無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 戦闘シーンに、やりたかったことを詰め込んだらここまで長くなるとは……。
 ぶっちゃけ今回のラストの展開、人によって好みが別れると私は思います。原作の流れが好きな人は合わないと思います(原作が好きな人は多分この作品を見に来てない)。
 まあどういう意味か一言で言うなら、『ただの感動試合で終わらせねーから!』
 


努力家な大王の選択

 既に鎧姿の一誠とリアス、サイラオーグとその眷属の『兵士』、レグルスは団体戦のフィールドとなる広大な平地に降り立つ。

 両者が揃うと実況がマイクを震わせる。

 

『さあ、バアルVSグレモリーの若手頂上決戦もついに最終局面となりました! サイラオーグ選手によってもたらされた提案により、団体戦世なった最終試合! バアル側は「(キング)」サイラオーグ選手と、謎多き仮面の「兵士(ポーン)」レグルス選手、対するグレモリー側はスイッチ姫こと「(キング)」のリアス選手と皆の味方おっぱいドラゴンこと「兵士(ポーン)」の赤龍帝・兵藤一誠選手!』

 

 グレモリー側の紹介にリアスも恥ずかしさで少しばかり頬を赤く染める。

 

『ずむずむいやーん!』

『おっぱお!』

 

 子供たちが観客席からおっぱいドラゴン的な応援を送る。

 アーシアは陣地に残す。回復役が真っ先に狙われるため、メンバーに入れておくリスクが高いから。

 回復役がいれば戦闘面で少し余裕ができるが、敵はサイラオーグと駒価値7の『兵士(ポーン)』。僅かも身を守る力のないアーシアを守りながらは戦えない。

 足手まといにしかならないアーシアには控えてもらうことになった。

 

『さて、最終試合を始めようと思います』

 

 審判(アービター)が両チームの間に入る。

 

『……では、開始してください!』

 

 ついに最終試合が始まった。両者の『兵士(ポーン)』は素早く『女王(クイーン)』にプロモーションをする。

 一誠とリアスが構えるも、サイラオーグは小さく笑うだけ。

 

「リアス、先に言っておく事がある。お前の眷属は素晴らしい。妬ましくなる程お前を想っている。それゆえに強敵ばかりだった」

 

 サイラオーグは真っ直ぐに言う。

 

「こちらは俺とそちらの『兵士(ポーン)』の二人。そちらも似たようなものだ。―――終局に近いな」

 

 サイラオーグが一誠の前に立った。

 

「兵藤一誠。遂に、だな」

「恨みはありません。妬みもありません。これはゲームですから。―――けど、仲間の仇を取らせてもらいます。俺の大事な仲間を屠って来たあなたを無心で殴れるほど、俺は大人じゃないんですよ……ッ!」

 

 一誠の言葉を耳にして、サイラオーグは心底打ち震える。

 

「極限とも言えるセリフだ……ッ! だろうな。お前は少なくとも仲間の敗北に耐えられる男ではない。よくぞ、ここまで耐えた。爆発させろ。ああ、それでいい。それでこそ、決着と思える戦の始まりに相応しいッ!」

 

 一誠は背中のブースとを最大にまで噴かして真正面からサイラオーグに向かう。

 サイラオーグも全身に膨大な闘気を纏わせて、地面を蹴って飛び込む。

 二人の拳が真正面から交錯(こうさく)する。クロスカウンターの要領でお互いの顔面に拳が直撃!

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

『……なんて奴だ。闘気を纏ってやがる。しかもここまで可視化する程の濃厚な質量……』

 

 試合の映像を見ていると、解説のアザゼル総督が言った。

 

『となりますと、サイラオーグ選手は気を扱う戦闘術を習得していると?』

『いや、サイラオーグが仙術を習得していると言う情報は得ていない』

 

 実況が訊くもアザゼル総督も知らないと答える。

 アザゼル総督に皇帝(エンペラー)が続く。

 

『はい、彼は仙術を一切習得していませんよ。あれは体術を鍛え抜いた先に目覚めた闘気です。純粋にパワーだけを求め続けた彼の肉体はその身に魔力とは違う、生命の根本と言うべき力を纏わせたのです。彼の有り余る活力と生命力が噴出して、可視化したと言って良いでしょう』

 

 皇帝(エンペラー)の解説通り、あれは仙術を使用しての闘気とは違う。肉体を鍛え抜いた(すえ)に辿り着いた闘気。でなければあれほど荒々しくはならない。

 それにどちらかと言うと、あれは闘気を纏っていると言うよりも垂れ流しに近い。噴出の勢いは凄いが、纏い方や質はバッボやシャルルの方が明らかに上だ。

 その事実が逆にサイラオーグさんの闘気が体術の鍛錬だけで辿り着いたものだというのを証明する。あの量の闘気を仙術を覚えず身につけるとは―――凄まじい。

 この試合中に闘気を扱える悪魔が三人も。どうやら僕が知るよりも悪魔の世界は広いみたいだ。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 ゴォォォンッ!

 

 鎧越しに中身が吹き飛びそうな衝撃と激痛が一誠の頭部を襲う。兜も破壊された。

 

「けど! 俺のはこっからだ! いくぜ、ドライグ!」

『応ッ!』

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 増大されたパワーが拳に宿り、サイラオーグの顔面へ叩きつけられる勢いが底上げされた。

 

 パァァァァアアァンッ!

