お待たせしてしまって申し訳ありません。
あの日、学校から帰ってきた夜にギャスパーくんから不安な電話をもらった。どうやら僕の禁手化が半分ばれたらしい。
それで次の日からいつ修業を切り出されるか心配で仕方ない。
(何をやらされるんだろう。一誠の時のような筋トレかな? ギャスパーくんの時のようなよくわからないやつかな? それとも専用に何か組まれるのかな?)
その次の日、僕は朱乃さんから明日部室で話したいことがあると言われた時はぞっとした。さらに放課後になって部室に行くとリアスさんしかいなくてワンツーマンで向かい合った時はものすごく変な汗をかいた。
そしていざ話が始まると
「誇銅、あの時は本当にごめんなさい」
「……ん?」
「あなたが禍の団に殺されてしまったことよ。
もしかしたら助けられたかもしれないのに助けられなかった。可愛い下僕を助ける事が出来なかった不甲斐ない王を許してほしいの」
その後も丁寧な言葉であの時の事を悔いていると伝えてくれる。そして僕が生きていたことを本気で喜び、この人は本当は本気で僕のことを大切にしてくれていると思えた。と、昔の僕なら思っただろう。
しかし部長の言葉にはやっぱり心が伝わってこない。ギャスパーくんが僕との再会を喜んでくれた時は確かに感じた心が伝わってこない。どうやら藻女さんに言われた甘すぎる部分はいくぶんマシになったようだ
という具合に謝れるだけでこの日は特に修業の事は言われなかった。その後言われた事も
「誇銅、あなたが死んだと思ってから手続きのため学校では病欠として処理していたわ」
「はい、僕もそう聞きました」
「それであなたは既にあの戦いで死んでしまったと思って表ではまだだったけど裏の方では既に死亡扱いにしてしまったの。だから前のあなたのチラシは効力を失ってしまったわ」
と言われてチラシの再発行の話だけ。例え一誠や木場さんの修業に付き合えと言われれば耐えられる自信は十二分にある。問題は長時間それに付き合ってボロがでないかなんだよね。ぶっちゃけボロ出さない自信がない。
だけど予想に反してあれからリアスさんたちや一誠から特に特訓の誘いなどなくて安心している。でもギャスパーくんから聞いた情報をもとに考えてみるとこのまま放っておくことはまずないと思う。だとしたらこの何もないのが逆に不安に思えてくる。
そんな事を考えて布団から出ようとすると携帯に着信が入る。
『おはよう誇銅、妾からのラブモーニングコールじゃ!』
「おはようございます藻女さん」
この時代に戻って数日した頃にふと藻女さんたちの声が聞きたくなって電話をしてみた。いつも聞こえていたはずの声が聞こえなくなってすごくさびしくなってね。
直接会いに行くには遠すぎるから電話くらいならと思って。
それからこのモーニングコールが毎日行われるようになった。毎朝大切な人の声が聞けて僕はとってもうれしかったよ。
『昔に比べて通信手段が進化したおかげで遠く離れてもこうして声を聞けるのは良いのう。
しかし、昔はこんな事をしなくても目を開ければ横におったのに。再び出会えたというのに声だけではやはり物足りん』
甘えた声で不満を口にする藻女さん。僕も気兼ねなく日本勢力と関われて、悪魔の面倒事がない時代はとても住みよかったよ。だけどここが僕の生きる時代、仕方ないこと。
まあこの時代でも会おうと思えば会えるけどね。
『じゃが、今はこれでよかったかもしれん。
もしも朝起きて横におったら襲ってしまうかもしれん』
「もう一度襲われましたけどね。ハハハ」
『とは言っても誇銅を抱きたいと尻尾がうずうずするんじゃ!』
藻女さんが、というより玉藻ちゃんももう何かヤバい事になってるのはもう一回襲われて確認済み。玉藻ちゃんも見た目は変わってないけど中身はしっかりと大人になったようで中身が藻女さんと殆ど同じになっていた。その暴走する程の愛は嬉しいんだけどね。
『ん~電話越しでなければ今すぐ抱きしめて人目も立場も気にせずに甘えまくりたい!』
藻女さんは七災怪・風影でもあるにも関わらず悪魔で中級妖怪下位程度の力と実力しかない僕に甘えまくっていた。
最初は屋敷内でも人目を気にしながらこっそりしていたのが
そのあまりの威厳の低下に見かねた家臣たちは藻女さんに意見したけど全くの無視。口をすっぱくしてきた家臣たちも限定的に威厳が低下するだけで外では威厳を保ち役目になんら支障をきたしてないのでもう好きにしなさい状態であきらめた。むしろそのおかげでどこか暗く厳しかった藻女さんが明るく優しくなったと喜ぶことにしたと。
