無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 この投稿は嘘じゃないよ!


トラブルな誇銅のかまくら

 ジルさんと火影様の話を聞いた次の日の夜。もはや通い妻と化した舞雪ちゃんが今日も晩御飯を作りに来てくれた。

 

「舞雪ちゃんの手料理は美味しくて嬉しいんだけど、毎日来るのって大変じゃない?」

 

 初めて晩御飯を作りに来てくれた日から舞雪ちゃんは毎晩やって来る。

 

「ダーリンに美味しく食べてもらえるのなら大変なことなんて何もありません!」

 

 割烹着姿の舞雪ちゃんが胸を張って言う。

 舞雪ちゃんがニコニコ笑顔を僕に向けている中、罪千さんは不安そうにそれを眺めている。

 

「でも夜道を女の子一人でって危険じゃないかな」

 

 舞雪ちゃんが一人暮らしをしてるところはここから一駅分ほど離れていて、僕も最寄り駅まで見送るくらいしかできていない。

 舞雪ちゃんが住んでる範囲も警戒範囲内だし、一人の時にもしものことがあったら。

 

「大丈夫です。雪女はとっても強い妖怪なんです。悪魔が襲ってきたってへっちゃらです」

 

 言う通り雪女は天照様の血を継ぐだけあって強い妖怪だ。悪魔にだって敗けないだろうし、人間相手でも妖気をうまく使って自然に撃退できるだろう。

 しかしそれは機械兵相手には通じないだろう。下手に戦えば逃走を選ぶ間もなく殺されてしまうかも。

 

「じゃあいっそ一緒に住む?」

 

 僕がそう言った瞬間、二人の動きがピタッと止まった。

 舞雪ちゃんが僕の家に通うことをやめさせるのは無理なら通う必要をなくしてしまえばいい。

 強引な作戦だけどこうすれば舞雪ちゃんが一人で夜中出歩くことも、一人で寂しい思いをすることもなくなる。

 部屋の空きもあるし、一緒に住む相手としても気心も知れてる。学校でまた噂されるかもしれないけど特大の爆弾が既に投下されてるから。

 

「そ、それってつまり……プロポーズってことですか……?」

 

 舞雪ちゃんがワナワナと身を震わせながら言う。

 

「え……?」

「もう一緒にいようってことですよね?!」

 

 驚愕から歓喜へと表情を変えていく舞雪ちゃん。

 どうやら僕の意図していたものより数段上に受け止められてしまったようだ。

 

「その、そういうことじゃなくて……!」

「舞雪は感激です! 毎朝ダーリンの為に美味しいお味噌汁を作ります!」

 

 ダメだ、僕の声が届いていない。幸せ過ぎて完全にトリップしてる。

 この誤解は早く解かないと大変なことになる。間違っても学校にまで持ち越してしまったら誤解の第二次世界大戦が始まってしまう!

 焦る僕の手を罪千さんが横から両手で握る。

 

「お願いします……私なんでもします。奴隷でもペットでも構いません。どんな仕打ちにも耐えますから……」

 

 ぶるぶる震えながらとんでもないことを口走る罪千さん。

 舞雪ちゃんとは正反対の不安が表情と震えから伝わってくる。

 そもそもなんで罪千さんはこんなことをいい出したんだ?!

 

「いったいどうしたの!?」

「お願いします! 捨てないでくださいご主人様~!」

「子供は何人欲しいですか? あっそれはまだ早いですよね。まずは結婚式とハネムーンはどこにするかですよね」

「え、えぇッ!!?」

 

 恐怖と涙を浮かべた罪千さんと、幸せな未来予想図を広げる舞雪ちゃん。

 たった一言から突然始まった大パニック。いったいどう収集をつければいいのか。

 それから時間はガッツリ掛かったが何とか二人を話ができる程度までには落ち着かせることに成功した。よかった。なんとかできて本当によかった。

 

「プロポーズ……じゃなかったんですね……」

「ご主人様……」

 

 プロポーズではないことがわかった舞雪ちゃんは反動で暗くなり、罪千さんはまだ不安なのか僕に膝枕して離れようとしない。

 それにしてもまさかこんな自体になるなんて。これって僕が悪いのかな? 勘違いさせるようなことを口にした僕が悪いのかな? 舞雪ちゃんの気持ちを知ってるのにあんな言い方したのが悪いのかな? 罪悪感で胸が苦しい! 

