無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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渇望な赤龍帝の帰路

 ホテル上空で哄笑するシャルバの眼前に辿り着く一誠とフリード。フィールドは既に半分以上が消失している。

 シャルバは一誠を視界に映すと途端に不快そうな顔となる。

 

「ヴァーリならともかく、貴殿の様な天龍の出来損ないごときに追撃されるとはな……ッ! どこまでもドラゴンは私をバカにしてくれる……ッ!」

 

 どこまでも他者を見下すシャルバ・ベルゼブブに内心ため息を吐く。

 

「私を追撃するのは何が目的だ⁉ 貴殿も真なる魔王の血筋を蔑ないがしろにするのか⁉ それともオーフィスに取り入る事で力を求めるのか⁉ 天龍の貴殿の事だ、腹の底では冥界と人間界の覇権を狙っているのだろう⁉」

 

 こいつの考える事は血筋だとか、覇権だとか、そんな事ばっかりな事に辟易(へきへき)した。

 一誠は息を吐いて言う。

 

「難しい事を並べられても俺には全く分からん。オーフィスもどうしたら良いか分からないし、覇権がどうたらなんてのも興味ねぇ。―――ただな」

 

 一誠はシャルバに指を突きつけた。

 

「あんた、さっき悪魔の子供達を殺すって言っただろう? それはダメだろ」

 

 一誠の言い分にシャルバは嘲笑う。

 

「それがどうした! 当然なのだよ! 偽りの魔王が統治する冥界で育つ悪魔など、害虫以下の存在に過ぎない! 成熟したところで真なる魔王である私を敬う事も無いだろう! そんな悪魔どもは滅んだ方が良いに決まっているのだ! だから、あの巨大な魔獣でゼロに戻す! あの魔獣どもは『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の外法(げほう)によって創られた悪鬼のごときアンチモンスターなのだ! 圧倒的な破壊をもたらしてくれるであろう! 穢れの無い冥界が破壊によって蘇るッ! それこそが冥界なのだよッ!」

「……あんたの妄想はやっぱりよく分からねぇや。―――けど、悪魔の子供を殺そうとしているんだろう?」

 

 一誠は内部のオーラを全面に押し出して言った。

 

「じゃあ、ぶっ倒さなきゃなっ! 俺、子供達のヒーローやってるからよッ! あんたみてぇな子供の敵は絶対に許しておくわけにはいかないんだよッ! 俺は『おっぱいドラゴン』だからなッッ!」

 

 一誠の言葉を聞いてシャルバの笑みが止まる。

 

「―――っ。……貴殿からのプレッシャーが跳ね上がった。分からん理屈で動く天龍だ。まあ、良いだろう! ならば我が呪いを一身に浴び、この狭間で果てろ、赤い龍ッッ!」

「それはてめえだ、三流悪魔がッッ!」

 

 一誠は体内の駒を紅く爆発させ、呪文を唱える。

 

 『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)』―――サイラオーグが命名した真の『女王(クイーン)』形態。

 

「―――我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

 

 歴代所有者達の絞り出すような声も聞こえてくる

 

『行こう! 兵藤一誠!』

『ああ、そうだ! 未来を―――我らは皆の未来を守る赤龍帝なのだ!』

『紅き王道を掲げる時だッ!』

「無限の希望と不滅の夢を抱いだいて、王道を()く! 我、紅き龍の帝王と成りて―――汝なんじを真紅に光り輝く天道へ導こう―――ッ!」

『CardinalCrimsonFullDrive!!!!』

 

「―――ッ! 紅い……鎧だと⁉ 何だ、その変化は⁉ 紅……ッ! あの紅色の髪を持つ偽りの男を思い出す忌々いまいましい色だッ!」

 

 そう憎々しげに吐き捨てるシャルバ。

 鎧の形状が変わると同時に一誠の全身からパワーが溢れ出す。

 シャルバが一誠に向けて手を突き出すと空間が歪み、そこから大量の(はえ)らしきものが出現していく。周囲一帯が蝿の群れに埋め尽くされた

 

