無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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 どうやって入れたい話を無理なく詰め込めるか悩んでいたが、結果カットして後に無理なく回すのが最善策だと結論に至った。
 やりたいと思ったことを詰め込みすぎない。それが私が今回、そしてこれまでで学んだことです。―――毎回このパターンで完成に二の足を踏んでしまいます。


誤認識な反撃の狼煙

 冥府―――それは冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。

 そこにアザゼルが赴いていた。

 冥府はオリュンポス―――ギリシャ勢力の神ハーデスが統治する世界。

 冥界程の広大さは無いが、荒れ地が広がり、生物が棲息(せいそく)できない死の世界でもある。

 その深奥に古代ギリシャ式の神殿が姿を見せる。

 冥府に住む死神(グリムリッパー)の住み処であり、ハーデスの根城でもある『ハーデス神殿』。

 アザゼルは数人のメンバーと共にそこに足を踏み入れていた。

 入って直ぐに死神が群がり、アザゼル達に敵意の眼差しを向ける。

 ここに来た理由は至ってシンプル、ハーデスに抗議する為と、現在危機に置かれている冥界を好きにさせない為の牽制だった。

 巨大魔獣が暴れている最中に横槍を入れてくるだろうと予想しての抑止力。

 アザゼル達が辿り着いたのは祭儀場らしき場所で、広い場内は装飾に黄金などが使われており、冥府に不似合いな(きら)びやかで豪華な作り。

 一際大きい祭壇とオリュンポス三柱神―――ゼウス、ポセイドン、ハーデスを象かたどった彫刻。

 祭儀場の奥から死神を複数引き連れて、司祭の祭服にミトラと言う出で立ちのハーデスが現れた。

嫌なオーラを纏い、連れている死神も相当な手練れ。そこには先日襲ってきた最上級死神のプルートはいなかった。

 ハーデスを視認するやいなや、アザゼルの隣にいた男が1歩前に出る。

 

「お久しぶりです。冥界の魔王ルシファー―――サーゼクスでございます。冥府の神、ハーデスさま。急な来訪、申し訳ございません」

 

 アザゼルと共に来たメンバーの1人はサーゼクスだった。

 疑似空間から帰還したアザゼルはオーフィスの件を始め、一誠の事も包み隠さずサーゼクスに全て話した。サーゼクスはアザゼルからの情報を顔色1つ変えずにただ黙って聞き、アザゼルを咎める事すらしなかった。……アザゼルはリアス達を危険に遭わせた落とし前として殴られる覚悟だった。―――そこには個人の感情的な引け目はあれど、危険を持ち込んだことに対しての罪悪感は一切ない。

 

 サーゼクスは進撃する巨大魔獣の群れと各地で暴れ出した旧魔王派の対応、民衆の保護優先を配下に伝達し終えた後でアザゼルを誘ってきた。「冥府に行く予定だ。アザゼルも同伴して欲しい」と。

 この混乱に乗じてハーデスが動き出すのではないかとサーゼクスも勘ぐった。

 言っても聞かないハーデスを相手にどう出れば良いのか? 

 その答えが魔王自らの訪問だった。後手後手の対処しかしてこなかった彼らに他に切れる効果的なカードはない。

 そして、先程入ってきた一誠の最新情報もサーゼクスに伝え、その知らせにサーゼクスも安堵していた。

 眼球の無い眼孔の奥を不気味に輝かせ、ハーデスは笑いを漏らす。

 

≪貴殿らが直接ここに来るとは……。ファファファ、これはまた虚を突かれたものだ≫

 

 その割には余裕があるような口調、今ここでアザゼルやサーゼクスと戦う事になっても勝てると踏んでいると考える。

 本来ならミカエルもここに顔を出したいと言っていたが、天使長が地獄の底まで来るのは体裁的にもマズいのでアザゼルが制した。

 ハーデスの視線がアザゼル達の後方にいる者に注がれる

 

≪そちらの天使もどきは?尋常ならざる波動を感じてならぬが≫

 

 アザゼル達の後方にいるのは神父服に身を包んだブロンド髪にグリーンの瞳をした青年。その背には10枚にも及ぶ純白の翼が生えている。

 