 もうこうなってしまった以上秘密にしておくのは逆に危険か。

 

「舞雪ちゃん、実は今日の昼にね」

 

 そう判断した僕はジルさんと火影様の会談の内容を少しだけ話すことにした。主に機械兵の部分を。

 事情を話していると舞雪ちゃんの元気が少しずつ戻りだし、最終的に僕に膝枕されながら撫でられている罪千さんを気にするぐらいまでに戻った。

 罪千さんも膝の上でずっと優しく撫でられ続けたおかげか先程の不安もだいぶ落ち着いてきたようだ。

 …………あれこれもしかして他のトラブル引き起こそうとしてる?

 

「そんなことが今この町で。だから一緒に住もうって言ってくださったのですね」

 

 幾分元気を取り戻した舞雪ちゃんだったけどガッカリした様子は否めない。

 ずっと僕を一途に想っていてくれた舞雪ちゃんには悪いけどまだその気持に返事はできない。

 

「その機械兵というのはそれほど危険なのですか」

「うん。悪魔とは比べ物にならないくらいに。それに何よりも相手が機械だから感知が難しい」

「そうなんですか?」

「陰影様のお墨付きなぐらいにね。舞雪ちゃんの感知能力は僕以上ではあるけど七災怪以上ではないでしょ」

 

 というか陰影の称号が日本妖怪一の感知能力の高さの証明とも言える。その陰影様が難しいと言えば最低でも七災怪に匹敵するのが条件だ。

 陰影様を出されては自信満々だった舞雪ちゃんも何も言えない。

 

「でもダーリンと同じ屋根の下で暮らせるきっかけになったのだから構いません!」

 

 考え方を変えてパァと明るくなる舞雪ちゃん。前向きな発想で受け止めてくれるのは精神的に助かる。

 

「そう言えば最近妖気を持った妖怪未満の猫をよく見かけるなと思っていましたが火影様が来てたんですね」

 

 舞雪ちゃんは納得したように呟く。

 

「それって何か関係が?」

 

 内容の繋がりがいまいちわからなかったので訊いてみると。

 

「そりゃ火影様は火車ですから関係大アリですよ。それも噂では二代目火影様は猫又でありながら火車へと至った方と聞いています」

 

 火車――つまり元は猫の妖怪であるということ。

 

「でも火車になれるのって猫魈じゃ」

 

 火車へと到れるのは猫妖怪の最上位の猫魈のみ。それが僕が知る妖怪の常識。

 

「だから凄いお方なんです。火車へと昇華できるのは猫魈だけという概念を壊し、猫魈の火車から火影の座を勝ち取った。猫妖怪たちにとってもはや伝説と言われてるお方なのです」

 

 猫魈ですら火車へと進化できるのは稀なのだから成れないとされていた猫又が至ればそれは凄いことだ。

 人間社会でもその時代の常識を打ち破り名を残した偉人は多い。二代目火影様も妖怪世界のそれだろう。

 先代の昇降さんは猫魈から火車に至って、火影は二代続けて火車になったのか。

 

「それよりもダーリン。明日のお弁当何かリクエストありますか? 材料が限られてるので大したものはできませんが腕によりをかけて作ります」

 

 さっそく家の台所は舞雪ちゃんに掌握されようとしている。というかもはや確定だろうね。

 

「それと……本当に罪千さんとは何も無いんですよね?」

 

 今だに僕の膝の上でリラックスする罪千さんをジト目で見る。

 あまりにもベタベタし過ぎな罪千さんを見て再び疑心が沸いてきてしまったようだ。

 

「も、もちろんだよ」

 

 問題はこれだけではない。これから舞雪ちゃんも一緒に住むとなるといつも罪千さんがするアレも隠し通すのは不可能。

 流石にアレをしてるのを見られて何もないとは言い切りにくい。だからと言って罪千さんがリヴァイアサンだと説明することもできない。というか説明したところで解決するとも思えないし。

 こうして舞雪ちゃんとも一緒に住むこととなった。

 僕のことを好きと言ってくれる罪千さんと舞雪ちゃん。このまま一誠のところみたいなことになっていくのではないかと心配になってきたよ。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 休日に一人で散歩をする僕。試験も近いし勉強しないといけないのだが、現在家の中はとても集中して勉強できる環境ではない。もちろん原因は舞雪ちゃんと罪千さんだ。

