『―――夢?』
「ああ、寝ているうちに変な夢を見たんだよ。大勢の子供達が泣いてんだ。聞いたらさ、でっかいモンスターが怖いって泣いてんだよ。だから、俺はその子達に言ったんだ。指で円を描いて真ん中を押して、ずむずむいやーんってやっていれば俺がそのうち必ず戻っていくからってさ」
一誠の話を聞いてドライグは嘆息する。
『……あれほど他者にやられたら嫌がっていたその仕草をお前がやるとはな……』
「仕方ねぇだろ! あんなに大勢の子供を励ますにはそう言うポーズみたいなのが必要だと思ったんだよ! ……でもさ、俺がそうやったら、夢の中の子供達の不安な顔が消えてたよ。おっぱいってすげえよな」
『……はぁ、そうだな。―――で、どうだ、新しい体は?』
確認するドライグ。一誠は繭から取り出したばかりの自分の体に魂を移し替えてもらっていた。以前の体と寸分違わず、手を握って感触も確認する。
「よっしゃ! これでアーシアのおっぱいが揉める! ……あ、でも、前の体と何が変わったんだ?」
『姿形と一部基本は人間のままだ。普段通りに生活できるだろう。ただし、
「つまり、今の俺はグレートレッドの子供みたいなもんか」
『そこにウロボロスの力が加わっている。この状態でも以前の体より多少は身体能力が向上している。……まあ、元が悪かったからその程度しか強化できなかったとも言えるんだが……』
「元が悪くてごめんなさいね!どうせ、元々はただの男子高校生でしたよ!」
『メリットは今述べた身体能力向上と真龍と龍神の力が加わった事で、今後どのような成長が起こるか予測が立てられなくなった事だろうな。あと、もうグレートレッドから離れても大丈夫だ』
「もともと俺の成長なんて予測できなくねぇか?
『まあ、それはそうなんだが……。デメリットはこれも先程話した通り、
一誠はドラゴンで構成された体に人間の魂を移し替えることについてあまりにも楽観視していた。とは言えそれはドライグも同じ。
……この場に誰一人としてそれらの深い知識はなく、また深く考えることはしなかった。―――他に選択肢のなかった彼らからすれば考えたところでどうすることも出来ないことではあったが。
一誠はこれからどうするかを考えた。
次元の狭間にいても停止状態のゴーレム―――ゴグマゴグぐらいしか見つかる物がない。どうやって皆のもとに帰ろうかと思慮している時だった。
耳に懐かしいメロディが聞こえてくる。
『……見ろ、相棒』
一誠はドライグに促されて次元の狭間の空を見る。万華鏡の中身のような空に―――冥界の子供達の笑顔が次々と映されていく。
子供達は指で円を描き、真ん中を指でつつきながら大きな声で“あの歌”を歌っていた。
『おっぱいドラゴンの歌』
『―――冥界中の子供達の思いをここに投射しているとグレートレッドは言っている』
冥界中の子供達の呼ぶ声に一誠は嬉しさで胸がいっぱいになった。
『グレートレッドは、
「ああ、だけど、これはきっと本物だ。子供達が歌ってくれてるんだ……っ! それがここに届いた……っ! 俺に届いてきたんだ……っ!」
一誠は子供達の笑顔とその歌を聴いて、込み上げてくるものを抑えきれずにいた。
『……不思議だ。あんなにも不快に感じていたあの歌が……今は力強く感じる。……ククク、俺も本格的に壊れてきたか』
「いや、良いんじゃねぇかな、ドライグ。これはきっとそう言うあったかい歌だ。そうさ、俺はとある町の隅っこで、笑いながら、天気の日でも、嵐の日でも、おっぱい探して飛んでいく―――おっぱいドラゴンだ……っ! おっぱいが大好きだからよっ! 皆のところに帰らなきゃダメなんだよなっ!」
『ああ、帰ろう、相棒。―――グレートレッド、頼めるか? この男をあの子達のもとに帰してやってくれないか?』