「これはどうも。「御使い(ブレイブ・セイント)」のジョーカー、デュリオ・ジェズアルドです。今日はルシファーさまとアザゼルさまの護衛でして。まー、恐らくいらないのでしょうが、『一応』とミカエルさまに命じられたものですから。天使のお仕事っスお仕事」

 

 かなり軽い口調で会釈する変わり者のジョーカー、デュリオ・ジェズアルド。

 彼は神滅具(ロンギヌス)の1つ『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の所有者にして、空を支配する『御使い(ブレイブ・セイント)』だ。

 

≪……噂の天界の切り札か。その身に宿る神滅具(ロンギヌス)は世界の天候を自在に操り、支配できると聞く……。ファファファ、ミカエルめ、まさかジョーカーを切るとはな。ファファファ、コウモリとカラスの首領、それに神滅具ロンギヌスが2つ……。この老人を相手にするには些いささかイジメが過ぎるのではないか?≫

『よく言うぜ、これだけ用意しても退けそうな実力持っているくせによ。……そうか、表にいる刃狗(スラッシュ・ドッグ)も補足されているか。さすがだな、冥府の神さまよ』

≪茶を飲みながらその方らと話すのもやぶさかではないのだが……敢えて訊ねよう。何用か?≫

『……分かってるくせによ。こちらを何処まで逆撫ですりゃ気が済むんだか……!』

 

 サーゼクスはあくまで自然に答える。

 

「先日、冥界の悪魔側にあるグラシャラボラス領で事件がありました。中級悪魔の試験を行おこなうセンター会場付近に存在する某ホテルにて、我が妹とその眷属、ここにいるアザゼル総督が『禍の団(カオス・ブリゲード)』の襲撃を受けたのです」

≪ああ、それか。報告は受けているが≫

「そこで総督方は死神からも襲われたと聞き及んでおります」

≪なんでも貴殿の妹君がアザゼル殿と結託して、かのウロボロス―――オーフィスと密談をしていると耳にしてな。調査を頼んだのだよ。せっかく、どの勢力も協力態勢を敷こうとしている最中、そのような危険極まりない裏切り行為があっては全勢力の足並みが乱れると言うものだからなぁ。それが和平を誰よりも(うた)うアザゼル総督自らとなれば事も大きくなるであろう? 敬愛する総督の是非が知りたくなってなぁ、配下の者に調査を頼んだのだよ。仮にそのような裏切り行為があった場合、最低限の警告をするようにも命じただけのこと≫

 

 会話の端々にわざとらしい敬意を払って説明するハーデス。

 アザゼルにとっては(はらわた)が煮え繰り返りそうな物言いだった。―――しかしアザゼルの秘密裏に行った行為は他勢力に対する裏切り行為に違いない。ハーデスを攻める権利はない。それは片棒を黙認したサーゼクスも同罪。一方でハーデスは『禍の団(カオス・ブリゲード)』親玉であるオーフィスを英雄派を利用し捕らえるという大義名分が立ち、ギリギリ裏切り行為にはならない可能性がある。

 ハーデスは肉の無い顎を擦さすりながら続ける。

 

≪だが、それは私の早とちりだったようだ。もしそちらに被害が出てしまっていたのなら、非礼を詫びよう。贖罪も望むのであれば何なりと言うが良い。私の命以外ならば大概のものは叶えてやらんでもないが≫

 

 完全に上から目線の物言いと態度。

 今のアザゼルには効果覿面(てきめん)だった。

 しかし、それでもアザゼルがハーデスに食っていかない。そんなことが出来ない立場だと理解していたからではない。―――すぐ近くでサーゼクスが濃厚なプレッシャーを放っていたからだ。

 普段は乱れたオーラを見せないのだが、腹の内では相当荒立っていた。

 ハーデスの報告を聞いてサーゼクスは1つだけ頷いた。

 

「そうですか。早とちり……。なるほど。それと良くない噂を小耳に挟んだもので、それの確認をしたくまいった部分もございます」

 

 サーゼクスが改めて、ここに来た本題―――不義を問う。

 

