無害な蠱毒のリスタート   作:超高校級の警備員

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脱退な同士の対英雄

「快適」

 

 禁手(バランス・ブレイカー)状態で空を飛ぶ一誠、その背に乗るオーフィス。

 『超獣鬼(ジャバウォック)』を倒し、その後の事をグレイフィアに任せて都市部の方に向かっていた。

 街の至る所から煙が上がっており、建物や道路の破損が視界に飛び込んでくる。人気ひとけが無いのは都市部全域に避難警報が発令されたから。

 

『この混乱に乗じて旧魔王派の残党が街で暴れていたとかは考えられないか? もしくは英雄派か』

 

 ドライグの説明になるほどと納得する一誠。

 

「……西の方」

 

 一誠の背中にいるオーフィスがそう告げる。

 

「西?」

「あっち、あのアーシア、イリナと言う者いる」

 

 一誠はオーフィスが示した方向に翼を羽ばたかせていった。

 その方角に数分程進んだ時、一誠は懐かしいオーラを感じ取る。

 更に進んだ先の煙が上がっている場所に複数の人影が確認できた。空から懐かしい顔ぶれを確認した一誠は中央に降り立つ。

 皆も空を飛んできた一誠の姿を捉えていた。

 

「兵藤一誠! ただいま帰還致しました!」

 

 大声で叫ぶ一誠。

 しかし、周囲を見渡すと―――グレモリーの皆は狐につままれた様にキョトンとしていた。英雄派のジャンヌもキョトンと見ている。

 フリード達部外者は一見だけして意識を向けつつ視線をジャンヌの腕の中の人質へ戻し、誇銅はグレモリーの皆より一足先に驚愕の表情を浮かべた。

 

『お前だと認識していないんじゃないか?』

「そんな事あり得るのか?」

 

 とりあえずらしいことを言ってみようと一誠は兜のマスクを収納し、顔を見せる。

 

「えーと、おっぱい! グレートレッドに乗って帰ってきました!」

 

 一誠がそう叫んだ瞬間。

 

「イッセー!」

「イッセーさん!」

「イッセーくん!」

「イッセーくん!」

「イッセー先輩!」

「イッセー!」

「イッセーくん!」

「イッセー先輩!」

「一誠……」

「兵藤くん!」

「兵藤、生きてたのかよ⁉」

 

 リアス、アーシア、朱乃、祐斗、小猫、ゼノヴィア、イリナ、レイヴェル、誇銅、ソーナ、匙が一斉に名を叫んだ。

 おっぱいで確認を取らないと気づかれないことに一誠は軽くショックを受けるが、一誠のもとにアーシア、小猫、朱乃が駆け寄り抱きついた。

 

「イッセーさん! イッセーさんイッセーさんイッセーさんイッセーさん!」

「先輩……おかえりなさい」

「……お願い。私を置いていかないで……あなたのいない世界なんてもうゴメンなのだから……」

 

 大泣きする三人。

 

「うん、私は泣いてないぞ。私が選んだ男は死んでも死なないからな」

「何よ! 泣いてるじゃない! 私は無理せず泣くもん! うえぇぇぇんっ!」

 

 ゼノヴィアとイリナは涙ぐんでいる様子だった。

 リアスが涙を流しながら一誠のもとに歩み寄り、頬に手を当てて一言漏らした。

 

「……よく、帰ってきたわね」

 

 一誠は頬に触れる最愛の主ヒトの手に自分の手を重ねて言った。

 

「そりゃ、もちろん。あなたや―――仲間の皆がいる所が俺の生きるべき場所ですから」

 

 ベチンッと一誠の頭を叩く匙。彼もまた笑顔で男泣きしていた。

 

「心配かけやがって、バカ野郎ォ! おまえが死んだって聞いたから、マジで死んだと思ったじゃねぇか! ちゃんと肉体もあるみたいだし幽霊じゃねぇな!」

「次元の間でいろいろあって、体は再生できたんだ」

 

 お返しに一誠も匙の肩をパンと叩く。

 

「グレートレッドらしきドラゴンが上空に出現した時、もしやと感じたのだが……。さすがだな」

 

 サイラオーグが少し離れたところから手を上げて微笑む。

 

「あっ!」

 