 

 辺り一帯に乾いた音が木霊(こだま)するほどに、一誠のパンチは小気味よく打ち込まれた。

 サイラオーグは鼻から血を噴出し、口の端から血が流れる。

 

「練り上げられた拳だ……ッ! 気迫が体に入り込んでくるようだ。悪魔になって少ない月日の中でどれだけ自分をいじめ抜いた!? 生半可な想いで鍛えられたものではない! クイーシャに見せた新しい能力を見せないので、舐められたものかと若干感じたが、杞憂のようだ。その形態の禁手(バランス・ブレイカー)でも十分力が底上げされているではないか!」

 

 サイラオーグと一誠の殴り合いが始まった。

 しかし、サイラオーグの方はまともな体術を覚えており、実戦で覚えてきた一誠の格闘術では分が悪い。アザゼルから少しは指導を受けていたが、経験時間に雲泥の差があるので焼け石に水。

 それでも実戦で鍛えられた勘と、防御をドライグに任せているおかげでなんとか凌げている。

 

「実戦で練られた攻撃か! 余念が無い分、的確に確実にこちらの中心点を狙ってくるな!」

 

  何度かの近距離戦を終え、一定の距離を保ったところでバアル側の『兵士(ポーン)』が一誠の視界に映り込んだ。

 リアスと対峙している『兵士(ポーン)』が仮面を静かに取り払う。

 そこにあったのは、一誠たちとそう歳が変わらないであろう少年の顔。

 しかし、それは直ぐに変貌する。

 

 ボゴッ! ベキッ!

 

 体中から快音を発して少年の体が盛り上がっていき、徐々に姿を違う物に変化させていった。

 金毛が全身から生えていき腕や足が太くたくましくなっていく。さらに口が裂けて鋭い牙をのぞかせ、尻尾が生えて、首回りに金毛が揃っていく。

 

 ガゴォォォォォォォォオオオオオンッ!

 

 そこに姿を表したのは、巨大なライオン。五~六メートルはありそうな巨体。額には宝玉のようなものが。

 ライオンはたてがみを雄大になびかせ、リアスの眼前に立つ。

 

『おおっと! バアルチームの謎の「兵士(ポーン)」の正体は巨大な獅子だったーッ!』

『まさか、ネメアの獅子か!? いや、あの宝玉はまさか……』

 

 解説のアザゼルが何かを得心して驚きの声音を発すると、実況者が訊ねる。

 

『……元々はギリシャ神話に出てくる元祖ヘラクレスの試練の相手なんだが……。聖書に記されし神があの獅子の1匹を神器(セイクリッド・ギア)に封じた。そいつは13ある「神滅具(ロンギヌス)」に名を連ねる程の物になった。極めれば一振りで大地を割る程の威力を放ち、巨大な獅子にも変化出来る―――「獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)」! 敵の放った飛び道具から所有者を守る力も持っていたな。しかし、所有者がここ数年、行方不明になっていると報告を受けていたが、まさかバアル眷属の「兵士(ポーン)」になっていたとは……!』

「いや、残念ながら所有者は死んでいる。俺が『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』の本来の所有者を見つけた時、既に怪しげな集団に殺された後でな。神器(セイクリッド・ギア)となる斧だけが無事だった。所有者が死ねばいずれ消滅するであろうその戦斧(バトルアックス)は、あろうことか意志を持ったかの様に獅子に化け、所有者を殺した集団を根こそぎ全滅させていた。俺が眷属にしたのはその時だ。獅子を司る母の血筋が呼んだ縁だと思ってな」

 

 サイラオーグの母の実家ウァプラは獅子を司る一族。ゆえに運命の出会いだったと思った。

 

『……所有者抜きで単独で意志を持って動く神器(セイクリッド・ギア)……しかも神滅具(ロンギヌス)だと!? 更に悪魔に転生出来てしまった! 獅子が凄いのか、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が凄いのか……。どちらにしろ興味深い! 実に興味深いぞ! うーん、そりゃ俺達も把握出来ない訳だ。クソ! なんでまた現世に限ってこんなレアごとばかりが神滅具(ロンギヌス)に起こるんだ!? って言うか、サイラオーグ! 今度その獅子を俺の研究所に連れてこい! すげー調べたい!』

 

 レグルスが単独で意思を持って動いた経緯を聞いたアザゼルは輝く笑顔で一人勝手に盛り上がる。

 そのことに誰も触れずそっとされている。

 

『俺も驚きだ。こんなことが起きるものなんだな。俺の場合は所有者が死ねば、すぐに意識が途切れて、気づいたら次の所有者の神器(セイクリッド・ギア)のなかだったが……』

 

 ドライグもレグルスに起きたことに驚く。

 

「所有者無しの状態のせいか、力がとても不安定でな。このゲームまで、とてもじゃないが出せる代物ではなかった。敵味方見境無しの暴走状態になっては勝負どころじゃなくなるからな。今回、出せるとしたら俺と組めるこの様な最終試合だけだった。いざと言う時、こいつを止められるのは俺だけだからな」

 

 サイラオーグが『兵士(ポーン)』を場に出さなかった理由を話す。

 

「……どちらにしても、私の相手はその神滅具(ロンギヌス)って事ね」

 

 リアスが獅子に構える。しかし実際の所、結果はわかりきっていた。

 一誠がサイラオーグに拳を繰り出し、リアスが獅子に滅びの魔力を撃ち込んでいく。

 拳の打ち合いの中、一誠はなんとか隙きを見つけ出し、サイラオーグに倍加した一撃を加える。そして―――駒を変更させて、トリアイナを使う。

 

龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)ゥゥッッ!』

『Cdange Solid Inpact!!!!』

 

 赤いオーラが膨れ上がり、一誠の体が肉厚の鎧に包まれた。

 極大の拳でサイラオーグにアッパーを打ち込み、撃鉄も撃ち込んで威力を上げた!

