無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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凶暴な退役軍人の二重人格

「で、そいつが英雄派の」

「フョードルと申します」

 

 僕たち四人は一度店に戻り、貸し切り状態となった店の中でジルさんに状況を報告した。店には僕たち以外にはヴィロットのお姉さんと外にいるフェンリルだけ。

 戻ってきた僕たちを労うようにお姉さんが人数分の珈琲を入れてくれた。

 

「そんで話ってのはなんだ? 現在こちらは非常に忙しい。できるだけ手短に頼む」

「はい」

 

 ジルさんが急かすように言うとフョードルさんは何枚かの写真をテーブルに出した。

 その写真の何枚かに映っていたのは以前僕とヴィロットさんが対峙した機械兵や今戦っている機械兵によく似た機械。

 

「こちらは最近、英雄派に導入された機械です。私たちも詳しいことは知らないのですが、かなりの戦闘能力を持つ機械の兵隊だと」

 

 その見た目は以前僕たちが戦ったものの新型っぽい感じだった。

 

「テスト仕様の結果でははぐれ悪魔を真正面から一方的に叩き潰し、おびき寄せた悪魔の集団も瞬く間に殲滅。これが量産さるとなるとアメリカにとっても無視できない脅威となるやもしれません。さらにこちらの方からそちらが現在この機械に似た敵と交戦中と聞きました。タイミング的にも関連性がある可能性が非常に高いと思われます」

 

 テキパキと説得力のある発言を続ける。おそらく無関係ではないだろう。

 あの機械兵は京都で曹操たちと戦った後にも卯歌ちゃんを狙って姿を表した。それに今の説明を合わせるとその可能性は非常に濃厚だ。

 

「出処は曹操ら幹部しか知らず、それに準ずる私たちが訊いても協力者からの贈り物としか答えてくれませんでした。この協力者と言うのは以前からその存在だけは知っていましたが何者かは一切不明のまま。その全てが曹操と幹部たちしか知りません」

 

 その協力者と言うのはおそらくロキ様の時に機械兵越しに話したあの男のことだろう。

 思い出す会話の内容から曹操たちと目的は同じようにも感じるがそれだけとは思えないものも感じる。あの男は一誠たちを低く評価していたから考え方は同じではないはず。

 

「ただいま英雄派はハーデスら死神と協力関係を結び冥界への侵攻を開始しており、この機械も投入予定です」

 

 冥界には今レイヴェルさんもいるのに! でも今から僕だけが冥界に向かうわけにもいかない。というか僕一人が駆けつけたところでレイヴェルさん一人救出ってこともできそうもない。

 

「冥界に侵攻? なんでまたこんなタイミングで」

 

 落ち着いた様子でジルさんが訊く。

 

「新しいおもちゃ(ロボット)を試すためか?」

「いえ、私たちの今回の狙いはオーフィスです」

 

 オーフィスがターゲット? オーフィスは禍の団(カオス・ブリゲード)の首領。それなのになぜ禍の団(カオス・ブリゲード)に所属している英雄派がオーフィスを狙うのか。

 現在オーフィスは一誠たちと一緒にいるから取り戻すというならわかるが、今の言い方はそういう風ではなかった。

 

「オーフィスはおまえさんたち(禍の団)のボスだろ? 一体どういうことだ」

 

 ジルさんも訝しげ問いかける。

 

「その詳細については私たちには知らされていません。ただ曹操は俺たちにオーフィスは必要だが、いまのオーフィスは必要ではないと言っていました」

「目的はわかんねぇけど何するかはだいたい予想がつくな」

 

 無限の龍神であり文字通りの無限の存在のオーフィスを一体どうするのか。僕には予想もつかない。

 

「ハーデスが管理する冥界のコキュートスにいる、サマエルを使うつもりだな」

「ムッ、サマエルを……ですか」

 

 サマエル? その名前を聞いてフョードルさんは緊張する。

 

「それがオーフィスに対する答えなんですか」

 

 僕はジルさんに訊く。そのサマエルというのがオーフィスとどう繋がるのか今の所さっぱりだ。

 

「『龍喰者(ドラゴン・イーター)、サマエル。神の怒りに触れ、神の悪意をその身に受けた堕天使。その強大な呪いの猛毒を持って、存在するだけでドラゴンを絶滅させることのできる最強の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)

 

 神の怒りに触れ、神の悪意をその身に受けた堕天使……。存在するだけでドラゴンを絶滅させることのできる最強の最強の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)……!