 突然声が上がり、そちらに顔を向ければ―――ジャンヌがニヤリと笑いながら木場の奇襲を躱していた。

 

「隙だらけと思った? 残念でした―――――??」

 

 一誠の登場で隙きを見せたジャンヌに木場が人質の子供を奪還しようとしたのだが、ジャンヌはキッチリ対応し阻止した。

 木場の手の中に子供の姿はない。だがジャンヌの中にもない。

 

「えっ!?」

「怪我はないかい? 坊や」

 

 子供はさらに離れた位置にいた正体不明のカウボーイのもとにいた。カウボーイの左右の腰には長い鞭が携帯されている。

 

「ジャンヌ、まさかキミがね……」

 

 暗い雰囲気でカウボーイハットを深く被り人質の子供をそっと降ろす。

 

「キミが決めたことだ、俺が口出しすることじゃない。だけど一つだけ言わせてくれ。――――いくら幼い少年が好きでも強引なのはよくないぜ」

 

 その一言に全員がぽかんとした。

 

「激しい愛の情熱は思考を燃やし尽くし時として過ちを犯す。情熱的に踊るだけでなく、次のステップを踏むための冷静さも必要なんだ。時にはパートナーの足を踏んでしまうかもしれないが、それもまた恋愛。最も重要なのは二人で愛は踊るという意識。ワルツは一人じゃ踊れないのさ」

 

 カウボーイの熱弁にジャンヌは顔を赤面させてプルプルと震えだし、イクサとパペットとフリードも必死に笑いを堪え震える。

 

「悪魔と言えど年端も行かない子供に求愛するのは世間的にアウトだろうが、愛に年の差なんね関係ない。俺は応援するぜ!」

「違うわよッ!!」

「「「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」」」

 

 ジャンヌは真っ赤になって全力で否定し、三人は腹を抱えて大笑い。

 

「まさかそういう理由だったとは思いも寄らなかった! いやいや、勘違いしてすまなかったジャンヌ! まさかお前が……ショタコンだったとは知らなくてな。ワハハハハハハハハハハハハ!」

「違うわよ! 違うわよ! ちょっと何言ってんのよガヴィン!」

「いいかい坊や。キミにはまだ恋愛はまだ難しすぎるだろう。しかし最初はそれでいいんだ。少しずつ互いを深く知り、時には別れを決断しなくてはならなくなる。それはとても辛いことだが互いのためだ。恋愛ってのはそういうものでもある。だがその経験がきっとキミをワンランク上の男にしてくれる」

「なに子供に変なアドバイスしてんのよ! 私はショタコンじゃないわ!」

「「「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」」

 

 さらに大笑いする三人。パペットも腹を抱えすぎてひっくり返った。

 カウボーイの男―――ガヴィンは仲間であるジャンヌが人質をとったとは端から考えなどしなかった。だからこそ恋愛感情の暴走と解釈したのだ。

 羞恥に赤面で涙目になるジャンヌが涙を拭った刹那、パペットが倒れた体勢から反転した状態でジャンヌに急接近した。

 

「―――ッ!」

 

 あまりにも不安定な体勢からなため虚は付かれても怪物の世界では十分対処できる範囲の速さ。

 パペットの奇妙な体勢からの接近はジャンヌの視線を釘付けにし、その隙に機械兵が背後に回り込みジャンヌを取り押さえようとした。

 ジャンヌが自ら視界を遮った隙きを付いた変則的な奇襲に、自分へ視線を向けさせた隙に機械兵を回り込ませ奇襲の挟み撃ちにする二重の奇襲。だがジャンヌは寸でのところで背後の機械兵の接近に気づき逃げた。

 体勢的に受け身の取れないパペットを機械兵がキャッチしそこから曲芸のような軽やかな身のこなしで機械兵の肩に立つ。舌打ちの代わりに指をパチンと鳴らした。

 

「もう、油断もすきもないわ」

「戦場のド真ん中で性癖暴露するお前はどうなんだよ」

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

 イクサに再びいじられもう相手をしたくないジャンヌは一誠を激しく睨めつけ強引に話題を変える。 

 

「それはそうと赤龍帝……まさか、シャルバの奸計(かんけい)から生き残るとはね。恐ろしいわ」

「そりゃどうも。―――で、どうする? 俺達とやるのか?」

 