「ハーデスさま、あなたが『禍の団(カオス・ブリゲード)』と裏で繋がっていると言う報告を受けています。英雄派、旧魔王派共にあなたが手を貸している―――と。かのサマエルを使用したと言うではありませんか。もしこれが本当だとしたら、重大な裏切り行為です。立場は違えど、あれを表に出さない事だけは各勢力で合意だった筈です。私としてもあなたの潔白を疑うつもりは無いのですが、一応の確認としてサマエルの封印状況を見せていただけないでしょうか?」

 

 ハーデスがサマエルを使用したかどうかは封印術式の経過具合を調査すれば直ぐに分かる。潔白なら大昔に施された封印術式、黒なら最近施された封印術式と言う事になる。

 それが確認できれば、ハーデスを糾弾する口実が得られる。

 サーゼクスからの問いにハーデスは嘆息した。

 

≪くだらんな。私は忙しいのだ。そのような疑惑を問われている暇など無い≫

 

 ハーデスはそれだけ言い捨てて、この場を去ろうとする。

 

『この野郎、都合の悪い事はガン無視かよ!』

 

 追い掛けようとするアザゼルをサーゼクスが手で制する。

 

「分かりました。では、それを問うのはやめましょう。しかし、ハーデスさまに疑いの目が向けられているのは事実。ここは1つ、こうしませんか?冥界での魔獣騒動が収まるまで、私達と共にこの祭儀場にいてもらいたいのです」

 

 サーゼクスはこの場にハーデスを繋ぎ止める案を申し出た。

 ハーデスが冥界の危機に横槍を入れないよう、事件が収まるまでここで監視をすると言う案。

 元々アザゼルは巨大魔獣を全て殲滅するまでハーデスを神殿ごと結界で覆う案を検討したのだが、サーゼクスが話し合いの場を一応用意したいと強く訴えかけた。

 被害を最小限に留めたいと思うサーゼクス生来の優しさ―――中途半端な優しさがそうさせる。それが旧魔王派を冷遇と放置に繋がり、『禍の団(カオス・ブリゲード)』を生む切っ掛けとなったことをサーゼクスは理解していないだろう。

 ハーデスは足を止めて、その場で振り返る。

 

≪面白い事を口にするな、若造。そうだな……。これはどうだろう。―――お主が真の姿を見せると言うのなら、考えてやらんでもないが≫

 

 アザゼルはハーデスの注文に一瞬言葉を失い、ハーデスは眼孔を光らせて続ける。

 

≪噂にな、聞いておるからな。サーゼクスと言う悪魔が何故『ルシファー』を冠するに至ったか。それは『悪魔』と言う存在を逸しているがゆえだと≫

 

 一瞬の静寂、それを裂くようにサーゼクスが頷く。

 

「―――良いでしょう。それであなたがここに留まってくださるのならば安いものだ。ただし、身辺の者達は離れさせた方が良い。―――確実に消滅してしまう」

≪ほう、それは面白い。私の周囲にいるのは上級死神だけじゃなく、最上級死神も列している。それでもお主の言げんには偽りが無いと思えてならぬな≫

 

 サーゼクスの言葉にハーデスの周囲を守護する死神達が敵意を一層濃くする。

 サーゼクスは上着を脱ぎ捨て、アザゼルとデュリオに後方に下がるよう視線を配らせた。

 

『……本気でやるつもりか、サーゼクス』

 

 見守るアザゼルとデュリオの前でサーゼクスは魔力を高め始める。

 滅びの魔力がサーゼクスから発され、その身を紅く紅く染めていく。

 刹那―――神殿全体が震動し始めた。サーゼクスの魔力を受けて神殿が震えだした。頑丈な祭儀場の至るところ、壁や床、天井にも激しくヒビが走る。

 サーゼクスの周囲が彼自身の体から漏れ始めた滅びの魔力によって塵も遺さず消滅していく。

 この時、アザゼル達が回りを注意深く観察できていれば気づけたかもしれない。神殿の壊れ方が不自然だった箇所があったことに。―-―まるで滅びの魔力に耐えられる障害物があったかのような。

 

 サーゼクスの体が紅いオーラに包まれた瞬間、莫大な魔力が場内全体を包み込んだ。

 神殿の震動が止み、再び静寂が訪れた祭儀場。その中央に現れたのは―――人型に浮かび上がる滅びのオーラだった。

 滅びの化身となったサーゼクスがハーデスを見据える。

 