「真なるベルゼブブの力を見せてくれようッ!」

 

 吼えるシャルバは大量の蝿を操り、幾重もの円陣を組ませて極大の魔力の波動を無数に撃ち出した。

 

『StarSonicBooster!!!!』

 

 一誠はそれらを瞬時に躱かわしていき、一気に距離を詰めてシャルバの腹部に拳の一撃を入れた。

 

『SolidImpactBooster!!!!』

 

 右腕を紅いオーラが覆い、巨大な拳を形成する。

 肘の撃鉄(げきてつ)を打ち鳴らし、渾身のボディブローがシャルバの腹部に深く食い込む。

 

「ぐはっ!」

 

 その威力にシャルバは堪らず血を吐き出した。

 

「この、下級ごときがぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 シャルバは幾重にも魔法陣を展開し、そこから様々な属性の砲撃を放つ。一誠はそれに対して真っ正面から立ち向かっていった。

 

「こんなもの……ッ! 避けるまでもあるかよ……ッ!」

 

 シャルバの放った魔力を拳で打ち落とし、再び神速で距離を詰める。

 一誠の体を紅いオーラが包み込み、鎧を紅く染めていく。

 

『SolidImpactBooster!!!!』

 

グゴンッ!

シャルバの顔面に巨大な拳が直撃。一誠のパンチを受けて、シャルバは顔中から血を垂れ流した。それを見た一誠は一言つまらなそうに漏らす。

 

「こんなもんか」

 

 それを聞いたシャルバのこめかみに青筋が幾重にも浮かび上がる。

 

「……何だと……?」

 

 憤怒の形相となったシャルバに一誠は構わず言う。

 

「魔王って言うから、サーゼクスさまやヴァーリみたいな強さがあるのかと思った。ヴァーリと戦った事のある俺だから、『ルシファー』―――魔王って強さがよく分かる。けど、あんたからはあれ程の重圧は感じない」

 

 シャルバは顔を引きつらせて高笑いする。

 

「言ってくれるものだな……ッ! 穢けがれたドラゴンごときが……ッ! 塵芥(ちりあくた)と同義である元人間の分際で真の魔王を愚弄するとはな……ッ!」

「俺は二天龍の『赤い龍』―――赤龍帝ッ! あんたみたいな紛い物の魔王なんかにやられはしねぇッ!」

「ほざけッ! 腐れドラゴンめがァァァァッッ!」

 

 シャルバが魔力を放てば一誠はそれを拳で叩き落とし、一誠が拳打を放り込めばシャルバは大きく仰け反る。不気味なオーラを漂わせる蝿の群れもドラゴンショットで打ち消していく。

 圧倒的なまでに一誠の方が優勢だった

 

『……こんなもんか。こんなものなのかよ! 冥界を語った男―――サイラオーグさんはこんなの喰らっても平気だったんだぞ⁉』

 

 サイラオーグは一誠のパンチを受けても何度も立ち上がり、己の夢の為に進んできた。それに対してシャルバはただ仰け反るのみ。己の身体を突き動かすものが一切感じられない。一誠はそこに両者の違いを感じた。

 

「シャルバ、あんたには莫大な才能と魔力があるんだろうさ。俺よりも強大なものを持って生まれてきた」

「そうだ! 私は選ばれた悪魔なのだよ! 魔王だ! 真の魔王だ!」

「でも、ダメだ。あんたの攻撃は……己の拳だけで、己の肉体だけで向かってきた(おとこ)に比べたらカトンボ以下だ! そんな攻撃じゃ、俺を倒せやしねぇんだよォォォッ!」

 

 ドゴンッ!