『母上! なぜ起こしてくれんのじゃ! 妾も兄様の声を聞きたいのじゃ!』
『寝坊した玉藻が悪いんじゃ。誇銅の声を聞きたくばちゃんと早起きすることじゃな』
『ちょこっと起こしてくれれば起きるのじゃ!』
『もう子供じゃないんじゃ! そこまで甘やかしてやると思うな!』
『そんな事言って本当は兄様と話す時間を独占して長く話したいということなど妾にはお見通しじゃぞ!』
『母と子といえこれは競争じゃ! 起きられなかった玉藻が悪い!』
電話越しに親子のにぎやかな喧嘩声が聞こえてくる。喧嘩声と言っても本気の喧嘩じゃなくて子供同士がじゃれうような可愛い喧嘩。喧嘩はしているがお互い本気じゃない。
『ふう、まあ良い。ほれ、玉藻にも譲ってやろう』
『やったのじゃー! もしもし兄様、おはようなのじゃ!』
「うん、おはよう」
長いようで短い親子げんかも終わりやっと再び普通の会話に戻ってきてくれた。
玉藻ちゃんの子供っぽくはしゃぐ声がまるであの幸せな日常に今もいるんじゃないかと思わせてくれる。
『こうして通信手段が進化したおかげで遠く離れてしまった兄様とこうして話せるのは嬉しいがやはり直接会えんことは物足りぬのう。
電話越しでなければ今すぐ抱きしめたいと尻尾がうずうずするのじゃ』
藻女さんと同じ事言ってる。やっぱり親子って似てるね。
殆ど同じ事を言った玉藻ちゃんが少しおかしく感じた。
『プフッ!』
『ん? なんじゃ母上?』
『いや、別になんでもない』
僕が笑うより前に藻女さんが笑うのを電話越しに聞こえた。そのせいか僕が笑っているのは聞こえなかったらしい。
「ところでこいしちゃんは?」
『またいつも通りどっか行ったままじゃ』
こいしちゃんは昔から無意識の放浪癖がある。無意識を操れるようになっても自分の放浪癖はずっと治らなかったらしい。
でもこいしちゃん自身昔から相当な強さを持っていたし能力も合わさって危険な目にあう事は少ないだろう。危険にあっても経験と技術で何とかなりそうだしね。
『まあこいしの強さなら心配いらんじゃろう』
「そうだね」
『藻女様、玉藻様そろそろ電話を終えていただけませんか?』
『む~まだよいではないか
『ダメです。そうやって毎朝誇銅様に甘えらるのは古参の我々ならともかく新参者に示しがつきません。ダメとは言いませんが節度は守ってください』
『『む~~~~!』』
『それに、騒がないというお約束で許可したハズですよ。そうやって誇銅様に甘えて騒がれるのであれば毎日の電話は禁止しますよ』
毎朝電話することを欄さんに怒られてる。
今二人を戒めた蘭さんという人は僕がいた時代から重要な役割を任せられてる八尾の狐。藻女さんいわく最も頼りになる部下として一番信用されていた。
藻女さんが優しくなった当時から時々叱られていたけどそのポジションはいまだに変わっていなかったようだ。
『毎朝の誇銅様へのお電話を禁止にされたくないのでしたらもっと慎ましくお願いします』
と、いう事が昨日まであった。本当に気持ちのいい目覚めだったよ。
ただ蘭さんの忠告があったにも関わらず自分を抑えらえなかったため禁止にされてしまったと。
◆◇◆◇◆◇
「ん~今日もいい天気だね」
「ジー」
今日から夏休み。この時代に戻ってきて一か月もしないうちに夏休みという長期休みに入ってしまった事に若干引け目を感じる。
言ってみれば僕は二年間学校休んでたもんだからね。まあこの間に授業の復習ができると思えば悪くないかな。
「ももたろうもうちょっと待っててね」
朝と言ってもまだ日が昇りきってない時間帯。僕はその間に部屋の中でもできる簡単な稽古を始める。
座り稽古や動きを確かめながらもゆっくりと相手を投げる動きをしたり汗をかく程の事はしない。締めの稽古を除いてね。
「フ~」
水を入れたグラスを膝に置いた状態での90度空気イスをトーストが焼けるまでする。
時間的にもほんの数分だけど水をギリギリまで入れた緊張感が精神を披露させる。さらに力が必要な状態でいかに力を抜いて呼吸を整えなければいけないのでプルプルと震える事も殆ど許されないから。
まあ戦車の駒のおかげで筋力的にはまだまだ耐えられるラインだから大丈夫だけどね。
チン!