 一誠がそう挑発すると、ジャンヌは懐ふところからピストル型の注射器―――『魔人化(カオス・ブレイク)』を取り出した。

 人質も失い障害が増え、さらにはショタコン扱いされたジャンヌはあらゆる意味で一刻も早く現状を打開したいと考えていた。

 

「イッセーくん、気を付けて! あれは神器(セイクリッド・ギア)能力を格段にパワーアップさせるものだ!」

 

 木場が一誠にそう説明を飛ばし、ジャンヌは首もとに針を向ける。

 

「……二度目の使用は相当命が縮まるからあまり使いたくはなかったけど、使わざるを得ないわ」

 

 そう口にした後、針を首に射ち込もうとしたが次の瞬間、注射器はましてもジャンヌの手元から消える。

 

「美しいレディにこんな危ないものは似合わない」

 

 ガヴィンは鞭を片手に奪った注射器を見せつけ放り捨てた。

 ジャンヌの体から放たれる重圧は増していき、顔に血管が浮かび上がらせながら笑う。

 

「……わかったわ。そっち(悪魔)に付くってことでいいのね!」

 

 ジャンヌが吼えると同時に足下から刃が無数に出現していく。

 出現した聖剣がジャンヌ自身を覆っていき、眼前に君臨したのは―――聖剣で形作られた1匹の巨大な蛇。頭の部分にジャンヌが上半身だけ露出しており、その姿は蛇型の女モンスター『ラミア』のようだった。

 

「あの状態は厄介ですよ。禁手(バランス・ブレイカー)のドラゴンを使っていた時よりも攻守とスピードが増す」

 

 先程までジャンヌと戦っていたゼノヴィアがそう言う。

 

『うふふ、この姿はちょっと好みではないけれど、強くなったのは確実よ。曹操が来るまでの間、これで逃げさせてもらうわ!』

「そこまで言っておいて逃げるのかよ!」

 

 ジャンヌの逃げの姿勢にツッコむイクサ。

 この状況で真っ先に動いたパペットは機械兵を引き連れジャンヌに向かっていく。

 地面から聖剣を発生させ進路妨害をするが華麗に躱されていく。体勢的に躱せない聖剣は機械兵が破壊する。パペットは徐々に距離を詰めていく。

 だがパペットより少し遅れて一誠もほぼ同時に行動を開始していた。

 一誠は脳内の妄想力を高めて、ジャンヌに向けて久しぶりの夢空間を展開させた。

 

乳語翻訳(パイリンガル)』!」

 

 一誠はジャンヌの胸に向けて技を放ち、質問を飛ばす。

 

「へい! そこのジャンヌのおっぱいさん! いったいこれからどうするんだい?」

『えーとね。路面を壊して、下水道にでも逃げようかなーって思っててー』

 

 ギャル風で可愛い声と思いつつも、企みを暴いた一誠は下水へ逃さんとした。

 ジャンヌが聖剣で作られた蛇腹を軽やかに動かし、一際大きい聖剣を創り出して路面に突き立てようとしたところに一誠が入ってくる。

 パペットの進路妨害や元仲間の妨害を強く警戒していたため一誠に付け入るすきを与えた。

 一誠は横から殴りかかる要領で次の必殺技に展開させていく。ジャンヌの体に触れ、脳みその妄想を解き放つ。

 

洋服破壊(ドレス・ブレイク)!』

 

 一誠は自分なりに格好いいポーズを取りながら技名を放つと、それと同時にジャンヌの下半身を覆っていた巨大な蛇型の聖剣が儚い金属音を立ててバラバラになっていく。

 ついでにジャンヌの衣服も吹き飛ばしその裸体を脳内に保存しようとしたが、そこには破れた衣服の破片だけ舞い散っていた。

 

「レディに恥をかかせないのが紳士の役目だ」

 

 またしても気づいたときにはガヴィンの腕の中へ。

 ジャンヌはガヴィンが羽織っていたポンチョに裸体を包まれ裸体を隠された状態で鞭で縛られていた。

 

「これが噂に聞く赤龍帝レディの衣服だけを吹き飛ばす技か。確かにレディの肌を傷つける事なく無力化出来る素晴らしい技だ。だが戦場であろうとレディを辱める行為は紳士的とは言えないぜ」