 今度は手応えを感じる一撃が決まり、シャルバの表情がかつてないほど苦悶に満ちた

 『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』で無くても俺はこいつを倒せる! 何が真の魔王だ! 何が「冥界をゼロに戻す」だ! 俺が出会い、戦ってきた冥界の男達はこいつほど甘くはなかった! 皆、誰よりも強くて厳しかった! 一誠の心は自信に満ちていた。

 

「クソ天龍が! これならどうだァァァァッ!」

 

 シャルバが血を撒き散らしながら手元から魔法陣を展開―――そこから1本の矢が飛び出す。

 高速で一誠に飛来し、一誠の鎧に突き刺さる―――直前にフリードが矢を掴み取った。矢の先端を少し嗅ぎ言う。

 

「呪いを含んだ血の匂い。たぶん、(やじり)にサマエルの血でも塗り込んでたんだろう。ハーデスと繋がってんならサマエルの血を借り受けるぐらい訳無いよなぁ。大方、いざって時の白龍皇対策ってところか? それを赤龍帝に使うってこたぁ……相当に追い詰められてるってことか」

 

 状況と匂いでシャルバの思惑を考察する。

 

「お前もなぁ~真面目に応対してんじゃねえよ。よけろよけろ。魔力の素養が全くねぇお前じゃ直ぐ死んでたぞ。いのちだいじにで行けって言っただろ」

 

 一誠にも軽く説教をかます。それと同時にフリードは不審に思っていた。なぜこんなにも赤龍帝に追い詰められているかを。

 今のシャルバ・ベルゼブブではフョードルの聖主砲は絶対に受け止められず、最悪致命傷で消滅していた。先程とは全くの別人のようにすら感じていた。

 シャルバは妨害したフリードを憎々しげに睨みつける。

 

「不出来な合成獣(キメラ)の分際でよくも邪魔をしてくれたな……! だが、サマエルの血がそれ一本分だとは限らんぞ。貴殿の言う通り、ヴァーリのように魔力が高ければ多少は耐性があるのだろうが……魔力の素養が無さそうな赤龍帝では直ぐに死ぬぞ」

 

 形勢逆転とでも言うかのように見えぬ龍殺しの血をチラつかせる。

 過去の聖槍(せいそう)を受けた痛みを思い出す一誠だったが、ドラゴンの両翼を広げシャルバに向かって飛び出していく。

 それを見てシャルバは仰天した

 

「呪いを受けているのだぞ! そいつが言ったと通り貴殿では耐えれぬ呪いなのだぞ! 何故に動く⁉ 何故に恐怖しない⁉ 死が怖くないと言うのか⁉」

「うるせぇな……! 怖いに決まってんだろう……ッ! だがな、お前を生かしておくともっと怖い事が起こりそうなんだよ! だから、まずはお前をぶっ倒す!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 一誠は思い付く限りの拳と蹴りのコンボをシャルバに叩き込む。攻撃を受けたシャルバはホテルの屋上に落下し、這いつくばった。

 

「バカな……ッ! 私は真の魔王だぞ⁉ 人間やハーデスに助けを求めてまで、屈辱を、恥辱に塗まみれながらも復讐を遂げようと……ッ! 吐き気を催もよおすような英雄派の実験にまで付き合ったと言うのに……ッ! なぜ貴様やヴァーリの様な天龍が立ち塞がるのだ⁉ 大した理念も無い低俗なドラゴン風情が! 何故に私のような高みに臨む存在を蔑ないがしろにしようとする⁉ 理解不能! 理解不能だァァァァッ!」

 

 シャルバは捕らえられたままのオーフィスのもとに辿り着くと懇願する。

 

「オーフィス! オーフィスよ! あの『蛇』をもう一度私にくれ! そうすれば再び私は前魔王クラス以上の力を得られる! この者を倒すにはあの『蛇』が必要なのだ!」

「今の我、不安定。力を増大させるタイプの『蛇』、作れない」

 

 オーフィスの言葉にシャルバは絶望しきった表情となった。

 一誠はシャルバの眼前に降り立つ。震えながら下を見てぶつぶつ呟くシャルバに対し、一誠は正面から言い放った

 

「あんたは子供達から笑顔を奪おうとした―――。ぶっ倒される理由はそれだけで充分だろッ! 俺はな! 俺はッ! 子供達のヒーローやってる、『おっぱいドラゴン』なんだよッ! あの子達の未来を奪おうとするなら、ここで俺が消し飛ばすッ!」

