無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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妹な不死鳥姫の編入

 自分の手のひらを見つめ僕は考えた、この力は一体何なのだろうと。

 京都で英雄派との戦いで使用した炎のゴーレム。僕の炎は炎と言えない特性があるのは理解していた。だからゴーレムを形造って耐えながらオーラを燃焼させようとしたのだ。

 平安時代での修行でも自分の炎の力を知るためにいろいろなことを試したりもした。だからこの炎がどこまで応用が利くのか、どのくらいの耐久があるかは知っている……つもりだったんだ。

 だけどあの戦いで僕は自分の炎があそこまでしぶといことを初めて知った。思い返してみれば、僕はこの炎単体の限界については特に試していない。僕の戦い方と絡めた場合ばかりで、この炎だけでどれだけ戦えるなんて知らない。

 この()に頼ってるくせに何も知らない。この力の出処も、本質も、正体も。天地万有の恐怖(ユニバース・ホラー)なんて知ろうとも思っていない。だけど最低限この炎については知っておくべきだろう。

 

「どうしたんですか? 誇銅さん」

 

 難しい顔をする僕に声をかける罪千さん。不思議そうな顔で僕の顔を覗き込む。

 

「ちょっと考え事をしてて……そうだ、罪千さんは何か知らない? 僕の炎について」

「誇銅さんの炎……ですか?」

 

 リヴァイアサンの罪千さんならもしかしたら何か知っているかもしれないという淡い期待をこめて訊いてみる。

 

「炎じゃなくてもいいんだ、これに似た何かでも」

 

 そう訊くと罪千さんは「う~ん」と悩みこむ。しばらくして首を横に振る。知ってたらラッキー程度だったし。

 

「すいませんすいません! 何もお力になれなくて!」

「大丈夫だよ。別に急いでるわけでもないし」

 

 これからゆっくり一から調べていけばいい。そう思っていると、罪千さんがおずおずと言った。

 

「あまり参考にならないかもしれませんが、実は誇銅さんの炎、ちょっと美味しそうに見えるんです。もちろん食べられないのはわかってるんですけど」

 

 僕の炎が? 神が危惧して封印したリヴァイアサンの目から見て美味しそう? それが一体どういう意味なのか全くわからないが。

 

「教えてくれてありがとう」

 

 もしかしたら何か重要なことかもしれない。お礼を言いながら罪千さんの頭を撫でる。

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 嬉しそうな表情の罪千さん。

 それにしても美味しそうでも食べられないか。……もうちょっとだけ罪千さんに協力してもらおう。

 僕は炎を小さな球体―――飴ちゃんくらいの大きさのを作り出す。

 

「ねえ罪千さん、ちょっと舐めてみてくれない?」

「ふえ!?」

「食べなくていいし、何か異変があればすぐに吐き出してもいいから。ちょっとだけ協力してくれないかな?」

「は、はいぃぃっ! もちろんです!」

 

 罪千さんは嬉しそうに了承してくれた。

 僕は罪千さんの口の中に飴玉サイズの炎の玉を入れた。罪千さんはそれを口の中でコロコロさせる。

 

「……どう?」

「やっぱり美味しくはないです。ほんのり温かいだけでなんの味もしませんし、食べようとは思えません。最初ちょっぴり誇銅さんの味がしたのは誇銅さんが持っていたからでしょうし」

 

 そう言って炎の飴を口から出す。もしかしたらリヴァイアサンの味覚から何か得られるかと思ったけど、特に何もわからなかったか。

 だけどもしかしたらこれは大きなヒントなのかもしれない。普通の炎ならば罪千さんが美味しそうなんて言うはずがない。その辺の石ころを僕達が食べ物と絶対認識しないように。僕はこれを特別な炎だと考えていたけど、もしかしたら炎に見える別の何かって可能性も出てきた。

 

「ありがとう罪千さん、いろいろ参考になったよ」

「誇銅さんのお役に立てるのでしたらいつでも」

 

 罪千さんは幸せそうな笑顔を浮かべる。褒められて喜ぶ小さな子どものような笑顔に、僕の手は自然と罪千さんの頭を撫でていた。

 平安時代ではこういう時には特別な雰囲気の場合を除いて高確率で玉藻ちゃんかこいしちゃんがやってくる。そこそこの確率で藻女さんも混ざって来ることも。自分もしてほしいと僕にじゃれてくる姿がすごく愛おしい。だけどここは藻女さんの屋敷じゃないし、当然二人もいない。

 だけどそういう気持ちが湧き出て来る。ならば! この気持を罪千さん一人にぶつけよう!