トーストが焼けた音がしたので朝の稽古はこれで終わり。ぶっちゃけ相手がいないと稽古が味気ない。今やってる一人稽古も筋トレ程度の効果しかないだろうね。
相手がほしいと言っても一誠や木場さんとかじゃたぶんダメ。二つの意味で。
そんな事を思いながらもももたろうの朝ご飯のフルーツを切ったり牛乳やヨーグルトを用意する。
「いただきます」
ももたろうと一緒に朝食を食べる。
二人だけの朝食はあの温かさで二年間過ごしたからか物足りない。前と違って家族と呼べる人がいるのに贅沢な悩みだね。
「今日も気持ちのいい朝だねももたろう」
「ジージー」
「ほんと何もなければね」
実は夏休みに入る前日にリアスさんに今日の朝に一誠の家に集合と言われている。
もちろん集合だから僕だけじゃなくてオカルト研究部全員がね。めちゃくちゃ嫌な予感がするよ。
「おはようございます誇銅先輩」
「おはようギャスパーくん」
一誠の家に行く途中でギャスパーくんと偶然会った。途中と言ってももう数分で一誠の家についちゃうけどね。
「私服はやっぱり女性ものなんだね」
「変ですか?」
「ううん、可愛くていいと思うよ。それにちょっと変だったとしても好きな服を着ればいいよ」
「あ、ありがとうございます」
照れるギャスパーくん。恥じらう姿がさらに可愛く見える。
そんな可愛いものを見た後でも一誠の家に行くのは嫌になる。一誠に会うのが嫌なんじゃなくてリアスさんにいや一誠とも用もないのに会うのは嫌だけどね。
「ところでそのダンボールは?」
「自分用です」
ギャスパーくんが不自然に持っているダンボールが気になって聞いてみたら予想内の答えだったよ。相変わらずダンボールが落ち着くんだね。
「ねえギャスパーくん、今日なんで集まるのか知ってる?」
「時期的におそらく冥界に帰るんだと思います。去年も夏休みには全員で冥界に帰ったので」
冥界に帰るのか。新人なのに全くそんな話し聞いてないよ。そもそも昨日だってただ明日の朝一誠の家に来てほしいと言われただけだし。
冥界なんて行きたくない。僕にとってもうここが地獄みたいなものだし。それに全員って事は当然僕も行かないといけない。これもしかして不参加という事にしてもらえないかな。
「ダメよ」
やっぱり駄目でした。
不自然なほど大きくなった一誠の家に行って部長にダメもとで聞いてみたけどやっぱり駄目でした。というか一誠の家大きくし過ぎじゃない!? 周りの家とかどうしたの!? これは完全に悪魔の上流階級ってのを人間界で悪用してるよね?