 

 一誠は翼からキャノンを展開させ、砲撃の準備を始める。静かに鳴動し、砲身に強大な魔力がチャージされていく。

 

「……私は……私は選ばれた悪魔……。魔王……魔王だ。……そうだ、私は……真の魔王だ。真の魔王である私が……穢けがれたドラゴン(ごと)きに…………元人間の分際で……………」

 

 シャルバから強大な禍々しいプレッシャーが放たれる。一誠もシャルバの変化に気づくも、砲身の魔力チャージは既に完了していた。

 

「吹き飛べェェッ! クリムゾンブラスタァァァァァァアアアアアアアアアアッ!」

『FangBlastBooster!!!!』

 

 砲口から紅色の極大のオーラが解き放たれた。

 

「真の魔王である私が劣るハズがないッ!!」

 

 シャルバから放たれる強大な魔力が紅色の極大オーラとぶつかり合い、周りを吹き飛ばしながらオーラを相殺させた。

 あの状況から砲撃を相殺されるとは思っていなかった一誠は、驚きのあまりしばし固ってしまう。その間にシャルバはゆらりと立ち上がり、目の前に魔法陣を展開したった一発の砲撃を放った。

 そのたった一発の砲撃は一誠を吹き飛ばし、確かなダメージを与えた。先程までどれだけ攻撃されようが全くダメージを受けなかった一誠だが、今度はたった一発で確実なダメージを受けた。

 

「真なる魔王である私を散々愚弄してくれたなッ! その罪、万死に値する!」

 

 シャルバは怒りを表ししながら魔力を高めていく中、再び神速で距離を詰める。

 

『StarSonicBooster!!!!』

 

シャルバの顔面に巨大な拳を打ち込むが、今度は片手の魔法陣で受け止められてしまう。一誠のパンチを受けとめ、シャルバは一言つまらなそうに言った。

 

「こんなもんか」

 

 先程一誠がシャルバに言った言葉をそのまま返した。シャルバのこめかみに青筋が幾重にも浮かび上がる。

 

「こんなものに……私はやられていたというのかッ!!」

 

 掴んだ手を引っ張り、もう片方の手に魔法陣を展開し超至近距離の顔面へ魔力の波動を叩き込み、一誠を地面に叩きつけた。

 ホテルの屋上から地に這いつくばる一誠に向かって急降下した。

 

「クソ天龍か! 死を持って償うがいい!」

 

 一誠を殺そうと急接近するシャルバは、突如胸にとてつもないダメージを感じ、痛みを認識するまでもなく地面へ落下した。

 

「なるほどな。攻撃力は凄まじく上昇している。だが、防御力はそのままだ。視野が狭くなった分、むしろ下降してるかもな」

 

 先程までシャルバが滞空していた位置に立つフリード。聖剣に付いた血を一振りで拭う。激高(げっこう)し一誠しか視界に捉えられなかったシャルバをすれ違うように深く斬り裂いたのだ。 

 シャルバに致命傷を与えたフリードは一誠の眼前に降り立ち、一誠に手を貸す。

 

「まったく何怯んでんだよ。逆境からの奇跡はお前の特権じゃねーんだぜ」

 

 ま、赤龍帝程じゃないがシャルバのこれは異常だけどな。シャルバの先程のパワーアップを見ていてフリードはそう思う。

 多少一誠がピンチに陥っても本当にギリギリまでは手出しするつもりはなく、サマエルの血は明らかに怪しかったので例外的に介入した。しかし、シャルバがパワーアップを見せたことでギリギリのピンチは一瞬にして訪れた。それほどまでにシャルバのパワーアップは凄まじいものだった。

 

「しかし、一体何が起こったんだ?」

「魔王の血が覚醒したとかじゃね? 仮にも魔王の血筋だ。莫大な才能と魔力を生まれ持っている。それが目覚めればあれぐらいのパワーは出るだろう」

 