 

「ひゃぁ!」

 

 罪千さんを僕の胸に抱き寄せると、急なことだったため驚き声が漏れた。だけどそんなのお構いなしにギュッと抱き寄せた罪千さんの可愛がる。

 最初は多少あたふたして顔が熱くなっていたが、そのうち落ち着いてリラックスモードに入った。僕に撫でられながら、僕が罪千さんの唇に触れさせた指をしゃぶる。

 とりあえずは僕の炎の限界点を見極めることだね。それがわからないとこの前みたいに炎単体で動かす時に困る。

 だけどこの炎の練習をするスペースが悩みのタネなんだよね。練習、それも限界値を知ろうとするならある程度の広さは必要。誰かに見られる危険があるから外ではできない。かと言って家の中じゃ広さが足りないし、燃えないからと言って室内で火を使うのも気が引ける。こんなことなら平安時代でもっとしっかりと練習しておくんだったよ。

 

「ジジー」

 

 お昼寝から目覚めたももたろうが飛んできた。僕の肩に止まり頬ずりで愛情表現をしてくれる。よし! 今は炎の事は考えずにこの幸せを満喫しよう!

 どうせしばらくしたら一誠かリアスさんが厄介事を持ち込んで来るだろうし、ちょっと休憩するくらいいいよね?

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 翌日、僕は学校の1年生の教室前にいた。塔城さんとギャスパーくんのいるクラス。

 今日、このクラスにレイヴェルさんが転入して来た。それで休み時間に挨拶のついでにちょっと様子を見に来た。一人で行こうと思ったんだけど、運悪く一誠とタイミングが被ってしまって一緒に来ている。

 一誠の日頃の行いの悪さによる一年の女子に怖がられていると。

 

「あら、イッセーと誇銅も様子見?」

 

 リアスさんの声に振り返ると、リアスさんも来ていた。

 

「ぶ、部長もですか?」

「ええ、ちょっと気になって」

 

 と、リアスさんと共にクラスの中を見ると、塔城さんとギャスパーくんは教室の隅で会話をしている様子。そしてレイヴェルさんは、

 

「フェニックスさん、教科書はあるの?」

「フェニックスって、珍しい名字だね。かっこいいわ!」

「ギャーくんにつづいて外国人の転校生が入ってくるなんてこのクラスで良かったわ!」

 

 などなど、女子に囲まれていた。転校生が、それも外国からとなるとああなるのはよく見た光景。うちのクラスでもあんな感じだったっけ。

 言い寄ってくる女子生徒たちへの対応に困って四苦八苦している。

 返答も「あ、あの……」や「えーと……」などしどろもどろで、視線も泳ぎまくっている。

 泳ぐ視線が僕たちの方へ向いた。こちらもリアスさんのファンの一年生が騒いでいたから気になって気づいたのかも。

 途端に「失礼しますわ」と席を立ち、僕たちの方に近づいてきた。

 レイヴェルさんは僕とリアスさんの手を取ると、そのままどこかへ引っ張っていき、廊下を曲がったところで手を離してくれた。

 

「ど、どうした、レイヴェル?」

 

 一緒に来た一誠が訝しげに訊くと、レイヴェルさんは気恥ずかしそうな表情で頬を染める。

 

「……て、転校が初めてですので……ど、どう皆さんと接したら良いか分からなくて……。わ、私、悪魔ですし、人間の方々との話題が見つからなくて……」

 

 悪魔、それも上級悪魔のお嬢様が人間界の一般人が通う学校に転校してくれば話題も見つかりづらい。同じ人間でも国が違えば多少なりともそうなのだから、それが悪魔ともなれば当然だろう。

 

「会話をしたくないわけではないのでしょう?」

「……も、もちろんですわ。わ、私だって、成長しているのです! 貴族以外の方とお知り合いになって平民の生活から何かを学ぶのも大切だと思っているんです!」

 

 リアスさんが訊くとレイヴェルさんはそう答えた。ならばそう難しいことでもない、これはある意味罪千さんの時と同じ状況だ。

 僕が言おうとする直前、一誠がポンと手を叩いた。

 

