 特に反対意見が出なかったので雪女編は先延ばしにすることにしました。
 修学旅行編前に描かなくてはいけないシーンだったけど、一誠を魅せるシーンは筆が全くのらずつらい。
 基本好感が全くもてない主人公が活躍してるシーンは見てて辛くなるタイプです。

 読者も作者も楽しみにしてる本編は早めに書き上げたいと思いますので、今回はこれでご容赦を。


過小な過大の評価

 北欧騒動も終わり、しばしの平穏な日常が訪れていた。

 なぜしばしなんて言うかって? どうせ数週間後くらいにはまたトラブルがやってくるのは目に見えてるからね。

 一誠の赤龍帝のオーラに加えて禍の団(カオス・ブリゲード)も活発に活動しているこの状況ではそれも仕方ない。日本への被害をせめてこのラインで食い止めるためと思って頑張ろう。

 

「どうしたんですか? 誇銅さん」

 

 ベットの中から罪千さんが下から僕の顔を覗き込みながら訊く。このしぐさが可愛い罪千さんをより可愛く見せる。

 おっと、変な心配させちゃったかな。

 

「大丈夫ですよ。すこーし考え事してただけですから」

「そうですか。もしも何かあれば遠慮なく言ってください。私なんかでお役に立てるならいつでも!」

 

 そう言いながらぎゅっと僕を抱きしめる。僕より背の高い罪千さんだけど、まるで子犬のような可愛さだ。本人のじゃれ方もまるでペットのようだから余計にね。

 

「誇銅さん♪」

 

 幸せそうな笑顔を浮かべながら僕の胸に頬をスリスリしている。こんな状況をもしも誰かに知られたらと静かに危機を感じている。まあ、年頃の女性と頻繁に一緒のベットで寝てるのもアウトな気がするけど、僕にとってこれは家族との健全なスキンシップだからセーフなの!

 じゃあ何に危機を感じてるかって? それは、罪千さんの服装にある。

 

「ねえ、罪千さん。なんでワイシャツ一枚なの……?」

 

 ベットの中で甘える罪千さんはいわゆる裸ワイシャツなのだ。罪千さんの方を見ると、無防備な豊満な胸の谷間が見えてしまう。一誠程じゃないにしろ僕だって年頃の男なんだからね!

 

「前に桐生さんが言ってたんです、こういう格好は男性が喜ぶと」

 

 なんとなく予想してたけど、やっぱり桐生さんだったよ! あの人はなんてことを罪千さんに教えたんだ!

 

「なので、誇銅さんに喜んでいただこうと誇銅さんが起きる前に着替えたんですが……もしかして、こういうのお嫌いですか?」

 

 ヤバイ、すごい破壊力だ! 悔しいけど、桐生さんのいう事は正しい。

 普段は控えめで清楚な罪千さんがこんな大胆な格好をするギャップ。さらに純粋に僕に喜んでもらおうとする健気さがさらに効果を上乗せしてくる!

 

「いや、嫌いじゃないけども。むしろ男としてこんなに好意的に接してもらえるのはうれしいと言うか」

「よかったです! ちょっと恥ずかしかったですけど、誇銅さんに喜んでいただけたなら私は幸せです!」

 

 うれしそうにさらに僕に抱き着く。甘え方もさっきよりも激しくなった。

 藻女さんの二年間のアプローチでも感じたことない危機を今感じてる! 藻女さんは常に恋愛感情以外に性的な関係を望んだ表現をされてきたけど、時代の風潮(ふうちょう)からこういうことはしてこなかった。一方で罪千さんは単純に僕を喜ばせようとこういうことをしてきている。純粋ゆえの無防備! た、耐えるんだ僕! 藻女さんの熱い誘惑からも耐えてきたんだからできる!

 

「長いこと生きてますけど私、男性には襲われて無理やりされた経験しかなくて、どうすれば普通に喜んでいただけるかわからなくて。もしも誇銅さんに引かれたらどうしようと思っちゃいました」

 

 うぐっ! 子供のような純粋な気持ちでこういうことを……いや、純粋だからできるのかもね。

 思い出すんだ、普段の罪千さんとのスキンシップを。まるで大きな犬を可愛がってるような感覚、そして時折見せる淡い狂気を。……ふぅ、何とか少し落ち着いてきたぞ。よし! これで冷静な状態で着替えてほしいと言えるぞ! そう言うのはもっと男女として深い関係になってからだと。