 もう、その説明だけでどれだけ危険な存在なのかが伝わってくる。

 

「そのサマエルを使ってオーフィスを殺すのが目的だと」

「いや、それはわからん。そりゃ殺すこともできるが、制御の仕方によってはそれ以外もできると思うぞ。例えばオーフィスの力だけをゴッソリ抜き取るとか、理論上はな。オーフィスが必要って言ってたしそっちの可能性の方が高い」

 

 オーフィスの力を奪うか。オーフィス自身は非常に大人しそうだったので直接敵に回ることはなさそうだったが、場合によってはあの力が直接牙を向くことになってしまうのか。恐ろしい……。

 

「オーフィスの力を抜き取って一体なにを!?」

「そこまではわからん。最終的に何がしたいのかはな」

 

 そっから先はジルさんもわからないそうだ。でも、ここまでわかったことだけでもかなりの大事件だ!

 そしてそのハーデスという神様はなぜテロリストに手を貸したのだろうか?

 そう言えばハーデスって試合前に会った神様だったっけ。その時アザゼル総督がギリシャ側でハーデスだけが協定に否定的と言っていた。つまり今回の理由はそういうこと? いや、三大勢力との協定の否定で言えばロキ様の時のようなこともある。まあ今回は手段があれだけども。

 

「今回の目的はオーフィスだけなのか」

「そのように聞いています。しかし曹操の性格からして本来必要のない戦闘が行われ無駄に規模が大きくなると私たちの軍師は予想しています。さらには現在は二天龍に強い興味を持っているので、現在冥界にいる赤龍帝と出会ってしまえばその悪い癖が間違いなく出てしまうだろうと」

「ふ~ん。おまえさんはどう思う?」

「私も同意見です。曹操は口では謙譲ですが、その本心は慢心に満ちています。それでいて好戦的な性格であり目的に必要ない戦闘も何度か」

 

 やっぱり仲間だけに曹操の性格をよく理解しているようだ。てか曹操って仲間からそんな風に思われてるんだ。

 それにしてもヴァーリさんしかりサイラオーグさんしかり、一誠の周りの強い人たちって戦闘狂がやたら多い。それが聖書周辺の特色なのかは知らないけれど。

 

「話はだいたい理解した。だが今すぐ俺達が動くことはできない」

 

 それは冥界に攻め入った英雄派には関与しないということ。つまり今回は英雄派も冥界も助けはしない。まあアメリカ勢力が悪魔を助ける理由なんかないし当然っちゃ当然か。

 

「だがこの話は俺から上に伝えておこう。たぶん動いてくれると思うぜ」

「ありがとうございます」

 

 感謝と共に頭を下げるフョードルさん。

 運が良ければこのまま英雄派も瓦解して問題が一つ解決するかも。あれ? でもそうなったら聖書が勢いづくのでは?

 

「とりあえず時間もいい感じだし軽くメシでも食うか。なあ、なんかパパっと食えるもんないか?」

 

 ジルさんが厨房の方にいるヴィロットさんのお姉さんに向かって言う。

 朝からゴタゴタが続いて意識してなかったがもうお昼を回っていて、それを意識するとお腹の減りも感じてきた。

 するとあらかじめ用意されていたらしいフランスパンでピザをサンドしたものを僕たちの分まで用意してくれた。

 

「お仕事頑張ってくださいね」

「僕たちの分まですいません。ありがとうございます」

 

 笑顔でサンドイッチを僕たちに手渡してくれる。

 

「私にまでも! ありがとうございます」

「頑張ってくださいね」

 

 それは英雄派のフョードルさんにも同じように。この場にいる全員に平等に用意してくれていた。

 まさか自分の分まで渡されると思ってなかったフョードルさんは驚きつつも照れているようだった。不意打ちで優しくされると普通はそうなるよね。

 僕たちがそんなことをしているとどこからか携帯が鳴る音。それはジルさんのだった。口の中のサンドイッチを呑み込みながら電話に出る。

 

「ん、なんだ。――――わかった、今からそっちに向かう! それまで耐えられそうか?」

 