「ちょっと待ってな、小猫ちゃんに―――」

「……呼びましたか?」

 

 一誠が一年生の教室に戻ろうとした瞬間、一誠の近くに塔城さんとギャスパーくんが現れた。僕たちを追って隠れて話を聞いていたからね。

 

「小猫ちゃん、お願いがあるんだ」

「……なんですか?」

「レイヴェルの話し相手……というか、学校生活面でのフォローをしてあげてほしいんだ。同じ学年だし、同じクラスだろう? 頼むよ」

 

 一誠が頼み込むと、若干不機嫌そうになる塔城さん。眉根を寄せ、三角口になっているが少し考えた後に言う。

 

「…………。……先輩がそう言うなら、別に良いですけど……」

 

「てなわけで、レイヴェル、小猫がフォローをして―――」

「……ヘタレ焼き鳥姫」

 

 一誠の言葉を遮って塔城さんがそう呟く。一瞬のうちに空気が凍り、レイヴェルさんのコメカミに青筋が浮かび上がる。震える声で静かに言った。

 

「い、今、何とおっしゃいましたか……?」

「……ヘタレ」

 

 間髪入れずに返す塔城さん。なぜに喧嘩腰!?

 

「あ、あ、あなたね! フェニックス家の息女たる私にその様な物言いだなんて……!」

「……そんな物言いだから、いざと言う時にヘタレるんじゃないの? もっと決心を持って人間界に来たと思ったのに……。イッセー先輩の手を煩わずらわせるなんて……世間知らずの焼き鳥姫」

 

 ブチン! レイヴェルさんから何かがキレる音が聞こえてきた。不気味なオーラを漂ただよわせ、ロール状の髪もウヨウヨと動き始める。

 

「むむむむむむ! こ、この猫又は……!」

「……焼き鳥」

 

 二人の背後で猫と火の鳥が激しく睨み合ってる様な映像まで見えてくるようだ。

 

「あぅぅぅぅぅぅっ……こ、怖いですぅ!」

 

 ギャスパーは小猫とレイヴェルの迫力に恐れて僕の服を掴む。足が振るえているが後ろに隠れようとしないところを見ると、ちょっと成長が見えた気がするね。

 一誠も冷や汗を垂らしながらビビっている。

 これはマズイ。思った以上に塔城さんが喧嘩腰だ。これ以上火が燃え上がらないうちに止めなきゃ。本格的に喧嘩の火蓋が切られる前に二人の間に仲裁に入る。

 

「こらこら、喧嘩しないの。塔城さん、レイヴェルさんは初めて人間界の学校に通うんだよ。わからないことだらけなのは当然。それをいきなりヘタレ呼ばわりは流石にヒドイことじゃない? それとレイヴェルさんは御家の名前をここで使うのは良くないことだよ。言われた相手は見下されたように感じるから、嫌われる要因になっちゃう」

「……すみません」

 

 レイヴェルさんは謝ったが、塔城さんはまだ納得がいかない様子。可愛い嫉妬なのかもしれないけど、だからって免罪符にはならない。だからここはズルい手を使わせてもらうよ。

 

「ねえ、一誠。僕が言ったことに間違いはあったかな? 初めて人間の学校に通うレイヴェルさんをいきなりヘタレ呼ばわりはヒドイと思わない?」

「え、あ、まあ……そうだな」

「……ごめんなさい」

 

 謝る塔城さん。一誠を持ち出されたら塔城さんも素直に謝らざる得ない。相手の気持ちを利用するような方法で悪いけど、今は一番手っ取り早い方法を使わせてもらった。

 とりあえずこの場を(しず)めることはできたが、根本的な解決には至らない。

 

「あ」

 

 そこへ別の一年生女子たちが通りかかり、持っていたプリントの束を廊下に散らばらさせてしまった。

 僕が拾おうとする前に、レイヴェルさんがいち早く手を伸ばしてプリントを拾い出した。

 

「大丈夫ですか? たしか同じ教室の方でしたわね? お名前は……まだ訊いていませんけれど」

「あ、ありがとうございます……。覚えていてくれたんですね、フェニックスさん。私は、室田(むろた)といいます」

「レイヴェルでいいですわ。室田さん」

 