 あれから数日経過したが、相変わらず二人の間には微妙だが確実な溝がある。

 以前のようににらみ合いはないものの舞雪ちゃんはライバル意識、罪千さんは苦手意識が強めだ。

 

 二人は喧嘩することなく表面上はすっかり仲直りしたものの、その微妙に居心地の悪い空気は耐え難い。これでもだいぶマシになったのが幻想のようだ。

 というわけであの空間から逃れリフレッシュするために町中を散歩することにした。

 

 舞雪ちゃんが町中で妖気を持った猫をよく見かけるようになったと言っていたが、言われてみれば町中で野良猫を見る機会が異様に増えた気がする。

 気を凝らして感じてみると僅かながら妖気を感じる。これは生粋の日本妖怪並の感知能力がないと気づくのは無理だ。

 僕は視界に入った妖気を持った猫に近づいてみた。

 

「そ~」

 

 妖気を持ってるからか普通の猫のようにすぐに逃げ出さずそのままの体勢でこちらを見ている。

 しかしかなり近づいたところで猫が鼻をスンスンと鳴らすと逃げ出してしまった。

 

「ん~ダメか」

 

 日本妖怪の舞雪ちゃんの匂いが付いてるだろうから触らせてもらえるかと想ったがダメか。

 でも最後近づいた時にものすごい警戒心を表してたな。なんでだろう?

 

「悪魔の匂いに気づかれたね」

 

 ふと後ろから声をかけられ振り向くと、そこには火影様が立っていた。

 

「火影様」

「多摩でいいよ。僕も誇銅くんって呼ぶから」

「わかりました。それでは多摩さん」

 

 そう笑顔で言ってくれる多摩さん。まあ多摩さんとはこれから町中で話す機会とかもありそうだしその時に火影様なんて言えないからね。

 

「多摩さんはなんでこんなところに?」

「そうだね、こんな道中で立ち話もあれだし歩きながら話そう」

 

 そう言って歩きだす多摩さんを追いかけるように僕も歩く。

 この辺りは警戒範囲ではあるけど中心ではなかったはず。

 それに悪魔と、特にリアスさんたちのような三大勢力の中心に近い人物との接触は避けたいはず。

 

「ぶらぶらついでにオーフィスと噂の赤龍帝とその取り巻きを見ておこうと思ってね」

 

 と思ったらむしろ接近してた!

 それって割と危なくない?! リアスさんやヴァーリチームはともかくアザゼル総督なら気づくかもしれな……いかもね。アザゼル総督も学校で舞雪ちゃんとすれ違ったこともあったけど何か勘付いた素振りすら全くなかったし。

 それでも元日本妖怪の黒歌さんとかならその可能性が。

 

「とりあえずそいつらの家に侵入して観察してみた。広いくせに警備が甘かったし、気付きもしなかったよ。実力者と言われてるみたいだけど大したことないね」

 

 元日本妖怪の黒歌さんもダメだった様子で。これはもう悪魔が七災怪レベルの気配を探るのは不可能だね。

 でもまあそこは妖怪の強味だから僕としては安心感はある。例え基本能力が上の悪魔でも勝機が十分見込める。

 

「あの多摩さん、兵藤家には猫魈の転生悪魔がいたと思うのですが……」

 

 塔城さんとそのお姉さんの黒歌さんは悪魔側では最後の生き残りと言われている日本の妖怪、猫魈の転生悪魔だ。

 猫妖怪である多摩さんからしたら複雑な心境だろう。

 

「ん、ああいたね。それが?」

 

 と、思ったが予想外にあっさりとした返答だった。

 

「驚いたりはしなかったんですか?」

「事前情報があったから別に驚きはしないさ。ちょっぴり残念には思ったけどね」

 

 やっぱり残念には思ってるのか。しかし全体的には全く気にしてない様子。

 

「猫魈が悪魔と仲良くしてるのを見て僕が気にすると思ったのかい?」

「はい」

「そりゃ少しは気にするけども彼女たちは至って悪魔たちと仲良くやってる様子だったからね。あそこまで馴染んでいたらもはや同族とは言えない。元は猫魈と言っても完全に悪魔だ。そう定義した方がお互い余計な厄介事にならなくて幸せってもんだろ」

 

 悪魔側に馴染んだ同族は同族としてみなさないってことか。確かに塔城さんや黒歌さんが日本妖怪として日本側になれるかといったら絶対に無理だ。悪魔側と仲良くしてる妖怪もいるらしいが、そういう妖怪は日本神話や七災怪たちなどの日本の中核との関係性が希薄だ。