 

「大好きです、誇銅さん♪」

 

 うっ! 危ない危ない、危うくダメになるとこだった。せっかく平常心を取り戻してきたところなのにまた頭に熱が溜まってしまったよ。駄目だ、今迂闊に動くとうっかりとんでもない事態に発展してしまいそうだ。そういうハプニングは漫画の主人公だけで十分だよ。

 その後冷静になってはまた混乱と言う状態を一時間近く続けることとなった。ここまでの展開になっておいて事を穏便に済ませた自分を褒めてあげたいよ。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 朝から酷い目にあった。まあ、考え方によってはものすごくいい思いをしたとも言えるけども。今の僕にはちょっと刺激が強すぎるよ。

 無事朝を乗り切った僕は遅くなったけどいつも通りのメニューをこなす。休日だったからよかったものの、平日だったら間違いなく遅刻してる時間だ。あれから一時間も硬直状態が続くとは思わなかったよ。罪千さんもあのまま寝ちゃいそうになるし。

 結果的に大事に至る前に何とかしたけどね。その後説明したら土下座された。ちょっとしたことでも必死に謝る癖があるけど、土下座までしたのは初めてだったから驚いたよ。さらには土下座状態から「すすす、すいませんでした! 死ぬ以外なら何でもしますから、捨てないでくださいご主人様!!」と言われた時は本当に困った。いや、そんなことで大事な家族を捨てたりなんかしないからね?

 外にランニングに出たのも半ば逃げ出したようなものだし。ああ、朝のことがまだ頭に残ってる。こんな煩悩だらけじゃ質のいい鍛錬はできそうもないな。仕方ない、今日は基礎トレーニングを中心に後は軽くで休日を満喫するとしよう。

 家からは少し遠い緑地公園内を網羅するように走り、帰りはなるべく遠回りになるように足場の悪い道をあえて選んで家に帰る。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、誇銅さん」

 

 笑顔で出迎えてくれるエプロン姿の罪千さん。よかった、裸エプロンとかじゃなくて。―――まあ、男として見たい気持ちは少しあるけども。……ダメだ、朝の一件からか今日の僕はエロへの思考に行きがちだ。早くいつも通りに思考を戻さないと。

 

 

 

 

 

 

 今日も誇銅さんはとっても優しいです。朝にあんな失礼なことをしてしまったのすぐに許してくれて笑顔を向けてくれる。それだけじゃありません。それより前にも私はいっぱい誇銅さんにご迷惑をおかけしてしまいましたのに、誇銅さんは笑って「次は頑張ろう」と言っていつも慰めてくれます。

 私みたいな醜い化け物を引き取ってくださったのに、私はそのご恩に報いることもできずに迷惑をかけてばかり。それでも誇銅さんは私に優しく接してくださる。

 そんな誇銅さんの一部を舐めると、胸の奥底から暖かいものが溢れ出して頭もお腹も幸せでいっぱいになります。

 ああ、誇銅さんの汗……。いい匂いがしますぅ。

 

「……どうしたの? 罪千さん」

「い、いえ、なんでもありません。すぐにタオルお持ちします」

 

 いけないいけない、ついつい誇銅さんの匂いにボーっとしてしまいました。……けど、誇銅さんの汗はどんな味がするんでしょうか? 指をしゃぶるだけでも美味しくて優しい味が私の舌と心を満たしてくれるのに。きっとそれよりも濃くておいしいんでしょうね。

 でも、そんなの舐めたら自分を抑えきれる自信がありません。誇銅さんを食べてしまわなくても襲ってしまうかもしれない。誇銅さんはリヴァイアサンである私を信頼して指を差し出してくれているのに、その信頼を裏切るわけにはいきません。

 それに……それは流石に死んでも抑えるつもりですが……もしも、万が一でも誇銅さんを、ほんの少しでも食べてしまうようなことがあれば……ヒィィ!

 

「ど、どうしたの罪千さん!」

「な、ななな、なんでもありません! タ、タオルどうぞ!」

 

 私の差し出したタオルを誇銅さんは「ありがとう」と笑顔で受け取ってくれる。その笑顔だけでも私は十分幸せな気持ちになります。

 そうですよね、私はこれでも十分幸せなんですから。例え誇銅さんを味わえなくても、お傍に置いてもらえるだけで十分すぎるほどうれしいです。

 

「ありがとう」

 

 軽く汗を拭いた誇銅さんは使用したタオルを洗濯籠に入れてから台所へと向かう。運動した後は喉が渇きますからね。

 誇銅さんが台所に行った後私は洗濯籠に一枚だけ入っているタオルを手に取る。誇銅さんが汗を拭いたタオル……これならいいですよね? 