 自然に手が伸びたのを見てレイヴェルさんの優しさが垣間見えた。それにしても、転校してすぐにクラスメイトの顔を覚えるなんてね。相手も感動しているよ。これなら案外すぐにクラスメイトと打ち解けられそうだ。

 続いて塔城さんとギャスパーくんもプリントを拾い出す。

 プリントを拾い合うレイヴェルさんと塔城さんの目が合うが。

 

「「ふんっ!」」

 

 プイッとお互いに顔を逸らした……。こっちは前途多難だね。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 放課後、オカルト研究部はレイヴェルさんの入部あいさつのあと、学園祭の準備作業に入った。

 オカルト研究部が学園祭で披露する出し物は『オカルトの館』

 旧校舎全体を使って様々な催もよおしをすると言う案になった。お化け屋敷や占い部屋、喫茶店からオカルトの研究報告等々……皆が出した様々な案を採用する形になった。

 旧校舎全体をオカルト研究部が任されていることで、それを全部出し惜しみせずに活用しようって方向でね。使ってない教室や物置代わりになってる教室があるので、それを利用すれば可能だろうとのこと。

 なので今は旧校舎を学園祭仕様に改装中。魔力を使えば短時間で完成するが、リアスさんは出来るだけ手作りでやりたいと言っていた。その意見にみんな賛同して準備作業に入っている。

 範囲がとんでもなく広くて面倒と思う反面、やっぱり学校行事なのだから学生らしく手作りでやりたいと思うからね。

 女子は主に衣装作りや部屋の模様替えを担当。喫茶店やお化け屋敷の衣装を作ったり、教室を専用のスペースにかえていく。レイヴェルさんにとっては新鮮なことばかりで、驚きつつも一生懸命に手伝っていた。

 一誠や木場さんや僕は男手として大工作業。トンカチやノコギリを使って木材を切り分け、組み合わせたりしている

 

「ところでイッセーくん、誇銅くん。ディハウザー・ベリアルって知ってるかい?」

 

「名前だけなら。王者だろ?レーティングゲームの」

 

 一誠の答えに木場さんは頷く。

 

「そう、正式なレーティングゲームのランク1位。現王者(チャンピオン)。ディハウザー・ベリアルだよ。ベリアル家現当主であり、ベリアル家始まって以来の怪物。もう長いこと頂点に君臨し続ける本物のゲーム覇者。―――皇帝(エンペラー)ベリアルと称されている方さ」

 

 木場さんは作業をしながら話を続ける。

 

「ランキングが20位から別次元と言われ、トップテンとなれば英雄とさえ称される。その中でもランキング5位から上は不動とも言われていて、ほぼ変動が無い状態で業界に長期間君臨しているんだ。特に3位のビディゼ・アバドン、2位のロイガン・ベルフェゴール、1位のディハウザー・ベリアルは現魔王に匹敵する力量を持つ最上級悪魔の中の最上級悪魔だよ。お三方は大規模な戦争でも起きない限りは動かないと言われてはいるんだけどね。ゲームの特性で研磨され、数多くの試合の末に生み出された結晶だって褒め称えられているよ」

 

 例え強くてもそれを披露する舞台がなければそれを磨き上げようとはなかなか思えない。レーティングゲームによって強さが地位の高さに直結する悪魔社会。彼らがどんな理由でそこまで強くなったかは分からないが、ゲームがうまく機能し生み出された結晶と言うべきか。

 

「アバドンとベルフェゴールって聞いた事無い御家の名前だな」

 

 疑問を口にする一誠に木場さんが再び答える。

 

「それはそうだね。番外の悪魔(エキストラ・デーモン)だから。彼らは現政府に関わりたくないのが御家の特色だけど、中には異端もいたって事だよ。家とはほぼ縁切(えんき)り状態でゲームに参加しているみたいなんだ」

 

 悪魔だって十人十色、特殊な事情を抱えて参加している悪魔もいるってことか。それでも参加しているってことは、レーティングゲームにそれだけの価値があるのか、家と縁切りしてまでも成したい目的があるのか。

 ―――レーティングゲームは他の種族に被害を拡大させた一方で、悪魔にはそれだけの夢と野望を与えている。それが現悪魔政府のやり方なのか。

 