 通話を終えるとすぐさまジルさんは僕たちに言う。

 

「被害を拡大させないためにも人手がいる。ワリィがすぐに動いてもらうぜ」

「はい!」

 

 詳細はわからないがかなりの大事なことだけはわかった。

 ジルさんは残り半分のサンドイッチを急いで食べ終え店の外へと向う。

 

「私も微力ながらご協力させていただきます」

あっち(英雄派)の方はいいのか?」

「構いません。いざって時にはあとの四人がいます。それよりも町の人間を守る方が最優先です」

 

 こうしてフョードルさんも協力してくれることになった。とても心強い加勢だ。

 僕も残りのサンドイッチを急いで頬張った。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 店を出た僕たちは現場に向かいながらジルさんから今起こっていることを聞いた。あの後僕たちの情報を元に男性を確保することが出来たのだが、同時に複数の機械兵に遭遇し追われて、男性を確保した人員では機械兵を倒すことが出来ずに現在逃げ回っている。

 それから移動中にもう一度ジルさんの携帯が鳴った。今度は機械兵が他の場所でも暴れ始めたという報告だった。

 

「こっちの戦力を分散させるための陽動だろうけど」

 

 敵は揺動の為に機械兵という人員を使い捨てる手法に出た。既に一機確保されてるため情報の守秘も必要ないってわけか。

 命令に絶対服従の機械だからこそ安易に捨て駒にできる。敵は多数なのにこちらには機械兵に対抗できる人員は数える程しかいない。

 後ろを走る僕たちをチラッと見た。

 

「こっちは僕たちに任せてください」

「……今回は複数だぜ。いけるか?」

「大丈夫です。策ならあります」

 

 僕の炎なら視界を遮りダミーの炎人形で機械兵の追跡を振り切れる。僕の炎が通じるかは確認済みだ。

 しばらく僕の目をじっと見たジルさん。

 

「オッケー、じゃあ任せた」

 

 保護任務を僕らに任せてくれたジルさんは次の現場へと向かった。

 僕たちも保護対象と合流するため舞雪ちゃんに探知をお願いする。

 

「舞雪ちゃん、探せる?」

「任せて下さい!」

 

 今度はあの時と違いあの人も気配を消してないし、一度会って気配も覚えたから直接妖術で探知できる。 

 

「こっちです!」

 

 舞雪ちゃんの探知を頼りに逃げ回る護衛の人達のもとへ向かう。

 しばらく走りやっと護衛の人達と合流することができた。ただし三機の機械兵に追われている最中。

 周りに他の人の気配もなかったのですぐさま炎目で機械兵と護衛の人達を分断させた。

 

「ジルさんから任されて来ました。今のうちに行って下さい」

 

 そう言うと護衛の人達は軽くお礼を言って二人の護衛と男性はそのまま先に行く。

 機械兵は今にも炎の壁を突破してきそうだったので炎を淡くして煙幕のようにしてみた。今思いついて咄嗟にやってみたけど成功してよかった。

 ここから時間を稼ぐ、出来ればこいつらを全員倒す方法を考えていたら。

 

 バン!

 

 炎の煙幕の向こう側から大きめの銃声が聞こえ僕たちの横のコンクリートの壁に撃ち込まれた。

 僕たちを狙ったが炎の煙幕で照準がずれた? だけどそれにしてはズレすぎてる気がする。そう思った瞬間! 背後からとてつもなく嫌な危険の気配を感じ振り向くと!

 

「え?」

 

 護衛の一人が男性に頭を掴まれコンクリートの壁に思いっきり叩きつけられた! 護衛の男性の頭部からはおびただしい量の血が溢れ出し動かなくなった。

 

「何をして……!?」

 

 もう一人の護衛が取り押さえようとするが、男性は護衛の首根っこを掴み片手で持ち上げる。

 

「うぐぐぐ……ぐっ!」

 

 首の骨がへし折れる嫌な音が聞こえた。

 

「グハハハハ……」

 

 こちらに振り向く男性の目は以前の穏やかなものではなく、血に飢えた荒々しいものへと変貌していた。気配も別人のように禍々しいもの変わり果てている。姿は同じだがそれ以外はもはや別人と言ってもいい。

 その異変にいち早く反応したのはフョードルさん。男性――フーリッピを鎮圧しようと飛び出す。

 フョードルさんが接近するとフーリッピは掴みかかるが、目の前で逆立ちし両手を蹴り弾き、片手で体を支えながらもう片手で足を取った。

 

「眠れっ」

 

 相手の体勢を崩しパンチを繰り出すように顎めがけて蹴りを放つ。あの強烈な蹴りを顎へモロに受ければ失神は避けられない。

 両腕は弾かれ体勢も崩され防御も間に合わない。これは決まった!