『この状態になると、私の意志に関係無く滅びの魔力が周囲に広がっていく。特定の結界か、フィールドを用意しなければ全てのものを無に帰してしまう。―――この神殿が強固で幸いでした。どうやら、まだここは保もつようだ』

 

 それがサーゼクスの正体。凄まじい質量の消滅魔力が人型に圧縮した姿。

 以前、グレモリー家に行った時、サーゼクスの父―――グレモリー現当主がアザゼルに語った事がある。

 

「アザゼル総督。私の息子は―――悪魔とカテゴライズして良いのか分からない、異なる存在なのではないかと時折思っているのですよ」

 

 アザゼルはその時、「それはどういう意味なのでしょうか?」と訊ねると、現当主は目元を細めながらこう続けた。

 

「息子が悪魔の変異体である事は間違いないようです。どうしてそうなったのか。私の血筋に何かがあったのか、それともバアル家の血筋に特異なものが含まれていたのか。それすらも分からないのです。―――ただ、サーゼクスとアジュカは現悪魔世界において、たった2人のみの超越者である事は間違いないでしょうな。あの2人は生まれながらにして魔王になる事が運命付けられていたのかもしれません。何せ、それ以外に収まるポストがあり得なかったのですから。それ程にサーゼクスは強すぎた」

 

 アザゼルは固唾を飲み、サーゼクスの正体を目の当たりにしたデュリオは「……ハハハ、これは護衛いらないかな」と苦笑いせざるを得なかった。

 

『これでご満足いただけただろうか、ハーデス殿』

 

 サーゼクスの言葉にハーデスは不敵な笑いを漏らす。

 

≪ファファファ、バケモノめが。なるほど、前ルシファーを遥かに超越した存在だ。魔王と言うカテゴリーすら逸脱するものだ。いや、悪魔ですらあるのか疑わしい程の力を感じる。―――お主は何なのだ?≫

『私が知りたいぐらいですよ。突然変異なのは確かなのですけどね。―――どちらにしても、今の私ならあなたを消滅できます』

≪ファファファ、冗談には聞こえない、か。この場で争えば確実に冥府が消し去るな≫

 

 恐ろしくもあるが、今のアザゼルにとっては嬉しい誤算。最悪の場合、アザゼル達でハーデスを力ずくで抑えるつもりだったが、今のサーゼクスなら対応も可能だ。

 サーゼクスを見据えるハーデスのもとに物陰から死神が1名現れ、ハーデスに耳打ちする。

 報告を受けたハーデスは祭壇に設置されてある載火台の炎に手を向けた。

 すると、揺らめきと共に炎に映像が映し出される。そこに映し出されたのは―――とある連中が死神の大群を相手に大暴れしている様子だった。

 

『おらおらおら! 俺っちの如意棒に何処まで耐えられるんでぃ、死神さんよ!』

 

 如意棒を振り回す美猴。

 その横で巨大なゴーレム―――ゴグマゴグが極太の剛腕を振り下ろして死神を一斉に吹き飛ばしていく。更には腕の一部が変形して対魔獣用に仕込まれた機関銃が現れ、火を噴いていた。

 黒歌、ルフェイの魔法攻撃に続き、アーサーが聖王剣を振るって100単位の死神を(ほふ)る。

 ヴァーリチームが冥府に現れて、死神を相手に抗争を仕掛けてきた。

 

『ああ、何となく予想はしていたさ。あいつらがやられっぱなしなわけがない』

 

 実に良いタイミングだとばかりに密かに口元を笑ますアザゼル。

 だがヴァーリの姿だけが見当たらない。恐らく別行動を取っているのだろうと推測する。

 

≪……貴様の仕業か、カラスの首領よ≫

 

 ハーデスが不機嫌な声音でアザゼルに訊いてくる。

 アザゼルは堪えきれずに嫌みに満ちた笑みを浮かべて言った。

 

「さあ、知らね」

≪…………ッッ!≫

 

 その瞬間、ハーデスが体に纏うオーラの質が激情の色となった。

 

「死神を総動員しなければ白龍皇の一派は仕留められないでしょうな。それはあなたがここで指揮でもしないとダメでしょうねぇ」

 