 派手な爆発音が鳴り響き、サイラオーグの体が空高く投げ出され。

 

龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)ゥゥゥゥッ!』

『Change Fang Blasto!!!』

 

 通常の鎧に戻り、背中にバックパック、肩にキャノンが形成され、砲口をサイラオーグに向ける。

 チャージ時間の問題を逃げられない上空に投げることで弱点を埋めた算段なのだ。

 

「ドラゴンブラスタァァァァァァァァッ!」

 

 ズバァァァァァァァンッ!

 

 絶大なオーラの砲撃が解き放たれた。サイラオーグは空中で体勢を立て直して翼を展開し、左キャノンの砲撃を躱かわすも、右のキャノンから放たれたドラゴンブラスターに巻き込まれてしまった。

 空中で煙を立ち込めさせながら、ゆっくりと地に降りていく。

 オーラと体力を大きく消費した一誠も肩で息をしていた。

 地に降りたサイラオーグにも全身にかなりの怪我があるものの、決定打には届かない。砲撃が当たる直前、闘気で全身を包み込んだ。未熟と言えど生命力を大元とする闘気。生命力の強いサイラオーグが纏えばかなりの防御力となる。

 満足そうに笑みを浮かべるサイラオーグ。

 

「―――強い。これ程のものか……ッ!」

 

 サイラオーグは満足そうな表情を浮かべる。

 一誠が次の攻め方を考えていた時、「キャッ!」という悲鳴が上がる。リアスの悲鳴だ。

 リアスの悲鳴でそちらに視線を向けると―――。

 膝をつく血染めのリアス・グレモリー。獅子はダメージを負いながらも、リアスをリタイア近くまで追い詰めていた。

 

『リアス・グレモリーはこのままいけば失血でリタイアとなるだろう。助けたければ、フェニックスの涙を使用するしかない』

 

 レグルスはやろうと思えば『(キング)』のリアスを倒せるが、フェニックスの涙を使用させる為にあえて倒さずにいた。

 それはレグルスなりの『(キング)』への気遣いである。

 

「……『余計なことを』と言えば、俺の『王』としての資質に疑問が生まれる。いいだろう、それは認める。だが、赤龍帝との一戦はやらせてもらうぞ、レグルス」

『分かっております。申し訳ございません、主を思ってこその行動でございます』

 

 攻撃を再開しないレグルスとサイラオーグ。一誠は警戒しながらもリアスに近付き、ポケットからフェニックスの涙が入った小瓶を取り出した。

 

「部長、これを使います」

「……情けないわ。私が……あなたの枷になるなんて……」

 

 リアスは自分の不甲斐なさに嘆く。『(キング)』の自分が獅子に対抗できず、一誠の枷となってしまった自分が心底許せないでいた。

 フェニックスの涙をリアスに振り掛けると、リアスの怪我が消失していく。

 しかしこれでフェニックスの涙ぶん、明確な差がまたできてしまった。

 一誠がどうしたものかと考えていると、獅子が叫ぶ。

 

『サイラオーグ様! 私を! 私を身に纏ってください! あの禁手(バランス・ブレイカー)ならば、あなたは赤龍帝を遥かに超越する! 勝てる試合をみすみす本気も出さずに―――』

「黙れッ! あれは……あの力は冥界の危機に関しての時のみに使うと決めたものだ! 俺はこの体のみでこの男と戦うのだ!」

 

 叫ぶレグルスに、サイラオーグは怒号を飛ばした。

 すると、一誠はサイラオーグに言った。

 

「――――獅子の力を使ってください」

 

 自然を口にする一誠。リアスも隣で驚いていた。

 それはサイラオーグと同じステージで戦いたいという欲か、どんな強者も最終的には勝ってきという戦歴による慢心からくるものか。どんな理由であろうと一誠はサイラオーグに本気の全力を求めた。―――それが眷属の皆が作った勝利の好機を捨てるようなことだとわかっていても。

 

「それを使ったサイラオーグさんを越えなければ意味がないんです! この日まで培ってきた意味がないんです! 今日、俺は最高のあなたを倒して勝利をつかむッ! 俺たちの夢のために戦ってんだッ! 本気の相手を倒さないで何になるんだよッ!」

 

 一誠の叫びにサイラオーグは心打たれたように立ち尽くす。リアスも呆れ顔で「本当にバカ」と一誠に顔を寄せた。

 宣言した以上、一誠も責任を持って勝ちに行くつもりではある。

 一拍あけて、サイラオーグは不気味に笑う。

 

「…………すまなかった。心のどこかでゲームなのだと、二度目があるのだと、そんな甘い考えを頭に思い描いていたようだ。なんて、愚かな考えだろうか……ッ。このような戦いを終生一度あるかないかと想像すらできなかったじぶんがあまりに腹立たしいッッ。レグルスゥゥゥッ!」

『ハッ!』

 

 サイラオーグの叫びに応える獅子。

 巨体のライオンが全身を金色に輝かせ、光の奔流(ほんりゅう)と化してサイラオーグに向かう!