 

 カウボーイハットを深く被っているので表情は見えない。

 鞭で縛られて些細な抵抗しかできないジャンヌをそっと降ろす。

 

「赤龍帝、お前がやった行為はレディを愛するものとして恥ずべき行為だが責めるつもりはない。戦場では良い子で通じるような甘い世界じゃぁない。非情な行いだって時には必要だ。相手を守るため公衆の面前でレディの服をひん剥くことだって必要かもしれない。むしろジャンヌを傷つけずに無力化してくれたことには感謝している。―――だがエロ目的でジャンヌの裸体を拝もうとしたことは話が別だ」

 

 一誠がジャンヌを裸にしたのはエロ目的でもあったことをガヴィンは見抜いていた。

 

「同じレディを愛する者でも、チープな変態とナイスガイの違いはそこに現れるのさ」

 

 そう言って鼻血を流しながら格好つける。―――間に合っていない上に自分はジャンヌの裸体をバッチリ見ていた。

 

「おー変態(ガヴィン)変態(赤龍帝)になんか言ってる」

 

 その様子を興味なさげに眺めているイクサは聖剣の残骸に目を向けた。

 “聖剣の残骸が消えていない”その不自然な状態に注意を向ける。

 誰もが戦いは終わったと安心しきった中で、バラバラになった聖剣が再び動き出し形を成そうとした。

 

「……!? 聖剣の欠片が!」

 

 その異変に最も早く気づいた誇銅が指摘し他の皆が注目した頃にはイクサは既に行動に出ていた。

 神々しく輝く拳をまだ不定形の聖剣の塊へ撃ち込んだ。しかし聖剣の塊から龍の首が生えイクサの拳とぶつかり攻撃を弾かれた。新しく生えた2つ目の龍の首が追撃を行う。しかしそれは向かわせていた機械兵が全速タックルで弾くが、さらに3つ目の龍の首により噛み砕かれた。

 完全に破壊された機械兵の頭上を浮遊していたものがパペットのもとへ戻る。

 

 聖剣の塊からは3つの龍の首に見合った巨大な龍の体へと聖剣が重なっていく。

 幾重にも聖剣から出来上がったのは巨大な三つ首のドラゴン。首が増えた分前の禁手(バランス・ブレイカー)よりも大きい。

 機械兵を破壊されたパペットは首を傾げ、イクサと視線を合わせる。

 

「“覚醒”……じゃあないな。あいつらは誰も覚醒に到れるほど神器(セイクリッド・ギア)を理解していない」

 

 聖剣のドラゴンは大きな翼を広げ向かってきた。

 眼前のイクサとパペットを無視してガヴィンとジャンヌの方へ首を伸ばした。ガヴィンはジャンヌを担いで悠々と避ける。パペットは待てと手を突き出すとその場から全速力で走り去ってしまった。

 一誠が聖剣のドラゴンに向かっていこうとするが……。

 

「引っ込んでろ赤龍帝!!」

 

 イクサが力強く叫ぶ。

 

「これは俺達の問題だ! ケジメは俺たちで付ける!」

 

 その覚悟の叫びに一誠は思わず怯んだ。

 ガヴィンが一誠に言う。

 

「赤龍帝、お仲間を連れて早く逃げな。仲間の不始末はこっちでしておく」

 

 イクサの体から神々しい金色のオーラが溢れ出した。

 

「暴走による半覚醒状態ってところか。どちらにせよ早々に退場願おう!」

 

 三ツ首の攻撃を掻い潜り聖剣のドラゴンのボディへと潜り込むと、掌から強力な衝撃波を打ち込んだ。

 聖剣のドラゴンに大きなダメージが入ったが、同時にジャンヌが苦しみだす。

 

「どうしたジャンヌ!? おいまさか……イクサ!」

「チッ暴走の代償か覚醒の制約かはわからんが、ダメージを本体と共有してるのか」

 

 その事実からイクサは追撃をせずに聖剣のドラゴンに防戦一方となり突破されてしまった。

 聖剣のドラゴンはジャンヌを担いで逃げるガヴィンを追いかける。

 

「俺の仲間に手を出すな!」

 