 ただし悪魔の(さが)なのかそれを腐らせてるけどな。っと、心の中で付け加える。先程のシャルバのパワーアップには酷い(ムラ)があったにしろ、何か別の力が混じったようなものは感じられなかった。そうなると、あれはシャルバの中で腐っていた本来の実力なのではないかと考えた。

 

『もしかしたら今のパワーアップ分の力はフョードルの攻撃を防いだ時にも使えていたのかもしれない。それが使えなくなってたってことは、平常時との均衡を戻す為に余剰なパワーが一時使えなくなった。それが怒りで解除された。となると、やっぱり本来の実力を底上げはされてはいたみたいだな」

 

 墜落したシャルバがよろよろと立ち上がる。不意打ちをもってしても今のシャルバは消滅させることは出来ないが、それでも確実な致命傷を負っている。力を振り絞り立ち上がったとしても、戦う力は残らず絶命は免れない。

 シャルバの最善の策は残る力で全力で逃走し、早急な手当を受けること。そうすることで今のシャルバなら僅かだが生存の道が残されていた。

 これがシャルバを倒す絶好のチャンスだとしても、フリードとしては一誠を生きて脱出させることが第一であり、その可能性を僅かでも下げることを懸念して何もするつもりはなかった。

 

「よもや私が……元人間共に……穢らわしいドラゴンに……不出来な合成獣(キメラ)に……真の魔王である……冥界の真の支配者である私に……」

 

 シャルバが手にした注射器を見るまでは。

 

「―――まさかあれは……!」

 

 ―――デッドウイルス!!?

 

「『蛇』を得られぬのなら仕方ない。魔王である私が、貴殿らのような下賤(げせん)の者共に負けるなど」

「待て! 俺の予想が正しければ、それを使えばお前は確実に死ぬことになるぞ!」

 

 フリードが慌てて叫ぶと、シャルバは意外そうに驚きつつも不敵に笑う。

 

「ほう、これが何かわかるのか? その通りだ。これを使えば私の死と引き換えに、オーフィスの『蛇』を使う以上の力を得られる」

 

 注射器のキャップを外し自らの腕に針を刺した。

 

「シャルバ・ベルゼブブ、お前は真なる魔王の血族なのだろう。こんなところでその血を絶やしてもいいのか?」

「真の魔王たる私がこんなところで死ぬはずがなかろう。この命と引き換えに得た力で貴殿らを抹殺し、破壊で浄化された穢れの無い冥界に君臨するのだ」

「……? おい、自分で何を言ってるのかわかってるのか?」

 

 自分が死ぬと断言しておきながら生きて冥界を統治する。矛盾した発言をさも当然のように言い切った。自分で言った矛盾にまるで気づいていない。シャルバは疲弊しつつも意識の混濁のような異常は感じられない。

 

「となると、常識の改変か?」

 

 シャルバの異変を考察しながらも、すぐにでも動き出せるように臨戦態勢を整える。

 

「ぐぶぅ……ぐごごごごぉぉぉぉぉぉっッ!!!?」

 

 苦悶(くもん)の表情で立ちながら絶命したシャルバの体が変色していき、再び躍動していく。

 

「これは流石にヤベェな。おい赤龍帝、持ってな」

 

 フリードは自分の聖剣を一誠に差し出す。突然武器を渡された一誠は困惑した。

 

「此処から先は俺に任せろ。安心しろ、一瞬で終わらせる。だからしっかり持ってろ」

 

 強引に自分の聖剣を一誠に押し付ける。

 

「頼んだぞ」

 

 そう言ってフリードは渡した聖剣を軽く叩く。すると聖剣は光を放ち、一誠を薄い光の膜で覆った。

 フリードは懐から十字架が刻まれた拳銃を取り出し銃口を向ける。

 

「アギィィィィィィィィィィッ!!!」

 

 適合率が低かったため、シャルバの体は異形へと変質していた。

 半分蝿のような異形に成り果てたシャルバに向かって引き金を引く。

 

「ガギエル」

 