 

「それと猫魈はあの二人が最後の生き残りと言われてるのですが」

「悪魔側ではそうなってるのかい。それは好都合だ」

「好都合。つまり猫魈はあの二人が最後の生き残りではないんですね」

「そうだね、昔と比べてだいぶ減ってしまったのは確かだ。今では初代火影を含めて30ほどしか確認されてない」

 

 絶滅危惧種にはなってるのか。それでもそこそこの数が生き残ってるみたいでちょっと安心。

 

「それじゃ多摩さんから見てオーフィスはどうでした」

 

 悪魔は簡単でも無限の龍神ともなればそうはいかないだろう。そう思って多摩さんの評価を訊いてみる。

 

「まあ噂に違わぬってところかな。無限の存在と言われるだけのものは確かに感じた。暴れられたら僕では到底抑え込めそうもない」

 

 オーフィスには勝てないと自ら宣言する多摩さん。その判断はおおいに正しいと僕も思う。

 

「圧倒的な強者特有の落ち着きもあってか彼ら(悪魔)ともうまくやってるようだった。しかし直ちに危険があるわけではなかったが危ない存在には変わりない。彼女はテロリストの頭だそうじゃないか。彼女自身が暴れなくとも彼女を取り返そうとするならこの町は戦場になってしまう。どっちにしろとんでもないものを持ち込んでくれたよ彼らは」

 

 ため息を吐きながらやれやれと頭を振る多摩さん。こんな大変なタイミングで特大の問題を引き込んだアザゼル総督に文句の一つも言いたい気分なんでしょう。

 現状を憂い改善しようと賭けに出たアザゼル総督の行動を僕は悪いとは思わない。オーフィスを見る限り分の悪い賭けでもなさそうだったし。

 でも一つ気になることがある。その勘定には果たして無関係な人への被害が含まれるのか。

 三大勢力への疑心からそんなことを考えてしまう。アザゼル総督は本当に正しい決断をしたのか。

 そして僕がこんな考えを持つのが悪魔に見捨てられた恨みからくる極度の否定的な考えなのではないかと。疑い出すとキリがない。

 暗い気持ちで視線を落とすと僕はあることに気づいた。

 

「あの多摩さん、今って变化してますよね」

 

 気づいたこと、それは多摩さんが变化の術で姿を変えていたこと。

 疑問に思って訊いてみると。

 

「そうだよ」

 

 多摩さんは隠すつもりがないのかあっさりと白状した。

 それから多摩さんは僕の顔をジロジロと見て言う。

 

「影だね」

「え、あ、はい。そうです」

 

 多摩さんが言った『影』とは、僕が多摩さんの影を見て变化を見破ったということ。

 でもなぜ気づかれたのか。

 

「なんで僕が影で判断したと」

「僕の影を見た時に変な反応をしてたからね。その直後に姿を変えているかなんて聞いたからだよ」

 

 僕の視線から判断したのか。僕が露骨だったとはいえ鋭い。

 变化の術で化けた相手を直接見破ることはできないが、僕の目には化けた本人の本当の影が見える。

 多摩さんの影を見た時に多摩さんの影のシルエットが微妙だがハッキリと違っていた。

 

「その、なんで变化を? やっぱり正体を隠すためですか?」

 

 まあ变化で正体を隠す意味としてはその辺が妥当だろう。鵺さんのような極度の恥ずかしがり屋な方が稀だろう

 僕が訊くと多摩さんは答えてくれた。

 

「新参者の私ではどうしても威厳が足りなくて。特に元の姿では舐める奴も多い。そんな輩を一々シメるのは意外に面倒でね。最近の妖怪はちょっと威嚇した程度じゃ実力の差を察知できないのも多いし」

「それでその姿なんですか?」

 

 でも、お世辞にも今の姿が威厳たっぷりかと訊かれればそうとはいい難い。

 筋肉はしっかりしててもどちらかと言えば童顔寄りで身長も高くない。

 

「この姿でも舐める奴は舐めるけどね。けど長年使ってきた姿だし、この姿が何かとちょうどいい」

 