「そんなに外せない用事でもあるのかしら?」
家族もいない独り身の僕に大した用事がないとでも思われてるの? ものすごく心外なんだけど。まあ実際に何の用事もないけどね。
「この夏休み中に出雲大社、伊勢神宮、稲荷神社他にも神社巡りをしようと思ってたので」
「誇銅にそんな趣味があったのかよ! 俺初耳だぞ」
そりゃあの時代を体験したから行こうと思ったわけだし。それにたぶん人間だとしても言わなかったと思う。
「ダメよ。そもそもそういう所には教会程ではないけど悪魔は近づいちゃいけないの」
ダメと言われることは予想してたけどまさか教会と同レベルでダメとは思わなかったよ。
でも天照様は悪魔を嫌っていて妖怪たちも悪魔に被害を受けていることを考えれば十分あり得る話だよね。もしもそんなことを考えず能天気に行ったらややこしい事になったかもしれない。
「え、俺もそれ初めて聞いたんですけど」
「聖なる力はないけど日本の神が嫌がるの。妖怪は割と友好的でも神はそうでもないのよね。
場合によっては教会と同じように攻撃されるかもしれない。そんなところに行かせるわけにはいかないわ」
いや、妖怪もそんなに悪魔に良い感情は持ってませんよ。と、言いたいけど言うわけにはいかない。悪い勘違いをされるのも嫌だけど、嫌いな相手に良い勘違いをされるのもなんだか気持ちの悪いものがあるね。初めて知ったよ。
「だから有名な神社とかに行く場合はあらかじめ許可をとる必要があるわ。でないと侵入者と思われて捕まるわ」
「……わかりました」
これで僕の万策は尽きた。もうおとなしく冥界に行くしかない。ああ、冥界に行ったら本格的に逃げ場がなくなる。より一層ボロが出ないように気を付けないと。
「あーでも、俺も夏休みにやりたいことあったんですけどねぇ」
僕の提案が即却下が決定したところで一誠がボソッと漏らした。
そういえば去年の夏休みは一誠、松田、元浜の三人組に海とかプールとかに引っ張られたっけ。全部ナンパ目的で僕は見事に出汁に使われたけど。
彼女体験したいからって僕を女装させてデートしてくれと言われた時は鳩尾を割と本気で殴ったのは今となっては思い出。
「あれ、イッセー。どこか行く予定でもあったの?」
「はい。海やプールに行こうかなーって」
「海は冥界にはないけれど、大きな湖ならあるわ。プールだって、この家や私の実家にもあるのよ? 温泉もあるし、それではだめなの?」
リアスさんが湖やプールや温泉がある事を言うと、一誠の顔がみるみるとスケベな表情に変わっていく。きっといつもの如くいやらしい妄想に花を咲かせてるんだろうね。
……まさかとは思うけど未だに覗くとか考えてないよね? 既に一誠はモテないからむしゃくしゃしてやったなんて言い訳は使えない程幸せな立ち位置にいるからね? いや、元からそんな言い訳は使えないけども。あれ? じゃあ今まではなんで許されてたの?