 使用済みのタオルに顔を埋めると誇銅さんの匂いがする。付きたてで匂いも強くて、噛むとちょっとだけ誇銅さんの味がする。やっぱり本人からいただけるものよりも薄いですがそれでもおいしい。

 

「はうぅ、誇銅さん♡」

「罪千さん」

「ひゃぅ!」

 

 誇銅さんのタオルに夢中になっていると後ろから誇銅さんの声が! 驚きながらも振り向くと、やっぱりそこには誇銅さんが。み、みられちゃいました!?

 もしも見られてしまってたなら私、誇銅さんに……。

 

「あああ、な、なんでしょうか」

「僕はただ着替えを……」

 

 誇銅さんの手にはさっきまで着ていたらしいシャツが。よく見るとジャージから着替えていた。

 だけど問題なのは誇銅さんのタオルを堪能していたのを見られていたかです。

 

「そそそ、そうですか。ではお洗濯しておきます」

「う、うん? ありがとう、お願いね」

 

 よかった、この様子なら見られてなかったみたいですね。もしもこんなことをしてるところを見られていつもみたいに接してくれなくなったらと思うと。ほ、本当にみられてなくてよかったですぅぅ!

 

「いつもありがとね」

「いえ、住まわせてもらってるのですからこのくらい。むしろ誇銅さんには余計負担をかけてしまって、このくらいのことしかお役に立てなくて申し訳ありません」

「そんなことないよ。罪千さんが一緒にいてくれて僕はとっても嬉しいよ」

 

 そう言って誇銅さんはお部屋の方向へ行きました。はうぅ、誇銅さんには本当にもらってばかりです。誇銅さんのご厚意に報いるためにもっと誇銅さんのお役に立ちたいですけど、万が一聖書の人たちに私がリヴァイアサンだとバレたら余計にご迷惑をかけてしまいます。

 なのでとりあえず誇銅さんの使用済みタオルとシャツを自分の部屋に持っていくことにしました。ひぃぅぅ、すいませーん! 悪いことなのはわかってるんですけど我慢できませんでした!

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「天使の私が上級悪魔のお屋敷にお邪魔出来るなんて光栄の限りです! これも主と……魔王さまのおかげですね!」

 

 楽しそうな様子のイリナさん。

 修学旅行間近、僕たちグレモリー眷属とイリナさんはリアスさんのご両親とともにグレモリー家でお茶会をしていた。

 冥界にちょっとした用事があったようでこれはそのついでらしい。何度来てもこの冥界の空気は好きになれそうにないや。

 優雅に紅茶を飲みながら世間話。ものすごいセレブ感が漂ってる。でも、こういう使用人に囲まれながらってのは落ち着かないよ。

 

「そういえば、一誠さんたち二年生の皆さんは修学旅行間近でしたわね。日本の京都だったかしら?」

「は、はい。もうすぐ行く予定です」

 

 一誠が答える。僕も京都で藻女さんたちに会うのが楽しみな反面、京都で問題を起こさないか心配だ。

 

「去年、リアスがお土産で買ってくれた京野菜のお漬物がとても美味しかったわね」

「俺……自分が旅行先で購入してきます」

「あら……そういうつもりで言ったのではなかったけれど……。ごめんなさいね、気を遣わなくてもよろしいのよ?」

 

 リアスさんのお母さんは口元を手で隠しながら頬を赤くする。

 その後も他愛もない会話が続き、それを終えると僕たちは転移用魔法陣で帰ろうとした。

 これでやっと帰れると思ったのだけど、その前にグレモリーのお城にリアスさんのお兄さんが戻っているというので、帰り際に挨拶だけすることになった。

 魔王様に会いに行くと、魔王様の他にもう一人―――サイラオーグさんの姿が。

 

「お邪魔をしている。元気そうだな、リアス、赤龍帝(せきりゅうてい)

 

 この状態でも覇気のようなものを感じる。存在感からして他の悪魔と格が違う。欠点を上げるとするなら、その存在感が強すぎていろいろバレバレなところかな。

 そういう気配から得られる情報ってのも馬鹿にならないからね。それが強ければ強いほど得られる情報は多くなり、それをもとに有効な戦術を組み立てたり、勝機が少ない相手と逃げたりできる。