 それをリアス達が狙われていると勘違いした一誠が止めに入るが、龍の首の一突きで鎧を砕かれた。

 邪魔者を排除しガヴィンに向かって首を伸ばす。三つ首の猛攻を暴れるジャンヌを担ぎながらは困難を極める。そのうちの一撃を躱しきれないと判断したガヴィンはジャンヌの盾になって背中でモロに受けた。

 その衝撃でジャンヌはガヴィンの手から離れてしまい奪還されてしまう。

 ジャンヌを奪還したドラゴンはジャンヌを取り込むと踵を返し、暴走前にジャンヌが壊した路面へ逃げ込もうとした。強くはなったが目的は暴走前の思考のままだった。

 

「やれやれ、困った子猫ちゃんだぜ」

 

 立ち上がったガヴィンは投げ縄状の鞭を聖剣のドラゴンの首の一本に括り付けた。

 ドラゴンに引き寄せられた瞬間ガヴィンは飛び上がり、残りの首と翼と腕もまとめて縛り上げドラゴンに乗った。

 

「ロデオドライブ!!」

 

 ドラゴンの上でガヴィンのロデオが始まる。

 ドラゴンがどんなに暴れようともガヴィンは見事な腕前で乗り続ける。激しく暴れるほどに聖剣のドラゴンからオーラが急激に放出されていく。

 

「yeehaa! yeehaa! yeehaa!!」

 

 乗りこなされて数十秒後、ドラゴンはその場に倒れ込みバラバラの聖剣へと戻った。

 今度はきっちり消滅した聖剣の中からは、体力とオーラを消耗しきり気を失ったジャンヌが残った。

 全てが終わった後に数体の損傷している機械兵を抱えた機械兵を連れてパペットが戻ってきた。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

「つまりオーフィスの力を借りて……グレートレッドの体の一部で体を再生させた⁉」

 

 ジャンヌが倒れた後に一誠の経緯を聞き、素っ頓狂な声を上げるフリード。当然皆も驚いていた。

 

「……どうせ戻ってくるだろうと思っていたが……まさか、ここまで常軌を逸した助かり方をしているとは……流石に予想の範疇外だぜ……」

 

 僕も死に戻りした身だけどそんな再生の仕方はしていない。……自覚と記憶がないだけかもしれないけども

 

「―――強者を引き寄せる力、ここまで来ると怖いな。首都リリスを壊滅させるモンスターと言う情景を見学しに来たら、まさかグレートレッドと共にキミが現れるなんてね」

 

 第3者の声、振り向けばそこには曹操の姿があった。

 曹操は相変わらず槍を手に持って、倒された仲間を見て目を細めていた。

 

「……まだ君達を超えることはできなかったか……。ヘラクレスはともかく、ジャンヌは『魔人化(カオス・ブレイク)』を使った筈なのだが……2度使うと弊害が出ると言うのかな……」

 

 仲間の心配よりも負けた理由を独りごちながら模索しているようだった。

 曹操が登場した事で一気に空気が一変する。

 

「……フョードルとハロルに続きイクサ、パペット、ガヴィン。やっぱりキミ達も裏切るのかい?」

「オレはお前らが正しい道に進むと思って乗ったんだ。道を踏み外しゃ降りるさ」

「まったくもって同感だな」

 

 ガヴィンとイクサに同調するようにパペットも首を縦に振る。

 「……そうか」と一言つぶやき次に曹操の視線が一誠に移る。以前の興味に彩られたものではなく、異質なものを見るような目つきになっていた。

 

「……帰ってきたと言うのか、兵藤一誠。旧魔王派から得た情報ではシャルバ・ベルゼブブはサマエルの血が塗られた矢を持っていたと聞いていたのだが」

「ああ、喰らったぜ。体が1度ダメになっちまったけど、グレートレッドが偶然通りかかったようでさ。力貸してもらって肉体を再生させた。……先輩達やオーフィスの協力があってこそだったけどな」

 

 一誠の台詞を受けていつもの余裕はなく曹操は目元をひくつかせていた。

 

「……信じられない。あの毒を受けたら、キミが助かる可能性なんてゼロだった。それがグレートレッドの力で体を再生させて、自力で帰還してくるなど……っ! グレートレッドとの遭遇も偶然で済ませられるレベルではないんだぞ……っ!」