「……いやらしい妄想禁止」
搭城さんが指摘すると一誠は自分が妄想の世界に浸っていたことを自覚し現実世界に戻ってきた。
もしも今度一誠たちが覗きとかしてたら本気で止めよう。もうここまで来たら本気で止めるべきだよね。
「イッセーくん、想像以上にスケベな顔だったよ」
「先輩は想像力が豊かで楽しそうです……ある意味うらやましいです……」
「一誠、次覗きを実行したら本気で止めるからね?」
木場さんは爽やかに、ギャスパーくんはちょっとうらやましそうに、僕はちょっぴりの殺意を込めて言った。どうやらちょっぴりの殺意は伝わったようだ。一誠、この程度の殺意でちょっとでも驚いてるようじゃ本当の大妖怪レベルなら殺意だけで殺されるよ。
「お、お前らはこの夏女の子とデートしないのかよ?」
「僕は修業があるからね」
「僕はいいです。……ひ、ひきこもりなんで、インドア派だし、おうちでネットしながらかわいい服着れればいいんで……」
「僕も一誠みたいに相手がいないから」
「じゃあ、イッセー。冥界で私とデートしましょう。デートをするだけの時間があればいいのだけれど……」
「部長ォォォォォッ! 行きます! 全力でついていきます!」
「あらあら。でしたら、私はイッセーくんとお部屋で過ごしますわ。部長にもできないようなエッチなことでもしながら」
一誠を取り合ってリアスさんと朱乃さんが火花を散らす。前までならここであたふたしてただろうけど今は心底どうでもいい。
この話が早く終わらないかなと別の事を考えていてドアを開けるまで気づけなかった。
「俺も冥界に行くぜ」
『ッ!?』
席の一角にアザゼル総督が座っている。そういえばなんて総督がいるのか聞くのすっかり忘れてた。堕天使のボスでちょっと前まで敵対していたはずなのになんか学校で教師をしてオカルト研究部の顧問をしている。
「ど、どこから、入ってきたの?」
「うん? 普通に玄関からだぜ?」
リアスさんが目をパチクリさせながら聞くとアザゼル総督は平然と答える。
「……気配すら感じませんでした」
「そりゃ修業不足だな。俺は普通に来ただけだ。そんな俺の存在を聖魔剣ですら気づかなかったのになんでお前だけは気づけた?」
最悪だ、見られた。なんでこの人はいちいち僕がボロを出してしまうのを見逃さないんだ!? 確かに僕はアザゼル総督がドアから入ってくるのを見てしまった。だってこの人ちょこっと気配けしてたもん。そんな人が入ってきたら見ちゃうよ普通。
僕にできる事はこれ以上墓穴を掘らないようにただ目をそらして黙る事だけ。
「え!? マジかよ、誇銅お前気づいたのか!?」
「……」
「……教えてくれないか。まあいいや」
この人くらいの大きな気配をあの程度の隠密術、この距離で探知するなんて別の事を考えていても簡単。昔の妖怪たちは最初の頃の一誠よりちょっと上くらいの妖力=気配しかないのにそこからさらに気配を消す踏力が高い。それを感知できなければ話にならなかった。
極めた妖怪は0距離で真正面に立っても認識できず、遠く離れてるのに近くにいると錯覚させることもできる。
「そりゃそうと冥界に帰るんだろう? なら、俺も行くぜ。俺はお前らの先生だからな」
わかった! おとなしく冥界に行く、行きますからこの人の同行だけはやめて!
今更そう願っても遅すぎる。状況が僕をどんどん追いつめていく。
僕の願いを無碍にしてアザゼル総督はメモ帳を取り出す。
「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと、例の新鋭若手悪魔たちの会合。それとあっちでのお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合うわけだがな。お前らがグレモリー家に居る間は俺はサーゼクスたちと会合か。たく、面倒くさいもんだな」
総督はめんどくさそうに嘆息する。じゃあいいですよ無理についてこなくて。いやもう本当に勘弁してください。同じ修業でも日本勢力と修業した方が絶対いいって。それにそもそも悪魔の鍛え方は絶対今の僕の鍛えたかに合わないよ。そもそもアザゼル総督の修業って絶対に僕の神器を開花させる修業をさせるつもりだよ。黙ってるだけでもう開花してるのに。
「ではアザゼル先生はあちらまで同行するのね? 行の予約はこちらでしておく形でいいかしら?」
「おお、よろしく頼む」
こうしてアザゼル総督というとてつもなくめんどくさい天敵が同行することになって地獄行きが決定した。もうヤダ、
◆◇◆◇◆◇
ここからどうすればいいとか一切聞かされてない僕たちを置いてリアスさんと朱乃さんはさきさきと駅のエレベーターに向かう。
そして部長と朱乃さんが先にエレベーターに入る。
「じゃあ、まずはイッセーとアーシアとゼノヴィア来てちょうだい。先に降りるわ」
「お、降りる?」
リアスさんの言葉に怪訝そうな表情をする一誠。まあこの駅に地下なんてないはずだからね。
だけどリアスさんが苦笑しながら手招きすると僕以外の新人悪魔組は顔を見合わせながらも乗る。ちょっと一誠こっち見ないで。
「慣れてる悠斗たちは後からアザゼルと一緒に来てちょうだいね」
「はい、部長」
え、ちょっと待って、僕もそっちに乗りたい。あの人と一緒はできる限り避けたい!