「でもよ、サーゼクス様や他の魔王様もゲームに参戦出来ればランキングは変わっていたんだろうな」

「仕方無いよ。ゲームのルール上、魔王は参戦出来ないからね。魔王の眷属ならば参戦出来るけど、その方々もその気が無いって話だから。あくまで魔王の眷属として生きると言うのが四大魔王眷属の皆さんの理念だそうだよ。それに実戦とゲームは似て非なるもの。悪魔の実戦不足を補う為に設置されたゲームだけど、ゲームはゲームで特殊なルールも多いし、実戦とは戦術、戦略の巡らせ方も違う物だと僕は思う。だから、実戦で強くてもゲームでは成績が上がらないなんて珍しくないと感じるんだけどね」

 

 言ってみればレーティングゲームの選手は武術家ではなく競技者。だが鍛え込まれた競技者は武術家にとって脅威になりえる。おそらく大半の武術家は―――圧倒的体力差に押し切られるだろう。それが実践により近いレーティングゲームならなおさら。

 木場さんの言ったとおり実践で強くてもゲームでは成績が上がらないことは珍しくなくとも、その逆は珍しいかもしれない。

 そして技を磨くことに重点を置く日本妖怪は武術家。残念なことに大半の妖怪は圧倒的力の差に押し切られてしまうだろう。

 

(いくさ)が無いゆえのシミュレーション用という面もあるゲームだけど、踏まえつつも実践は別個で望んだほうがいいってことか」

 

 一誠の言葉に木場さんも頷いた。リアス・グレモリー眷属は実践経験は豊富だが、ゲームの特殊ルールには慣れていない。シトリー眷属の時のように一番の強みが出せなかったり。

 

「どちらにしても部長やキミ達が将来ゲームで覇者を目指すなら、ディハウザー・ベリアルは避けては通れない大きな壁。悪魔の世界で上へ行くつもりなら、現トップランカーは全て倒すべき存在と想定していた方が良いね。まあ、部長の『騎士(ナイト)』である僕もいずれ、その世界に飛び込まないといけない訳だけどさ」

 

 リアスさんの本格参戦は大学卒業後だっけ。つまり、あと四年か五年ってところか。まあ、その頃には僕はいないと思うけど。……流石にズルズルとまだ残ってたりしたいよね?

 一誠は頭を振って、ノコギリを天に向けて言った。

 

「とりあえずはサイラオーグさんとの試合か」

 

 木場さんも大きく頷いていた。僕はいつも通り戦車(ルーク)として最低限の働きだけでそこそこに降りるとするか。真面目に勝とうとトレーニングしている一誠たちには悪いけど、僕はマジメに戦う気はないから。

 

「僕らの情報はある程度あちらも把握している。若手ゲーム戦で映像を通して能力は認知されているだろうからね。あちら側が知りそうにないこちらの手札はイッセーくんの新技ぐらいだろうか」

「あちらだって最善の事前情報を仕入れてリハするよな」

「それはそうだよ。ゲーム前に何も調べず『なんでもかかってこい!』では『(キング)』としても眷属としても力を疑われるレベルになる。だからこそ、こちらもあちらの情報を調査しているんだけどね……」

 

 サイラオーグさんは悪魔の中では珍しく激しいトレーニングを積むタイプだったっけ。なら、今参考にしているグラシャラアボラス? だっけ、その悪魔の眷属との試合も参考程度にしかならないだろうね。

 あの時の試合は一方的だったし、あれを最低ラインとして見るのがいいだろう。

 

「けど、イッセーくんのパワーアップは視野に入っているだろうね。先日の手合わせで何かを感じ取っていたようだし。警戒はされてる。問題はあの技をどのタイミングで出すかだね。技の特性上、所見での攻撃が最も有効的だ」

「ああ、どれも癖が強いから、サイラオーグさん相手じゃ二度目はまともに食らってくれそうにないからな」

 

 木場さんと一誠が言う技とは京都の擬似空間で新たに発現した禁手の進化のこと。その進化それを『赤龍帝の三叉成駒(イリーガム・ムーブ・トリアイナ)』、略してトリアイナと名付けたらしい。その能力は、それぞれの駒の特性を含んだ赤龍帝の鎧。

 『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』は装甲をパージさせて防御力を下げる代わりに神速を得る。

 『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』は逆に装甲を厚くし鈍重になる代わりに強固な防御力とパワーを得る。

 『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)』は絶大な魔力砲撃を放つことができる。その威力は擬似空間の京都の町を吹き飛ばす程に強力。ただしチャージに時間がかかる。