 

「ええ、来ていたのなら一言言ってくれても良かったのに。けれど、そちらも元気そうで何よりだわ。―――と、あいさつが遅れました。お兄様、ごきげんよう。こちらにお帰りになられているとうかがったものですからご挨拶だけでもと思いまして」

「気を使わなくてもよかったのだが、すまないね。ありがとう」

 

 そう言って魔王様は微笑む。

 リアスさんは挨拶後、サイラオーグさんがここに来た理由を訊く。

 

「お兄様、サイラオーグがここに来ていたのは……?」

「うむ。バアル領の特産である果物などをわざわざ持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせてしまって悪いと思っていたところだ。今度ぜひともリアスをバアル家お屋敷に向かわせようと話をしていたのだよ」

 

 と魔王様は言う。そうか、確かに魔王様から見てもサイラオーグさんは母方の従兄弟でしたね。

 

「今度のゲームについていくつか話してね。リアス、彼はフィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールを一切除外して欲しいとの事だ」

 

 魔王様の言葉を聞いてリアスさんは驚き、そして目を厳しくした。

 

「サイラオーグ、それってつまり、こちらの不確定要素を全部受け入れるって事かしら?」

 

 リアスさんの問いにサイラオーグさんは不敵に笑む。

 

「ああ、そういう事だ。時間を停めるヴァンパイアも、女の服を弾き飛ばし、心の内を読む赤龍帝の技も、俺は全部許容したい。お前達の全力を受け止めずに大王家の次期当主を名乗れる筈が無いからな」

『―――ッ!』

 

 サイラオーグさんの告白に眷属の皆が息を飲んだ。

 それが正しいのかは置いて、気迫と覚悟は伝わったよ。この人は僕たちの全力を受け止めようとしていることに。

 サイラオーグさんの視線がリアスさんを捉え、そして一誠へ移る。

 

「……怖いですぅ。僕の力を前向きに受け止めようとするなんて……」

 

 僕の服を強く掴みガクガクしているギャスパーくん。いつもなら僕の後ろに隠れていそうなのに、今日は一歩下がってはいるけどきちんと横にいる。ギャスパーくんなりに強く立ち向かおうとする姿勢なのかな。

 

「うむ、ちょうど良い。サイラオーグ、赤龍帝―――イッセーくんと少し拳を交えたいと言っていたね?」

「ええ、確かに以前そう申し上げましたが……」

「軽くやってみたら良い。天龍の拳、その身で味わいたいのではないかな?」

 

 魔王様の言葉に一誠は驚愕していた。

 驚いて目をパチクリしている一誠を無視し、魔王様はリアスさんに問いかける。

 

「リアスはどうだろうか?」

 

 リアスさんはしばし考え込み、意を決したように答えた。

 

「……お兄さま……いえ、魔王さまがそうおっしゃるのでしたら、断る理由がありませんわ。イッセー、やれるわね?」

「……は、はい! 俺で良かったら!」

 

 実質退路を断たれた一誠は一歩前に出てそう宣言した。

 だけど考えようによってはいい機会だ。若手最強と呼ばれるサイラオーグさんの力をこの目で見れる。

 おそらく一誠ではサイラオーグさんから本気を引き出すのは無理。だけど僕ならそれでも得られる情報は普通よりは多いと思う。

 

「では、私の前で若手ナンバーワンの拳と赤龍帝の拳、見せてくれ」

 

 魔王様の言葉を受けてサイラオーグさんは、気迫溢れる笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 僕たちはグレモリーのお城の地下にあるトレーニングルームへ移動した。駒王学園のグラウンドが丸ごと入ってしまいそうなほど広い。

 僕たちは少し離れた場所で待機し、一誠とサイラオーグさんは中央で向かい合う。

 サイラオーグさんが貴族服を脱いでグレーのアンダーウェア姿になる。

 すごい筋肉量だ。術を使用した国木田さんにも劣らない程に。

 

「ドライグ、いくぞ」

 

 一誠は籠手を出現させると素早く禁手のカウントを始めた。

 サイラオーグさんは一誠のカウントが終了するまで何もせず待つ。

 

WelshDragonBalance Breaker(ウェルシュドラゴンバランスブレイカー)!!!!!!!!』

 