 

「よし、では行こうか。俺は今日この場を死戦と断定するッ!殺しても恨むなよ、兵藤一誠ッ!」

 

 黄金の光を浴びながら高らかに叫んだ。

 

「わが獅子よッ! ネメアの王よッ! 師子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せェェェッ!」

 

 フィールド全体が震え出し、周囲の風景を吹き飛ばしてサイラオーグと獅子が弾けた。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!』

禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥゥゥッ!」

 

 まばゆい閃光が辺り一面に広がっていく。その神々しさに思わず顔を覆うリアスと一誠。

 神々しい閃光が止んだ時、前方に現れたのは金色の姿をした獅子の全身鎧だった。

 頭部の兜には鬣たてがみを思わせる金色の毛がたなびく。

 胸に獅子の顔と思われるレリーフがあり、意志を持っているかの様に目を輝かせた。

 

「―――獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)禁手(バランス・ブレイカー)、『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)』! 兵藤一誠、俺に本気を出させてくれた事に関して心から礼を言おう。だからこそ、お前に一撃をくれてやる。―――あの強力な『戦車(ルーク)』で攻めてみろ」

 

 そう言いながらサイラオーグは一歩一歩近づく。禁手の威圧と纏う闘気が合わさり、圧倒的な存在感となっていた。

 

 

『ある意味であれが直接攻撃重視の使い手にとって究極に近い形だからだろう。力の権化である鎧を着込み、それで直接殴る。だから、どうしても果てがあの様な形になる』

 

 ドライグが一誠に言う。

 打撃がメインならば、鎧で身を固めた方が攻守共にバランスが良く、肉体のズレもない。

 肉薄する距離でサイラオーグが一誠に言う

 

「さあ、一発打ってみろ」

「……後悔しないでくださいよ。マックスで撃ち込むんで! 『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)ゥゥッッ!』」

『Cdange Solid Inpact!!!!』

 

 一誠の鎧が分厚くなり、腕の太さも何倍にも膨れ上がる。

 巨大な拳を振り上げ、一気に打ち抜く。肘の撃鉄も撃ち鳴らし、インパクトの威力を上げる―――だが、一誠の巨大な拳はサイラオーグの左手に軽々と止められてしまった。

 その事実に衝撃を受ける一誠。

 いや、ここからだ! と、もう一度撃鉄を撃ち、勢いの増した拳が放たれるが―――。

 

 ガゴォォンッ!

 

 一誠の拳はサイラオーグの掌底にやられ、無残に破壊されていく。

 

「―――これで限界か」

 

 サイラオーグがつぶやく。すると―――。

 

 ガギャァァァァンッ!

 

 サイラオーグの拳が分厚い一誠の腹部に撃ち込まれ、難なく鎧を砕いていく。

 内部の肉体まで届き、一誠の体を破壊していった。

 

「ごふっ!」

 

 口から大量の地を吐き出し、一誠はその場に倒れた。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 室内で試合の映像を見ていた僕。試合は壮絶な殴り合いになったが、バアル眷属の『兵士(ポーン)』の正体が発覚し、その禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を纏ったところからの勝負は一方的だった。

 切り札のトリアイナの拳は軽々と受け止められ、返しの一発で一誠が倒れた。

 

『おっぱいドラゴンが死んじゃったーっ!』

『やだよーっ!』

『立ってよーっ!』

 

 客席の子供たちの悲痛な叫び。憧れのヒーローが倒れたショックは子供には大きいだろう。しかし現実は非情だ。ヒーローが必ず勝つとは限らない。サンタさんを信じれなくなるように、大人になるにつれて思い知らされる。

 

『泣いちゃダメ――――ッ』

 

 映像が移り変わり、とある一人の帽子を被った子供が映し出された。その子は観客席でむせび泣く子供たちに向かって叫んだ。

 

『おっぱいドラゴンが言ってたんだ! 男は泣いちゃダメだって! 転んでも何度でも立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならなくちゃいけないんだよ!』

 

 その一声を聞き、他の子供たちも立ち上がる。

 

『おっぱいドラゴンが負けるもんかッ! おっぱい! おっぱい!』

『おっぱい! 立ってよッ! おっぱいドラゴンっ!』

『おっぱい!』

『おっぱいドラゴン!』

『ちちりゅーてーっ!』

 

 子供たちの必死にヒーロー(一誠)を呼ぶ声。その中には、子供たちの観客席で応援団長をしていたイリナさんの声も。

 

『そうだよ! 皆! イッセーくん―――おっぱいドラゴンはどんなときでも立ち上がって強敵を倒してきたの! だから、応援しよう! 信じよう! おっぱいドラゴンは皆のヒーローなんだからっ!』

 

 涙で顔をくしゃくしゃにしながら、イリナさんは必死に子供たちに訴える。

 

『皆、おっぱいドラゴン好き?』

「「「「「「「「大好きーっ!」」」」」」」」」

『私も大好きだよ! すごいスケベで、いつもエッチなことを考えている人だけど……誰よりも熱くて、諦めなくて、努力して、大好きな人たちの為に戦える人だって、私は知ってる! 皆も知ってるよね!』

「「「「「「「「知ってるーっ!」」」」」」」」

『だから、応援しよう! 声を届けるの! おっぱいドラゴンは! どんなときでも立ち上がって! 冥界や展開、いろんな世界の皆のために戦ってくれるんだからーっ!』

『おっぱい!』

『おっぱい! おっぱい!』

『皆も一緒にぃぃっ! おっぱいッ!!』

『おっぱい! おっぱい! おっぱい!』

『おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!』

 

 子供たちの盛大なおっぱいの声援。

 大勢の子供たちが一誠が立ち上がることを望んでいる。一誠の勝利を望んでいる。つまりサイラオーグさんの敗北を望んでいる。僕がサイラオーグさんの立場だったら泣いてるかもしれない。

 さながら今のサイラオーグさんはヒーローをピンチに追い込んだ強大な敵。

 このままサイラオーグさんが勝っても、子供たちには嫌われるんじゃないだろうか……。

 

「ハハッ、完全に赤龍帝のホームだな」

 

 後ろからすごい聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くとやはりそこに居たのは―――。

 

「まあ、赤龍帝が子供たちのヒーローやってる時点でこっちがアウェイになるのは確定だったんだけどよ」

 

 第七試合で僕と引き分けになったバッボの姿が。なんでこんな所にッ!?