そんな事を思っても時既に遅し。そもそも未だに仲間外れにされてる節がある僕があの輪に入れてもらえずハズがない。5人ほどしか乗れない狭いエレベーターでも小さい僕なら……いや、もうやめよ。
アザゼル総督も間もなくして合流し僕たちはエレベーターに乗る。すると木場さんが何かのカードを取り出し電子パネルに向けると、ピッという音と共にエレベーターが下に降りていく。
「誇銅君は初めてだよね。この駅の地下には秘密の階層があるんだ」
「悪魔専用のルートってことですか?」
「その通り。この町にはそんな悪魔専用の領域が結構隠れてるんだよ。ここはその一つ」
これもおそらく無許可だよね? だってアマテラス様は住む事と商売する以上のことは許してないって結構怒ってたからね。
降りていくこと約一分、ついに停止したエレベーターから出るとそこには大きな地下鉄。ちょっと前時代的で違いはあるけど人間界の駅にすごく酷似してる。
「全員そろったところで三番ホームまで歩くわよ」
だけどとても広い。普通の駅の何倍もの大きさがある。天井も高くて飛んでも大丈夫そう。
それなのに他に人気はない。いや、一応あるけどごく少数。照明の壁の明かりは魔力的な暗い光でまるで神社の灯篭。それも人が来ない寂れた神社で悪霊が住み着いてるような場所の。人が来るようなところの灯篭はもっと綺麗。
「よう、誇銅。神器の調子はどうだ?」
歩いているとアザゼル総督がさりげなく僕の隣に来て精神を揺さぶる。精神が揺さぶられてるのは僕が勝手に揺さぶられてるだけだけどね。
この人の前でもう二度も見破られかけたからすごく苦手意識がついてしまった。だけど向こうは僕の神器に興味深々だからやたら話を振ってくる。
「まあ特に何も」
「そうか」
アザゼル総督はニヤニヤしながら話を終える。その笑顔はなに!? もうやだおうち帰りたい。
それにリアスさんや一誠たちの前だと僕ができる事って極端に減るんだよね。それと稽古も普段以上にできないし。
長い通路を抜けてついに列車に辿り着いた。列車のフォルムが独特で悪魔の文様がいっぱい刻み込まれてるけどこれは列車だと思う。
「グレモリー家所有の列車よ」
ああ、ついにここまで来てしまったか。これに乗ってしまったらもう引き返せない。乗りたくない。そう思っても逃げられない。僕はおとなしく列車に足を踏み入れた。
リィィィィイイイイイィィン!!
汽車の汽笛が鳴り汽車が動き出す。
僕たちは汽車の中央あたりに座っている。リアスさんは一番前の先頭車両で、眷属は中央から後ろの車両となっている。やっぱり眷属は
因みに僕の対面席には木場さんと搭城さん、横にギャスパーくん。隣の席ではいつも通り一誠が女性陣の取り合いの対象になっている。
「ははは、やっぱりイッセーくんはモテモテだね」
「はい、そうですね……」
もう既に仲間と思ってない僕にとっては赤の他人と対面させられてるような心境。かろうじて隣にギャスパーくんが座ってくれてるのがせめてもの救い。もしもギャスパーくんがいなかったら到着までトイレに引きこもっていたかも。
もう一つせめてもの救いはアザゼル総督が後ろの席で寝ててくれてることかな。
それよりも先頭車両にいるはずのリアスさんまでこっちの車両に来て一誠争奪戦が激化していく。
「姫、下僕とのコミュニケーションもよろしいですが、手続きはよろしいですかな?」
その争奪戦を止めたのは白いひげを生やした車掌さん。車掌さんは丁寧なあいさつで自己紹介をし僕たちも立ち上がって一礼した。
「初めまして、姫の新たな眷属悪魔の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドと申します。以後、お見知りおきを」