 

「ギイイ」

 

 だが、フーリッピは額でフョードルさんの蹴りを受け止めていた。それもオーラでしっかりと防御して。

 

「なっ!?」

「ウラァァァァァ!」

 

 今の防御で攻防が逆転してしまった。あの状態ではフョードルさんの防御は間に合わない! あの体勢は攻めには強いがその分守備が弱いんだ!

 

魔人の足枷(ディモン・チェイン)ッ!」

 

 受け止められたことで少しばかり動きを止めてしまったが、それでもすばやく神器を発動させ距離を取ろうとしたのだが。

 

「ラァァァァ!!」

 

 それをものともせず鎖を掴み行動と妨害を阻止。並々ならぬ殺意がフョードルさんを殺そうと向けられる。

 

「ならば! 退魔――50%!」

「ウワァ! ウラワァァァァァ!」

 

 フョードルさんの捨て身に近い反撃を感じ取ったフーリッピはフョードルさんをコンクリートの壁に投げつけた! その衝撃でコンクリートの壁は崩れフョードルさんの背が地面についた。

 変異したフーリッピを取り押さえることができず手痛い反撃を受けただけだったが、最悪(殺される)ことだけは防いだ。

 

「ワァァ……」

 

 フョードルさんを倒したフーリッピは次の得物に目をつけた。視界の中で最も手近な得物、舞雪ちゃんへと。

 今すぐ助けないと! でも煙幕の壁で機械兵を遮断するので手一杯。これを解除してしまうと挟み撃ちとなりいよいよ打つ手がなくなってしまう。

 

「呪いの吹雪・雪化粧!」

 

 もちろん抵抗する舞雪ちゃんは吹雪でフーリッピを氷漬けにしようとするが、機械兵の時以上に時間稼ぎにもならない。

 前門の虎、後門の狼……ええい、ままよ! 僕は炎の煙幕を解除して舞雪ちゃんのもとへ向かう! 迷ったせいで間に合うかどうかわからない! 間に合って!!

 

「ダーリン! 逃げて!」

 

 殺意をむき出しにしたフーリッピが向かってくる中で舞雪ちゃんが叫ぶ! 自分がピンチなのに僕の身を心配するなんて……!

 大好きで大切な舞雪ちゃんを殺させるもんか!! 絶対にだッ!!

 舞雪ちゃんの直ぐ側まで接近したフーリッピ!

 

「させません!」

 

 僕より先に罪千さんが舞雪ちゃんの前に出た。

 

「罪千さんっ!」

 

 舞雪ちゃんもまさか罪千さんがとは予想外で驚いている。

 罪千さんもリヴァイアサンの力で対抗しようとしたみたいだが、リヴァイアさんの顔が出る前に手刀を首に突き刺され、そのまま胴体から引きちぎられた。

 舞雪ちゃんの目の前で黒い血飛沫を上げ倒れた。

 

「舞雪ちゃん!」

 

 その間に僕は舞雪ちゃんを抱き寄せた。罪千さんが身を張って時間を稼いでくれたおかげで舞雪ちゃんを救い出すことができた。

 

「ダーリン……罪千さんが……」

 

 目の前で罪千さんが殺されたことに酷いショックを受けている様子。だが残酷だけど今はあまり気にしてる余裕がない。それに舞雪ちゃんは知らないけど罪千さんの状態は一時的な行動不能なだけだ。

 

「舞雪ちゃん! 気をしっかりもって!」

 

 舞雪ちゃんのフォローはあとでするとして今はこっちをどうにかしないと。僕の炎の煙幕が途切れたことで機械兵たちが自由になってしまった。

 機械兵と変貌したフーリッピの両方を、舞雪ちゃんを抱えながら対処するのはどう考えても無理だ。でも無理でもなんとかしないと行けない場面!