 これでハーデスが冥界の危機に横槍を入れられなくなったのが確定した。冥府でヴァーリチームが暴れ回り、サーゼクスまで本気と化しているから冥界への嫌がらせどころではない。

 アザゼルの意見にサーゼクスが同意する。

 

『ええ、ですから、あなたにはここに留まってもらうしかないのですよ』

 

 迫力と緊張に満ちた空間でサーゼクスは指を1本だけ立てた。

 

『1つだけ。これはあくまで私的なものです。ですが、敢えて言わせていただこう』

 

 滅びの化身となったサーゼクスは憎悪に満ちた眼光でハーデスを鋭く睨み付ける。

 視線を向けられていなくとも、この場にいるだけで全身が凍りつきそうな程の敵意を発する。

 

『冥府の神ハーデスよ。我が妹リアスと我が義弟に向けた悪意、万死に値する。この場で立ち合う状況となった時は覚悟していただこう。―――私は一切の手加減も躊躇も捨てて貴殿をこの世から滅ぼし尽くす』

 

 ハーデスはミスを犯した―――それはサーゼクスを激怒させてしまった事。

 アザゼルも光の槍を手元に出現させる。

 

「骸骨神さまよ、俺も一応キレてるって事、忘れないでくれ。まあ、個人的な恨みなんだがな、それでも一応の事を物申しておくぜ? ―――俺の教え子どもを泣かすんじゃねぇよ……ッ!」

 

 アザゼルとサーゼクスの敵意を存分に受けてもハーデスは微塵も気配を変えなかった。

 これでハーデスの件は何とかなる。

 

『若手悪魔ども、後は任せるぜ? それとよ―――イッセー、そろそろ帰ってこいや。良い場面を全部取られちまうぜ?』

 

 ハーデスはミスを犯した。だがそれはサーゼクスとアザゼルも同じ。

 彼らが犯したミス―――それは自分達の弱点(密談の証拠)をここへ招いてしまったこと。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

アジュカ・ベルゼブブの隠れ家からグレモリー城に帰還した僕達。リアスさん達は気持ちを切り替えて首都に向かう準備を整えていた。

 少ししてフロアでゼノヴィアさんとイリナさんに再会する。

 

「悪い、遅くなったな」

 

 いつもの戦闘服に身を包む2人。ゼノヴィアさんは布にくるまれた長い得物を携えていた。布には見慣れない文字も刻まれている。中身は修復が終わったエクス・デュランダルだろう。だけど……。

 イリナさんも新しい剣を腰に携行していた。こちらも恐らくアザゼル総督が言っていた天界で行おこなわれていた実験の成果だろう。

 ゼノヴィアさんはリアスさんに問う。

 

「部長、イッセーは? ある程度の話は家の方に聞いた。魔王ベルゼブブは何と?」

「ええ、最悪の事態にはなっていないようだわ。―――(かたわ)らにオーフィスとドライグがいるようだから、何とか連絡だけでも取れれば良いのだけれど……」

「うん、まあ、あいつなら生きてさえいれば帰ってくるだろう。今頃、部長や朱乃副部長の胸を恋しがっている筈だ」

 

 ゼノヴィアさんも一誠の帰還を信じて疑わないようだ。それにしても、胸を恋しがるって……一誠ならあり得るね。

 

「それで、これからどうするの?」

 

 今度はイリナさんがリアスさんに訊く。

 リアスさんはフロアに備え付けられている大型テレビに電源を入れる。映し出される映像は各領土で暴れ回る巨大な魔獣達だった。

 時間の経過的にそろそろ重要拠点に辿り着いた魔獣が出てもおかしくない。だけど、テレビでは『豪獣鬼(バンダースナッチ)』相手に善戦する悪魔や同盟関係の戦士達の姿が。

 僕も“最後に部屋に入ってきた人”と軽く目線を合わせてテレビを見た。

 

『ご覧ください! 魔王アジュカ・ベルゼブブさまを始めとしたベルゼブブ眷属が構築した対抗術式! それによって展開する魔法陣の攻撃が「豪獣鬼(バンダースナッチ)」に効果を与えております!』

 

 上空からヘリコプターで中継するレポーターが嬉々としてその様子を報道する。映画だったら絶対に墜落するパターンだ。

 『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の1体が同盟関係の戦士達の攻撃によって深いダメージを受けていた。