ドライグがそう頼むと―――グレートレッドが一際大きい咆哮を上げる。すると前方の空間に歪みが生じて、裂け目が生まれていく。
そこから大都市の町並みが一望できた。冥界の都市らしき景色から懐かしいオーラを感じ取れる。
大事な仲間のオーラ、愛する
一誠は隣にいるオーフィスに言った。
「オーフィス、俺は行くよ。俺が帰られる場所へ―――」
「そうか。それは……少しだけ羨ましいこと」
寂しげなオーフィスに一誠は手を差し伸ばした。
「―――お前も来い」
その行為と言葉にオーフィスは驚き目を見開いていた。
一誠は笑顔を浮かべて言う。
「俺と友達だろう? なら、来いよ。一緒に行こう」
その時、最強と称された存在ドラゴンは微笑んだ。
「我とドライグは―――友達。我、お前と共に行く」
手を取り合う一誠とオーフィス。
一誠はオーフィス、グレートレッドと共に次元の裂け目を超えていった。
――そこに一人を取り残して――
◆◇◆◇◆◇
次元の狭間からグレートレッド達と共に抜け出た一誠は、目の前の光景に
“自分の視線の先にドデカい怪獣がいる”―――と。
シャルバが外法で作ったアンチモンスターだと直ぐに得心し、後方の都市部と遠目に確認する。
アンチモンスターの周辺は既に破壊し尽くされた後であり、地面には大きなクレーターが無数に点在し、山も森も建物も全部無惨に崩壊している。
超巨大なアンチモンスター『
グレイフィアは凄まじいオーラを漂わせる者達と一緒にアンチモンスターと戦っていた。
新撰組の羽織を着た侍や神の獣と称されし麒麟もいる。
『あれは相当な手練ればかりだな……。全員尋常じゃない力量の持ち主だ』
ドライグが感嘆するように言う。
しかし、悪魔の中でも最強と名高いルシファー眷属でさえ、アンチモンスター『
アンチモンスターが一誠が乗っているグレートレッドに気付き、6つの目玉を全て向けてくる。認識した途端に敵意むき出しの視線を送るアンチモンスター。
『…………何だと?それは本気で言っているのか……?』
「ん? ドライグ、どうかしたのか?」
『……ああ、グレートレッドが「ガン付けられたのであのモンスターが気に入らない」と言うのだ……』
『
『それでだな、相棒。グレートレッドが手を貸すから、あのモンスターを倒そうと言うのだ』
「エエッ⁉ 倒す⁉ あのでっかいのを⁉ しかも俺も数に入ってますか⁉」
グレートレッドが進言してきたあまりにも無茶苦茶な注文に一誠は嫌な汗が止まらない。するとオーフィスが言う
「大丈夫、ドライグとグレートレッド、合体すればいい。今のドライグの体、真龍とある意味で同じ。合体できる」
ドライグ、つまり一誠とグレートレッドな合体。
冗談なのか本気なのか、オーフィス達の言葉に判断がつかない一誠だが突如、グレートレッドの体が赤く神々しいオーラを発していく。
赤いオーラが一帯を赤く赤く染め、一誠の体もその膨大な赤い光に包まれていった。
赤い光が止み目を開けると一誠の眼前に 『
『気付いたか、相棒』
『……ん? ああ、気付いたけど、どうして目の前にあの怪物そっくりなのがいるんだ? しかも俺と同じぐらいのサイズ』
『それはそうだろう。―――お前が巨大になったのだからな』
ドライグの報告に一瞬言葉を失い、驚愕する一誠。
足下や自分の全身、後方の都市部にも目を配らせる。
『俺、でっかくなってんのぉぉっぉぉぉぉおおおおっ⁉』
驚愕の声音を辺り一面に響かせる一誠。
グレイフィア達も巨大化した一誠に気付いた。
『ああ、そうだ。やっと理解したか。グレートレッドがお前に力を貸してくれると言ってただろう? あれはこう言う事だ。グレートレッドのサイズでお前を再現させたんだよ。オーフィスが言う通り、合体だな。しかも巨大化でな』
合体するならリアスや朱乃さんと合体したかったよ! とわけのわからない不満を内心垂れ流す一誠。
ゴアアアアアアアアアアアアアッ!