 

「病室の熱気立った空気に耐えられなくてよ。横いいか?」

「あ、はい、どうぞ」

 

 僕が左に寄っていくと、今度はシャルルが降ってくるようにアクロバティックに僕の左隣に着席した。そしてバッボも僕の右隣に座る。は、挟まれた!

 二人共僕が倒したバアルチームの……。いや、僕が倒してないバアルチームの方が少ない?

 

「隣失礼するネ!」

「は、はい……」

 

 シャルルの手にはLサイズのポップコーンとドリンク。映画でも見に来たような装備だ。一方でバッボの手にも大きな紙袋パンパンに詰まったたい焼きが。二人とも試合を楽しみに来た観客のような空気で、ここは観客席かと一瞬錯覚してしまう。

 てか、バッボはわかるがシャルルも既にここまで動ける程回復してるって、意外にタフな人なんだね。

 

『ねえ、イッセー。聞こえる? 皆、あなたを呼んでいるの』

 

 リアスさんが倒れる一誠を抱きかかえる。

 

『私もね。あなたを求めているのよ? だって、私はあなたのことを……』

 

 試合中の感動なのかもしれないが、両隣の人のせいでなんだかそういう映画を見てる気分になってきた……。なんだこの空気差は。

 それと盛り上がってるから言いづらいけど―――あれってリタイアにならなんだろうか? なんか意識あるように見えないんだけど……。

 僕の目の前で友達同士のようにポップコーンを分け合う。……席変わろうか?

 

『おっぱいドラゴン』

『がんばって!』

『立ち上がって!』

『おっぱい!』

『おっぱい!』

 

 子供たちの声援の中、サイラオーグさんも一誠に語りかける。

 

『どうした、兵藤一誠。―――終わりか? これで終わりなのか? そんなものではないだろう? ―――立ち上がってみせろ。おまえの想いはそんなに軽いものではないはずだッ!』

 

 さすがサイラオーグさん、目の前の勝利に手を出さずに倒れる強敵に立ち上がって見せろと言うとは。一誠の想い、強さを信頼してるんですね。

 本人が言ったとおり、サイラオーグさんにとってこの戦いは一生に一度の最高の戦い。ファイターとして当然の欲が出たのでしょう。

 相手の全力を受け止めて超えてこそ真の勝利。誇り高きファイターの魂。―――しかしサイラオーグさん。その行動、(キング)として(バツ)だ。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 突如リアスの胸から紅い輝きが放たれ一誠を包み込む。目覚めた一誠は光るリアスの胸に驚くが、一番驚くのはリアスの方だった。

 

「イッセー……その姿は……」

 

 目をパチクリさせるリアス。一誠も気になり全身を見ると、鎧の色が変わっており、形も通常の鎧と違うっていた。赤から紅へと―――。

 

『おおっと! 赤龍帝が、紅いオーラに包まれたと思ったら、スイッチ姫のおっぱいフラッシュを浴びて、鎧を変質させてたちあがった――――っ!』

 

 実況が叫ぶように現状説明をする。

 一誠の怪我は消え、砕けた鎧も復活していた。倒れている間に一誠は、神器内の世界で歴代の赤龍帝の黒い感情に呑まれようとしながら、子供たちの声援やリアスやサイラオーグの呼ぶ声と、歴代の白龍皇の一人に助けてもらったのだ。

 

『相棒!』

 

 ドライグが一誠に語りかける。

 

『おまえの意識が神器(セイクリッド・ギア)』の深奥に吹き飛ばされ、俺もそちらに向かおうとしたのだが、歴代の所有者が濃くなって、侵入できなくなっていたのだ。そして、目が覚めたと思ったら、こんなことになっている! 内部で何が起きた! 所有者が抱いていた呪いの殆どが消失しているのだぞ?』

『アルビオンの宝玉を奪った時にかすかに残っていた残留思念か。あれが神器(セイクリッド・ギア)の深部で動いた……』

 

 説明の際一誠は、内部での出来事を思い出し少しだけ体を強張らせた。

 

『それで、おまえは赤龍帝の力が開放されている状態で「女王(クイーン)」に昇格できたのか』

 

 ドライグに言われ内の駒を探り、一誠は自分が『女王(クイーン)』昇格してることをここにきて初めて自覚。

 解説のアザゼルが言う。

 

『赤いオーラ……。いや、赤ではない。もっと鮮やかで、気高い色。あれは―――。真紅のオーラ。そう、紅だ。「紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)」と称される男の髪と同じ色であり、あのバカが惚れた女の髪と同じ色―――。あいつにだけ許された奇跡か……ッ! ていうか、今回はリアスの乳を吸ってパワーアップするんじゃなかったのか!?』

 