 そう言うと多摩さんは一瞬だが狩る者の目をした。

 その“ちょうどいい”とはおそらくそこが多摩さんにとってのある種の相手を図る物差しのようなものなのだろう。

 そしてあの目からして、その姿でも舐めるような徹底的に舐めた相手には……。

 でもよくよく思い出してみると昇降さんの時代からそんな感じだったような。

 あの人も七災怪最弱と言われ知能の低い妖怪によく襲われたりしてたって言ってたっけ。全員昇降さんの足元にも及んでなかったけど。

 

「あれから捜査の方はどうなってますか?」

「目ぼしい進展はなかったが、やっぱりロボットは一機だけじゃなかった。現在こちらと向こうで計2機の存在を発見した」

「やっぱりいましたか」

 

 多少驚きはしたけど意外ではない。むしろまだいると思ってる。

 

「そのロボットはどうなったんですか」

「あのロボットには自爆機能があったようで、どうやら作戦続行不可能な状態に陥ると自爆して証拠を抹消するようプログラムされていてね。残念ながらコアを的確に破壊できず自爆を許してしまった」

 

 そんなプログラムが組み込まれてたんだあの機械兵。それじゃあの時もジルさんがコアを的確に破壊できなかったら僕たち結構危なかったんだ。

 

「でも多摩さんが無事でよかったです」

「問題は向こうの方でね。部下の一人が取り押さえたのはいいもののロボットが自爆してしまって大変なことになったらしい」

 

 取り押さえた状態で……自爆。つまりその人は至近距離で爆発を受けて……。

 多摩さんは話を続ける。

 

「なんでも上半身は残ったのだけど……」

「つまり下半身は……」

「ああ。下半身は完全に吹き飛んで恥部がまる出しになってしまったらしいんだ」

 

 ………ん? どゆこと?

 

「え、無事……なんですか……?」

「吹き飛んだのは衣服だけで本人は無傷だ。でも運悪く警察に見つかって公然わいせつ罪で逮捕されてしまった」

 

 え~~~~~! このタイミングで公然わいせつ罪で逮捕?! 至近距離の自爆で無傷だったのに?!

 よくよく考えてみれば機械兵を取り押さえられる人物となれば武闘派な戦闘員。非戦闘員のように安々とは殺されないだろう。

 それでも至近距離からの自爆で無傷ってめちゃくちゃ頑丈だね。さすがアメリカ勢力の戦闘員。

 

「でもまあ無事でよかった」

「あっちも安否に関しては全く心配してなかったけど、逮捕されたことには半ば呆れてたたよ」

 

 まさか捜査中に部下が公然わいせつ罪で逮捕されるなんて思いませんもんね。呆れてしまうのも無理ない。

 なんか思ってたより平和でなんか安心したよ。実際は既に機械兵が二機も出没して危険なんだけども。

 まさか人外世界に足を踏み入れて普通に逮捕される関係者を見ることになるなんてね。それも第一号がまさかのアメリカ勢力の人。その類いの第一号は絶対一誠あたりだと思ってた。

 まあ悪魔の場合は完全に隠蔽して表の警察に介入なんてさせないけれど。

 それでも被害者も混乱も起こってない現状に僕はとても安心した。このまま何も大事が起これなければいいけど。

 そう思いながら事件は起こらず、中級試験にオーフィスの来訪もあって悪魔側からの接触もなく平和な日々が続いていった。

 

 

 

 

 

 

 舞雪ちゃんが家に住むことになってしばらくしての夜のこと。

 その日は舞雪ちゃんが作ってくれた夜食を口にしながらリビングで試験勉強していたのだが、切りもいいことだし今日はそろそろ寝ようと思い自分の部屋に移動する。

 

「お待ちしてました」

 

 僕のベットの上で舞雪ちゃんが寝る準備バッチリで待っていた。

 舞雪ちゃんが一緒に住むことになり今まで罪千さんとしていた添い寝を舞雪ちゃんもしたいとのことで、舞雪ちゃんと罪千さんで代わりばんこにすると三人で話し合いをして決めたのだ。

 そして今日は舞雪ちゃんの番というわけ。罪千さんはギリギリまで僕の側にいて、僕の今日着ていたシャツを持って一足先に部屋に戻った。

 わくわくしている舞雪ちゃんの隣に入り布団の中へ入ると。

 

「ダーリン」

「おやすみ舞雪ちゃ……ん?」

 