眼前の怪物が咆哮して一直線に一誠へと突進していく。
『クソッタレ! どうすりゃ良い⁉ 教えろ、ドライグ!』
『要領は同じだ。いつも通りに体を動かせる。グレートレッドは基本の動きをこちらに委ねてくれているようだ。ただ体が大きくなっただけだと思えばいい』
『なるほど、分かりやすい限りだ!』
一誠は突っ込んでくるモンスターに向かって右のストレートを撃ち放つ。
モンスターの顔面にクリーンヒットし、モンスターはその一撃で体をよろめかせる。顔を伏せたと思いきや、牙むき出しの口内から危険な火の揺らめきが見えた。
モンスターが炎を吐き出そうとしていることを察した。
『相棒、その炎が後方の都市部に向かったら被害が出るだろう。避けるのはまずいんじゃないのか?』
『んな事は分かってるよ! 避けるのが無理なら―――』
一誠は右手を前に突き出してドラゴンショットの構えを取る。
怪獣の口から大質量の火炎球が吐き出される。
『いっけぇぇっ!』
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼』
増大させた魔力の一撃が火炎球目掛けて放たれる。
火炎球とドラゴンショットがぶつかる手前で一誠は『曲がれぇぇぇえぇっ!』と念じる。
一誠の叫びに呼応するようにドラゴンショットは軌道を変えて下に曲がり―――
『今度は上がれっ!』
右手を上方向に突き上げ、ドラゴンショットが真上に軌道を変えていく。サーゼクスの魔力操作を見て、一誠は撃ち出したドラゴンショットを操る方法を密かに練習していた。
火炎球の下にドラゴンショットが潜り込み、一気に上へ押し上げる。
激しい衝突音を響かせ、火炎球は上空に持ち上げられた。2つの強大な魔力は空を裂き、遥か上空の彼方で弾け―――空を爆炎一色に染めた。
怪獣は更に咆哮を上げて再突進。
しかし、一誠は一切恐れなかった。サイラオーグの突進と比べたら大したこと無いと。
一誠は突進してきた怪獣の顔面に拳打を撃ち込み、更に側頭部に回し蹴りも入れた。
怪獣の目が妖しく輝き出す。
『目から光を放つ気か!』
ドライグがそう叫び、一誠は直ぐに体を捻ってその光をやり過ごす。
怪獣の6つの目から光の帯が体を掠めて、後方の地に一直線に掃射されていく。
刹那―――大きな爆音と共に地が激しく揺れ、遥か地平の彼方まで大きな裂け目が生じ、そこから大質量の火炎が巻き起こっていた。
『……相棒、グレートレッドから良い報せがある』
『んだよ、早く言ってくれ!』
『決め技はある。それが決まれば確実に勝てる―――と』
『良いねぇ! そう言うのが欲しかったんだよ!』
『だが、問題はそれをここで放てば、ここいら一帯が全て消滅してしまうそうだ。―――破壊力がバカげていると言っている』
『マジか! ……よっぽどのものなんだろうな。やるとしたら、上空にぶん投げて上に向かって使うって感じかな?』
『ああ、それしかないだろうな』
一誠は頭の中で自分なりに作戦を巡らせ、グレイフィアに向けて言葉を投げかけた。
『グレイフィアさん! 聞こえますか? 俺、イッセーです!』
「一誠さん……? では、やはり巨大な赤龍帝はあなただったのですね? 無事で何よりです。しかし、この巨大化はいったい?」
『グレイフィアさん、巨大化については後でお話するんで、いまはお願いがあるんです。―――あのモンスターをぶっ倒す術があります。強力してください』
一誠の言葉にグレイフィアは一転して戦士の顔付きになった。
「聞きましょう。私は―――いえ、私達は何をすべきか?」
「はい、あいつを上空に跳ね上げることはできますか? それが出来れば、後は俺が上に向けて特大なのをぶっ放します」
一誠が考え出し作戦はもはや作戦と言えないほど単純なもの。グレイフィアは笑む。
「なるほど。分かりやすい作戦です。そして、何よりあなたの『特大』と言う言葉は心強いわ。―――やりましょう。それぐらい出来ないで、何がルシファー眷属の『