 記者会見で一誠自身が失言し、朝刊の一面に乗り事実上宣言のようになってしまったことを言うアザゼル。

 一誠の変貌を見て、禁手の鎧を纏うサイラオーグが言う。

 

「――――『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン。プロモーション)』と言ったところか。その色は紅と称された魔王様と全く同じもの。―――リアスの髪と同じ色だ」

 

 一誠は息を深く吐いて、決心の言葉を口にする。

 

「惚れた女のイメージカラーだ。部長は、リアス・グレモリーは俺が惚れた女だ。惚れた女を勝たせたい。惚れた女を守りたい。惚れた女の為に戦いたい。俺は―――俺はッ! 俺を求める冥界の子供たちと、惚れた女の目の前であなたを倒すッ! 俺の夢のためッ! 子供たちの夢のためッ! リアス・グレモリーの夢のためッ! 俺は今日あなたを越えるッ! 俺はリアス・グレモリーが大好きだぁぁぁぁぁぁああああっ!」 

 

 一誠は天高く叫んだ。一誠の想いを聞き、リアスは顔がいままでないぐらいに真っ赤になる。

 

「ハハハハハハハハハハハッ! リアスの胸が発する光を浴びて、何かに目覚めたようだな。ならば俺はそのおまえを打ち倒し我が夢の糧とするッッ!」

 

 一誠は莫大な紅いオーラを纏い、飛び出していく。

 

『Star sonic Booster!!!!』

 

 トリアイナ『騎士(ナイト)』に匹敵する速度だが、一誠はまだ余裕を感じていた。

 サイラオーグも全身に闘気をみなぎらせて一誠を迎え撃とうと構える。

 

『Solid Inpact Booster!!!!』

 

 トリアイナ『戦車(ルーク)』と同格の攻撃力と防御力だが、攻撃の消耗はそれ以下に感じていた。

 

『いや、まだこの状態での鎧の防御力が安定していない! 脱皮直後のカニみたいなものだ! 無理をすると本体に膨大なダメージが伝わるぞ!』

 

 ドライグが注意するも、一誠はサイラオーグを倒すために決心する。

 ただひたすら殴り、殴られる。顔、腹、胸、腕を。ただひたすら殴り続け、殴られ続けた。鎧の破壊と再生が繰り返され、両者とも攻撃が体に突き刺さり肉体を破壊していく。

 お互いノーガードで、単純な殴り合いが繰り広げられる。地が裂け、次元に穴が空いても、相手の意識と魂を絶つ勢いで。

 

『殴り合いですッ! 壮絶な殴り合いがフィールド中央で行われておりますッ! 華麗な戦術でもなく、練りに練られた魔力合戦でもなく、超至近距離による子供のような殴り合いッ! 殴って、殴られて、ただそれだけのことが、頑丈なバトルフィールド全体を壊さんばかりの大迫力で続けられておりますッ! 観客席は総立ちッ! スタンディングオベーション状態となっておりますッ! ただの打撃合戦に老若男女が興奮していますッ! よくやるぜ、二人共ォォォォッ!』

「「「「「「「「「「サイラオーグゥゥッ! サイラオーグゥゥッ!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「おっぱいドラゴンッ! おっぱいドラゴンッ!」」」」」」」」」」

 

 観客も湧き上がる!

 

『相棒! 「女王(クイーン)」の状態はまだ完全におまの体に浸透しきっていない! 力の上昇もこれからが本番だが、それ以上に、このままでは禁手(バランス・ブレイカー)の状態が解ける!』

 

 そう言われ、ドライグになんとか食らいつくように頼む。

 

「俺はッ! あんたを倒してッ! 上に行く……ッ!」

 

 紅いオーラが右腕を覆い、右腕だけがトリアイナの『戦車(ルーク)』へと形成された。撃鉄を打ち鳴らしインパクトを引き上げる。

 

『Solid Inpact Booster!!!!』

 

 一誠の右拳がサイラオーグの腹部に突き刺さり、獅子の鎧を砕き生身に食い込んでいく。

 サイラオーグは膝をついた。

 深刻なダメージでブルブル震える足に激高する。

 

「どうした、足よ! なぜ震える!? まだ! まだこれからではないか!」

 

 地を大きく踏み込み、サイラオーぐは立ち上がっていく。なけなしの闘気を全身に纏わせるが、その質量はあきらかに減っていた。

 

「保て、保て俺の体よ……ッ! このような戦い、いま心底味わわずに大王バアル家の次期当主が名乗れると思うのか……ッ!」

 

 気迫で一誠に迫るサイラオーグに一誠は拳を繰り出そうとしたが、それを引っ込めてローキックを太ももに放つ。鎧ごと太ももが破壊された。

 サイラオーグの体がぐらつく。しかし一誠は間髪入れずに体勢を崩したサイラオーグの顔面に鋭く拳を入れた。兜が割れ、生身の顔面でまともに受ける。

 拳の勢いで後方へ吹き飛ばされるサイラオーグだが、そこへ一誠は両翼から展開したキャノン砲で追撃を狙う。

 

 トゥゥゥゥゥッ……。

 

 静かに、トリアイナ『僧侶(ビショップ)』よりも速いチャージ時間で完了した。

 

『先程のアザゼルの話では、あの獅子の神器(セイクリッド・ギア)は飛び道具に対して抵抗力があると思っていいだろう! 広範囲の一発よりは範囲を狭めに狭めた方がダメージも通るのではないか?』

 

 ドライグの助言通り、一誠はできるだけ範囲を狭くし威力を濃縮する。

 