 魔獣への対処法を確立してから数時間、形勢は優勢に転じ始めていた。

 

「……アジュカさまは魔獣が出現して直ぐにファルビウム・アスモデウスさまと連絡を取り合いながら術式構築作業を開始されて、私達が人間界に行った時には術式プログラムを完成させていたと言うわ」

 

 リアスさんは画面に視線を向けながらそう漏らす。

 情報によると『豪獣鬼(バンダースナッチ)』への攻撃戦術は魔王ファルビウム・アスモデウスが構築したらしく、頭脳派でもある魔王2人の共同戦線によって各地の『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は足が止まり、ダメージを蓄積させていった

 

『大怪獣対レヴィアたんなのよ!』

 

 チャンネルが移り変わって映し出されたのは魔王セラフォルー・レヴィアタン。

 話によれば冥界の危機に居てもたってもいられなくなった魔王セラフォルーが魔王領を飛び出し、『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の1体とバトルを開始してしまったらしい。

 レヴィアタン眷属と共に『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の1体を一方的に攻撃し続けていた。

 極大とも言える氷の魔力が画面一杯に広がり、『豪獣鬼(バンダースナッチ)』もろとも広大な荒れ地が全て氷の世界と化していた。

 他のチャンネルではタンニーンが眷属のドラゴン達と『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の1体を追い詰めているところだった

 

『あーっと! 遂に! 遂に巨大魔獣「豪獣鬼(バンダースナッチ)」の1体が活動を停止させましたーっ!』

 

 レポーターの叫声(きょうせい)がテレビを通して聞こえてくる。

 最初に『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を仕留めたのは皇帝(エンペラー)ベリアルが率いる同盟軍だった。画面に映る人型の『豪獣鬼バンダースナッチ』が地に倒れ伏しており、再び動き出す気配を感じられない。テレビ越しに勝利の叫びが聞こえてくる。

 この優勢状況なら『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は半日ほどで終わりそうだ。

 ……なんだか簡単すぎる。アメリカの戦闘員と戦えるナチスが関わってるにしては順調に事が進みすぎている気がする。アンチモンスターはシャルバ・ベルゼブブの独断だから? それともナチスは僕が考えるほど深く関わってないのか。それとも……他に目的があるのか。

 

「残る問題は魔王領の首都に向かう『超獣鬼(ジャバウォック)』だな」

『ッ!?』

 

 聞き覚えのある声が後方から聞こえてくる。

 振り返るとそこにいたのは―――フリードだった

 

「フリード!?」

「よっ、お前ら。さっきぶりだなガハゴホゴホ!!」

 

 先程のダメージを感じさせない軽い挨拶をしたが苦しそうに咳き込む。気丈に振る舞いつつもダメージを引き継いで絶不調みたいだ。

 いつの間にか混じっていたフリードにリアスさん達は戦闘態勢に入る。

 

「何処から入ってきたの?!」

「うん? 普通に玄関からだけど?」

 

 フリードはリアスさんの問いに平然と答えた。

 ちなみにフリードが入ってきたのは大型テレビに電源を入れた時だ。ちょうど視線がテレビに向いたのと、気配を探る技術を持ってないため気づかれなかった。

 

「先に言っとくが赤龍帝があの後どうなったかは知らない。ちょっと目を離した隙きに胸に風穴開けられて、俺がそいつとの戦闘中に目を離したらオーフィスと一緒に消えてた。普通に考えれば致命傷で生きちゃいないだろうが、オーフィスと一緒に消えたとなるとワンチャンあるかもな」

 

 リアスさん達が知りたいであろう質問を先読みし答えた。僕も一誠をそこまで評価してるわけじゃないけど、今までの経験からなんとなく戻って来そうとは思う。

 それでもリアスさん達は半信半疑な様子で警戒心を解かない。

 フリードはそんなのは気にせず話を続けた。

 

「そう邪険にするなよ。またいい話を持ってきたんだ」

「いい話ですって?」

「そうだ。お前らが冥界の危機―――『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』によって生み出された超巨大モンスターや旧魔王派の反乱に集中出来るように俺たちがサポートしてやる」

 