 いつもは真横で少し興奮しながらピタッとくっつく舞雪ちゃんなのだが、今日はこころなしかいつもより顔を赤くしながら僕の上に乗った。

 僕の上に乗って寝るのはこいしちゃんが一緒に寝る時の寝方なのだが、舞雪ちゃんがそんな寝方をしようとするのは始めて。というかいつも寝る前の様子と根本的に違う気が。

 

「ど、どうしたの……?」

「うふふ」

 

 含みの笑みを浮かべて顔を近づける。

 嫌な予感がするが腕を動かそうにも舞雪ちゃんが両手を握ってるので動かせないので、せめてもの抵抗に顔をそむけた。

 そうする僕の頬に舞雪ちゃんの唇が触れる。雪女だけに少しひやっとした感触がした。

 

「ハァ……ダーリン」

 

 舞雪ちゃんの顔を見ると、うっとりとした表情で僕の顔を眺めていた。

 というかもうこの状況ってアレだよね? 舞雪ちゃんの僕への気持ちから考えてこれはもう勘違いとか自意識過剰とかじゃないよね?!

 それでも何かそうではないかもという希薄な希望を思案していると、舞雪ちゃんは抱きつきながらもぞもぞと動きながら僕に体を擦り付ける。舞雪ちゃんのスレンダーなボディを体で感じられる。

 可愛い幼馴染に告白され同じ布団で抱きつかれる。男子学生にとってまさに夢のシチュエーション! 僕だって一端の男子だからこの状況を嬉しいとも感じている!

 平安時代でわりとこういったことはあったりしたけどそれとはまた別のものがあるよね!

 すると今度は騎乗の体勢から体を少し浮かせて言った。

 

「ダーリン……しよ?」

 

 ―――っ!! え、え……ええッッ!!

 舞雪ちゃんは具体的な単語は言わなかったけどこの状況でそれが何を指すかわからないほど鈍感ではない!

 

「ちょっと! そういうことはちゃんとそういう関係になってからに……!」

「はい、ですので唇へのキスは我慢します」

「いやそれもそうなんだけど、それだけじゃなくて!」

 

 僕の言葉になぜか一度キョトンとする舞雪ちゃん。なんで一瞬とはいえ疑問に思ったの!?

 

「もちろん子作りは正式に結婚してからにします。昔の雪女とは時代が違うのですから」

 

 え、そうなの……? じゃあこれって……。なんだ違うのか、あーびっくりした。そしてそういうことだと勘違いしてしまったことに羞恥心が湧き上がって

 

「これは初夜ではなく姫始めです」

 

 勘違いじゃなかった!!? というか何が違うの! まあ厳密には違うんだろうけど。この場合はもう同じだよ!

 騎乗したまま舞雪ちゃんは寝巻きの浴衣の腰紐を外す。

 

「もちろん私の初めてはダーリンです」

「僕だって未経験だよ!」

「でしたら初めては私なんですね。やった!」

 

 そういうことじゃないよ!

 舞雪ちゃんの白い綺麗な肌が緩んだ浴衣の間から見えてくる。それはエロいというよりただただ綺麗だった。しかし性的なものを感じてしまう。これが雪女というものなのだろうか……。

 

「私のこといっぱい教えます。だからダーリンのこといっぱい教えて?」

 

 その意味深な言葉に脳が沸騰してしまいそうになり、顔から火が出そうになるほど熱くなる。

 熱々になった僕の顔に冷たい舞雪ちゃんの手が触れた。その手が僕の熱さを冷ましてくれた代わりに僕の心臓の鼓動が激しくなってるのがハッキリとわかるようになる。

 

「こんなにもドキドキしてくれてるんですね。すごく嬉しい」

 

 そう言うと舞雪ちゃんは僕の右手をとって自分の胸に当てた。すると触れた手から舞雪ちゃんの鼓動も激しくドキドキと鳴っているのを感じた。

 平安時代に何度も味わった藻女さんの官能的で濃密なものとは違う。もっと初々しく甘酸っぱい誘い。

 

「ダーリン…………」

「舞雪ちゃん……」

 

 お互い見つめ合ったままゆったりとした時間が流れる。このまま流れに乗って舞雪ちゃんと――――。

 

「ダメだよぅ」

 

 (すん)でのところで僕の理性が正常に働き出した。危なッッ! もう少しで流されて一夜の過ちを冒してしまうところだった!

 真っ白な高校生時代に藻女さんの誘惑にも二年間耐えたんだ。このくらいで僕の理性という名の牙城は崩れない! 崩れかけたけどね!