 

 とても信じられないといった顔で独りでぶつぶつと話している。

 動揺してすぐには襲いかかってくる気配はないのを感じた一誠はリアスさんに正面から言った。

 

「リアス、俺をもう一度あなたの眷属にしてください」

 

 今の一誠には悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は宿っていない。

 もうそんなもの必要ないだろうに。だけど一誠はそれでは本当の意味で再生した事にならないとか考えるんだろう。むしろ得るものより失うものの方が多い気もするけども。

 リアスさんは懐から紅い『兵士(ポーン)』の駒を八つ取り出し一誠へ向ける。

 駒は一誠の胸の前でいっそう輝きを増し体へ入っていく。

 そのまま二人は唇を合わせ、抱き合った。

 

「―――私と共に生きなさい」

「はい、俺はリアスと共に生きます。―――最強の『兵士(ポーン)』になるのが夢ですから!」

 

 強く宣言し、決意を新たにする。この間お互い隙だらけ。

 戦場で、それも敵が眼前にいるのになぜこうも隙きを見せられるのか。それをする二人もそれが許容される現状も何もかもが不自然に感じる。まるで何か大きな力によって演じさせられてるように思えてきた。

 

「よし、ソッコーで馴染んだ! さすが俺の駒!」

 

 気合を入れ直したその時、不気味な波動を出現した。

 そちらを見やれば、車道の一角に黒いモヤのようなものが発生し、そこから鎌らしき得物が飛び出してきた。

 装飾が施されたローブ、道化師のような仮面を着けた者―――最上級死神(グリムリッパー)プルートが現れた。

 

≪先日ぶりですね、皆さま≫

「プルート、何故あなたがここに?」

 

 曹操にとっても予定外の登場だったらしく、プルートは曹操に会釈する。

 

≪ハーデスさまのご命令でして。もしオーフィスが出現したら、何がなんでも奪取してこいと≫

 

 プルートの視線が一誠の隣にいるオーフィスに注がれた。

 ハーデスはまだオーフィスを狙っているようだ。

 

「お前の相手は俺がしよう。―――最上級死神プルート」

 

 またまた聞き覚えのある声。

 僕達と曹操、プルートの間に光の翼と共に空から舞い降りてきたのは―――純白の鎧に身を包んだ男性。

 

「やはり、帰ってきたか、兵藤一誠」

「ヴァーリッ!」

「あのホテルの疑似空間でやられた分を何処かにぶつけたくてな。ハーデスか、英雄派か悩んだんだが、ハーデスはアザゼルと美猴(びこう)達に任せた。英雄派は出てくるのを待っていたらグレモリー眷属がやってしまったんでな。こうなると俺の内に溜まったものを吐き出せるのがお前だけになるんだよ、プルート」

 

 大胆不敵に告げてくるヴァーリさん。いつもと変わらないポーカーフェイスだが、語気に怒りの色が見える。相当ストレスが溜まってるようだ。

 プルートが鎌をくるくる回してヴァーリさんに構える。

 

≪ハーデスさまのもとに部下を送ったそうですね。先程、連絡が届きましたものですから。まあ良いでしょう。しかし、真なる魔王ルシファーの血を受け継ぎ、尚且つ白龍皇であるあなたと対峙するとは……。長く生きると何が起こるか分からないものです。―――あなたを倒せば私の魂は至高の頂きに達する事が出来そうです≫

 

 プルートは白龍皇の挑戦を嬉々として応じ、ヴァーリさんは兜をつけ直して言う。

 

「兵藤一誠は天龍の歴代所有者を説き伏せたようだが、俺は違う」

 

 ドンッッ!