 そう思っていのだが、なぜか機械兵は僕を無視してフーリッピの方へ歩いていった。

 

「ウガワァァァァァ!」

 

 しかしフーリッピはその機械兵の一機を素手で捻り切り破壊した。それをきっかけに穏便から実力行使に移った機械へだがそれも全て返り討ちにし破壊してしまう。

 これで片方の脅威は消えたのだが、逆にもう一方の脅威が消えた脅威を遥かに上回ることがわかってしまった。

 フーリッピは次の得物に目を移す。つまりこの場で唯一無事な僕たちにだ。

 

「舞雪ちゃん、下がってて」

 

 舞雪ちゃんを下がらせて僕も翼を出し神経を集中させ反撃の体制を万全に整える。相手は僕たちが苦戦した機械兵を軽く倒す格上。

 フーリッピは凶悪な笑みを浮かべながらジリジリとこちらに近づく。

 九尾流柔術を会得した僕は殺意に反応して瞬時に敵の攻撃を返すことができる。ただしその殺意に気圧され出遅れたりしなければ技量さ以外ではそうそう遅れは取らない。

 しかしフーリッピの出す殺意は今まで出会った誰よりも濃厚! その濃厚さに敵意・殺意を感じ取ることが出来るか不安になる。下手すれば技量の面でも劣っているかもれいない相手に。

 でも生き残る為に絶対に敗けられない! 僕が敗ければ死ぬのは僕だけじゃない! 僕も後ろにいる舞雪ちゃんだって! そう考えると敗北の不安が静まっていく。

 

「ウラワァァァァァ!」

「はぁぁッ!」

 

 殺意が集中する箇所を察知できないままフーリッピの手が僕に触れる。機械の体を難なく引き裂く握力に掴まれ、それを意識した時にはフーリッピはトドメとなる次の行動に移ろうとしていた。

 

「だったら!」

 

 このまま殺されるくらいなら捨ててやる!

 掴まれた左腕を捨てるつもりで合気を止め捨て身の反撃に出る! 何も守れないなら殺してでも守ってみせる!

 絶対に逃さないようにフーリッピに抱きつき炎のドームで逃さないようにしようとしたが、僕の意図が気づかれ離れられてしまった。

 掴まれた箇所が痛い。でもまだまだやれる。

 

「ふーふーふー」

 

 左腕に最低限の治癒を施す。今は治癒に割く集中力もオーラも惜しい。

 一度離れたフーリッピだが相も変わらず凶悪な笑みでこちらを見る。少しは歯ごたえがある敵で楽しんでいるのか?

 どうにせよこのままじゃジリ貧どころか次の一発を耐えられるかも怪しい。

 僕の捨て身が通じたのもある意味向こうがただの得物と舐めていたからだ。実際にそれぐらいの技量さはあるかも。そんな状態で得物から少しは楽しめる敵に警戒度を上げられたら。

 

「ウラァァァァァ!」

「ぐぅっッ!!」

 

 ――守りたい。その一心だけで僕はこの殺意と向き合った。

 フーリッピの手が僕に触れるが濃すぎる殺意にどの部分に殺意が向けられてるのか判断できず僕の意識は次の反撃の手をうまく導き出せなかった。

 しかし僕はなぜかフーリッピの攻撃を返し合気を成功させていた。僕の意識は確実に反応が間に合ってなかったのに体が勝手に動いていた。一体なぜ……?

 いわゆる生存本能ってやつかな? どっちにしろ今のはただのまぐれに過ぎない。下手に今の感覚に囚われず向き合わなければ。

 今の幸運が功を奏し向こうも慎重になった。だがそれと同時に油断も消えた。

 

「ガルルルルル……ガァ!?」

 

 僕と向き合っていたフーリッピが突然後ろを向いた。

 

「意外と早く気づかれてしまったね」

 

 そこには多摩さんがただただこちらに歩いてきていた。

 フーリッピに集中し過ぎていたとはいえ僕から丸見えの位置なのに気が付かなかった。姿を全く消していないのに周りの空気にうまくとけこんでいる。

 逆にそれほど自然に背後から接近する多摩さんにフーリッピは気づいたのか。

 

「一体何があったんだい?」

「機械兵からこの人たちを逃がそうとしてたら急に豹変して。それからアメリカの護衛の人二人と機械兵を」

「なるほど。とりあえず彼をどうにかしないとね」

「ウガァァァァァ!」

 

 フーリッピが多摩さんに襲いかかる。多摩さんはフーリッピの初激を弾き逆に拳を打ち込むがフーリッピも負けじと躱し蹴りを放つがそれをまた多摩さんがカット。間合いに入った二人の変わる変わる攻防が繰り広げられる。

 

「ウワァァァァァ!」

 

 肉弾戦のさなか、フーリッピは自然に素早く腰に手を回し隠していたサバイバルナイフを抜いた! そして多摩さんの目を狙って横薙ぎに振るった!