 これらは京都から帰ってから力の検証をした一誠から教えてもらったことだ。

 

「コンボをすれば各昇格の弱点は補えるものの、イッセーくん自身の体力がかなり減る。しかし、そもそも窮地(きゅうち)ではコンボをしなければ生き残れないだろうから、したほうがいいんだけど……。長期戦はリスクが高すぎるね」

「そうだな、技自体は短期戦に向いてる。できるだけ温存した方がいいな」

 

 ここでもし僕がリアス眷属の勝利に知恵を貸すなら、まずは普通の禁手を鍛えた方がいいとアドバイスするね。

 新技の体力消耗が激しい。ならば使わなければいい。そもそもトリアイナを使わなければ勝てないなんて自体の方が稀だろう。まあ、最近ではその稀が結構あったりするんだけども……。

 トリアイナは本当に最終手段。だったらまずは赤龍帝の鎧で戦えるようにするべきだと僕は思う。それを十全に鍛え上げれば、その上位にあたるトリアイナも使いやすくなるだろう。

 一誠も一誠の周りも今の調子に乗って力を上げることを選択すると思うけどね。そもそも僕と一誠ではトレーニング環境が全く違ったから一概に僕が正しいとも言えない。僕自身一誠にアドバイスできるほど強くもないし偉くもないからね。

 

「やっぱコンボで仕留めるしかないよな……。昇格のタイミングと組み合わせ、シミュレーションを重ねないとな……」

「各種トレーニングにいつもどおり付き合うよ。僕もイッセーくんと同じように新技の構想をぶつけたいからさ」

「新技? マジか。気になるな。アテはあるのかよ?」

「うん、それなりにね。それより、ドライグは元気かい? 最近キミとの掛け合いをあまり見てないからさ」

 

 そう言われて一誠は籠手を手早く出現させて、ドライグに話しかけた。僕達にも聞こえる声で元気のない声音で深い溜め息をつく。とても落ち込んでいる様子。

 それから職員会議から戻ったアザゼル総督も混ざり、ドライグがカウンセリングが必要なほど精神的に参ってることが判明した。『おっぱい』『乳』『胸』などの単語を耳にする度に心が張り裂けそうになるらしく。完全に一誠が原因だね。

 一誠は自分が原因だったことを謝っていたが、改善する気はないらしい。今更改善もできないだろうからドライグもそこは諦めてしまっている。一誠は自分の左手―――籠手を抱いてお互い涙する。

 それを見て木場さんはどうしたらいいかわからず苦笑していた。僕は苦笑すら出ないので一時的に場を離れた。

 水場で顔を洗って汗を拭っていると、そこへ。

 

「あの、誇銅さん」

 

 レイヴェルさんが後ろから声をかけてきた。

 

「どうしたんですか?」

 

 僕がそう訊くと、レイヴェルさんはもじもじしながら言う。

 

「あの、少々お話したいことがあるんですが……」

「僕に?」

「はい」

 

 レイヴェルさんが僕に話? 一体なんだろうか。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 明くる日のこと。

 僕は僕の家でレイヴェルさんと二人っきりになっていた。話があると、それも僕個人にらしく、なのでせっかくだから僕の家に招待したのだ。

 罪千さんは憂世さんに連れられて朝から遊びに出かけている。一時はどうなるかと思ったけど、修学旅行を経て一緒に遊びに行く友達ができたことが嬉しく感じるよ。僕はいったいどこのお父さんなんだろうね。

 緊張した様子のレイヴェルさん。

 

「……」

「……」

 

 お互い対面したまま会話が始まらない。なんだか僕まで緊張してきたよ。

 よく考えるんだ僕、いったい僕に緊張する理由がどこにあるんだ? 平安時代ではもっとキツイ異性との交流もあっただろ! ……まあ、あれはそもそもレベルというか次元が違うけど。藻女さんの熱烈なアプローチや酔って全裸で抱きついてくる天鈿女命(アメノウズメ)様。……うん、意味合いが違いすぎて比較にならないや。

 まあ、(自分の家)に異性と二人っきりになることだって最近では珍しいことでもないし。でも、きっかけがきっかけだけに罪千さんをそれほど異性と意識してなかったような。それより前になると両親が生きてた時からこんな機会はなかったような……あれ? 考えれば緊張する理由ある……?