 いきなり特大のオーラを纏い始めるヴァーリさん。

 

「―――歴代所有者の意識を完全に封じた『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』のもう1つの姿を見せてやろう」

 

 光翼が広がり、魔力を大量に放出させる。

 純白の鎧が神々しい光に包まれ、各部位にある宝玉から歴代白龍皇の所有者とおぼしき者達の意識が流れ込んでくる。

 

「我、目覚めるは―――律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり―――」

『極めるは、天龍の高み!』

『往くは、白龍の覇道なりッ!』

『我らは、無限を制して夢幻をも喰らう!』

 

 それは恨みも妬みも吐き出さない代わりに圧倒的なまでに純粋な闘志に満ちていた。しかしなんだろうか……99%の純粋の中に1%の不純物が混じっているのを感じた。影に隠れたたった1%には99%を飲み込みかねない圧倒的何かを感じる。

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿うがちて覇道を往く―――我、無垢なる龍の皇帝と成りて―――」

 

 ヴァーリさんの鎧が形状を少し変化させ、白銀の閃光を放ち始めた。

 

「「「「「「汝なんじを白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」」」」」」

『JuggernautOverDrive!!!!!!!!!!!‼』

 

 そこに出現したのは白銀の鎧に包まれし、極大のオーラを解き放つ別次元の存在としか思えない者だった。

 周囲の公共物、乗用車が触れてもいないのに潰れていく。ヴァーリさんが体から滲ませるオーラだけで物が破壊される。

 

「―――『白銀の(エンピレオ・)極覇龍(ジャガーノート・オーバードライブ)』、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』とは似ているようで違う、俺だけの強化形態。この力、とくとその身に刻めッ!」

 

 言い放つヴァーリさんに斬りかかるプルート。残像を生み出しながら高速で動き回り、赤い刀身の鎌を振るう。

 バリンッ!

 儚い金属音が響き渡る。―――プルートの鎌がヴァーリさんの拳によって難無く砕かれた。

 

≪ッッ!≫

 

 驚愕している様子のプルートだったが、そのプルートの顎に鋭いアッパーが撃ち込まれていく。激しい打撃音を叩き出して、プルートが上空に浮かされる。

 そのプルートに向けてヴァーリさんは右手を上げ、開いた手を握った。

 

「―――圧縮しろ」

『CompressionDivider!!!!』

『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid‼』

 

 空中に投げ出されたプルートの体が縦半分に圧縮し、更に横に圧縮していく。

 プルートの体が瞬時に半分へ、また半分へと体積を減らしていく。

 

≪こんな事が……! このような力が……ッ!≫

 

 プルートは自身に起こった事が信じられないように叫ぶが、ヴァーリさんは容赦無く言い放つ。

 

「―――滅べ」

 

 目視できない程のサイズまで圧縮されていった死神は遂に何も確認できなくなる程体積を無くしていく。

 空中で震動が生まれたのを最後にプルートは完全に消滅。最上級死神プルートはこの世に微塵の欠片も残さず消えていった。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 白銀から通常の禁手(バランスブレイカー)に戻ったヴァーリさんは肩で息をしていた。消耗は激しいが、最上級死神プルートを何もさせずに瞬殺した力は凄まじい。

 間違いなくヴァーリさんも一誠の進化に影響を受けて強くなっている。その方向性が良いか悪いかはわからないが。

 リアスさん達もヴァーリさんのかけ離れた実力に言葉を失っていた。サイラオーグさんだけは嬉しそうに笑みを見せていた。

 

「……恐ろしいな、二天龍は」

 

 そう言いながら近付いてくる曹操。

 

「ヴァーリ、あの空間でキミに『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使わせなかったのは正解だったか……」

「『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』は破壊と言う一点に優れているが、命の危険と暴走が隣り合わせ。今俺が見せた形態はその危険性を出来るだけ省いたものだ。しかも『覇龍(ジャガーノートドライブ)』と違うのは伸びしろがあると言う事。曹操、仕留められる時に俺を仕留めなかったのがお前の最大の失点だな」

 

 ヴァーリさんの言葉に曹操は無言だった。

 曹操の視線が今度は一誠に移る。

 

「確認しておきたい。―――兵藤一誠、キミは何者だ?」

 

 苦慮する一誠を前にして曹操は首を捻る。

 

「やはり、どう考えてもおかしいんだよ。自力でここまで帰ってこられたキミは形容しがたい存在だ。もはや、天龍どころではなく、しかし、真竜、龍神に当てはまるわけでもない……。だからこそ、キミはいったい―――」

「じゃあ、おっぱいドラゴンで良いじゃねぇか」

 

 面倒くさそうに断ずる一誠。曹操は一瞬間の抜けた表情を見せるが直ぐに苦笑して頷いた。

 

「……なるほど、そうだな。分かりやすいね」

 