 

「私ではダメなんですか?」

 

 瞳を潤ませながら言う舞雪ちゃん。

 

「舞雪ちゃんはとっても魅力的だよ。ダメなのは僕の方だよ。まだ舞雪ちゃんの気持ちに答える準備ができてないんだ」

 

 それにこれで流されては今まで散々拒んできた藻女さんに義理が立たない。

 情けない話だけど僕にはまだ童貞を捨てる覚悟ができてないようだ。据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだよ。

 

「例え遊びだとしてもね」

 

 僕がそう言うと舞雪ちゃんはうつむいた。でも舞雪ちゃんがどんな考えでいいと言っても僕は僕を曲げる気はないよ。

 うつむいていた舞雪ちゃんは顔を上げて言った。

 

「それではこれは犬に噛まれたと思ってください」

「へ……?」

 

 先程の空気が収まったかと思いきや、舞雪ちゃんの乙女の瞳が飢えた野獣の目へと変わった。

 僕の両手首を掴んで抵抗できないようにされる。さっきまで愛し合う流れだったのになんで捕食されそうになってるの!?

 このままじゃ舞雪ちゃんに食べられる……! そう思って僕も防衛手段に出た!

 

「お願い舞雪ちゃん。やめて……?」

 

 自分の身を守るべく全力の可愛さで必殺のお願いを繰り出す! 

 

「キュン! ハァハァ、ダーリン可愛い……!」

 

 が、舞雪ちゃんを別ベクトルへ興奮させただけで効果はなかったようだ。むしろ逆効果になってしまった。

 

「誰かに取られる前にダーリンの初めてだけは……!」

「ちょ、ちょっと!!」

 

 ―――カチャ……。 

 

「キャッ!」

 

 ―――バダン!

 

 今まさに舞雪ちゃんが暴走した時、突然自室のドアが開かれて罪千さんが倒れてきた。倒れた体勢からしてどうやらのぞき見をしようとして失敗したみたいだ。おそらくドア越しに聞き耳も立てていたと思う。舞雪ちゃんにドキドキし過ぎて気配に気づかなかった。

 

「す、すすすす、すいませぇーん!」

 

 倒れた体勢からすぐさま土下座へと移行する罪千さん。その流れるような動作には慣れを感じる。

 

「なんでもしますので、許してくださぁーい!」

 

 なんだかわからないけどこれはチャンスだ! 罪千さんの乱入で空気が完全に壊れた!

 僕は布団を上げて空いた隣をポンポンと叩く。

 

「そんなとこにいないでおいで」

「許してくれるんですか?」

「怒ってないよ。おいで」

 

 顔を上げてパァと明るい表情になる罪千さん。

 しかし対象的に舞雪ちゃんは不満そうな表情に。

 

「ダーリン!」

「ダメって言ったのにやろうとしたから今日の二人きりはなし」

 

 自分を襲おうとした人と二人っきりでなんて眠れないよ! それに前半はお互いいい雰囲気だっただけに今でもドキドキして眠れそうにないし。

 間に罪千さんが入ってくれれば襲われる心配もなくなるしドキドキもマシになるだろう。

 嬉しそうに僕の隣に入る罪千さんと不服そうに大人しく降りる舞雪ちゃん。

 僕はベットの中で二人の間に挟まれた。……まあ当然っちゃ当然か。でもこれで少しは治まるかな。

 

「舞雪ちゃんもう変なことしちゃダメだからね。罪千さんもしもの時は守ってください。それじゃ二人共おやすみ」

「おやすみなさい」

「はぃ、おやすみダーリン」

 

 これでやっと落ち着いて眠れ……いやこの作戦は失敗だ! 二倍ドキドキしてしまって余計に眠れないッ!! 隣に舞雪ちゃんがいるのもそうだが、さっきまでのことで罪千さんにまでドキドキしてしまう!

 罪千さんが僕に抱きつきながら眠るのはいつものことなのだが、今日は罪千さんの大きな胸と健康的で肉付きのいい体が気になってしかたない。普段から何気なくボディタッチが多いけど罪千さんの体つきはエロい。

 しかも僕が守ってといったせいでか抱き込むかたちになってるから目の前に罪千さんの大きな胸が!

 そうして心配とは全く関係のないことで眠れぬよるを過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――一時間後―――

 

 

「Zzz……」

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