 自分を落ち着かせようと論理的に考えてみたが、逆にどツボに嵌まりそうだ。

 と、とりあえず! このままでは要件なんて聞ける空気じゃない! まずはそこを対処しないと!

 

「そういえばレイヴェルさんは今どこに住んでいるんですか?」

「あ、はい。イッセーさんの家に下宿させていただいています。リアスさんと同じところならお父様もお母様も安心とのことで」

 

 同じ名家の悪魔と同じ下宿先ならご両親も安心できるということか。それに兵藤家は今ではものすごい豪邸に変えられているから広さも申し分ない。初めての人間界で心細い思いをしてないか心配だったが、まあなんとか大丈夫そうかな。

 

「それならわからないこともすぐに聞けて安心ですね」

「はい。ですが……平民の生活は初めてでして……日常生活すら右も左もわからない状況でして……」

 

 レイヴェルさんは気恥ずかしそうに話す。

 

「お箸の使い方やお洗濯のやり方……しっかり勉強してから来るべきだったと反省しています」

「今までと全く違う環境で生活するとなればわからないのは仕方ないですよ。それに、レイヴェルさんはそれを学びに来てるんですから」

 

 百聞は一見にしかず。何回も見聞きするよりも一度体験してみたほうがいい。もしも勉強して全部理解できるのなら留学なんてする必要がないからね。わからないこと、知らないことを体験しに来てるんだから。周りだってそれはわかってるだろうし。

 

「そうですわね。一日も早く慣れるように頑張りますわ」

 

 何気ない話題で緊張も解けはじめた様子のレイヴェルさん。これならもうそろそろ訊いてもいいかな?

 

「ところで、僕にお話とは一体何でしょう?」

 

 僕がそう訊くと、レイヴェルさんは固まってしまう。よっぽど言いづらいことなのだろうか……?

 小さく深呼吸して僕の目を見て言った。

 

「誇銅さん、シトリー戦の前の社交界のことを覚えているでしょうか」

「ええ、覚えてます」

 

 レイヴェルさんとのダンスのことも、ギャスパー君とも踊ったことも、その後の本部親子のこともね。

 

「そこで私の言ったことを覚えてますか……?」

「それって、僕を励ましてくださったことですか?」

 

 あの言葉は今でも鮮明に覚えている。その温かい言葉に感動して、泣きはしなかったけど涙はかろうじて抑えきることができなかった程に嬉しかった。

 しかし、レイヴェルさんは首を横に振る。え、違うの? でも、これ以外に何かあったっけ……? 思い出そうと必死に記憶を探るが、これと言って引っかかるような記憶が見当たらない。

 

「……すいません」

「いえ、気にしないでください。そもそも私もきちんとは言ってなかったですし」

 

 内容はわからないけど、どうやら話とは冥界での社交界に言われたことらしい。はて、本当に何なのだろう?

 レイヴェルさんは今度は大きく深呼吸をしてから言った。

 

「このことはリアスさんにも言ってないことなのですが、実は私晴れて自分の眷属を持つことのできる『(キング)』となりました」

 

 その言葉にちょっぴり驚いたが、僕にすればあまり関係がない。

 レイヴェルさんは話を続ける。

 

「それでお話と言うのは―――誇銅さん。私の眷属になってはいただけませんか?」

「……ん!?」

 

 思いがけない告白のような言葉に僕は思わず変な声を漏らした。

 

「こ、この話はリアスさんとは……」

「これからですわ。ですがその前に、誇銅さんのお気持ちを聞きたくて」

 

 僕の悪魔としての『(キング)』はリアスさんであり、トレードの有無はリアスさんが最終的に判断することだ。だから僕に直接言われてもリアスさんが断れば成立しない。そしてその逆も。悪魔にとって僕たち(眷属)は文字通り駒なのだから。

 そのことは純血悪魔のレイヴェルさんならわかっているだろう。それなのにレイヴェルさんはまず僕の意志を確認した。―――いや、わかっているからまず僕に確認してくれた?