「クリムゾンブラスタァァァァァァァァアッ!」

『Fang Blast Booster!!!!』

 

 紅色のオーラが放射され、サイラオーグを包み込む。強大な爆発を生み出した後、煙が止み、地を大きく抉って出来たクレーターの中央にサイラオーグが倒れていた。

 その瞬間、会場が歓声に満ち溢れる

 一誠ももう立てないだろうと勝利を確信したその時―――視界に女性が一人、ゆらりゆらりと出現し、サイラオーグの傍らに立って何かを話しかけていた

 その姿は一誠以外は気づいておらず、他の者には姿が見えていない。

 

『―――なさい』

 

 女性は静か且つ、確かな口調で言葉を発し始めた。

 すると、サイラオーグの体が僅かに動いた。そして、ボロボロとなった顔をあげる。目は虚ろだが、瞳の奥にはまだ強い意志を残す。

 

『サイラオーグ』

 

 女性がサイラオーグを呼び続ける。

 その女性に一誠は見覚えがあった。―――病院で見た病で深い眠りから覚めぬサイラオーグの母。

 まるで寄り添う様に息子のサイラオーグを見守っている。

 その口が一誠にだけ聞こえる声で静かに言葉を発する。それは必死に戦う息子を労ねぎらい、心配する母親の優しい激励―――ではなかった。

 

『立ちなさい。立ちなさい! サイラオーグ!』

 

 サイラオーグの母親の表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの。放たれたその声は応援などではなく、息子を叱咤するものだった。

 

『あなたは誰よりも強くなると私に約束したでしょう?』

 

 再びサイラオーグの体が動く。それは徐々に確かになっていき、手から腕、足が動いて体も持ち上がり始めた

 

『夢を叶えなさい! あなたの望む世界を、冥界の未来の為に、自分が味わったものを後世に残さない為に、その為にあなたは拳を握り締めたのでしょう!』

 

 その言葉がサイラオーグに届いているのかは定かではない。だが、それでもサイラオーグの体が確かに動いていく。

 

『たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい能力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界―――。それがあなたの望む世界の筈です! これから生まれてくるであろう冥界の子供達が悲しい思いを味わわないで済む世界―――ッ! それを作るのでしょう!』

 

 サイラオーグの母は徐々に消え行くなか、最後に一瞬だけ微笑みを浮かべた。自慢の息子を見る母親の顔を……。

 

『さあ、行きなさい。私の愛しいサイラオーグ。あなたは―――私の息子なのだから』

 

 その刹那―――地を大きく踏み締め、血を撒き散らしながらサイラオーグが完全に立ち上がる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼」

 

 獅子が咆哮を上げる。雄々しいが、何処か悲哀にも感じる、透き通る程に見事な獅子王の咆哮。

 会場が大きく震え、一誠も心底打ち震えた。

 

「兵藤一誠ッ! 負けんッ! 俺はッ! 俺には叶えねばならないものがあるのだッ!」

 

 ボロボロの状態でサイラオーグが向かってくる。一誠もそれに呼応して飛び込んだ

 

「俺だって! 負けられねぇんだよォォォォォォッ!」

 

 一誠とサイラオーグの拳が同時に放たれ、再び殴り合いが始まった。

 しかし倒れない。何度殴ってもサイラオーグは倒れず、ギラギラした双眸を薄めないまま拳を打ち込む。

 ダメージはサイラオーグの方が大きいハズなのに、その威力は一誠の気力と体力を根こそぎ奪っていくような一撃ばかり。

 一誠がどれだけ攻撃を打ち込んでも、サイラオーグは攻撃の手を緩めない。

 滅びを持たない大王―――一誠は特別を持たないこの男の強さを噛みしめる。何よりも、今までの強敵とは違う、狂信的な勝利への執着を感じ取っていた。

 負ければ全てが終わる。二度目はない。今日死んでもいい覚悟。夢の為に全てを賭けた(おとこ)の意地。

 後退と言う選択肢を捨てた強靭な精神がこの漢の背中を後押ししている。一誠はそう確信した。

 一誠は言葉にならないほどに、カッコイイ男をサイラオーグに見た。そんなサイラオーグに一誠は勝ちたいと心から渇望した。

 

「……はぁはぁ……お、俺にも夢がある……! 部長を……ゲーム王者にして……。俺も……いずれ王者になる……ッ! 誰よりも強くなる! 俺は! 最強の『兵士(ポーン)』になるんだァァァァァアアアァァァァッッ!」

 

 鎧の維持も限界が近くなる一誠。それでも前に進み、サイラオーグに拳を放つ。

 

 パシッ!

 

 突如、サイラオーグの禁手が解除され、割って現れたサイラオーグの人形の『兵士(ポーン)』が一誠の拳を受け止めた。

 突然現れた『兵士(ポーン)』に二人は目を丸くした。

 

「……どういうつもりだ……レグルス……ッ!」

 

 ボロボロとなってはいるが、サイラオーグは強く怒鳴る。

 『兵士(ポーン)』は一誠の拳を掴んだまま冷たい目をサイラオーグに向けた。

 

『情けない姿だな。私のもとで鍛錬を続けていれば、この場でそのような姿を晒すことはなかっただろうな』

 

 そう言われ、サイラオーグは驚愕の表情をした。

 

「―――ッ!? まさか……ッ!?」

『あの窮地から立ち上がったその根性、それでも夢を叶えようとする執念に免じて、最後の餞別として貴様に勝利をプレゼントしてやろう』

 