 そのナイフは多摩さんに当たった! 当たったのだが、ナイフは当たらなかった。

 ナイフが当たったはずの箇所からは血は出ず、ナイフが通った不自然な空間跡だけが残る。

 

「ガア?」

「……ニャン」

 

 多摩さんの腕の位置からあきらかに低い位置からフーリッピの腹目掛けて肘打ちが撃ち込まれた!

 

「ガァァァ!?」

 

 フーリッピ自身何が起こったのか不思議そうに驚いている。僕自身も何が起こったのか理解できていない。

 

「一流の軍人としての身のこなしに申し分なし。ナイフの扱いもタイミングもなかなか、咄嗟の防御もよし。荒々しいがソルジャーとして非常によいモノを持っている。なら多摩も軍人として久々に本気を出す」

 

 多摩さんの姿がブレ始める。多摩さんがバンダナを外しスキンヘッドが見えると、多摩さんの姿は幻影のように消え服装からシルエットまで全てが変化した。

 

「にゃ」

 

 軍人っぽい迷彩服のスキンヘッドの男性から、セーラー服に短パンの青い短髪の可愛い女の子に変化した! その女の子のお尻の辺りから二股に割れた尻尾が覗く。

 

「全員、邪魔をするなにゃ」

 

 变化を解き本気になった多摩さんの妖気が高まり、体から赤い炎が薄っすらと漏れる。

 フーリッピも笑みを消しナイフを構える。やっぱり僕の時には本気ではなかったか。

 

「ウラァァァァァ!」

 

 再び攻め込むフーリッピだが、多摩さんはその攻撃を全て紙一重で軽やかに躱す。

 变化時は変身前と比べて数センチ背が高かった。変身時の差異がなくなり動きやすくなっているのか。

 

「もう当たらないにゃ。君の動きは全て君の体が教えてくれるにゃ」

 

 体が教えてくれる? 全て紙一重で躱せるのはそのため?

 

「君の体はもう君の味方じゃないにゃ」

 

 それを聞いたフーリッピは上着を脱いで多摩さんの視界を遮った。見切られるなら見せなければいい。単純だが効果的な手法だ。

 自分が視界からが消えたところで上着の上からナイフで多摩さんを突き刺す!

 

「言ったはずにゃ、君の体は君の味方じゃない。その溢れ出るオーラすらも」

 

 しかしそれすらお見通しとナイフを持つ手と逆側から回り込む。

 

「それと目くらましはこれくらいしないとにゃ」

 

 多摩さんの手には砂のようなものが握られていた。それを握りながら炎で熱しながら振りかぶった。

 

「にゃあ!」

 

 熱された砂礫がフーリッピの顔面目掛けて放たれる! 目潰しとしてはお手軽で効果的な方法だが熱されることで目潰し以上の効果が期待される。万が一に目に入れば失明もありえるだろう。

 視界を奪われ礫の熱さに集中力を乱されてるところへオーラが籠った強力なブローが鳩尾に叩き込まれた!

 

「グヘェェェェェ!」

 

 ガッチリと防御を固め多摩さんから距離を取る。かなり苦しそうだが膝もつかず隙きも見せない。おそらく一応はオーラのガードが間に合っていたようだ。それでも第ダメージには変わりない。

 流石は七災怪だ。フーリッピを圧倒している。

 このままいけば間違いなく多摩さんがフーリッピを制圧できただろうが。

 

「は~い、そこまで~」

 

 そこへ聞き覚えのない女性の声が水を差す。

 多摩さんとフーリッピの間、少々フーリッピ寄りに次元が歪みそこから緑のスラッとした長髪の女性が現れた。

 

「やっと見つけましたよ。もーずいぶん探したんですからね」

 

 突然現れた女性に凶暴そのものなフーリッピがたじろいだ。

 

「さ、帰りましょう」

「待つにゃ。おまえら一体何者にゃ」

 

 撤退する雰囲気な二人に多摩さんがにらみを聞かせて言う。

 以前多摩さんが元の姿では威厳がないと言っていたが、確かに猫っぽい可愛さで迫力がない。

 

「名乗るほどのものじゃありません」

 

 それをサラッとボケで返す。いやそっちが決めることじゃないから! 名乗る程ののものだから!