 それだけ確認すると、曹操は聖槍の先端を向ける。

 

「さて、どうしようか。俺と遊んでくれるのは兵藤一誠か、それともヴァーリか、もしくはサイラオーグ・バアルか。または全員で来るか? いや、さすがに全員は無理だな。神滅具(ロンギヌス)3つを相手にするのは相当な無茶だ」

 

 挑発的な物言いをする曹操。ヴァーリやサイラオーグさんまで参戦したら、いくら曹操でも耐えられない……だろう? ただ今までの英雄派幹部の強さを見るに断言できないレベルではある。

 ヴァーリさんが一誠に歩み寄り訊く。

 

「奴の七宝(しっぽう)、4つまでは知っているな?」

「ああ、女の異能を封じるのと、武器破壊、攻撃を転移させるのと、相手の位置も移動できるんだよな」

「他の3つは飛行能力を得るものと木場祐斗が有する聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)禁手(バランス・ブレイカー)のように分身を多く生み出す能力、そして最後は破壊力重視の球体だ」

「とりあえず、礼は言っとく」

 

 なんだか一誠が戦う雰囲気になっていた。

 一誠が1歩前に出たのを見て曹操は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「俺の相手は赤龍帝か。他はそれを察してまるで動かないときた」

「ああ、借りを返さないと気が済まなくてさ」

 

 曹操の言う通り、“みんなは”一誠と曹操のバトルを確認および容認したようだ。しかし“全員ではない”。

 一誠の前をフリードが聖剣で遮った。

 

「一度だけしか説明しないからよく聞け。ここに来る前にお前の主に一つ提案をした。現在冥界で起きてる騒動を鎮める為に俺たちがサポートする代わりに、それ以外の英雄派の事柄などは俺達に一任する。悪魔の介入は許さない。だから引き下がれ、兵藤一誠」

 

 フリードはリアスさんとの(一方的な)約束を一誠に説明した。そのまま「なあ?」とリアスさんに同意を投げかけるが、納得をしていないリアスさんは返事をしない。その様子から同意を得てないことを察した一誠は押し通ろうとするが、フリードは銃―――十字架の拳銃を見せつけた。

 

「これがどんなものなのかもう理解してるよな? 確かに提案には了承してもらってないが、そんなの関係ない。それに邪魔をするなら生死を問わず排除するとも説明した。―――邪魔するんじゃねえ」

 

 一誠はあの銃がどんなものなのか理解している様子。だが以前あの銃が使われた時は暴走状態だった。だとすればあの結界内で使用されたと考えるべきか。

 もしあれを使われたら近くに存在するだけで悪魔は消滅するだろう。

 フリードが牽制してる間にイクサ、パペットが前に出る。ガヴィンは倒れた幹部三人を退避させていた。

 戦意を感じ取った曹操は肩を槍で軽く叩く。

 

「結局キミ達か。できれば全力の赤龍帝と戦いたいんだけどな」

「曹操、遊びはもう終わりだ。本当はもっと早くこうするべきだった。そのせいで多くの被害が出てしまった。悔やんでも悔やみきれない。俺達はお前を信じすぎていた。その責任をとりにきた!」

 

 二人から濃密なオーラが放たれていた。

 仲間の暴走を止めるべく立ち上がる男達。裏切り者と揶揄されようとも仲間を想うが故に対峙する。罪を重ねる仲間を止められなかった責任感から。

 こんな彼らが慕っていた曹操はきっと英雄と呼ぶに相応しい人だったのだろう。今ではその影も形もなくなってしまったが。

 

「覚悟しろ曹操! 寝ぼけた貴様を叩き起こしてやる! 禁手(バランス・ブレイ)……」

 

 チン!

 急にこの場に似つかわしくない日常的な音が緊迫した空間に鳴り響いた。

 そこへ目を向けると機械兵の上腹部のレンジから袋ポップコーンを取り出す黒軍服の黒い長髪の男性の姿が。……なにあの家電を搭載した機械兵?。

 

「ごめんごめん、気にせず続けて」

 

 シリアスな映画を画面越しに見るかのような場違いな男性がそこにいた。




 次回、英雄・ナチスVS脱英雄・悪魔。敵味方が入り交じる大乱戦!

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