 光の粒子と共にシャルバの眼前に弓を引いた神々しい聖なるオーラを放つ巨大ロボットが現れる。引ききった弓の矢先はシャルバと直線上の至近距離に構えられていた。

 一瞬にしてシャルバは聖なるオーラに呑み込まれ、跡形も無く消し飛ばされた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、一瞬だろ」

「確かに一瞬だったけど、何だったんだ今のは?」

 

 先程のロボットが何なのか気になる一誠だったが、まずオーフィスを魔力の縄から解放した。

 

「赤龍帝、フリード、どうして我助けた?」

 

 オーフィスの問いかけに一誠は嘆息しながら言う。

 

「お前、アーシアとイリナを助けたじゃねぇか」

「あれ、あの者達への礼。赤龍帝が我助ける理由にならない」

「アーシアとイリナは俺の大事な仲間だ。それを助けてくれたなら、俺もお前を助ける理由が出来ちまう。―――俺はお前が悪い奴には思えなくなってきたんだよ。オーフィス、何故あいつらと手を組んだ」

 

 一誠の問いにオーフィスはこう答えた。

 

「グレートレッドを倒す協力をしてくれると約束してくれた。我、次元の狭間に戻り、静寂を得たい」

 

 あまりにも安易過ぎる口約束に一誠は呆気に取られてしまった。

 

「あいつらがお前との約束を果たすわけねぇだろ。随分と利用されたんじゃないのか?」

「グレートレッド倒せるなら、我はそれで良い。だから蛇を与えた」

 

 オーフィスは続ける。

 

「赤龍帝の家に行ったのは、我が望む夢を果たせる何か、あるかもしれないと思っただけ。普通ではない成長。そこに真龍、天龍の隠された何かがあると思った。我、なぜ存在するのか、その理由、あると思った」

「……そっか。ようやく分かったわ」

 

 オーフィスの言葉に一誠は確信を得た。こいつは誰よりも純粋なんだと。それを旧魔王派や英雄派が担ぎ上げて、利用してきた。

 ―――自分達の私利私欲の為に。

 世界を手中に収めたり、超常の存在との戦いであったりと様々な思惑が交錯する。だが、それはオーフィスにとってどうでも良い事だった。

 全ては『禍の団(カオス・ブリゲード)』が作り出した仮初めの首領。

 ただ自分の夢に純粋で何も知らないドラゴン。単に強くて無限なだけ―――それを皆が恐れてしまい、神聖化してしまった挙げ句、テロリストの親玉に仕立て上げてしまった。

 寂しくて可哀想なドラゴン……それがオーフィス。そう一誠は理解した。

 

「なあ、オーフィス。俺と―――俺と友達になるか?」

 

 一誠がオーフィスに言う

 

「……友達? それ、なると、何かお得?」

「せめて、話し相手にはなってやるよ」

「そう。それは楽しそう」

「ああ、楽しいさ。だから、帰ろう」

 

 その様子を見ていたフリードは何とも言えない顔で小さくため息を吐き、小さくつぶやいた。

 

「何問題解決みたいにしてんだよ」

 

 確かにオーフィスは無垢なドラゴン。だが、オーフィスが行った無責任な行動は無垢で済まされるものではない。

 仮にオーフィスが無垢であり『禍の団(カオス・ブリゲード)』に体良く利用されていただけと証明されようとも、被害者は決してオーフィスの無罪など納得はしない。

 無知は罪でなくとも、無知に気づかぬ無責任な行動は罪である。

 オーフィスの最大の不幸はテロリストの親玉に仕立て上げてしまったことではなく、長い年月の中で大いなる力には大いなる責任が伴うことを知れなかったこと。

 

 この件を正式に落着させる為には原因である『禍の団(カオス・ブリゲード)』、さらにその発端となった聖書勢力にまで(さかのぼ)らなければならない。だが聖書がそれを良しとするか。そして、良しとしなかった場合の諸勢力の動きは。どれも考えたところでなるようにしかならない。

 

「ま、俺が判断することじゃねぇか」

 

 オーフィスの今後を考えることを止め、なんとなく辺を見回すフリード。建物が崩れ、瓦礫や風景が次元の穴に吸い込まれていく。するとあるものが視界には入る。―――機械兵の残骸だ。それを見てのほほんとしていたフリードがハッと目を見開いた。

 

 

 

 ―――――ザシュ!