そしてカウントが終了し、一誠は『赤龍帝の鎧』に身を包ませ、背中のドラゴンの翼を広げて攻撃の構えを取る。それを確認しサイラオーグさんも構えを取った。

 背中のブースターを噴かせ、一誠らしい愚直な初撃を繰り出した。

 一誠は右ストレートの構えでただ突貫するが、サイラオーグさんは避けようとしない。

 映像で見た限りサイラオーグさんなら避けられるだろうけど、もしも避けきれなかった時に予想外のダメージを受けてしまう。避ける自信がなく受けきれる自信があるならばあえて避けないのも有効な手段だ。

 まあ、実際はそんな考えではなく単純に一誠の攻撃を受け止めようとしただけだろうけども。

 一誠の攻撃は盛大な打撃音を鳴り響かせ、完全に顔面へクリーンヒットした。

 一誠は素早く後方へ退いた。ここで追撃を加えようとするほど楽観的ではないか。

 攻撃を受けたサイラオーグさんには傷一つなく、ダメージを受けた様子はない。防御もなしに全くの無傷。

 サイラオーグさんは殴られた部分を指でさすると笑みを見せる。

 

「いい拳だ。まっすぐで、強い想いが込められた純粋な拳打。並の悪魔ならこれで終わる。だが―――俺は別だ」

 

 サイラオーグさんは素早い動きで一誠の眼前から姿を消し、一瞬で背後に回り込んでパンチを放つ。

 何とか反応した一誠は両腕をクロスさせ受け止めたが、鎧の籠手部分が破壊された。

 大勢を完全に崩した一誠は背中のブーストを噴かして距離を取り、破壊された籠手を再形成する。

 

「俺の武器は3つ。頑丈な体、動ける足、そして体術だ」

 

 再び一誠の目の前から消え、今度は横手からボディーブローを仕掛ける。それを一誠は体をひねって避けるが、拳圧で鈍い音と共に鎧の腹部に亀裂が入る。

 

「クソ!」

 

 毒づきながら拳を打ち出すが、またサイラオーグさんは顔面で受け止める―――ダメージはなし。

 何かを感じ取ったのか一誠はブーストを噴かし後ろに飛び退き、カウンターの蹴りを避けた。

 サイラオーグさんの空振りした蹴りは、このトレーニングルームの中央から端までに大きな亀裂を生み出す程だった。

 あれが当たっていたら一誠は戦闘不能まで追い込まれていたかもしれないね。

 手を抜いてるとは言えサイラオーグさんの戦闘を直接見てわかった。―――これなら大丈夫。

 持つべきものを持たずに生まれた悪魔。残された肉体のみをただひたすら鍛えたパワーは凄まじいものだ。才能を受け継がなかったゆえに生まれた武の才能。他の悪魔と見比べれば一目瞭然の破格の力。どれほど過酷な修行と時間を費やしたかはその力を見ればわかる。

 まともに打ち合えば九尾流柔術を加味しても危うい。しかし、一番危惧していたものがなさそうだ。それがないならどれだけパワーを隠していても勝機は薄くない。

 

「すごいです」

 

 一誠がそう口にした。僕もさんざんこんなことを言ったが、サイラオーグさんがすごい人だということには一切変わりはない。それがこうして愚直に強さとして表れている。

 

「その強さになるまで、全部、鍛えたんですか?」

「己の身体を信じてきただけだ」

 

 サイラオーグさんの言葉を聞いて一誠の様子が変わった。おそらくサイラオーグさんに感化されて戦いを楽しみ始めたってところかな?

 

「『戦車(ルーク)』にプロモーションッ!」

「『戦車(ルーク)』だと?」

 

 一誠が戦車(ルーク)に昇格したことに怪訝な表情のサイラオーグさん。いままでの試合では女王(クイーン)に昇格することが殆どだったからね。でも僕が一誠の立場だったら、きっと同じようにする。

 サイラオーグさんの姿が三度消える。一誠は足に力を入れて根を張るように踏ん張り、オーラを体にまとって完全防御態勢。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 倍加させた力を防御と右の拳に込めている。何をするかバレバレだが、サイラオーグさんが相手なら受けてくれるだろう。

 今度は一誠の真正面に現れたサイラオーグさんが、一誠の腹部にブローを打ち込んだ。

 一誠は足がガクガクして相当なダメージを受けたようだけどしっかりと一撃を耐えきった。だいぶギリギリみたいな様子だけども。

 サイラオーグさんが拳を引いた時、再び一誠の右ストレートが顔面に打ち込まれる。

 

 ブッ!