 フリードの提案、おそらくはアメリカ勢力側からの指示だとは思うが悪魔側からすればかなり良い提案。要するに他勢力からの援護と同じようなものだ。

 しかしただの善意ではないだろう。脱出作戦時の共闘も英雄派の作戦を停滞させるのが本来の目的だった。

 

「代わりにそれ以外から手を引いてもらう。英雄派の幹部や構成員、それとハーケンクロイツを身に着けた奴らは全て俺達で引き受ける。その後の処遇にも三大勢力の介入は一切なしだ」

 

 予想通り条件を付けてきた。アメリカ側からすれば三大勢力はむしろ滅んでほしいぐらいの相手だし他の目的がなければ援護などしないだろう。

 何かを言い出そうとするリアスさんの言葉を遮ってフリードは話を続ける。

 

「ちなみに提案を断っても俺達は強行するつもりだ。邪魔をするなら生死を問わず排除する。提案を受け入れてくれるならこちらとしても最大限の配慮しよう」

 

 フリードは少しだけこちらを威圧しながら脅迫に近い選択を迫った。

 

「そちらにも言い分があるのはわかる。だけどよく考えてほしい。赤龍帝は生きていて、必ず帰ってくるんだろ? だったら帰る場所であるお前達が欠けるなんて絶対にあっちゃいけねぇ。帰る場所がなくなるなんて本末転倒だからな。だからここは妥協すると考えて提案を受け入れな。絶対に損はさせないからさ」

 

 一転して優しい言葉で再び選択を迫る。あくまで選択権をこちらに渡して。

 一人二役で良い警官と悪い警官の戦術を仕掛けてきた。

 

「皆さま! 大変ですわ!」

 

 そんな中にフロアにパタパタと駆け寄ってくるのはレイヴェルさんだった。

 

「緊急事態発生みたいだな。返事は現場での行動でしてもらう」

 

 ついてくる気満々のフリードは備え付けのお菓子の袋を破りながら言う。

 そう言ってお菓子を口にしたフリードだが、すぐに咳き込んで吐き出した。

 

「駄目だ、もう胃が受け付けねぇ」

 

 どうやら想像以上にフリードは衰弱しているようだ。

 レイヴェルさんは険しい顔で告げてくる。

 

「……首都で活動中のシトリー眷属の皆さんが都民の避難を護衛している途中で……『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員と戦闘に入ったそうです!」

 

 これによりグレモリー眷属出陣の狼煙が上がった。




 フリードの能力は作中で説明するのが困難な可能性が大きくなったのでここで簡単にまとめておきます。(作中で登場した部分のみ)

 名前:フリード・セルゼン/出身:ギリシャ(シグルド機関)
 誕生日:不明/人造人間→合成獣

 教会の暗部の一つである戦士育成機関、シグルド機関によって試験管ベイビーとして生まれた。メイデンが教会所属だった頃からの信徒。立場上付いて行くことは出来なかったが、その後もメイデン側との交流を持っており、その立場を買われ潜入調査をマルコから頼まれメイデン様の為にと承諾した。しかしその後は……(現在明かされているのはここまで)
 聖剣使いとしての適正は高く普通は??????????????のに対し、フリードは???????????????????。

自らの行いを記録せよ(メメント・モース)』/聖剣に時空の力を帯びさせ、自分の行動の一部を空間にオーラとして記録することができる。記録された行動はオーラを視る技術を持っていれば可視できる。

『時空重畳』/直接時空の力を帯びた聖剣は、同じ時空の動きが重複されるため1.5倍の直接攻撃を行うことができる。記録された行動に重複させれば3倍の攻撃行動となる。

儚い虚像の世界(エフェメラル・ワールド)』/自身のオーラを染み込ませたアンティークカメラで写真を撮ることで、時の止まった写真の世界を生成することができる。写真世界には門となる写真と鍵となる時空の力を帯びた聖剣を持つフリードだけが自由に出入りすることができる。(その際には聖剣を一回転させて自身の時空を反転させる)
 写真世界にいる間、現実世界にいる人物からは感知されない。逆に現実世界にいる人物を感知することもできない。
 写真世界内で時の止まった人物に干渉することはできるが、写真世界消滅後に半減した状態で現実世界に反映され、決して破壊・切断・死亡した状態にはならない。
 写真世界は生成されてから約1時間で消滅する。
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