 

「グルルルル……」

「ん? どうしたの?」

 

 女性が一歩近づくごとにフーリッピは一歩下がっていく。あの女性を恐れている……?

 

「怖いの? 私が怖いの?」

 

 ニヤニヤ笑顔でジリジリと近づいていく。知ってるのに虐めて楽しんでる。

 

「その状態ではまともにお話することもできませんか」

 

 パンパン・パチンパチン・パン!

 

 女性が二度手を叩き二度指を鳴らし最後に一度大きく手を叩く。するとフーリッピの凶暴な瞳が正常なものへと戻った。

 

「え、あっ、ヒィィ! ヒッ、ヒィィィィィ!!」

 

 目を覚ましたフーリッピは目の前の女性に怯え、血がついた自分の手を見て二度怯える。暴走していた時の記憶がないのか。

 

「た、助けて!」

「ちょっと助けてってどういう意味ですか! 私たちは苦楽を共にした戦友じゃありませんか」

 

 女性は逃げようとするフーリッピの後ろ襟を掴んで阻止しながら言う。

 

「あっ、ご迷惑おかけしました」

 

 女性が僕たちに向かってそう言うと、同じように次元の歪みから三機の新型っぽい機械兵が現れ、一機がフーリッピをしっかりと捕まえ残りは邪魔されないように立ち塞がる。

 

「おまえらはなぜこの町でこんなことをしたにゃ!」

「それは誤解です! 私たち逃げ出したこの人を探していただけなんです。ちょっとこれから冥界で戦争がありますので。まあ兵力差から余裕過ぎてお遊びみたいな戦争ですので別に必要ってわけじゃないんですけどね」

 

 それって喋っちゃっていいことなの? でも言い方からして悪魔をだいぶ舐めきってる。実際冥界の強さがどれぐらいかわからないけどこの機械兵が大量生産されてるのなら勝てるだろう。

 

「それじゃ先に戻っててください。私はちょっと寄るところがあるので」

 

 女性が機械兵に言うと女性と機械兵たちが現れた時と同じように次元が歪み始めた。

 

「待つにゃ!」

 

 逃亡を阻止するべく多摩さんが動くが、二機の最新機械兵が電磁バリアを張る。

 

「にゃあ!!」

 

 多摩さんは炎を纏わせた爪から炎の斬撃を放った! すると電磁バリアを切り裂き、破壊までは出来なかったが最新機械兵をも深く切り裂いた!

 斬撃は初代火影の昇降さんも得意としていたがそれに負けていない。

 だが結果としては未知の相手に逃げられフーリッピも奪還されてしまった。

 

「逃げられてしまいましたか」

 

 崩れた壁の影からフョードルさんが姿を見せ言う。投げ飛ばされはしたが目立った怪我もなく大丈夫そうだ。

 

「……君たちは大丈夫かにゃ」

 

 多摩さんが心配した様子で僕たちに近づき言った。

 

「はい、僕たちは大丈夫ですが」

「ううう……」

 

 舞雪ちゃんはショックが大きいようでふさぎ込んでいる。

 

「私を庇って罪千さんが……」

 

 目の前で罪千さんが殺されたことに大きなショックを受けたようだ。確かに自分を庇って誰かが死んでしまったら僕だって大きなショックを受けて同じようになってしまうだろう。

 舞雪ちゃんの涙がポタポタと地面に落ちていく。

 

「舞雪ちゃん、罪千さんなら大丈夫だから」

「そうです! 私なら大丈夫ですから!」

「………………えっ?」

 

 罪千さんの声かけで顔を上げる舞雪ちゃんだが、罪千さんの全くの無傷な姿を見るとキョトンとした表情で固まった。

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