 

 その一撃は、サイラオーグさんに鼻血を出させるに至った。と、同時に―――。

 

「ガハッ!」

 

 一誠は兜のマスクから血を吐き出した。受けたダメージと与えたダメージに雲泥(うんでい)の差がある。全く割に合わない反撃だけど、今はそれしかなかったろうね。

 

「『戦車(ルーク)』への昇格か、誤った判断でもなさそうだな。こちらも力を込めて拳を放ったのだがな。おまえの『戦車(ルーク)』としての攻撃と防御は見事だった。やれることが多くなる『女王(クイーン)』よりも攻守のみが高まる『戦車(ルーク)』のほうがパワータイプのおまえには似合ってるかもしれないな。……どうした? 体から疑問が見られる。俺が相手では問題か?」

「いえ、なんていうか……。上級悪魔の方で、俺のことを……その、バカにする人が多かったので……。サイラオーグさんは最初からマジできているから驚いているんです」

 

 上級悪魔は転生悪魔を下に見る傾向がある。一誠が赤龍帝だとしてもそれはさほど変わらずバカにされることが多かった。神滅具を持っていてこれなのだから一般の転生悪魔がどんな扱いをされているのか……。

 サイラオーグさんは一誠の言葉を聞いて、息を吐いた。

 

「そうか。おまえは、いままで過小評価を受けてきたのか。安心しろ。俺はおまえを過小評価などしないッ! 旧魔王派の幹部、そして北欧の悪神と真っ正面から戦い、生き残ったおまえをどうして過小評価などできようか」

 

 いや、結構妥当な評価だと僕は思いますけど……。

 確かに一誠は悪魔の見下した態度から過小評価を受けて来た。

 だけどそれは一誠が人間の転生悪魔だからであって悪魔の物差しで測るなら神滅具を持っている時点で侮れるわけがない。

 その一方でそういう偏見なしに地力だけで一誠を計ったヴィロットさんやロキ様、鵺さんも同じように弱いと判断した。ロキ様は一誠の想いの籠った拳を軽いと言い、鵺さんは一誠もヴァーリさんも五十歩百歩の実力者と評価した。

 つまり一誠の今までの評価は、不当ではあれど過小ではない。そして悪魔はそれ以上に自分を過大評価していた。と、僕は思う。

 サイラオーグさんの言葉を聞いて一誠は震え、サイラオーグさんが不敵に笑む。

 

「俺はおまえと戦うのが楽しいぞ。いい拳を放ってくれるからな。鼻血を流したのは最近ではあいつとのスパーリングの時くらいだ。何より同じタイプと相対(あいたい)した喜びは大きい。その拳、鍛えこんでいるのだろう? 一発食らえばわかる。遠慮するな。俺を全力で殴り倒しに来い。そのためにこの場に立っているのだろう?」

 

 サイラオーグさんは男気溢れる笑みを一誠に向けた。

 サイラオーグさんは一誠を認めている。もはや過大評価も過小評価も大した意味を持たないだろう。

 

「来い! 兵藤一誠! 俺を打倒することだけ考えろッ! 赤龍帝の力を俺に見せてみろッッ!」

「ええ、いきますよッ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoost』

 

 一誠はドラゴンショットを放つがサイラオーグさんに横なぎの打拳打に弾き飛ばされる。

 魔力攻撃は効果がないとわかると今度はカウンター狙いで拳を構える。

 

「イッセーさん!」

 

 突然、アーシアさんが叫ぶ。一体どうしたんですか?

 

「パ、パワーアップです! お、お、お、おっぱいを触ればイッセーさんはもっと強くなるんです!」

 

 アーシアさんの叫びに全員がぽかんとした顔になった。しかし、ゼノヴィアさんがハッとしアーシアさんい続く。

 

「そ、そうか! イッセーはおっぱいドラゴンだ! 私たちの胸を触れば力が増す! 部長! どうか、ここでスイッチ姫野お役目を披露していただきたい!」

「リアスお姉さま! わ、私でもかまいません! どうか、イッセーさんにお、お、おっぱいの力を! このままでは負けちゃいます!」

 

 ゼノヴィアさんとアーシアさんが部長に懇願する。僕は二人の正気をまず疑った。ヤバイな、ドラゴンの影響かはわからないけど相当一誠に毒されてる……。

 流石にリアスさんの二人の突拍子もない申し出に困惑している様子。

 