同意したグレイフィアが濃密なオーラを身に纏って飛び出し、新撰組の羽織を着た侍に指示を飛ばす。
「総司さん!『
「了解です、グレイフィア殿」
侍は神速で怪獣の足下に詰め寄り、腰に帯刀する日本刀に手をかけた。
一瞬の静寂の後、怪獣の右足は膝から両断されていた。
地響きを立てながら倒れていく怪獣へ近付き、怪獣を中心に魔法陣を展開し始める。
怪獣の斬られた足が既に再生を始め、膝から下の断たれた部分を引き寄せようとしていた。
その間にグレイフィアを中心にした術式は完成、怪獣の下に巨大な魔法陣が輝き出した。
「上にあげますよ!」
グレイフィアが叫ぶと刹那、巨大な怪獣は魔法陣からの衝撃を受けて、遥か上空に投げ出される。
『よっしゃ、ドライグ!その特大な必殺技を用意しろ!』
『応ッ!任せろ!』
ドライグが応じて直ぐに鎧の胸部分が音を立てながらスライドしていき、何かの発射口が現れる。
『……ロンギヌス・スマッシャー。本来、得てはいけない忌々しき技だ』
ドライグが低い声音でそう呟く。
静かな鳴動、信じられない程の質量のオーラが胸の砲口に集まっていく。
上空の怪獣は顔を向けて目と口から、それぞれ光と炎を吐き出そうとしていた。
だが、一誠のチャージの方が速い。
『ロンギヌス・スマッシャァァァァアアアアアアアアアアアッ!』
叫びと共に極大な赤いオーラの砲撃が放射されていく。
怪獣の光線と火炎球が今まさに吐き出されそうだったが、グレートレッドの絶大なオーラが丸ごと飲み込んでいった。
空一面が赤いオーラに染め上がる程の広範囲で膨大な威力―――それによって『
赤龍神帝の力に“すげえ”以外の言葉しかでない一誠。刹那、一誠の体が赤く輝き、元の等身のサイズに戻る。
自分のサイズが戻ったことを確認し上空を見上げると、グレートレッドの姿があった。
グレートレッドの目が輝くと、空に歪みが生じていく。
その歪みはグレートレッドが潜れる程の大きさとなり、グレートレッドはドライグ……一誠を視認すると大きな口を開ける。
それは初めて耳にするグレートレッドの声だった。
<―――ずむずむいやーん>
「――――ッ!」
一誠も、誰もが絶句するしかなかった……。
<ずむずむいやーん、ずむずむいやーん>
ただひたすら“ずむずむいやーん”を連呼しながら次元の穴に消えていくグレートレッド。
『聞こえん。僕には何も聞こえないもーん』
ドライグは口調が変わるほど現実逃避していた。
「ずむずむいやーん」
いつの間にか近くにいたオーフィスまで“ずむずむいやーん”と言ってくる。。
「んもー! なんで伝説のドラゴンやそれに関わった連中はそんなのが大好きなんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!」
赤龍神帝との酷い別れ方に一誠は叫ぶしかなかった。―――ハッキリ言って全て身から出た錆であり、鏡を見て嘆いてるだけだ。
「いや~いい
離れた高台で一連の流れを眺めていたその男は満足そうにスマホで撮ったばかりの映像を確認していた。
「けど……最後のしょーもないシーンはカットだな」
映像を確認し終えると食べかけの板チョコを服のポケットから取り出し一口かじる。
「そろそろ頃合いか……。いいところ見逃す前に行くか」
そう独り言をつぶやきながらも隣にいる機械兵の下腹部から缶コーラを取り出す。
「やっぱりシャルバ・ベルゼブブはしくじったか。下賤な悪魔の中でもさらに愚かしい存在には最弱の赤龍帝すら手に余る」
男は戦場を眺めながらニヤリと笑みを浮かべる。
「シャルバ・ベルゼブブは、旧魔王派は、不名誉に甘んじなかった。その志のまま名誉ある死の瞬間を迎えた貴様に敬意を表する。そして我々に作戦に尽力してくれたことを感謝する。死の瞬間を恐れぬバカな古き悪魔共にどうか祝福を」
コーラ缶を片手に天に向かって乾杯した。
「
次の話も半分以上は出来上がってるので近いうちに投稿する予定です。