「こ、こちらこそ、初めまして! 部長―――リアス・グレモリー様の兵士、兵藤一誠です! よろしくおねがいします!」
「アーシア・アルジェントです! 僧侶です! よろしくおねがいします!」
「騎士のゼノヴィアだ。今後もどうぞお願いします」
「戦車の日鳥誇銅です。よろしくお願いします」
挨拶を済ませると、レイナルドさんは何やら特殊な機器を取り出して、モニターらしきもので僕たちを捉えている。
「これはあなた方を確認、照合する悪魔世界の機械です。この列車は正式に冥界へ入国する重要かつ厳重を要する移動手段なので」
「姫、これで照合と同時にニューフェイスの皆さんの入国手続きも済みました。あとは到着予定の駅までごゆるりとお休みできますぞ。寝台車両やお食事を取れるところもありますので、目的地までご利用ください」
車掌さんは寝ているアザゼル総督の照合も済ませると再び一礼して出て行った。
◆◇◆◇◆◇
発車から四十分ほど過ぎた頃、トランプやゲームで時間を潰していた僕たちにレイナルドさんのアナウンスが聞こえてきた。
『もうすぐ次元の壁を突破します。もうすぐ次元の壁を突破します』
「外を見ていてご覧なさい」
アナウンスを受けたリアスさんは一誠とアーシアさん、ゼノヴィアさんと僕に向けて言ってた。本来、上級悪魔であるリアスさんは前方の車両にいなければいけないのだけど、私たちに何やら伝えたい事があるらしくてこっちに残っていた。
確かに長めのいい景色だけどこの紫色の空はなんだか嫌だ。高天原の綺麗なピンク色の空を見慣れたせいもあるかもね
「もう窓を開けていいわよ」
リアスさんの許しが出ると、一誠はすぐに窓を開けた!
冥界の風が車両に入ってくる。風はぬるりとした感触が頬を伝う。とても独特で人によってはむしろ気持ちいいと感じるかもしれないけど僕は駄目だ。
僕は開いてる窓から離れて景色を眺める。山があって川もある、木々も生い茂り森が存在していた。この景色は悪くないなと思う。
「ちなみに、ここは既にグレモリー領よ」
部長が自慢げにそういうと僕を含めた新人悪魔組は驚きの表情を隠せないでいた。
「じゃあ、今は知ってるこの路線も含めて全部部長のお家の土地ですか!?」
驚く一誠の問いに部長はうなずく。驚きが冷めぬ間に一誠が続けてもう一つ質問する。
「グレモリーの領土ってどのくらいあるんですか?」
「確か、日本でいうところの本州丸々ぐらいだったかな」
これには僕もびっくり。高天原も相当広いと聞いたことはあるけど具体的な例えを出されたのは初めて。それだけにこの冥界の方がすごく感じてしまう。
「私が残っていたのはこの事を知ってもらうため……イッセー、アーシア、ゼノヴィア、誇銅。後であなたたちに領土の一部を与えるから、希望を言ってちょうだい」
「り、領土を貰えるんですか……?」
「そうよ。あなたたちは次期当主の眷属悪魔ですもの。グレモリー眷属として領土に住むことが許されるわ。朱乃、祐斗、小猫、ギャスパーだって自分の敷地を領土内に持っているのよ」
リアスさんは魔力で宙に地図を出現させると僕たちに広げて見せてくれた。全く知らない地形だけど、どうやらグレモリー領の地図らしいね。
「赤いところは既に手が入っている土地だからダメだけど、それ以外のところはOKよ。さあ、好きな土地を指でさしてちょうだい。あなたたちにあげるわ」
リアスさんはニッコリと微笑んで言う。
だけど僕は土地なんていらない。既に心はグレモリー眷属じゃないし。それに土地なんてもらっても有効活用する前に居なくなると思う。それに僕がほしいものはこんなものじゃない。
もしもリアスさんがそれを与えてくれるならもしかしたら僕は再びリアスさんに忠誠を誓うかもしれない。まあリアスさんが与えてくれるとは到底思えないけどね。
禁手はどのタイミングで出すべきか。未だに悩んでいます。