「ま、まあ、一誠が女性の胸で強くなるのは事実だけど……」

「そ、そうですね。一誠先輩はそれで信じられない程強くなりました」

 

 僕とギャスパー君はそっと他のみんなから距離をとった。できれば仲間と思われたくなったから。無駄な抵抗だけど。

 

「そうね! イッセーくんの性欲はパワーの源だわ!」

 

 どうやらイリナさんには僕たちの言葉を一誠の性欲パワーアップの肯定と解釈されたようだ。

 

「乳を触ると本当に強くなるのか? 噂ばかりと思っていたのだが」

 

 普通はそう思うよね。だけど悲しいことに一誠はそれで本当に強くなってしまう。

 だけどまあ、強くなると言っても僕の見立てでは一種の感情爆発だと思う。本当に強くはなってるけど一時的で、むしろ重要なのはそれによって所有者が強くなったと誤認識して使える力が解放されてると思われる神器。

 もはやそればかり使ってるからわかりにくいけど、一誠が使ってる魔力の殆どは神器からのもの。一誠自身の魔力はあまり使われていない。

 実際に一誠自身が開発した技は洋服破壊(ドレスブレイク)乳語翻訳(パイリンガル)の二つ。他はもはや神器が強くなったと言っても過言ではないものばかり。

 

「……本当です」

 

 搭城さんがきっちり肯定する。

 

「うふふ、それでどうするの? リアス?」

「さ、触る……の? あ、あなたが強くなりたいのなら、わ、私は……」

 

 朱乃さんが笑いながらリアスさんに訊くと、リアスさんは顔を真っ赤にして一誠に言った。

 考えようによってはこれで強くなれるなら手軽なものと割り切るのもいいかもしれない。ただ、やらされる方と見せられる方は心情的にかなり複雑だけども。

 一誠だけがまるまる得をするだけ。僕はこれで本当にパワーアップすることも、真剣な戦闘中にも性欲を爆発させられる一誠が今でも信じがたいよ。

 木場さんもやれやれと苦笑してはいるけど、嫌悪感とかは一切感じない。

 

「ふ。ふはははははははっ! なるほど、リアスの胸で強くなれるのか。ふふふ、それは覚えておこう。―――赤龍帝、ここまでにしようか」

 

 サイラオーグさんは豪快に笑うと、そう提案した。

 

「俺はまだ戦えます!」

 

 まだ戦えはするが勝機は限りなく無い。仮に性欲パワーアップをしたところで、“あの状態のサイラオーグさん”にあそこまで遅れをとってるようじゃ。

 サイラオーグさんは首を横に振る。

 

「いい覇気を放ってくれる。だろうな。俺もまだまだ戦える。だが、これ以上やると俺も歯止めが利かなくなる。最後の一撃まで味わってしまう。それではあまりにもったいない。おまえは今何かに目覚めようとしている最中なのだろう?」

 

 サイラオーグさんは貴族服を拾い、一誠に歩み寄り肩に手を置いた。

 

「ならば、それを得てからだ。最高の状態で殴り合う。それこそが、俺の求める赤龍帝(せきりゅうてい)との戦闘だ。俺たちの勝負は、後日のレーティングゲームで決めるべきだ。上役の方々と大衆の前で拳を交わしてこそ、俺とおまえの評価が決まる。次出会うときは夢につなげる舞台でだ。―――来い、リアス眷属たち。俺は全力でおまえたちを打ち倒す」

 

 サイラオーグさんはそう言い残し、魔王様に挨拶をした後、この場を去っていった。

 緊張が解け鎧を解除した一誠に魔王様が近づき訊く。

 

「どうだったかな? 彼の一撃は?」

「……似てました。俺の拳にそっくりで驚きました」

 

 魔王様はうなずき微笑む。

 神器と生身、選ばれた物と選ばれなかった者。あらゆる点で二人は非なる者同士だけど―――。

 

「うむ、キミと同じだよ。足りないものを補おうと必死で練り上げられたものだ。それゆえに力強い。すべてがストレートな攻撃。それは悪魔にないものだ」

 

 一つの武器を一途に鍛え続けたことだけは似ている。

 持たなかったからこそ辿り着いた境地、ただ一つ持っていた強力な武器。

 対極とも言えるような二人だが選択した道は同じ。愚直なパワー。いや、対極だからこそ同じだったのかもしれない。

 自分が持つはずだったものを知ったから、自分が持っているものを知ったから、悪魔の価値観からそれを選択するのは必然なのかもしれないね。

 