 

 一誠は突然の激しい痛みに下を見ると、自分の胸から毛に覆われた血まみれの機械の腕が生えているのを目にした。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 崩壊していくフィールド。

 機械兵に胸を貫かれた一誠だったが、フリードの横槍により一命は取り留めた。だがそれは即死を免れただけに過ぎない。

 フリードは2機の機械兵相手に殿(しんがり)を務める。

 その間に一誠はオーフィスに肩を貸してもらって移動していた。

 

『相棒! もうすぐだ! アザゼル達が俺達を呼び寄せる龍門(ドラゴン・ゲート)を開いてくれる筈だ! そうすれば後はあちらが俺達を呼び出してくれる!』

 

 必死に呼び掛けるドライグだが、一誠の体力はもはや限界。

 

「……なぁ、オーフィス」

「?」

「お前、帰ったら何がしたい……?」

「帰る? 我、どこにも帰るところ無い。次元の狭間、帰る力ももう無い」

「……それなら、俺の家に……帰れば良い」

「赤龍帝の家?」

「……ああ、そうだ。アーシアと……イリナと……仲良くなれたんなら……きっと、他の……皆とも……」

 

 足が先に進まず目線が横に、上に傾く。自分が倒れたことすら認識できない。

 

「……オーフィス、お前、誰かを……好きになった事はあるか……?」

『相棒、気をしっかりしろ! 皆が待っているのだぞ!』

「ドライグ、この者はもう。―――限界」

 

 機械兵の一撃で血を流しすぎただけでなく、心臓を致命的な程に損傷させられていた。

 

『分かっている、オーフィス! そんな事は分かっている! だが、死なぬ! この男はいつだって立ち上がったのだ! なあ、帰ろう! 相棒! 何をしている! 立て! お前はいつだって、立ってきたじゃないか!』

 

 一誠の脳裏にそれぞれの想い人が蘇よみがえる。

 

 

「大好きだよ、リアス…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ドライグ、この者、動かない」

『…………ああ』

「……ドライグ、泣いている?」

『…………ああ』

「我、少しの付き合いだった」

『…………そうだな』

「悪い者達ではなかった。―――我の最初の友達」

『……ああ、楽しかった。……なあ、オーフィス。いや、この男の最後の友よ』

「なに?」

『俺の意識が次の宿主に移るまでの間、少しだけ話を聞いてくれないか?』

「分かった」

『この男と、この男の友の事を、どうか覚えておいて欲しい。その話をさせてくれ……』

「良い赤龍帝だった?」

『ああ、最高の赤龍帝だった男と、その友の話だ』

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 皆の前でアザゼルと元龍王のタンニーンの協力を得て召喚用の儀式が執り行おこなわれた。

 

「召喚用の魔法陣を用意できた。―――龍門(ドラゴン・ゲート)を開くぞ」

 

 アザゼルがそう告げ、魔法陣が輝きを増していく。

 中級悪魔の昇格試験センターにある転移魔法陣フロアにグレモリー眷属と関係者が一堂に会していた。

 疑似空間での戦闘後、アザゼル達は一誠を呼び寄せるだけの魔法陣を描ける場所に移動し、強制召喚の準備を始めた

 元龍王のタンニーンの他、白龍皇のヴァーリもサマエルの呪いによるダメージに耐えながら魔法陣の隅で待機していた。

 リアスや他の眷属達はその様子を心配そうに見守っている。

 疑似空間で生み出された『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』のアンチモンスター軍は現実の冥界に出現し、各都市部に向けて進撃を開始した。