 『兵士(ポーン)』は誇銅がラードラを完封した時のように手一つで一誠を押さえ込んだ。だが実際は誇銅がラードラを完全に抑え込んだのと違い、自分の僅かな筋力と闘気にもなっていないオーラのみで完全に抑えつけている。

 生身の『兵士(ポーン)』よりもトリアイナ『女王(クイーン)』の方が圧倒的に力は勝っている。それはつまり、『兵士(ポーン)』のオーラが一誠の力を大きく上回っている証拠。

 

「貴方がなぜレグルスの中にいるかは今は問いません。しかし、これは私と赤龍帝の勝負です。邪魔はしないでいただきたい、師匠」

 

 サイラオーグは雰囲気の変わった自分の『兵士(ポーン)』を師匠と呼ぶ。そのことに一誠も実況側も怪訝そうにする。

 『兵士(ポーン)』サイラオーグに向かって言う。

 

『久しいな、サイラオーグ。覚えているか? 貴様が私のもとを去った日のことを。絶望の淵でがむしゃらに自分を鍛え上げようとする貴様に私が鍛え方を指導してやったというのに、私の指導を無視してより激しく自分を鍛え上げることに執着しだした。こんな状況にならぬよう、なってしまった時の対処、全てを貴様に教えてやるつもりだった。その闘気の使い方もな。勝つための力と手段を与えてやったというのに……』

 

 『兵士(ポーン)』は少し悲しそうに語る。その際も一誠への押さえつけは一切緩めない。一誠も脱出しようと全力で抵抗するがびくともしない。

 『兵士(ポーン)』は続ける。

 

『見切りをつけようと思ったが、下等な悪魔ながらその勝利への執着。私はそこを評価したからこそ、指導はせずとも陰ながら貴様に力を貸してきた。神滅具(ロンギヌス)などと呼ばれる『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』が貴様の手に渡るように導き、貴様とは別に私が鍛え上げた弟子の二人、バッボとシャルルを貴様の眷属になるように差し向けた』

「私に力を貸してくださっていたことには感謝します。しかしそれとこれとは話が別です! この戦いは大王バアル家の次期当主として、我が夢を叶える為に―――」

『目的を見誤るなッ! それは王の戦い方ではある。だが貴様は王ではない! 王を名乗るだけの者でしかない。王でない者が王の戦いを語るなど片腹痛いわ! 貴様がただのファイターであるならそれでもよかろう。しかし王を目指す貴様がしなければいけないことは、何が何でも勝利すること、それしかあるまい! 卑怯な手など言語道断だが、期待に応え必ず勝ちを持ち帰ること。それが王を目指す者の戦いだ!』

 

 サイラオーグを否定する『兵士(ポーン)』の言葉にサイラオーグはショックを受ける。自分が目指していたものを自分自身が否定してしまった。やるべきではないことをやってしまった。その事実がサイラオーグに重くのしかかる。

 

『今の貴様はファイターとしての(キング)としても半端な未熟者でしかない! 今度こそ私は貴様に見切りを付けることにした! これは私の最後の慈悲だ! ありがたく思うが良い!』

 

 『兵士(ポーン)』は一誠を潰そうと向き直す。が、サイラオーグが『兵士(ポーン)』の肩に手を置き止める。

 

「失うことなど端から覚悟の上です! なんと言われようが私は夢を叶えます! 師匠だろうと邪魔はさせません!」

 

 ぐらぐらしながらもサイラオーグは強い決意を込めた眼差しを向ける。

 

『……そうか、ならば自らの手で勝利を手にするがよい。貴様の懐には我が弟子が貴様の勝利の為に残したものがある』

 

 その言葉でハッとなるサイラオーグ。説教で冷静になった頭が忘れていた存在を思い出させた。

 戦いの中で忘れていた―――未使用のフェニックスの涙が……。

 

『その言葉が本心なら使うがよい。回復さえすれば盤石な勝利が手に入る。だが、もしもこのまま続けると言うのなら、私はもう何も口出しせぬ』

 

 『兵士(ポーン)』は掴んだ一誠の拳を解いた。

 サイラオーグの心は揺れ動く。ファイターとしてのプライドと、王としての義務に。 前者を取れば敗けて夢への道を失うかもしれない。後者を取ればきっと自分は生涯後悔する。どちらを取るにしても赤龍帝も限界に近い。一秒ごとに絶望(タイムリミット)が押し寄せる。迷う時間すらない。

 小瓶に入った希望(フェニックスの涙)が、サイラオーグに最後の選択を迫る。




 次回で締めます。主に最後の決着部分と、試合後の出来事を少々。
 本当はここで締める予定だったのですが、思った以上に長くて分けることに。が、キリのいいとこで期待感を持ち越したいという思いからこんな事態に。
 あと、流れ的に使用機会のなかったフェニックスの涙をなんとか活用しようとした結果です。
 自分でもこれちゃっちゃっていいのかな~? って書いてる最中に思いましたが、最初に考えていた展開よりはマシだし、フェニックスの涙を浮いたままにするよりかはマシかなと考え実行しました。
 二次創作ですらこの不安なのに……。そう考えるとプロの小説家ってすげーって改めて思います。


 前作を読んでいくださってる読者の方は、最後の『兵士(ポーン)』から前作の黒歴史な失敗を連想されるかもしれません。ですが、そういう意図ではないです。どちらかと言うと、神器に関する私の独自設定が関係しています。
 それはそれでどうなんだと思うかもしれませんが……。
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