「ちなみに彼は両手両足に負荷のかかる封印を施して先ほど戦っていた」

 

 手加減とは違うけど、ハンデ状態であそこまで遅れを取るようではパワーアップしても怪しい。

 その告白に衝撃を受けてる様子の一誠に魔王様は続ける。

 

「彼はもうプロの『(キング)』と比べても何ら遜色はない。『禍の団(カオス・ブリゲード)』のテロも何度か防止し、悪魔側に勝利をもたらしている。しかし、イッセーくん。大したものだよ。あのサイラオーグと拳を交えてなお戦闘意識を失わないとは。彼と相対した者の中には軽い手合わせでも戦意を喪失した者が出たほどだ。自慢の魔力が通じず、肉体のみで圧倒されれば、高い魔力こそがステータスの悪魔では心が折られてしまう。位が高い家の者ほどプライドが高く、一度折れたら再起が難しい」

「俺は……もう負けたくないだけです。レーティングゲームで負けたくない。俺、ゲームではまともに勝てた事が無いんです。

 

 ライザー戦、シトリー戦の両方で一誠は黒星だったっけ。ディオドラ戦はゲーム中止でノーカウント。

 

「だから、次こそは」

 

 一誠は悔しそうな表情を浮かべ、強く拳を握っていた。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 そして修学旅行当日。

 僕からすればちょっとした実家に帰るみたいなものだから遠足前みたいな興奮は特になかった。むしろきっと怒るであろうトラブルが心配でしょうがない。

 そうなっても頼れる日本妖怪の皆さんが何とかするだろうけど、本当に申し訳なくて、何もできない自分が不甲斐なく感じる。

 そんな先の不安で眠れなかった。ももたろうと触れ合ったり罪千さんを撫でながら寝ると少しは安らげてぐっすり眠れたけどね。……まずい、僕自身も罪千さんをペットか何かと思うようになってきちゃったようだ。

 そして朝、東京駅の新幹線ホームに僕たちは集まっていた。ホームの隅でできるだけ人目を避けてね。

 

「はい、これ人数分の認証よ」

 

 見送りに来たリアスさんが旅行に行く二年生悪魔にカードのようなものを渡す。全員手に取り確認する。

 

「これが噂の?」

 

 木場さんが訊くと、リアスさんがうなずく。

 

「ええ、これが悪魔が京都旅行を楽しむときに必要な、いわゆる『フリーパス券』よ」

 

 京都の名所である寺や神社、その他のパワースポットと呼ばれる場所は悪魔が歩き回るには不都合が目立つ。

 なので京都の陰陽師や妖怪たちが特別な場合のみこの券を発行してくれるそうだ。

 まあ僕はお守り型の特別認証を藻女さんからもらってるから必要ないんだけどね。

 だけど悪魔を信用していない日本側が本当にこんなものを発行するのだろうか? おそらくこのフリーパス券もただのフリーパス券ではないだろう。

 大方、京都の重要な場所には入れないようになっていたり、監視するための発信機などの術も組み込まれてるのだろう。もちろんこれを持ってる以上、無暗に手を出してはならないと言うことでもあるんだろうけど。

 

「私達の時もそうだったけれど、きちんとした形式のある悪魔にならこのパスを渡してくれるの。グレモリー眷属、シトリー眷属、天界関係者、あなた達は後ろ盾があって幸せ者なのよ?」

 

 リアスさんがウインクすると、一誠は歓喜の声を上げた。

 

「はい! グレモリーばんざいっス! じゃあ、これを持っていれば清水寺も金閣寺、銀閣寺も余裕と?」

「そうよ。スカートか制服の裏ポケットとかに入れておけば問題なく名所に入れるわ。バンバン見て回ってきなさい」

「「「「「はい!」」」」」

 

 みんな返事をしすぐにカードをしまう。

 アーシアさんの携帯が鳴る。相手は桐生さんのようで呼び出しの電話だったようだ。僕も早く罪千さんのところに戻らないと。

 

「では、リアスお姉さま。私たち、行ってまいります!」

「行ってきます」

「行ってきまーす!」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 僕は特に「行ってきます」を言わずにささっとこの場を離れた。一応呼び止められないように気配を薄めてね。

 さてと。ちょっと里帰りしに行こうかな。藻女さん、玉藻ちゃん、こいしちゃんに会うのが楽しみだ。

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