 僕はレイヴェルさんの目を見て訊いた。

 

「レイヴェルさんは―――僕が必要ですか?」

 

 僕がそう訊くと、レイヴェルさんは間を置かずに「はい」と答えた。

 レイヴェルさんの目は何も変わらず僕だけを見ていた。他には何も映さず、ただ僕だけを。レイヴェルさんの気持ちは伝わったよ。なら、次は僕の番だね。

 

「率直に言います。僕はリアスさんを、冥界を、三大勢力を信用していません。近いうちにリアス・グレモリー眷属を辞めようと考えてました。リアスさんも僕のことを必要とはしてなかったですし」

 

 僕は僕の思い、考えを正直に話した。それがレイヴェルさんの思いに対して僕がするべきことだと思ったから。

 例えこれでレイヴェルさんのと関係に溝ができようとも僕はそれを受け入れる。そうしなければ見えない溝が生まれるだけだ。

 

「僕には三大勢力のやってることが信用に足らない確信があります。だから僕は、三大勢力の発展のためには協力できません。冥界の、三大勢力の危機に僕は力を貸せません。例え魔王様やレイヴェルさんの命令でも。それはレイヴェルさんの評価を下げてしまう要因になってしまうでしょう。―――それでも僕が必要ですか?」

 

 ここまで言ってしまえば大抵の悪魔は断るだろう。なにせ眷属にしたところで肝心なところで働かないと断言してしまってるのだから。

 こんなことを言ってしまえばレイヴェルさんも僕を誘うのを躊躇(ためら)うだろうね。それでも、これは僕にとって譲れない一線。だからしっかりと言っておかなくてはいけない。

 流石にこんな条件を出されたレイヴェルさんは黙ったまま悩む。そしてしばらくして言った。

 

「―――それはつまり、私の眷属になることを了承してくださったとお受け取りしてもよろしいのですか?」

 

 今度は僕が間を置かずに「はい」と答える。

 先ほどとは立場を逆にレイヴェルさんをしっかりと見据える。

 トレードを受ける気があるからこそ、正直に言う必要があった。端から無ければ隠したまま遠回しに断った。

 

「なぜそこまで冥界を信用出来ないのに私の勧誘を了承してくださるのですか……?」

 

 レイヴェルさんは不思議そうな表情で僕に訊く。

 冥界や三大勢力、つまり悪魔に力を貸さないと言ったも同然。それなのになぜ自分に力を貸すのか、当然の疑問だ。

 だから僕は答えた。

 

「『自分を卑下しないで』そう言ってくれたからかな? レイヴェルさんなら信じられる、信じたいと思ったからです。それに、レイヴェルさんになら裏切られてもいい」

「ッ!」

 

 そう言うと、レイヴェルさんは驚いた表情で胸に手を当てた。顔もほんのりと赤い。

 レイヴェルさんはおずおずと僕に右手を差し出す。

 

「そ、それでも構いませんわ。よよよ、よろしくおねがいします……!」

 

 僕は差し出された右手を両手で優しく握った。するとレイヴェルさんの顔がいっそう赤味が増す。

 

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします! レイヴェル・フェニックス様」

 

 まさかこんな形でリアスさんの眷属を抜けられることになるとは思わなかったよ。結局は悪魔と縁が切れてないのはちょっとアレだけど、レイヴェルさんの力になれるのなら今はいっか。どうせ勢力として悪魔とはほぼ縁切り状態に接するつもりだし。

 となれば、時期的に今すぐリアス・グレモリー眷属を抜けるのは少し難しいかな。大事なレーティングゲームをもうすぐに控えてるし。そうすると、リアス・グレモリー眷属としては次のレーティングゲームが最後になるか。

 

「日本神話で培った技術、レイヴェル様のためだけに存分に振るいましょう!」

「そんな、レイヴェル様だなんて……ん、日本神話で培った技術?」

 

 顔を赤くして照れ顔から一転、(いぶか)しげな表情に変わるレイヴェルさん。ああそうか、そうだよね。突然日本神話で培った技術なんて言われたら。

 レイヴェルさんの力になるなら当然話しておかないとね。

 

「ああ、僕もリアスさんたちに秘密にしてたことがありまして。レイヴェルさんにならお話します。あれは数ヶ月前のこと……いや、レイヴェルさんたちから見れば数千年前のことです」

「す、数千年前……?!」




 誇銅の眷属抜けの正解はレイヴェルの眷属になるでした! ……どうかな? 納得できる結果ですか……? 期待されてた部分だけにものすごく不安。でも、今後の原作を加味するとその方が応用が利いて書きやすかったんです。
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