 既に悪魔と堕天使の同盟による迎撃部隊が派遣されたが……規格外の大きさと凶悪な堅牢さに手を焼いていた。

 魔獣達は進撃と共に数多くのアンチモンスターを独自に生み出し、そこに旧魔王派の残党が合流し、巨大な魔獣達の進行方向にある村や町を襲撃し始めていた。

 冥府の神ハーデスは英雄派だけでなく旧魔王派にも手広く手を貸していた。悪魔や堕天使、各神話勢力に一泡吹かせられるなら手段を選ばぬ判断。

 事態はどんどん深刻になっていき、魔王達も各勢力に打診しているのだが……神々を仕留められる聖槍を持つ曹操の存在がネックとなり、協力を仰げない。

 各勢力の神々や冥界の魔王が聖槍で(ほふ)られるようなことがあれば、情勢は覆くつがえってしまう。それを懸念しているせいで各トップ陣は動きづらい状態となっていた。

 その為、力のある若手悪魔や最上級悪魔の眷属チームにも超巨大魔獣迎撃の話が届いている。

 同盟関係にある各勢力からも救援部隊が派遣されることとなっている。天界からは『御使い(ブレイド・セイント)』、堕天使サイドからは神器(セイクリッド・ギア)所有者、北欧からはヴァルキリーの部隊などが冥界―――悪魔側の危機に応じた。神や魔王が出られない以上、配下が率先して戦わなければならない。

 

 ゼノヴィアとイリナは無事に事件の顛末を各上層部に伝える事が出来た。今は天界でデュランダルの修復に入っている。

 しかし、このままでは魔獣が魔王領にある首都を破壊しかねない。既に都民の避難が開始されているが、全ての完了が間に合うかどうかは厳しい状況。

 

『……キミ達の力が必要だ、イッセーくん。赤龍帝力を今こそ冥界の為に使わないといけない。―――首都ではキミ達の登場を心待ちにしている子供達が多いんだよっ! だからこそ、帰ってきてくれ!』

 

 木場は胸の中でそう願った。

 

「―――よし、繋がった!」

 

 アザゼルがそう叫び、巨大な魔法陣に光が走る。アザゼルの持つファーブニルの宝玉が金色に光り、ヴァーリの体も白く発光し、タンニーンの体も紫色に輝いた。それに呼応するように魔法陣の輝きが一層広がっていく。

 力強く光り輝く魔法陣は遂に弾けて何かを出現させようとした。

 眩い閃光が止み、魔法陣の中央に出現したのは―――紅い8つの『兵士(ポーン)』の駒だった。

 目の前で起きた現象がまるで理解できないリアス達。

 一誠の姿はなく、『兵士(ポーン)』の駒8のみ。それが何を意味するのか未だに理解できていないが、アザゼルが力無くその場で膝をつき―――フロアの床を叩いた。

 

「……バカ野郎……ッ!」

 

 アザゼルの絞り出した声を聞いて徐々に理解し始める。

 朱乃はその場に力が抜けるように座り込み、リアスは呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

「……イッセーさんは? ……え?」

 

 怪訝そうに窺うアーシア。反応を示さない小猫。

 

『……卑怯だよ、イッセーくん。。駒だけ帰すなんて……。……ちゃんと戻るって言ったじゃないか……っ』

 

 木場の頬を伝う涙が止まらない。

 その日、リアス達は一誠を失った。




 今後の展開を構想してたら思いました、やっぱり一誠が死なないと無理だなと。なので彼にはやっぱり死んでいただきました。
 本来ならご都合主義を排除して死んだら生き返れないだろうから、死ぬ展開は削除しようかと考えました。が、死なないと今後の展開に割と支障が出るなと判断しました。
 一誠が死んだ原作沿いだからこそ出来ることも多々ありますので、そちらに切り替えたいと思います。
 怪訝に思われるであろう私の作品を長く見てくださってる読者に納得していただけるよう少しだけネタバレしますと―――『人間として完全に死んだ』部分をイジりたいと思っております。

 よろしければ感想、お願いします。
 だいぶ早く投稿出来ましたが、次の章を構成するのにまた少し長めのお時間をいただくと思います。ご了承お願いいたします。
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